長かったね……長かったね……!
ちょっと泣きそう
今回は章整理とあらすじ変更の為零時投稿ではありません。秋冬編のあらすじは秋冬編一話に付けときます。
春夏編あらすじ
雄英高校受験がついに一年後に迫り、それぞれを取り巻く環境は自然と加速してゆく。
ただ力を求めた少年。力に人生を歪められた少年……そして、力を与えられなかった少年。
少年達は歩みを止めない。ただ、この道の先が見たい。その思いだけを胸に背負って歩き続ける。
「え!?爆豪これ!?うっは、全然変わってねぇ!ハハハハ!」
「アハハハハハ!!!何で爆豪赤ちゃんの頃からふてぶてしいの!?もうちょい可愛げとかさぁ!」
「あ、出久が勝己に泣かされてる……あれ?これも勝己に泣かされてる……あれ!?アレ!?おかしいぞツーショットだと常に出久が勝己に泣かされてる……」
「出久さん出久さん、この写真貰っても良いですか?」
「いやこれかっちゃんのアルバムだし……」
「しかし色んな写真があるなあ……え、これ爆豪の母ちゃん?…………十年前…………え?」
「……お前ら何してんだコラァ……!」
「あ、爆豪帰ってきた!逃げろ!散開!」
「逃がすかアアアアアッ!!!!」
今回のあらすじ
作画カロリー高すぎおじさん(ベタ)
第二十四話。四月上旬、すべてが始まるその日のお話。(前編)
人は
『……何してるんだよかっちゃん……! 泣いてるじゃないかっ!! これ以上は……ッ!!』
『僕が……っ、許さない……!』
『"無個性"のくせに』
『ヒーロー気取りかデク!!』
生まれながらに平等じゃない
『……そうだよ……! 誰かのした悪い事は、誰かが止めなきゃいけないんだ!!!』
これが齢四歳にして知った社会の現実。
そして僕の
「うっわぁ」
「……ッチ、朝っぱらから暴れやがって」
「おおー、近年まれに見る大きさデスネェ」
運命を導いた現実でもある。
「でっけー
無免ヒーローの日常。中学三年生編。
事の始まりは中国軽慶市"発光する赤子"が生まれたというニュースだった以降各地で「超常」は発見され原因も判然としないまま時は流れるいつしか「超常」は「日常」に「
「来るんじゃねえええええ!!!!」
「るせえ馬鹿野郎があああああっ!!!!! 個性使って暴れりゃヒーロー来るに決まってんだろうが馬鹿お前馬鹿お前ほんと馬鹿! バーカ!!!!」
「バカって言うなああああっ!!!」
鉄道の高架に陣取り、個性により巨大化した体躯による圧倒的攻撃範囲で周囲のヒーローを寄せ付けないヴィラン。
そしてこんな修羅場に朝っぱらから呼び出されたデステゴロはもう完全に機嫌がものっそい悪かった。
「デステゴロ!」
「出久ァ! 仕事中に話しかけん……っなっ!」
ヴィランを罵倒(あのレベルの低い悪口を罵倒と言うのかは謎だが)した事によって無差別から自分個人へと攻撃の矛先を集める事に成功したデステゴロは、激高したヴィランの投げ放った鉄柱をその怪力で受け止める。そしてそれを地面に下ろしながら、「カムイイィ!」と叫ぶ。その時にデステゴロに視線を集中させていたヴィランは気が付く。
先程まで自分が近づけまいとさせていたヒーローは、どこに行った? と。
「ッハッ! やーっとお気付きか!? けどなぁっ!!」
「……うむ。今更気付こうと、もう遅い! 先制、否。ここは……『急襲必縛』ッ!!!」
デステゴロが囮をしている隙に高架下へと入った、折寺を中心に活躍する人気ヒーロー……樹木ヒーローシンリンカムイは巨大ヴィランの両足首をそのツタで巻き取って引っ張り、道路に思い切り引きずり降ろした。
「『ウルシ鎖牢』ッ!!」
「ッグアァっ!?」
その勢いと、巨大なヴィランの圧倒的重量が地面と空気を震わせ、観戦していた民衆達が一気に歓声を上げる。しかしそれを遮るかのように、ヴィランが大声で吠えた。
「ッガアアアアッ!!!! フッざけんなっ!!!! この程度で倒したつもりかあああっ!!!」
「はて……」
足元に居たシンリンカムイに向かってヴィランは尻餅をついたまま蹴りを放つが、カムイはそれを軽やかに回避する。
そして……回避した先で、いっそわざとらしい程に大袈裟に首を傾げ、ヴィランに一言、言う。
「この程度で……とは、どの程度だ?」
「ア゛ァ゛っ!?」
まるでヴィランを憐れむかのような態度でカムイは天を指差す。
「私の攻撃……という意味なら先の言葉も分かるが、『我々の攻撃』はまだ終わっていないぞ?」
「…………あ?」
ヴィランがそんな、間抜けな声を上げた直後、カムイが指差した空高く……そこには二人のヒーローが居た。
「おおーい! 岳山ちゃん! 本当に良いんだな!」
「オーライ! ったり前よエアジェット! だって私の初登場なんだもの! ド派手にやらなくちゃでしょうが!」
「……そんなもんかね……じゃーま、快適な空の旅を! おじょーさま!」
そこに浮かんでいたのは箱のような意匠の無骨なヒーロースーツを纏ったスカイヒーローエアジェットと、その腕に抱えられた、流れるような美しい金髪でボディスーツを纏った美女。
「お嬢様じゃないわよ! 私の名前は……」
「はいはい、トドメは任せるぜ、『Mt.レディ』!」
ヒーロー名を呼ばれ、ニコリと笑ったMt.レディ……岳山は、空中で個性を発動し、瞬時に巨大化。
「んーんん、じゃあ即興必殺! 『スカイドロップマウンテン』ッ!!!」
「ッゴオオブオオッ!!!!」
その巨体で民衆にまで届く巨大な影を作り出した岳山はそのまま地面に降り立ち、その瞬間にヴィランよりも大きなその身体で相手の胴体に対し踵落としをする事で完全にヴィランの意識を断ち切った。ちなみに一帯に響き渡ったその技名を聞き、どこぞの元雇い主は「安直だなぁ!?」と一人寂しくツッコミを入れていた。
踵落としで完全にヴィランの意識を断ち切った事を確認した岳山は、その様を観戦していた民衆に向かってニコリと艶のある笑みを浮かべる。
「本日よりデビューとなりました、新人ヒーローの」
「良くやったぁ岳山ァ!」
「いいぞ岳山ァ!」
折寺住民達の岳山コールに若干艶のある笑みが崩れかける岳山。しかし今は大事なデビュー初めての挨拶。岳山はなんとか笑顔を保たせた。
「……っ新人ヒーローのォ……」
「ナイスだ岳山ァ!」
「…………ヒーロー、のォ…………ッ!」
「その衣装はどうかと思うぞ岳山ァ!」
「スタイルいいな岳山ァ!」
「…………っるっさいわね!! いま自己紹介しようとしてんでしょォーがっ!! 黙って聞きなさいよっ!!」
保てなかった。
「悪かったな岳山ァ!」
「続けてくれ岳山ァ!」
「あああもおおおおっ!!! 本日デビューのMt.レディですっ!! 応援よろしくっ!!」
先程までの作られた笑顔が無くなり、面倒げな、しかしどこか楽しそうな素の表情で自己紹介をする岳山。そんな岳山に折寺の住民から暖かな拍手が送られた。
ヴィランを拘束し、警察に引き渡しても民衆から新ヒーロー岳山へのエールは途絶えなかった。
「そっちの方が良いぞ岳山ー!」
「無理してキャラ作んなよ岳山ァ!」
「るっさい! 私はこれでいいのよっ! 痛っ!?」
折寺の愉快な住民達とギャースカ言い合う岳山の頭を軽く叩いたデステゴロは、後ろに居た報道カメラを顎で差した。
「テレビがお前のインタビューをお望みだとよ……ったくド派手に登場しやがって。後でエアジェットに礼言っとけよ」
「おお! インタビュー! 何話そっかなぁ♪」
「聞けよ」
岳山は取材陣に歩み寄る途中で、デステゴロの方を向いて一つ訪ねた。
「……あの、デステゴロさん……私、どうでした?」
その問いに、デステゴロは岳山の内にある若干の不安を感じ取り、少しだけ笑った。
「……ッハッ、天下の岳山も不安になる事あるのか」
「ちょっと!? 真面目に聞いてるんですけど!」
「ハハハッ!! 悪い悪い! ……まぁ、そこそこ上手くできてたぜ。デビューおめでとさん、岳山」
「……へへっ! ありがとうございます! 行ってきます!」
タッ、と駆け出す岳山。それを見送ってデステゴロは戦闘後の後処理に入る……前に、三人の人影を見た。それは先の戦闘中にも声をかけてきた……
「ようお三方」
「あ、どうも……さっきはごめんなさい」
「いーって。岳山がデビューした日だからな。恩赦だ恩赦……つーかお前ら学校だろ。はよ行け」
「あっやばっ。二人とも急い……もう居ないし!? 置いてかれた!!! あああもう待ってよ薄情者ォ!!!」
ドダバダと騒がしく、しかし周りの人が目を剥くほどの速度で市街地を駆けていく緑谷の背中を見てデステゴロはフゥ、と息を吐いた。
「……ったく、今年も忙しくなりそうだなオイ……」
「すみませーん、デステゴロさんも一応インタビューよろしいですか?」
「いちおっ……お、おう! 了解だ!」
折寺中学校。三年教室。
「えー、色々問題ばっかり起こしまくってた……まあ九割は一人がやった事だが……」
「くぁ……出久さん、寝てもいいですかぁ」
「ダメだよ、せめてホームルームは起きてて。もう帰れるんだから」
「……一人がやった事だがぁ……!」
時刻は夕方、授業終わりのSHR。学年が変わりクラス替えが行われ、折寺中の無免ヒーローが一同に介したこの教室の担任はブルブルと怒りに震えながら手元のプリントを生徒達に見せる。それは中学卒業後の予定を決める、進路表だった。
「そんなお前らももう進路を考える頃だ。先生この地獄の三年間についにゴールが見えてきて本当に嬉しいです。てなわけで、進路調査をする……つっても」
担任はその場でくるりと反転し、調査票を一切の躊躇無く空中にばら撒く。
「『普通は』全員ヒーロー科だよね」
そう言った瞬間ワッと盛り上がる教室で、担任の手を離れたプリントがそのまま軌道を変え、クラスに置かれた机一つ一つに飛んでいく。担任の個性だ。
そうして紙が飛び交う教室で周りが盛り上がるように様々な個性を発動させている中、机をバンっと叩いて発目が立ち上がる。その瞬間完全に静まり返る教室。このクラス……いや、この学校には発目に対する恐怖が染み付いていた。
「先生! 皆さんと一緒にしないで欲しいんですけども! 私サポート科です!」
「あのさ、お前自分が普通だとでも思ってんの?」
「思ってません!!」
立った時と同じ勢いで、ストンッ! と着席する発目。鮮やかなその動きを見る事も無く担任は持っていたバインダーをペラペラとめくり、「まあそういう意味じゃない方でも普通じゃないのは確かだけどなぁ」と呟く。
「何つったって、雄英高校サポート科だもんな、第一しぼ……」
担任はバインダーの第一回進路希望調査の紙を引っ張り出す。そこには『発目明 雄英高校ヒーロー科』の文字がデカデカと書かれていた。
「アレ? ヒーロー科? え、お前何でヒーロー科受けんの?」
ザワ、とにわかに騒がしくなる教室。その心は一つだった。
────こんな奴ヒーローになったら終わりだろ!!
しかし発目はそんな気持ちを知ってか知らずか、自らの発想を誇るように両手を大きく広げた。クラスのほぼ全員が(聞きたくねぇ……)という顔をしたが、発目はそれを完璧に無視。ドカンと机に足を載せ、緑谷に「パンツ見えるからやめて」と脚を降ろされた。男性用の青チェック柄トランクスだった。
「フフフ、フフフフフFFFfff、皆さん不思議そうですねぇ! ではお教えしましょう! ヒーローを支えるサポーターにとって、一番不足しがちなものとは一体何でしょうかっ!!!」
「……なあ発目、俺から話振っといてなんだけどホームルーム進めても」
担任の言葉をスルーし、今度は椅子に足を乗せる発目。どうしてもそのポーズが取りたいらしい。今度は中身が見えなかったので緑谷も止めなかった。ちなみに彼は今近所のスーパーのチラシを見て今日の献立を考案中である。
「そう! それは『実戦経験』!! プロヒーローが引退後の進路としてサポーター会社に就職する事があるように、サポートアイテムの作成において実戦の空気を知っているかどうかは大きくその発明品の完成度に影響してくるものなのですっ!!」
「なあ、もう分かったか」
「そしてそしてっ!! 雄英のヒーロー科入試には模擬市街地を使った完全に実戦を再現したテストが設けられるそうじゃないですかっ!! ある程度の安全性を確保した上で実戦の空気をこの身で体感できるときたらっ!! これはやるしかないでしょうっ!! サポート科と入試日が違うのも、雄英側がこういったサポート科受験生の動きを予測しているからに違いありません!!!」
違いあるよ馬鹿か。クラス全員の心が一致した。しかし誰も口には出さない。怖いし。
「……まあ、お前がそれで良いなら良いよ別に……あー、後なんだっけ? 雄英の話? まあ今年は一応発目と爆豪……あと……緑谷も雄英ヒーロー科か。うん、今年はすげーな。ちゃんと合格して早く出ていってくれよ」
何て事の無い、担任の軽口。しかし緑谷の名前が遅れたのは偶然でもなんでもない。
担任は、無個性の緑谷が雄英に行く、その事を口に出すかどうか迷ったのだ。
そしてそれはクラスメイト達も同様。
もしこれが、ヒーローになると言うだけで特にその為の努力が見られない少年であれば、笑い飛ばすことが出来たろう。しかし彼らの多くは中学生、ないし小学生から、少数に至っては幼稚園の頃から緑谷が努力を続けている所を目の当たりにしてきた。
彼が何度も何度も、ボロボロになりながら足掻いている様を、ずっと見てきた。
……しかしそれでも、結局緑谷に気の抜けた「頑張れ」以外の事を言う人間は居なかった。「お前なら行けるよ」という、一言を言う者は誰も、居なかった。
SHR終了後、生徒の減った教室で、黙ってカバンに荷物を詰め込んでいる緑谷の斜め後ろの席でふんぞり返っていた爆豪が鼻を鳴らした。
ちなみに席は発目が窓際最後尾、緑谷がその前、爆豪がその横、という並びである。完全に発目が封殺されていた。
「……ハッ、現実見えたってか? デク」
「はは……そうだね。予測はしてたけど……まあ、うん……予測はしてたんだ……」
緑谷は乾いた笑いを上げながら、入れるものを入れたカバンの中身をトントンと均す。
「そりゃそうさ。誰も僕に期待なんてするわけ無いんだよ。『無個性』の人間がヒーローを目指すってのはさ、そういう事なんだ」
「……オイ、テメェは……」
爆豪が何かを言おうとしたその時、教室に教頭が入ってくる。どうやら爆豪を探していたらしい教頭はそのビール腹を揺らしながら三人に歩み寄り、爆豪に一枚のプリントを渡した。
「ほらよ爆豪」
「……何スか、これ……あっ」
爆豪はそのプリントの一番上を見て、普段の彼らしからぬ小さな声で驚く。そこには……
「『雄英推薦二次試験の日程』……」
それは、雄英高校の推薦試験の日程を知らせるプリントであった。
雄英高校はあまりに倍率が高すぎる為、ヒーロー科推薦入試に限って書類選考の一次試験、そして学力の二次試験、次に個性や身体の能力を見る三次試験があるのだ。そしてそれの合格通知を、進路指導担当でもある教頭が持ってきたという訳だ。教頭は申し訳無さそうに頭を掻きながら、しかしそれでも、ハッキリと言った。
「オウ。とりあえず書類選考、通ったぜ…………まあその、お前だけな」
「……そっ、すか……」
各校二人が上限の雄英推薦入試。その一番最初の関門で、緑谷だけが、振り落とされた。その事実が、その場の四人の雰囲気を暗くさせる。
爆豪はそのプリントをカバンにしまい込み、椅子から立ち上がり、緑谷と発目もそれに続く。その背中に、教頭が声をかける。
「……緑谷、書類で落とされたからってめげんなよ。一般で他の奴ら全員ぶっちぎってやりゃいいんだ」
「……ありがとうございます」
「…………俺は信じてるぞ!」
教頭のその言葉に、緑谷が振り返る。教頭は愛嬌のある顔をキリリと引き締め、緑谷に向けて親指を立てていた。
「オメーさんなら大丈夫だ! 度肝抜くつもりでいけ! ……ったって、まだ一年先だけどな」
「……っ、ありがとうございますっ」
笑う教頭に大きく頭を下げ、小走りで先を進む二人に追いつく緑谷。その手を横にいる発目が取って自然と恋人繋ぎにして、爆豪は後ろの緑谷を一瞥もせずに鼻を鳴らした。
「泣いたカラスがもう笑うってか」
「言わないでよ……でも、慣れなきゃね……きっと、かっちゃんよりも人使君よりも、僕が一番……誰にも認められないんだから」
緑谷のその言葉は真理だ。
無個性の人間はヒーローにはなれない、という法は今は存在しない。それはつまるところ昔は存在していたという意味であり、そしてその法が撤廃された理由はただの『機会の平等』の観点であり、今でも無個性の人間がヒーローになった例は存在しない。そして、一般常識的にも個性のない人間がヒーローなど、正気の沙汰ではない。
……緑谷はこれから、そんな常識と、そんな常識を持つ社会と、戦うことになるのだ。
「……忘れないでくださいね、出久さん……私は出久さんのそばに居ます」
「はは、ありがとう明ちゃん。心強いや」
背後から放たれるピンク色のイチャクソノロケ光線で背中を蜂の巣にされながらも、爆豪は一つ舌打ちするという普段からすれば考えられない程穏やかな対応に留めた。言いはしないが、やはり彼も現実に直面した緑谷がどうなるか心配だったのである。言いはしないが。
「……あっ、かっちゃん! おばさんとか先生とか、あと人使君達にも連絡しないと! ほら早く!」
「一次通ったくらいでんな事するかボケ! 死ねカス!」
「あ、もしもしおじさん? 勝己さん推薦一次通りましたよ」
「何連絡してんだ殺すぞクソ女ァ!」
「あ、人使君!? かっちゃん推薦通ったよ! ……うん、かっちゃんだけ……うん、そうだね! うんっ! 僕らも頑張ろう! あ、痛い! 熱い! 爆発が! ハゲる!」
「ハゲろ!」
結田府中学校。放課後。
「ああ……お前は? ……そうか……俺達も、これ以上は負けられねえな……ああ……あー、ごゆっくり……」
教室内で電話をしていた心操は耳から携帯を離し、隣に居た芦戸と三年生となり同じクラスになった切島にピースサインを向け、笑いかける。
「勝己、雄英推薦一次通ったってさ」
心操のその言葉に電話待ちをしていた芦戸と切島がガタン! と立ち上がり叫ぶ。
「ええええええっ!? ウッソ!? すごいじゃーん!!!」
「ガチか!? うわ、やっべぇ! あれ倍率何倍だよ!? ……いや待てよ、て事は俺らももう結果出てんのか?」
ワッ、と盛り上がる芦戸と切島を横目に心操は天井に向かって大きく伸びをする。そして、こちらを伺うように視線を向けてきた芦戸と切島に向けチョイチョイと手を振った。
「気になるんだろ? 俺は待ってるから職員室行ってこいよ」
「……っえっと、ごめん……」
「……心操、もし俺が通ってても恨みっこなしだぜ」
「そういうのを『獲らぬ狸の皮算用』って言うんだよ」
「ハハハ! そうだな! 行くぜ芦戸!」
切島がスタスタと教室を出て行き、芦戸が戸惑いつつもそれに続く。それを見送った心操は、ボケっと天井の蛍光灯を見ながらポケットに入っていたイヤホンを取り出し、耳に装着した。
(……そりゃそうだ。雄英推薦の定員は二人。この学校で雄英志望は三人……どんな教師でも俺みたいな問題児より、印象の良い切島や芦戸を送り込みたい……そんなの当たり前だ)
そうやって自分に言い聞かせつつ、心操はイヤホンのジャックを携帯に差した。そしてラジオアプリを起動させようとした時に、横合いからイヤホンを片方抜き取られる。
「あ? ……ああ、お前らかよ」
「よ」
「よ」
そこに居たのは芦戸の友人……水野と山名である。心操は抜き取られたイヤホンを奪い返す。と、山名がニヤリと笑いながら心操の肩を揉み始めた。先程までの心操の対応を見られていたらしい。心操は心の底からため息を吐いた。
「いやぁ、偉いねぇシンソークン。普通雄英の推薦奪われてあんな態度取れないよー?」
「アイツらに言ったところでどうにもなんねーだろ。つか肩揉むな。鬱陶しい」
「えー? 現役女子中学生の肩揉みがそんなに嫌? 心操枯れてんじゃない?」
「その話題マジでやめろ。自分の恋愛観とか異性に対する見方とか、最近そういうので色々悩んでるんだよ本当に……」
「え、マジ系? ……恋愛観……もしかして心操BL男子だったの?」
「洗脳すんぞお前」
芦戸の親友というだけあって陽キャ組の彼女ら二人を脅迫する心操に、クラスにわずか残った生徒達の内三年になって初めて心操と同じクラスになった連中が物凄い顔をしていたが、本人達は気にしない。しかし肩を揉む少女……山名の横に居た水野は若干深刻そうな顔で心操にその心境を尋ねた。
「……つかさ、アンタ本当に大丈夫なわけ? 三奈から結構聞かされてるけどさ、結構昔から雄英入るために頑張ってたんでしょ? それが……こう言ったらアレだけど……」
「『悪役個性のせいで出遅れた』、か?」
「……そこまでハッキリ言わないけどさ」
不満げに口を尖らせる水野を見ながら、心操は「……ショックはあるし落ち込む気持ちもあるよ」と呟く。そして、ニヤリとシニカルに笑って「けどな」と言葉を続けた。
「けど、俺の目的はあくまで『ヒーローになる事』だ。そのための近道が雄英推薦であって……まあ、何だかんだ言おうと悔しいけどな……」
心操は悔しいと言いながらもギラリと燃える炎を瞳に灯らせ、先程の笑みとは違う、好戦的な笑みを浮かべた。
「けど、俺は負けねえよ……『諦め』はもう散々やったんだ。逆に今更、この程度で簡単に諦めてたまるかっての」
……と、そこまで言った所で女子二人から何も相槌が無い事に気が付いた心操はふと後ろを振り向く。
と、二人は若干戸惑うような、困ったような、それでいて若干だけ赤みを持った顔で互いを見合わせていた。
「……いや、これ、その何だろ……やっぱ男の子なんだ……って感じ?」
「アシミナの気持ちが若干分かる……」
「……はい?」
女子達は互いの耳元で何かを囁きあっていたが内容は分からなかった。ただ、何やら今の自分の言動に顔を赤らめるような要素があったらしい。
しかし心操としてはいくら自分の言動を振り返ってもそれが何なのか全く分からなかった。
「ただいまーやっぱダメだったー…………何この空気?」
「俺も駄目だった……空気? 何だそれ。窓開けるか?」
そして落ち込みながら帰ってきた芦戸と切島に、心操は「まあとりあえず勝己おめでとう会でもしに行くか?」と疑問は置いておいてまずは普段通り食事に誘う事にしたのだった。
時は遡り午前。雄英高校校長室。
ポン、と、インクを付けた高級な判子が学校のプリントとは違う、高級な紙に押し付けられる。ギュウッ、とインクを染みつけた後その判子を退かすと、その紙には『八木』の文字が押されていた。
「うん、勤務体系説明よし、給与制度説明よし、禁則事項説明よし、書類サイン判子なんとその数ニ十四枚……他に、なにか質問はあるかい? オールマイト」
高級な調度品が並ぶ雄英高校校長室。革張りの椅子にチョコンと座ったネズミもどき……雄英最高責任者、根津校長が目の前の人物に話しかける。
「……ええ、はい。特には無いですね。大変わかりやすい説明でした……」
そこに居たのは、骨と皮しか無いのではと言う程にガリガリに痩せ細った骸骨のような男。根津校長のあっちこっちへ話題の飛ぶ長々しく無駄の多い説明をすべて聞いて消耗した彼は、肩を縮こまらせながらもすっかりと冷めた緑茶の残りを啜った。
彼の名は、オールマイト。誰もが知る超有名な、世界的ナンバーワンヒーローだ。そして、かつての戦闘による後遺症で一日数時間しかその実力を発揮できない時間制限付きのヒーローでもある。
「しかしこれで、来年には私も雄英教師ですか……実感がわきません」
「そういうものさ! それに、実感なんて無くったって教師をしてれば自然と後からそういうのは付いてくるのさ!」
「……校長が仰るのなら、そうなのでしょうね」
「僕としてもね、君みたいな教師を雇うのは初めてだからどう成長するか楽しみなのさ!」
その言葉に意外そうな目を向けるオールマイトに、校長は緑茶を飲みながら「HAHAHA!!」と陽気に笑った。
「……えっと、私に生徒達がどのような影響を受けるか、がですか?」
「それもあるけどね! 僕が言いたいのは君さ! 生徒が教師を見て育つように、教師だって生徒に触れて育つものなのさ!」
「はぁ……」
トントンと書類の角を揃え、雄英のマーク付きA4封筒に入れた校長は「まあ僕らは楽しみにしてるから、君も楽しみにしときなよ!」とそれをオールマイトに差し出す。オールマイトはそれを受け取り、少し頭を下げた。
「……ところで君、この後は時間あるのかい?」
「え? はい、まぁ……今日一日はフリーにしてますが」
その言葉に「ふむ」と一つ頷いた校長は、傍らにあったタブレットを開いてそこにどこかの地図を表示した。
「なら、ここからだとそこそこ遠いんだけど……まあまだ昼にもなってないし、ここに行ってみないかい?」
「……何ですか? ここは?」
「うーん、僕が思う、街の住人とヒーローが理想の関係を築けている街、かな? きっと君にとってはいい刺激になるんじゃないかな……それに、この街にはちょっと面白い集団が居るよ」
「『折寺市の無免ヒーロー』……自分からヒーローを一切名乗らず、本当にゼロから十年かけて作り上げたその実績は並じゃない……きっと、面白いものが見られるハズさ!」
この日、運命は急速に動き始める。
※雄英推薦の定員というのは各中学校から雄英に推薦できる定員という意味です。
いやー始まりましたねヒーローアカデミア!あと一話か二話ほど本編やって、そっからまた一年分日常やりますね!
ちなみに一応言っておくと彼らの中の序列は二年生終了時点で
爆豪≧緑谷≫越えられない壁≫心操>芦戸≧切島
です。三年終了時には若干だけ変わってるかも。そして前回の発目明決選投票なんですが、僅差で『発目明はヤンデレじゃないしサイコパスでもないしかわいい!』に決定しました!そのうち人物紹介出します!
あとこの下のプチ番外編はソウルイーター知らない人は無視してやって下さい……
プチ番外編『キッドのヒーローアカデミア』
ヒロアカ世界に生まれた死神の子息デス・ザ・キッドは父の責務を継ぐために雄英高校ヒーロー科を受験していた!
「二ポイントッ!四ポイントッ!六、八いッ!十ッ!!」
『キッチリカッチリ割り切れるニポイント』だけを破壊しまくっていた!
「八十六ッ!八十……八っ!!……ふぅ、これだけ倒せば十分だろう……後はまあ、怪我をした受験生の手当でもするか」
しかも試験時間半分程度でキッチリ八十八ポイントを獲ってからは仮想ヴィランに触れもしなくなった!!
「君のポイントは八十八ポイント!手抜きは良くないが素晴らしい数値だ!!」
「フフン……素晴らしい数字だ……漢数字でも素晴らしい」
「しかし見ていたのはヴィランポイントのみに非ず!」
「えっ」
「レスキューポイント六十一ポイント!合計百四十九ポイント!!!素晴らしいっ!!!エクセレントだ少年!!」
「グワアアアアッ素数ウウウウゥゥゥアァァァァッ!?」
皆も試験は真面目に受けろ!あと誰かこのネタ丸パクリしていいから書いてくれない?