別題:ドキッ!(不整脈)冬休みの大強化合宿~雪、ビーチ、水着、(意識が)ポロリもあるよ!~(吐くまで全力疾走編)
えっ、なぜこのタイトルにしなかったかって?本編読んで貰えれば多分大体分かります。こんなタイトル使えるか!
今回のあらすじ
地獄
zzzzさん、白よもぎさん、佐藤9999さん、誤字報告ありがとうございます!
────唐突になるが。
緑谷出久は割と物静かだ。
普段は一人で黙々と訓練をこなし、鼻唄なんぞ歌いながら一人で料理をこなし、他の飢えたケダモノ達がエサを取り合ってワンワン吠えているのをニコニコ見ながら飯を食う。彼が騒がしくなるのは発目明が絡むときだけである。その頻度がやけに多いのだが。
まあつまるところ彼はどちらかと言えばコミュニケーションが言うほども得意ではないのだ。大人数でワイワイやるのも嫌いではないしそういう時は自分も参加するが、一人で居る事も苦ではない。むしろ割と好き。そういう男だ。
爆豪勝己は口数『は』少ない。
普段は無口で、自分からは会話も最低限。誰かが話しかけなければ一日誰とも話さない日もある。しかし誰かから声を掛けられれば大体の場合爆発と怒号を返す。
心操が『もうちょっと静かに返事できないのか?』と言った時、『出来るわボケクソ殺すぞ!』と絶叫した事は無免達の間では鉄板の爆笑ネタである……爆豪だけに。
尚、彼はその事を指摘するととても嫌な顔をする。言い返さない辺り彼も自覚はあるらしい。
心操人使は口数が多い。
そもそもの話……個性柄、彼の武器は『弁舌』である。如何に相手を理解し、突かれたくない弱点を見つけ、そこを煽って隙を作るか。彼は体術等の直接的な戦闘力以上に人心を操る術を鍛えている。ちなみに彼の弁舌技術は
師匠が良かったのか才能があったのか、彼は非常に話術に長け、更にはどんな相手にでも話が出来るようにと絶え間なく収集している情報により話題も豊富で、聞き上手であり話し上手。
最近では心操の置かれている状況を憂いた芦戸が尽力した事もあってかなり馴染んでいるクラスでも、『話してみるとかなり面白い奴』という評価がポロポロと出てきている。クラス外では未だに犯罪者扱いであるが。
芦戸三奈はおしゃべりだ。
大概の場合は話し掛けられれば笑顔でそれを返して会話のキャッチボールを真っ当に楽しみ、相手が口下手ならうまくそれを引き出してやり、普段自分が話さない人間にも自ら話しかけに行く。
……正に陽キャのお手本のような彼女は一対一での他人に深く入り込む会話に精通した心操とは違う、周囲の人間を巻き込んで皆で話して皆で笑う……そして、そのコミュニケーションの輪の中心に居る、居られる才能のある少女だ。
心操のように必死でその能力を鍛えたわけでもなく、自分が使って当然のごく自然なものとしてその話術を使いこなす辺りが心操と芦戸の、話し上手としての格の違いなのかもしれない。
切島鋭児郎はコミュニケーション能力が高い。
そもそも、
そもそも芦戸襲来事件(心操命名)以前から心操の風評を気にせず友人となり、それ以降も緑谷に爆豪、シュタインや発目ともわりかし直ぐに打ち解けたり、更には会ったばかりのシドに組手を頼んでいたりと彼の馴染む才能は非常に高い。少なくとも同じ地味仲間の緑谷よりは確実に上だろう。地味でもランクは付くのだ。
まあ何だかんだと評価付けをしてきたが……
……そんな彼等は現在、地獄に居た。冬休み地獄の一週間強化合宿、今はその三日目である。
「…………っ、…………っ!!!」
「……──っはぁ──っ……!! ──はぁーッ!!」
「ッガア、ッ! ッアッ、ッハァッ! ハァッ……ッグゥ……!」
彼等は現在、吹雪にまみれながら一切言葉を発さずにひたすら降り積もった雪の中をズボズボと穴を無限に量産しながら歩いていた。全員が全身一分の隙も無く防寒具でガチガチに固めているが……
もうどれだけ歩いたのか。その布には溶けた雪が染み込んで際限無く身体を重くし、一番雪と近い脚などは既に末端の感覚が消えていた。
そんな彼等の中でも一際異彩を放つ、背中が完全に隠れるほどに巨大な荷物を背負った緑谷が、その重さで顔を苦痛に歪めながら他の皆に声をかける。
「……全員……ッ、生きてる?」
「……ッ、は、ゼッ、っゼッ、ハァッ、ヴァ、はい……」
「ハァーッ、ゼェーッ、ッゼッ、ゼェーッ……いきてる……」
緑谷の言葉に反応したのは芦戸と心操だけだった。爆豪は無心で歩を進め、切島は止まりそうになる度に自分で自分の脚をぶん殴っては無理矢理前に進んでいた。勿論声など出せる筈もない。
合宿一日目はずっと組手のローテーションでシュタインに叩き潰されたりシドに埋められたりマリーに内臓破裂させられかけたりスピリットに煽られたりと散々肉体と精神をズタボロにされた。特に緑谷と爆豪は基本二人がかりで容赦なくかつ執拗に、完膚なきまでに叩き潰された。
この組手では気絶は許されず、気を失った者は片っ端からマリーの電撃で強制的に目を覚ます事になった。そんな訓練が繰り返されて一日目の終わりには誰かが気絶すればマリーが寄ってくる前にぶん殴って起こすようになっていた。身体に電流を流し込まれるよりも殴られる方がずっとましなのだ。痛みとかじゃなく、精神的に。
そんな苛烈極まりない修行だか拷問だかに芦戸が割とガチで泣いたり切島の息が止まったりもしたが、過ぎた事なので割愛する。
二日目はシュタイン達は指摘、指導にシフトして無免同士の組手となったが、これが再び地獄となった。
……この組手、『誰が誰と戦うか』を指定されるのである。
まず切島は硬度に関係なく身体に衝撃を徹す技術を持つ緑谷と互いに休憩無しで七回連続で試合を組まれた。そしてその七回全て緑谷に気絶させられ、緑谷に殴られて起こされた。
意識自体はあるもののついに足腰が立たなくなってしまった切島が休む間、七試合動き続けた緑谷はそこから爆豪相手に四試合を連続でこなした。最後の二試合に関しては爆豪と心操のタッグを相手にした。因みに四戦全て負けた。
シドに脚を引きずられて緑谷が運ばれていく中、試合場に残された爆豪が相手にしたのは、緑谷を除いた残る三人だった。盾の切島、矛の芦戸、そして二人を活用する戦略を瞬時に立て二人の至らぬ所をフォローする頭脳の心操。爆豪は二回戦までは辛うじて勝利したが、そこから二回、そして復活した緑谷が参戦して更に三回ボコボコにされた。
爆豪がスピリットに蹴り転がされて行く中で残された四人に告げられたのは勝てば次の試合を抜けられる地獄のバトル・ロワイアルであった。
最早互いが夢を共にする仲間であることなど高い高い棚の上に放り投げ、次の試合を休憩するために四人が男女の別無く死力を尽くして殴り合った。
一回戦は当然行われるトップ狙い撃ち戦法を見事に打ち破り緑谷が一位抜けを果たした。
二回戦で狙われた心操はこの僅か二日の修行によって異常なまでに研ぎ澄まされた二人の戦意を避けきる事が出来ず、切島の硬化ラリアットを首に食らい退場。ガチンコ勝負では性差の分さすがに分が悪かったか、芦戸をごり押しで倒し切島が一位を取った。
三回戦では芦戸が心操の攻撃に合わせて床に倒れ込み、そのまま寝転んで体力を回復させつつ他二人の消耗を待つ『死んだフリ戦法』で見事に漁夫の利を得た、が、その戦法でも緑谷と一対一で戦うのは厳しく、結果は共倒れであったが敢闘賞として一位の栄光と休息を手に入れた。
んな地獄を朝から夕方まで休憩を取りつつひたすら続け、一日目に引き続き全員が肉体的にも精神的にもズタボロとなった二日目の夕方、合宿場所に白衣の天使、リカバリーガールが到着し緑谷達は全員治療を受けて折れた骨や焼けた肌、傷付いた内臓を治療した。その際二日がかりで特に念入りにズタボロにされていた
そしてそのまま二日分の生傷の治療で体力を使い果たした五人は治療を受けた食堂の床に折り重なるようにして眠り込んでしまい……
……起きたら、コーヒーを飲んでいたマリーに笑顔で鎧のような重さの防寒具を渡され、絶望した目でまるで『今日はこれくらい食べとかないと死ぬよマジで!』という声が聞こえてきそうなほどあからさまにガッツリした朝食を食べ死んだ目でそれに着替えた彼等はこうして雪の降り積もる森の中をヒイコラ言いながら歩いているのだ。ちなみにこの行軍、不定期にシュタイン達による襲撃がある。殺意しか感じない訓練メニューである。
そんな哀れな無免ヒーローが目的地に向かって歩を進めていると、そこに遠くから微かなエンジン音が聞こえてきた。それをシュタイン達の内の誰かが襲撃に来たのだと朝からの経験で察した緑谷は、顔を上げて防御に長けた切島の方を見る。
「……っ、切島……君……は……無理か……!」
膝に手を置いてゼエゼエと息を荒げる切島を見て彼には対応不能と察した緑谷は、背中に背負った『荷物』をゆっくり背負い直してから腰に下げた刀を抜く。
「……ハッ、ハァッ、みど、りや」
「切島、君!?」
そんな緑谷をぐい、と力の入らない腕で無理矢理引き倒すように後ろに下がらせ、切島がボロボロの両腕を構える。それと同時に周囲を見回していた心操が叫んだ。
「──ッゲホ、十二時の方向!
「ッヌオオオオオアアアッ!!!!」
切島が咆哮を上げるとほぼ同時にシドの操縦するスノーモービルで急襲を仕掛けてきたマリーの雷鎚が切島の両腕に突き刺さる。
「あっ……ンまいのよっ!」
「ぬっグ……ッガアアアアァァァ!!!!」
モービルの速度とマリーの個性が組み合わさった一撃は、無免最硬の防御力を誇る切島の身体を軽々吹き飛ばし、数メートル先に生えている木の幹に叩き付けた。
「切……ッ島ァ!」
「人──ッ!」
思わずといった風に切島の名を叫んだ心操。その心操の頭部に向けて、モービルを片手運転するシドがリボルバーを向けているのを視界の端で察知した緑谷が叫ぶ。しかし緑谷と心操の距離は離れており、疲労が溜まってきている緑谷では助けることも出来ず、驚いた顔でシドの方を見るその顔めがけてシドが骨の一本や二本ならば余裕でへし折る硬質ゴム弾を撃ち込み……
その銃弾は、心操の顔の前に掲げられた芦戸の腕に直撃し、ベキッ!! と耳を塞ぎたくなる音を立てながらその腕を打ち据えた。修行の中で自他合わせて何度と無く骨の折れる音を聞いてきた心操には、芦戸の骨が折れたことは容易に察する事ができた。
「…………────~~~~~ッッッッッダァい……!!!」
「芦戸ッ!? お前何、お前ッ、何してんだよ!」
緑谷と爆豪が道中で拾い集めた石を投げてモービルを撃退する中で心操はあまりの痛みに踞った芦戸に対して声を荒げる。
心操の、普段では決して見る事の出来ない切羽詰まった顔に笑顔を見せ、芦戸は冷や汗と涙を浮かべながらも気丈に言う。
「……ッ、だいっ……っ、じょー……ぶ!」
「な訳あるかこの馬鹿! 手当てすんぞ! 腕出せ!」
言葉の荒さとは裏腹に、芦戸の腕の折れていない部分を柔らかく握る心操の、その手を震える手で払いのけ……芦戸は片腕だけを使い器用に立ち上がった。
「……だい、じょぶ。このままで……だって、私達はもう終わりだし……最後くらい、助けさせて、よ」
「……芦戸……」
思わず、青ざめた顔でそれでも笑う彼女の名前を呼んだ心操の肩を、皮膚が砕けて血塗れになった切島の手が掴む。心操が振り返ると、爆豪に肩を借りた切島がニヤリと笑った。
「……ッハァ、ッ、まあ、そーいう……こった……」
「切島……」
「……よし、もう行った……行こう皆。あと三百メートルも歩けば切島君と芦戸さんはゴールだから。だよね明ちゃん?」
緑谷が背中の荷物に声をかけると、その荷物はモソモソ動き、やがてその荷物を覆う耐水布から発目がピョコンと顔だけを出した。
「出久さんが今向いている方向にまっすぐですね。ちなみに目標タイムまであと九分二十秒です……さっむ」
それだけ言って再びピョコッ、と荷物の中……いや、専用居住スペースに首を戻した発目を、そのスペースに腕を突っ込んで顔面を掴み、爆豪が引きずり出す。
「あにふるんれすか、かふきはん」
「うるせえ……! 『さっむ』じゃねえんだよ楽してんじゃねえぞ歩けや引きこもり……!」
「あはしさういのきらいはんれぱふれ」
爆豪の手を叩き落としながらそう言った発目は、自分を運んでくれている緑谷の手を握ってにっこり微笑んだ後、荷物の中に身体を戻した。
「…………何だろ、今あたし初めて明ちゃんの事ちょっと嫌いって思った」
「……なあ心操、アイツ全部終わったら殴っていいよな?」
「いいぞ。殴れ。お前も昨日一昨日でそういう抵抗は消えただろ。殴れ殴れ」
発目の暴挙に対して憤る面々に、さすがに緑谷も文句は言えずに苦笑いを浮かべるのみだ。因みに緑谷自身は発目の行いに対して特に何も思ってはいない。
というのも、無免の中で誰よりも基礎的な身体能力に優れる彼は団体でのこうした修行を行う時には基本的に背中にウエイトとして発目を背負うようにしているのだ。つまり緑谷にとって今の状況は何らおかしいところの無いごく普通の状況というわけである。
因みに今回の緑谷のウエイトは、発目明本人と発目を背負うための
「……あ、ほらみんな、見えたよ! 中間ポイントだ」
「おお……やべえ、なんか泣きそうなんだけど」
「うん……ラスト、スパー……ト……!」
発目への怒りと罠や奇襲のある道程を十数キロを行軍した達成感を胸に抱きながら芦戸は腕が折れた側を心操にサポートしてもらい、切島は引き続き爆豪に肩を貸してもらい、一歩ずつ進んでいく。
そして、ついに見えたその中間ポイントでは黒髪の女性と背の小さな老婆が待っていた。この森の所有者であるヒーローグループ『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ』のマンダレイと、雄英の屋台骨ことリカバリーガールである。
「……言いたいこた色々あるけど……まあとりあえずはお疲れさんだね。ほれ、アンタら二人はこっち来な」
「はぁぁいぃ……」
「……何とか、生き残れた……」
芦戸と切島がズルズルと身体を引きずって建物の方に向かい、その途中で緑谷達の方に顔を向ける。
「……お前らは、この四倍なんだよな」
「いや? 俺は二倍。俺はこの森を端から端まで……で、出久と勝己は往復だよ」
自分の、圧倒的に足りない実力に不甲斐ない思いを浮かべる心操を見て、芦戸と切島は精神的に凄まじい衝撃を受けた。
芦戸も切島もそこそこには運動をする方で、同じ学年の人間の中ではかなり体力のある方だ。ヒーローになる為に努力を欠かしていない自覚もある。最近はシュタインの指導も受け、多少なりと実力が伸びた実感もあった。
そんな自分達が、庇われ、助けられ、教えられ、導かれ、そこまでしてやっと道程の中間地点まで来られた。
そしてズタボロになったその身体である種の達成感を得ていたのに、心操はその倍の距離を進んで尚更に先を求めている。それが二人にとってはあまりにも衝撃的で──そして、その姿に対する二人はあまりにも、無様であった。
「じゃ、俺らはもう行くよ。日が暮れるまでに往復しなきゃ更に辛くなるから休憩してられねえんだ」
「……おう、心操……頑張れよ」
「応援してるから……」
「ん」
爆豪と緑谷の後を追う心操。その姿が雪にまみれて見えなくなる……その前に、切島がガクガクと震える脚を一歩踏み出して、腹の底から叫んだ。
「────ッ次はッ!」
次は。その一言が届いたらしく振り向いた三人に、切島は叫ぶ。
「……次はッ! 絶対! ────絶対俺も着いて行くから! 絶対に……ッ! 置いてかれたりっ、絶対しねえッ!」
切島の決意の叫び。そしてその目に貯まるものを見た芦戸は、自らの目からもそれが溢れるのを自覚しながら同じように、叫ぶ。
「あたしもッ! あたしも絶対追い付くからッ! 絶対ッ────絶対にッ、追い抜くからッ! 覚悟ッ、しといて!」
少年少女の、心からの叫び。それを聞いた三人の内……まず大きく肩を怒らせた爆豪が、追い付かせるかと言わんばかりの歩調で再び歩き始めた。その次に緑谷が片手を大きく上げて、待っているというかのように軽く一、二度振って歩き始める。
……そして、心操はその場で何度か深呼吸をして、喉を震わせる。その心に去来するのは、かつての、今よりずっと弱かった自分の姿。
『俺っ、今は無理でも……ぜってえお前らに追い付くから!』
それは、彼がかつて同じように、二人の少年の背中に叫んだ言葉。
『俺絶対……お前らの隣にっ、立つから!』
あの日、粗暴なヒーローは自分の言葉を鼻で笑った。
『……ハッ、本気で言ってんのか……? ざけんじゃねえぞゴルァ!』
あの日、地味なヒーローは自分の言葉に驚いた。
『えっ!? それは……ちょっとかっちゃん……ごめんね心操君。かっちゃん何かに噛みつかないと生きていけないとこあるから……』
『黙れデクァ! ……おい紫髪、テメェが俺に追い付くだ? 言っとくけどな、俺はお前が成長する何倍も成長すんぞ』
『今よりももっと努力しないと駄目って言ってる』
『俺が目指してんのはな、最強だ! 否定のしようがねぇ、誤魔化しも効かねぇ! 文字通りの頂点だ!』
『いつかトップを争って戦おうって言ってる』
『うるせぇボケデクコラァ!』
『先に進んで待ってるっていだだだだだだ!!!! 勿論僕もそう思ってだだだだだだ!!!!』
『ッチ! クソが! ……おいコラ紫髪! テメェ、んな大口叩けんならまだ走れんな!』
『一杯鍛えて早く追い付けってオボアァ!?』
『黙れボケッ!』
あの日、二人に掛けられた言葉は。
『僕らは待たないよ。君が僕らを目標にするんなら、僕らはより一層、前に進み続ける』
『僕らとか一緒にすんじゃねえ。先頭は俺だ! ……まあテメエらは精々二番争い頑張れや』
『心操君、僕らは君よりもずっと強い。それは事実だ。簡単に追い付けるなんて言わない……だからずっと、ずっと先で────』
あの日、二人の
「……ずっと先で! 待ってるぞ! ずっと!」
心操はそれだけを叫んで雪をかき走り出す。そしてすぐに前に進んでいた二人に追い付いた。
「どーだった? 人使君」
「あ? テメェクマお前なんつー顔しとんだ。キメェ」
心操は笑いながら目に涙を浮かべていた。その涙を雪まみれの手で乱雑に拭って、笑う。
「……ッス……んや、俺が……俺も……ちょっとは、前に進めてんだなって、さ」
心操の感極まったその言葉を聞いて、爆豪は「ハッ!」と天に向けて鼻を鳴らした。緑谷も口元に手を当ててクスリと笑いを溢す。
「あ? ったりめーだろがんなもん。進んでねえと思ってたんか? アホだな」
「そうだよ。人使君メチャクチャ頑張ってここまで来たんだから。進むに決まってる!」
「まだ俺らとは二倍差あるけどな」
「またそういう事言う!」
二人のやり取りを笑いながら眺める心操の腰を誰かがトントンと叩く。見ると緑谷の荷物から
「………………俺、明に食べ物恵んでもらうとか初めてだ」
「人使君とも付き合い長いからね。きっと成長を喜んでくれてるんだよ」
「だったら外出て何か言えよ」
貰ったチョコレート(個別包装のやつではなく剥き身のをそのまま渡された)を口に放り込み、苦味と甘味を口の中で転がした心操はズボズボと雪を踏みつつ、ぐいっ、と大きく伸びをしながら一言、言った。
「あー……あぁ、っと! ……はぁ……強くなりてえなぁ……!」
「んな事言ってねえではよ強くなれ」
「僕らはずっと待ってるよ。ずっとね」
緑谷と爆豪の言葉に心操は笑いつつ、歩調を上げて先頭に立つ事で答えた。即座に爆豪に後頭部を張り飛ばされ爆豪と緑谷の間に収まった。
「先頭が良いなら言葉でそう言えよ」
「うるせえ」
……因みにあまりにも他二人とは地力が違う心操は五分もしない内に緑谷に抜き返され、その状態から幾度と無く繰り返される襲撃によって森の端に到達する頃には血塗れで緑谷と爆豪の二人に支えられていた。
爆豪と緑谷はボロボロの心操を森の端に待機していたプッシーキャッツの一人である虎に任せた後、復路を全力疾走し、往路の三分の一の時間で踏破した。尚全力で走る緑谷の背中でメタクソに揺られまくった発目はその日中ずっと機嫌が悪かった。
宿泊施設。建物内。
「電気ショックはヤメロオオオオオオオッッッッ!!!!!!!! ……あ、あれ?」
切島が目を覚ますと、そこは知らない部屋であった。ここはどこだ? と辺りを見回す切島に、部屋に入ってきたマリーが声をかける。
「あら切島君、今起きたの?」
「ヒィッ!? 電気ショックは勘弁っ……」
「あはは、しないしない! ご飯は食べられそう? 今持ってくるわね」
「あ、はいお願いしまス……」
切島が自分の寝ていたベッドの横にある窓から外を見ると、外はもう完全に暗くなっていた。切島が中間ポイントに着いた時はまだ昼を回っていなかったので、少なくとも七時間近く気を失っていたのだろう。そして壁際にあるちょっとした小さな薬品棚から見てここは救護室か何かか。
ショックから回復した切島がそこまで考えた時、カーテンで仕切られた横のベッドから「電気ショックは嫌アアアア!!!!」と叫び声が聞こえた。その声を聞いてマリーがひょこりと部屋に入ってくる。
「三奈ちゃん、起きたのね」
「ヒィ!? 電気ショックは止めてください!」
「あはは! しないしない! 今ご飯暖めてるから、すぐ持ってくるわね!」
「へっ? あ、はい……ご丁寧に……うわっ外暗ぁ」
切島は芦戸の腕を見る。芦戸の腕には大きなギプスが付けられており、ついでに自分の手にも包帯がグルグルと巻かれていた。切島は芦戸にどこまで覚えているかを聞く。
「どこまで、って……心操達見送って、それで……あれぇ?」
「やっぱそこまでしか覚えてねえのか?」
二人して首を捻っていると、ドアが開いて昨日もお世話になった老婆……リカバリーガールが入ってきた。
「おや、確かに起きてるね。あと何時間かは寝てると思ったんだけどね……」
「あ、リカバリーガール!」
「リカバリーガール! この腕治してくださいよォ」
地味な痛みに顔をしかめながらヒラヒラギプスを振る芦戸の頭にゴツンと強めに杖を乗せるリカバリーガール。
「馬鹿言うんじゃないよ! そんな気絶するまで消耗した状態で治癒なんかしたらアンタ死ぬよ! まずは飯を食べな! そんであと最低一日はゆっくりして、治癒はそっからさね……全く、アンタ達はあの体力馬鹿達と付き合いすぎて感覚がおかしくなってるんじゃないかい?」
そう言ったリカバリーガールは窓の外を指差す。窓に近い切島はベッドから身を乗り出して窓の外を眺め……「うげっ」と小さく呻いた。
「……? 切島、どしたの?」
「爆豪と緑谷が……戦ってる」
「嘘でしょ!?」
「アタシらが気絶したアンタ達の治療をしてからここまで運んでくる間にアイツらはこの森往復してそのまま飯食ってすぐ戦い始めたんだよ。もうかれこれ……水分補給だトイレだで細かく休憩しながら、八時間ぶっ通しでね」
八時間。その言葉を若干理解できずにいる二人の耳に、部屋の一番端から「電気ショックは嫌だアアアアア!!!!」という声が聞こえた。隣に居たリカバリーガールが本気で驚いた口調で「もう起きたのかい!?」と叫ぶ。
「あら人使君、おはよ」
「うおわぁ!? 電気ショックは止めてくれ!」
「あはは! しないわよ! 人使君もご飯食べるわよね? 今持ってくるわ。はい切島君、三奈ちゃんも。起きられる?」
ベッドの上に座り、マリーが持ってきてくれた柔らかく煮込まれた食事を食べる。切島達が横目で心操を見ると、顔も身体も肌色が見えないほどに包帯を巻かれていた。しかし心操はそれに動揺もせず、マリーが持ってきてくれた食事をうまそうに食べていた。その姿からは心操がこういう事態に慣れきっている事が伺えた。
「……なあ心操、お前ら、ずっとこんな事してたのか?」
切島が恐る恐る聞いたその言葉に心操はあっさりと頷く。
「ん? まあな。出久や勝己なんかは小学校入る前からやってたってさ。俺は十一の時からだけど」
「マジか……あー、クソ! 通りで馬鹿みてえに強え訳だ……」
「うん……強いのは分かってたけど、ここまで差があるなんて思ってなかった。緑谷達まだ訓練してるし」
芦戸のその言葉を聞いた心操は目を剥いて驚く。
「ハァッ!? 嘘だろ……!? こうしちゃいらんねぇ」
つい先程まで味わって食べていた料理を水でも飲むかのように掻き込んだ心操はそのままベッドから出て歩き始める。
「ちょっ!? おい心操! お前どこ行くんだよ!?」
「決まってんだろ、訓練だ」
「止めな! アンタ今の自分の身体の事分かってんのかい!」
「リカバリーガール……けど俺は、もっと強くなりたいんですッウウウウオウウウッ!?」
心操がキメ顔でそう言ったのと同時に、あろう事か火の付いたタバコを咥えて救護室にコッソリ入ってきたシュタインがその長い脚で心操の股座を思いっきり蹴り上げた。人の心も男の心もまるで無いその非情な一撃に心操は即撃チン……撃沈した。
「きゅう」
「この一撃も避けられないなら、訓練したって死ぬだけだよ」
白衣を脱いでツギハギの黒セータースタイルとなったシュタインは股間への強烈すぎる一撃で昏倒した心操の腰を蹴りながらそう言い捨てる。リカバリーガールは念のために心操の心操君が潰れていないかを確認しつつ「アンタはまた無茶な止めかたを……」と説教している。
「やれやれ、人使には自分の体調も把握させないといけませんね……ところで二人とも、今日の訓練はどうだった?」
ちら、と。
眼鏡の奥から向けられる表情に射竦められ、ビクリと二人の身体が震える。しかしそれでも目は逸らさず……同じ思いを代表して、切島が答えた。
「……俺、弱いっす」
そこで一瞬詰まった切島だが、シュタインが続きを促す前に更に声を張って言葉を続ける。
「俺、メチャクチャ弱くて、硬いのが俺の取り柄なのに、いっぺんだってちゃんと守りきれなかった……俺、自分がこんなに弱いなんてっ、全、然っ、思ってなかったッ!」
それは芦戸も考えた事だった。
片や硬くなるという、地味だが防御においてはとても強い個性。片や酸を出すという、派手で応用も出来る、強い個性。
だが彼等は今回の雪道行軍にて『何も出来なかった』。モービルに乗ったシドやマリー、シュタインは捕捉すら難しく、酸など当て様が無かった。
そしてその速度に乗った重く的確な攻撃は切島の身体を呆気なく弾き飛ばした。
周囲の警戒だって低下した体力では満足に行えず、結局まともに活躍できた場所など一番最後の襲撃くらい。それさえも『自分達はここで終了だから』という現実では……ヒーローの活躍する現場ではあり得ない判断の下で無理矢理に行ったもの。その代償は今現在も二人の腕を痛めている。
防げない盾に意味など有るものか。
敵に切っ先を向けることすらできない矛に意味など……価値など、有るものか。
無力。あまりにも、無力。それが今の二人の自己評価であった。
その無力は只の経験と、訓練の密度の差。そんな単純な問題だが、単純ゆえに簡単な解決法などそこには無かった。そこには厳然とした、圧倒的な壁があるだけだった。
だからこそ、切島は。だからこそ、芦戸は。
「……────強く、なりてえ……っ!」
「……うん、強く、なりたい……!」
頭の中で繰り返される思い。
ヒーローになりたいだとか、誰かを助けたいだとか、そんな、簡単な綺麗事ではない。二人の中学生の、生の感情。
「俺は……意味ねえんだ! 守られちゃあ、意味ねえんだよ! 俺は……! 俺は……! …………置いていかれたく、ねえ……!」
切島のその言葉に、芦戸の頬から涙が溢れ落ちる。
行軍では気を張っていて思い浮かびもしなかった思い。行軍が終わった後、あの三人の背中を見て痛い程に感じた感情。それが今、ボロボロと二人の胸中に溢れ返っていた。
「うん……っ……うん……っ! ……ずっと先が見えたの……! 私たちよりずっと先を歩いてるのが見えた……! 追い付きたいよ……! 私も、あの場所に……! 心操がっ、『待ってる』って、言ってくれた所に、立ちたい……!」
それは、心操の思いと、奇しくも……否。彼等に限らず、同じ道を歩むものならば、誰だって感じる思い。
「並びたいよ……守られてたくなんてない……!」
「っ……一緒に戦いてぇ! ……俺は……俺は……っ! アイツらと、一緒に……!」
ボロボロと、溢れる涙を必死に止めようとする二人の頭をシュタインがやや乱暴に撫でる。
「それだけ言えれば十分だ……言われたんでしょう? 『待ってる』って」
顔を涙でメチャクチャにしながら、二人は頷いた。シュタインはニコリと笑い、もう一度ワシワシ二人の髪をかき混ぜる。
「正直、めんどくさかったりもするけど……どうも俺は君達の先生らしいからねぇ……壁の越え方、回り道のしかた、無い道を作る方法……教えます。導きます。何とかします……だから、二人とも……これからは今までよりもずっと頑張りましょう♪」
笑顔でそう言ったシュタインの言葉に、二人はガクガクと首を縦に振る。
「……ッグズ、ヴぁい……シュタイン……
「ッ、ズズッ、お願い、しばす……」
「よろしい! じゃあまずはもう一度寝ること。寝て、体力を回復して、傷を治してから……これからは平日だろうが修行浸けです。残り一年で、どこまで強くなれますかねェ」
この日、無免ヒーローの日常に正式にこの二人が加わった。この二人がこの先の一年を通じてどれ程に変化するかは……まだ誰にも、分からない。
「……シュタイン、アンタやっぱり教師に向いてるよ」
「タバコ吸えないんでパスですねェ」
心操は主人公じゃないです。
これでついに無免が四人戦隊になりましたね。発目カウントに入ってたろって?なははは。
何度かに分けてやろうとしていた芦戸と心操の決意シーンを一話でやっちまったので次回も地獄の修行編かはまだ分かりません。更新した時のお楽しみで。
書かないのでこの場所に置いておく一周年記念短編案
①大変だ!明ちゃんが個性暴走に巻き込まれて僕の名前しか言えなくなった!
壊れた発目「出久さん出久さん!」
緑谷「うん、今日のご飯はハンバーグだよ」
壊れた発目「出久さん出久さん出久さん!」
緑谷「ハイハイ、明ちゃんのは多めにしとくからね」
ぶっ壊れた発目「出久さん……出久さぁん!」
緑谷「うん、僕もだよ」
切島「……何で言ってる事わかんだ?」
緑谷「え、身ぶり手振りとイントネーションで……」
切島「そんなピカチュウとサトシみたいな……」
②ハーレムルートイフ
発目「出久さん出久さん!このサポートアイテムどう思います!?ここの機構なんですけど内部構造の計算に第二逆反射マクトラーバの三点間干渉波形式を採用して波長の浸透率を上げてましてああ勿論試作品は完成してますよ!今からすぐに使えます!どうですか出久さん!」
トガ「イズくんイズくん!今日もいっぱい修行したねえいっぱい殴られてたねぇ!イズくん今日はどこケガしたの?イズくんケガしたところ教えて?ねえイズくん腕から血、出てるよ?イズくんチウチウしていい?いいよね?ねえイズくんイズくん?ねえ聞いてるイズくん……チウ……」
緑谷「んー、二人とも今日のご飯何がいい?」
発目「魚が良いです!煮付け!」
トガ「お肉です!したたるお肉!」
心操「……地獄だ」
いや、両方書きませんけどね?