無免ヒーローの日常   作:新梁

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そういや心操って脳無相手だと無個性じゃん(挨拶)

色んな所で色んな人が色々考えて色々行動してるから視点がシッチャカメッチャカになってるので読みにくいという人は申し訳ないけど頑張ってください……散々頑張って文の順番とか色々やりましたけどこの話は自分の技量ではこれが限界です……

今回のあらすじ

結田府大混乱

リア10爆発46さん、風速3mさん、誤字報告ありがとうございます。


第三十四話。七月下旬、厄日(中編)

 AFO繧「繧ク繝医€よ囓縺�€�

 

 

 

 

「マキア、今回は小手調べだ。こちらの手の内は一切出さず、君の身体能力だけで戦うんだ」

 

 社会の裏に潜む巨悪、オール・フォー・ワンは弱体化した自身の兵力の中で、自分自身を除き最も信の置ける戦力であるギガントマキアを結田府市に派遣していた。

 

「先生、筋骨撥条化の確保はこっちでやっとくぞい」

「ああ、頼むよドクター……」

 

 ドクターの献身に満足気に頷いたAFOは椅子の背凭れに深く身を預け、スピーカーから聞こえる少年二人の苦悶の声に耳を傾ける。

 

「さて……今、結田府周辺では『偶然にも』小さな事件が無数に起こっている。ヒーローの助けは遅れに遅れるだろうね……」

「先生、そいつらは殺すのか?」

 

 サラリ、とドクターの口より発せられた言葉にAFOはこれまた軽く頷く。

 

「今マキアに暴れてもらってるのは主に陽動と威力偵察だけど、殺せるなら殺しておくに越したことは無い……まあ、個性を使わずという条件がある以上……六から七割。最低でも五割の確率かな?勝率としては」

 

 ドクターはAFOのその言葉に、フム、と唸り首をゆっくり捻った。

 

「つまりマキアでも殺しきれん確率がそれなりにあると? ……ではこちらの撤退条件は何じゃ」

「十五分間の経過、もしくはヒーロー三人の現着かな。今はマキアの情報は出来るだけ伏せておきたいし、そのくらいが限度だろう」

「なるほど、手札が少ないと楽にはいかんのう……」

「なに、考え方次第じゃこれも一つの楽しみさ。限られた手札をどう遣り繰りすれば目的を達せられるかっていうね……まあそれに、極論こっちはただの陽動、個性奪取のついでみたいなモノだから失敗しようが成功しようが構わないわけだし」

 

 気楽なものさ、とAFOは身体の前に置いていた手を組み直して笑う。

 

「さて……良くも悪くも個性ありきな一般ヒーローとは違って、個性ではない地力、そして何よりも生残性が圧倒的に突出するのが彼ら死神教の特徴だ……場合によっては、今の弔にやらせるのは荷が重いかも知れないが……だけど、まぁ……それも彼等がここを生き残ってからの話だ」

 

 生き残れるかな、『無免ヒーロー』。

 

 社会の暗部に根ざす巨悪、AFOはそう言って、軽く笑った。

 

 

 

 西結田府。大通り。

 

 

 

 至近距離から繰り出されたマキアの拳をギリギリで受け流した心操は、しかし受け流した時に伝わった衝撃と、その拳により巻き起こされる風圧で軽く空を飛んだ。

 

「心操ッ!」

「気を取られるな! 死にたいのか!」

 

 伝わった衝撃に顔をしかめつつも何とか身体をしならせて上手く地面に着地した心操は、声を上げる切島を怒鳴りつける。その後で「何があっても個性解くなよ」と彼の方を見ずに言い、そして自分の腕を見て静かに絶句した。

 

(おいおい……受け流しただけで……!)

 

 大男の拳を受け流した心操の左腕。その腕に装着していた篭手に、盛大に擦過痕が付いていた。その傷痕は大きく、一部はえぐり取られたこのように形を歪めている。

 

 つまり、目の前の相手は(迷惑防止条例や凶器準備集合罪にカスらない程度の物ではあるが)仮にも強化樹脂で作られた防具を一撃で破壊するだけの力を持っている事になる。

 

「切島、硬化は続けろ……でも、できるだけ避けろ。こりゃお前レベルじゃ硬化ごと叩き潰される」

「俺レベルて……傷つくこと言うよな……」

「死ぬよかマシだろ」

 

 互いに視線を合わせずに話していた所に再び高速で突っ込んできた大男の拳、その脅威度を再認識した二人。今度は受け流そうともせずに二人共なりふり構わずに地面を転がって避ける。

 

 ゴガァ! と派手な破砕音が響くと共に砕けたアスファルトが心操と切島の夏制服に無数の穴やほつれを作った。手足を使ってみっともないと呼ばれそうな体勢で大男から距離をとった心操は未だ血の流れる頭部を庇いつつ身を起こす。

 

「っくおォ、危ね……」

「待っ!? 伏せろ心操ォ!」

 

 心操がその声に反応できたのは普段から危機的状況に適応する訓練をしているからだろう。

 

 起こしかけた身から何か考えるより先に全ての力を抜き地に倒れ込んだ心操の頭上を、背後から『何か』が通り過ぎ、心操の眼の前にあったビルに突き刺さり、ガヅン! とけたたましい金属音を鳴らした。

 

 攻撃が通り過ぎた事を確認した心操が即座に起き上がってその場から離れながら先程まで目前にあったビルを見ると、そのビルを形作るコンクリートに深々とマンホールが突き刺さっていた。状況から見て大男が投げたのだろう。心操は血の気の引く思いを感じつつ、タオルを越えて再び目に垂れ落ちてきた血を軽く拭った。

 

「……心操、無事か」

「この位で死んだら勝己にブチ殺されんだろ……俺は、アイツの全力を相手にすんのだけは嫌だからな」

「…………ハッハ! そんだけ言えりゃ大丈夫だな……!」

 

 再びタックルのような姿勢で突っ込んでくる大男。心操と切島は先程と同じように左右に転がって避けるが、大男の狙いはその後ろにあった。

 

 バキ、バキン!と連続する破砕音を聞き、二人が大男の方を振り返るとそこには電柱を持ち上げようとする大男の姿。二人の顔が盛大に引きつる。

 

「…………グオォ……ォ……!」

「……おーい……冗談だろ」

「……なーんでこんなんの足止めなんてしようと思ったかね……俺は……」

 

 大男は切島と心操の後ろにあった電柱を掴み、両腕の筋肉を恐ろしいほどに盛り上げていた。アスファルトを抉ってマンホールを取りだすその怪力に細い電柱が耐えきれる訳も無く、その根本は大きな音を立てながらビキビキとヒビが入り、内部の鉄線を晒し始めている。

 

「ハッ、すっげえな……なぁ心操、逃げた方が良いんじゃね……?」

「逃げるったって何処にだよ……芦戸……頼むから戻って来るなよ……!」

 

「…………ッオオオオォアァァ!!」

 

 バキン! と握りしめられた鉄筋コンクリートの砕ける音、そしてバチン! と何度もスパークが付近の電線で起きる。道路脇にあった様々な店舗から、一斉に電気が消えた。

 

「……殺す……主の……命……!」

 

 大男がその身の丈よりも大きい武器を手に入れたのを見て、心操は額の傷を押さえて目に垂れた血を拭いながら、恐怖に震える声を絞り出した。

 

「……なあ切島……」

「どした」

「これが終わったら、ノンアルコールで一杯やろうぜ……!」

……………………

「……冗談だよ」

 

 血は、止まらない。

 

 

 

 西結田府。路地。

 

 

 

 芦戸は友人や店内の人間をバックヤードの裏口からたまたま近くにあった対個性防犯設備のある施設(郵便局)に押し込んだ後、現場に戻らず市街を走っていた。

 

「心操……切島……!」

 

 既に手元の携帯電話で警察への連絡は済ませている。ならば芦戸の向かう先は決まっていた。

 

 結田府市近辺担当ヒーロー、エアジェットの事務所である。

 

 無免ヒーロー達と行動を共にするようになってから街にいるヒーローの動きをよく見るようになっていた芦戸は、空を飛べるエアジェットが交通の多い朝方と夕方のみ街を見回り、日中は事務所待機が基本である事を知っていた。この街には他にもヒーローは多いがそこまでキッチリとしたスケジュールを持っている訳ではないために、彼女が行く事が無駄にならない可能性が一番高いのはエアジェットの所であった。

 

 だが、その行動は予想とは少し違う結果になる。

 

「ハッ……ハッ……! この……先……!」

 

 芦戸が路地を駆け抜け、少し大きな通りに出る。そこに出た瞬間見えたのは、先と同じ暴力が横行する光景であった。

 

「ハッハァ! 貰ってけェ!」

「大量だぁ!」

 

 そこに居たのは、コンビニに押し入りATMやレジを強奪している数人組の男達だった。他と比べてもかなり平和な部類に入るこの街でこのような犯罪が立て続けに起こっている事が信じられず、芦戸の思考は数瞬停止する。そしてその数瞬は、その強盗犯が芦戸の姿を見つけるのには十分過ぎた。

 

「……お、カワイイ子発見〜」

「オイ、何見てんだよ? もしかしてお金欲しいの? あげよっかー?」

 

 特に力のありそうな大柄な男に力仕事を任せ、大振りのナイフやパイプなどの武器を片手に芦戸に群がる三人の男。その時、心操と切島の居る方向とは真逆の方角から大きな爆発音が聞こえてくる。そこで芦戸は理解した。今現在、この街は集団犯罪の被害に遭っているのだ、と。

 

「おーい、聞いてる? あ、怖くて声も出ない?」

「見える? これナイフね。切られたら痛いよ〜?」

「…………どいて」

「……あ?」

 

 心構えが出来ていたか、と聞かれれば出来ていなかったと答えるしかない。

 

 芦戸三奈はヒーローになりたかった。市民を脅かす悪と戦う正義の味方となり、社会を守る職に就きたかった。

 

「……おい、何つった? ちょっとオニーサン聞こえなかったんだけど」

 

 しかし芦戸はまだ知らなかった。『社会が壊される』とはどういう事なのかを。

 

「どけって言ったのよ……」

「……ハ、この状況分かんねえの?若いねえ…………ちょいムカつく。ちょっと痛い目見せとくか」

 

 つい先程まで友人と軽く雑談をしていた時間が遠い昔のようだった。その友人の半分は今も死線を彷徨っており、もう半分は自分の甘い見通しのせいで今もまた危険に晒されているかもしれない。対個性防犯設備で対応できる個性はごく限られているのだから。

 

 ……つまりは、こういう、事なのだ。

 

 ヴィランが犯罪を起こすとは。日常が壊されるとは……こういう事なのだ。

 

 芦戸は、ヴィランが自分を脅すように目の前にチラつかせていたナイフを素手で掴む。

 

 芦戸がナイフの刃を握った事、そしてその刃が刺激臭のする煙を上げた事にヴィランが驚く様子を見せるが、芦戸は一切構わずに力を込め……

 

「……っんなぁっ!?」

「どけって……言ってるのよッ!!」

 

 そのまま大振りなナイフを一瞬で溶かし尽くした芦戸は、もう片方の手でヴィランの首を掴み自分に引き寄せ、その鳩尾に膝蹴りを叩き込んだ。

 

「ゴッ……!?」

「っな、このガキがっ!」

 

 芦戸が普通の少女ではない事を察した残りの二人が両側から襲いかかってくるが、芦戸は片方の顎を裏拳で掠め、昏倒させる。そしてその裏拳を放った勢いのままに身体全体を回転させ、もう一人の足首に回し蹴りを放って転倒させる。

 

「かっ!? てっめぇ……!」

「シッ!」

「ゴホッ!?」

 

 転倒した男の腹に踵落としを決めて意識を奪った芦戸は筋肉を盛り上がらせながらトラックの荷台から降りてくる男を睨みつけた。

 

「……おい嬢ちゃん……ちょっと調子に」

「急降下エルボォーッ!!」

「乗りブルボンっ」

 

 男は荷台から降りた瞬間に落下の勢いを乗せたエルボーを頭にくらい、白目を剥いてその場に倒れ込んだ。芦戸はそれを成した一人のヒーローに声を掛ける。

 

「エアジェット!」

「芦戸ちゃん! ガッコは!?」

「明日から夏休みだから今日は私の学校昼までなの!」

「はぁ!? マジかよタイミング最悪だな……!」

 

 実際はこの日を狙いすまされたのだが、そんな事は彼らには分からない。エアジェットはヒーローに携帯を許可されている簡易拘束具を使って四人のヴィランを手早く拘束する。

 

 ちなみにこの簡易拘束具は使用と同時に内部のGPSが作動して警察に確保要請が届く為、ヒーローが確保した以外にも逃走犯がいる場合はヒーローの判断によってそのままにしておく事も許可されており、またヒーローがこの拘束具を悪用する事も防いでいる。スグレモノなのだ。

 

「それよりエアジェット! 助けて!」

「何だ、何がだ?」

「あっちの大通り! 今凄い強いヴィランが暴れてるの! もう通報はしたけど……お願い! 心操も切島も、このままじゃ死んじゃうよ!」

 

 芦戸とて無闇に修行を重ねていた訳ではない。自分以上の強者と幾度と無く戦い続けてきた芦戸の戦闘勘はあの男に言い知れぬ脅威を感じていた。そして、それが自分だけならまだしも切島と心操もまた同じ脅威を感じているように見受けられた。

 

 一人だけなら勘違いもあるが、二人、三人となれば話は別である。芦戸の切羽詰まった表情に、エアジェットは少し面食らいつつも了解の意を示し、携帯電話を取り出した。

 

「……もしもし、至急救援要請を頼む! 俺はエアジェット! ヒーローコードは5425586! 地区はHH433! ……ああ、そう、結田府市だ! 今から言う内容を大至急近辺のヒーローに送信してくれ!」

 

 エアジェットはヒーローネットワークにより救援を求めながら、側にあったビルを軽業師の様に駆け上がり、その勢いを助走としてジェットパックを動作、一気に空中に躍り出た。

 

「西結田府メインストリートにてヴィラン発生! 結田府中の男子生徒二人が抵抗中! いつ被害が出てもおかしくない! ……ああそうだ! 男子中学生二人が抵抗……そうだ! 今言ってる通りに送るんだ! それだけでこの街近辺のヒーローは『察する』から! ……ああ、頼むぞ! 以上!」

 

 救援要請を終えたエアジェットは眼下の芦戸に顔を向け、軽い調子で親指を立てる。

 

「エアジェット……」

「大丈夫だ! 安心しろ……すぐに助けてきてやるからな!」

 

 だから大人しくしてろよ! と言い残し、エアジェットはバックパックから火を吹きながらその場を飛び去る。

 

 芦戸はしばらく、エアジェットが飛び去った空を眺めていた。しかしすぐにヴィラン確保にやってきたパトカーのサイレンが聞こえた事で我に返り、一瞬の間を置いてから元来た路地へと歩を進めた。

 

「ごめんエアジェット……けど……大人しくなんて、無理だよ」

 

 芦戸は、身体をブルリと震わせつつも、しっかりとした足取りで来た道を引き返す。

 

「……仲間(友達)が、戦ってるんだから」

 

 

 

 北結田府。道路。

 

 

 

「ハーッハッ! 大量大量!」

「さっさと逃げんぞ! 飛ばせェ!」

 

 銀行を襲撃して大量の現金を奪い取った名も無きチンピラグループはバンの中で各々好き勝手に現金を握りしめながら笑っていた。しかしその車がとあるマンホールの下を通った瞬間、彼等の欲に塗れた笑顔は絶望へと塗り替わる。

 

「止まれェ! 『間欠泉シュート』ォ!」

「オギャアアアア!!!」

「『ウルシ鎖牢』!」

「ウワアアアアア!!」

 

 下水道マンホールの下で待ち構えていたバックドラフトが走行中の車が水圧でちょっと浮く勢いで水流攻撃をぶち当て、その衝撃によりパニックで走行不可になった車をシンリンカムイがツタを絡めて左右のビルに引っ掛け、空中に浮かせる。

 

「さァー早く出た出た。オイタは終わりだ! 強盗罪は五年以上の懲役だぞ! 今この場で抵抗すればするだけ余罪が増えるぞ!」

「逃げられるとは思わない事だ。我々の他にもヒーローは居る」

 

 シンリンカムイが車に腕を向けながら放ったその言葉に、車の中に居たチンピラは下卑た笑みを浮かべる。

 

「……ッハ! なァにが『我々の他にもヒーローは居る』だよ」

「……何?」

 

 カムイとバックドラフトに同時に睨まれたチンピラは怖気づきつつも、無理やり強気に叫んだ。

 

「あのなぁ……それ言うなら、『俺達の他にも悪党は居る』んだけど?」

 

 それと同時に、腹を揺らすような爆発音。

 

「……バッ……クドラフトッ!」

「おう、行けカムイ! ここは俺に任せろ!」

「恩に着る!」

 

 バックドラフトが水をチンピラ達の周囲に展開したのを確認してからカムイは車に絡めていたツタを離し、ビルの上へと飛び上がる。そのビルの上から更に高いビルへ。そうして周囲で一番高い建物に登ったカムイはその光景に絶句した。

 

「……っ、あちこちから……煙が……!」

 

 そうしている内にも、ドォン……と腹に響く音と共に誰かの叫び声が聞こえる。カムイは即座に携帯を取り出し、一つの番号にコールした。

 

『はい、こちらヒーローネットワーク』

「こちらシンリンカムイ! ヒーローコードは6194448! 地区はHH433結田府市! ヴィランの複数地区同時多発的犯行が起きている! 組織犯罪の恐れ有り! 他地区ヒーローの救援を求む!」

『……コード確認しました。街の現状は?』

「目視確認できるだけでも四ヵ所において市街地破壊を伴う大規模な騒動が起きている! とにかく早急に救援を! 以上!」

『了解しました。早急かつ大規模に付近事務所に応援要請を出します。以上』

 

 携帯をアーマー内部にしまい込んだカムイはビルを飛び降り、重力を味方につけて加速をつけつつ建物の間を縫うようにツタで飛ぶ。

 

「……何故、いきなりこんな……!」

 

 現状に疑問を抱く声は、風切り音に溶けて消えた。

 

 

 

 折寺市。市境。

 

 

 

「ハァ……! ハァ……! デステゴロ……ッ! 待たせました!」

「っしゃ、行くぞ!」

 

 ヒーローネットワークから応援要請を受けた近隣事務所。その中には当然この二人も存在していた。中距離移動用にデステゴロヒーロー事務所が所持している黒ナンバーの軽バンに飛び込むようにして乗り込んだ岳山は、慌ててシートベルトを締めつつ携帯を取りだす。

 

「市民からの通報件数、十分前と比べて十五件増えてますね」

「位置は」

「……バラバラ、ですね。通報内容的には基本どれも普通の強盗……個性犯罪って感じでは無さそうな……」

「……っクソが、いきなり何だってんだ!」

 

 デステゴロがギチリ、と車のハンドルを握りしめて唸る横で、岳山は必死に通報現場を暗記する。事件現場で携帯を眺める時間は少ないほうが良いのだ。

 

「アングラサイトで仲間を募って一斉に……ってのが一番有力でしょうね……っ、て嘘!?」

「どうしたMt.レディ」

 

 赤信号を苛立たしげに眺めながら岳山の方をチラリと見たデステゴロは、次の言葉に目を見開く。

 

「……エアジェットからの情報! 西結田府大通りで増強系個性と見られる大男が暴れている……結田府中学の男子生徒二人が抵抗中……デステゴロこれって!」

 

 驚愕と呆れの入り混じった表情の岳山と、心配と憤怒が入り混じった表情のデステゴロ。

 

 その二人の脳内では、自分達が知る限り最も硬い中学生と最もやかましい中学生の二人が夏制服で金剛力士像のポーズを取りながら「二人はプリキュア!!」と叫んでいるイメージがありありと浮かんでいた。岳山の胃袋とデステゴロの堪忍袋の緒に三百のダメージが入った。

 

「あ……っんの馬鹿共がッ!! 場所はァ!」

「ナビします! ……あーもーまた無茶して……!」

 

 信号が青に変わる。軽いエンジンを唸らせてスピードを上げる軽バンだが、それを後ろから追い越す影があった。

 

「……ッ!」

「……え、今のって!?」

 

 二人の乗るバンを追い越したその車は、外装がツギハギだらけの、百人が百人怪しいと断言するような風体をしたオンボロ自動車だった。その自動車は年代からも車種からも考えられないレベルの猛スピードとえげつないハンドリングで通りを突っ走り、そのまま自動車速度違反取締装置(オービス)をバッチリ光らせつつ車体を半分浮き上がらせながらカーブして曲がり角に消えた。

 

「……Mt.レディ、今の道って……」

「……私がナビしようとした道です」

 

 デステゴロはその言葉に一つ頷くと、「じゃあ今は他の現場に行くか」と言い、岳山も若干戸惑いつつ別の道を示す。

 

「……あの、良いんですか? 加勢に行かなくて」

「あの人が救助に行ったんなら俺らは別の事件に回る方が今は効率が良い。特に対ヴィランならな……今はこの一連の事件の被害を一つでも減らすのが先決だ」

「……それもそですね。あ、そこ左です……サイドキック時代から言ってますけど、ナビ付けましょうよ」

「そのうちにな! ヴィラン発見!」

 

 ギイッ! と即座にブレーキを掛けてバンから飛び出し、個人商店を荒らし回っていたヴィランに向けて二人は吠える。

 

「全員止まれ! ヒーローだ!」

「痛い目見たくなかったら大人しくしなさい!」

 

 岳山とデステゴロの二人を見たヴィランは反射的に手を二人に向けた。その手が肘のあたりから炎を吹き出して飛んてくるのを、二人は冷静に受け流す。

 

「ロケットパンチかよ! カッケェなクソッタレ!」

「くたばれヒーロー共!」

 

 空中を飛んだ腕が弧を描いて男の元に帰る。その隙に近寄って男の顔面をぶん殴って気絶させたデステゴロは、すでに逃走を始めていた男の仲間を岳山と共に追う。

 

「待てやオラアアア!!!」

「デステゴロ! あいつら大通りに出ます!」

「Mt.レディ! 大通りに入ったらお前はすぐに巨大化しろ! 絶対に────」

 

 デステゴロ達が追いかけていた強盗グループが、路地裏からフラリと出てきた一人の男にぶつかりそうになる。デステゴロはその姿を見て、ハッ、と息を呑んだ。

 

「あぁ!? 邪魔だどけクソ野郎ォ!」

「……ハァ……」

 

 デステゴロが反射的にその名を呼ぶ、よりも早く。

 

 その空間に、『銀』が煌めいた。

 

 男のベルトに挟まれた、いかにも『路地に落ちていたのを拾いました』といった感じの薄汚れた鉄パイプ。男はそれを抜刀術の要領で目の前に居た複数人の男達の胴体に叩き込んだ……と言っても、デステゴロがそれを認識できたのは強盗犯達が揃って吹き飛び、男がその一瞬でベコベコに歪んだ鉄パイプをチラリと一瞬だけ見て舌打ちしながらもう一度ベルトに挟み直した時だった。

 

「……邪魔はお前らだ……平和を乱す……ハァ……社会のゴミめ……」

「……赤黒」

「……デステゴロか……ハァ……一体これは……何の騒ぎだ……」

 

 デステゴロは目線で岳山に強盗犯の確保を促すと、赤黒に今の結田府の現状を語って聞かせた。

 

「非常事態だ。今この街で複数のヴィランが複数の地区で一斉に暴動を起こしてる。俺等は結田府担当ヒーローからの救援要請を受けてこちらに来た」

「ヴィランの複数暴動だと……? ……ハァ……組織犯行か」

「分からん。とにかく一般人は至急自宅ないし屋内で待機しといてくれないか……あー、そういやお前テントだったな。この近くの避難設備のある施設を案内する。確か向こうの通りに……っておいどこ行く!?」

 

 ある程度の大きさの建物には設置が義務付けられている避難設備の場所を確認しているデステゴロを見て鼻を鳴らし、その場を立ち去ろうとする赤黒。それを止めたデステゴロの方を振り返り、赤黒は溢れる戦意を隠そうともせずに「やる事は一つだ」と言い、その場を走り去る。

 

「あ、オイ!? ……っあの野郎!」

「デステゴロ、拘束終わりました!」

「分かった、お前は警官の到着を待って一番近い現場に行け!」

 

 それだけ言って走り出すデステゴロに「ソッチはどーすんですか!」と叫ぶ岳山。デステゴロは一瞬振り返って、「アイツを追う!」と断言する。

 

「追うって……」

「アイツ、このままじゃ取り返しのつかねえ事んなるかもしれん! その前に止めねえと!」

「ええ!?」

 

 そう決意し、一歩進んだその瞬間に身を震わせる爆発音が届く。デステゴロと岳山はそこそこ豊富な経験でそれがかなり近辺で起きたものだと把握した。

 

「…………デステゴロ」

「……っだあクッソが! 行くぞ岳山ァ!」

「了解です! Mt.レディですけど!」

 

 強盗犯に装着した拘束具が正常に作動しているのを確認した二人は爆音がした方向に走る。そして見つけたその現場では、肉体を大きく膨らませた大男と、その男の横で炎を上げる乗用車があった。先程の爆音が乗用車によるものだと判断した二人は、その男に向かって戦闘態勢を取る。

 

「ウゥ……ゔうゥ……」

「動くな! ヒーローだ!」

「これ以上好きにさせないわよ!」

 

 頼むから道を踏み外すなよ……そう願うことしかできないデステゴロは友を追うことのできない状況に歯噛みしながら、大男の放った拳を身体全体で受け止めた。そのまま拮抗する二人だが、力は僅かに大男の方が上らしくどんどんデステゴロの膝が曲がり、後ろに押し込められていく。

 

「ううゔぅぅ…………!」

「グッ……オォ……っ」

「ウヴァアアアァァァ!!」

「っ、岳ッ……山アァ!」

 

 デステゴロがそう叫んだ瞬間、ゴァン!! と巨大な物体が大男の身体に横から衝突し、大男は先程までの力が嘘のように軽く宙を舞った。

 

「……ってて。なんちゅーパワー……ああ助かったぜMt.レ……痛ァ!」

 

 大男を轢いた物体……巨大化した状態のスラリとした脚を振り上げた岳山は、体勢を戻すついでにデステゴロの脇腹を爪先でトストス突いた。ツギハギ技研製強化繊維の硬い感触がデステゴロの胴アーマーを揺らす。

 

「チョッ待っ、まだ戦闘中だろ! おいっ! 悪かったって! ごめんなさい!」

「私の! 名前は!」

「Mt.レディ! Mt.レディです!」

「現場で本名は!」

「言わない! ごめんなさい!」

 

 ちょっとした一悶着もありつつ、気絶して筋肉の萎んだ男を拘束した二人は先程の強盗犯達を受け取りに来た警察官にその男も引き渡した。二人はバンを置いてある場所に駆け足で引き返す。

 

「オシ! 次の現場は!」

「次の……残ってる通報はあの二人のトコだけですね」

「分かった。行くぞ!」

「あの人が向かってるのにですか?」

 

 バンに戻ってデステゴロと反対側のドアを開けながら、私達やる事あるんですか? と問う岳山を見て、馬鹿野郎、とデステゴロは呟く。

 

「行ってやる事無いならそれが一番良いんだよ……誰かが助けを求めてる。今必要なのはそれだけだろ」

「赤黒さん、追いたいんじゃないんですか?」

 

 座席に座ってシートベルトを締めたデステゴロは、赤黒の消えた方を見て……それでも首を振った。

 

「……駄目だ! さっきまでならすぐに追えて時間の消費が少なかったが、もうあいつがどこにいるのか分からん……不確定な情報とハッキリした情報なんて比べるまでもねえ。というかそもそもアイツが何かやらかしそうなんてのは……俺の勘でしかないんだからな」

「……そうですか。ならもう良いです。もう何も言いません」

 

 若干拗ねたようにそう呟いた岳山は窓の外を見ていたが、暫くしてその体勢のままポツリ、と静かに呟いた。

 

「友達の人生よりも人の命を優先する……ヒーローも因果な仕事ですね……」

「……知ってるよ」

 

 現場がどんどん近付く中、デステゴロはハンドルを強く握りしめながら一つ……タバコが吸いたい。そう思った。




人生において何よりも喜ぶべき事は最推しカップリングの小説が増える事だよ。マイナーCPばっかり好きになっちゃう病の患者としてはこの気持ちを忘れないで生きていきたい。

あと、この一連の事件もし次回で終わらなかったらタイトルを数字に変更しますね。

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