無免ヒーローの日常   作:新梁

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前回の連続投稿、あれだけで最大評価が十件近く増え、最終の二十九話に至っては感想が普段の八倍も頂けました。自分なりに考えた超渾身の一話にこれだけ沢山の反響を頂き感謝しきりです。

今回の話はその連続投稿で増えたお気に入り全部吹き飛びそうと思いながら書きました。けどこれ書いてる時超楽しかったです。

……色々やっても、やっぱり自分はギャグ側の人間なんやなって。

今回のあらすじ

怒気ッ!男だらけの大筋肉祭!

ヌルポ撲滅の使徒さん、誤字報告ありがとうございます。


第三十話。五月初旬、青春は飛び散る汗の香り

 ツギハギ研究所。昼前。

 

 

 

 唐突だが。

 

 

 

 ツイ○ターというゲームを知っているだろうか。

 

 複数人でプレイするそれは大きなマットに書かれた色とりどりの丸に両手両足を置き、ルーレットに従い手足を別の色に動かしてバランスを崩した方が負けるという、運と知略、何よりも優れた体幹が重視されるゲームである。

 

 また、『知識としては知っているけどやった事は無いゲーム』のランキングを作ればバトルド○ムに並んで上位に来る事間違い無しの意味不明な認知度を誇る謎のゲームでもあり、有名だけどなら人気か? と言われれば人気……? となる事うけあいである。何でこのゲームこんなに有名なんだろうね? 

 

 なぜこんな話を唐突に始めたかと言えば。

 

「ふぅ……っ、ふぅ……っ」

「…………っはっ……ハァッ……」

「地獄の絵面なんだけど」

 

 緑谷と爆豪が上裸の下パンツ一枚で滝のような汗を流しながら、何故か廊下でツイスタ○をしているからである。連休らしく研究所の自室でゆっくりと一晩を明かし、いい気分で目覚めてから階段を降りてきた瞬間運悪くそのクソみたいな光景を目撃してしまった芦戸は無の表情でそう呟いた。

 

 尚、緑谷は右手が左肩の下辺りの色マスに置かれるという明らかにどこかしらの骨格を無視したようなブリッジの姿勢となっており、爆豪はそのブリッジの下に左足を通し、その左親指だけが色マスに引っかかっているような状態で左手は空中に浮くという、変態的片手腕立て伏せのような体勢を取っている。間違っても互いに触れないようにしているのか、緑谷は引くほど胴体を反っており爆豪は足から胴体までがほぼ完全に地面と水平である。

 

 

 

 前話のいい感じな終わり方から次話で唐突にパンイチ汗だく筋肉ツ○スターなんて物を突っ込まれるとは思っていなかった読者の方々も多いと思われるが、残念ながら今回はギャグ全振りなのだ。芦戸は無の表情のままでゆっくりと部屋を見回すと、同じくパンイチの心操と切島がバスタオルで流れる汗を拭きながら現状について議論していた。

 

「いや、やっぱり出久と勝己は勝負が緊迫するな……」

「イヤでもよ、もう終わりじゃね? だって今ので爆豪は青マスを完全にガードできたし、手足を限界まで伸ばして緑谷の体勢をより難しくしてっし……これよっぽど上手くやらねえと……」

「馬鹿野郎……それが出来るから出久は凄いんだよ」

「ねえ二人とも」

「んお、おはようさん芦戸」

「遅かったな。ツイスター始めてるぞ。次入れてやるから早く着替えてこいよ」

「やらないけど!? 何でやる前提になってるの!?」

 

 何故かごく当然の様にツイスター(伏せ字飽きた)に参加する前提で進んでいた会話を芦戸が一刀の下に斬り伏せると、愕然とした表情で切島と心操が顔を見合わせた。

 

「やらないのか!?」

「こんなに楽しいゲームを!?」

「今の自分の格好見てから言いってくれる!?」

 

 芦戸の意見は至極当然のものだが、切島と心操は互いの服装を見て『どこがおかしいんだ?』という顔をする。

 

「嘘でしょ……ついに頭おかしくなったの?」

「いや……だってツイスターは全裸ないしパンイチでやるもんだろ?」

「そうだぜ芦戸。服着てたら指先とかが引っかかっちまうよ。本当なら全裸でやりたいくらいだ!」

「ついに頭おかしくなった……!」

 

 あんまりにもあんまりなその光景に、初夏にも関わらずムンムンと蒸すような暑さに、スポ根漫画並みに流れる汗の匂いに、芦戸は頭が痛くなりこめかみを押さえる。そんな芦戸の耳に、「では出久さんのルーレット回しまーす」と、発目の声が聞こえた。

 

「め、明ちゃん……明ちゃんはまともなハズ……!」

「じゃー右足から行きまーす」

「何でえええええぇっ!?」

 

 芦戸は微かな(本当に微かな)希望を込めてその声が聞こえた方向を見たが、そこに居たのは男物のトランクスに、上はまさかの『折寺夏祭り』と書かれた、擦り切れたタオル一枚を巻いたあまりにも男らしすぎる出で立ちの発目明であった。芦戸はショックが積み重なり、遂にその場に崩れ落ちてしまう。

 

「おい芦戸、静かにしてくれ。こっからが肝心なんだよ」

「……何が肝心なの? 女の子があんなあられもない格好しちゃだめでしょ。それ以上に肝心な事なんて……」

「あんなんの肌色より今はツイスターの行方なんだって」

「あんなんて! あんなんて!!!」

「ハイ! 出ました! 出久さん!」

 

 芦戸が周囲との価値観の違いに震える中発目はいつ何の為に作ったのか分からない人間大の大型ルーレットをブン回し、そこに出た色を大声で叫んだ。

 

「右手緑、左手緑、右足赤、左足黄色です!」

「……え、ツイスターって普通一個ずつやるんじゃ……」

 

 レベルの高い陽キャでかつツイスターやったことある勢の芦戸は首を傾げる。本来のツイスターとは両手両足のどれか一つを何かの色に動かせば次は相手のターンなのだ。なのに4色同時? と芦戸がそう思ったその瞬間──

 

 ────気持ち悪い崩れかけのブリッジのような体勢だった緑谷が、全身のバネを全力で使い、空を飛んだ。

 

 バンッ、という音と共に両手両足で床を跳ねた緑谷は、空中で素早く方向を転換。即座に地面の色マスを認識し、姿勢の調整。まるで猫が地面に降り立つように、音も無くキレイに手足を指定された色の上に置きスタンダードな四つん這いで身体を固定した。

 

 尚、ここまでひっくるめて二秒である。

 

「チッ、運の良いヤローだ」

「イヤほんと、危なかったよ……青が出たら負けてた」

 

 緑谷の超人的挙動を目撃して目を丸くした芦戸を置いて切島と心操は緑谷の打った一手に唸る。

 

「ミラーブリッジズトリック……! この状況でなんて技出しやがる緑谷……!」

「……ノーステップの得点もあるけど元のブリッジが形悪かったからな。芸術点は期待できないけど……ここは審判の判断が重要か……」

 

 外野の声を聞いているのかいないのか、何度か傍らに置いてあったビデオを巻き戻したりして確認した発目は一つ頷き、得点札を掲げた。

 

十点(満点)

「待てこらクソ女ァ! さっきからデクの出す技全部満点じゃねえか! ちゃんと審判しろボケェ!!」

「ぴー。勝己さん審判への暴言によりペナルティマイナス五点。手番外に大きく動いたムーブペナルティマイナス五点」

「死ねァ!」

 

 芦戸はそっとその場を去って食堂の方に向かった。

 

 頭のおかしい連中に付き合っていると自分まで頭がおかしくなる。それは芦戸がもうすぐ一年になる無免ヒーローとの生活で学んだ事であった。

 

「……○イスターってもっとみんなでワイワイやるゲームじゃないの……? 何あの緊張感……しかも得点制……? どういうルールなの……?」

 

 ブツブツと不満……というより何というかこう、何とも言えない感じの……こう、アレな気持ちを口に出しながら芦戸は食堂に入る。そこには一人の先客が居た。

 

「あ、博士。おはよーございまーす」

「おはよう。皆には混ざらないのかい?」

「アハハ……いやあ、私はいいかなって……」

 

 頬を掻きながらそう言った芦戸は食卓に置いてあるオーブントースターに食パンを2枚投入し、ツマミをいい感じに調整してから手を離す。焼き上がるのを待つ間にシュタインの方を見ると、彼は銀色のオートマチック拳銃を磨いていた。

 

「銃……」

「『魂威銃』Death•Eagle(デス・イーグル)42。明の作ったポーラスターはまだ未完成だから威力にムラが多いけど、この銃は魂の波長の整波機能に優れているから本物の銃のように、常に一定の魂径の弾丸を発射できる」

「えっ!?」

 

 手元から目を離さないシュタインの解説に芦戸は目を丸くする。チン、と音が鳴って飛び出すパンを驚いた顔のまま皿に移す芦戸の顔を見て、シュタインは少しだけ笑った。

 

「随分驚いてるね」

「……あ、はい……その、魂威銃って明ちゃんが何もかもゼロの状態から作ったって聞いてたんですけど……」

「うん、間違ってないよ」

 

 シュタインはそう言って笑ってから銃を机に置き、自分もトースターにパンを投入してコーヒーを淹れるために立ち上がった。

 

「あ、私が」

「いいよ。三奈も飲むよね?」

「あっ、はい……飲みます」

 

 珈琲の粉を入れた瓶とフィルタを用意して電気ケトルでお湯を沸かし始めたシュタインは「魂威銃の概念……本来近距離、いや、零距離でしか使えない技術である魂威を中距離戦でも使えるようにする案は昔からあった」と言葉を紡ぎ始める。芦戸は食卓のそばにある小さな冷蔵庫(発目による廃材修理品)からバターを取り出しパンに塗りながらその言葉を黙って聞く。

 

「多くの科学者が何十年にも渡ってその理論の確立に挑戦したけど無理でした。けど、世界に『個性』が現れてから数世代した頃……『エイボン』と呼ばれる技術者がいとも簡単にそれを作ってみせた。この銃はそのエイボンが作った四丁の拳銃の一つなんですよ」

「せ、世界に四丁……」

「そ。38魂径が二丁、42魂径が二丁の合わせて四丁。それが世界に存在する魂威銃の総数だった……先月まではね」

 

 そんな恐ろしく貴重な物を何故持ってるんだと聞きたかった芦戸だが、なんかサラッと恐ろしい事を言われそうだと感じたのでやめた。英断である。

 

 そんな心情を察したか察してないか、電気ケトルで沸かした湯をフィルターの上に盛ったコーヒーの粉末の上に注ぎながらシュタインは続きを話す。

 

「この銃の複製は誰にも出来なかった。勿論俺もできなかった……けど、明はこの銃という教材すら無しでポーラスターを八割、ほぼ完成近くまで作り上げた」

「八割……」

 

 シュタインは芦戸の呟きに軽く頷き、磨き上げた銃を足元に置いていた小さなジュラルミンケースに入れ、鍵を掛けた。

 

「あのヘドロ事件のあった日に、明が俺の作業場に転がり込んできてね。俺に全力で頭下げて『私に教材を下さい! 事情が変わりました!』って叫んだんだよ」

「…………ヘドロ事件の、あった日……?」

「そう」

 

 芦戸は緑谷に根掘り葉掘り聞いた(発目は一切話してくれなかった)ポーラスターを手に入れるまでのドラマみたいなストーリー展開を思い出す。

 

 そして、そのストーリーが間違っていないなら。

 

「……じゃあ、明ちゃんは……」

「全世界の色んな方面の技術者が何しても作れなかった魂威銃を、一人で何のサンプルも無いゼロの状態から『たった』十年ちょいで八割作り上げ、サンプルを手に入れてからならたったの一日ちょいで残りの二割を仕上げたって事だね」

「ええー……? 頭おかしい……」

「ヘラヘラ。やっぱりそう思います? 頭おかしいですよねぇ。自信無くすよ全く」

 

 そう言いながらもシュタインの顔は自信を喪失したような感じは微塵も無く、むしろ義娘の快挙を祝うように緩んでいた。芦戸はそれを微笑ましく見つめながら、バターの塩気が美味しいパンを齧る。

 

「本ッ当に天才なんですねー、明ちゃんって」

「天才は裏で努力しているなんて事もあるけど、明の場合最初からああだったからね。まさに本物の天才ってやつですよ」

 

 博士はそう言って淹れたコーヒーを飲み、焼いたままの何も付けていないパンを咥える。廊下で行われているツイス○ーの道具を使用して行われる競技らしき何かに決着がついたらしく、爆豪の叫び声が聞こえた。どうやら彼は負けたようだ。

 

 と、その時食卓の上に置かれていた芦戸の携帯のアラームが鳴り響いた。

 

「……あ、テレビテレビ」

 

 芦戸は食パンを齧りながらテレビの電源を入れる。それとほぼ同時に決着のついた緑谷達が半裸のままドヤドヤと食堂に入ってきたため、芦戸は無言でその集団に弱酸の雫を振りかけた。

 

「ふー、感動的ないい勝負だったああっちゃぁっ!?」

「おわぢっ!? あ゛ぁ!? 何すんだ黒目テメェ何すんだゴラァ!」

「汗! 始まるまで時間あるから汗流してきなって! 食堂汗臭くしないでよもう! 早く行かないともう一回酸掛けるよ!」

「ちょっ、勘弁! 分かったから! 行くから!」

「この人数だし庭のホース使いましょうよ」

「僕等はどうでもいいけど明ちゃんだけはそれやめて! お願いだから! 庭は外だからね!?」

 

 入ってきた時と同じように、今度は芦戸に追い立てられながらドヤドヤと出て行った馬鹿共を鼻息荒く見送った芦戸は残ったパンの最後の一口を口に含み、コーヒーで流し込んだ。

 

「博士ぇ、自分の義娘があんなカッコしてて良いんですかァ? 男物のトランクスに上はタオルて。上タオルて!」

「良いんじゃない? 別に公共の場でやってる訳でもなし」

「えええええ……良いんですか……」

 

 シュタインの答えに若干頬を膨らませた芦戸は頬杖をついてテレビを見つめる。シュタインは食卓に置いていた灰皿を持って窓際に行き、窓を開けてから煙草に火を付けた。外からは顔面に水をぶっかけられて怒り狂う爆豪の声や、心操や切島のバカ笑いが聞こえる。芦戸はそうやって盛り上がれる事に羨ましいやら馬鹿らしいやら、様々な感情を感じつつコーヒーにスティック一本分砂糖を追加した。

 

「……煙草って美味しいんですか?」

「マズいよ。けど何でか吸っちゃうんですよねえ」

「デステゴロは美味しいって言ってましたけど」

「じゃあデステゴロは美味しいんだろうねえ。ヘラヘラ」

 

 そう笑うシュタインと、ちょっと膨れている芦戸の視界の先にあるテレビは『雄英体育祭』のロゴを映し出していた。

 

「一年後には……私がここに……かぁ。実感湧かないなー」

 

 ボンヤリと画面を見つめながらそう呟く芦戸。そこで食堂に繋がる扉が開き、温かいシャワーで汗を流し、さっぱりとした緑谷と発目が入ってくる。緑谷の手にはドライヤーとタオル、そして櫛が握られている。シュタインは煙草を咥えたまま外に出てまだまだ肌寒い五月にマッパで水遊びをしている男子連中をしばきに行った。

 

「ああ、間に合った……ほら明ちゃん、ここ座って。髪乾かすよ」

「はーい」

 

 濡れた発目の髪にタオルを、両側から髪を挟み込むようにポンポンと何度か押し当ててある程度の水気を取り、そこから髪をつまみ上げたりパラパラと落としたりしながら丁寧にドライヤーを当てて髪を乾かす緑谷。そんな丁寧な作業をする自分の髪は適当に拭いただけの辺りが彼の中の優先度というか、扱いの差を感じる。

 

 芦戸は気持ち良さげにしている発目の目を閉じた顔を珍しげに眺めつつ、「本当、恋人大切にしてるねえ」と呟いた。

 

「うん? ……うーん、まあこれは明ちゃんがやって欲しいって言うからであって、別にやらなくても大して変わらないんだけどね」

「ん? 変わらないってどういう事?」

「何でか知らないけど、明ちゃんってどんなにケアを怠っても、何なら一切ケアなんてしなくても髪は傷まないし肌だってニキビの一つも出来ないんだよね……そう、例えば一週間お風呂入らなくても。もう何か、怖いよね」

「ハァ!? 何それずっる!? 肌荒れとかした事無いの!?」

「無いですねえ! マシンオイルとかが腕にかかっても肌荒れしないんで私はこの体質好きですね! 手先指先が荒れるのは技術者としては有難くないので!」

 

 女の子なら誰だって羨ましがる超体質を『耐溶剤』くらいにしか思ってない発目に対して芦戸はガーッと頭を抱えて吠える。世の中の女の子がどれだけ肌や髪のケアに気を使っていると思っているのか。

 

「て、天は二物を与える……てかズルい! 私もその肌欲しいー! 私は髪だって枝毛ばっかりなのにー! ……っはっ、もしかしてここのお風呂場にトリートメントが無かったのって……」

「使った事無いですね!」

「うがぁ────っ!! なんであのやっすいシャンプーでこんなにスルッスルの指通りになるのか不思議だったのにィ! 神様は何でよりにもよってこの子にその体質を与えたんだァァァァ!!!!」

 

 発目の何の抵抗も無いサラサラの髪を撫で回しながら芦戸は世の不条理に嘆いた。研究所にはロクなケア用品が無いからと自宅からわざわざシャンプーやコンディショナーをポーチに入れて持ってきている自分がバカのようではないか。芦戸は溢れる涙を必死にこらえた。

 

「私にも何でかは分かんないですけど、多分神様が『お前は何も考えずに研究開発だけやってろ』って言ってるんだと思いますよ。神様が実在するならですけど」

「……クッ、ありそう……!」

 

 先程シュタインから聞いた発目の才能の話と合わせて考えるとその説にかなりの説得力が出てくる。嗚呼これも神の考えた必然なのか。「次は私がやってあげますね!」と緑谷の頭髪を男らしい手付きで乱雑に掻き回す発目を恨めしげに見つつ芦戸は本日何度目になるか分からない世の不条理への嘆きを発した。

 

「明ちゃん痛ただ髪抜ける抜ける……あ、通形先輩だ!」

「おお、本当ですね。露出癖は治ったんですかね」

「んぇ、現役雄英生に知り合いいるの!?」

 

 芦戸達がテレビを見ていると、丁度全クラスが入場した辺りで庭に続くドアから野郎三人がタオルで身体を拭きながら入ってくる。その後ろではシュタインがネジを回しながら煙草を吸っている。

 

「おお、もう始まってる」

「天喰先輩出た?」

「出たよ。吐きそうな顔してた」

「ワハハ」

「おいデク、何かつまめるもん出せ」

 

 あらかじめ部屋の端に用意してあった部屋着にそれぞれ身を包み、思い思いの場所に座ってテレビを眺める。今の二年を担任しているらしいヒーローが司会進行を続ける中、遂に第一種目が始まった。

 

「一回戦球当てなのか」

「球の補給場所は会場内に八ヶ所……身体に装着した三箇所のポインターに当てられたかどうかで点数を加点……なるほど、ポインターが三箇所全て光ってしまったら球を当てても自分も相手も得点にならないのか……球の補給場所に行けばポインターが復活、復活まで十秒か……リタイアはあるけど当てられても失格じゃ無いから最初から最後までほぼこの人数が会場を埋め続けるのか。これ一回球を無くしたら全方向から的にされるね。球を手元から無くさないように立ち回りつつ全周囲に気を配って……こんなの溺れた人を棒で叩く事が基本戦術じゃないか……こっわあ……一回戦突破人数四十四人……今回は最初から公表するのか……競争を激化させるためか? 現在の所持ポイントは見られないようだしそうなのかもしれない……去年一次通過何人だっけ?」

「ブツブツうるせえ死ね」

「天喰先輩マジで死にそうな顔してんな」

「天喰先輩どの人?」

「ほらあの金髪の人と青い髪の女の人にめっちゃ肩叩かれて励まされてる……」

「あー……あーああ……本当に死にそうな顔してんな……ってか震えだしたぞ…………あ」

「………………えづいた」

「……始まっちゃった……体調不良者が居てもお構いなしなんだ……前は気付かなかったけど、雄英って弱者に厳しいんだねぇ」

「天喰先輩ファイトっす……会った事も無いけど」

 

 

 

 雄英高校。大運動場β。

 

 

 

 壮絶な顔芸だけでテレビの向こうに自身を応援してくれるファンを二人獲得した天喰だが、現場ではその顔芸はカモという意味でとても人気であった。天喰の緊張に歪む顔を見て周りの人間は天喰に狙いを定め、それを敏感に察知してしまった天喰が更に緊張を感じ、より派手に歪む顔を見てまた周りの人間が……という地獄のループである。

 

「ねぇ大丈夫? 天喰ねえ大丈夫? 顔青いけど死なない?」

「大丈夫だ環お前ならやれるさ! 今まで頑張ってきただろ! 自分の努力に自身を持とうぜ!」

「……吐きそう」

「無理か……よーし、ここは俺の渾身一発ギャグ『ネッシー』で緊張を……」

『ハイよーいスタート』

「あっやべっ」

 

 地面に潜ってケツと脚を一本だけ出した通形を無視して、スタートの合図が鳴った途端に周りから天喰一人を集中して飛んでくるボール。

 

 そんなボールに囲まれあまりの緊張に固まった天喰を守るように……というか、天喰もろとも当てられそうになった自分たちの身を守るために、即座に地上に飛び出た通形はいくつものボールを蹴り返し、波動は水切りをした時の水面のように空間に大量の弱い波動を散らしてボールを全て絡め取り、己の手の中に保持した。

 

「……ふ、二人共、ありが」

「えい」

「ほい」

「えっ?」

 

 礼を言おうとした天喰の身体に付いた三つのポインターの、一つに通形がボールを押し当て、もう一つには波動がボールをポンと当てた。

 

「今のはボディーガード料って事で! それじゃあ環、お互い頑張ろう! 死ぬなよ!」

「天喰、ごちそうさま!」

「……ええぇ……?」

 

 まさか初失点がこんな形で成されるとは。口から何か溜息と共に生命力とか魂みたいなものとかが吐き出された気がしたが、同時に緊張や弱気もある程度は吐き出された。

 

「死ねえええ!! A組いいいぃ!!」

「……そうだよな。今日のために頑張ってきたんだもんな……それに、緑谷君と約束もしたし……」

 

 ボールを持って突進してきた生徒の一人を掌から出したシジミの貝殻で叩きのめす。そしてバランスを崩した生徒に自分の持っていたボールを当てた。

 

「……やってみよう。やれる所まで」

 

 誰に言うでもなくそう呟いた天喰は落ちているボールを拾って駆け出す。

 

 ……そして結果、天喰は二位に食い込み、三位は通形、一位は波動という前年度『落ちこぼれ』と言われた人間がトップスリーを独占する異常事態で体育祭一回戦は幕を閉じた。

 

「いやー! 明らかに手数の違いが出たよね! 波動の範囲攻撃はヤバい! 環のタコ足も範囲広すぎ! 俺巻き込まれそうになったもん!」

「天喰よく頑張ったねえ何で頑張れたの? ねえいつもはあのままトイレ行きじゃない何で? 何で頑張れたの?」

「……二位……ッ! …………周りの二位を見る目が胃に突き刺さる…………ッ!! 止めてくれ…………止めてくれ…………! ……止め……て……」

「あ、通形、天喰倒れたけど」

「ああ、放っとけばそのうち勝手に起きるよ! 環、メンタル弱いけどしぶといからさ!」

 

 天喰が志半ばで地に伏したが、それに構う事無く舞台は二回戦へと進む。

 

「環、俺と同じチームに入ろうぜ!」

「ねぇねぇ私も入れて? 私も一緒のチームに入りたいんだけどねえねえ聞いてる? 天喰」

「何で皆俺に聞くんだ……本来なら俺が土下座する場面だろうここは……土下座していいですか」

「よーし! やろうぜ皆!」

「頑張ろうね! ね!」

「土下座をさせて下さい」

 

 和やかに笑い合う三人(一人は青い顔で地面に正座している)に、この三人の一年間を知らない他の科の生徒や観客達はざわめきを抑えられない。何故なら彼ら三人は前年度、注意力散漫であったり緊張癖であったり、そもそも個性がまともに扱えなかったりで『落ちこぼれ』とされていた三人だったのだ。

 

 それがたった一年で、圧倒的に、誰も寄せ付けない程にその戦闘力を強化している。そんな周りの反応を察する三人(一人は地面に額を擦りつけている)は顔を見合わせてニコリと笑った。

 

「……っくぅーっ! こうやって周りの反応を見ると、自分の成長が把握できて嬉しいよね!」

「だね! でも天喰はなんで土下座してるの? 何か謝る事あったの? ねえ何で?」

「何だか自分が周囲に怖がられたり持ち上げられたりして落ち着かない時は、土下座をすると心が落ち着くんだ」

「ふぅん、へんなの」

「ぐふっ!?」

 

 胸を押さえて土下座の状態で力尽きた天喰を一瞥もせず、通形は鼻の下を擦って笑う。

 

「まあ、来年入ってくるあの超絶激強中学生達に先輩ヅラするためにも、去年の職場体験で俺を認めてくれた『サー』の為にも! 俺としては何としてもメダル手に入れなきゃなんだよね!」

 

 波動は肩のストレッチをしながらその言葉に力強く頷いた。

 

「あー、それいいねー! 私もメダル取ったよってかっちゃんに言いたい! 金メダル取りたい! 金メダル!」

「はっは! 残念ながら金メダル取るのは俺なんだよね!」

 

 天喰はそんな二人を下から見ながら土下座を止めて回復体位になり地面を愛おしげに撫でていた。

 

「周りの人間が前向き過ぎて自分の後ろ向きな所が目立ち過ぎるつらい泣きたい帰りたい。あんな前向きな人間との接し方が分からない……」

 

 今現在、そのあまりにも個性的かつ意味不明な絵面で中継カメラを含め体育祭を見ている全ての人間の視線を独り占めしている三人。

 

 この三人はこの後の試合でも軒並み好成績とカオスな光景をバカスカ打ち立てまくり、その他の生徒を完全に喰い尽くす圧倒的存在感と実力をもって『雄英ビッグ3』と呼ばれる事になる。

 

「天喰、大丈夫ー?」

「ああ……俺だってこの一年自己メンタルの管理に勤しんで来たんだ……計算完了! あと百五十秒はフルパワーで動ける!」

「ブッハーッ!! メンタル管理ってそういうの!!」

「ミリオに笑われたから百秒減った」

「雑魚さは変わらないんだねぇ、なんでそんなにノミの心臓なの? 人なのに」

「あっ波動さんの言葉の刃でメンタル枯渇した」

「環!? 環が死んだ!!」

「天喰!? 死なないで天喰ー!」

 

 ………………呼ばれる事になる!




やっぱこの小説はこうでなきゃな(爆笑)

本当は二回戦の『超個性サッカー編』まで書く予定だったんですけど、この話の為だけにアホほどオリキャラ作るのも嫌だなと思ったのでここまでです。断じてツイス某に文字数を取られたわけではない。

それと評価件数百件突破致しました!!もうめっちゃ嬉しいっす!ありがとうございまっす!これからもお願いします!
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