無免ヒーローの日常   作:新梁

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今回のあらすじ

立ち上がれヒーロー。


第二十八話。凡人の英雄(ヒーロー)

 折寺商店街。ド修羅場。

 

 

 

 ヘドロは咄嗟に手に入れた隠れ蓑が思った以上の上物だった事に歓喜していた。

 

「ヒハハハハ!!! ヒーロー共が近寄る事も出来ねぇ! すげえぜこのガキ!」

 

 この少女は口から火を吐くという、どこにでも居そうな単純な没個性であるが、それを補ってあまりある火力と単純な没個性であるからこその個性運用のしやすさがあった。

 

 もちろん今の身の毛のよだつ程の火力はパニックから来る個性暴走である事には変わりが無い。だが暴走しているといってもそれは個性。つまりは普段から訓練をすればこの火力が出せるという事。そしてこの身体はヒーローの攻撃を押し留める恰好の盾にだってなる。ヘドロは思わぬお宝に巡り合った事に感激していた。

 

「おっ、どうしたクソガキぃ、もう流石にタネ切れか? ならお待ちかねの取り込みだなぁ!」

「……ッンンン──!! ンン──!!」

「ハハハ! 安心しろよ! お前の個性は俺が有効活用してやる! ────お前が死ぬまで搾り取ってやるからなァ!」

 

 先程まではパニックに陥っていた少女が落ち着きを取り戻し、だからこそ恐怖を感じる余裕ができてしまっている事をヘドロは正確に察していた。だからヘドロは少女に言い聞かせるように声をかける。もうお前は助からないのだと。お前は自分のものなのだと。

 

「……なぁに、一回入っちまえば苦しいのは四十五秒。それだけ耐えればもう怖くないし苦しくない……もう諦めろ。自分の身がかわいいヒーローはわざわざ火傷しに来ちゃくれねえよ」

 

 自分の身体の中で少女がガクガクと震え始めたのを感じながらヘドロは笑う。今はまだ火を吐いて抵抗しているが、その勢いは明らかに弱まっている。これはもう時間の問題か、とヘドロが思ったその瞬間、商店街全体に響き渡る叫び声が鳴り響いた。

 

「ッルオオオオオオオオオアアアアアアアァァァァッッッッ!!!!!」

「ッなん……!?」

 

 その大声にヘドロが驚いて声の聞こえた方を見ると、折寺ヒーローのまとめ役、デステゴロがずぶ濡れの格好で雄叫びをあげながらヘドロに向かってドシドシと走ってきていた。その姿にヘドロだけでなく、周囲で見ていた民衆やテレビのリポーターまでもが呆気に取られた表情を見せ……それは一気に爆発した。

 

「おい何してんだよデステゴロ!?」

「馬鹿じゃん!?」

「どういうことでしょう!? 破れかぶれの特攻にしか見えません!」

「無駄死にだ! 自殺志願かよ!」

 

 そんな声が方々から聞こえるが、デステゴロは止まらない。

 

「今助けるぞオオオオオォォォぉっ!!!」

 

 デステゴロのその咆哮に、その咆哮に込められた圧倒的な圧に、先程までデステゴロの無謀を非難していたその場の誰もが口を閉ざした。瞬間、人の声が消え静かになった商店街にデステゴロの声が続く。

 

「すぐに助ける!! だから!! だから諦めるなァッ!!! 『救われる事』を!!!! 諦めるんじゃあねえェッ!!!」

 

 ヘドロさえも静まった所に響いたその声は、少女の魂を、少女の生存本能を再び燃え上がらせる。しかし、その炎はヘドロの言葉で瞬時に下火になる。

 

「…………ッハッ! だったらこのガキの個性で! テメェを燃やしてやるよ!」

 

 自分を助けてくれるヒーローを自分の個性で燃やす。否、目が塞がれているから分からないが、ひょっとするともう何人かは燃えているのかもしれない。パニック状態の時には気付かなかったそんな思いが少女の個性を抑えるが、それを他ならぬデステゴロ自身が、否定した。

 

「大丈夫だ!! 安心して個性を使え!!」

「なっ……何言ってやがんだあ!?」

「当たり前だ! 人を助けるためなら火の中水の中突っ走んのが英雄(ヒーロー)だ! その程度の炎!! 余裕で受け止めるのが英雄(ヒーロー)ってもんだ!! 大丈夫! そんな炎で俺は燃えねえ!! ────だから安心して──!」

 

 デステゴロは両腕を前に重ね、耐える体勢になって叫ぶ。

 

「俺に全部!! ぶつけてみろ!!」

「──────っ!!!!!」

 

 

 

『いいか、作戦を説明するぞ……まず、人質を助けるのは俺だ。俺が炎の中を歩いてヘドロのところまで行く』

『おい正気かデステゴロ!? 焼死するぞ!』

『安心しろ、考えならある』

 

 

 

 轟、と炎がヘドロの内よりデステゴロに襲い掛かる。デステゴロは両腕で目を守るようにしてズシズシと一歩ずつ前に歩き始める。

 

「んなっ!? 何で燃えねぇんだよ!?」

「決まってるだろ──ヒーローだからだ!」

「俺が頑張ってるからだよ……!」

 

 

 

『バックドラフト、お前確か自分の身体に水を纏う技があったよな? それを俺にやるんだ。そうすりゃ下手な防火服なんて目じゃない。だろ?』

『……出来ない事は無い……けど、その方法だと走れねえぞ。自分の体に纏わせるのとは勝手が違う。他人の身体にくっつけてもうまく動かせない』

『そこは安心しろ。多少熱い時間が増えるくらいなら耐えるさ。俺はタフが取り柄だ』

 

 

 

 正面に居るデステゴロに炎を浴びさせているヘドロには見えないが、デステゴロの背中にはホースのように太い水の線がついており、それはバックドラフトの手元まで繋がっていた。デステゴロの身体に水の鎧を纏わせ、そして炎で熱された水をバックドラフトが冷たい水と循環させる事でデステゴロの身体を炎から守っているのだ。

 

 ちなみにデステゴロの啖呵に対するバックドラフトの文句は小声だったので後ろで苦笑いをしている岳山とカムイにしか聞こえなかった。

 

「デステゴロ! 想定より炎の威力が強い! 今は良いが近付きゃ循環が追いつかなくなんぞ!」

「了解! 手早く済ませる! 循環は最低限でいい! 動きに合わせてくれ!」

「分かった任せとけ! だから頼むぞマジで!」

 

 デステゴロは歩を進める速度を早める。その度に熱源が近まり、それに比例して炎の熱は強くなる。受け止めているデステゴロの纏う水の鎧は徐々に温度が上がり、遂には細かく泡を吹き出すまでになる。

 

「うおおおおおぉぉぉあっっっっつ……っくねえ! こんくらいどうって事!!」

「なっ、何なんだテメェは!? な、なんの個性だよ!?」

「うるせえ何でもかんでも個性のせいにすんな!」

 

 デステゴロが寄ってきているにも関わらず、ヘドロは動かなかった。否、動きたくても動けなかった。デステゴロの言葉によって再び抵抗の意思を取り戻した少女がメチャクチャに暴れたため、ヘドロはそれを抑え、少女の顔をデステゴロの方向に向け続けるのに力を使わなければならなかったのだ。

 

 しかしデステゴロも早く歩く事は出来ない。デステゴロの纏う水の鎧はバックドラフトのフルマニュアル操作であり、そのバックドラフトは水の循環の方に意識を割き過ぎていてうまく操作ができていないからだ。

 

「やっべえ、水温六十度超えた……! デステゴロッ!」

「問題ない! 辿り着いたあっつい! 熱くない!」

 

 

 

『で、辿り着いたらどうすんだよ? ヘドロが人質離さなきゃ意味ねえぞ』

『いや、俺達はそもそもヘドロの事を過大評価してる……いや違うな、ヘドロの肉体を持つあいつを普通の人間と同じに考えちまってるんだ』

『過大評価? ヘドロの肉体?』

 

 

 

 ヒーロースーツ越しに肌にひりつく暑さを感じながら、デステゴロは恐れるように蠢いたヘドロに躊躇無く身体全体を突っ込み、小さな少女の身体を抱き寄せた。ついにゼロ距離となった炎が水の鎧を突き抜けてデステゴロの胸周辺のヒーロースーツを焼くが、その痛みに一切動じずにデステゴロは笑った。

 

「……っ、今、助けてやるぞ!」

 

 ヘドロの中で藻掻いていた少女はデステゴロにしっかりと抱きしめられ、そこで限界を迎えてカクリと気を失った。

 

 遠目からそれを見たカムイと岳山は、覚悟を決めた表情で互いを見て頷き合う。

 

 

 

『あいつの肉体はヘドロ、流体だ。だから物理的な攻撃は効かん……けどな、それは裏を返せば、あいつも俺達に物理的な干渉はしにくいんだよ。流体だからな』

『……ということは、つまり』

『人質の女の子に対して……そう、濡れた手に送風機で風を当てたり、雨に濡れた傘の水を切るような感じで、急加速や急制動を掛ける事が出来れば……比較的簡単にヘドロを引き剥がせるって事だ』

 

 

 

 少女の背中と頭を固定するように右手をしっかりと回し、左手で脚をガッチリ固定したデステゴロは一人のヒーローの名前を叫ぶ。

 

「……っ、エアジェットオオォォォォッッッ!!!!!」

「任せろオオオオォオォ!!!!」

「んなにいっ!?」

 

 

 

『だからまず、俺が人質を保護したらエアジェットは俺を抱えて一気に空に上がれ』

『えー……クソ重そう』

『文句言うな。オッサンがえーとか言っても可愛くねえよ! ……まあ人質、ヘドロ、俺の三人だからな。それでヘドロが引き剥がせないなら、まあそれで良い。その場合は……』

 

 

 

 エアジェットがデステゴロの背中に向かって思い切り突撃をかまし、そのまま三人ごと数メートル引き摺ってから空に上がる。だが3人の体重を一身にかかえることになるため、その速度は遅くまた高度も数メートル上がるだけだった。勿論ヘドロは剥がれない。

 

「んなっ!? 空に浮かしやがったのか! 何がしてぇんだテメェら!」

「……離れねえ……ってかクソ重たい……痩せろデステゴロォォ!!」

「筋肉だよ馬鹿! 体脂肪率九%だぞ俺は!」

「反応に困る数値だな……! デステゴロ、スマン、限界だ! 後は頼むぞ……二人共(・・・)!!」

 

 エアジェットはデステゴロの腰に手に持っていた物を当てる。それはすぐにスルリとひとりでに動き出し、デステゴロと彼の抱える少女に巻き付いた。

 

 

 

『カムイ、そしてMt.レディ。お前達二人の出番だ』

『私らですか?』

『おう。エアジェットにはカムイのツタを俺のトコまで運んできてもらう役目もやってもらう。エアジェットがヘドロを引き剥がすことができなかった場合……カムイのツタを人質ごと俺の全身に巻きつけて、Mt.レディがそれを持って一本釣りみてえに振り上げろ……流石に剥がれる筈だ』

『成程、では最初からそうすれば良いのでは?』

『駄目だ。正直この方法は加速がデカ過ぎる。人質の身体にダメージが入るだろう……俺がクッションになるから、ツタが食い込むとかは無いだろうが、出来ればエアジェットんトコで終わらせたいな……それとバックドラフト』

『ん? まだあんのか』

『ヘドロが剥がれ落ちた後、お前の水で箱を作って、動きを封じてくれ……できるな?』

『当たり前だろ……任せとけ』

 

 

 

「この折寺という街を守り続けてきた大先輩から託された役目……必ず、果たさねば!」

「ま、そーね……行くわよ。アンタが気を失っちゃ駄目だからね」

「当然!!」

 

 かろうじてスペースのある商店街の入口付近にて周囲の人間を避難させた岳山はカムイの胴体を両腕でガッシリと掴み……

 

「名前は適当に行くわよ! 『即興必殺』!」

「『必縛救命』!!」

「『コンストラクションカタパルト』!!!」

 

 必殺技の掛け声と共に、岳山が瞬時に二十メートルの巨体へと変わる。無論掴まれていたシンリンカムイの位置も二十メートル上へと引き上げられ、そのあまりの加速にカムイは若干意識を失いかけるが、気付けに自ら舌を噛んで口から血を吐きつつもツタの力を強める。

 

 そしてその殺人的な加速は、カムイのツタの先に居るデステゴロにまで十全に伝わっていた。デステゴロはそのあまりの急加速に、ツタの食い込んだ身体がミキミキと悲鳴を上げる音をその耳に聞いた……しかし、そこまでしても……ヘドロは少女の身体から剥がれはしなかった。

 

「……っおいおい、思った以上に力強えなお前……!」

「離すかよ……もう少しなんだ……誰が離すか……!」

 

 デステゴロの渾身の策はヘドロの力の強さを読み違えた為に失敗した。殺人的な加速が終わり、浮遊感を感じる空中でヘドロが、笑う。

 

「……何だよ、もうネタ切れかよ! は、ハハハッ!! 俺の勝ち────」

「…………ッッッッバックドラフトオオオオオ!!!! カムイイイイィィィッッッ!!!! っ岳山アアァアァアァァァァ!!!!!」

 

 ヘドロの勝ち誇る声を断ち切るように、デステゴロが魂から叫ぶ。

 

「俺を水にいッ!!!!!! 叩きつけろオオオオオオオッ!!!!」

 

 

 

 今までとは違い、それは本来の作戦には存在していないイレギュラー。しかしデステゴロにはそうするしか無かった。

 

 彼は天才的な頭脳を持っているわけではない。彼に出来る事はただ、可能性を追う事だけ。

 

 それが分かっているから、地上に残る四人のヒーローは苦笑いを浮かべるのだった。

 

「成程な、空気で無理なら、もっと抵抗力の高い水でってか……不器用というか一本気というか……馬鹿だなぁあの人」

 

 ブワ、と地上に立っていたエアジェットは空に浮かび上がる。

 

「……しかし、やるしかあるまい。このままでは我々の作戦も、デステゴロの命を懸けた献身も、少女の生きる気力も、全てが無駄になる……それだけは、避けねば!」

 

 岳山に掴まれ続けているシンリンカムイは、血の混じった唾液を飲んでから再びの殺人加速に耐える為にグッと身体に力を込めた。

 

「……これで無理なら間抜けもいいとこだぜ俺等……余力は残さん、全部使う……絶対助けなきゃだからな」

 

 バックドラフトは腕から自分の個性で扱える残り全ての水を絞り出した。

 

「………………つーかさ…………」

 

 そして、岳山は。

 

「私の名前は…………!」

 

 デステゴロとヘドロの上昇が止まって空中で停止したその僅かな瞬間に、

 

「Mt.レディだっつってんでしょーがあああああっ!!!!!」

 

 すっかり自分のヒーローネームを忘れ去っているデステゴロと、卑劣なヴィランへの怒りを込めて、カムイを持ったその腕を薪割りでもするかのように思い切り振り下ろした。

 

「……っぐ、デステゴロの、背中が水に当たるように……!!」

 

 二十メートルから一気にゼロメートルまで振り下ろされる衝撃に耐えつつ、カムイは神業のごとく精密な個性操作で、幼く身体の出来ていない人質にかかる負担が最小限になるようにツタを操る。

 

 そしてその下にある水の塊は絶えず形を変え不安定なようにウネウネと動いている。それは、バックドラフトの個性、水操作の真骨頂とも言える物だ。

 

「おいでませ洗濯機へ……! ただの水の塊じゃねえ、乱水流の坩堝だぜ……きたねー泥汚れの一つくらい簡単に落としてやるよ!」

 

 

 

 そして、ぐんぐんと下がる高度と近づく地面を見て、ヘドロは泡を食ってデステゴロに絡み付く。

 

「テメェ、水に突っ込むってか! ふざけんな、ふざけんな!!」

「……あいにく、ふざけちゃいねえんだなコレが……まあアレだ、この街で犯罪したのが間違いだったんだよ」

 

 デステゴロは少女の鼻と口を柔らかく塞ぎ、背中が地面に向かった事で見えた青い空を眺めながら鼻を鳴らした。

 

「この街には……こんなにもスゲェヒーローが沢山居るんだからな」

「ふざけるな! ふざけっ──」

 

 バァン!! と、凄まじい、身体がバラバラになるのではと言う程の衝撃……その衝撃に晒されたデステゴロは朦朧とする意識の中で水の中の水流に揺られ、ヘドロが自分と少女から引き剥がされたのを感じた……

 

(……ああ、やっとかよ)

 

 ようやくこれでこの騒がしい一日も終わりを迎えそうだ……そう思いつつ、下に落ちていくデステゴロは……

 

 ザパン、という音と共に水から抜け落ち、その瞬間誰かに胴を抱えられた。

 

「重った……っおうデステゴロ、お疲れさん。気分はどうだ?」

「っあ゛──……ビール飲みてえ」

「ハハッ!! ならさっさと後片付けして帰ろうぜ!」

「…………俺にもやらせんのかよ……」

 

 未だ眠る少女の口元から手を離しながら、デステゴロは痛む身体をよじった。デステゴロを抱えたエアジェットは、ヨロヨロと空中を飛びながら顔を顰める。

 

「本当アンタクソ重たいな。痩せろ」

「……筋肉だっつーの……」

「あと岳山ちゃん怒ってたぜ? あの大一番で自分だけ本名呼ばれたってな」

「…………俺ちょっと今から戦闘のダメージで気絶するわ」

「先送りかよデステゴロ」

「良いだろ……一日走り回って疲れたんだよ……」

 

 ボタボタと髪から垂れ落ちる雫に煩わしさを感じ、目を閉じて深呼吸をするデステゴロ。下にはこの少女の母親が涙を流しながら待っている。

 

 デステゴロは顔を顰めて一つ呟いた。

 

「最後ので肋骨ヒビいったかも……ったく、本気でやりやがったな岳山のやつ」

「三十路も半ばが無茶するからだろ……腕もかなり焼かれたみたいだな」

「腕は良いんだよ腕は。つーか歳はてめぇもそんな変わんねえだろ」

「歳は変わんねえけど俺は無茶しねえしなぁ……お、救急車来たみたいだぜ?」

「そうか。ならこの子を運んでもらわにゃあならんな。普段使わねえ個性をあんだけ酷使したんだ……それに炎熱系は身体への負担がデカいって相場が決まってる」

「……うん、アンタはそういう人だよな」

 

 そんな会話を続けつつ、エアジェットは地面に降り立つ。

 

 デステゴロが地上に降り立った瞬間折寺市民がワッと駆け寄ってくるが、デステゴロが「退いてくれ! 救急車まで道を開けてくれ!」と叫び、動きの止まった民衆の中を駆け寄ってきた少女の母親に少女の顔を見せた。

 

「……ああ、ゆうか、ユウカ!」

「ザッと確かめたところ異常は見当たりませんでした。けど個性の異常使用でかなり疲弊してる。すぐに救急車に」

「はい、ありがとうございます……! ありがとうございます!」

「礼はいつでもできます。すぐに救急車に」

「はい! ありがとうございました!」

 

 側に来ていた救急隊員が持ってきていた担架に載せられて少女は救急車に載せられた。それを見送ったデステゴロはついに糸が切れたようにその場に座り込む。ザワリとザワつく周囲を見る事も無く、フラフラとしているデステゴロに岳山が声を掛ける。

 

「ちょっ、と、デステゴロ?」

「……悪い皆、あと頼んだ」

 

 それだけ言って、デステゴロは意識を落とした。

 

 

 

 




今回の話、無免ヒーローを始める前から絶対やろうと思っていた三つのイベントのうち一つです。あの場にオールマイトが居らず、チート個性を持ったオリ主も居ない状況で一般ヒーローだけで人質を救うという話。ずっとこれ書きたかったんだよ……!

次で連続投稿最後です。

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