毎回小説書いてる途中で『今回は前書き何書こっかなー』って考えるけど、いざ書く時には全部忘れてる。絶対書こうと思ったものすら忘れる。何なんだ一体……
今回のあらすじ
爆豪勝己、出陣!
Lősさん、誤字報告ありがとうございます。
折寺市駅。始発。
「えー、かっちゃんの
「死ね!!!! 」
爆豪の(早朝の時間帯に合わせた程度の)全力爆破がニコニコ笑顔でエールを送ろうとしていた緑谷の顔面におもくそ叩き込まれ、緑谷はニコニコ笑顔のまま猛烈な勢いで回転して顔面からアスファルトに突っ込んだ。
尚、緑谷が吹っ飛ばされた進路上には発目が居たのだが彼女は何食わぬ顔で緑谷を避けていた。高速で飛んでくる六十キロ後半の重量がある物体を受け止めろ等とは流石に言えないが、それでもこう……もっと、こう、さぁ! ……と思うのは悪い事であろうか。
顔面をアスファルトとごっつん(穏当な表現)してだいぶ直視するのに勇気が要る感じになっている緑谷をとりあえずガン無視して心操は爆豪に学業成就の御守を投げ渡した。
「まあさ、頑張ってこいよ。それやるから」
「要らんわ」
キャッチした御守を心操に投げ返そうとする爆豪の腕を切島がガッチリ固定し、芦戸がそんな爆豪の背を押してグイグイと駅へ歩ませていく。
「まぁまぁそう言うなって! な!」
「私等もお賽銭一円出してお参りしといたからさ!」
「ンなお情けみてえな祈り要らねえつっとんだ! ブチ殺すぞ!」
両手に爆炎を迸らせながら怒る爆豪から三人は笑って逃げ出す。ちなみに発目は駅前の自販機の下を覗いていた。まるで興味が無いらしい。彼女の性格を考えれば当然と言えば当然か。
「ハハ! んな怒るなよ! ……ま、あれだ。気張ってけ!」
「……ッチ、クソ暇人共が!」
笑って片手を挙げる心操。歯をみせて笑いながらガッツポーズを取る切島。両手を振りながらピョンコピョンコ跳ねる芦戸。完全無視の発目。死に体の緑谷。爆豪は彼等を一瞥してから盛大に鼻を鳴らし、ポケットに手を突っ込んで改札へと向かっていった。
駅のホームに繋がる階段を上がる途中で爆豪が心操達の方を見ずに中指を立てたのを見て、三人は顔を見合わせ、「アイツらしい」と笑う。
「……あー、良かった。御守持ってってくれて」
大きく振っていた手をそっと下ろして芦戸がそう言うのに、心操が緑谷を揺り起こしながら軽く笑う。
「アイツは当たりが滅茶苦茶強いけど別に薄情じゃないよ。当たりは滅茶苦茶強いけど」
「悪い奴じゃあねえんだよなぁ、アイツは! 嫌な奴ではあるかもしれねえけど!」
「勝己さんは針のしまい方を忘れたハリネズミだっておじさん言ってましたよ。なるほど言われて納得ですよねえ」
「あ゛〜……イタタタ……あー、性格的には散歩とかで誰彼構わずすれ違う人にやたら吠え回す小型犬って感じだよね……犬って小型犬ほど好戦的な子が多い気がするけど、アレ何でなんだろう」
爆豪に対し芦戸以外の全員が物凄く辛辣な評価を下していた。芦戸は黙って一つ頷き、「…………うん! そうだねっ!」と言うに留めた。下手に対応したくなかったし、全員別に間違ってないなとも思ったからである。爆豪の人物評は誰からしても基本的に低ランクなのだ。
「……ふーああ……帰ろう」
「そうだね。今帰ったらあと一時間位は眠れるかな」
「出久さん、おんぶー……」
心操があくびをしながら駅に背を向け、緑谷が眠たげな発目を背負うのを見て顔を見合わせた切島と芦戸の二人はそのまま黙って後に続いた。
「ホントマジでアッサリしてんなぁ、お前らさ」
「しみじみしたり緊張したりなんて俺らのやることじゃないからな。そういうのは全部勝己がやっとけばいいんだ……まあアイツはしみじみも緊張もしないんだろうけどな」
そう、心底羨ましそうに呟いた心操の頭にハタ、と何かの落ちる感触がする。それが何なのか正確に察した心操は「うっわあ」と嫌そうな声を出した。
「おい皆、雨降ってくるぞ」
「本当に!? さ、幸先悪いなぁ!」
「うっわ、うわ、本降りじゃねえかコレ! この近くコンビニとか無えの!?」
「ぎゃー! 濡れるー!」
にわかに降り始めた雨から逃げるようにバダバダと駆け出す四人(プラス荷物一人)。その視界の端に始発らしく音を立てないようにゆっくりと駅から出ていく電車が見えた。
「あ! かっちゃん頑張れぇッ!! ほら明ちゃ……もう寝てるし!?」
「ハハッ、マジかよ……! 勝己頑張れ!! 冷たっ、風邪引く!」
「頑張れー! 爆豪ー!」
「ファイトだ爆豪ッ!! 寒っ!! マジ寒っ!」
頭の上に手をやったり着ていたパーカーのフードを着けたり、
「あっはははは!! 頑張れー! 爆豪ー! ブラ透ける!」
「ブッホァッ、おま、お前これ俺のパーカー羽織ってろ馬鹿!! つーか靴が! 靴がガポガポ言う!」
「ひょー、パンツまでびしゃびしゃになってんぞ! てか天気予報雨だったか!?」
「かっちゃん頑張れー!!」
「……出久さん、寝れないです。しーっ」
「あ、ごめん……」
そうしてひとしきり笑い転げながらゲリラ豪雨に襲われる市街を走っていた無免達だったが、数分経った頃まるで示し合わせたかのように一斉に正気に帰り、取り敢えず雨宿りできる場所を探し始めた。
そんで。
「…………俺のトコ来た、と?」
早朝、まだ日の登っていない時間のデステゴロ事務所。そこで思い思いに服を脱いだ無免達が借りたタオルで身体を拭っていた。若干呆れ混じりにそれを見ていたデステゴロに、緑谷が発目の頭をワシワシ拭きながら頭を下げる。
「はい……ご迷惑おかけします……」
「ああいや、別に迷惑でもねえけどよ……っにしても参ったな……この事務所は洗濯機すら無えぞ? 服乾くのにゃ時間かかるし……しゃーねえからコインランドリーでも……ああ、ついでに近くにあるランドリー横の銭湯入って来いよ。冬じゃないっつってもまだ六月だ。雨降られて結構冷えたろ」
「おお、銭湯いいすね!」
頭を豪快にワッサワッサ拭いていた切島が顔を上げてそう言う。雨によって上がっていた髪が下り、いつもとはまるで違う印象になった心操もそれに同意するように深く頷いた。
「朝風呂いいな。デステゴロも一緒に行きます?」
「バカ、俺はこれからパトロールだよ。何のためにこんな朝早くから事務所来てると思ってんだ……ホラ、小遣いやるからはよいけ」
運良くデステゴロから事務所に置いてある岳山が着ていたのと同サイズのサイドキックスーツ人数分と千円札を一枚手に入れた無免達はそれぞれ思い思いに頭を下げてから事務所の一角にある更衣室に入り、速攻で服を着替えて外へと走り去っていった。
「じゃあ、デステゴロ! ありがとうごさまいました!」
「デステゴロ! アッザス!」
「おーう、温まってこい」
「この御恩は今日の晩飯まで忘れねえっす!」
「千円返せ!」
ギャースカ騒いでいた子供達が居なくなり、急に静かになった事務所で煙草を取り出し火を付けたデステゴロは置いてある応接椅子に深く座り込み天井を眺めながら黙って煙を吸い込んだ。
「……あと何年かで、アイツらもヒーロー、ね……」
一本目をすぐに灰にしたデステゴロはもう一本煙草を取り出し、咥えて火を付ける。
その脳裏に浮かぶのは、疲労と古傷と年月によって痩せこけた身体に矜持と責任と覚悟の鎧を纏い、血を吐きながら戦い続ける一人の圧倒的で絶対的なヒーロー。
「……『象徴の代償』……か……」
デステゴロは煙草を口から離し、ゆっくりと煙を吐き出す。その煙が空に溶ける様を眺めながら、デステゴロは軽く煙の無い息を吐いた。そして再び吸いかけの煙草を咥え、二本目を深く吸い込んでから灰皿に押し当てその火を揉み消した。
「……っし、行くか、パトロール!」
結局の所、いくら考えたところで一発逆転の手など無い。いや、そもそもこの世に一発逆転の手など存在しない。だからデステゴロは、いつも通りにパトロールを続け、今は姿を見せていない未知の悪と戦い続ける。
「お、デステゴロォ! 今日もお疲れだな!」
「おーう、何か変わった事無かったすか?」
「はよー、デステゴロ! ティッシュいるすか?」
「あー……貰うわ。サンキュな。何か変わった事無かったか?」
「なぁに、いつも通りすよ」
もし一発逆転の手と呼ばれるものが存在するというのなら、それは、誰にも見向きされずにたった一人で積み上げた努力の結晶が形を成すその瞬間の、最後の一手の事なのだから。
「努力は裏切る。そりゃあ、間違い無い……だが己に課した努力は決して無くなる事は無い……ってな」
「お、またクサい事言ってんなお前さん!」
「デステゴロってちょくちょくクサい事言う悪癖あるっすよね」
「るっせぇ! 放っとけ! 悪癖言うな!」
銭湯。朝方。
「っっかあぁ〜〜〜〜っ!!! 染みるぅぁ〜……」
「…………あ゛〜……全身伸ばせる風呂はもう……たまんねぇ……家に欲しいわ……」
早朝の誰もいない浴場に心操と切島の抜けた声が響く。デステゴロ事務所に辿り着くまでに雨で冷えた身体の関節が温まる、ジンジンとした痺れを感じながら二人並んで「あー」だの「うー」だの言っている姿は少しばかり間が抜けている。そんな二人の向かいに、緑谷がいつもの苦笑を貼り付けながら腰を下ろした。何処かのピンクのせいで苦労人ポジションが板に付いてきた彼である。
そんな緑谷の身体を何となしに見ていた切島が、頭に乗せていたタオルで顔を拭ってから「いやー」と声を上げる。
「しっかし緑谷……改めて見ると身体すんげえな!」
「……ん? ああ、古傷? 確かに衣替えの時期、新入生にドン引きされたりはするけど」
シュタインとの修行により全身に刻み込まれた無数の古傷があるお陰で学内での緑谷の人望は毎年夏七月を境に一度急下降するのだ。ちなみに初めて緑谷の裸を見た時、切島は普通にドン引きした。彼はまだ常識人なのだ。まだ。他の面々と比較して。
「お、おおぅ……まあ傷もだけどよ、筋肉の付き方とかその他諸々全部だよ……いや中学生でそんな筋肉付けてんのお前だけじゃね?」
「その言い方かっちゃん怒るよ。間違い無く」
緑谷は苦笑しつつそう言って、自分の肩にバシャリと湯を掛けた。その身は大小様々な切り傷、打撲痕、縫い跡、火傷痕、その他諸々の傷で覆われており元の肌がある部分の方が少ないのではないかと切島に思わせた。その傷の多さはともすれば痛々しさを感じさせるが切島はそのようなイメージを抱きはしない。
その理由は肌の下にある鍛え上げ、絞り込まれた筋肉である。
……例を上げるとするならば、アフリカにあるサバナ地帯において群れの頂点に君臨するライオンが傷だらけであったとして、そこに痛々しさを感じるであろうか? 答えは、否である。いや、やっぱりちょっとは感じるかもしれないけどここではとりあえず否とする。
身体に多くの古傷を背負ったライオンから感じるものは歴戦の風格と王者の威容、そして圧倒的な力なのだ。
その身に付いた大量の傷痕の下に確かに存在する、その年代の極限まで練り上げられた肉体がその肌を痛々しいイメージから雄々しいイメージへと変化させている。そんな緑谷の肉体を眺め、再び「はーっ」と感嘆の声を上げた切島は自分の腕を持ち上げてここ最近でそれと分かるほどに太くなった二の腕を揉む。その肌は大小様々なかすり傷が付いて以前より野性味は増しているが、緑谷の域には到底到らない。緑谷の肌は、何というか、傷が重なり合って厚くなり、間近で見れば材質さえ違うような気さえするのだ。
「俺なんか筋肉は最近スゲー付いてきたけどよ、なんつーか、緑谷のその肌の……何、存在感? 質ってーか、重み? みたいなモンが全然違う気がすんだよな」
「アッハハハ、そりゃ切島君とは重ねた傷の多さが違うよ! 十年鍛えられ続けたんだから! ……というか別にそんなの気にしなくてもそのうち嫌でも僕みたいになるって。ほら、人使くん見てみてよ」
「……んあっ……何? 呼んだ?」
緑谷に名前を呼ばれてウツラウツラと船を漕いでいた心操が顔を上げる。その肉体をサラッと眺めた切島は顎に手をやって「うん……」と重々しく頷く。
寝惚けている心操のその肉体は、緑谷とはまた違う筋肉の付き方をしている。
緑谷のそれが先程の通り緻密な筋肉と傷の厚く重なった頑丈な肌からなる歴戦のライオンだとするならば、心操の肉体は意外にも細く、しかしその筋の一本一本が皮膚の上から分かるほどに張り詰めている。
その様はしなやかで柔らかく、しかし強靭な体躯を持つ豹のようである。そしてその皮膚は緑谷に比べると格段に浅く少ないが、それでも薄っすらとした傷が複雑に重なり合って切島のそれよりもずっと厚い事を感じさせた。
「……なぁ、同じ人に訓練して貰ってるけど心操と緑谷って割と筋肉の付き方違うよな?」
「ん? まぁな。俺と出久じゃ戦い方がそもそも違うし、それに合わせて身体も作ってるよ……いや、単純に地力の違いもあるけどな」
「戦い方の違い……って、
切島の問いに心操は軽く頷く。そして立ち上がって湯船のへりに腰を下ろし、脚だけが湯に浸かるような姿勢に変えて話を続けた。緑谷は浴槽のへりに頭を置き、その状態で身体の力を抜いて湯の中にプカリと浮かし、切島は心操と同じように半身を上げる。
「まあ大きな違いは完全にそこだよな。俺は敵に一言声かけるだけで即座に制圧出来るけど、出久は相手を手ずからブチのめさなきゃならないっていう。だから出久は俺よりも多く敵の攻撃を捌かなきゃいけないし、俺よりも速く敵に接近しなきゃいけないし、俺よりも長く交戦しなきゃいけない。スタミナも何もかも俺より必要なんだよな」
「……個性があるか、無いか……か。他人が個性でやれる事を緑谷は全部自分でやらなきゃならねーんだもんな」
切島が湯の中で脱力している緑谷を見る。緑谷は深く息を吸って身体を浮き上がらせてから「プハッ」と一気に肺から全ての空気を抜いて湯船の底に身体を沈めて、天井を眺めながら一言だけ言った。
「まあ、覚悟の上だよ」
「…………っかぁ──ッ!! お前……ホント漢らしいなッ!!」
「まー出久はなぁ……あ、そうだ切島一つ忠告だけど」
心操は忠告という言葉に首を傾げる切島の肩にポンと手を置く。
「お前最近学校でも俺とよく絡んでるだろ?」
「……お、オウ」
「……一つ予言しとく。この夏、衣替えした日からお前は学内で『
「は!? 何で!?」
唐突に齎された予言に若干声を裏返らせつつ聞き返す切島の肩に手を置いたまま、悲しそうに目を伏せて首を左右に振る心操はそのまま自分を指差した。
「他称『結田府中で一番の
バーン、と効果音でも付きそうなほど自信たっぷりにアホな事を宣言する心操。悲しいかな、事実である。しかしそれを信じられない切島は驚きつつも疑問を述べる。
「マジかよ!? 何でそう言い切れんだ!?」
「だって俺小学校の時そうだったからな」
「あ…………ッス」
「気ぃ使うな腹立つから」
疑問は即座に鎮火した。若干申し訳無さそうに笑う切島の額をペシッと叩いて心操は己の顔に湯を掛けた。
「ん? なら芦戸はどーなんだ? アイツだって俺らみたいに目立つ傷はねーけど、細かい傷はあるしお前ともつるんでっぞ?」
その疑問は切島としては割と当然の疑問だったのだが、心操はその問いに両手を振って溜息を吐く。
「芦戸は大丈夫なんだよ人気者だから。細かい傷も『ヒーロー科目指して頑張ってるんだな』で済まされるし俺やらお前やらに声かけてんの見られても『クラスの陰キャにまで明るく話しかけて優しいなあ』って評価になる。そういうもんだよ」
「…………マジっすか」
「なんとこれがマジなんだよなあ」
印象の与える影響力の高さに二人が戦慄していると、若干ウトウトしていた緑谷がふと起きて扉の方を見つめる。
「二人とも、人が入ってきたから静かに」
「お、ワリワリ……人?」
「うん。今服脱いでる」
「……緑谷、お前本当に何の個性も無いんだよな?」
切島が緑谷の他を隔絶した聴力にビビっていると、すぐに脱衣所に繋がる扉が開き、一人の男が入ってきた。
「……あ! 赤黒さん!」
「おお、赤黒さんじゃないすか。こないだぶりです!」
「…………ああ、お前らか……」
入ってきたのは起伏の少ない、全体的に薄い印象を他人に与える顔をした男だった。その男に緑谷と心操は親しげに声をかける。男が洗い場に行っている間に切島は心操に小声で尋ねた。
「……なあ心操、お前らの知り合いみたいだけど、あの人誰だ?」
「あー……だよな。知らないよな」
「あの人は赤黒血染さん。元ヒーロー志望だよ。普段は日本中を旅して回ってるけど、たまに折寺に来た時は僕等に稽古付けてもらったりする。最近は長旅控えて折寺を拠点にして周りをチョコチョコ旅してるみたいだよ」
「ほー、旅人……え、稽古? お前等が?」
一瞬そのまま流しそうになった切島が緑谷の目を見て聞き直すと、緑谷は苦笑しながら頷いた。
「赤黒さんは強いよ。滅茶苦茶強い……何本も刀を使って圧倒的な手数でどんどん押し込んでくるんだよね……あ、思い出すと寒気が」
「……あの人はガチで強い。博士程じゃない……と思うんだけど、総合的にはヒーローの平均よりかなり上……多分ヒーローになってたらトップ十位以内は狙えたんじゃねえかな」
「…………へ、へェー…………」
自分の知らぬ強者の情報にテンションが上がるかと思われた切島だが、その顔は青い。
何故なら、彼はこれまでの経験則的にこの後どういう展開になるのかが大体分かってしまったからだ。そしてそれはほぼ間違い無い。
「…………ハァ……」
「赤黒さん、今折寺に着いたんですか?」
「……いや、ここ何日かは……ハァ……路銀集め……バイトだ……」
「へえ……あの、お疲れじゃなければ、また僕等に稽古付けてもらってもいいですか?」
ほれみろ。切島は頭を抱えて叫びたかったが、初対面の人相手にその対応も失礼かと思い衝動を抑えた。ヒーローになる為の訓練なら甘んじて受けるが嫌なものは嫌なのだ。というかそもそも彼としては緑谷が「滅茶苦茶強い」とまで言う人間と稽古をするのが訓練なのか拷問なのかが判断できない。というか七割の確率で拷問に違いない。けど避けては通れない。けど逃げたい。物凄く逃げたい。気の毒そうに切島を見る心操の横で切島は軽く目元を押さえた。
そして、そんな切島の思いとは裏腹に話はトントン拍子に進む。
「……ハァ……なら昼二時にそちらに……ハァ……研究所に行く……」
「やった! ありがとうございます! いやぁ、このレベルの腕前の刀使いの人と戦えるチャンスなんて滅多に無いよ! 良かったね二人共!」
切島はそれに返事をせず、そっと心操を見た。
──嬉しいか?
心操はその視線に黙って眼を閉じた。
──風呂出たら遺書、書こうな。
その表情の意味を正確に察した切島は身体の力を抜き、ゆっくりと湯に沈んでいった。
雄英高校。試験会場。
電車で二時間ちょい程揺られた後に辿り着いた雄英高校。その試験会場となった教室の一つ。不機嫌さMAXみたいな顔で受験番号の書かれた机に座る爆豪(読者諸氏の彼に対するイメージを考慮して一応念の為に言わせてもらうと、勿論彼は机に備え付けられた椅子に座っている)はその顔に違わず物凄く不機嫌だった。
「だから俺分かるんすよ! アンタの熱さが! もうその身体見たら分かるんす! アンタの全身からもう『鍛えてるぜ! 強いぜ!』って感じが出ててもうスゲーっす! 感激っす! だから俺も声掛けたんすよアンタに!」
「黙れや……!」
その理由は爆豪の耳元で叫ぶような大声を発している騒音クソ大坊主(命名時刻:五分前)である。
彼は複数ある試験場の中で奇跡的に……と言ってもほんの数十分の一程度であるが……爆豪と同じ教室に配され、そこで見つけた爆豪にかれこれ十分程度話しかけ続けている。話しかけられている爆豪はあまりの煩さにグーで殴ったりしたのだが、
爆豪は憮然とした顔で腕を組む。タイプはまるで違うが、彼の脳裏には幼馴染のしぶとさの権化のような緑色と人の話を聞かない日本代表であるピンク色が笑顔でマイムマイムを踊っていた。帰ったらあの二人のケツを思い切り蹴り飛ばそう。爆豪はそう考えながら舌打ちしてソクオに目を向ける。
「ん!? なんすかそんなに見つめて! 何か用すか!?」
再度、爆豪の拳がソクオの顔面に飛ぶがソクオはそれを普通に避けた。しかし爆豪はそこで止まらずに何度もその顔面に拳を振り抜く。個性を使わないあたりここが受験会場だという事を(今はまだ)意識しているようだ。
「テメエが! さっきから! ずっと! 話し掛けて来てんだろうがよ! どーでもいい事ばっかベラベラベラベラうるっせえんだよ何の用だボケクソコラ死ね!」
「ああ! 俺の話が気になってたんすか! そりゃあ誠にッ、失礼ッ! 致しましたァ!」
爆豪の拳を(彼が本気ではないながらも)すべて避けきったソクオは一歩後ろに下がると、頭を振りかぶってゴシャアッ! と勢い良く試験会場の床に突っ込んだ。ソクオの頭を中心にひび割れるタイル。飛び散る血液。それを見ていた受験生の何人かは心の中で静かに雄英入学を諦めた。こんなにもアクの強い連中と一緒に学園生活を送れる気がしなかったのだ。
「…………で、何の用ださっさと言えカス」
「お名前なんすか!? 教えてほしいっす!」
「とんぬらだボケ」
聞き耳を立てている周囲が明らかすぎる偽名に(何故ドラクエ……?)と疑問を浮かべる中、受験会場のドアから大柄な男が入ってきて……ソクオと爆豪のあたりを見て、そっとドアを閉めた。
そっ閉じされたドアの向こうからは『なあ山田、教室交換しないか?』『あー、うん。ガンバ!』『なあ相ざ』『嫌だ』『香山ァ……!』『嫌よ絶対死んでも』等の不穏すぎる会話がしばらくの間聞こえ、それからまたしばらくしてソロソロと、恐れるようにドアが開かれた。それをみたソクオは爆豪に片手を挙げてから自分の机に戻っていき、爆豪は尊大に鼻を鳴らした。
「………………あー、君等の試験官を担当する…………ブラドキングだ……よろしくね」
仲間に見捨てられたヒーローはトボトボとその体格に見合わない歩き方で教卓の前に立つと、そこで大きく深呼吸を二度行い、すぐに気持ちを切り替え普段の精悍な顔付きに戻った。その事に教室中(除二名)から驚嘆のざわめきが広がるのを聞きつつブラドキングは首の辺りを揉み、数度肩を回してから一言一言確かめるように話し始めた。
「予鈴がなるまでは自由時間だ。『周囲に迷惑をかけない範囲で』何してても構わん……ただまあ、余裕のある奴は、俺の話を小耳に入れてくれると嬉しい」
そう言って、始まるブラドキングのちょっとした演説。腕を組んでいる爆豪や鼻やら額やらから血を流しつつ笑顔のままなソクオ等はブラドキングの話に集中し、他の受験生は自作ノートや赤本を開きつつ聞く者や、全く聞かない者等色々な生徒が居た。
「…………雄英高校ヒーロー科、一般入試は学力と実技の両試験を同日にこなす。今日この推薦試験よりも、圧倒的に人数が多いにも関わらずな……なぜこの推薦は実技と学力を別日にやるのか。その答えだが……」
と、そこまで言ってから一つ呼吸を挟み、ブラドキングは言葉を続ける。
「お前等の中にももしかしたら知ってる奴は居るかもしれんが、雄英一般入試の学力テスト合格ラインは高い……事も無い」
その、まさかの一言に受験生達はざわめく。それを敢えて無視したブラドキングは、一言「事実だ」とだけ言った。
「雄英高校の学力合格ラインは然程も高くない。勿論一般高校よりはずっと高い、一流高校レベルだけどな。だが、勉強が出来る奴ならそれほど苦労せずともそのラインは超えられる。それは何故か? ……それはな、代わりに実技試験の最低合格ラインが高いからだ。そして、雄英に受験しに来た学生の……およそ九割! 多い時には九割五分の生徒が実技試験最低合格ラインを満たさない!」
ブラドキングの言う、あまりにも高い壁。それを聞いた受験生達はゾッとその身を震わせた。
「そして実技の合格ラインを満たしていない学生はその時点で失格となるので、実際俺達が学力試験を採点をするのは五百から六百人ちょい、って事になる。それは何故か? まあ言わなくても分かるだろう……こちらに向かって暴力を躊躇無く振るうヴィランを相手取るヒーローとして、この実技も通れない奴を一から鍛える程俺達も暇じゃないって事だ……頭脳はまあ、最低限さえあれば他の事務はヒーロー資格を持たない人間に任せる手もある……というか、それが一般的だからな」
ブラドキングは受験生達の顔を見回してから、「ここまでが『一般受験生』の話だ」と、一旦その空気を区切る。
「君等は……今は、そんな『一般受験生』じゃあ、無い。君等はこの雄英高校の『推薦受験生』だ。勿論一般受験生とは求められるレベルが違う……君等に求めるのは、本当の意味での、最高峰レベルの『文武両道』! だからこうして筆記と実技を別日にしてある。一般ならともかく、推薦生に脳筋は必要無いって事だな……勿論この先の実技もより高レベルとなっているぞ」
そうドスの利いた声で言うブラドキングは生徒達の中に明らかに顔色を悪くしている生徒を複数人見つけた。そしてその表情に心の中で軽く溜息を吐く。きっと彼等は今の脅しにより自分の実力を発揮できずに二次試験落ちとなるのだろう。自分には情に厚い所があると自己評価しているブラドキングとしては、あまり嬉しくない光景だ。
(……だが、これを乗り越えられない奴には推薦入学どころか雄英高校さえ難しい)
ブラドキングがこうして受験生を脅しているのは、もちろん学校側からの指示だ。こんな圧迫面接じみた行為にも耐えられない学生は推薦生にするわけにはいかない、という意思である。
(……ま、一切堪えてない奴だって居るからな……ったく、ちょっとは表情変えろ)
相変わらずふんぞり返っている爆豪と未だ血が止まっていないソクオ等はその典型だろう。自分に自信があり、自分の能力に信頼を置いている証である。
「……俺の話は以上だ。おい、そこの……あー、夜嵐。この廊下向こうに行った所に手洗い場あるから顔洗ってこい。予鈴が鳴るまで時間無いぞ。急げ」
「ハイっす! あ! ブラドキング!」
「何だ?」
「後でサイン貰えますか!?」
「分かったからさっさと行け」
来年は恐ろしく騒がしく胃に悪いクラスが出来そうだ。ブラドキングは心の中で溜息を吐いた。
残念ながら大正解である。
デステゴロ大好きな作者がブラドキング好きじゃない訳無いダルォ!?
えー、無免達の日常回には作者自身が生活の中で体験した事等が割と過分に含まれている(パンイチツイスターはしたことないよ。一応言っとくけど)のですが、皆さんある程度察しておられるでしょうが作者は男なので男の入浴シーンしか知りません。これが何を意味するのか、まあ分かる方は多いでしょう。
今後も少年漫画で女性キャラが胸の大きさだのプロポーションだのを比較しているようなタイプのシーンは全て、マッスルゴリラ達が胸筋だの古傷だのを比較しているシーンに置き換わります。
全てです。慈悲はありません。
予告しておきますが勿論林間学校もオンリーゴリラです。
後、この小説に関しましては感想欄での展開予想等はいくらでもして下さって構いません。ただ今までも何度かありましたが、その展開予想を作者が何食わぬ顔でパクる場合もある事はご理解下さい。