無免ヒーローの日常   作:新梁

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申し訳ない……一万文字じゃ収まらなかった……中学二年生編もう一話続きます……けど最近原作が近づいてきてモチベーション上がってるのでそんなにお待たせしないと思います。

今回のあらすじ

たまにはいつもと違う組み合わせで。

和泉由希さん、リア10爆発46さん、誤字報告ありがとうございます。

切島を霧島と変換してしまう癖が治らない!



第二十二話。三月中旬、過去と覚悟と頼雄斗。

 折寺と結田府の市境。日曜。

 

 

 

「んーんんー♪ ミラクルミラクルー♪ …………おっ」

 

 シュタインがとある大事な用事で珍しく訓練が無かったその日、お気に入りのアーティストの新譜が発売されて上機嫌に街を歩いていた芦戸は通りすがった公園の中から女の子の泣き声が聞こえてくるのを察知した。

 

 芦戸は反射的に足の向きを変えて公園の中に入り、キョロキョロとその声の主を探すと、自分が入ってきたのとは反対側の入口で見知った顔を発見した。

 

「ありゃ、爆豪じゃん……」

 

 公園の隅に居たジャージ姿の爆豪は手をオイルまみれにしながら小さなピンク色の自転車をガチャガチャといじっており、その横のベンチには顔をくちゃくちゃにして泣いている小さな女の子と、その隣で気まずげな、罪悪感のある表情を顔に貼り付けた二人の男の子が座っていた。

 

 作業が終わったらしい爆豪はオイルまみれの手を水場で洗い、その際に首にかけていたタオルを濡らしてピンク色の自転車についた泥汚れをキレイに拭った。

 

「…………おらよ、直ったぞ」

「……ッグス、ヒクッ……」

「っあ゛──っ!! いっっつまで泣いとんだコラ! 直してやったんだから泣くな!」

 

 乱暴にそう言いながらも女の子の手を軽く引いて立たせ、自転車のハンドルを握らせる。

 

「グズっ、ばくごぉ……」

「乗ってみろ。もう動くようになってっから」

 

 そう言って少女の背中を押した爆豪。自転車は不調も無くスイスイと進み、少女は公園を一周してから爆豪の所に戻ってきた。

 

「……ほれ、動くだろ」

「うん、ありがとうバクゴー!」

 

 にぱ、と涙に濡れた顔で笑顔を見せた少女を見て鼻を鳴らした爆豪は、ベンチに近付いて少年二人を少女の前に引きずり出した。

 

「……ほれ」

「……え、バクゴー?」

「あ、や、まれ! っつってんだこのアホ!」

 

 爆豪に後頭部を掴まれ地面と平行になるまで頭を下げさせられた二人の少年は、その体勢のまま思い出したように「ごめんなさい!」と口々に言った。どうやら少女の自転車を故障させたのは彼ららしかった。

 

 

 

 少年二人を寛大にも許してあげた少女が二人と共に公園を遊び回り始めたのをベンチに座って眺めている爆豪の頬に後ろから缶コーヒーが当てられる。爆豪は舌打ちをしてそれをひったくった。

 

「ブラック飲めたよね?」

「余計なお世話なんだよアホ」

「ひっど! コーヒー返せ!」

 

 やいのやいのとわめきながら二人は並んで座ってチビチビとコーヒーを飲む。やがて芦戸はポツリと「けどちょっと意外」と呟いた。

 

「あ? 何がだよ」

「んー、子供にああやって接してる事が? ……ほら爆豪ってああいうの見ても『弱えからだバーカ!』みたいな反応するかなって。けど実際は慰めて、壊れた自転車直してあげて、んで男の子達に頭下げさせて……ってのが、意外だった」

「お前は俺を何だと思ってんだ」

「不良学生」

「よし立てぶちのめしたら」

 

 そうは言った爆豪であるが、実際は自分も身体を起こさずに、ベンチにより深く座り込んでコーヒーを飲み干した。

 

「……昔、デクに殴られたんだよ」

「緑谷に?」

「……昔、デクを殴んのは俺にとっちゃ当たり前だった」

 

 その一言で芦戸は察した。昔緑谷と爆豪はイジメが間にある関係だったのだ。

 

「……無個性で取り柄も何も無い雑魚の木偶の坊。だからあいつの渾名はデク。アイツは周りにいた奴ら全員に馬鹿にされてた……その筆頭は俺で、率先してアイツを殴って、蹴った」

 

 爆豪は決してイジメという言葉を使わなかった。自分が緑谷に対して何をしたのか、全てを克明に記憶しているようでその口からは次々にオブラートに包まない子供の無邪気な悪意の産物がこぼれ出てくる。

 

「……嫌な子供だったんだね」

 

 芦戸の言葉には何も反応を返さず、爆豪は「デクは毎回反抗して来たが、その度に叩き潰した」と続ける。

 

「……歯止めが効かなくなってた。俺はデク以外にも手ェ出したんだ……そん時に、俺は……生まれて初めて……他人に思い切りぶん殴られた」

 

 それまでは抵抗しても叩き潰せる程度でしかなかった緑谷のその拳に爆豪は反応すらできずに吹き飛ばされたのだ。

 

 後から知った事だが、その頃には緑谷はシュタインの元で一年間の修行を終えており能力的には爆豪を超えていた。しかしそれまでは爆豪への恐怖でうまく身体を動かせなかった。しかし、爆豪が他人に拳を振るっている姿を見て緑谷の義憤が爆発したのだ。

 

「俺と……あと二人。その三人相手にデクは戦った。最後にゃデクと二人が倒れて俺だけが立ってた……ケンカに勝ってあんな感覚になったのぁ……初めてだった」

「それ勝ったって言えるの?」

「言える訳ねえだろ。言える訳ねえ……けどデクが『負けた』つってんだ。あのケンカ、デクが自分の負けだって言ったんなら……なら、俺は誰に何言われても勝ったって言い続けなきゃなんねえんだよ」

 

 勝利は、勝者の物。爆豪はそう考える。だからあの時の緑谷が勝利を自分に『譲る』と言うならば……自分がどれほど納得できていなかろうと、爆豪はその勝利を受け取らねばならないと、そう思い、そして行動している。だから爆豪はこれまで緑谷に対して『一度も負けた事が無い』。彼は高らかに、そう宣言し続ける。

 

 例えそれが、どれほど自身の高いプライドに深い傷を刻む事になろうとも、である。

 

「……そんな事があったんだね」

「……俺があのガキ共に口出ししたのぁただ俺がそうしたかったからだ……謝れねえアイツ等見てっと、昔のクソだった自分を思い出してイラつくんだよ」

 

 そうは言うが、爆豪が実際に思い出しているのはその時の緑谷なのではないだろうか。芦戸は特に根拠も無くそう思った。

 

 爆豪の苦々しくも思うところ有りげなその表情を見るとそう思えてならなかった。

 

「ふぅん……ねえ、もっと聞かせてよ。爆豪達の事さ」

「帰る。じゃあな」

「ええ!? 今のはここから過去編に入る流れじゃないの!?」

「るっせえな! 俺ぁ長ぇ話が電気系個性の次に嫌いなンだよ!」

「えぇ!? じゃあ何で今の話したの!?」

 

 芦戸に背を向けて公園を去ろうとしていた爆豪は、首だけで振り返って面倒くさそうに口を開く。

 

「……俺は。さっきの話は……あの日の、クソ以下だった俺の話だけは……機会があれば、誰にだっていくらだって話す。そんだけだ……じゃな」

 

 コーヒーの空き缶をプラプラと振って爆豪は公園を出ていく。芦戸はそれを見送ってから、両脚の間に手を挟んで、冬特有の薄水色の空を見上げる。

 

「っあぁ……」

 

 ぐいっ、と背を伸ばして芦戸は考える。もしも自分と爆豪が同じ立場だとしたら。

 

 自分の負けを勝ちにされて、それを粛々と受け止めることが自分にできるだろうか。

 

 自分の一番話したくないであろう、一番触れられたくない黒歴史。それも他人に暴力を振るっていた、許されることの無い記憶……それを自分から誰にでも話すなんて、そんな事が自分にできるだろうか。

 

 芦戸にはどうしても、自信を持って頷く事が出来そうになかった。

 

「……みんな、みーんな…………カッコいいなぁ……」

 

 それまで自分を圧倒してきた、強いいじめっ子への恐怖の心を義憤でもって乗り越えた緑谷(ヒーロー)

 

 昔の、十年も前の自分の幼い過ちを本気で悔い、そして恐らく十年ずっと、そしてこれから先も一生ずっとその過ちを己のやり方で償い続ける覚悟を持つ爆豪(ヒーロー)

 

「…………あたしもなー……なんなきゃなぁ……カッコよく」

 

 そう呟く芦戸の足下にツテン、ツテン、と独特の音を鳴らしながらゴムボールが転がってくる。

 

 それを拾って少し向こうに居る先程の少女らに投げ返そう……として、ニマリと笑った芦戸はボールを天高くに放り投げ、それを額や後頭部、膝や腿、足の裏まで使いダイナミックにピョンピョンと飛び跳ねながらリフティングを始めた。

 

 おお! と色めき立って自分の周りに寄ってくる子供達の視線を浴びながら、芦戸は最近になってようやく心操や切島と組手をする時に使えるようになってきたカポエイラの動きまで織り交ぜてギュルンギュルンと独楽のように回りつつその上でボールを転がす。

 

 そして最後に体全体のバネを使って高くボールを飛ばし、自分の頭頂部に落ちてきたボールを受け止めてピシッ、とポーズを取った。周りの子供達が一斉に拍手をする。

 

「おねーちゃんすごーい!」

「ねえ、今のどうやんの!?」

「オレにもできる!?」

「ンなっはっは、じゃあ簡単なのから皆でやってみようか! ね!」

 

 芦戸は子供達に簡単なリフティングを丁寧に教えながら、芦戸は心の中にチロリと燻る焦燥の火を丁寧に心の奥へしまい込んだ。

 

 心の他の部分に焦燥が燃え移らないように。しかし、決して火が消えないように。

 

「上手くできないよ……どうやったらお姉ちゃんみたいにできる?」

「んー? んー……諦めなきゃ、そのうち出来る……って、私はそう信じてるかなー……なんてねっ」

「……? 変なのー」

「あはははっ! 確かに!」

 

 この焦りはきっと大切なものなのだから。

 

 

 

 ツギハギ研究所。多少静かめ。

 

 

 

「……なあ発目」

「……なんです」

 

 ここは研究所にある切島の自室。切島は自分の目の前に吊るされている『物体』を見た。

 

「これ何?」

「切島さんのサンドバックです」

「うーん、コレがサンドバックかぁ!」

 

 切島は目の前のサンドバックと発目が呼んだ物体を殴る。ガヅンッ! と硬質な音が室内に響く。

 

 それもその筈。切島が殴ったのは革に包まれた一般的サンドバックとは違い……というか一般的もクソもない、ぶっとい鉄の鎖で縛られた鉄筋コンクリートの柱である。

 

「……念の為に聞くんだけどさ……発目の知識では鉄筋コンクリートの事をサンドバックって言うのか?」

「言う訳無いでしょ馬鹿じゃないんですか? ぶち殺しますよ」

「……〜〜っ不機嫌んん〜〜……!」

 

 何時もは感情の把握がしにくい発目が分かりやすく不機嫌になっているのを横目で見ながら切島が頭を抱える。発目が不機嫌な原因は分かっているのだが、分かっているが故に切島にはどうしようも無かった。

 

「あと例のセントリーガンも二台設置しますね。とりあえずセントリーガンの銃弾を受けながらこの鉄コンからコンクリートを全部剥がして見てください……だそうです。この置き手紙によると」

「……うっす」

 

 そう。今日はこの研究所には発目と切島以外に誰も。シュタインも緑谷も心操も爆豪も芦戸も、誰もいないのだ。発目の機嫌が最悪なのはいつも一緒に居る緑谷が自分を置いてシュタインと出かけてしまったからだ。

 

「はいじゃあよーいスタート」

「オッ!? ……っしゃ、いっちょやるか!」

 

 スタートの音と同時に発射された銃弾を瞬間的に硬化したケツで受け止めてから切島は勢いを付けてコンクリートを殴る。最初は多少表面が欠けるだけだったコンクリートも、鎖で吊るされた状態で拳を受けるにつれてどんどん揺れ動き始め、切島にかかる衝撃の強さや拳を動かすスピードもそれにつれて変わっていく。

 

 左右に置かれたセントリーガンにも気を配りつつガヅンガヅンとコンクリートを拳で掘り進めながら、切島は一つ気になっている事を発目に告げた。

 

「っ、フンッ! 、なぁっ! 発目っ!」

「なんですかー?」

「……っ! フッ! 何でっ! 俺だけっ! ッハッ! 苗字呼びッ! なんだ!?」

 

 そう。緑谷は出久さん。爆豪は勝己さん。心操は人使さん。芦戸は三奈さん。切島は切島さん。自分だけ呼び方が違うのを切島は微妙に気にしていた。

 

「……確かにそうですね。気にした事無かったです」

「理由がっ! あるわけじゃっ! 無いの……ンなっ!」

「そーですね。特には。じゃあ私の事も名前で読んで下さい」

「アイヨッ! 明ッ!」

 

 切島が発目の名前を呼ぶと発目は若干くすぐったそうに頭を掻いてから軽く頷いた。

 

「んん……じゃあ私も鋭児郎って呼びますね」

「よっし! っらっ! へへっ、前から呼び方はっ! 気になってて……うん? ちょ、ちょい待っオボルアッ!?」

 

 発目の発言で一つ気になった点があった切島は拳を止めてしまい、勢いのついたコンクリに思い切りぶっ飛ばされて壁に叩きつけられた。壁にヒビを入れてクラクラ頭上に星を飛ばしている切島に発目が近付く。

 

「……何してるんですか? 生きてます?」

「…………全員さん付けなのに何で俺は呼び捨て?」

 

 切島の疑問に首を傾げた発目は、しばらく考え込んでから「……印象の差ですかね」と言った。

 

「印象!? 印象の差って何!? 俺とアイツ等でどこが違うんだよ!?」

「え…………扱いですかね?」

「俺にどうしろって!」

「良いじゃないですか鋭児郎。そんなに自分の名前嫌いなんですか?」

「違えよ! もう話が何から何まで噛み合ってねえ! 何で俺いっつもこんなポジション!?」

 

 あと一年ちょいで出会う事になるどこかのテイルマン(尾白猿夫)が地味人間の星に産まれついてしまったように、切島は扱いが悪い人間の星に産まれついてしまったのだろう。しかし今この場にはそんな風にとどめを刺してくれるような心操君はいない。居るのは人としての何かを致命的に間違えてしまった美少女だけである。

 

「ところで硬化しなくて良いんですか?」

「えっ? アッハァ゛ン゛ッ゛!!!!」

 

 コンクリにぶっ飛ばされてセントリーガンに体の正面を晒していた切島の鋭ちゃんにキレイに突き刺さる弾丸。直前で硬化には成功したようでカァン! と銃弾を弾き返すが、衝撃は伝わったらしく切島がそのまま音を立てて崩れ落ちる。その様はまるで手折られた一輪の儚い野花のごと…………いややっぱ普通に面白いわ。ごめん切島。

 

 しかし、それを見ていた発目の印象は違ったようで、数度右に左に首を傾げてからセントリーガンのスイッチをオフにし、切島の頭をベシベシと叩いた。

 

「すみませんちょっと、聞こえてますか? 鋭児郎」

「……叩くなら腰にして……!」

 

 発目は邪魔なゴミ袋でも蹴るかのような動作でボスボス切島の腰に蹴りを入れながら「何で今のが痛いんですか?」と聞いた。

 

「何でって……」

「ちゃんとちんちん硬化してたじゃないですか。硬化してたら痛くないんじゃないんですか?」

「女の子がちんちん言うな! ……でも、言われてみりゃ確かにな……何でだ? 錯覚とか気のせいじゃなかったぞ今の痛みは」

 

 つうか今も痛いし……と鋭ちゃんを押さえる切島を見て発目が一歩引く。

 

「女子の前でそんな大っぴらに股間触らないでくださいよ。これだから鋭児郎はまったく鋭児郎……」

「……うんあの、マジで俺が悪かったから呼び捨てやめて元の切島さんに戻してくんねえかな。俺も戻すから……あの、なんかもう、つらい」

 

 発目は「はいはーい」と呟いて再びポクポクと思考タイムに入る。切島は若干泣きながらそれを見ていたが、研究所一階でチャイム音がしたためそちらの対応に向かった。

 

「はいはーい……この研究所はテレビ受信できないですよーっ……と? 引子おばさん?」

「あらぁ、切島君も居たのね! ちょっと多めに持って来といて良かった!」

 

 そこには緑谷の母、引子が風呂敷に包んだ大きな重箱を持って立っていた。

 

 引子は駆け寄ってきた切島に重箱を手渡した。そこから漂ってくる食欲をそそる香りに、切島の表情が一気に明るくなる。

 

「あ! もしかしてメシっすか!?」

「そうそうそうなのよ! 出久がねぇ、明ちゃんのご飯作ってあげてって言うから! 一人だと絶対食べないからって! 多めに三人分くらい作ったから切島君も食べてね!」

「うわ、スゲーありがてえっす! 腹減ってたんすよ! あ、どぞどそ! 上がってください!」

 

 引子を食堂に上がらせた切島はウキウキとした感じでテーブルを拭いてそこに重箱を並べ、電子ケトルに水を入れて湯を沸かし、その間に急須を取り出し戸棚から出した茶葉を入れる。

 

「切島君、手慣れてるのねぇ……」

「ハハ……この研究所じゃ俺と芦戸が一番下っ端なんで……こういうの率先してやるタイプな緑谷は基本的に飯作ってるし」

 

 雑用は慣れてるんス等と言いつつ勝手知ったる食堂を行き来して小皿やらコップやらを出す切島。するとそこに勢い良く発目がモンキーレンチ片手に突入してきた。

 

「切島さんっ!! ありゃ、お義母さん! ご飯ですか!?」

「そーよー。一緒に食べましょ?」

「はい! …………あ、切島さん、ちょっといいですか?」

「え、なに?」

 

 色々細々とした雑用をしていた切島は発目に向き直る。発目は腰に手を当てて、「硬化してください!」と言う。

 

「硬化? ……ほい」

「硬化しました? それで完璧ですか?」

 

 硬化してゴツゴツになった切島に「硬化解かないでくださいねー」と言いつつレンチを持っていない側の手でコンコンと身体を叩いた発目。切島は不思議なものを見る顔をしている。

 

 硬くなった身体を触って「ふむふむ」等と頷きつつ肩や頬を叩いた後、発目はなんの前触れもなく切島の鋭ちゃんをモンキーレンチでぶん殴った。切島は不思議そうな表情のまま後ろにバタンと倒れ込む。

 

「何してんの!?」

 

 硬化した体勢のまま後ろに倒れた切島を見て引子が叫ぶが、発目は我関せずの態度で切島を見下ろす。

 

「どうです? 切島さん」

「なきそう」

 

 というか泣いていた。発目の不機嫌を一人で受け止めた結果がこれだ。緑谷を尊敬する気持ちになるが、好きでやってる緑谷(この言い方も語弊がある気がするが)と違い、切島は別に発目を好きでもなんでもない……だが、しばらくしてから切島も自身の違和感に気付いた。

 

「……アレ、けど痛くねえ」

「やっぱりそうですか! なるほどっ!」

 

 まあ食べながら話しますよ! と切島を放って席につく発目。切島は溢れ出る悲しみを抑えつつ起き上がって背中のホコリを払った。そのまま席について頂きますを言ってから発目の講釈が始まる。

 

「はむっ、はぐふぐ、んく、はぶっ、んぐもっ、んいしいです!」

「……あのー、発目さん?」

「後にしてください」

「はいスイマセン」

 

 始まらなかった。

 

 

 

 昼食後。

 

 

 

 引子が「せっかくだし研究所の掃除しておくわね」と言って食堂の外に出ていった後、食堂備え付けのホワイトボードに発目が『硬化』と大きく書いた。

 

「切島さん、ご自分のその個性、硬化なんですけど……どんな個性だと認識してますか?」

「え? いや普通に身体が硬くなる……じゃねえの?」

「半分正解ですね!」

 

 発目はそう言ってホワイトボードに書かれた硬化の下に『身体が硬くなる』と書いた。

 

「では次ですけど、さっき切島さんのちんちんを攻撃した時、二回とも硬化はしてましたよね? 何で一回目は痛かったんでしょう?」

 

 発目が臆面なくちんちんだのと言うので若干動揺した切島だったが、それでもキチンと考えて答えを出す。

 

「…………時間かけて硬化した……から?」

「その通り! 『筋肉や内臓まで硬化したから』!」

「いや言ってねえけど!? …………けど確かに、なるほどな……だから硬化を強めると身体中から軋む音が聞こえるのか」

 

 切島はウンウンと頷く。

 

 無免達との訓練により手に入れた切島の個性強化形態、『安無嶺過武瑠(アンブレイカブル)モード』において彼の身体からはゴリゴリと軋む音が鳴るのだ。ちなみにこのモード名は全方面から「……本人が良いなら……うん……いいんじゃない……?」という素晴らしい評価を得た切島鋭児郎渾身の傑作である。

 

「そですね。多分筋繊維が硬化して動く度に繊維同士が擦れるんでしょう。つまりあのアンなんとかモードは『外がすごい硬いついでに中まで硬い』モードなんですね……てなわけで、とりあえず切島さんの個性には二種類……いえ、『二段階』あるんですよ」

 

 そう言って発目は硬化の文字から二本線を引き、それぞれの端に『外硬化』『内硬化』と書いた。

 

「ふぅん、ぜんっぜん気付かなかったな……けどこれって意味あんのか? 要するに芋が外から茹で上がってくみたいなもんで、どうしようもねえんじゃ?」

「そんなの私が知るわけないじゃないですか。そこはできるかどうか訓練して下さい……けどこれ、使いこなせれば戦闘スタイルにもかなり幅が出ると思いますよ?」

 

 発目は外硬化、内硬化の間に『アンブレ』と書き加える。

 

「多分ですけど切島さんは外硬化と同時に多少ですけど内硬化もしてるんです。ただ体の表面を固くしたからって打撃の衝撃も伝わらなくなるのは不自然ですし。格闘技とかでも防具の上から殴られたら息詰まりますからね普通に」

 

 つらつらと切島の個性に関する持論を並び立てながら発目はホワイトボードに自説を書き記していく。一切の淀み無く動く手に、切島は久々に発目が天才であるという事を思い出していた。そんな間にも発目はどんどんヒートアップしていく。

 

「硬化というのも正確ではありませんよねえ、特に内臓や筋肉なんて柔らかくてナンボなんですし特に心臓や横隔膜や血管が硬くなったら切島さん死にますし……そう考えるとちんちんまでちゃんと硬化してたのは幸いでしたね。あれが予想通りじゃなければちんちん壊れてたかも。まあ無事だったし、よしとしましょう。まあ内硬化に関しては硬化というよりも強化の方が実情に合っていそうですね。あっところで防弾ガラスの仕組みって知ってますか? 知ってますよね! 一応説明しておくとアレってガラスとプラスチックとかビニールとかの積層構造になってて銃弾の衝撃を硬いガラスで受け止めてから柔らかいプラスチックでその衝撃を全体に拡散するんですよ! だから防弾ガラスに銃弾を打ち込んでも跳弾しないんです! というわけでおそらくですけど切島さんの体でも似たような事が起こってるんじゃないですかね! 体表で受け止めた衝撃を衝撃吸収に特化する形に変化した体内で吸収するんですよきっと! けどこんなご大層な衝撃拡散機能なんてそんなにそんなに使わない訳じゃないですか! 何より動きが遅くなるし! ですから私は普段の行動には外硬化のみを使用して体内の強化はせずに、言わば鎧を着る形で動いていざという時には内強化を併用して大きな衝撃を受け止めるなんてどうでしょう! というかやれるなら普段は内強化を主に使った方が切ったりなんだり余計な怪我が減るかもしれませんね! ねえどう思いますか出久さっ」

 

 もはや切島を完全に置き去りにして物凄い勢いで口と手を動かしていた発目がガキリ、と固まり、ゆっくりと周囲を見回す。

 

 勿論、緑谷は居ない。発目の瞳から急速に熱気が抜けていった。

 

「……は、発目さん?」

「……眠いんで寝ます。出久さんが帰ってきたら起こしてくださいおやすみなさい」

 

 そう言って食堂の椅子に体育座りをして、立てた膝にデコをくっつけるようにしてスヤスヤ眠り始める発目。切島はズッコケたが、発目明という少女にとって緑谷出久がどれほどのウェイトを占めるのかを知っている切島はそれ以上何も言わず、ホワイトボードを板書するためのノートを取りに自室に戻った。

 

「…………っおおおおぉぉう…………色々あって忘れてたぜ…………」

 

 そんな割とできた人間な彼をまるで新婚ホヤホヤの新妻のように甲斐甲斐しく出迎えてくれたのは、鎖で雁字搦めにされて天井から吊るされるコンクリートの塊であった。

 

 当初切島は大分微妙な顔でそれを眺めていたが、やがて部屋の端へと移動し、新しく自室に加わった仲間と周りの家具のバランスを確かめ始める。

 

 壁紙など要らぬとばかりに堂々とコンクリート打ちっぱなしな、無骨な壁と床。切島の家の自室よりも大きな、広さだけはあるその部屋の一面に大きく張り出された燃える炎を背にした『闘魂』の二文字だけが書かれたポスター。

 

 窓際の壁には幾本ものパイプが伸びており、その先はメガホンのように広がっており伝声管となっている。主に緑谷が夕食の招集に使う。

 

 そしてシュタインが研究に使っている薬品の入ったペール缶や鉄の丸棒等が置かれたスペースに申し訳程度に作られた一畳の畳が置かれているそこは、切島の就寝スペースだ。お気に入りの蕎麦殻枕と数枚の毛布は切島が自分で選んで購入し、この研究所に持ってきたもの。隣には空いたトロ箱を利用した切島の衣装棚がある。

 

 そして、そこに今日から入った、今にも鉄の匂いが漂ってきそうな重厚感のある太い鎖と、自分よりも大きなコンクリートの塊……

 

「…………最初は戸惑ったけど……意外とこういうのも……うん……悪くねえかもなっ!」

 

 マジか君。

 

 ウンウンと満足げに頷いた切島は、まるでよろしくなとでも言うようにコンクリートをバシバシと二回叩いた後、畳スペースに置いていた鞄からノートを取り出して食堂に戻っていった。

 

 ……マジか君。

 

 切島が食堂に戻ると、掃除の途中だったらしい箒を持った引子が困った顔をしている。見ると、ふて寝していた発目が椅子に座った状態で引子の腰に手を回してお腹に顔をうずめるようにして抱きついていた。引子は困惑の表情で入ってきた切島に声をかける。

 

「切島君、この子どうしちゃったの?」

「……あー、その、緑谷がいねーのが今んなって効いてきたみたいで……ぶっちゃけふて寝ッス」

 

 あー、と納得の声を出した引子は、ギュウッと腕の力を強めた発目の頭を静かに撫でた。

 

「……ねえ明ちゃん、たまには出久とじゃなくて私と寝る? 布団を日の当たる所に持っていってお昼寝。きっと気持ちいいわよ?」

 

 期せずして緑谷と発目が普段一緒の布団で寝ているという衝撃的だがなんの役にも立たない情報を得てしまった切島は、二人に背を向け何も聞かない振りをしてノートにペンを走らせる。

 

 そして発目は体勢を変えずにコックリと頷く。そして引子と一緒に食堂を出ていった。

 

「……っぶはぁ……」

 

 切島は二人がいなくなったのを確認してから大きく息を吐いて、ガキゴキと肩を鳴らした。

 

「……なーんか……すっげえ疲れた」

 

 写し終わったら俺も寝よう。切島はそう決心した。




緑谷「本気でやって初めて負けた(負けた)」
爆豪「本気でやって初めて勝った(負けた)」

ヒロアカ女子では発目明が好き。ソウルイーター主人公世代ではクロナが好き。そう考えると未来日記では我妻由乃とかめっちゃ好きだったしFGOのナイチンゲールも好みど真ん中だしめだかボックスの江迎怒江とか一時期物凄い勢いでss漁りまくってたしダーリン・イン・ザ・フランキスのゼロツーとかもかなり好きだったし、多分僕はピンク髪のキャラクターが魂の芯から好きなんだと思う。

次回で本当に終わりますっぜったいっ
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