作者「いやあなんとか終わったわ!あとは前書き後書き書いて予約投稿……日時は、えー零時だから十月七日の……あっ」
_人人人人人人人_
> ただの馬鹿 <
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あらすじ
書き始めた当時は心操をこんなネタキャラにする予定は無かった。
zzzzさん、BONDXさん、誤字報告ありがとうございます。
折寺市街。年始。
「さあ今年も始まります年始の折寺市民マラソン大会、実況はここ折寺ローカルラジオよりお送りしま……おおっと今年も居ます先頭に! 先頭に二人! 毎年の事ながら目を疑う光景です! 折寺市を縦断する十キロのマラソン、十キロのマラソンのスタート地点になんと二人! 二人の少年がまさかのクラウチングスタートの体勢で待機しています! もう一度言います! クラウチングスタートを目論むランナーが二人も居ます! 馬鹿です! 馬鹿ですが彼等がここ数年常に圧倒的な記録で1-2フィニッシュを続けてきた超人、折寺中学の爆豪君と緑谷君であるのは皆さんもご存じのところ! 今年も始まります折寺市民マラソン!」
一月半前。結田府中学校。
「しんそー、帰ろー」
「あいさ……」
今日も今日とて心操は周囲の人間に『……なあ、アイツら本当に付き合ってないんだよな?』『あぁ……何かもうアレだよな。最初は何でって思ったけど……もうホントいい加減さっさと付き合ってくんねーかな』みたいな視線を受けながらも席に寄ってきた芦戸に促されるまま教材をリュックに詰めて席を立った。
「おつー、アシミナー」
「ごゆっくり~」
「もー、そんなんじゃないから!」
友人二人からのエール(?)を受けて若干不愉快げに眉をしかめた芦戸は、全くもう本当に等とブツブツ言いながら心操を引きずって外に出ていった。心操も芦戸も知らない内にクラス内認識で心芦CPは着々と出来上がっている。
同校。玄関。
靴箱で二人が靴を履き替えていると、別クラスの切島がやって来て二人の肩を叩いた。心操に比べ少し成績に不安の残る彼は最近勉強に精を出しているようで、その手には単語帳がある。ちなみに彼より成績の悪い芦戸はというと、実際何もしていない。まあ二人とも成績が悪いと言っても平均よりはかなり上なのだが。
「んお、オッスお二人! これから研究所か?」
「切島おつー。んー、私はどーしよっかな」
「お疲れ切島。俺はちょっと市内の方行って皮買わないとだ……ほら、こないだ破れたサンドバッグの補修でさ」
切島と芦戸は無免達と同様に暇さえあれば研究所に入り浸るようになっていた。彼等と共に居れば自分達の目指している夢に近づく事が出来るという事もあるが、本当の理由は別にある。
……まあ、単純に。騒がしく喧しく、笑いと暴力、食器と爆発が宙を飛び交い怒号と絶叫が空間を埋め尽くす無免ヒーロー共の過ごす日常に彼らの波長がこれ以上無く合致したのだ。合致してしまった、と言った方が正しい気もする。
そんな日常を送るツギハギ研究所の敷地は広く、またそこの主であるシュタインも基本は放任主義のため切島や芦戸は無免達同様勝手に資材置き場や機材保管室の一室を陣取り寝袋やハンモック、クッションを持参して部屋を自らの城へと改装していた。芦戸はひとつ屋根の下で過ごせる事をコレ幸いと幾度も発目を二人きりの女子会やらパジャマパーティーやらに誘っているが話を聞いて貰えた事すら無い。
「補修? あー、あれ自分で直すのな……じゃあ俺もそっち行くかな。なんか面白そうだし」
「あ! あたしも市内行くー! ついでにCDショップ行きたいし!」
心操に着いて行くと即決する二人に心操は呆れた目を向ける。
「いやさ……別に何にも面白い事なんて無いぞ?」
心操の発したそのあまりにも自覚が薄い言葉に、二人はほぼ同時に靴箱を閉めてやたらいい笑顔で即答する。
『心操達の『面白くない』は信用できない!!』
あまりにもピッタリ合わさった声に心操は目を見開き、ガリガリ頭を掻いた。二人の意見は自分達のこれまでを鑑みての正当な評価だ。かつては『そちら側』であった心操にはそれが痛いほどに良く分かった。
「……っはあ、確かにそうかも、な」
「かもじゃねえ」
「確かにじゃなくて確定だから」
威圧感さえ感じる二人の即答に心操は「…………はい」とだけ答える。
自分の常識が既に非常識となっている事を察した心操は心の中で静かに涙を流した。
結田府中前バス停。生徒多め。
ガコン、と校門近くのバス停脇にある自販機で熱いホットコーヒーを買った心操は一口それを口に含んで無糖コーヒーのインスタントな苦味と酸味を味わう。
「心操よく無糖飲めるよね。私最低でも微糖じゃないと無理」
「そう言ってるお前はカフェオレなのな……切島はどうなんだ?」
心操は今ちょうど財布から五百円玉を取り出そうとしていた切島に声をかける。
「え、コレ何? コーヒー買わなくちゃいけねえ流れか? 俺コンポタ飲みたいんだけど……」
「いや、好きなの買えよ」
「あ、良い? じゃ遠慮無く……ちなみに俺は無糖いけるぞ」
そう言った切島が自販機に投入しようとした五百円玉は、自販機に吸い込まれる瞬間切島の腕に何かが当たった事で切島の手を離れて側溝の金網の下に落ちてしまった。
「痛ぇ!? え!? 何今の!?」
「ん? 何やってんだ切島」
切島の声で振り返った心操は溝に落ちる五百円玉を見て、切島の「何か当たった! 今なんか当たったぞ! ってか俺の五百円玉!」という叫びを聞きながら側溝を覗き込む。
「……さてさて、取れる所にあると良いけどな、切島の五百円……」
「ハァイ、ヒトーシィ…………! 」
「うおあああああああああ!? 」
そこには赤い鼻を着け、赤いカツラを被った青肌のゴリラゾンビが横たわり、歯で五百円玉をキャッチしていた。その異容に驚き絶叫しながら飛び上がるようにして仰け反った心操の足首を凄まじい速さでガッシと掴んだゾンビは、そのまま側溝の金網を退かして心操を引きずり込んだ。
「キャアアアアアッ!? 何!? 何今の!?」
「おおおおおおおっ!? ヴィ、ヴィランだあああ!!!」
切島の非常に現実に則した叫びに対し側溝から勢い良く顔を出したゴリラゾンビがカツラと付け鼻を毟りながら切島に向かって「ヴィランじゃない!」と叫ぶ。外見も行動もどう見たって百点満点でヴィランである。
「じゃっ、じゃあ何なんだよあんた!」
「俺は割とドッキリ企画に協力的、生前はそんな男だった! あと五百円返すよ。悪かったな」
「……あ、ども……え、セイゼン?」
側溝から完全に気を失った心操を担いで這い出てきたアーミーゾンビはちょうど来ていた市営バスにジェスチャーで乗らない旨を伝えると、呆然とする二人に向き直る。
「君らもシュタインの生徒だな? アシドとキリシマと言ったか。サンドバッグ用の補修材は買っておいたからそこの車に乗って研究所に来なさい。中にはシュタインが居るから事情はそっちで聞いてくれ。ちなみに俺も乗る」
「え、ゾンビさん用意周到!?」
「アフターフォローは丁寧に。俺はそんな男だった」
用意されていた小型のバン、その後部に二人が乗り込むとそこには先客が居た。
「マリー、人使を頼む。俺は前に座る」
「人使君前に座らせれば良いじゃない?」
「気絶した人間を外から見やすい助手席に乗せるのは外聞が悪い……それに、俺は女子に囲まれるのが正直苦手。そんな男だった」
俺もあんまり得意じゃないんですけど。切島はそう言いたかったが怖かったので言えなかった。
「もう、子供の前でそんな事言って! ……あ、二人ともはじめまして。私はマリー。マリー・ミョルニルって言います。よろしくね?」
長い、少しウェーブのかかった金髪に黒い布の少々物々しい眼帯、そして見る人に安心感を抱かせるような、美人でありながらも冷たさを感じさせない柔和な顔つき。まるで花が咲くような笑顔で自己紹介を受けた二人は少し和みつつもテンションを上げて挨拶を返した。
「あ、私芦戸三奈って言います!」
「俺、切島鋭児郎っす!」
「うんうん、元気だなあ子供は……なんか私も元気になるって感じ」
その時全員の乗車を確認したシュタインがバンを走らせる。その揺れで目覚めた心操は、現状をコンマ八秒で認識し叫ぶ。
「騙されるな逃げろ二人とも! ここから先は地ごぼブッ」
僅かに上体を浮かせて叫んだ心操の顎を、マリーの、常人の目では捉える事すら出来ない雷速の裏拳が貫く。
パァンッ!という快音と共に心操の頭部を襲い意識を刈り尽くしたその衝撃は、勢いそのままに座していた切島と芦戸の鼻先を焦がし、芦戸の横にあった後部座席の窓ガラスに蜘蛛の巣状のヒビを入れた。
「もう、車内ではお静かに!」
再び白眼を向いて座席に座り直した(倒れ込んだ)心操にシートベルトを装着させながらプリプリとマリーが怒るが、最早そんな可愛らしい仕草を見ても切島と芦戸は和まない。テンションも上がらない。ただ小刻みに震えつつ青い顔で下を向いた。
心操と訓練を始めてから早いもので数ヵ月。未だに有効打を与えることが出来ない彼が瞬時に無力化された事で二人の戦意は完全に途切れてしまった。
ここに居る大人は、きっと三人とも恐るべき戦闘力を持った化け物なのだと。そしてそれは正解である。
「……ねえ、私達どこに連れてかれるの?」
芦戸が小声で切島に訪ねる。大人三人は何やら昔の話で盛り上がっていた。
芦戸の質問に、彼らしくない力の抜けた笑みを浮かべた切島は答える。
「……心操が言いかけてたろ。地獄だよ」
これはネタバレになるが、切島の発言は正しい。彼らはこれから先、人生一番の地獄を見ることになる。
「数日に一回
「そうか、それならかなりの無茶が出来るな。骨の数本なら余裕か」
「いやあ、一年ぶりだもんねえ! ねえ切島君! 勝己と出久は元気にしてる?」
「げ、元気すよ……俺らよりもずっと……」
所変わって。とある喫茶店。
「……ねえ相澤君、まだかな」
「……」
スピリットがリサーチしてきた、おっさん二人には異常に似合わない小洒落たケーキ屋のテラスで相澤は事もあろうかエスプレッソを単体注文し、しかも会わせて出てきた砂糖もミルクも入れずにブラックでチビチビやっていた。
そんな甘味処に対する冒涜のような事をしている相澤の横で、スピリットは強烈な貧乏ゆすりをかましながら注文したタルトをチミチミ食べていた。
「……ねえ相澤君、まだかな」
「まだです」
スッパリとそう答えた相澤にスピリットは涙目を向ける。おっさんがそんな事をしても見苦しいだけである。
「もしかしたらさ、ここに来る途中に事故に遭ってないかな。ヴィランに遭遇してたらどうする? 車で来るんだったよね!? ちょっと相澤君車出してべっ」
「まだ待ち合わせ時間まであります」
狼狽するスピリットの顔面に裏拳を叩き込んだ相澤は溜め息を一つ吐いてからスマートフォンを取り出し……スピリットのスーツのポケットから何かがはみ出ているのを見つけた。
「スピリットさん、それ何です?」
「え? ……え゛ぁっ」
スピリットが誤魔化すよりも早くそれをポケットから抜き取った相澤は一目見てからそれをテーブルに乗せた。
「…………何か言い訳は?」
それは、キャバクラのスタンプカードだった。お洒落なケーキ屋の一角に凄まじく緊張した空気が流れるが、やがてそれを破るように、警察に自白を促された犯人のようにスピリットが声を絞り出した。
「っ仕方……無かったんだ……ッ!! 俺は……っ、俺は
「お疲れ様です。次の日程はまた連絡しますね」
伝票を持って(あらかじめ伝票は二枚に分けてもらっていた。相澤はスピリットに何かを奢る気など更々無い)席を立とうとした相澤にスピリットが情け無くしがみついて泣き出した。
「待って待って待って本当にお願い待って! 違うんだ! 出来心だったんだよ!」
「アンタの心から出来心抜いたら何が残るんすか」
そう言った相澤はペラリと折り畳まれたスタンプカードを開く。一度の来店で一つスタンプを押してもらえるらしいそれは既にかなりの数が貯まっていた。
相澤はコックローチの糞でも見るかのような目でスピリットを一瞥し、チッと舌打ちした。
「待って! ねえ待って! 改心するよォ! 心を入れ替えるからママには言わないでッブふ!」
スピリットのこの期に及んでも相変わらずな態度に堪忍袋の緒が普通にプッツンいった相澤のジャイアンパンチが顔面にブチ込まれ、スピリットが床で悶絶する。その隙に会計を済ませ、迷惑代として数千円多く支払った相澤が店を出ようとした時に彼は丁度店の前にあるバス停でバスから降りたらしい自分の姉と姪を見つけた。
「あ、しょーた」
「消太、どうしたの? あの人は?」
相澤は不思議そうにそう聞いてくる自分の姉に例のスタンプカードを渡した。疑問から憤怒、そして虚無へと変化する表情を眺めながら相澤はその場でしゃがみ摩可の頭を撫でる。しかし背後でドタドタと何かが駆け寄ってくるのを察し、実父のみっともない所をこれ以上目の当たりにするのも可哀想だと思った相澤は摩可の頭をゆっくり抱き寄せて目と耳を塞いだ。
「……あっ、えっ、と……見た?」
スピリットの何かを誤魔化すような期待するような何とも言えない表情を見てついに憐れみを顔に浮かべた相澤の姉は、大きな溜め息を一つ吐いて、言った。
「……次の面会の条件。あなた一回病院行って精神科受診しなさい。絶対何か症名のある精神状態よ。じゃあね」
「待ってママアアアア! 捨てないでえええぇ!」
クッソ情けないことを大声で叫ぶスピリットを放ったまま摩可を抱いた二人は相澤の車に乗り込み、座席に座ると同時に疲れきった溜め息を吐いた。
「……パパ、またウワキしたの?」
「そーみたいねー……別れてるんだから浮気も何も無いんだけどねー……」
「……摩可、どこか行きたい場所あるか?」
そんな事を言いながらケーキ屋の駐車場を出た時、先程のテラスには泣きじゃくるスピリットを心配して介抱しに来た心優しい女性店員の手を取って何やら言い寄っている馬鹿が居た。
「パパさっきまでないてたのに……もうウワキしてる……」
「摩可、見ない方が良い」
摩可と共に後部座席に乗り込んでいた相澤は何とも言えない表情で摩可の目を優しく塞いだ。
ツギハギ研究所。来客多め。
「……っとまあそんな感じで、私もシドも活動をしてる訳じゃないけどヒーロー免許は持ってるの。ちなみに私は普段生物系のちょっとした研究所で働いてて、シドは林業やってるわ」
「なるほどぉ」
先程の面子のままバンで研究所にやって来た彼らは、
ほわほわと笑みを浮かべながらこちらに来る際土産に買ってきたらしい団子を食べるマリーの話に相づちを打つ切島と芦戸であるが、その声音は暗く、顔色は悪い。
というのも。
「人使、足下がお留守だよ」
「痛! っるっせえ!」
「人使、まだ左側が甘いぞ」
「……ぐっふ……! わ……かってる!」
「人使、今は二対一だ。認識が甘い」
「ぐほっ……!」
「人使! 腹を殴られようが息を吸い続けろ! 一度息を止めれば次にその分多く吸わなきゃならない! その緩急が隙になる!」
「あんた今滅茶苦茶言ってるぞ!! 自分は空気吸わなくても生きてけるからってさあ!!!」
目の前で自分達の同級生が大人二人に前後の挟撃でボコボコにされているのだ。そりゃあ誰だって顔が引きつる。当たり前だ。
「まあこれが出会いの無い職場で……ねえ聞いてる?」
「ア、ハイ」
「……やっぱり気になっちゃうか~、アレ」
そりゃあな。と切島は心の中で頷いた。芦戸は普通にコクコク頷く。
「大丈夫よ。死にはしないから。二人ともその位は弁えてるわ」
「そう……ですか」
「……あれが?」
心操がシュタインと戦っている隙に音も無く地中に潜り込んだシドが「土遁 心中斬首の術!!」という(お茶目な)台詞とともに心操を首だけ残して地中に引きずり込む。
首元まで一瞬の内に地面に拘束されてしまった心操がそれに何らかの対処をする前にシュタインがその頭に足をトン、と乗せた。それを王手の合図と見た心操は、苦笑いを浮かべつつシュタインを見上げる。
「……俺の動き、何点でした?」
「注意散漫すぎ。45点」
すう、と頭に乗せていた足を上げたシュタインに心操は笑う。
「…………言い残す事は?」
「俺を倒しても第二第三の」
「それだけ軽口言えれば上等ですね」
瞬時。
「足踏魂威、砕脚」
ゴッ、と心操の頭を踏みつけたシュタイン。地面が心操の埋まった場所を中心にして放射状に罅割れ、その振動は芦戸と切島の足下まで響いた。
「うーん、あの二人相手に六分かあ。人使君随分鍛えてるのねぇ」
手元にあったストップウォッチを弄びながらそう言うマリーとは逆に、芦戸と切島は普通に震えていた。
彼らの中でかなりの強者であるとの認識……実際にかなりの強者ではあるのだが……まあそんな認識だった心操がほぼ手も足も出ずに叩きのめされた事もそうだし、普段食事を共にし、軽口を叩き合っている二人の間に容赦が全く無かったのもそうであった。
「……マリーさん?」
「ん? どうしたの?」
「……私達もアレ、やるんですか……?」
震える芦戸のその質問に思わずといった感じで吹き出したマリーは「ないない!」と手を横に振った。
「あ、違うんですか!? 良かった……!」
「違うわよ! 切島君と芦戸さんは私が相手するわ! アイツらみたいに容赦なくなんてしないから安心してね!」
笑顔が凍った芦戸の脳裏に先程心操を一撃で昏倒させた情景が甦る。
……安心できない……っ! 芦戸は自らの魂の冥福を神に祈った。あんまりその祈りは届きそうにない。
「なんか……凄い事になってきたね切島……切島?」
ふと芦戸が横を向くと、そこには誰も居ない。
「……良いんだな?」
「宜しくっ、オネアッシャァーッス!!」
「うっわあ、相変わらずの切島だあ」
切島は地面をモコモコさせて地中から地上に帰ってきたシドに頭を下げ、自分の実力を知るためと、手加減無しでの組手の指導を頼んでいた。そして対面する二人だったのだが……
……だが、賢明な読者の方であれば何となく気付いた方もいるであろう。
……これ前に緑谷にやってたのと同じ流れじゃね? と。
まあ、んで。
「ちょっまっ」
「この墓石は君より硬いぞ──『
「ッアッ──!!!」
はい。
研究所の端に誰にも気付かれる事無くひっそりと置かれていた墓石をブンブン振り回して切島を即座に粉砕したシドはマリーの二つ隣り、つまりは芦戸の隣に座った。
「切島君、どう?」
「個性に頼りすぎだな。自分の堅さを抜かれる想定が甘い」
だがそこを乗り越えれば必ず強くなれるさ。そう言ったシドは大きく息を吐いてそれを尋ねたマリーの差し出した麦茶を飲んだ。
「……あの、こんな事毎年やってるんですか?」
「うん? うん、そうね。十年くらい前からずっと。昔は皆弱っちくて、苦労したわよ~」
そう言ってクスクス笑うマリーを見ながら芦戸は更に質問を重ねる。
「あの、どんな事するんですか?」
「……そうねえ、基本的には組手と思考訓練、それに自分達の限界を越えるために色んな方法で心身共に追い詰めていくのが基本ね。まあ芦戸さん初めてだからそんなにキツくはしないわ。けどまあ……そこそこ死にそうな思いはしてもらうけど。ちなみに教師役は私とシュタイン、シド、あともう一人が……」
マリーが笑って芦戸に死刑宣告をすると、研究所の外から誰かの叫び声が聞こえてきた。
『────ァァァガァァァァァ』
「……今のって」
麦茶を飲み干したシドがそう呟くと、白眼を向いた心操を埋まったまま介抱していたシュタインがニヤリと笑う。
「……ああ。先輩だ」
シュタインがそう言った直後、研究所の裏門がブッ飛ぶ勢いで開く。
そしてそこから入ってきたのが……
「ママアアアア! マガアアアアア! ゴメンよぉぉぉぉぉ!!! パパが悪かったからあああ!! 改心するよお! マカが胸張って自慢できるパパになるからぁ! だから帰ってきてくれよぉぉぉ!!! だから『消太がいるからパパは要らない』なんて言わないでよォォォ! マカアアアア! ゔお゙お゙お゙お゙ん゙! ゙! ゙! ゙」
高級なスーツに赤毛の男……スピリット・アルバーンは財布から大量の風俗店会員カードを取り出し地面に叩きつけ、それを何度も踏みつける。
「こんなものっ! こんなものっ! こんなものっ!! 俺は変わるんだ! もう家族にあんな顔させないんだ! うおおおおおおおお!!! (気合)」
「もう家族じゃないでしょ。忘れたんですか?」
「うわああああああ!!!! (号泣)」
先程踏みつけた会員カードを全て素早く拾い集めて財布にしまい直してから、「な゙ん゙で゙え゙ぞん゙な゙ごどを゙い゙ゔん゙だ゙あ゙あ゙あ゙!!!!」とシュタインの肩をガクガク揺らしまくるスピリットの肩を叩く一人の女性。スピリットがそれに振り向くと、そこには明らかな怒りのオーラを湛えた一人の
尚、マリーは結婚生活というものに特別な理想を持っており、スピリットのよm……元嫁とも仲が良かった。
「……マリー……えっと……」
「……言い訳は?」
「男のサガだからしょうがないと思いゲブゥゥゥゥゥッ!!!!!!」
マリーの容赦ないトゥーキックがスピリットの鳩尾に炸裂した。倒れ込むスピリットだが、シュタインがその身体を支えて立たせる。
「……しゅ、シュタイン、てめぇ裏切るのか……!」
「いや、先輩は一回痛い目見た方が良いです……というか、殴ってくれる内が花ですよ?」
目の前でバチバチと腕に電気を『充電』するマリー。その威力も、マリーのいざという時の容赦の無さもよく知っているスピリットは両腕を前に突き出しなんとか許しを乞う。
「……ままままま待て待て待てマリー。話し合おう。俺たちにはまだ話し合う余地が残っているはずだ。な?」
「女の敵と交渉はしないわ。そんなの国際常識よ?」
「いやそれテロリスト! いや待って本当に待って止めて止め──!!」
制止も空しく、マリーの拳がスピリットに突き刺さる。そしてその拳が当たった瞬間に腕の内部で限界点まで電磁加速した『
「奥さんの気持ちを考えろこの浮気者──ッ!!!」
マリー・ミョルニル
個性『
体内で生体電気を発電でき、それを腕や脚といった部位から衝撃に転換して放つ事も出来る。また、自身や他人の神経系に干渉し身体能力を強化したり、反対に麻痺させたりも出来る。普段はとある孤島にある研究所で動物の相手をして暮らしている。動物に求愛行動を取られて微妙な顔になることがあるらしい。
「スンマセンデシタ────ッ!!!!」
スピリット・アルバーン
個性『増幅』
自分以外の人間の身の内に眠る潜在的な『長所』を発揮させる事が出来る。また増幅の名の通りに彼の個性があれば自身の才能の限界以上に能力を発揮する事も可能。個性柄か人間関係に長け、他人から決定的に嫌われる事が少ない。本人の性格がアレなので無いわけではない。四人の中で唯一ヒーローとして活動している。
「……ッハァ、やっぱりこうなるのか……」
個性『潜航』
まるで水のように地面に潜る事が出来る。また、その技術を応用して敵の足下を液状化させたり、瓦礫に挟まれた被害者を地面に沈めてから救出したりと応用の幅が広い。普段は田舎で髪に白い三本線のある子供と肩に星の入れ墨がある子供をパートナーの女性と育てながら林業を営んでいる。本人いわく昔は生きていたらしい。
「……っうわぁ」
「やっ……べえ」
自分の修行相手(予定)があまりにもあまりな威力を叩き出したのを見て本日何度目かというほどに顔を青くした芦戸と切島(復活済み)の顔を見て、シュタインは満足げに喉の奥で笑った。
「……んん、今年も充実した年末になりそうですねえ……」
一年間ありがとうございました。こんな発目ヒロインとかいうワケわからん小説に対してしてくれる、皆さんのコメントや評価が励みになっています。これからもこのペースだけはなんとか死守して続けて投稿していきます。一周年記念とかやった方が良いですかね?
あ、シドの忍術()は感想が面白かったので採用させていただきました。これからも皆さんのちょっとしたアイデアを使わせてもらうことはあるかと思います。