無免ヒーローの日常   作:新梁

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ヒーローランキングって年二回更新されるんだよなぁ、ってふと思い出してそのへんの話をしようと思ったけどアレ原作時間的に十一月辺りっぽいんだよなぁ。もっと早く気付いてれば……

今回のあらすじ

餅つきって本当に楽しいよね。

zzzzさん、誤字報告ありがとうございます。


第四十六話。年末、楽しい楽しい餅つき大会。

折寺市。早朝。

 

 

 

年末というのは、犯罪率が高まる時期でもある。

なのでヒーローに年末休み等は無く、寧ろ年末こそ働くべき時であるとも言える。

 

「ハンハンハフハンフンハン、フンフンフンハンファーン!」

 

それはこの年末浮かれ気分で鼻歌を歌いながら朝方の街をパトロールしている、剛力ヒーローデステゴロにおいても例外ではなかった。というか働いている筆頭である。

 

因みに他のヒーローはと言うと、シンリンカムイは地上波の年末ヒーロー特番の雛壇役でライブ放送の収録がある為に前日から街を離れている。

 

同じく折寺新人ヒーローであるMt.レディ(岳山ァ!)もまた別のネット番組に呼ばれている(彼女は同僚のカムイが地上波放送で自分がネット番組な事に大変納得がいっていないようであった)。

 

そして折寺ヒーローの中堅層、バックドラフトは消防局主催、年末年始の火事等の人災を啓発するイベントに登壇している。

 

そんな訳で、どこにも呼ばれず暇な……別の言い方をするならば、ヒーロー活動に専念するタイプの……ヒーローは、偶然にもベテラン同士、エアジェットとデステゴロだけなのである。

 

多くの店が閉まり、人通りの少ない駅前道路をフンハンアハンと鼻歌を歌いつつ歩き、年季の入ったアルミのトングで落ちていた煙草の吸殻を摘まんでもう片手に持っていたゴミ袋に入れる。

彼は一年のパトロール納めのついでに街の清掃を行っていた。

 

「ハハンハハンハンハンァハハン、ハフンハハンハ、フフハゥンファン!」

 

ノッリノリである。

 

「あ、デステゴロさん!フフ、随分ご機嫌ですね」

「ん?ああ、どーも!本年はお世話になりました」

 

駅前の喫茶店の、店先を掃除していた店員に声を掛けられたデステゴロは軽く片手を挙げて会釈する。

 

「ええ、来年もよろしくお願いします……何かいい事でもあったんですか?」

「……たはぁ、スルーして下さいよそこぁ!」

「フフ、ごめんなさい。だって本当にご機嫌だったんだもの」

 

クスクスと箒を片手に笑顔を見せる店員に、彼は「何がって訳でも無いんですけどねえ」と感慨深げに頷く。

 

「何というか……ホレ、『今年も一年終わったなぁ!』っていう感じですな」

「今年もずっと走り回ってましたもんね、デステゴロさん」

「世の中がもうちょい平和なら、俺も走らずに済むんですがねぇ……」

 

デステゴロが毎日のように出るひったくりやら何やらを怒鳴り散らし追い回している事を、事件率の高い駅前で働いているこの女性は知っている。

その事を知っているデステゴロは、照れ顔と渋顔が混じった複雑な表情で警告色のベッドギアの位置を直した。

 

「折寺は目立った事件も無かったですけど、結田府の方ではヴィランが暴れてましたし、石矢魔はビル爆破とか校舎炎上とか、今年特に物騒でしたしね……あそこは大体いつも物騒ですけど」

「えぇ、はい……力及ばず、申し訳無い」

「あ、いえ!そういう意味で言った訳では……」

 

わわ、と慌てたように胸の前で手を振る女性に軽い笑顔を向け、気にしていない旨を伝えたデステゴロは、そのまま軽く挨拶をして再びパトロール兼大掃除にと戻る。

 

時刻は八時前。普段ならば人が溢れかえる駅前は閑散としている。そんな駅の横を通り過ぎて裏路地に入ったデステゴロは、入り組んだ路地で何か事件が起きていないかを根気強く確認していた。

 

本日は街に居るヒーローが少ない為にエアジェットと二人である程度の役割分担を決めていた。

 

その役割とは、駅前から少し離れた場所にある、広くて整然とした住宅街を機動力のあるエアジェットが担当し、道が入り組んでいる上に背の高い建物が多く、上空からの監視が上手くいかない駅近くのビル街をデステゴロが担当するというものだ。

 

「ハァー……さみーさみー……色んな意味で……っと」

 

普段から特に犯罪の温床となっているような場所を普段よりも慎重に調べ、誰も居ない事を確認しては次の場所へ向かう。

 

「……ん?……あぁクソ、注射器じゃねーか。勘弁してくれよ……」

 

「あー、誰だよこんなトコで殴り合いした奴……抜けた歯くらい拾ってけ」

 

「うわ血痕。時間経ってんな……警察に報告だなコリャ……」

 

折寺は全国的に見ても相当平和な部類に入る街であるが、それでも軽重問わず毎日のように個性犯罪は起き続け、それ以外の犯罪もそれこそ手に余るほどに発生している。

この『ヒーローが多過ぎる』とまで言われるヒーロー飽和社会において、事件発生から解決までの時間は引くほど早くなっている……かつて、誰かがそう言った。

しかし、本当に注目すべきは街中にヒーローが溢れかえっているような状況でも、それでも発生し続ける犯罪にある。

 

「ったく、師走くらい静かに過ごしやがれってんだ……」

 

デステゴロは、ベテランと呼ばれる程度には長きに渡ってヒーロー活動をしているが、それでも十数年程度の職歴でしかない……彼は、『オールマイト』以前のヒーロー業界を知らない。

 

丁度彼が高校受験に精を出し始めるかという頃……世の中にオールマイトが、平和の象徴と呼ばれる男が爆誕する前までは、犯罪件数は軽重双方共、今現在の数倍であったという。

当時よりずっと事件発生率の低い今でさえもヒーローが歩けば事件に当たる世の中、その数倍となれば……ヒーロー業界はどんな状況だったのだろう。

 

そんな事を考えつつ、デステゴロはヒーローネットワーク経由で呼んだ警官に現場の保存を任せ、再びパトロールへと戻る。

 

「お?」

 

人が居らず閑散としたビル街を続けてパトロールしていると、道の向こうから見知った顔が走ってくるのを見た。

 

「あ、デステゴロ!」

「おー、出久。もう動けるようになったのか」

「アハハ、お陰様で……」

 

ランニングをしていたのは、胸に折中の校章が入った紺色のジャージを着た、お馴染みの緑谷だった。デステゴロは久し振りに見る緑谷の顔に先程までの辛気臭い表情を消し、ニッカリと笑顔を向ける。

 

緑谷出久を筆頭とした折寺のぶっ飛び中学生、無免ヒーローは数日前までヒーローになる為の冬季合宿でこの街を離れていた。

そして数日間の後に帰ってきた彼等は、正しく生き死人とでも呼ぶべき程に生命力とかそういうのがゴッソリと抜けた、普段なら絶対に見ないような体たらくを見せていた。

そのヤバさは、爆豪が岳山にグリグリ頭を撫でられても無言で手を退けるしかしないレベル……と言えば分かるだろうか。

 

とにかくそんな感じで日々を無気力(≒瀕死)に過ごしていた彼等だったが、今の緑谷を見る限り取り敢えず回復はしたようである。

 

「ところで……その背中のはもう大丈夫なんだろうな」

 

緑谷は、背中に大きな荷物を背負って走り込みをしていた。

その荷物とは、数ヶ月前に誤作動を起こし折寺上空の流れ星となった例のバックパック……発目作、作動原理不明の謎ブースターであった。

 

「あ、はい!今は充電していないので。これから身体の勘を戻すついでに正月料理の買い出しなんですよ」

「なら良いけどな……今日はヒーロー少ないから暴発だけはマジ勘弁だぞ」

「アハハ……その節はお世話になりました」

 

ここで二度としません的な事を一切言わず、むしろこれからもお世話になりそうな言い方に留めるあたりがある程度常識人である緑谷が発目以外の人間からイマイチ信頼されない理由の一つであり、そして彼自身はそれに気がついていない。

デステゴロはため息を一つ吐き、緑谷が首に掛けていたタオルで汗に濡れた頭をワシワシ拭いてやりながら「今回は合宿先で何してたんだよ」と尋ねる。

 

「まぁ、色々ですよ」

「色々、ねぇ……」

「聞きたいですか?」

「いや、聞きたくない……俺から聞いといてアレだけど」

 

というか聞けばいよいよもって真剣にシュタイン博士逮捕に向けて動き出さなければいけない気がする。それは緑谷達も望んではいないだろう。

 

来年もよろしくお願いします!と元気良く挨拶をして、体が冷えない内に再び走り出した緑谷の背を見送ったデステゴロは、その場で大きな伸びをしてから携帯を見る。

 

「今の所は目立った事件無し。平和だ……」

 

いつもこうならどれだけか、と考えていたデステゴロの携帯が震える。

画面に見えたエアジェットの文字に、彼は顔を顰めながら画面を耳につけた。

 

「事件か?事故か?」

『事件だ!東折寺一丁目付近で空き巣!犯人は駅前に向けて地道を逃走中!見た所武装は小さなハンマーとナイフ、個性は見た所単純な生物型、多分馬!警察に電話とヒーローネットに情報上げ頼んだ!』

「オウ、駅前に追い立ててくれ!警官に張ってもらうから!」

 

先程までの緩んだ空気を一掃したデステゴロは走りながら携帯を操作してヒーローネットに情報を上げ、警察に電話をして協力を仰いだ。

 

「ったく、ヒーローが少ないからって調子に乗りやがる!」

 

人通りの少ない街を、デステゴロは今日も走る。

 

全ては街の平和を守る為に。

 

 

 

ツギハギ研究所。裏庭。

 

 

 

「発目明のッッ!!一秒クッキングッッ!!!」

「…………はぁ?」

「頭痛くなってきたなぁ……」

 

と、まぁデステゴロがどれ程カッコイイ感じでシーンを締めても、残念ながら今回はギャグ回なので無理くりギャグに引き戻されてしまう仕組みになっている。

 

そんな訳で、この十二月というクソ寒い時期に庭に集められた無免共(買い出し中の緑谷除く)は、目の前の、このクソ寒い時期に薄い作業ズボンとタンクトップという意味不明なコーディネートをした発目と、彼女の後ろにある矢鱈ゴツゴツした物々しい機械に顔を引き攣らせていた。

 

「……あのー、明ちゃん……?その、後ろの機械は、何?」

 

芦戸が指差すその機械は、側面に蓋の付いた鈍色に光る鉄の円筒と、その上には物々しい巨大な手榴弾のような機械。そしてその上には小さな液晶ディスプレイとキーボードインターフェイス……と、アンバランスなダルマ落としのような形状をしていた。

 

「ムッ!よくぞ聞いてくれましたァ!」

「ひぇ」

 

発目にギュンと詰め寄られて怯える芦戸の肩をベシバシ叩き、再びギュンと装置の前に戻った発目はその上部に付いてあるキーボードに飛びつく。

 

「これはですねぇ!私の作り上げた新作ベイビー、『爆速餅つき機ツケル君』です!お餅食べたかったので作りました!」

「…………爆、速?」

「爆速、ねぇ……」

 

その言葉と、装置の上半分が手榴弾風の形になっているという事実に何かを察した芦戸、切島、心操が爆豪を見た。爆豪は無視した……いや、舌打ちだけした。

 

そうして発目が機械を弄り始めて数秒すると、フンフンと上機嫌で身体を揺らす発目のノリに合わせるように機械からはどこかで聞いた三分間で料理するあのBGMが流れ始める。

 

チャラッチャチャチャチャ、チャラッチャチャチャチャ。

 

「へぇ、その餅つき機オーディオ機能付きなんだな。そりゃ便利……じゃねえ!何で!?」

「いわゆるもち米と呼ばれる米は普段私達が食しているうるち米とはデンプンの組成が違うので、衝撃を与える事で弾力が出るようになっているのですが!」

「何でオーディオ機能付いてんの!?」

 

諦めたように大人しく説明を聞く爆豪と芦戸。どうしてもオーディオ機能が気になる切島。

 

その三人が発目の相手をしている間にコッソリこの場から離脱しようとした心操だったが、ツケル君に掛かりきり状態の発目が周囲に見えないようにツケル君の影に隠していたボーラガンを取り出し、ノールックで発射する。

 

発目の使ったボーラガンとは、対象を無傷で拘束する事を目的とした非殺傷銃器であり、柔軟かつ強靱な繊維で作られたロープを高速で射出し、固定に必要な両端以外のロープ部が相手の一部に触れればその遠心力でグルグルと巻き付き相手を拘束するといった仕組みになっている。

 

心操に対して躊躇無く使用している事からも分かるように(分かるよね?)殺傷性は極めて低く、首に巻き付いてもとりあえず死にはしないというその効果に対し素晴らしいとも言える安全性を誇るのだが、発目が使っていると殺傷武器にしか見えない。何でだろうね。

 

ちなみにこれはシュタインが基本形を開発したもので、ツギハギ研の主力商品でもある。何だかんだと『暴力』に対して過敏な社会において、遠距離から相手に触れずに使える非殺傷拘束武器は何だかんだ有用なのだ。

 

と、いう訳で横に長い特徴的な銃身から放たれるロープは心操の足首に引っ掛かり、クルクルと回転。

射出されたワイヤーの両端に付けられていた青く輝く電磁石ユニットが起動し、心操の膝付近をぐるぐる巻きにした状態でガッチリ固定した。

 

その場から立ち去ろうとしていた所にいきなり脚を固定されてバランスを崩した心操の胴部に容赦の無い発目が、もう一発ワイヤーを射出。肘付近と足首付近を拘束され、ほぼイモムシ状態となった心操が「ドブッ!?」と受け身も取れずに頭から地面に突っ込んだ。

 

「話を続けます!」

「ハイ」

「ゴジユウニ」

 

発目に対して改めて感じる恐怖の感情と、未だ鳴り響く3分でクッキングするBGMの中、その当人はボーラガンを腰に挿して話を続けていく。

イモムシにされた心操もこうなれば最後まで付き合うつもりのようで、グネグネと身体の向きを変えてツケル君を観察し始めた。

 

「餅つきって、皆さんどういったものを想像しますか?」

「……臼と杵?」

 

芦戸の戸惑い混じりの言葉に発目は大きく頷き、演説をするように勢いよくガバァと両手を広げる。芦戸は引く。

 

「ですよね!その二種類の道具は先程も言った様にもち米に衝撃を与えるための物なんですけれども、皆さんこうは思いませんか!『何回も何回もペッタンペッタンと煩わしい!そんな事せずに瞬時に米を餅に変えたい!』と!」

「思わねえよ!風情があって良いだろアレ!」

 

続けられた発目の日本文化に真っ向から喧嘩を売るかのような発言に切島が反論したが、発目はそれを軽く無視した。残念ながら無視された切島だが彼はそういう扱いに慣れていたので特に問題は無かった。

 

「と、いう訳で登場するのがこのツケル君!内部に爆薬を搭載する事で、一回の起動で一般的な杵による一撃の百十倍の威力でプレス!もち米を完全粉砕!抹殺!つまり一度のインパクトで餅つき百十回分に相当するんですよ!フゥー!」

お前今日テンションおかしくない……?

 

おかしい。が、特に理由は無い。そして理由が無いのでこのテンションが収まる事も無い。

 

「という訳でこちらにあるのが蒸し上がったもち米!コレを専用袋に入れて専用容器にセット!」

「蒸す時間あるなら一秒クッキングじゃ無ぇだろ」

 

元々「勝己さんのサポートアイテムの威力検証をします!」という触れ込みでここに呼ばれている為(自分のサポートアイテムを餅つきに使う事に関して若干の苛立ちはあるものの)特に現状に文句の無い爆豪が、発目の言動に軽く突っ込む。

返事はボーラガンから射出されたロープであった。

 

ちなみに某三分クッキングも、別に料理時間三分な訳ではないので爆豪の指摘は的外れである。

 

軽くしゃがんで避け、先程とは違う苛立ちの混じった顔……というかごく普通のいつもの顔でギリリッ、と歯ぎしりをする。

 

そんな物はどうでもいいと言わんばかりに、もち米をやたら頑丈そうな布袋に入れ、その布袋を重い金属製の臼に入れ、ツケル君の下部にある扉を開け、内部で固定する。

 

「さあさあ人間一人と言わず多分八人くらい殺せる勢いの一撃ですよ!誰かボタン押しますか!?」

「あのよぉ、発目?餅食いてえなら俺がつくから、できればそのボタンを離してほしいっつーか……お前の発明品大抵初披露の時爆発するっていうか……」

「では私が押しますね!ヒュー!」

「緑谷ァァァ!!!!早く帰ってきてくれェェェェ!!!!」

 

叫ぶ切島も。

この後起こることを察し地面に伏せる芦戸も。

死んだ表情で空を眺める心操も。

そして、耐衝撃姿勢を取りつつも眼の前の天才が作り上げた自分の個性を強化するための装置を見極めんとする爆豪も。

 

誰も発目を止める事は出来ない。

 

……もし、発目を止める事ができる人間が居るとすれば、(発目の策略により)今ここに居ない緑谷を除けばそれは育ての親であり師匠でもある……

 

「カウントダウン五でいきますね!五!四!」

「……明?一体何をして」

「三二一ファイヤー!」

 

……止められなかった。

 

瞬間、ほんの少し離れた場所でいつの間にかイヤーパッドを着用した発目が携帯電話の液晶をタップ。

 

即座にツケル君の内部機関のプラグから火花が散り、爆薬に火を点け……

 

ドォウッ!!!

 

「どぉッ!?」

「うヒィッ!?」

 

爆音と共にツケル君上部の手榴弾(パイナップル)型機関部のスリットから余剰熱が炎として放出され、周囲の空気を焼く。

外部からはそれしか見えないが、内部では爆発の威力を、まるで銃の弾丸のように一身に受けた餅つきハンマー部が瞬時加速。下部に設置されていたもち米を完膚無きまでにプレスした。

そのプレスの威力たるや、もち米を叩き潰し、セラミックに罅を入れ、金属製の臼を若干変形させ、研究所の窓ガラスとシュタインの眼鏡のガラスを粉砕し、そして地面を大きく揺らした。

 

「……ッフぉぉ……なん……っつー威りょ……」

「もーいっぱーつ!」

「今日絶好調かッ!?」

 

再びタップされる携帯。再度炎を撒き散らすツケル君。

因みにこの日折寺にある一部の地震観測機では原因不明の局所的振動が観測された。もちろん原因不明なので原因は不明である。

 

「……い、生きてる……?」

「こんなにもデカい機械なら間違い無く暴走すると思ったけど……!ちゃんと動くなんて奇跡じゃねぇか!?」

奇跡のレベルが低すぎる

 

というよりも普段のレベルが低過ぎて(発目が安全対策を徹底しないのが絶対的に悪いのだが)この程度の事でも奇跡扱いされてしまうのだ(ギャグ小説じゃなかったらとっくに少年院行きである)。

 

「さってさて、オープーン!」

 

発目が断熱性に優れた赤いチェック柄のミトン(緑谷の私物。無許可使用)で未だ煙を吐くツケル君下部のドアを開き、湯気を立てている金属製の臼を引き出す。

 

「アチチ……ハイ完成でーす!」

「出来てんのかよ……」

 

餅は出来上がっていた。発目がみょんと伸びる餅をつまみ取り、口に入れて笑う。

 

「うん!美味しい!アミロペクチンがいい感じに伸びてますね!」

「意味わかんねぇ……」

「えー……今ので出来上がるのは素直に凄いんだけど、何だろう、これで出来上がっちゃうのは餅つきへの冒涜というか……出来上がってほしく無かったなー」

 

微妙な顔で発目が嬉しそうに餅を食べているのを眺める芦戸と切島。

その足下で心操がロープから抜け出し、餅の入った袋を臼から取り出して室内に運び込む。

ちなみにシュタインは砕けた眼鏡を直す為に庭に出てきて数秒で室内に戻っていた。この体たらくは役立たずの汚名を免れないであろう。

 

「芦戸の気持ちはスゲーよく分かるけど、今はとりあえず餅丸めるぞ。手伝えよ」

「ウース」

「オース」

 

そう、出来たての餅は、固まらない内に小分けにして片栗粉をまぶすのが良いのだ。

 

「オイクソ女、これサポートアイテム化したとしても俺一人で制御できんのか」

肩から先が引き千切れますね!

 

爆豪は無言で目線の死角から発目の側頭部に蹴りを入れるが、空気の流れと風切り音を読んだ彼女に最低限の動きで躱される。

 

「おっと!」

「避けんなボケクソが!」

「当たれば痛い攻撃を……避けるな……?」

「理解不能みてえなツラしてんじゃねえ!分かってんだよお前が何もかんも全部理解した上で分かんねえフリ覚えてねぇフリしてんのはァ!」

 

発目がそういう『普通の人間の擬態』で上手い事(上手い事?)世渡りしているのは事実だが、今回に関してだけは爆豪の言い分が間違っているだろう。

 

「まァ、肩部から逆方向に向けても爆風を放つ無反動砲方式で作りますのでその辺は気にしないで下さい!けど今回である程度の形は見えましたね。いやー、この爆汗カートリッジが成功しなかったら4月の入学までに間に合わない所でしたよ!」

「爆汗言うなや」

「まァ入試には間に合わないんですけどね!」

 

猛り狂う爆豪と嘲笑う発目の追いかけっこが庭で繰り広げられるのを、シュタインは庭に続く食堂の椅子に座った状態で黙って見ていた。

砕け散った眼鏡は現在シュタインの個性により修復中である。

 

実の所、無免ヒーローの技術枠である発目が緑谷以外の連中のサポートアイテムを本格的に開発し始めたのは約半年ほど前……今年の四月からである。

 

まぁ、緑谷の銃が出来上がってから、という訳だ。

 

(自分よりも出久が優先されている。その事自体に文句を言わない辺りが、弁えてるというか……)

「あ゛ァ!?何見とんだ殺すぞクソメガネ!」

「勝己も大概甘い性格してますねぇ」

「殺す!」

 

 

 

その頃、背中には例の飛行パック、そしてそのパックの裏に畳んで収納していたリュックを広げて前に掛け、両手に頑丈そうな手提げ袋という買い物フル装備をした緑谷が研究所に帰ってきた。

 

食堂に入ってきた緑谷のそんな重装備を見た心操たち三人は餅を丸める手を止め、「ヨッス!」と思い思いに挨拶をする。

 

「ただいまぁ……わぁお餅だ!」

「オウ、おかえり緑谷!餅だぜ!」

「おせちの材料揃えられた?」

 

大量の餅に驚く緑谷に芦戸がそう言うと、緑谷は「何とかね」と両腕と胴の前にある大荷物を主張した。

 

「今日年末だからどこも仕入れが少なくて……市跨いでスーパー六軒回ったよ。あー疲れた……」

「それを自転車とか使わずに走って行く辺りがお前らしいよ」

 

そう言って心操が小さめに丸めたばかりの餅を両手が塞がっている緑谷の口に突っ込んでやる。

暖かくてもち米の匂いがよく香るそれをモフモフと噛みながら、首を傾げるだけの礼をしてから緑谷は食材を冷蔵庫に入れる為台所に向かおうとする。

 

「いいよ、俺が入れとくからお前はとりあえず汗流してこい」

「ングっ……そう?ならお言葉に甘えようかな」

 

心操の親切心に餅を飲み込んだ緑谷が手持ちの袋二つを渡すと同時に庭の方向から鈍い衝撃音が聴こえた。

 

「……今の音の重さ……かっちゃん?今の音は顎までめり込んだでしょ……」

「どーせ博士に喧嘩売ったんだろ。今のめり込み音じゃあ暫く気絶だな」

「お前ら自分がおかしい会話してる自覚あるか?」

 

めり込み音って何だ。

 

「あ、出久さん!おかえりなさい!」

「あ、ただいま明ちゃ……って、のあアアアァァ!?何あの機械!?」

「緑谷、後で教えたげるから早くシャワー浴びてきたら?」

「あ、ハイ」

 

シャワーを浴びに行った緑谷を見送って、再び餅を丸める作業に戻って十分程度。

餅の塊が全て小さな餅に変わった所で、緑谷が髪を拭きながら食堂に入ってきた。

 

「にしても、お餅なんていつついたの?結構手間掛かるでしょ」

「発目があの庭の餅つき機でドカンとな!派手だったぜ!」

「え、あの時限爆弾みたいなの餅つき機なの?……あれ、よく見たら上に付いてるやつ最近作ってたかっちゃん用のサポートアイテムじゃ……ってかドカンって餅つきに付ける擬音じゃないよね!?」

「うるせぇ、お前自分がそんな常識的なツッコミを許される立場だと思ってんのか」

「ええ!?なんか今日当たり強くない!?」

 

冷蔵庫から醤油を取り出した心操が、カット海苔を用意して餅を一つ海苔巻にして食べた。

 

「……んん、つきたては美味えなぁ」

「あ、俺も俺も!」

「私も!……そういえば明ちゃんは?」

 

餅を一つ取った芦戸がクルリと食堂を見回すが、クレイジーピンクは見当たらない。

緑谷はたまたま食卓に置いてあったガスバーナーで海苔の表面を炙りながら天井を指差した。

 

「明ちゃんなら作業があるって言って自分の部屋に行ったよ?」

 

そう言う緑谷の手元には小皿があり、その上には数個の餅と海苔があった。

 

それが発目への差し入れ用であると気が付いた芦戸は手に持っていた餅を食べ、プンスカと怒る。

 

「……ほんっとー、に!緑谷は明ちゃんに甘すぎ!ある程度自分でやらせないと駄目になっちゃうよ!」

 

そう、緑谷は発目に甘過ぎる。

 

幼い頃から世話を焼き続けていたからだというのは分かるが、このままでは発目がいざという時一人で生きていけない……ようになるとは普段の天才少女っぷりからしても全く思えないが、今の関係性があまり良くないのは事実だろう。事実の筈だ……多分。

 

「駄目にって……もうなってんじゃね?」

「切島、おだまり!」

「アッス」

 

切島は黙らされたので餅を食べることにした。

台所の粉もの入れからきな粉を取り出し、砂糖と塩を少し混ぜてから餅につけて食べる。

まだまだ暖かい餅はきな粉の風味を更に増し、そこから舌に乗る塩っ気が餅をパクつく手を止まらなくする。

 

「あーウマ……あのさ、餅焼かねえ?」

「お、良いな。七輪用意するわ」

 

緑谷にツラツラと文句を募らせる芦戸の背中を見つつ、切島はもう一つ餅を食べながらそう提案し、賛同した心操は両手に一つずつ餅を持って庭に出た。

と、入れ替わりにシュタインが食堂に入ってきて餅を食べる。

 

「お、ウマイ」

「あんな餅の冒涜みたいな調理法でも美味くなるんスよね」

「料理は所詮科学だからねェ。人力でする杵百回分の衝撃と爆薬でする杵百回分の衝撃、見た目は違えどもち米にとっては同じな訳だ……おしるこ食べたいですねぇ。出久ー?」

 

メガネが無いシュタインが頭のネジを回しながら緑谷に声を掛ける。

神妙な表情で芦戸に怒られていた緑谷は、その言葉に顔を上げ、慌て気味に返事をする。

 

「あ、ハイ!何ですか?」

「おしるこ食べたいんですけど、出来る?」

「あぁ、あんこ買ってますよ!作りますね!」

 

しばらくしてから、あんの粒の食感楽しいおしるこをみんなで食べるのだが、気絶している間に餅を殆ど食われた爆豪が猛り狂った事は想像に難くないだろう。

 

「あー、美味しい……寒い季節に食べるおしるこ……ホント最高……」

「ホラかっちゃん、お餅二つ入れてあげたからもう拗ねるの止めなよ」

「拗ねてねぇ殺すぞ」

「出久さん、早く早く!」

「ハイハイ……明ちゃんはお餅三つね」

「何でだァ!」

 

この後新年の鏡餅用の餅が無くなり、発目による改良を施されたツケル君をもう一度作動させた時に一騒動(暴走)あるのだが、もはや見慣れた光景なので割愛する。




三月はもうメインは雄英近くにある発目亭もとい無免寮での話になる予定なので、次回一月がとりま折寺メインのラストだと思いまッス。

……なんか、寂しいなぁ!寂しいよ普通に!次回をお楽しみに!
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