無免ヒーローの日常   作:新梁

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爆豪推薦試験編、開始!

オールマイトの時もそうだったけど、原作キャラがポコポコ出て来ると本当に近づいてきてるなぁって感じがして嬉しくなってくる。これ読んでくれてる皆も同じ気持ちだともっと嬉しいっす!

今回のあらすじ

とんぬらァ!


第三十九話。口は災いの元?

 ツギハギ研究所。いつもの裏庭。

 

 

 

 眼の前の物置台(切島頭部)の上に乗った耐個性高反発ボールを前に緑谷は細く長く息を吐き、精神を集中させる。

 

「当てたら怒るかんなマジで」

「その時は大人しく怒られるよ」

「当てんなって意味で言ってんだよなー俺」

 

 緑谷のメインウェポンである刀術に使う刀は、この夏遂に木刀を卒業し鉄刀へと変化していた。色んな事情(書くの面倒い)から描写は極めて薄いが、緑谷も日々剣術道場に通い修行を積んでいたのだ……実は。

 

「スゥゥゥウ…………ッ」

「えっ何それ呼吸? 呼吸法? アッそういや爆豪もこないだバレーボールの空気一息で入れてたよな? アッそういう? 肺活量でひょうたん割れるとかそういう? 道理で体力違いすぎると思ってたらそういうアレ?」

「喋ってると」

「当たるんだろ!? 分かるよ! けど怖いんだよ! 分かれよ!」

 

 ちなみに呼吸法とかそういうアレは無い。この世界は肉体強化の個性を持たずとも身体を極限まで鍛えれば建物の間を紐一本で飛び回ったり五キロの印鑑投げつけて敵を吹っ飛ばすどころかその進行方向にあるコンクリ壁まで粉砕するような芸当がこなせるようになっているのだ。尚読者の方々も名前出てこなさすぎて忘れているかもしれないが緑谷が収めているのは心月流剣術である。

 

「切島君、男ならドシッと構えてないと」

「男気にも限度があるってのはお前らとつるみ始めてすぐに悟ったんだよ」

 

 そう言いつつも正座をした両膝に掌を載せ、グッと力む切島は底抜けに人の良い男だ。緑谷は中腰で刀の鞘を背中に回し、キリキリと集中力を極限まで高める。切島はなんとも嫌そうに「はぁぁぁ……」と体を動かさずに溜息を吐いていた。正座した足とその膝に乗せて突っ張っている腕、最後に首を硬化させればあとの部分はリラックスしていても切島の身体は動かなくなる。切島鋭児郎、個性の使い方が器用になっている。

 

「……………………ッ」

 

 瞬間。銃の撃鉄が起こされるように、緑谷の手が刀の柄に伸びる。キリッ、と鞘の軋む音が鳴り、切島が観念したように目を閉じる。

 

 …………そして、銃爪は引かれる。

 

 ヅドンッ! と地面が揺れるほどの強さで緑谷の足が一本前に踏み出される。それとほぼ同時に力を極限まで蓄えた筋肉が腰、脇、肩、そして上腕と連鎖的に力を開放していき、集約されたその力が末端……刀の握り手へと到達し……

 

 爆発。

 

 拳銃の銃口から銃弾と共に火が吹き出るように、緑谷の抜き放った刀は微かな、しかし暴力的な擦過音を伴って空を進み、哀れな切島の頭部に乗せられた哀れなボールにその刃引きされた鋒が、触れる。

 

 ズパンッッッ!!!! 

 

「ッヒョォアッ!?」

 

 頭上でとんでもない音が鳴った事に切島は叫ぶが、その後頭の上から転がり落ちてきた『二つ』の物体に背筋が凍りついた。

 

「はっ、おま……えっ……斬ったのか?」

「うん……駄目だなぁ、切り口がブレてるや」

「えっおまっ…………刃引きされた刀で……切れるもんなのか…………? ソレ要するに板だろ? ただの……」

「僕の姉弟子は木刀使って窓ガラスを一切ヒビ入れずに両断できるよ」

「……えぇ……なんか……おかしくないか……? 物理とか……」

「あはは……僕もそう思わないでもないけど、実際出来てるんだから仕方が無いと思わない?」

 

 そんなもんか……そう説得(洗脳)されかけていた切島の横にどこからとも無く発目が飛び出てくる。発目は耐衝撃性能、耐斬撃性能に優れた素材で作られていたはずのボール(ちなみにこのボールは夏休み(前回)のビーチバレーにおいて活躍したものである)の切り口を観察しながらつらつらペラペラと言葉を紡ぐ。

 

「まあ切島さんの言いたい事は分かりますけどそういうモンなんですよね! 切島さんオリンピックって知ってます? 知ってますよね! まあそのオリンピックなんですけど『超人社会』になる前の百メートル走の記録って九秒中盤なんですよ! それが今何秒だと思いますか?」

「えっそりゃおま」

「五秒八三なんですよ! 分かります!? 分かりますよね! 分からないんですか!? つまり『個性』以前と以降でたとえ無個性であろうとも人間という種族の最大スペックはあからさまに上昇しているんですよ! 『極めた場合の最大スペック』であって人類の基礎ステータスが上がってる訳じゃないですから知らない人も多いですけど! 何も鍛えてないごく一般的な学生の平均データはそれほど変わってないんですよね! そもそも人間の遺伝子に存在する『個性因子』というのも便宜的にそう呼ばれているだけであり『個性因子』に備わった性質を身体能力とは別の形で発現できる人間の事を『個性持ち』と呼ぶのは正確ではなく現状世界に存在する人間は本当にただの一欠片も(・・・・・・・・・・)個性因子を保持していない人間と比べた場合全員が人間の最大スペックを引き上げるという『個性持ち』でありその上でさらに」

「明ちゃん、結論」

「出久さんは百何十年か前の人間と比べれば圧倒的に超人ですけど今の人間と比べればまあ十人並みの潜在能力ですね!」

「心が死んでいく」

「みんなー、シフォンケーキ焼けたよーちょっと萎んだけど……何かあったの?」

 

 発目はマイペースに、緑谷は涙を流し、切島はいつの間にやら蚊帳の外。いつも通りっちゃあいつも通りの光景だが芦戸はつい毎回のように何かあったのかと聞いてしまうのであった。

 

 

 

 ツギハギ研究所。いつもの食堂。

 

 

 

「そもそもですね皆さん! 『個性は身体能力』って前提自体が厳密には違うという説があるんですよ!」

「おいコイツ世界観を崩壊させに来たぞ」

 

 切島の額にケーキ用のフォークが突き刺さり、ギィンッ! と派手に火花を散らした。切島はそれに対し特に動じる事もなく自分のフォークでケーキを切り分けていた。発目は普通に舌打ちした。

 

「うーん……けど身体能力じゃないの? だから鍛えるだけ強くなるんでしょ……? 自分の身体の事なのに自分の力じゃないとかなんか、変じゃん?」

「個性が変だというのは認めますがそこが理由ではないですね! 例えば三奈さん! 三奈さんの個性である『酸』はどうやって鍛えるんですか!?」

「え、私の皮膚が酸に耐えられる限界があるから何回も強い酸を出して皮膚を強くするって感じ」

「では心操さんは!?」

 

 芦戸に半強制的に調理器具の洗浄をさせられていた為シンクの方に居て全く話を聞いていなかった心操が何のこっちゃという顔をするが、芦戸から軽く説明を受け考え込む。

 

「……俺の場合はそういうの考えねえな……個性はちょこちょこ使うけど別に成長してるとは思わないし」

「ふむ成程! では切島さんは!」

「…………長時間の硬化を続けて硬化ができる時間を伸ばす……後は、硬いものとぶつけてより硬くなるように……とか?」

「成程! さあここまでで皆さん何か気が付きませんか!?」

 

 再び洗い物に戻った心操を除く二人が揃って首を傾げるが、答えは出ない。だが常に誰よりも他人の個性を観察しているヒーローオタク兼個性オタクの緑谷がケーキを口に運びながら「多分だけど……」と推論を話す。

 

「切島君のはともかく、芦戸さんと人使君の個性は成長してないって言いたいのかな?」

「は? 成長してますけど?」

 

 食い気味に否定してくる芦戸に対し、緑谷が苦笑しつつ手を振る。

 

「あーうん……ごめん……けど……ほら、それって『酸を使う芦戸さんの身体』が強くなったからより強い酸を生み出せるだけで、『酸を生み出す個性』が強くなった訳では無い……って考えられない?」

「………………あー……なるほど…………」

 

 うぬぬ、と腕を組んで唸る芦戸を尻目に「そーいう事です!」と発目は高らかに宣言し、ケーキを頬張った。そんな発目の横に、いつぞやに見た金髪隻眼の女性が携帯を操作しながら座る。その姿を見た芦戸、切島の二人に軽い緊張が走った。

 

「マリーさん。先生は?」

「もうあの子は試験場に行ったって……美味しそうに出来たじゃない三奈ちゃん。難しくなかったでしょ?」

「ハイッ! 簡単でしたッ!」

 

 敬礼でもしそうなくらいビシッと答える芦戸と、視線を受けないように縮こまってケーキを頬張る切島。電気ショックの恐怖から未だに逃れていない二人である。マリーは困ったように「そんなに緊張しなくてもいいのよ?」と柔らかく苦笑しつつ(彼女は電気ショック目覚まし(十九話参照)が人にどれだけのトラウマを与えるか理解しきれていないフシがある)芦戸から即座に渡されたシフォンケーキの小皿を受け取った。

 

 今日は爆豪勝己が雄英推薦試験の最終試験を受ける日であり、それに伴いシュタインが「少し用事があるから」と爆豪と共に雄英のある街に前日から旅立っているのだ。マリーは偶々職場の夏休みがカブったため無免達の面倒を見に来てくれている。特に電気のトラウマを抜け出せていない芦戸と切島の青い顔が印象的だったと後に緑谷は語る。

 

「ん、おいし」

「……そういえばよ、何で発目はサポート科の推薦受けてねえんだよ。爆豪でイケんならお前は余裕じゃねえの?」

「え? 推薦受けちゃったらヒーロー科の実技試験受けられないじゃないですか! そんなの当たり前でしょう?」

「…………さいですか」

 

 受ければ受かるの確定なんだな、と切島は力無く笑う。

 

 自分達がこれまでの人生を賭してやっている受験もこのチート女にかかればその程度の扱いである事に切島は諦めの笑みを浮かべつつ涙でしょっぱくなったケーキを食べた。そこに、洗い物を終えた心操が手の水気を切りながらやって来る。

 

「洗い物終わったぞ。俺にもケーキくれよ……んで、さっきの話何だったんだよ?」

「個性論ですよ」

「個性論? お前今度は哲学に手出してんのか」

「いえ? そっち方面の話ではないですよ。ちょっと調べればすぐに出てくるただの科学味のオカルトです」

「…………すっごい頭良さそうな会話してる……」

 

 頭良いトークに目を回しかけた芦戸を無視して発目は「フムム」と顎に指をやりつつ、数秒沈黙してから語る。

 

「んー……けどまー特に確たる証拠があるわけでもなく、本当にただの言説でしかないんですけどね。与太話の類いですよ」

「オウ」

「まあ現代において個性と呼ばれている能力は基本的に生物のまともな進化では手に入る筈の無い力だって事はお分かりですか?」

「ハイ! お分かりでないです!」

「成程! では生物の進化と言うものについて少々語りますね!」

 

 芦戸に注いでもらったアイスティーを一気飲みした発目はガッと立ち上がり、いつぞやに硬化の説明にも使用した備え付けのホワイトボードに『個性』、『人体』と殴り書いた。

 

「そもそもですね! 個性とは主に三奈さんや人使さんのような『発動型』、マリー先生や切島さんのような『変身型』、私のような『異形型』の三つの分類に分けられる訳ですが! この三つの分類は見た目上だけではなく内部的に見て肉体が変質しないか変質するか、それとも最初から変質しているかという点において分類される訳です! ですからマリー先生などは見た目的には変化が無くとも変身型とされる訳でして、その違いというのが」

 

 こうなった発目が止まらない事をとてもよく知る二人のうち一人の緑谷はニコニコとそれを眺め、もう一人の心操は天井を眺め諦めたように呟く。

 

「あー長くなるコレ……」

「爆豪今試験場で何してんのかなー」

「周りにガン飛ばして迷惑がられてると思うよ」

「まさかぁ。いくら爆豪でもそんな事しないでしょ!!」

 

 

 

 同時刻。雄英高校。

 

 

 

とんぬらああぁ────ッ!!!! 

「死ね」

「やっぱとんぬらも二次受かってたんすね! 心配してたんすよ!」

「あんなクソ試験受からねえワケ無えだろクソが! 死ね!」

「でも俺だって負けないっす! 今日の為にずっと頑張ってきたっすから!」

「はぁ゛────ん゛!? テメェみてえなうるせえだけの騒音クソ大坊主に俺が負けるわけねえだろえぇゴラ! 死ね!」

 

 雄英高校敷地に入って数分程度の所にある仮設試験場(仮設と書いている割にとてもしっかりした建物であった)に入り他の受験生にガンを飛ばしていた傍迷惑の権化みたいな爆豪に恐れを抱かず仲良さげに話す坊主頭の大男。約七万文字ぶりに登場したこの男の名前は………………騒音クソ大坊主である。略してソクオ。

 

「いやーアッハッハ! 相変わらずすんげー身体してるっすね! とんでもねー筋肉! しかも身体中のその傷! とんでもないっすね! ちょっと触っていいっすか!」

「嫌じゃボケ殺すぞ!」

「わっはーっ!! スゲェー! 鉄みてオボオッ!?」

「触んなァ!」

 

 爆豪の傷まみれの腕を触った瞬間以前とは違うガチパンを食らわされきりもみしながら地面に激突したソクオに中指を立てる爆豪にドン引きする周囲の受験生。普通推薦受験の会場で乱闘騒ぎを起こすだろうか? そう思っている彼らは二次試験において別の教室だった者達である。まだまだ鍛錬が足りぬ。

 

「失礼! 少し良いだろうか!」

「あ゛ぁん!?」

 

 ソクオの頭を踏みつけようと歩を進めようとしていた爆豪の肩をトントンと叩く誰か。残像が見える勢いで爆豪が振り向いた先には、短い髪をキッチリとセットした眼鏡の青年が立っていた。

 

「アんだぁゴラァ! 俺は今死ぬほど機嫌が悪ィんだよ! 話しかけんじゃねえ!」

「それは見れば分かる! しかしここは君の不機嫌を発散できる場所でもしていい場所でもない! ここは雄英高校推薦試験会場だ! 君もこの高校の受験生であればそれに見合う態度というものがあるだろう!」

「…………ッチ」

 

 青年の言に自分の周りを見て、周りからの目線を感じた爆豪は渋々と元居た場所へと戻っていく。青年もそれに続き、取り残されたソクオの元には一人のキザな雰囲気を漂わせる金髪の青年が歩み寄っていた。

 

「大丈夫かい?」

「平気っす! すんげぇパンチ! 全ッ然見えなかったっす!」

 

 倒れた状態で鼻血を吹き出しているソクオにティッシュを手渡しながら、金髪の青年は「けど惜しかったね」と呟いた。

 

「惜しかった? 何がすか?」

「誤魔化さなくて良いよ。あれは作戦だろ? 短気そうな奴に声をかけてわざと殴らせて、有力そうな競争相手を一人でも減らそうって公算……中々やるね君」

「アッハッハ! そんな姑息な事しねーっすよ! ヒーロー志望っすから!」

「……ふぅん、そうかい? まあ君がそう言うならそれで良いさ……こりゃあ僕も負けてられないね」

 

 そう言った金髪の青年はソクオに手を差し出す。ソクオはその手を取って立ち上がり、「ありがとうございます!」と叫ぶ。

 

「いえいえ……僕の名前は物間寧人。君は?」

「夜嵐イナサっす! よろしくお願いしまァす!!」

「夜嵐……風の個性か何かかい?」

「ハッハァー! バレたァ!」

「ハハッ、やっぱり。ちなみにどんな個性なんだい? ここにいるって事はまさかそよ風じゃ無いだろ」

「モッチロォン! 俺の個性はっすねぇ!」

(こいつチョロすぎないか?)

 

 そんな感じで物間と仲良く話すソクオ改め夜嵐であったが、声と同様に身振り手振りも大きい彼が振りかぶった手の先が通りすがりの受験生の肩にぶつかり、会話が中断される。

 

「……おい、邪魔だ」

「あ! ぶつかった! どうもッ、スミマセ──」

 

 パッと振り返り謝ろうとした夜嵐の言葉が不自然に止まる。それを不自然に思った物間が夜嵐に声をかけると、夜嵐は「…………いや……なんでもねッス」と上の空な返事を返してきた。

 

 物間が夜嵐の視線の先を辿れば、夜嵐の言葉に足も止めずに歩き去った、真ん中できれいに紅白に別れた髪をした受験生の後ろ姿が見えた。

 

(……試験がどういう構造かは分からないけど、とりあえずアイツもチェックだな)

 

 物間はそう思いつつも、滅多に見ない類の『当たり個性』を持つ夜嵐からもう少し個性の使い方を聞き出そうと向き直った。

 

 が、そこで黒一色のスウェットを身に纏った身嗜みのまるでなっていない小汚い男が後ろに過激なボンテージ風の衣装を纏った女性と鋭い目つきをした犬面の男性を伴い試験場の入り口より現れる。

 

「試験開始二十分前だ。受験票を持って来い。ゼッケンと交換する……それと、事前送付した要項にも書いてあったがサポートアイテムを使用する奴は医療機関の認可証を提出しろ。今ここで認可証を提出しないサポートアイテムに関しては試験中の所持を一切禁止する。黙ってればバレないなんて甘い事を考えるなよ。毎年それで何人か出禁になってるんだ」

「ゼッケンを受け取ったらこっちに並んで順に身体検査を受けて頂戴ね。女子は私、男子はあっち」

 

 唐突に始まった試験準備にざわめく受験生を放って手際良く衝立や書類机の準備をした彼らは「はよ」と受験生をせっつく。すると予想通りというか、爆豪と夜嵐が足早に受験票を提出してゼッケンを手に入れ、身体検査を受けた。ちなみに先程の騒動はすでに把握されているらしく爆豪がゼッケンを受け取った時に小汚い男……イレイザーヘッドに「次やったら叩き出すからな」と凄まれた。こういう大人しくしなければならない場でさえ暴力が出てしまうのは、明らかに悪役ルックスなマッドサイエンティストの下で長きに渡り、口を出すより先に手を出さなければ生きていけないような殺伐ライフを送ってきた弊害である。

 

「ッハー! ワクワクしてきたァ! 何するんすかね!?」

「知るか」

「俺としてはやっぱバトルだと思うんすよね! 熱いじゃないすかバトル!」

「知らねーつってんだろが!」

「君口悪いねぇ。何の個性? あ、猿?」

「ブチ殺すぞスカシ七三!」

 

 つい飛び出そうになる手を理性で抑えながら吠える爆豪。吠える程度は許されるらしいのが救いか。その場に居た約五十人程度がゼッケンを受け取り犬面のヒーロー……ハウンドドッグと皆おなじみミッドナイトによる検査を受けた後、三人のヒーローに連れられて向かった先には簡易的な入場門があった。そしてその先にはアミューズメントパークのような形をしたとんでもない規模の施設が見える。この時点で夜嵐のテンションは相当上がっていた。対照的に物間と爆豪は静かであったが。

 

「えー……という訳でマイク、後は頼んだ」

『オオォォケェェィ!! ボウィズェンドグァルズ! こちらに注目ゥ!』

 

 ドバァンと効果音が出そうな勢いで前に出てきた金髪トサカの男……プレゼント・マイクが試験概要を説明する。様々な障害物の配置された道のり三キロメートルのマラソン。六人一組で計十組(受験生は六十人であったようだ)のレース。そして合格できるのは『最大』で四人だという。「組分けは今から決めるぜ!」とおみくじマシーン(あの風でおみくじを巻き上げるやつ)をプレゼント・マイクがバンッと叩き、即座に呼び出された受験番号一番の受験生から並んでカプセルの中に手を突っ込んでいく。

 

「受験番号一番! 飯田天哉です!」

「ヴルル……よし、引け!」

「ありがとうございます!」

「アイツ熱いっすね!」

「黙ってろ死ね」

「語彙が貧弱だね君。どうやって国語試験通ったの?」

「死ねスカ七三!!」

「僕の髪がスカスカみたいなあだ名は止めてくれないかな!」

「そこ、静かにしろ。叩き出すぞ」

「スイマセンでしたアァ!」

「俺は黙れって言ってるんだよ」

(例年は静か過ぎるけど、今年は騒がし過ぎね)

(俺は良いと思うぜ。今年の担任は俺じゃないからな)

(鬼ねマイク)

「……飯田天哉、一組!」

 

 何だかんだで組分けが終わり、夜嵐は三組、物間は六組、爆豪は最終の十組に振り分けられた。

 

 そして、一組、二組。順調に試験は進み、三組目。夜嵐が立体的なステージへと突風を伴ってカッ飛んで行くのを爆豪は地面に胡座をかいて頬杖をつき眺めていた。

 

 爆豪の目から見ても(決して口には出さないが)、夜嵐のレベルは他より頭一つ抜けている。そして夜嵐と共にコースを走っている、氷の個性をもつ男も同様に高いレベルだ。狭く曲がりくねったコースにおいて壮絶なデットヒートを繰り広げる彼等は、個性の扱い等においては既にそこいらのヒーローを超えている。だが……それを見た爆豪の心は。

 

「随分、退屈そうな眼をするのですね」

「あ?」

 

 横合いから声を掛けられ、目線を動かすとそこには蔓薔薇のような髪をした少女が楚々とした佇まいで地面に腰を下ろす所であった。

 

「ンだテメェ。誰の許可得て隣に座ってんだ」

「あら、この待機時間は準備運動でも休憩でも好きにして良いと言われたではありませんか」

 

 おかしな人だわとクスクス笑う少女に舌打ちを一つして、爆豪は頬杖をつき直す。少女はそんな爆豪の憮然とした横顔を見て、何がおかしいのかニコニコと笑い続けていた。

 

 暫くは二人並んで試験を見続け、その場に沈黙が降りた。が、数グループ進んだ時に少女はもう一度口を開く。

 

「貴方にとってはこの試験は役不足でしょうね」

「あ?」

「私は思った事を言っただけです。そう邪険にしないで下さい……その姿を一目見れば分かります、貴方の実力がこの場の誰よりも隔絶している事くらい」

 

 頭一つ分、なんてものじゃありませんよね? と笑う少女にもう一度、今度は明確に警戒の色を乗せた視線を送る爆豪。試験は既に物間のグループまで進んでいた。

 

「……テメェ、何モンだ」

「塩崎」

「あ゛ぁ?」

「私はテメェという名前ではありません。塩崎 茨。貴方は……確か、とんぬらさんでしたよね? 先程の坊主の方が叫んでいました」

「殺すぞ! ってかンな事聞いてんじゃねえんだよ! テメェさっきから余裕カマしやがって何なんだクソが!」

 

 爆豪の凄みにも一切動じない少女……塩崎はニコニコと笑ったまま「随分な気迫ですね」と言う。

 

「馬鹿にしてんのかクソがァ!」

「いいえ? ですが……」

 

 塩崎はそっと立ち上がり、乱れたジャージの裾をなおしながら爆豪を見下ろした。

 

「貴方の師は、高揚する『魂』の抑え方を貴方に教えなかったのですか?」

 

 爆豪の目に宿る警戒の色が、その濃さを一気に増した。

 

「…………テメェ」

「それとも、魂を抑えてなどいては直ぐに潰されてしまうような環境で育ったのでしょうか……とても気になりますが、今は聞かないでおく事にしましょう」

 

 試験前ですしね? と、そう言って去ろうとする塩崎に向け、爆豪が「オイ」と声を掛ける。

 

「……何でしょう?」

「テメェ何組だ」

「塩崎」

「何組だ」

「塩崎」

「…………」

「塩崎」

「…………」

「し・お・ざ・き」

「…………塩崎イィ…………!」

「それで良いのです」

 

 そう心なしか得意げに笑った塩崎は、『9』とデザイン文字で書かれた三角くじを爆豪に見せる。

 

 そして。

 

「…………入学後が、楽しみですね? とんぬらさん」

 

 そこで、初めて、塩崎は爆豪に向けて『敵意』を放った。

 

「………………ッッッ」

 

 苛烈な、浴びただけでも全身の皮膚が裂けそうな程に研ぎ澄まされた、緑谷や心操の放つ『戦意』とは一風違う正真正銘の『敵』に対する気炎。爆豪は目の前の大人しげな風貌の少女の胸の内にその髪と同じような鋭い棘を持つ蔦で形作られた魂を幻視する。

 

 まるで、心の中の獣を頑丈な檻に閉じ込めているようだ、と爆豪は感じた。

 

 戦闘本能と暴力衝動を鋼の理性でギチギチに縛り上げ、無理矢理に小さく纏めているような。そんな彼女の本質を垣間見た爆豪は……

 

「……爆豪勝己」

「あら」

「テメェはぜってぇ俺がブチ殺す」

 

 座ったままで、視線すらも向けず、頬杖をついたままに。

 

「…………えぇ」

 

 それでも爆豪は先程塩崎に浴びせられた以上の敵意を彼女に浴びせ返した。

 

「それはそれは……とても、楽しみです……爆豪さん」

「フン」

 

 そうして爆豪は、塩崎の魂の中心に座する格好良いのが大好き(中二病)ないばらちゃんが(今最高にカッコイイ強キャラロール(演技)できてる!)とキャッキャはしゃぎまくっている事に遂に気が付かないままにその場から立ち上がった。

 

「あら、私の試験を見なくてもいいのですか?」

「どうでもいンだよ」

 

 にべもない言葉にも関わらず塩崎が笑みを浮かべているのを背中に感じながら、爆豪は仮設のトイレ(ここもとてもしっかりした作りになっていた)に入る。

 

 

 

 仮設トイレ。ちょい暗め。

 

 

 

「…………ハァ……」

「……何しとんだお前」

 

 トイレでは、試験の終了した夜嵐(組内一位)が洗面台に手をついて肩を落とし、彼らしからぬ溜息を吐いていた。

 

「……とんぬら……あ、ココ使いますよね、スマセン……」

「俺は今入ってきたんだよアホ」

 

 何時如何なる時であってもとにかくうるさく、そのあまりのうるささに騒音クソ大男と(極一部で)名高い夜嵐イナサの叱られて落ち込んだ大型犬のような様相は爆豪勝己をして(何だコイツ)と思わせるだけの圧があった。いや、圧はむしろ無いのだが、無いからこそなんか無視できないような感じになっていた。爆豪は小便をサッサと済ませ、夜嵐の落ち込んでいる隣りにある洗面台の蛇口を捻ってサパサパと手を洗う。

 

「とんぬら……」

「ンだ」

 

 夜嵐は声を掛けたは良いものの、何を話せば良いか分かっていない様子であった。

 

「……何もねえんなら呼び止めんな」

「……あいや、その……」

 

 夜嵐は何度か視線を鏡と洗面台の間で移動させ、ギュッと目を瞑ってから大きく息を吐いた。

 

「とんぬらって、どうしても…………ど〜〜〜っっしても! 好きになれない奴って……居るスか」

「…………ハァ?」

 

 第十組スタートまで、残り約二十分。

 

 爆豪は、お悩み相談イベントを踏み抜いてしまった。




Q.何でここで出すのが飯田と物間なんすか?

A.飯田は私立名門中学出身だし品行方正だしで推薦入学できてもおかしくないなと思ったから。物間は普通に一般入試よりも推薦落ちからの一般入試な方が絶対面白いから。
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