無免ヒーローの日常   作:新梁

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シリアス回です。あと完全オリキャラが出ちゃいました。これはもう仕方がないと思う。

ヒロアカ最新刊読んでからトガちゃん救済二次創作書きたい欲がヤバイ。何なのアレ過去悲惨すぎるでしょ!?あんなのって無いよ……あとひょっとしなくても無免時空の緑谷って死柄木のトラウマ直撃マンなのでは……?ヤバくないか……?

今回のあらすじ
緑谷と発目が喧嘩します。


第十六話。十月初旬、乙女心は五類危険物。

登校時間。靴箱。

 

 

 

緑谷は今日も今日とて作業机にしがみつく発目をおだてて甘やかして食べ物で釣って引き剥がし、顔を洗わせ朝食食べさせ、手ずから着替えさせてからおてて引いて微妙に肌寒くなってきた通学路をあっちへこっちへフラフラする発目を半ば引きずって学校までやって来た。

 

そんな彼は登校したらしたで時間もないのに作業台のある部室に行こうとする発目の腰を抱えて逃げないようにしながら靴箱を開けた。

 

ここまではいつも通りだった。ここからが少し違った。

 

カチャ、ハラッ、パサリ。

 

「あ」

「あ」

 

緑谷の靴箱からパステルカラーの軽い封筒が飛びたち、腰を抱えられて脱力していた発目の目の前の床に落ちた。当然のごとく発目はそれを拾い、一切の躊躇無く封を開けて中身を見る……前に緑谷にそれを取り上げられ、取り上げた緑谷はというと特に表情も変えずにそれをサラッと上から下まで読んだ。

 

「……ん、ラブレターだねこれ」

「無視してください」

「そういう訳にもいかないでしょ……ねえ、明ちゃん……今日先に帰」

「絶対嫌です」

 

階段を登りながら緑谷が宥めるように発目の頭を撫でる。が、眉根にきつくシワを寄せて完全に不機嫌モードに入っている発目は緑谷に抱えられながらふい、と顔を背けた。

 

「……じゃあ今日は夕飯好きなもの作ってあげるからさ。ね?」

「嫌です。絶対」

 

緑谷は発目を自分の隣の教室に運び込み、発目の頭を撫で頬をふにふに触りながら目線を合わせて困ったようにニッコリと笑う。

 

「やっぱり、こういうのって人に聞かれたくないから呼び出すんだろうしさ……僕は、そういうのをあんまり無下に出来ないんだよね……ちゃんと断ってくるから、さ。ね?」

「…………んんむ」

 

例えばここで、「僕が信用できない?」等と緑谷が言えばそう思われたくない発目はすぐに一人で先に帰る事を了承しただろう。しかし緑谷はそれをせず、あくまでも今している行為が自分のわがままに近い事を肯定しつつ発目に根気強く譲歩を求める。

 

そしてそういう緑谷のある種のフェアさを察している発目は予鈴が鳴る少し前に黙って渋々首を縦に振った。

 

下を向いて、少し寂しそうな顔で、それでも頷いてくれた発目を緑谷は優しく抱き締める。そして両手でその頭から背中にかけてを出来る限りの愛情込めて撫でてやる。

 

「ん。ありがとう、明ちゃん」

「……ちゃんと断ってください」

「勿論。できるだけ早く帰るからね。そしたら二人で夕飯の食材買いに行こっか」

 

尚、これ全て三十人程生徒が居る発目のクラスのど真ん中で行われたやり取りである。心臓に毛でも生えてんの?生えてそうで怖い。

 

「あ、予鈴だ。じゃあ明ちゃん、また後でね」

「…………」

 

いつもとは違い緑谷の挨拶に応えずにツンと窓の方を向いて、拗ねている事をアピールする発目。緑谷はそれを見てまた困った笑いを浮かべてからもう一度手を振って隣にある自分の教室に帰っていった。そして発目は拗ねた表情のまま横目でチラチラと緑谷が見えなくなるまでそれを見送った。

 

……見えなくなった瞬間発目は拗ねた表情を銀河系の遥か彼方に放り出しギラギラとした目付きと口元には三日月のようにニンマリとした笑みを浮かべて即座に行動を開始する。

 

「っフフフフ、あまいあまい甘いですネェ出久さん……!技術というのは目に見えないところが一番怖いんですよ……!」

 

持ってきていたリュックサックからノートパソコンを二台取り出した発目は教室後方のロッカーに飛び付き超大容量バッテリーとアーム固定式小インチ液晶を取り出して残像が見えるかという素早さで四つを繋ぎ合わせる。

 

そして二台のパソコンを立ち上げる間に液晶の保持アームを学校机に取り付けた彼女は地の底から響く笑い声を上げた。発目の逆鱗に触れないようにものっそい静かに授業を始めていた先生の肩が跳ねた。

 

「っふ、フフフフフ!いやあこんな事もあろうかと準備していて良かったですよ……!」

 

発目のクソでか大声で語られる暗躍はクラス全体に響いていたが粛々と授業を進めている教師含め誰もツッコミはしなかった。怖いし。

 

「さーて、告白ならどの辺でやるもんですかねぇ……校内の監視カメラ全部起動ってのも効率悪いですからね……んー、三奈さんに聞いてみましょうか」

 

ちなみにだが、このように問題点や疑問点を声に出す事で頭の中が整理され、問題解決の手段が浮かびやすくなるという思考整理法を『ラバーダッキング』という。何か行き詰まったりするような事があれば他人に話すでも人形やおもちゃに話すでも良いので声に出してみよう。自分が悩んでたのが何だったんだと言いたくなるくらい簡単に解決することもあるぞ!

 

ただ人に話すのではない時は注意しよう!ブツブツ独り言言ってるやべーやつになったり人形に話しかけるやべーやつになったりするぞ!今の発目のように!人に見られると不気味がられるぞ!今の発目のように!

 

「フフ、フフフフフフ、フフフフフフフフfffff」

 

二年生の教科担任であると同時にこのクラスのクラス担任でもある壇上の教師は、来年は絶対に緑谷と発目を同じクラスにすると涙ぐみながら決めた。

 

まあそもそも何で別クラスにしたかと言えば同じクラスでも何だかんだと(発目が)問題を起こすからなのだが。教師陣は泣いて良い。

 

 

 

昼休み。発目の教室。

 

 

 

午前の授業を終えた緑谷が再び発目の機嫌を取るために彼女のクラスを訪れた、のだが。

 

『…………っ』

「……え、なにこの空気?」

 

緑谷が引き戸を開けた瞬間集中する視線。その視線は一瞬で無くなるが、人の気配を察する訓練を幼い頃よりこなし続けてきた緑谷からすればこの教室に居る全員が自分に意識を集中させているのが手に取るように分かった。

 

それに何より、昼休みだというのに話し声一つすら聞こえない。皆が皆、青い顔で下を向きながら黙って弁当を食べている。

 

そして発目の机。そこに彼女はおらず、『物が何一つ無い』机だけがあった。

 

「…………んー、そう来たか……」

 

それだけ呟いた緑谷は、発目の隣の席に座っている色々運の悪い少女に声をかけた。

 

「ねえ」

「ヒィ!?」

 

少女のあんまりな反応を見た緑谷は溜め息を吐きながら眉間を揉む。そして絞り出すような声で話を続けた。

 

「……はぁー……あの、明ちゃんどこ行ったか知らない?」

「……っで、でで電話っ、電話してくるって」

「そう聞いたの?……そっか……」

 

緑谷はそれを聞き、数瞬教室を見回してから……一本の柱に迷い無く近づき、その柱に貫手を叩き込んだ。小さな悲鳴の連鎖が起きる教室で、それでも緑谷は一切の反応を見せずに柱を『剥がした』。

 

「……はぁ、また勝手にこんなことして……叱らなきゃなぁ……」

 

緑谷が剥がした柱……いや、柱に似せたハリボテの下にあったのは本物の柱と、数種類のケーブル。それは巧みにカモフラージュされて発目の席近辺へと延びている。それを確認した緑谷は黙ってそのケーブルを素手で引きちぎった。基本的に金属が芯に使われているケーブルを引きちぎる辺りに緑谷の実力とか本気度みたいなものが垣間見える。

 

「……ふう。あ、皆明ちゃんに何言われたか分からないけど、気にしなくて良いからね。もし害がありそうならすぐに僕に連絡して……それじゃ、明ちゃん探してくるから」

 

そう言った緑谷は残暑を凌ぐために開け放たれていた教室の窓から外に飛び出し、上部の桟に指を引っ掛けて振り子のように身体を回し上の階へと上っていった。そしてそれを狙ったかのようなタイミングで……実際に狙っていたのか、発目が携帯片手に出戻った。

 

緑谷の時とは違い、あからさまに集中する視線を一身に受けながら発目は物理的に破壊されたネットワークを確認し、すぐさまロッカーから新しいケーブルを取り出す。

 

「やっぱり、出久さんは甘いですねえ。やるなら元からやらないとですよ」

 

そう言った発目はえいこらと廊下側の窓によじ登り、天井部分のハリボテを撤去する。なんとケーブルはそこで別ケーブルに繋がっており、発目はカプラーをチャッチャと交換してケーブルの切れた部分のみを新品に交換、瞬く間にネットワークを復活させた。

 

「んー、んー♪んフフフフフ、三奈さんからの情報によりますと、『人通りが少なく』、『そこそこに清潔で』、『別の場所から覗かれる事も無い』場所……っと、九ヶ所ですね。ま、こんなところでしょう!ですが一応廊下はまず無いということでしたケド、次点候補も監視しておきますか……二十ヶ所ですか……少し減らして……十二ヶ所、これで良いですかね?どう思います!?」

「ヒィ!?」

 

発目の席は窓際最後尾。生徒達がこぞって発目の近隣に座る事を固辞した結果のその席なのだが、運悪くその隣の席に座ることになった少女は今日もべそをかきながら盛大なリアクションを見せていた。

 

 

 

結田府中学校。昼休み。

 

 

 

「んで、ここは代入値がさっきの計算式の答えになるんだよ。そんならホラ、後は簡単だろ?」

「んー?ん、んー……あ、なーるーほーど……ンなッ!!」

 

心操は平和な教室で切島の勉強をアシストしていた。切島の成績は何だかんだで上の下、といったところであるが心操に関しては毎回の如くトップ争いに名を連ねている。それを知っている芦戸の親友こと水野、山名は切島の横の席を陣取り、他のクラスメートも多少心操の言葉に耳を傾けている。心操自身は(最近なんか周りの当たりが柔らかくなったな)等と考えつつも別に悪い事でもないのでそのまま説明を続けていた。

 

「そう。ほらこれでxもyも代入値が整数になったろ。後は出来るよな?」

「おうよ!これで……どうだッ!?」

「整数の四則算をナチュラルに間違えんなアホたれ」

「痛ァ!?」

 

切島が詰めの甘さを露呈している中、何やら昼休みが始まるなり教室から出ていた芦戸が暗い顔で帰ってきた。それを怪訝そうな顔で眺める心操に駆け寄ってその肩を掴み、ガックガックと揺らす。

 

「心操!ヤバイよ心操!緑谷が!緑谷と明ちゃんが!」

「……またあいつらか」

 

興奮した女子の話聞かなさはよく知っている心操は全てを投げ出した表情でしばらくの間ガックンガックン揺すられ続けた。

 

 

 

しばらくして。

 

 

 

「告白ゥ!?」

「切島声デカい!」

「あ、っとスマン……いや、緑谷が?」

 

シャーペンを手に持ったまま切島が不思議そうに首をかしげている横で、様々な形のペンを一本ずつ縦に積み上げるチャレンジをしている心操がボソリと呟く。

 

「……ん、アイツは結構モテるぞ。アイツ好きな子はそこそこ居るっぽいし、というか出久が告白されたの俺が知ってるだけでもこれで三回目だし」

 

心操がクリップ付きのどう見ても直立しない形なシャーペンを不安定な机の上に直立させる。切島はその少しの振動で崩れてしまうだろうアンバランスさに自然と声を潜めながら相槌を打った。

 

「……マッ……じかぁ……そうかぁ……緑谷がねえ……」

「てか、心操はさ、何で緑谷が告白された回数とか知ってるわけ?」

 

椅子の背もたれに胸を預けるようにして心操の横に座る芦戸の素朴な疑問に、何と直立したシャーペンの先端に更にボールペンを直立させることに成功した心操が『何を当たり前の事を』といった顔でまたボソリと呟く。

 

「そりゃお前、出久が告白されたら明の機嫌が異様に悪くなるんだよ」

「あーーーーああはいはいはいはい」

 

電話口でもそんな感じだった、と芦戸は深く頷く。

 

「特に大荒れに荒れたのは中一の時の一回目だ。ほら、明って実は結構溜め込むタイプだから。まあその時は出久が断ってから速攻で明に告白して何とか研究所崩壊は免れたんだけどな」

「……溜め込む?明ちゃんが?」

「十考える内の十言ってる気がすっけど」

 

二人がそう言うのを黙って頷きながら聞いた心操は、三本目のペンを取り出す。最早心操達の周りで話をしている人間は誰もおらず、皆が皆心操の次の一手を固唾を飲んで見守っていた。スマホで動画を撮影している者も居る。

 

「これはまあ……出久の受け売りなんだけど、さ」

「ふんふん」

「普通の人間って、十考える内の五か六を表に出せば口数の多い方と見なされるんだと。んで発目はというと七から八程度口に出してる」

「うん。何でも言うよね」

 

心操は緑谷が眠っている発目を見守る優しい眼差しを思い出しながら話を続ける。ペンは三本目がついに直立し、挑戦は四本の大台に突入していた。あちこちからカメラの音が聞こえるが、心操は意にも介さない。

 

『明ちゃんはさ、頭が良いんだ。それもとんでもなく。僕らとは考えてる物事の量が違うんだ。だから僕らが七か八、って言ってるのも実際には『五十ある内の七とか八』位しか出してない……っていうか、出せないんだよね。それ以上を口で表そうとしたらどうしても無理が出るし……だからこそこの子は突拍子もない事するし、僕らには分からないような理論で動いたりする……けどそれは……いや、違うか……それが、明ちゃんにとっての『普通』なんだ。僕らが合わせてあげれば良いだけ……でも、突発的に処理する感情の量が増えたり、ずっと溜め込んでたものを僕らが上手く散らしてあげられなかったりしたら……こう、壊れる、んだよね』

 

いかな心操と言えど四本目は難しいらしく、とんでもないバランスで直立した三本のペンの上で手をうろうろさせながら、心操は緑谷から聞いた話をそのまま二人に伝えた。二人はあくまでも長所として考えていた発目の『頭が良い』という事のもう一つの側面を何となく察し、暗い表情をしている。

 

「壊れる、って……どうなるの?」

「色々。普通に暴れまわったり、やけに自暴自棄になったり……もっと深刻になったりもする、らしい」

 

ちなみに、出久の告白事件では自分の部屋に立て籠って侵入者自動迎撃装置まで出してた。そう言う心操に向かって掌を伸ばした芦戸は「ちょっと待って」と小さく叫ぶ。

 

「ん、何?」

「深刻……って何?明ちゃんって……もしかして何かあったの?」

「…………っあー…………」

 

知らなかったけか……そう小さく言った心操は、四本目のマジックペンを凄まじいまでのバランス感覚で下三本を崩さずに積み上げ、そのままそれを放って携帯を弄り始めた。そのあまりにも簡単に行われた絶技に周囲ではどよめきと拍手が巻き起こるが、四本のペンはその拍手の振動で崩れた。今度は悲鳴が沸き起こる。

 

「芦戸、切島。聞きたいなら放課後に研究所来い……でも、怖いもん見たさなら止めろよ」

 

博士が話してくれるってさ。ボリボリと頭を掻きながらのその言葉に、切島と芦戸は神妙な顔で頷いた。

 

 

 

放課後。ツギハギ研究所。

 

 

 

「……っフフフフ、くふふうふふふフフフフフフフフフfffffffff」

「うわあ明ちゃんガンギマリだぁ」

 

研究所の食堂の一角には山ほどの電子機器が積み上げられ、ヘッドホン(ノイズキャンセリング機能付きの超高級品である)を装着した発目がそれら全てを細かく調整しながらモニターを観察していた。その傍らには四つのロケットスイッチがあり、それぞれに『校舎裏』、『屋上前廊下』、『体育館裏』、『倉庫』と書いてある。一体何のスイッチなのか。とても気になったが聞いてはいけない気がして芦戸は無視した。賢明である。

 

「コーヒーで良い?」

「あ、お構い無く」

「申し訳ねっすよそんな!」

「何入れてたのかも分かんないビーカーじゃなくてちゃんとしたマグカップ使ってくれよ……せめて客に対してはさ」

 

シュタインがコーヒーを淹れようとした手を抑えて心操は自分でマグを用意する。彼は客に対して人体に悪影響のある溶剤を入れていたビーカーでコーヒーを淹れるほど思慮の無い人間ではなかった。洗っているとは言えど気分の問題である。

 

「……で、明の昔の話だっけ?」

「あ、はい……」

「うっす」

 

シュタインが話すのであれば自分の出番は無い。早々にそう決めた心操が発目の弄っている機材に持っていたイヤホンのジャックを差し込んで一緒に画面を見始めたのを横目に、シュタインはマグカップに入ったコーヒーを一口飲む。

 

「……俺も、全部を知ってる訳じゃないんですよ。俺があの子の事を知ったのは全てにカタがついた後だったし、今は事情を話せる人も居ないしね」

 

そう前置きしたシュタインは、ポツリポツリと話し始める。

 

 

 

発目の両親は、共に研究者だった。

 

 

 

夫の発目(たん)、妻の発目見子(みこ)。業界では結構名前の売れていたその二人はサポートアイテムの研究開発を生業にしていた。そして彼等の専門は『ヒーローのサイドウェポン』だった。

 

「サイドウェポン……すか」

「そう。個性の補助ではなく、自身のヒーローとしてのスタイルを変えるための道具。ちょっとしたナイフとか、応急処置の道具、近距離系ヒーローが遠距離武器を持ってたりもするよね。個性に万能性が無いヒーローの頼みの綱なんですよ」

 

ちなみに俺が昔使ってたのもこの区分ね。そう事も無げに言ったシュタインに目を見開く二人。つまりはこの人元ヒーローなのかよ、である。気付くのが遅い。

 

「彼等の作るサポートアイテムはとても質が良くてね。当時海外で活動してた俺も縁故で幾つか試供させてもらったけど、夫婦二人だけの開発だとは思えない程に完成度が高くて驚いたのを覚えてる」

 

当時から俺もアイテム開発をしていたけど、正直嫉妬したよ。そうシュタインは溢し、コーヒーを一口飲む。

 

「……ん、それで、まあ……サポート系大会社へのアイディア売却、更には安価で手軽な一般人用の護身具開発、と結構派手にやっていれば……ヴィラン達から恨みを買っちゃったりするわけですよ」

 

『それ』は何でもない夜だったそうだ。

 

「十人以上のそこそこ有名なヴィラン達が徒党を組んで住宅街に出現。ヒーロー達が対処するも多勢に無勢。彼等の目的は発目一家三人の殺害と、研究所にあるサポートアイテムの奪取。動機は単純な逆恨み、それにサイドウェポン……個性補助具ではない、誰にだって使える正真正銘の『武器』が手に入る、という欲……それが、人を集めてしまったんですよ」

 

「あ」と、切島が声をあげる。

 

「どうしたの、切島」

「いや……それ俺知ってる!一時期スゲエニュースでやってた奴!確か理由が……」

「ヒーローの巣窟、雄英高校の膝元だったから、だよ。あの辺はそういう開発系の事務所も多いですから余計にね」

 

天下の雄英のある街で行われた大規模な犯行。その多くがヒーロー、そして要請を受けた当直の雄英教師によって逮捕されたが、発目研究所はメチャクチャに荒らされ、発目夫妻は見るも無惨な状態で事切れていた。

 

だが、残された物もあった。

 

「発目研究所の心臓部分……資材保管室や商談室とは違い地下に造られ厳重にロックをかけられていた『研究開発室』。そして、そこに閉じ込められた明……状況から見れば、二人が明をあそこに閉じ込めたんだろう……って感じですね。きっとあの二人は……何かしらの方法でヴィランの襲撃を察知していたんでしょう。けど二人は死んだから真相は分からない」

 

そこはかなり厳重にロックされていて、それを何とか壊そうとしていたヴィラン達を増援のヒーローが袋叩きにした事が決定打となりその事件は急速に解決した。しかしヒーローには死者一名、重軽傷者三名。そして一般人に死者二名。余りにも凄惨な事件だった。

 

「ヴィランは主要メンバーが全員逮捕され、今現在も牢獄に居る。で、一人残った明は遠縁だけど生活に余裕があり、夫妻とも多少付き合いのあった俺が引き取って……今に至るってとこです」

 

どこからか引っ張り出してきた二リットルコーラをらっぱ飲みしつつポップコーンをがっさがっさ食いながらそれでも目は一切モニターから離れない発目と、逆に『状況が分かればそれで良い』とイヤホンだけを片方の耳に差してモニターなど目もくれずにポップコーンを塔のように一つづつ縦に積み上げる作業に熱をあげている心操を眺めながらそう言うシュタインのその形容しがたい表情を見て、芦戸と切島は何も言うことができなかった。芦戸に至っては少し涙ぐんでいる様子もあった。

 

「……そんな事が……」

「んで、発目は……その、大丈夫だったんすか?」

 

切島のその言葉に「んん……」と顎を触ったシュタインは、少し考えてから答えを出した。

 

「……明は、心に深い傷を負った。そしてそれは今も残ってる」

「今もって……」

「俺が明を引き取ったばかりの頃、明は、三日に一度でも俺の言葉に反応すれば良い方だったよ」

 

心操のポップコーンタワーが高度十センチを越えたその部屋に芦戸の、息を飲む音が響く。

 

「声をかけても肩を叩いても反応せずに、ずっと窓の外をぼんやり見ている。そんな子だったんですよ……けど、引き取って半年くらいしてからそんな明とこの街に来て、あの一家の隣の家に引っ越してから少しずつ変わっていったんです」

 

タイミングが良かったのか悪かったのか自分の顔を見て顔面の形が変わるほどに驚いていた緑谷親子を思い出すシュタイン。しかし彼はあの時タイミングが悪かったのではなくその逆、神憑り的にタイミングが良すぎたのだという事を知らない。

 

「二年くらいかけてかな。出久や引子さんが色々と心を尽くしてくれて、いつの間にか明が普通に話すようになって、その内に今みたいにゲラゲラ笑うようになってたよ」

 

「ッルウアッヴァァーイッ!」と何語なのかも分からないような謎の雄叫びを上げながら積んであった一番上のモニターを持ち上げて壁にぶん投げ机に足を乗せ勝利のポーズを取る発目と、その衝撃でかなり高いところまで積み上げたポップコーンタワーが一瞬で無に還り、虚無に包まれた表情になってしまった心操。興奮冷めやらぬ発目は勢いのままに心操の首を極めてブンブン振り回している。

 

シュタインはそれを見て微かに笑い首をすくめ、二人に歩み寄って心操を救う……事はせずに発目の頭をゆっくりと撫でた。興奮で顔を赤くした発目がシュタインを不思議そうに見上げる。心操は巧みな身体操作で気道を確保してからはなされるがままになっていた。この状態の発目に何を言ったところで無駄な事を知っているからだ。

 

「どしたんですおじさん?」

「ん、何もないよ。出久はどうだった?」

「断ってましたよ!まあ私がいるので当ッ然ッなんですけど!」

 

ふっふん、と死んだ目の心操を床にポイして胸を張る発目の頭をシュタインは再び撫でた。発目は不思議そうな顔のまま、それでもニッコリと影の無い笑みを浮かべた。

 

尚、放り出された心操はホームドラマやってる親子の足下にてしばらくそのままの体勢で自分の存在価値について割と真剣に考えていた。

 

 

 

しばらくして。

 

 

 

「……で、どうだったよ。話聞いてさ」

 

やがて帰宅もせずに研究所に直行してきた緑谷に発目がタックルのような勢いで抱きつき、緑谷は緑谷でそれを当然のように受け止めて。

 

今はすっかり機嫌が良くなった発目とイチャイチャしながら約束してあった今日の料理の献立を考えている緑谷を眺めながら心操は二人に問う。

 

「……んー、割と衝撃だった、かな」

「俺もだ。ああいう話って何ってーか……やっぱり遠いもんだと思ってたっつーかさ。分かっかな……」

「ハハ、分かるよ、その気持ち」

 

二人の言葉に曖昧に笑った心操が、先程積んでいたポップコーンを口に放り込む。そして袋の口を二人に向けた。

 

「でもまあ、アレでもまだ歪なんだけどな……」

「性格がか?」

「いや。明の性格はアレ(異常)で正常だろ。そうじゃなくて……博士だって言ってたろ?心の傷はまだ残ってる……ってさ」

 

心操の言葉に、僅かに芦戸と切島が身体を固くする。

 

「……アイツさ、自分の両親の墓参り行った事無いんだよ。それどころか、両親が死んだって話……いや、両親の話さえ避けてる節がある……多分、無意識で」

 

思い出さないように、心を守るために。そう言ってポップコーンをもさっと食う心操。

 

そんな心操の寂しいような、責めているような、無力感にうちひしがれているような……そんな表情を見て、芦戸と切島は息を詰まらせる。

 

「ねえ、三人とも!今日は僕の家でキノコと鶏肉のシチューするけど食べに来る?」

「お、マジ?」

「帰り道のパン屋さんでパンを買うんです!焼いて浸して食べたら美味しいですから!」

「っ……うん、美味しそう!」

「おおっ!良いじゃん!俺も食いてえ!」

 

ニコニコと笑いながらそう言う発目が何となくいつもとは違って見えて、それが自分の先入観によるものだと分かってはいても芦戸は泣きそうになってしまった。横を見れば切島はいつもより体の動きが大きい。無理をしてテンションを上げているのがよく分かった。

 

「まぁ待てよ。コイツらは俺達のやり方に慣れてないし、まずは家に連絡だろ。そうじゃないと心配かけちまう」

「ん。そうだね。まあ僕らは外に出る準備しとくよ……あ、先行ってて良いからね。ほら明ちゃん、行こ?」

 

緑谷が発目を連れて研究所の二階に上がっていったのを確認し、心操はそのまま芦戸達に目を向けずに問う。

 

「……後悔したか?聞いたこと」

「まさか!全然してないよ」

「おう。聞けて良かった」

 

少し影のある表情ながらも迷い無くそう断言した二人に、心操は小さく笑って「そうかよ」と呟いた。

 

「……さって、飯の前にちょっと色々食っちまったし、出久の家まで走るとすっか。博士、先行ってますよ」

「んー」

 

発目が録画していた緑谷の被告白シーンを視聴しているシュタインに一声掛けてからぐっ、ぐっ、と身体を伸ばした心操は一足先に走り始める。不意打ちで始まった競争に芦戸と切島は面食らいながら慌てて着いていく。

 

「っおいおい!待てって!」

「ちょっと私道分かんないだけど……って心操足はっや!?」

 

後ろから響く足音を聞きながら心操は笑った。

 

何だか笑いたい気分だった。




これが二人の喧嘩です(断言)え、これは痴話喧嘩?……うん。

執筆前作者「あー、今回シリアス回ですわ……ここまでずっとギャグやってたからな……読者さん着いてきてくれるかな……怖いな……」
執筆中作者「いきなりこんな話ぶちこんで怒られへんかな……でも今後のストーリー展開に必要な回やし……せや!所々心操に頑張ってもらお!」
執筆後作者「心操の味が強すぎて話が入ってこない」

あ、爆豪は発目の不機嫌を察して普通に家に帰りました。
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