無免ヒーローの日常   作:新梁

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章の変わり目なんで零時投稿ではないよ。あと今まで通り目次のアレは春夏編の一話目に突っ込んどくから!

最近めっきり涼しくなって風邪ひきそう。無免が風邪引く話書こうと思ったけどまるで想像できずに一文字も書けなくて終わった。庭に並んで全裸で乾布摩擦してる図ならいくらでも想像できるのに……あ、初めて歌詞使用しちゃいました。

……という訳で、発目明追憶編、始まります。

秋冬編あらすじ

迫りくる試練。将来の好敵手との邂逅。力を与えられなかった少年の前に、その運命はゆっくりとその姿を現していく。

しかし少年は止まらない。少年は諦めない。その前に、後ろに、そして隣に……苦楽を共にする絆で繋がった仲間が居る。

光を浴びる日は、近い。

「声マネしまーす。『超爽やかな爆豪勝己』」
「死ねァ!」
「待て!聞きたい!聞きたいから待て!」
「待つかァ!」
「まぁまぁかっちゃんほら!ね!ほら猫じゃらし!ホラホラホラ!」
「テメェは馬鹿にしてんな殺すテメェから殺す!」
「今!ほら心操今なら行けるって!やってやって!」
「カメラ!回してますよ!」
「んがああああ!!!!クソがああああ!!!」

今回のあらすじ

発目明追憶編、始まらない。

リア10爆発46さん、BONDXさん、誤字報告ありがとうございます。


中学三年生、秋、冬。
第四十一話。九月中旬、UA(二回目)。


ツギハギ研究所。早朝。

 

 

 

ドーンマイ!

ドーンマイ!

\ドンマイ!/

後ろを振り向くな!

ドーンマイ!

ドーンマイ!

\ドンマイ!/

「「明日はまた来る!」」

黙れや…………!!

 

推薦試験をある意味一番情けない形で落としてしまった敗北者、爆豪勝己は地面に正座してブルブル震えながら、無免男衆三人の全力煽りを受けていた。地面に座り込んだ爆豪の周りを盆踊りを踊りながらグルグル回ってひたすら励ましの歌を歌い続ける緑心切の姿は紛うこと無きアホそのものである。

 

「アッハハハハハ!勝己さんッふハハハハ!手を出しちゃアッ、フヒッ、駄目ですからね!アハッ、ハアハハハ!今これ映ぞ、映ッ、映像に撮ってッフフフヒヒッ、撮ってるんで!証拠残りますよーッハハハアハハハ!!!」

「うわーー……可哀想……プッ」

「笑うなァ…………!」

「しょうがなくないかな?推薦試験場で人殴るからだよ。その場で捕まえられて警察送りでも文句言えないよ?それ」

「全くだ。お前のせいで俺ら全員なんか雄英行きづらいんだけど。どうしてくれんだよマジで」

「そんな事するなら合格枠俺にくれよ」

「ッガアァァ…………!!」

 

盆踊りを止めてコサックダンスで周囲をグルグル回り始めた三馬鹿にそう言われ、正直反論できる所も特にないので爆豪は唸るしかできない。そんな状況を打破するように、裏庭の入り口からシュタインが顔を出した。

 

「おーい、揃ってる?」

「あ、先生」

「博士!どうしたんですか?こんな朝早くから俺ら呼び出して」

「ちょっとアルバイトを手伝って欲しいんですよ」

「へぇ……良いですけど、どこでですか?」

「雄英高校」

「ファッ!?」

 

タイムリー過ぎる話題に発目は耳に入れずにゲラゲラ笑い続け芦戸が目を見開き、緑谷と心操がダンスを止め、切島がバランスを崩してスッ転ぶ。それを眺めつつシュタインは爆豪を指差した。

 

「そこの倫理観ボンバーマンが試験中に壊した色々な機材の修繕で、サポートアイテム製造業者に広く依頼が掛かったんですよ。それで罪滅ぼしも兼ねてその依頼を受けたって訳です」

「誰の教育(せい)だァ……!」

 

グルル、と唸る爆豪を無視してシュタインはカメラを放り出して笑い転げる発目に向き直り、「という訳で工具の準備してきなさい」と指示した。

 

「アハハハ!アーハハハ……ヒー、フヒィー……はぁ、あー……分かりましたァ!あ、出久さんこれどうぞ」

「あ、うん」

 

緑谷にビデオカメラを預けた発目は風のようにその場から立ち去る。それを見送り、シュタインは懐から煙草を取り出して火を点ける。

 

「……先生、雄英に明ちゃんを連れてく……って事は……」

「ええ。そういう事です」

 

爆豪の推薦試験にシュタインが着いていったのは、保護者だからではなかった。シュタインにとって爆豪の事はあくまでついででしか無かった。

 

シュタインは、爆豪が試験を受けている間の時間で発目に両親の家を返すための準備をしていたのだ。この事は試験に向かう前に緑谷も了承済みの事であった。

 

「……ねえ緑谷……明ちゃん、乗り越えてくれそう?」

「……大丈夫だよ。万が一乗り越えられなかったら、乗り越えられるまで僕がそばにいるし」

 

一生一緒って決めてるからね、と言った緑谷に、感極まった切島と芦戸がガバリと抱き着く。

 

「よく言った緑谷ァ!漢だぜ!」

「凄い緑谷!偉い!」

「うわっちょっ、離れて!匂い探知されるからァ!」

 

シュバッと芦戸は即座に緑谷から離れた。まだ若い身空で人体実験の材料にされるのは嫌だったのだ。

 

発目は大切な友人であるが同時に周りに危険を振り撒く異常人物でもある。芦戸はそれをよく分かっていた。

 

「スミマセン切島さん!ちょっと来てもらって良いですかァ!」

「え、俺?……オウ!今行くー!」

 

何故か発目に二階の窓から呼ばれた切島が研究所に入っていき、緑谷は芦戸と遠出用の水筒に麦茶を入れる為にかつて発目が厨房ごと爆破した通用口(修復済み)から厨房に入っていった。心操は恐らく汚れ仕事になる事を察し、タオルと人数分の作業着を取りに行く。

 

そしてそれらを見送ったシュタインは、煙草の煙を鼻からフスーッと吐いた。

 

「…………上手くいくと、良いけどねぇ……」

 

二階に上がった切島の悲痛な断末魔を聞きながら、シュタインはそう言って煙草の火を消し、レンタルしてきたバンに元々用意していた色々な物を積み込んだ。そこにただ一人何もしていなかった爆豪がシュタインの背中に、声を掛ける。

 

「おい、メガネジ」

「何?」

「……実際どうなんだ。アイツは乗り越えられんのか」

 

シュタインは爆豪をチラリと横目で見る。その顔には怒りも嘲りも無く、ただ真剣だった。

 

(…………まぁ、不安になるのも止むなし、なのかもね)

 

爆豪は切島や芦戸、心操とは根本的に、そもそもの前提が違う。一見いつも通りのノリで放たれたかのような緑谷の先程の宣言が、実際どれだけの覚悟の上で放たれたのかが、無免の中で爆豪だけは分かる。

 

緑谷とシュタイン以外で、爆豪だけが、両親が殺害された直後の抜け殻となっていた発目明を、知っている。

 

「出久は大丈夫だと言ってたでしょう」

「乗り越えられるとは言ってなかったろーが。クソデクの意見じゃねぇ……俺はテメェの意見聞いてんだよ……はぐらかすな」

 

緑谷は、大丈夫だと確かに言った。

 

だが、それは『発目明は自分の過去を受け止められるから大丈夫』なのか?

 

……それとも、『もし発目明が過去を受け止められなくても自分が居るから、再び抜け殻になっても大丈夫』なのか?

 

爆豪には、十年以上共に居る幼馴染の、そのどちらの事も分からなかった。

 

発目(クソ女)は乗り越えられるのか?

 

緑谷(デク)はどう思っているのか?

 

それが見えずに自然と険しくなる爆豪の表情を解すように、シュタインは乱暴にその爆発ヘアーをかき混ぜる。

 

「人の頭にァにしとんだ殺すぞカスメガネェ!」

「ワッハッハ、出来るのならどうぞご自由に♪」

「殺す!」

 

全身のバネを最大限活かしてシュタインに飛びかかろうとしたその瞬間、シュタインが「推薦落ち」と呟き、それが目に見えぬ鎖となって爆豪を縛る。

 

「…………っがッ」

「んン〜、自分で思い出さなきゃまだまだ自制心が身に付いたとは言えないね」

「〜〜ックソがァ!」

「ヘラヘラ」

 

身から出た錆が全然落ちない爆豪の怒声が響き、同時に二階の窓から切島がペッと捨てられる。ゴシャッと音を立てて地面に激突する切島を爆豪は無言で指差すが、シュタインは露骨に顔をそらして無視した。義娘にはとことんまで甘いシュタインである。

 

「大丈夫ですよ……あの子なら」

「…………チッ、最初からそう言えやボケ」

「……勝己は素直じゃ無いですねェ〜〜〜」

「んがぁぁぁぁぁぁ止めろ頭締めんなボケメガネアァああがあっっっっ!!!!」

 

 

 

車内。移動中。

 

 

 

「警察?」

「刑罰?」

「……何だそれ?」

 

普段とは違い広々としたレンタカーの車内で、思いきりくつろぎながら芦戸と緑谷、心操が疑問の言葉を放つ。その先に居る発目は胸を張りながら「その通り!」と高らかに宣言し、なんかゴツい機械が装着された切島を指差した。その切島は現在発目の作った説明書を読むのに夢中である。

 

「まず前提として、個性って割と私達サポーターが手を加えやすい物と加えにくい物があるのは分かりますよね?」

「あぁ、まぁ。芦戸の個性なんてどんな道具作ればいいか分かんねえもんな」

「うぅ……私もサポートアイテム欲しいです発目センセイ……」

「まぁそういう事ですね!そしてその点切島さんの個性って、手を加えやすい事この上ないんですよね!!!」

「無視された……」

 

電子タブレットをスイスイっとやった発目はその液晶を後部座席に居る切島以外の四人に見せる。話には加わらないもののしっかり確認している爆豪を含めた四人はそれを見て、首を傾げたり大きく頷いたり鼻を鳴らしたりした。

 

「……あー、そういう……」

「…………分かるような……分からないような……?」

「……『切島(使用者)自身を即時軟化、即時硬化を使い分ける万能部品と見なす』……どゆこと?」

「お答えしましょう!切島さん!私の手首を握ってください!」

「え?あ、おう」

 

車の中で下を向いて小さな文字を読んでいたためバッチリ乗り物酔いをしている切島が発目に言われ、その細くて柔らかい手首を握る。その女子特有の滑らかな肌の感触にドギマギしてしまったり、こんなん(発目)にそんな感情を抱いてしまう男のサガに悲しい顔になったりしている切島に「じゃーこのまま硬化お願いします!」と発目が言い、切島は悲しい顔のまま硬化する。

 

「ほい、硬化したぞ」

「はい!という事で、これで簡易的な手錠の出来上がりです」

 

発目がグッ、と力を入れても硬化した切島の身体はビクとも動かない。それを見て発目の言いたがっている事を大体察した緑芦はなるほどねーと頷く。

 

「機械はあらかじめ決まった形にしかなりません。関節強度の事も考えれば形態数は一、二形態くらいが現実的です。樹脂系素材はどうしても形を決めてから硬化させるのに時間がかかります。ヒーロー活動に対して使うのは現実的じゃありません。けど、切島さんなら!フレキシブルな関節の可動範囲!コンマ秒単位での即時硬化!プログラムを組まずとも切島さん自身の意思でコントロール可能!こんな使いでのいい部品早々ありませんよ!」

「人の事部品って言いやがった」

「そこで私が発明したのが、コレ!Kirisima−Support Attachment Tools!略して『K−SATs』です!!!」

 

ババァン!と効果音が出そうな程自信満々にそう宣言した発目の顔を見て、無免達はへぇ、と感心半分呆れ半分でタブレットの画面を眺めていた。

 

「あー、つまり刑罰の方は……」

「はい!Kirisima−Battle Attachment Tools!略して『K−BATs』です!」

「ダサいんだかカッコイイんだか分かんないね」

「ちなみに今切島さんが装着しているのがケーサツの一種です。着け心地はどうですか?」

 

芦戸の若干の苦言を華麗にスルーした発目はそう言って切島に顔を向ける。切島は胴全体に着けられた軽金属と繊維の複合アーマーみたいな物をギシギシ言わせながら肩を回す。

 

「えー、窮屈……ちなみにコレは何なんだよ」

「それはですね、ナンバー〇二の『猫車』の土台部分ですね。背中のアタッチメントにコンテナを装着する事で台車になります。後はこの車輪を両手で持って硬化して足を持つ感じで」

 

切島の着けているアーマーはまさかの猫車であった。

 

「ダッセぇ!ケーサツマジでダセぇ!」

「役立つ事もあるかもしれないけどヒーローの装備としては最底辺だな……」

は?

「スイマセンでした」

「超かっこいいと思います」

 

途中でトイレ休憩など挟みつつ切島の新装備について話をしていると、やがて雄英が見えてくる。シュタインは裏口から仮IDを使い地下の職員駐車場へと車を走らせた。

 

「あー懐かしいここ」

「だな……」

「あ、心操達は来たことあるのか」

 

そんな事をポツポツ言い合いながら来客スペースに車を駐めた事で無免達はゾロゾロと下車し、それぞれに荷物を背負い始める。

 

「先生、やっぱり大きい車買いましょうよ。今回泣くほど楽だったんですけど」

「俺は運転席で普段と変わらないからなぁ」

「明ちゃん何か言ったげて……」

「私は助手席で普段と変わらなかったですケド」

「人の心……」

 

研究者親子に誰かを思いやる気持ちが無い事を再確認しながら雄英校舎に入った一行は、一年と少し前のように小汚いスウェット姿の男に出迎えられる。今日は(摩訶)が居ない為身綺麗にする必要が無く、従って髪はボサボサ髭も伸びっぱなしである。

 

「おう、シュタイン」

「お久しぶりですねェー相澤先輩。今日は何の作業をすれば?」

「場所はもう用意してる……ってか力仕事の人員を連れて行くって……中学生かよ」

「中学生はアルバイトOKですし、一人あたりそこらの大人三人分くらいの働きはしますよ」

 

シュタインと顔見知りらしい男を見て芦戸は「あれ誰?」と心操に尋ねる。

 

「あー、あの人は相澤さん。雄英の先生」

「ほー…………え、先生?」

 

芦戸の顔は雄弁に「アレが?」と語っていた。ので心操は「アレが」って感じの神妙な顔で頷く。芦戸は「アレが……」って感じの遠い目になった。相澤は慣れてるのでスルーした。

 

「付いてきてくれ」

 

そう言う相澤の後を歩き、自動運転の小型バスに乗って(尚発目が運転席の制御基板に突撃しようとしたため緑谷が抱える事となった)十分弱。キョロキョロと窓から周囲を見回していた無免達は前方に大きな何らかのコースを認識した。その立体コースは既に三分の一程度が解体されているようだった。

 

「おお!」

「アレが推薦試験で使われた会場だ。本来アレの解体に入る筈だった人員がこれとはまた別の作業(破壊された機材の修理)に取られてな。中学生にこんな事やらせるのも抵抗があるんだが、文句はシュタインに言ってくれ」

「いえいえ!文句なんてありませんよ!」

「任せてください。俺らこういうの得意ですから」

 

緑谷と心操がそう言って腕に力こぶを作るのを見て、相澤は「そうか」と目元を掻きながら無感動に言った。

 

「まぁアッチはセメントスが主導してるから、その指示に従ってくれ。シュタインは別作業を頼む」

「ええ。あ、明も連れていきますね。この子は俺が技術を教えてるんで作業の分担ができますし」

「………………」

「露骨に嫌そうな顔しますよねー」

「お前が技術を教えてる時点で不安しか無い」

 

そんな会話をするシュタイン達を乗せたバスは緑谷達を推薦試験コースに置いていき、雄英敷地内の工場へと走り去っていった。無免達は去っていくバスに向かって手を振ったが、修理品の目録を渡された発目とシュタインはそれを見るのに夢中で手を振る四人(爆豪は勿論振っていない)をガン無視し、気を遣った相澤だけが手を振り返してくれた。実利偏重人間の相澤に気を遣わせる辺りが変態開発親子の真骨頂と言える。

 

「お、君達が手伝ってくれるんだね…………本当に中学生連れてきたのか、シュタイン君」

 

相澤から車内であらかじめ人員の説明をされていたセメントスがにこやかに五人の前に現れる。五人はそれぞれに軽く頭を下げたり歓声を上げたりした。

 

「あ、セメントス!本物だ!」

「今日はよろしくお願いします!」

「うん、よろしくね………………ああぁ!?爆豪勝己!!」

「何で俺だけ名指しだァ!」

 

 

 

雄英敷地内。サポート科電気工室。

 

 

 

「連れてきたぞ、パワーローダー」

「………………」

「……オイ」

「ッハッ!?……危ない寝るとこだ!」

「寝てたぞ」

 

キーボードに頬を乗せて一生懸命『j』を画面いっぱいに打ち込む作業に勤しんでいたパワーローダーは相澤に肩を叩かれて飛び跳ねた。jの列は二百行目で止まった。

 

「……えっと……」

「外部作業員。二人。連れてきた。使え」

「……あぁ」

 

未だ朦朧としているパワーローダーに単語で要件を伝えた相澤はシュタインの肩を軽く叩いて部屋を出ていく。何とか眠気を持ち直したパワーローダーが作業員二人に向き直る。

 

「っあー、変なとこ見せて悪いな。君等にやってもらうのは……」

「え、外装ってFRPなんですか。脆くないですか?あーいやでもモーター駆動だからできるだけ重さ減らすのは道理ですけど」

「まぁコレってヴィラン(人間)の代わりだからね。素手でも破壊できるようにはなってるよ。証拠にほら、シールド部分は軽金属だし」

「一輪で上が動くって、あー、タイヤの中心軸にジャイロセンサですか。んんー、倒立振子は勿論良いんですけどこれもうちょっと上手くできませんかね?モーターが優秀ですし使用環境が一定なのが問題を隠してますけど、これだと上半身が動いて重心がズレてからバランス調整に入る形ですからラグが出ますよ。障害物の無い平地なら何も問題無いでしょうけど山岳や荒地じゃバランス調整で逆にバランス崩して倒れません?コレ」

「モーションパターンとそれに伴う上半身の重心移動をあらかじめプログラムにインプットしておいて行動時にある程度のバランスを取る様にとかはどーかな?」

「何パターンインプットしなきゃならないって話ですよそれ」

「いや、特に動きの大きいモーションだけで良い。あまりCPUを酷使しすぎるのも良くないからね。これ明らかに排熱駄目だし。クーラー弱すぎですよこれ」

「見れば見るほど『的』でしかない設計ですねぇ。硬い必要は無く、強い必要は無く、長く動く必要も無く。目的に沿ったって言えば聞こえはいいですけど手抜き感は拭えませんねー。目的に達したところで妥協したって感じです」

「まぁ、大量生産の廉価品なんてそんなもんだよ。コレ、受験ではあとの二種類も合わせて計五百台近くが壊されるから」

「こんなロボットの修理なんて、やる気でないですねー」

「確かに」

「改造しましょう!そうしましょう!」

 

向き直った先では連れてこられた二人が既に置いてあるロボにPCを接続して何やかんやとその造りに文句を付けていた。ちょっとの間フリーズしたパワーローダーの目の前で、シュタインがロボの胴部を瞬く間に分解し発目が指の残像がみえる速度のタイピングでプログラムを書き換えていく。改造の材料が足りないと見るやシュタインは横にあった同型ロボの外装を引っ剥がし、部品を強奪していく。発目はやってる内に段々ノッてきたのか「フォァァ」と奇声を上げながらタイピングの速度を早めていく。パワーローダーは、手伝いに来た癖にあまりにも自分勝手な二人の馬鹿を前にもうなんか色々どうでも良くなってきた。

 

「…………なぁ、どういう改造してんだ?」

「あぁ、パワーローダー。とりあえず各可動部のトルクを適切にするのとそれに伴った新しい転倒対策の入った稼働プログラムを。まぁプログラムはあの子に任せとけば問題ないですよ。ちょっとそっち持ってて下さい」

「何だ、外装外すのか?」

「これじゃ排熱もロクに出来ませんよ。シールド以外の外装を全部外して、取り敢えず熱伝に優れたアルミでクーラーを兼ねた新規外装を作ります。外装と言っても基本は排熱の為の装備なんで徹底的に肉抜きして面積と重量の両立を図ります。防御力は下がりますが、継戦を考えれば仕方がないです」

「おじさん!もういっそシールド先端にも車輪を付けて三輪にしましょう!私の方はもうそれで作ってますんで!」

「攻撃手段が無くなるけど?」

「コレの役目は受験生の的です!徹底的に逃げ回るヤツ作りましょう!ボーナスキャラ的な!当たれば五十点!」

「試験内容を勝手に決めるな!…………でもまぁ、そういうのがあっても面白いカモな…………ヒヒヒッ!!」

 

心のどこかで『ああ、これは後で怒られるな』と思いつつも、二人の熱意に絆されたパワーローダーは部屋の端に置いてあった工具を手に取って……ゴツン、ゴツン!と二人の頭を軽く叩いた。

 

「…………ってアホか!お前ら給料出るんだから仕事しろ仕事ァ!直したばっかのロボット早速バラしやがって!!直せお前それ!」

「「えー」」

えーじゃねぇェェ!!!!

 

パワーローダーはまだ知らない。今目の前にいるこの変態二人のうち一人が半年くらい後に自分の胃と喉を痛める原因となる事を。

 

「あ!閃きました!」

「閃かんでいい!黙って配線やれ!ほれ電気図面!」

「あ」

「閃くなつってんだろーがッ!!お前はコッチで外注部品にフライス引くんだよ!ほれこれ図面!四十台分百二十個!」

「ねぇアレ何ですか!?サポートアイテムですよね!?どんな使い方するんですか!?」

「ん゙ん゙や゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!゙!゙!゙!゙!゙!゙!゙」

 

………………知ったら死ぬかもしれない。

 

 

 

一方その頃。推薦試験場。

 

 

 

パワーローダーの魂の悲鳴も聞こえない解体中の試験場では、セメントスがセメント系を撤去し、無免達五人がその支えになっていた鉄骨やら何やらをバラしてトラックに積む作業をしていた。パワーローダーの方と違ってとても順調に進む作業を見つつ、しかしセメントスは困ったような戸惑ったような顔で腕を組んでいた。

 

「うーん…………」

「どうしたんですか?セメントス」

「あ、芦戸さん。いやね……」

 

セメントスはポリポリと頭を掻き、その手である一点を指差す。

 

「おんぎぎぎぎぎぎっ!!!!!」

「ふんぬぅぅぅっ…………っんあぁぁぁぁっぬぁぁぁぁあぁあ!!!!!」

「オオオオオオオォォォッッ!!!!ッソがあああぁぁぁ!!!!!」

 

そこには、鉄系の廃材を荷台に浅めに積んだ中型トラックを三人がかりで『押して』進める無免のフィジカルキチ共が居た。

 

ちなみに押しているのは緑谷、爆豪、切島であり心操は鼻歌交じりにハンドル操作である。ハンドル役はローテーションだ。とは言っても本当に押しているのは緑谷だけであり、爆豪は背中をトラックに預け両掌で爆破を繰り返しており、切島はトラック前方で牽引ロープを胴体のアタッチメント(ケーサツ)に装着し、硬化させた両手と裸足になった両足でコンクリートの地面に指の跡を深々と残しながらトラックを引いている。

 

「…………あれ見てると……中学生って、何だっけな……って思うんだよね」

「…………ああ……」

 

このトラック、元々はセメントスが廃材置き場まで運転する予定だったのだが、それをしてしまうとその一往復の間会場にある山のような量のセメントを動かす人間が居なくなってしまう。それは効率的ではないと無免達は思ったが、運転免許の無い自分達ではトラックの運転は出来ない…………と思ったところで緑谷が一言、「じゃあ、押そっか」等とほざいた訳である。

 

これを聞いた時、セメントスは中学生達の正気を疑ったが、実際狂っているのは頭ではなく身体能力であったというオチである。ちなみに中型トラックは重量約八トン。最大積載からは遠いとはいえ今積まれている分の廃材重量も合わせれば総重量は十トンに迫る。タイヤが付いているから動かすぶんにはもっと少ない力で済むとは言え、それでもまぁ……とは言え、である。

 

「……光景が非現実的なんだよねえ」

「あんまり見てると精神毒されちゃいますよー。そんな事より解体続けましょうよー」

 

セメントを剥がされて丸裸になった鉄骨を運びやすいサイズに溶断する役目があるため今どき超次元系スポーツ漫画でもやらないようなトラック牽引修行から逃れる事に成功した芦戸がセメントスを作業に誘導する。そんな芦戸は芦戸で「んやぁー!」と気の抜けるような掛け声を出しつつも強酸を纏った掌で太い鉄骨をゴリゴリ削り取っているのであんまり人の事言えない気もする。セメントスは痛む頭を押さえつつ酸の煙を防ぐマスクを着け直し、中途半端に残ったコンクリートに触れて個性を発動させる。

 

「……セメントスのその個性ってよく分かんないですよね」

「え?何が?」

 

急にそう言われたセメントスは個性の使用を続けながら芦戸の方に意識を傾ける。ふと口に出た言葉らしく少し慌てて「あ、失礼ですよね!」と謝罪した芦戸に対し、セメントスは続きを促した。

 

「いや、明ちゃん……今日一緒に来てる私の友達がですね、頭良い子で個性の相談とかよく乗ってもらうんですけど、個性の特徴とかそういうのもチョコチョコ話してくれるんですよ。セメントスのそれって、こう……身体から何か出してるわけでもなく、自分の身体の一部じゃない物を操れる……っていうのが、どんな感じなのかよく分かんなくて」

 

芦戸の純粋な疑問に対し、セメントスは首を傾げて「なるほどね」と呟く。

 

「僕にとっては身体から酸とか炎とか……そういうのを出す感覚ってのがよく分からないんだけど」

「……まぁ、それもそーですよね……」

「……自分の身体の一部なのかもしれない」

「え?」

 

セメントスは自身の手をヒラリと動かし、芦戸に見せる。

 

「僕も感覚で使ってるから、うまく説明できるわけではないんだけど……セメントに触れると、その瞬間からそのセメントを『知覚』できるようになるんだよね。『あ、コレ動かせるな』っていうのが分かるっていうか……眼のピントを合わせる感覚に近いかも」

「眼のピント?」

「アレもこう、腕みたいにどこの筋肉を動かすかは意識してないけど目元に力入れたらピント合わせられるよね?あんな感じで、キュッと力を入れて動かす……感じ。自分の身体を動かしてる……セメントを自分の身体の一部に変えてるって感じが……僕の感覚としては、近いな」

 

大量のセメントをズズズ、と動かしながら「うまく説明できないのがもどかしいね」と笑う。芦戸はセメントを動かすついでに横に倒された鉄骨に触れ、猛烈な煙を吐き出させながらそれを溶かしていく。

 

「個性って何なんですかねー」

「何なんだろうねぇ。ヒーローやってるとよく思うよ、それは」

 

いつの間にやらその場からトラックが見えなくなっている事にセメントスは呆れながら、セメントを動かす速度を早める。

 

「さぁ、彼等が帰ってくる前に一区切りいっちゃおう。で、彼等が帰ってきたらお昼にしよう」

「はーい!」

 

お昼御飯と聞いて俄然やる気を出す芦戸。昼まではあと三十分程……

 

つまりは、パワーローダーが爆豪を目撃し悲鳴を上げるまで、あと三十分という訳である。




ケーサツだかケーバツだかは今後もチョコチョコ登場します。チョコチョコ登場するやつばっかだな!

……ついに秋冬編に入りました。あと半年。泣いても笑ってもあと半年です…………原作二話目まで、あと半年……

…………え?まだ二話目?マジ?

使用楽曲

『三馬鹿が爆豪を煽る為だけに歌ってる曲』

ドンマイ:中山讓
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