はい、てな訳でスピード投稿ね。暇だし。
この小説の良いところは話タイトルでシリアスなのかギャグなのか判別できる所だと個人的には思っている。
今回のあらすじ
オールマイトっていう眼の前の全てを救えるスーパーヒーローが実在する世界で全てを救う力も無いのに彼と同じヒーローを名乗るってのは実際のところどんな気持ちなんだろうね。きっと眼の前で誰かが何かの犠牲になる度に『もしもあの人なら』って考えちゃうんじゃないかな。エンデヴァーが拗らせてんのもちょっと分かる気がするよね。
追記
会話上の矛盾点を指摘されましたので修正しました。すまんかった……
結田府市。表通り。
互いに、躊躇は一瞬であった。
「オオオオオッ!!!!!」
「……っ」
姿勢を限界まで下げ、全体重で突進をかける大男の身体を、スピリットは横へのステップで回避し、シュタインはその脚力で高く飛び上がり、大男の背中を転がって反対側へと降り立つ。そして地面に転がっていたそこそこに大きな瓦礫を立ち上がるついでに拾い上げ、自分の方に身体の向きを直す瞬間を見計らって大男の顔面に投げつける。
「……!」
大男はそれを分かっていたかのように片手で受け止めるが、その受け止める瞬間を突くようにスピリットが背後から首筋に大鎌を振り下ろし……
「んっがッ!? 硬ぇッ!」
ガギン! と盛大に金属音を鳴り響かせて刃は止まった。持ち手から感じる岩のような感触にスピリットは己の力ではどうにもならない事を悟り、即座に大鎌を引く。大男は追撃を掛けようとしたが、シュタインが攻撃の意思をチラつかせる事でそれを牽制した。
「手ぇ痺れる! 人間じゃ無いんじゃねえか?」
「その発言差別ですよ」
「子供を実験動物扱いしてた奴に言われたくないんだけどな!」
軽口を叩きつつも二人は大男に走り寄り、前後から挟撃する形を取る。大男はスピリットには若干のみ意識を裂き、基本的にはシュタインを警戒していた。それを見たスピリットは妙だ、と顔を顰める。
(何故シュタインをそこまで警戒する? 奴はヒーローとして相当な強さだが、世間的には所詮十年前の人間だ……)
スピリットは懐から暴徒鎮圧用の電気銃を取り出し大男に撃ち込むが、そんな物は気にもならないとばかりに大男はシュタインから目を離さない。スピリット自身は現在もプロとして活躍しているから情報を調べた上で自分に有効打が無いことが分かっているとでも言うのか。
しかしそうだとしても、シュタインに対するこの過剰なまでの警戒心は納得ができない。何がこのヴィランにそうまでさせるというのか。
(アイツは
「……シュタイン、気をつけろ! こいつただのヴィランじゃねえぞ!」
「とっくに分かってますよそんな事」
「わあ可愛くねえ!」
ガッ、とアスファルトを削りつつシュタインに突っ込み、シュタインは手に魂の輝きを迸らせながらそれを迎え撃つ。
大男が走りながら右手を大きく振りかぶり、
シュタインが左手を軽く前に出して右手を引き絞り、
シュタインの右手が大男に向かって突き出されるその瞬間、大男は右手を地面に叩きつけ、その反動で跳躍し、シュタインの背後を取る。
「……オオオオオォォォっ!!!」
「っ、くっ!」
それまで地面をまっすぐ向かってきていた鈍重な敵が突如三次元かつ軽快な動作をしてきた事でわずかに反応が遅れ、それでも咄嗟に回避したシュタインの顔を大男の腕が掠める。その衝撃だけでシュタインの顔は切れ空中をそう少なくない量の血飛沫が舞う。そしてその光景を確認した大男が振り戻そうとした腕に、前方から飛来した何か太いものがガッチリと巻き付いた。
「……!」
それは、先程心操と切島によって牽制に使われた消火ホースである。この戦闘で蚊帳の外に置かれていたスピリットはまだ折れずに残っていた電柱にそれを巻きつけた上で引っ張っていた。
大男とスピリットでは地力がまるで違う。電柱のサポートがあれどもそれは変わらない。だが、ほんの少しは止められた。ほんの少し止める事こそが、スピリットの目的だった。
「シュタインッ!!」
「はいはい」
顔の半分を血に濡らしたシュタインがバチン、バチン! とスパークする掌底を大男の二の腕に叩き込む。
「……『魂威』!」
『魂の波長』を制御する事にかけては世界有数の実力を持つシュタインが、制御できずに空気中に電撃のような形で放出してしまうほどに限界近くまで溜めた莫大なエネルギーは、大男の体内にてその全てを破壊エネルギーへと変換し、丸太のような腕の内部を暴れ回り、破壊する。大男の腕の中で幾度となくバチン! バチン! と鋭い破裂音が響き、遂には……
「……ッゴオオオォァァァァァアアアッ!!!!!」
「……魂威は有効ですかね」
パァン、と水風船が割れる様な音を立てて、シュタインが触れた場所の反対側が突き破れる様に血が溢れ出る。腕に絡んだホースを引き千切り苦悶の声を上げる大男の腹にもう一度シュタインが手を当てる。
「終わりだ『三連──』」
「……!! シュタイン! 離れろ!」
シュタインがもう一度とどめの波長を叩き込もうとした時、スピリットが大男の異常を察知してシュタインに離れるように促す。その言葉に何の疑問も抱かずに即座に飛び退いたシュタインの足元に、コールタールのような真っ黒で粘性のある液体がビタビタと零れ落ちた。
「……何だ……? アイツは増強系個性じゃなかったってのか……?」
「先輩、俺の後ろに」
見れば、そのタールは大男の口から溢れているようだった。その意味不明な行動に訝しげな視線を二人が送っていると、大男が首から下げていたラジオから誰かの声が聞こえてきた。
『……ふむ、やはり『今の彼』では鬼人の相手は荷が重いか。それが分かっただけでも収穫かな』
「鬼人……!?」
その声にシュタインは目を見開き、スピリットが思わずといった声を上げる。というのも、ラジオの声が言う『鬼人』とは、
その間にも大男の口から溢れるタールはその勢いを増し、やがて大男を包み込み……そして大男ごと地面に染み込むようにして、消えた。
『では御機嫌よう、死神教徒の諸君……次に会うときはもっと趣向を凝らした持て成しを約束しよう』
あまりにも不吉な予告を置いて。
「……シュタイン……」
「…………取り敢えず、帰りましょう」
シュタインは周囲を確認しつつ携帯でヒーローネットを開き、結田府市の動乱が一段落している事を確認してそう呟く。スピリットは大男の暴力による周囲の惨状を見て痛む頭を抑えた。
「あーあ…………平和なのが、この街のいいトコだったのにな……この集団犯罪、起きてから三十分経ってねえぞ……」
「ヴィラン犯罪ってのは、そういうモンでしょうに」
「それでもだよ……無力だな、ヒーローは」
力無く続くスピリットの言葉に、鬱陶しげに溜め息を吐いたシュタインは緩慢な動作で煙草を咥えた。
「ヒーローってのは……そういうモンでしょうに」
「はぁ…………それでも、だよ……」
ヒーローは、犯罪が発生してからでなければ動けない。それがどんなヒーローでも、例え予知能力の個性を持つヒーローが居たとしても、何もしていない人間を断罪する事はできない。
通常犯罪であれば武器を用意している事や犯罪の組織計画を入手する事で事前に事件の芽を潰す事も(勿論、容易ではないにせよ)できるが、個性犯罪はそうはいかない。この超人社会において、人類の大多数が容易に人を殺傷できる
……『社会規模に比べてヒーローが多過ぎる』と言われるこのヒーロー飽和社会においてさえも、全てを救う為にはヒーローが
「……それじゃあ車も壊れちゃったし、歩いて最寄りの警察署に行きましょうか」
「壊したの間違いだろ」
保険は降りなさそうである。
一日後。結田府中央市民病院。終日外来、面会停止。
エアジェットにより病院に運ばれた心操と切島、特に心操が「この怪我で何でそんなに平然としてるの……? え、何で……? 立てないくらい痛い筈なんだけど……おっかしいなぁ……」と不思議がられながら(医者に不思議がられるというのも不気味な話だが)治療を受け、二人共夏休み初日から即入院と相成った。
そして現在、
『結田府市 大規模犯罪発生 死者はおらず 僅か二十分間の騒動に何があったのか』
『ヒーロー飽和社会は嘘だった』
『結田府市同時多発事件から見るヒーロー制度の限界』
『一般人がヒーロー! 結田府事件において明らかになった個性開放型社会の有効性』
『急上昇キーワード:結田府市 中学生』
『結田府市にある某私立中学●年生の彼ら二人は地元で無免ヒーローと呼ばれ……』
『無免ヒーローの姉です』
「……胃が痛い……」
「…………俺も……」
今回の事件において暴力の塊のようなヴィランを足止めした事で一躍有名になってしまった心操と切島の二人は揃って何も見たくないとばかりに病院のベッドに突っ伏していた。因みに昨日の今日で既にピンピンしている心操と切島を見た外科医が「えっ……なんで起きて……なんで起きれんの? えっ、なん……え? 何で? 怖……」という顔をしながら診察していた。二人は面倒なことになるのが予想されたので慣れてるだけですとは言わなかった。傷に慣れたところで治癒能力が上がる訳も無い事を彼等は失念している。何で起きれんの……?
「まあ、無茶しましたからねえ。ネットも君等をヒーローとして持ち上げる派と学生なんだから大人しくしてろ派と出しゃばったから余計な被害が増えた派の三派が君等の事なんか放り出して壮絶な
「マジで黙っててくんねッスか博士。傷に響くんで」
「まさかこんな事になるとは……あーツラい」
事件関係者であり最大功労者の一人であるもののその年齢と学生という立場の問題上テレビで報道等はされていない(テレビ局からは相当ゴネられたらしいが)二人であるが、そういった縛りが比較的緩いインターネット上では二人の行為を良いや悪いやとやいのやいの日夜レスバトルが繰り広げられ、個人情報は学校や人付き合いどころか小学校の卒業写真がどこからかアップされているレベルである。警察の方ですぐに削除申請されたそうだが。
「警察ってそんな事までしてくれるんすね」
「まあ別に普段からしてくれない訳じゃないけど今回は特別ですね」
「特別?」
「ええ。人使、君、あの大男に『狙われてた』でしょう?」
「……!」
心操は
「さぁ? 今スピリット先輩が警察の方に……」
「おーす。お、起きてんな」
「ああ、先輩」
「あ、スピリット……さん」
「ちーす……あの、後ろの人誰すか?」
病室に軽い調子で入ってきた赤髪の軟派男の後ろに居た、堅物という印象を感じるシンプルな眼鏡をかけた小柄な女性。その女性は切島の質問に、スピリットを押しのけて懐から小さな手帳……警察手帳を取り出した。
「初めまして、切島鋭児郎さん。お久しぶりです、心操人使さん。
そう一息で言い切って軽く一礼した後に手慣れた様子で手帳を懐に戻す弓の姿を見て、切島は普通に(おおー)と思った。(へぇー)とも思った。小説なんだからもっと文になる感想出せ。そして弓の事は以前から知っていた心操は頭の中に自分と同年代でイカれてる方のピンクを思い浮かべ、目の前の超エリート然とした女性を見て、(頭の良い人は自然と早口になるモンなのかね?)とかどうでもいい事を考えていた。頭の良い人は早口説、あると思います。
「梓は個性犯罪の中でも今回みたいな組織犯罪や大規模犯罪の捜査を専門にやってる。て訳で今回の事件を捜査に来たからお前らの話も聞かせてほしいって事だ」
「県警の方にすでにお話されているでしょうが、一刻も早い全容解明の為にご協力を願います」
「それは勿論良いですけど……スピリットさん、弓さん呼び捨てなんスね……?」
遠慮がちな切島の言葉にハテナマークを浮かべる弓だが、女性から「随分そちらの方と仲が良いのね……?」と言われる事が物凄く、物凄く多いスピリットはすぐさま切島の言いたい事を察して「ちがわい!」と叫ぶ。
「そういうんじゃないんだよ! 梓は俺の学生時代の後輩なの! その事はシュタインも知ってるぞ! なぁシュタイン?」
「男女としてどうだったかは知りませんけど」
「シュタインさん!? な、なぁ梓? 俺はいい先輩だったよな?」
シュタインの裏切り(というか事実を述べただけではあるが)に狼狽えつつも弓に向かって尋ね直すスピリット。流石に哀れんだか、それとも目の前に居る二人の学生にリラックスしてもらった方が後が捗るとでも考えたか、弓はふぅ、と軽く息を吐いてから一つ頷いた。
「そうですね。スピリット先輩は周囲に馴染めない私に色々と良くしてくれました」
「ほ、ほら見ろ! な!? 俺だってお前女の子なら誰彼構わずヨダレ垂らすような犬コロじゃねえってのにホント……」
「元奥さんに言いつけてからはボディタッチも無くなったし」
「ファッ!?」
スピリット、轟沈。その事をスピリット自身は一切覚えていなさそうなのが余計に(周囲からの視線による)ダメージを増加させる。スピリットは涙ぐみながら病室を出ていったが、彼に泣く権利は無い。誰もスピリットの出ていった扉を見もしなかった。
「さて、まずは基本から……男の顔や身長など、外見情報を教えて頂けますか?」
「外見……すか?」
「…………あー、そっか。電柱ぶっこ抜かれてたッスもんね。監視カメラも全部……」
「ええ。ダウンしていました。ヴィランを撃退したお二人には既に話を聞いていますが、貴方方の話も合わせて聞きたいのです。お話願います」
そこから心操と切島は思いつく限りの情報を言った。腕も足も丸太のように太く、怪力。身長は三メートル以上。そしてある一点で、弓が待ったをかけた。
「言葉を話したのですか?」
「ええ……つってもちょっとだけですけど。『主の御心のままに』、それと『殺す、主の命』って」
「……主の、命?」
「はい。なあ切島?」
「ああ、俺もハッキリ聞いた。それ以外は雄叫びばっかだったけど……あ、あとなんスけど……心操の個性知ってんじゃね? って感じしました……いや、あいつとにかく心操をメッチャ警戒してたんすよ。その前まで唸ってても心操が話しかけたらスンッて黙って……あ、いや俺は話しかけてないんで俺が話しかけても同じだったかもしれねっすけど」
「……成程。ではその『主』が何を指すかは正確には分からない訳ですね?」
「……いや、多分なんですけど、首から下げてたラジオから聞こえてきた声……だと思います」
「ラジオの声……シュタイン先輩達も聞いたんですよね?」
「ええ、まあ」
「成程。お話、続けて頂いても?」
数十分後。病室前。
聞き取り捜査を終えた弓が頭を下げて病室を出た時、廊下の向こうからスピリットが一人の少女を連れてくるのを見つけた弓はその二人に声をかけた。
「タイミングがいいですね、先輩……そちらは? 見た所どこも怪我していませんが」
「おう。この子は芦戸三奈ちゃんで……あー、例のヴィランと交戦はしてないけど……まあ因縁薄っすらあるかなー? ないかなー? って感じの子……昨日のあの戦闘撮ってた中継テレビにチラーっと入っちまってたから、まあ……検査入院扱いにして保護ってトコ。ちとこの中に居るバカ二人に話があるって言ってっから、聴取は後にしてやってくれ。情報も俺ら四人の焼き直しにしかならんだろうしな」
「成程、分かりました……芦戸さん、後でお話伺いたいので病室番号を教えて下さいますか」
「あ、えっと……」
芦戸から病室を聞いた弓は先程まで自分の居た部屋に芦戸が入るのを見送り、スピリットに向き直る。
「どうだった」
「恐らくですが『鬼神教』ではありませんね」
「オウ、そーかい」
病室の前を離れて近場にあった自販機等の置いてあるリラクゼーションコーナーに入り、自販機に百円を吸い込ませてマミーを買ったスピリットは百円玉を弓に渡す。弓はその百円でアンパンマンのぶどうジュースを買い、パックにストローを刺した。病院の、特に病室棟では珈琲や炭酸等は売っていない事が多い。
「ま、鬼神は死んだんだ。当たり前だよな」
「我々死神教は離散していませんがね」
「折るなよ、話の腰を……で? 根拠は」
窓際に置かれた椅子を流れるように一脚引いて弓を座らせるスピリット。弓はこの男がしているこれはもはや癖だと分かっているので一言だけ礼を言ってそこに座り、窓の外を眺める。
「……第一に、死神教徒ですらないような子供の居場所を特定してこちらに気取られる事なく刺客を差し向けてくる程の情報力と行動力を持つ連中がキッドに対し何らアクションを起こしていない」
スピリットを筆頭とした死神教教徒の一人である弓は、シュタインの関係者である心操達が襲われたと知った瞬間に死神の息子であるキッドを育てているシドに連絡を取ったが、電話口に出たミーラが言うには正しく平和そのもの、キッドはツノの左右バランスが完璧なシンメトリーとなるカブトムシを手に入れる為に同じくシドの元で生活しているブラック★スターと共に毎晩雑木林を駆け巡っているという微笑ましいんだか頭が痛いんだか分からない情報を手に入れた。
取り敢えず今晩からは共に行動するようにと伝えたが、恐らく何も無い気がする。弓はこういった自身の勘を信用していた。寝不足が確定した二人には申し訳無いが、こちらの事件が一段落するかキッドの気が済むまでは我慢するしかないであろう。
「……まあ、道理だな。で?」
「第二に、例のヴィランが『主』と読んでいた声の主が明らかに鬼神ではない事。これは予測ですが、『自信に満ち溢れた落ち着きのある声』が鬼神である可能性は限り無く低いでしょう……鬼神教は鬼神が絶対上位者であり他の身分の者に対して主等とは言わない。例のヴィランが所属する団体が例え鬼神教の流れを汲んでいたとしても、別の何かが頂点に居る団体であると考えるべきでしょう」
「だな。俺もあの声が鬼神だとはどうしても思えない」
鬼神教の頂点に座する鬼神はビビリだ。それも『世の中の全てが怖いから世の中の全てに負けない力が欲しい』とかいう一山幾らのネット小説みたいな理由で本当に強くなる程の超弩級のビビリである。それだけ強くなっても結局何に対しても怖い怖い言い続けていた鬼神が自信たっぷり? 落ち着いた声? 鼻を鳴らしてから欧米風やれやれポーズで一笑に付すべき情報である。ビビっていない鬼神なんてブドウ糖の含有されていないラムネ菓子のようなものだ。つまりは有り得ない。ちなみにラムネ菓子の内容量でブドウ糖が占める割合は九割である。
「そして最後……第三に……鬼神が生きているなら、世界がこんなにも落ち着いている訳が無い」
「……まぁ、な」
鬼神は、ただそこに居るだけで世の理を乱すのだから。
「……今回の事件、取り敢えず鬼神教は関わっていないと仮定して捜査を進めます。そういうのを抜きにしても今回の事件、何だか妙ですので……あまりそういう不確定な情報に目を向けてられないんですよ」
「妙……ね」
弓はテーブルに置いていたジュースを飲み干し、小さなパックを潰してから眼鏡を外して目元を揉んだ。それで『死神教』への義理立てが終わったのだと理解したスピリットは無言でマミーを飲む。元より今事件の全てを教えてもらえるとスピリットは思っていない。シュタインに聴取を聞かせ、これだけの推理情報をスピリットに渡しただけでも生真面目で職務に忠実な彼女からすれば相当な譲歩だ。だが多少なりとも自分が関わったのだから、もうほんの少し位は聞いてみたい。そんな気持ちも無くはない。そう思ってじっと見ていた事が弓に気付かれ、ジロリと眼鏡の奥から睨まれる。
「……何ですか、先輩。まだ何かありますか?」
「……お前って疲れてる時の表情すげーエロいよな」
「…………」
「あいっっでぇっ!?」
弓はテーブル越しにスピリットの脛を蹴り飛ばした。
場所は戻り。病室。
芦戸が入ってきてすぐにシュタインが煙草を吸うと言い残して病室を
沈黙に耐えきれず、切島は心操と目で会話する。
────ほら心操
────え、俺なの?
────そりゃお前に決まってんだろ。芦戸は…………っばばば、何もねえ
────え、何それ? 気になんだけど芦戸は何なんだよ?
────………………さ、さァ……? 何の……事かな……?
────はぁ!? いや何それ絶対何かあるじゃん! てか切島お前隠そうとしてねえだろ! バレバレすぎ!
────え
────あ、隠そうとはしてんのな!?
「……ねえ心操」
「ん、どうした?」
目で会話をしていたため表面上は非常に静かであった病室に芦戸の声が零れ、心操は目での会話のハイテンションさが嘘のような落ち着いた声で返事をする。切島ではこうは行かない。
「何で……」
「………………」
「……なん、で……っ……諦めたの」
「っそれ……は…………」
芦戸が言うのは、最後の最後、芦戸があの場に来た時の事だろう。あの時心操は確かに諦めた……いや、やる事を全てやって『満足』していた。気まずい空気を感じた心操は、ベッドの横で小さく肩を揺らす芦戸を申し訳無さそうに見つめ、細く息を吐いた。
「……悪かったよ。俺は諦めるべきじゃ無かった。俺はあそこで勝利を捨てちまった。お陰で余計な苦労かけた……悪かったな」
「……ホントだよ…………!」
グス、グズ、とついに鼻を鳴らし始めた芦戸に目を剥いて慌てる心操を笑って眺めて、切島は窓の外に視線をやった。
そこは平和な町並みがいつも通り続いており、しかし昨日はここでいくつもの犯罪が起こされ、心操と切島はそのせいで今入院している。切島は『日常』という言葉の裏にある脆さのようなものを見た気がした。
「俺等がヒーローになったらよォ…………あーんなんともフッツーに戦うんだろうな…………」
「……ん、そうだろうな」
「グスッ……うん……それに……やっぱり私達って平和な街で暮らしてたんだね」
この社会では、大きな犯罪の火種は警察により察知されて潰され、小さな犯罪の火はヒーローにより大きく燃え上がる前に消化される。そうして街は平和を保っている。
だがもし、警察が火種を見逃せば?
だがもし、ヒーローが火の勢いに勝てなければ?
…………そうなれば、犯罪の火は瞬く間に社会を覆い尽くす。
そして、そういった犯罪の火を自分の体を使って消す立ち位置に、自分達は立とうとしているのだと。今回の事件は彼ら三人にその事を殊更強く意識させた。
「……強くならなきゃな」
今までは憧れで良かった。憧れがあれば進めた。
「ああ……もっとずっと、強くならねえと」
けどここからは違う。ヒーローの置かれる現実を知ってしまった。そして……知ってしまえばもう、憧れだけでは、進めない。
「うん……強くならなきゃ。眼の前の人を、守れるくらいに」
三人は、静まった病室で静かに『覚悟』を決めた。
そして、病室の外でドアに凭れ掛かりながら三人の話を聞いていたシュタインは静かに笑った。
(出久、勝己……もううかうかしてられなさそうですよ)
なんだかんだと言っても自分で完結する修行では力に対する『覚悟』の差は大きい。故に、ここで覚悟を決められた彼等は強くなる。シュタインはそれを今、この場で確信したのだった。
折寺市。デステゴロヒーロー事務所。
デステゴロは事務所の窓に一人力無く凭れ掛かり、今日だけで何本目かになる煙草に火を付け、ヒーローネットから手に入れた今回の被害報告の一点に目を向けていた。
それは、強盗を働いていたヴィランが警察により捕縛されたという報告書。
一般からの「強盗をしている奴が居る」という通報により警察が向かった先には、『細長い棒状の物』によりズタボロにされた五人組のヴィランが路上に放り出されていた。殴打による怪我の程度は深刻で、全員漏れなく手足のどこかに後遺症が残るレベルの怪我を負わされていた。
手口の同一性から犯人は恐らく一人。警察はこれをヒーローによるものでは無くヴィランを痛めつける事を目的としたヴィラン……ヴィジランテによる過剰制裁であると断定。日々パトロールをして街を歩き回るヒーローの一人として情報提供を求められたデステゴロは、警察に赴きヒーローに対して過剰な思想を持つ元ヒーロー志望の男を容疑者の一人として情報提供した。勿論証言だけで逮捕状など出せる訳も無く、デステゴロの言葉はただ情報の一つとしてファイリングされるに留まった。
そして、情報提供が終わったデステゴロは折寺や結田府をひたすら歩き回った。住民の話を聞きつつ、細々とした問題に対処しつつ、朝から夕方まで歩いて歩いて歩いて歩いて歩いて………………
そして、遂に赤黒血染は街のどこにも居なかった。
「馬鹿が……出て行く時は一言くらい言いやがれってんだ……馬鹿が……!」
デステゴロは紫煙をくゆらせながら静かに涙を流す。その涙は友が道を誤った涙であり、止められなかった悔しさの涙であり、自分でもよくわからない涙であった。
「俺は……お前の事を……ダチだと思ってたのに……! 挨拶も無ぇのかよ、畜生……!」
デステゴロと赤黒の道は決定的に違ってしまった。
「俺も…………俺もっ、あの人みたいに……!『全員』助けられるヒーローに、なりたかった……ッ……!」
それが、元からかけ離れた道であった事をデステゴロが知るのは、もう少しだけ先である。
はい、という訳で次回八月、爆豪推薦入試編ですね。次も確実に何話かに分かれるなコレ……
ちなみにこの先この事件がどうなるかは主人公達の立場的にも触れる予定無いので全部言っときますと、実行犯は全員捕らえられたのですが、そいつらが「コイツに誘われた!」って言う人間が全員違う人間(AグループのリーダーはBグループのリーダーに誘われたと言い、BグループはCグループに誘われたと言い)であり、事件の全容解明は上手くいきません。事件解決しようとするほど堂々巡りになる、AFOのニクい遊び心ですね。