今回投稿期間一ヶ月に間に合わせるために日付変更五分前にこれ打ってるんでほんと誤字脱字とかあるかもごめんねマジ
今回のあらすじ
夏のビーチに友人と行ったりとかそういう陽キャ経験が作者に無い事だけは覚えておいてよこれでも頑張ったんだよ頼むよ石投げないで。
リア10爆発46さん、誤字報告ありがとうございます。
とある海水浴場。十三時頃。
耳郎響香という女が居る。
この華が無いとも取れる容貌の中に、しかし確かな可愛らしさを持つ女は天下のヒーロー養成校、雄英高校に来年入学する為に日々勉学や身体作りに励む勤勉な少女であり、学内でも男子には気さくで話しやすい女性として、女子には生半な男子など及びもつかないスペックを持つある種王子様的な存在として親しまれている、学校の人気者である。
しかし、耳郎響香には一つ……いや、受験の悩みを除いて一つ。そう、たった一つだけ、大きな大きな悩みがあった。否、それは悩み等というチンケな物ではない。正に、苦悩すべき事態が現在耳郎の身に降り掛かっていた。
「…………お金が、足りない……」
そらそんな事言ったら君人類九割九分そうだよ。と言えば話が終わるので言わないが。
何と言ってもこの少女、音楽を趣味にしているのだが、音楽というのは何のかんのと金がかかる物だ。特にこの少女は音楽鑑賞も、楽器演奏も、両方ともに情熱を傾けている。音楽を趣味にしているといっても実際には趣味が二つあるようなものだ。そして趣味というのは、大抵の場合金がかかると決まっている。金のかからない趣味など小説書きくらいなものである。皆も小説書こうぜ!
とは言えども音楽鑑賞に関しては両親が音楽関係で生計を立てている影響で安く手に入るチケットも多く、また、楽器に関しても両親のお下がりや両親の業界内の伝手で安く売ってもらえたりと、普通の趣味人よりもずっとそこに掛かる費用は少ない。
また両親共に(業種的に当然という気もするが)自身の趣味に対して深い理解を示してくれており、特に父親は『音楽には金がかかるもんだ』と言って(一般的な中学生よりも多い)小遣いとは別に月々の『音楽代』(用途申告制。適宜支給)というものまでも用意してくれている。
かつてはソレを自身の将来進む道を音楽関係だと決めつけているからではないか、と思っていた時もあったが、数ヶ月前に高校の志望校提出の際に自身の夢を……ヒーローになる事を肯定された時、そんな物は自分の思い込みに過ぎず両親は自分への思いやりからそのような事をしてくれていたと言う事を知り、耳郎は両親への深い感謝と共にまた一つ大人になった。
というちょっといい話をした所で大人になろうがなるまいが金が無いのは変わらない。これ以上無く優しい両親だが金の無心を許してくれる程甘い訳ではないし、オマケに耳郎はまだ中学生である。中学生ができるバイトは少ないし、短期間で稼げるバイトなど無いに等しい。
耳郎が金が無いと嘆いているのは何も無計画による物ではなく、秋の音楽イベント集中期に間に合わせるだけの金が無いという意味である。ただでさえ何やかんやとイベントの多い時期に複数の有名インディーズバンドの次のライブで活動休止するという宣言が重なり、本来我慢するはずだったライブの希少価値が高まりまくってしまった。その結果とりあえず「どうせ当たらないしね」の精神でそういった希少なライブのチケットを片っ端から申し込み……なんとも有難い事にほぼ全て当選してしまったという訳だ。
本来の許容量を大幅に超えてしまった出費に愕然としつつも仕方が無いので耳郎は現在ちょっとした自身の音楽関係の趣味友達なんかの伝手を辿って学業に重大な支障が出ないように、何よりイベント集中期間に間に合うように、短期間かつ割の良いバイトを探した結果……今現在は夏真っ盛りで毎日が朝から晩まで書き入れ時なクソ忙しい海の家を駆けずり回っているという訳だ。
ヒーロー科を受験するにあたって学業と並行し相応に体力作りをしている耳郎ではあるが、茹だる暑さと立ち止まる時間の方が少ないような忙しさに毎日のように目を回していた。それだけあって日当は良いのだが、食事を運んだり会計をしたりテーブルを拭いたり迷子の子供を保護したりちょっとした怪我などの手当てをしたり店先でかき氷削ったり恐ろしい勢いで売り捌かれる冷凍庫のアイスを補充したりかき氷用の氷が入ったトロ箱を運んだり浮き輪の空気入れサービスの対応をしたり夏の空気にアテられて何故か自分に言い寄ってくる奇特な男をあしらったりと、とにかくやる事が多いのだ。物凄く多いのだ……
だがしかし、その日は少しだけ違った。
「はい、焼きそば。四番に二人前、六番に三人前ね」
「はーい」
そう返事をしてそれぞれのテーブルに料理を持っていった後、耳郎は辺りを見回して首を傾げた。そして盆を厨房に続くカウンターに置き、皿を洗っている店長に呼びかける。
「あの、店長」
「ん? どしたん
「……響ちゃん言うの止めてくださいよ。店長が響ちゃん響ちゃん言うからさっき
天気良いのに、と呟いて店を見回す耳郎。確かに普段はテーブルの数以上の人でごった返す店が、今日に限って空席さえもある状態だ。店長は耳郎の言葉に「確かにねー」と言って厨房から出てきて、レジに何やら打ち込んでから耳郎の肩を軽く叩き、首に下げていたスタッフ証を取り上げて代わりにパックに詰めた賄い弁当を渡した。
「なんかよく分かんないから響ちゃんちょいお昼休憩がてら調べてきて。アイス一個持ってって良いから」
「えー……まあ良いですけど」
店長の命により周辺偵察(特別賃金アイス付)を若干面倒臭がりながらも開始しようと耳郎は周りで先程までの自分と同様に少なくなった人気に困惑しているアルバイター達に「休憩いきまーす」と挨拶をしつつ店先に出、冷凍庫のアイスを一つ摘んで外に出た。
「……ナニアレ」
ざっくり言えば、外に出てすぐに人気の少ない理由は理解できた。
「うおおぉああああ!!! 前出ろ前! ブロック! ブロック!」
「死ねェァ!」
「ッオオオオッ!!!! ブロッッッ…………!!!」
「一人飛ばしたァ! 速攻!」
「指図すんなカスァ!」
「立て! 立て心操ッ! 芦戸カバー!」
耳郎の目の前には戦場が広がっていた。
浜辺に程近い海水浴場の片隅、大きくスペースを取ってもそこまで迷惑にはならないような場所に漂着した木の枝二本を立て、その間に荷造りヒモのようなもので橋渡しをし、明らかにビーチ用ではないどころか一般的な素材ですらないとひと目でわかる、やけに頑丈そうなボールを使って複数の男女がバレーをしている。
だがそのバレーはボール同様明らかに尋常ではなく、誰かがスマッシュを打つ度、レシーブをする度にドパンッ、ドパァンッ! と凄まじい衝突音が鳴り響いている。おまけにレシーブをしくじった時にはもんどり打って真後ろにひっくり返ったり、一メートル程吹っ飛んだりしているのだ。そして即席のコートの周りには海水浴客が大勢集まってそのバレー? を観戦している。海の家に人が少ない理由はコレであった。
「負けるな! 押し負けたら終わりだ!」
「死ねぇぇえやぁぁぁ!!!!」
「スポーツマンシップの欠片もオボルアッ!!!」
「うわぁぁ!! モロだあぁ!!」
「顔面セーフ! 顔面セーフ!」
バレーボールに顔面セーフのルールなど存在しないが、そもそも何故こんな事になっているのか。その発端はそこそこ前に遡る。
時は遡り。そこそこ前。
「狭い」
新しいツギハギ技研の社用車(黒ナンバー)はやっぱりとても狭かった。
「ていうか! スピリットさんの車にもうちょい乗れたでしょ……何でこっちギリギリまで乗ってるんすか……何で……」
「先輩は自分の車に女の子しか乗せない主義だからねぇ」
「死ね!」
以前の結田府事変において大男にまるで対抗できなかった事が堪えたらしく近頃「どんだけ硬くてもな……踏ん張れなきゃ意味ねえんだよ……!」と言って硬化訓練に加えて足腰を中心とした荷重トレーニングに情熱を注いでいる切島と言わずもがなで圧倒的に強靱な肉体を誇っている爆豪の間に挟まれた心操(自身も相当屈強)は五人乗りの車内で呪詛を吐いた。今回の遠出に同道してくれているスピリットの車は容積に余裕のある普通車で五人乗り、乗っているのはスピリット本人と女子二人の合計三人である。心操の叫びも理解できるというものだ。
「人数増えたんだから大きいの買った方が良かったんじゃないですか? ……あ、次右で高速入ってください……ナビも無いし」
助手席にて地図と事前に用意していた順路図を片手にナビゲートをしている緑谷がそう呟く。最初は発目が緑谷と同じ車に乗りたがったが、車内密度の高さとそれによる車内温度の上昇に黙ってスピリットの車に乗り込んだ為に今は緑谷が助手席に乗っている。軽自動車の貧弱なエアコンをどうにかできないかと角度を変えながら、緑谷は軽く笑ってきっと明ちゃん不機嫌ですよ、と言った。
「別に、全員で長距離移動する機会は少ないですし。どうしてもこの車で不足な事態になったらまあレンタカー借りるなり全員平等に走らせるなりしますよ」
「博士それマジで言ってないよな?」
「アッハッハ。ヘラヘラ」
「マジで言ってる……!」
「走り込み増やそう……」
車で移動するような距離を走らされたら普通に死ぬ可能性が高い。走り込みでどうにかなるレベルではないだろう。
「長距離移動なんて基本的に夏休み冬休みの大型連休しか機会が無い訳ですし、だったら一週間くらい移動時間に割いても問題ないでしょう」
「アンタ学生を何だと思ってるんだ」
まず補導は間違い無いだろう。ついでに言うと行きに一週間、修行に一週間、帰りも一週間となると宿題もちょっとヤバい。
「次の分岐で右行ってくださいね……あっつ……」
「夏を実感するな……見ろよ車内温度三十八度」
「外気は」
「ここらへんだと、三十……三度だな」
「死」
「ここからずっと道なりでーす……」
そんなこんなで。
海岸。十時前。
「海だああああっ!!!! ほら明ちゃんも! いっせーの!」
「嫌です」
「水……水……」
「外の涼しさが染みる……」
「博士……エアコン強化してくれよ……」
「気が向いたらね」
「死ね……」
無免は無事……無事……? 死人を出さずに海へと到着したのだった。
自動販売機からスポーツドリンクやらお茶やらを買い漁って飲みまくっている無免男衆四人の元に発目が駆け寄り、しばらく離れていた緑谷に抱き着く。発目の行動としては全くもっていつも通りだが、熱中症二歩手前くらいの緑谷にはその温もりはキツ過ぎた。
「出久さーん……あったかっ」
「あ゛ーっいけませんお客様! お客様いけません困りますお客様あっつい! あーっお客様あ゛ぁ゛ーっ!! 暑い!」
「先着替え行ってるからなー」
「待っ、だっ、誰かっ、助けてェ──ッ!!」
甲高く悲痛な叫びを上げる緑谷をガン無視して男性陣はとっとと更衣室に行ってしまい、緑谷が開放されたのは早く発目に水着を着せたい芦戸が発目を引きずっていってからだった。色々なものを数分で消耗しきった緑谷はフラフラと立ち上がり、大きな更衣室に入る。と、出入り口で既に着替え終わった男子三人プラスツギハギ男に遭遇した。
「お、緑谷開放されたのか」
「彼女持ちは大変だな」
「お疲れ様で〜す」
「皆助けてくれてもいいじゃん!」
「知るか」
緑谷の苦情を再びガン無視して外に出る四人。ナンパ前は口説きの調子を整えるために男とは喋らないという独自のルーティンを持つスピリットは海についた時点で誰よりも早く更衣室に突入していたのでここには居ない。緑谷は四人と別れて更衣室に入った。そしてそこでパッパと着替え(男の着替える描写は必要が無いと判断し割愛)、前回冒頭へと続き、今回冒頭へと繋がる。
いやどこがどうなったら冒頭に繋がるんだよ、と言う人も居るであろう。多分いっぱい居るであろう。だが少し落ち着いて考えて頂きたい。この遊ぶという行為に殺すとルビを振っていそうな連中がビーチでバレーボールをするとしてそれは普通のバレーになるであろうか……とは言うが、実際にはこの面々、最初は普通に遊んでいた。
意気揚々とビーチへ参じた彼らはまず何をしようかと周囲を見回した所、キャイキャイと歓声を上げながらバレーボールをしている小さな子供達を見つけ、とりあえずバレーボールやらないか、という雰囲気になった(ちなみに
そこからである。色々と方向性がねじ曲がり始めたのは。
そもそも全く競技に参加する気を起こさずに砂浜に座り込んでいた発目がそれを見て『我が意を得たり』とばかりにその場でどこからともなく取り出した素材で新たにボールを作り始め、恐るべき速さで作り上げられた得体の知れない素材でできたボールを緑谷が思いっ切りサーブし、普通のボール感覚でそれを受け止めた切島が反動を受けきれずに空を舞い、砂浜に頭から突き刺さった。
それを見て(あ、これ
……海なのに泳がないのか、という指摘は最もであるが、緑谷、爆豪、心操が「サメの記憶を思い出す」と渋い顔をするのが原因である。過去に何かがあったようだ。じゃあ海行きたいって言ったの申し訳なかったなぁ、と散々ボールにぶっ飛ばされた後昼食の際にこの話を聞いた芦戸は思ったが、どんな理由があろうとも海水浴場で超次元バレーおっ始める方が悪い。現に緑谷と爆豪は度が過ぎるとシュタインにシメられていた。
プスプスと拳骨を受けた頭から煙を上げている二人を見て、芦戸は笑う。
平和だな、と思った。
「出久さん出久さん、スイカ買ってきてましたよね。食べたいです」
「いだだ……そうだね。運動してお腹も空いたし……あっ、スイカ割りしよっか!」
「緑谷って学習能力低いの?」
未だに頭から煙を出しながらスイカと木刀を手に取った緑谷に芦戸が無の表情でそう尋ねる。平和だなと思った気持ちを返して欲しかった。
普段訓練等では色々な指導をしてくれる頼れる先輩でも、そうではない場所ではこんなにもポンコツなんだなと再確認した芦戸である。
ちなみに、緑谷は普段から割とポンコツである事を認識できていない芦戸は自身の毒されっぷりにまだ気付いていない。
「行くぞ緑谷ァァァ!!! ソルェァッ!!!」
「修行の成果を見せてやる! ヅアァッ!!」
この後、常日頃からの鍛錬により鍛え抜かれた抜刀術を無駄に駆使して切島の投げたスイカを木刀で斬る(割る、ではない)等して再び観客を集めていた緑谷はやっぱりシュタインに捕捉され、二発目の拳骨を頂戴した。こうしてこの日無免達は楽しい思い出と共に『調子に乗りすぎるのは良くない』という得難い教訓を得たのであった。
海の家。四時頃。
アイツらだ。
昼休憩の際に人外じみたバレーボール対決を目撃していた耳郎は、疲労困憊といった様子で海の家に入ってきた数人の男女を見てすぐに先程の騒動の元凶であると察した。
「うはぁ……疲れた……あ、スンマセン。アイス下さい」
「あっ、ハーイ……一個百六十円でっす」
「アタシかき氷がいい!」
「あー……ごめんなさい、氷切れちゃってて」
「あ、そーなんですか……じゃあサクレで!」
「お、コーラ味あんじゃん珍しい! 俺もそれにしよ」
カウンターに置かれた五百円をレジに入れ、ガジャガジャとうるさい音を立てて印字されたレシートを釣り銭の二十円と共に目の前の紫髪に渡す。紫髪は「どーも」とそれを受け取って上から羽織っていたスポーツタイプのパーカーに放り込んだ。そしてラクトアイスを一つつまんで身体を脇に寄せる。残りの黒髪男と桃髪女子は氷菓を手に取って「冷たァ!」と笑っている。
「残り三人はどうしたんですか?」
「えっ?」
「あ、いや、昼頃にバレーしてたじゃん……六人で」
「あー……見られてたのか」
恥ずかしいな、と笑いながら三人はレジ近くのベンチに座ってアイスを開封する。もう夕方と言っていい時間帯で、人は少ない。耳郎はレジのカウンターに肘をついた。
「アイツ等は遠泳だよ。何キロか泳いでくるって……ピンクの奴は男二人の付き添い」
「…………え、それいつ行ったの?」
「ついさっき」
「……もう日も落ちてくるけど……」
「まあアイツ等も無茶はしないだろ。水が冷たくなる前には帰ってくるって」
「んっとに……無限に体力あるよねあの二人……」
「最初サメがどうとか言ってたのは何だったんだろうな」
ブツクサ言いつつも楽しげにアイスを食べる三人。耳郎はピンクの髪の子は面倒見良いんだな、と思った。紫髪の言う『付き添い』の実態が泳いでいる二人の腰にロープを括り付けて引っ張らせるという一歩間違えれば溺死確定の犬ぞり方式(しかも耳郎は知らないが、そのボートはツギハギ男との二人乗りである)であると知ったらなんと言うだろうか。
「……しかし今日はマジで遊んだな……マジでずっと遊んでたわ」
「ビーチバレー、スイカ割り、息止めレース、水中鬼ごっこ、競泳、ハイパークオリティ砂の城……」
「結局アレの水門開放ギミックってどういう仕組みだったんだろうな」
「博士のバタフライ夢に見るわ……チビる程怖かったマジで」
「えっ……心操、お前……」
「チビって無いからな?」
耳郎はそれを聞きながらどうせどれもこれも恐ろしい暴れっぷりだったんだろうなと頬杖をつきながら思う。正解である。彼等は今日一日ずっと周囲の目を引くような八面六臂の大活躍であった。
「……はー……」
「……でも楽しかったよね」
「おー…………まァな!」
「あー……これで海も終わりか…………俺も最後に遠泳行きゃ良かったなー。来年は来れないだろうし」
「今からでも行ってきたら?」
「すみません嘘です」
打てば響くようなテンポの良いやり取りをする3人の言葉の中に、少し疑問に思う所があり耳郎は首を傾げる。
「何で来年は来れないの? 来たら良いじゃん」
「え? あーいや……俺達来年から高校生でさ。んで、志望校が結構厳しいトコだから……」
「へぇ……雄英?」
「……まぁ」
聞いといて何だがまさか当たるとは思わなかった。それは自分以外にその学校を受けるという人間が周囲に居なかったのが原因だ。耳郎は初めてであった同じ学校を目指す人間に少しだけ身を乗り出して「アタシも雄英志望なんだ」と言った。
「へぇ! そうなんだ! 奇遇!」
「おお、俺ら以外にも居るんだなぁ雄英志望って!」
「そりゃー居るだろ……倍率何倍だと思ってんだ」
「いやまぁそうだけどさ!」
「まー分かるけどな……周りのダチは皆大体地元の高校行くもんな」
「お前俺ら以外ダチ一人も居ねえじゃん」
「ぶん殴っても良いですか?」
「駄目だ……ぁ」
「はい倒立腕立て五十回」
突如無表情で倒立をし、そこから腕を曲げたり伸ばしたりし始めた黒髪を見て目を丸くしている耳郎はそれをしたのであろう紫髪に目を向ける。その視線に気付いた紫髪は苦笑しつつパチン、と指を鳴らした。その瞬間黒髪が「おっ!?」と変な声を上げてハンドスプリングでクルンと百八十度回転し足で着地していた。とんでもない身体能力だ、と耳郎は思ったが、身軽さだけで言えばこの黒髪が集団の中で最下位である事を知れば何と思うのであろうか。
「店の中で個性禁止」
「あー……悪い悪い、ついいつもの感覚で」
「べっつに良いけど……何も壊してないし」
そう言いつつ、耳郎はチラ、と目線を心操に向ける。その視線の意味を察した心操は苦笑交じりに「『洗脳』」と一言答えた。
「洗脳……」
「俺と会話した奴の身体の動きを乗っ取れる。その間意識は半分寝ぼけてるみたいになるらしい……ちなみに俺の名前は心操人使。『心』を『操』り『人』を『使』う。ピッタリだろいだだだだだだ!!!! 血が出る血が出る!」
苦味のあるシニカルな笑いを浮かべつつ耳郎にそう言った紫髪……改め心操は突如として後ろから頭蓋骨をギリギリと締め上げられて悲鳴を上げた。よく見ると頭蓋骨を締めている手は黒曜石器のようにゴツゴツとした尖りかたをしていて、それも個性によるものだと用意に判断できる上に滅茶苦茶痛そうだった。ゴツゴツしたその手を何とかして離そうともがく心操の後ろから黒髪がヒョイと顔を出し、ギザギザの歯でニカリと笑う。
「俺、切島鋭児郎! 個性はこの通り『硬化』! 『鋭』くてよく『切』れる男だ! 雄英目指してる同士よろしくな!」
「あ、うん。てかそいつ、心操大丈……」
耳郎が遂には抵抗を諦めて死んだ目で天井を眺めはじめた心操を気にするが、その横から今度はピンク色の少女がピョコリと飛び出し、切島と同じように白い歯を見せて黒い瞳を細め、ニッコリと笑った。
「アタシ芦戸三奈! 二人みたいな漢字のアレは特に無いけど
ピンク……改め芦戸が心操の頬をつまんでキュッと伸ばす。すると心操は先程までの死んだ目を一変させて「酸がっ!?」と叫んだ。芦戸は指先に弱酸を生成したらしい。この暴力がコミュニケーションの基本みたいなノリに初めて遭遇する耳郎、ドン引きである。
「あ、うん……ねえそいつ本当に……」
「「んで!」」
「あっはい」
耳郎の心配を再び遮って、切島がアイアンクローを外し、芦戸が指先の酸を軽く振って飛ばしてから床に崩れ落ちた心操を指差す。
「コイツん名前は心操人使だ」
「……聞いたんだけど」
「……うん、だよね……けど違うんだ」
力尽きるように地面に座り込んだ事で低くなった心操の頭を、芦戸と切島が先程までのヴァイオレンスコミュニケーションではない、軽い調子でパス、パスッ、と手を乗せる程度の強さで叩いた。
「心操の名前は、『心』を『操』る力を『人』の為に『使』う……だよ」
「そーそ! ヒーローらしい良い名前だよなッ!」
心を操る力を人の為に使う。そんな即席感漂う名前の意味などたった今聞いたのだろう。一瞬呆気に取られていた心操は、頭の爪痕と頬の軽い火傷を押さえながら、それでも少しだけ嬉しそうにはにかんで「……そういう事らしいんで……」と小さく会釈した。が、横から「心操ホントそういうとこあるからさぁ」とか「ネガティブネガティブし過ぎなんだよな」とか「心操ネガ使」だの言われながらガッシガッシ縦に横に頭をかき混ぜられて「ヤメルォ!」とキレていた。そんな光景が、そんな光景を作れる信頼関係が、何だかおかしいやら羨ましいやらで堪らなくなった耳郎は吹き出すように破顔してしまった。
「っフッ、ッあはははは! なにそれ!」
「おいお前らのせいで笑われたぞ」
「心操のせいじゃん?」
「心操のせいだな!」
「ちげーよ」
二対一でドツき合う三人を見ながら一頻り笑った耳郎は、目元の涙を拭いながら三人に自己紹介をする。
「っはは……あー笑った……ウチは耳郎。耳郎響香。雄英受験生のよしみで、仲良くしてよ」
「よろしく」
「オウ!」
「耳郎……ジロちゃんだ!」
「そのあだ名犬みたいじゃない?」
そうして同じ先を目指す新たな仲間を見つけた心操達がしばらく談笑していると、もうすっかり暗くなって人の気配が無くなった海の家に二人の屈強な男が飛び込んできた。その二人は耳郎が昼間見た、バレーボールで他よりも圧倒的に超次元なプレーをしていた二人であった。
「あ! やっぱりここに居た!」
「んぁ、緑谷?」
「え、もう帰ってきたのか? ボート引いての十キロ遠泳を? ……相変わらず化け物じみてんな……」
「そんな事言ってる場合じゃないよ! 大変なんだ!」
普段からなんやかんやと忙しなくしている彼であるが、それでもいつになく切羽詰まった様子の緑谷に首を傾げる三人プラス一。そんな勘の鈍い連中に爆豪が怒りで顔をどエライ事にしながら一枚の紙を叩きつけた。
「は? 何これ……」
「あのハゲクソゴミナンパ中年がメガネジの車のワイパーに挟み込んでたんだよ」
「……」
「……」
スピリットの置き手紙。その時点でもう嫌な予感がビンビンになっている三人であるが、それでも読まなければ始まらないと意を決して手紙を覗き込む。
今日お友達になった女の子達と遊びに行ってきます。何日か帰ってこないので俺の事は気にせずに帰って良いよ。気をつけて帰ってね。 追伸 男は走って帰れ。
即座に心操は手紙をグシャグシャに丸めて芦戸に投げ渡した。それを芦戸が掌の内で強酸を発生させ消滅させる。
そして、心操、切島、芦戸が揃って眉間を揉み、「ふゥ────…………」と細く息を吐く。マナーに則り手紙を見ていない耳郎はジリジリと空気に満ちていく怒りのオーラに困惑を隠せない。
「…………え、と。どしたの?」
「…………ろす」
「……だね」
「決まりだな」
「え? 何?」
心操達三人は途轍もない怒りを湛えた顔で静かにアイスのガラをレジ横のゴミ箱に捨て、テーブルを立つ。
「耳郎、半年後はお互い、本気で戦おうぜ」
「あ、うん」
「ジロちゃん、元気でね! また会おうね!」
「えっと、分かった」
「じゃあな耳郎!」
「おう」
「あいつ誰だ?」「雄英受けるんだって」そんな話をしながらドダバダと走り去っていく連中を見ながら耳郎はグッと体を持ち上げ、布巾を絞って三人が座っていたテーブルの水滴を拭き始めた。
「……にしても……どーっかで見たことあるんだよなぁ、あの二人……」
首を傾げてもその既視感の正体は知れず。耳郎はしばらくの間このもやもや感と付き合うのであった。
海岸沿い。道路。
「ホラホラもっと走らないと置いていきますよー」
「八月初っ端からこれかよクソ!」
「頑張れっかっちゃん! 駅まで……っ、駅までだから!」
「ぶっ殺してやるナンパジジイぃ!」
「なんか……アタシらだけ車乗ってんの申し訳無いかも……」
「スタミナ上仕方が無いだろ。あー風が涼しい」
「「死ね!!!!」」
「おい心操、お前緑谷にまで死ねって言われてんぞ」
(ゆっくり走ってるって言っても何で車に追いつけてんの?)
無免の夏はまだ続く。
時は
遡り
遡り
遡り
遡り
遡り
遡り
遡り。
十
四
年
前。
人は、転けてもやり直せる。
そりゃあ、そうだろう。
一回転けたくらいじゃ人生のレールってやつからはみ出る事は無い。それくらい『普通の人生』って奴は幅が広く出来てるもんだ。レールのいい場所悪い場所はあれど、普通じゃないレールに乗るやつは多くはないさ。
そんな人生のレールからはみ出るやつってのは、元から何かしらおかしい所があったり、生まれた時からレールの外に居たり……それから、
「…………何が、悪かったんだと思う?」
「……そうだな……きっと……運が、悪かった」
そうさ。
他より特別運の悪い人間が、そうなっちまう。
転けた先に手の引っかかる所が無かったり……手を引っ掛けたところを他人に踏みにじられたり、理由は色々だけど。けど運が悪いのは共通してるんだろうさ。
……だって、余程運が悪くなくちゃ……八十億近い人間がいるこの世界で、『自分』以外にただの一人だって俺を見てくれる人が居ないなんて事になるか?
「……やっぱり、そこに行き着いちまうよな」
「新しい結論なんて出ないよ。『俺』同士で話し合ってるんだから……堂々巡りさ」
「…………お前も俺ならもっと俺の気持ちを考えろよ……」
「俺の気持ちがお前の気持ちだろ。それに、今の俺とお前は別の身体だ。自分と全く同じ人間が居たとして、指摘されるのは嫌でも指摘するのは嫌じゃない」
「………………もういい……消えてくれ」
びしゃ、と『俺』が崩れて消えていく。『俺』の顔をした泥が崩れてコンクリの染みになる。俺はゴミ袋の山から手に入れてきたコートにくるまって、その濡れたコンクリを見つめながら寝転んだ。
他人の気にしている事でも気にせず指摘できる。俺は嫌な奴だ。いや、俺の事だからこそ指摘できるのか。俺は他人の境遇なんて無遠慮に指摘した事は無い……筈だ。
けど、現に『俺』は俺の境遇を何も考えずに抉る。何でだ。俺は、これまで真面目にやってきた。学校だって行かずに、いつだって生きる為に必死だった。『真っ当に』生きる為に……
「…………真っ当に……」
真っ当……って奴に裏切られたのに、まだそんなモン目指すのか……?
「俺…………」
グルル、と腹が鳴った。コートは胴は隠せても、手先足先は冷えて堪らない。俺は立ち上がって、近くの自販機の光に近寄った。
「…………百三十円」
コーンスープが飲みたかったけど、内容量の多そうなペットボトルのホットミルクティーに
『限定特価! 大容量百二十円!』
「……………………………………」
「……冷たい……」
キンキンに冷えた炭酸飲料。かじかんで震える手で蓋を開けて、冷え切った腹に甘ったるい液体を詰める。腹がより膨れる気がして、口を押さえてゲップを無理やり飲み込む。腹は空腹を訴え続け、腹まで冷やされた身体はついに全体がガチガチと震えだしていた。
拷問みたいだ。
「………………」
腹と口を押さえながら、さっきまで寝転んでいた俺の定位置に帰ってくる。
さっき崩れた『俺』のシミは、もう何処だったのかも分からなくなっていた。
「『俺』に興味が無いのは…………俺も同じか……」
思わず掠れた笑いが出て、それを発端に盛大なゲップが出た。それすらも何だか可笑しくて、俺は暫く笑い続けた。
虚しかった。
「……誰か……誰でも良い……誰か……」
涙が出て、身体の力が抜けて、その場に座り込んで、俺は暫く泣き続けた。
「……誰か……俺を……見つけてくれ…………!」
寒くて。
寒くて。
寒くて。
暖めてくれなくて良い。俺は一人で出来るから。
側に居てくれなくて良い。俺は一人で出来るから。
話相手をしてくれなくて良い。俺は一人で出来るから。
だから………………
誰かに、俺を知ってほしい。
朝、目覚めると身体中が冷え切っていた。
普段は『俺』を増やしておしくらまんじゅうみたいになって眠るから、こんなに身体中が冷え切っているのは久々だった。
顔を上げると俺が普段焚火をくべている一斗缶の上に小さなポットが乗っていて、辺りには香ばしいコーヒーの匂いがした。
「………………は?」
俺の身体にはボロいコートの上にもう一つゴワゴワした……白衣、を載せられていて、その持ち主であろう金髪の女が個性で出したらしい矢印みたいな物に腰掛けながら二人分のコーヒーを淹れていた。
「寒いのに、よく炭酸飲料なんて飲むわね」
「…………あ……ザっす」
差し出されたマグをガクガクと震える手で思わず受け取り、一口だけ舐める。
「……甘い」
「私は何も入れないブラック派なんだけど、あなたの顔色を見るに暖かくて甘いものが良さそうだったの」
久しぶりに飲むコーヒーは牛乳の方が多いんじゃないかって分量で、とても甘くて暖かかった。
俺はそれをすぐに飲み干し、それでも足りないとコーヒー牛乳を作る際に使われたらしい小さなパック牛乳も全て飲み干した。
「はい」
「…………え?」
「朝ごはんよ。お金、無いんでしょう?」
牛乳もきっとそこで買ったのだろう。コンビニの袋にはサンドイッチが二つ入っていた。
「…………あ、の」
「何かしら?」
「アンタ、何なんだ?」
サンドイッチを開けながらやっと喉から出た俺の疑問に、女はその目をキュッと細めて口元に薄い笑みを浮かべた。
「私はメデューサ……メデューサ・ゴーゴン……メデューサ、と呼んで頂戴」
名前を聞いたわけでは無かったのだが、名前も知りたかったので俺は黙ってサンドイッチに齧りついた。
「随分あなたの事を探したのよ。私があなたを見つけた時、既に貴方は会社を解雇されていたから」
「……はァ」
一つめのサンドイッチを食べきった俺は、二つめのサンドイッチの封を開ける。
「貴方にお願いがあるの……これは貴方の意思で決めて構わない。嫌なら断っても良い。今まであなたに渡した食事はこの話を聞く代金と思ってもらって良いわ」
「……はァ」
訳分からん、と思いつつも俺はサンドイッチを齧る。何日かぶりに食べる食事は舌に染み入る美味さだった。
「ンな前置きしてもらわんでも、別に何でもやりますよ。やる事無いんで……」
「あら、良いのかしら? 今から私が何を言うか分からないわよ?」
「ええ。どうせここに居たって腹減って死ぬだけっすし」
そう、俺は真っ直ぐに『俺』を見てくれる目を見ながら答えた。
Q.作者が本当にマジで好きなのは耳郎ですか?それともメデューサですか?
A.察せ
あ、ちなみにソウルイーターにおいてサブキャラの方で好きなのは受付のおばちゃんです。