無免ヒーローの日常   作:新梁

51 / 73
緑谷たちの点数、こんなもんか?って思うかもしれないけど原作の平均(作者の推定)から二倍か三倍くらいの点取ってるので、まぁ……こんなもんでしょ。

今回のあらすじ

無免ら全員の反応の違い書くの好き(感想)

リア10爆発46さん、カシルッカッフィーンさん、誤字報告ありがとうございます。


第五十話。三月初旬、サヨナラ日常また会う日まで。

 切島鋭児郎は、ここ数週間の間で朝夕晩と家のポストを覗き込むのが趣味となっていた。

 

 学校に行く前に、一度。

 

 学校から帰ってきて、一度。

 

 一応寝る前に、一度。

 

 ソワソワしながら自宅の塀に付けられたポストを覗き込み、中に入っていた不動産のチラシとかを取り出し、ちょっと落ち着いて家に戻る。

 

 切島はその日も、心なし早足で自宅に帰ってきて、ポストを覗き込み、一つため息を吐いた。

 

「…………っぁぁぁ……頼むぅぅ、早く来てくれ……!」

「あら鋭ちゃんお帰り。雄英から手紙来てたわよ」

「来てるんかいッ!! なら言ってくれよ母ちゃん!」

「今アンタ見て一番に言ったでしょうが!」

 

 

 

 芦戸三奈は、ここ数週間家での口癖が「封筒来てた!?」になっていた。

 

 家に帰ってくるなり母に、「封筒来てた!?」

 

 父や母が仕事から帰ってくれば、「封筒あった!?」

 

 学校に行く前には、「封筒来てたら連絡してね! 開けないでよ!」

 

 その日、昼頃に連絡を受けていた彼女は転がるような猛スピードで家に帰ってきて、ドタバタゴロガタンとコケかけながらもスニーカーを脱ぎ捨て、リビングに突入した。

 

「封筒は!?」

「そこ」

「ウオァァァ!!! 雄英マーク! ホンモノだぁぁ……」

「当たり前でしょ」

 

 

 

 心操人使は、特に何も変わらなかった。

 

 相変わらず両親は多忙であり、相変わらず彼は緑谷宅にて食事をご馳走になったり、コンビニ飯を食べたり、爆豪宅にて食事をご馳走になったり、偶にはと下手な自炊をしてみたり、デステゴロにタカったりしていた。

 

 ただ、チョットだけ彼は外に出向く用事を多くしていた。

 

 チョットだけ、コンビニに細々した日用品を買いに行ったり。

 

 チョットだけ、暇なので散歩に行ってみたり。

 

 チョットだけ、自転車のワイヤーケーブルを補充してみたり。

 

 その全ては勿論日常に必要な事であり、彼が現在置かれている状況とは全然関係ない。ないったらない。

 

 ただ、そうやってチョットだけ外出する度にポストを確認するのは……まぁ、当然だろう。

 

「おっ」

 

 そして、学校帰りにポストを覗いた彼は目を見開く。

 

 そこには、雄英マークのついた封筒が放り込まれていた。

 

「おぉ……」

 

 

 

 爆豪勝己は、マジで何も変えていなかった。

 

 否、意地で何も変えていなかった。

 

 何があっても自分の普段のペースを変えてやるものかと言わんばかりに彼はいつも通りの時間に起き、いつも通りのトレーニングをこなし、いつも通りの時間に学校に行った。

 

 ポストは絶対、覗かない。見もしない。

 

 ちょうど学校から帰ってくる時に配達員がポストに何かを入れても、一切視線すら向けなかった。

 

 全くもって無意味な意地である。

 

「勝己……アンタ何一人で戦ってんのよ。それ逆にダサいわ」

「うるせぇKBB(クソババア)ブッ飛ばすぞ」

「ハァ?」

「アァン!?」

「おお勝己、今ポストに合否通知来てたぞ」

「アァン!?」

「うわ、なんで怒ってるんだ?」

 

 爆豪は父の手から封筒をひったくり、自室のドアを開ける。

 

「ぜってぇ開けんなよ!」

「落ちてるから?」

「受かっとるに決まってんだろカスが!」

 

 サラッとネタバレした彼は、バァン! と自室のドアを閉め、ドガッと乱暴に椅子に座り込む。

 

「…………ッフ──…………」

 

 息を整える。

 

「ちょっと勝己ー、今日はご飯家で食べんの?」

「今話しかけんなや!!!」

「アハハハハ!!!」

 

 

 

 発目明は、

 

「あ、明お帰り。ヒーロー科落ちてたよ」

「おお、そうですか! サポート科は受かってましたよね!?」

「受かってましたよ。後で入学書類書いといてね」

「はーい!」

 

 シュタインは、同時に届いていたパワーローダーからの呪詛が籠もった手紙をコンロで焼きながら発目に封筒を渡した。

 

 

 

 そして、緑谷出久は……

 

「受かってる受かってる受かってる受かってる受かってる受かってる受かってる受かってる」

「出久」

「受かってる受かってる受かってる受かってる受かってる受かってる」

「出久!」

「受かって……はっ!?」

 

 ……何かもう、駄目だった。

 

 この時空では修羅場というのも生温い経験を幾度もしているお陰で年齢らしからぬ落ち着きを見せる事も多い彼であるが、そもそも彼は生来のテンパり症である。天パのテンパり症なのだ。やっぱ今のナシで。

 

 というか、原作の時空では落ちている事が半ば確定していた為に落ち着いていた(落ち込んでいた?)が、落ちてるかどうか分からなければ多分テンパっていたであろうと思われる。

 

 それとは逆に、緑谷の母、引子は非常に落ち着いていた。

 

 というのも、完全に緑谷が試験日からこちら二十四時間営業でテンパりまくっているせいである。

 人間、パニック時に側に自分よりも混乱している人間がいると逆に冷静になると言うが、今の引子はまさにそれであった。

 

 学校に行く前にポストを見ては吐きそうな顔をし、学校帰りに郵便バイクを見ては小さく悲鳴を上げ、発目には携帯に設定した朝の目覚まし音を郵便バイクのエンジン音に変えられて飛び跳ねるように起き、爆豪には鬱陶しいと殴られ、結田府組には「見てると精神が不安定になるから研究所来んな」とハブにされ。

 

「ねぇ出久、あなた夜ちゃんと寝れてる?」

「寝れてる寝れてる受かってる」

「目の下、隈凄いけど……」

「あぁ、コレはアレだから受かってる身体に良い隈だから受かってる」

「寝ぼけてるの?」

 

 カクカクと首を揺らしながら笑う緑谷に、引子は神に祈らずには居られない。

 

 合否通知よ、どうかどうか、早く届いてあげて下さい、と。

 

 ……別にその祈りが届いた訳では無いが、その日の夕方、遂にソレは来た。

 

「いずいずいず出久出久! 来た! 来たわよ手紙!」

「ビェェェ────ッ!?」

 

 玄関のポストに入っていた封筒を持ち、慌ててドタバタと室内に戻ってきた引子は、途轍もなく恐ろしい顔でRPGとかに出てくる雑魚敵の断末魔みたいな声を上げる緑谷を見てスンッ……と冷静さを取り戻した。

 

「お母さん今五年ぶりくらいにあなたがヒーローになる事心配になってきたわ……」

「とっ、とどいっ、届、届いて!」

 

 ブルブル震える手でそれを受け取り、自室へ籠もる緑谷。

 

 引子は何だかんだで心配げに、カチャカチャと忙しなくお茶の用意を始めた。

 

 そして────

 

 

 切島が、芦戸が、心操が、爆豪が、緑谷が……そして全国の、選ばれし三十余名の中学三年生達が、その封を破った時、その装置は起動する。

 

『ンンンン〜〜〜ッッッ!!!』

「……ッあ!?」

 

 それは…………

 

『ン私がッ!! 投影された!!』

「オールマイトォ!?」

 

 正真正銘、本物の『頂点』からの誘いであった。

 

 

 

 緑谷家。緑谷私室。

 

 

 

「……これ、空中プロジェクター!?」

 

 緑谷は眼の前に謎技術で投影された濃い顔を見て驚くが、眼の前にあるのは録画映像なのでその驚きに対応してくれるわけもなく、映像は続く。

 

『HAHAHA!! 何故私が投影されたかって!? それは来年度から私も雄英高校で教鞭をとるからさ! それはそれとして……えーと……まずは君に一つだけ謝りたい……え? 巻きで? いや、彼には言わなきゃいけない事が……入学してから言えって? いや、そりゃそうだけど……』

(あ、合格なんだ……)

 

 挨拶からすぐに画面外と何やら話し始めたオールマイトは、溜息を一つ吐いてから気を取り直したように語り始めた。

 

 その会話の中でサラッと自分が合格していることを明かされ、緑谷の肩から力が抜け落ちる。

 

『えー、緑谷少年……君の試験における点数なんだが、学力試験は上の下と言ったところ! そして実技試験でのヴィランポイントは怒涛の六十九点だ! コレは例年の試験と比べても何ら遜色の無い、いや、むしろ例年に勝る好成績だ! …………無個性の君が、ここまでのし上がってきた……その努力を動きの節々から感じるような、素晴らしい内容だった!』

 

 オールマイトが感極まったような声音で拍手をする。

 

『そして、我々が見ていたのはヴィランポイントのみに非ず! 我々はもう一つ、ヒーローに大切な素養……レスキューポイントも見ていた! それも審査制!』

「レスキュー……ポイント」

 

 ということは……と緑谷が姿勢を直しつつ思っていると、背後に三枚の静止画が表示される。

 

 それぞれに緑谷が他受験生を助けている画像、切島を掴んで仮想ヴィランを叩き潰している画像、そして、切島の装備のワイヤー先端についているアンカーのみを身体の支えにし、ほぼ垂直どころか百十度くらいの傾斜がついている大型ヴィランの身体を登っている写真だった。

 

 尚、最後については完全人力で立体機動装置の真似事をするという離れ業であり、無免連中では緑谷にしか出来ない技術である。

 ただ、爆豪は飛べるから不要、芦戸や切島は壁に指を刺せるから不要で、今現在この技術を羨ましがっているのは心操のみである。

 

『他人を助ける事はヒーローの本懐! その為に他人と協力する事もまた、ヒーローに欠かしてはならない要素! そんなレスキューポイント、緑谷出久、五十五点! ついでに君の相方だった切島鋭児郎、七十点!』

 

「……ッ」

 

 緑谷は軽く息を呑む。

 

 世間のヒーローを見ていても分かるが、ヒーローの仕事は競争でありながらもチームワークの側面も持っている。

 だからこそ、まさか誰かと力を合わせて落ちる事は無いだろうと思っていた緑谷だが、得点が付くとは思っていなかった。まさに嬉しい悲鳴である。

 

『この十五点差は切島少年から君に対してのサポートが多大であったからだね! ちなみに彼と一緒に倒した仮想ヴィランのポイントは審査の上でそれぞれに振り分けているよ!』

 

 この点数は審査性であり、緑谷の点数は他受験生を助けた点数、切島と協力(?)した点数、そして大型ヴィランに潰されかけた少女を助けた点数で丁度三分割くらいになっている。

 

 原作世界線の緑谷とはその得点が大きく違うのは、これが審査制だからである。

 

 力ある、余裕ある者は他者を助けることも比較的簡単に行える。

 

 だが、余裕の無い、その場において一杯一杯の者がその上で誰かを助けるというのは、言葉で表す事ができない程に難しいものだ。

 この点数は、そういった『逆境状態』にあったかどうかが重大な差となっているのだ。

 

 因みに切島の対大型ヴィランの点数は約四十点弱。

 根本的な解決方法を緑谷に任せきりにするのは兎も角、あの場では『要救助対象』となる麗日を放置してしまったのが問題とされた。

 

 でもって……と講評を続けようとしたオールマイトだが、画面外より巻きで進行しろとの指示があり、出鼻を挫かれた彼はもう一度モニターを操作する。

 

 最初にモニターには六十九と表示され、その次に五十五と表示される。

 そしてその文字が重なり、派手なエフェクトと共に、百二十四という数字が現れた。

 

『つまり、君の総獲得ポイントは────百二十四点! 三桁を取る生徒など雄英高校史上でもそうは無い快挙だ! 勿論一位……と、言いたいが! 実は奇遇にももう一人、同点の子が居てね! 同率一位だ! おめでとう!』

 

 そう拍手するオールマイトを眺めている緑谷の脳裏に、荒れ狂う爆発頭がポヤンと浮かんで、消えた。

 

 画面内のオールマイトは少しばかり居住まいを正し、コホン、と咳を一つしてから改まって話し始める。

 

 それは、緑谷の境遇(無個性である事)についてだった。

 

『……君の境遇について、その全てを理解できるとはとてもじゃあないが、言えない。きっと私の想像すらしていない様な苦悩もあるのだろう。きっと私の想像を絶するような努力も、してきたのだろう』

 

 じゃないとああはならない。あそこまではできない。そう呟き、オールマイトは気を取り直すように軽く姿勢を変えた。

 

 その顔に、普段の笑みは無かった。

 

 珍しく険しい顔をしているオールマイトに、緑谷が息を呑んでいると彼はフスーッと鼻息を吹いてから、再び話し始めた。

 

『一年前、私が君に言った事は君の心に、プライドに、傷を付けた事だろう……そして、あのような言葉は君がこの道を進む限り必ず何度となく言われるだろう』

 

 その声に、その言葉に、その表情に、いやに実感のようなものが籠もっていたのは緑谷の気の所為なのか。

 

『……人は、生まれながらに平等じゃない。誰もが……それを飲み込み、無理にでも納得し、妥協し、世界に迎合しながら生きていく。だが……』

 

 心なしか、オールマイトの表情が泣きそうに歪んだように見えた。

 

 きっと、オールマイトもそうなのだろう、と緑谷は察した。

 

 誰もが、人によって多かれ少なかれ山のようにある『不可』に対して、少なくない数の諦めを繰り返して生きている。

 

『……だが! 君がその道理を覆したい、と……君がこの世界を変えたいと! そう願うならば……私は、我々は! 微力ながらも必ず君の力になると約束しよう! だから!!』

 

 普段のテレビ等で見るオールマイトとは違う、軽妙さの無い言葉。

 

 だが、そんな言葉だから。

 

 画面映えするような派手な言葉ではなく、緑谷個人に対して必死に紡がれた言葉だったから……緑谷は、自分の瞳から涙が溢れるのを止められなかった。

 

『────来いよ、緑谷少年……! 雄英(ここ)が君の、ヒーローアカデミアだ!』

「〜〜〜ッハイッ!!」

 

 聞こえていないと分かっていても、緑谷はつい返事をしていた。

 画面越しでも、オールマイトの真摯な気持ちは伝わってきていたし、緑谷はそれに答えなければと思えた。

 

 フッ、と空中スクリーンが消えると同時に緑谷は椅子から立ち上がり、自室の扉を開ける。

 

 そのままリビングへと入る緑谷。俯いたまま部屋に入ってきた彼に、机の周りをパタパタ忙しなく歩きまわっていた引子は不安げに眉をしかめる。

 

「……出久?」

 

 泣きそうな顔で、緑谷の顔を覗き込む引子。

 

 そんな彼女に、パッと顔を上げた緑谷はピースサインを向けた。

 

「ッ」

「主席……合格!」

「いずぐうぅぅぅぅぁぁぁぁぁ!!!!!」

「ホボシャァッ」

 

 途端、引子の眼から放水の如く水が噴射し、緑谷の顔面を直撃する。

 

「出久ぅぅぅ!! 良かったねぇ! よがっだねぇぇえ!!」

「ほぼぼ! はぼぼふがぼ!」

 

 笑顔で涙に溺れかけている緑谷の眼からもまた貰い涙が噴出し、二人は涙で床をビタビタにしながら互いを抱きしめた。

 

 だが、それより数分後、その感動シーンは無粋なチャイムに遮られる。

 

「……うん? 夕飯時にだれだろ」

 

 グズ、と鼻を啜った緑谷が立ち上がり、玄関のドアを開ける。

 

「はい、新聞なら結構で────」

「今ここで決着(シロクロ)付けたらァァァァ!!!!」

「んのァァァァァ!!!!!?」

 

 チャイムを押したのは爆豪勝己。

 

 全力を出し切島まで使った緑谷の、更に倍……ヴィランポイント百二十四点(ヴィランポイント雄英史上最高得点)を叩き出した、奇しくも緑谷と同点となった男である。

 

 もしも、彼がほんの少しでも他人を助ける姿勢を見せていれば彼が文句無しに一位だったのだが……緑谷に馬乗りになって殴りかかっている彼にはそれは期待できない。

 

「夜分に失礼しますねーっと……ウォ床ビッシャビシャ!?」

「ウィース! 緑谷のお陰で三位になっちまったんだけどおぉ床どうした!?」

「こんばんはー! ねぇ皆受かってたって! 緑谷は勿論受かってたよね!? えっ床凄い事になってるけど!? 涙!? 嘘でしょ!?」

 

 その後ろから、お馴染みの結田府組がゾロゾロと上がりこんできて、ボッコボコにされている緑谷を無視して家に上がりこんでいく。

 

 今夜は騒がしい夕飯になりそうだ、と、爆豪にカウンターパンチを食らわせながら緑谷は笑った。

 

 

 

 所変わって。雄英高校会議室。

 

 

 

「……………………」

「……………………」

 

 会議室の空気は冷え切っていた。

 

 その空気の原因は、大机を挟んで互いに睨み合っているイレイザーヘッドとブラドキングの二人である。

 

 そして、その二人の丁度中間には、なんかドンキとかで売られてそうな『おたのしみBOX』とポップな字体で書かれている紙製の抽選箱が置かれていた。

 

 

 この緊張感を理解する為には、まず雄英高校におけるクラス決めのやり方を説明しなければならない。

 

 雄英高校とは……否、全国におけるヒーロー科とは、入学者のステータスを事前に推測しにくい学科である。

 

 というのもヒーローにとって必須である『戦闘』であるが、これ自体非常に得点にしづらい項目であり、例えば三人の子供の戦闘映像を三人の教師に見せ、順位をつけさせると全員見事にバラバラ、なんて事も起こりかねない。

 というのも、その教師が戦闘において何を優先するかによって見る場所が変わる為である。

 

 逃げ遅れや戦闘中の不慮の事故などに対応できる視界の広い者を一位とするのか。

 

 派手で見栄えの良い動きで、見る者に頼もしさや安心感を与える者を一位とするのか。

 

 純粋に、一番強い者を一位とするのか。

 

 これらはとてもではないがマニュアルで順位等つけられず……というか、現代におけるヒーローの役割を考えれば、誇張抜きにこの三つ全てがある程度のレベルで必要なのだ。

 そしてこれらをたった一度の試験で見る事など不可能であり……

 

 結果として、ヒーロー科入学試験の順位等というものは教師陣には殆ど重要視されない。

 今回に限って言えば、来たる体育祭の選手宣誓どーすっかな、程度の考えである。

 

「では、例年通りに個性使用の方向性がカブると思われる切島鋭児郎と鉄哲徹鐵に関してはクラスを分けるという事で」

「そうだね! それが良いのさ!」

 

 イレイザーの言葉に、雄英高校の校長である根津が頷く。

 イレイザーはそれを見ていない。彼が見ているのは眼の前の全然楽しくないおたのしみBOXのみである。

 

 雄英高校において、ランダムとは決して手抜きやマイナスのイメージでは語られない。

 

 個性社会において、そしてヒーロー業界において、イレギュラーとランダムは決して無くならない物であり、ヒーローはそれに必ず対応しなければならない。

 

 事件、それに対応する自分以外のヒーローの人数、来るヒーローに来ないヒーロー、現場に民間人が居るか居ないか、イベントに呼ばれる際他に呼ばれるヒーロー……数え始めればキリが無い。

 

 雄英高校の校風は『自由』……雄英教師に授業の過度な自由裁量が認められているのも、それに対し生徒にも相当な自由が与えられているのも、全てはマニュアルで管理できないヒーロー業に対応する為である。

 

 つまるところ、ヒーロー業って基本無茶ぶりしか無いから今のうちに慣れとこうね、というのが雄英高校ヒーロー科の全体的な方針なのだ。

 そんな経緯なので、ヒーロー科以外の普通科や経営科は当然ながら自由度を相当控えめにされている。

 サポート科に至ってはむしろ縛りが多いくらいだ。

 

 と、そんな話は置いておいて。

 

 要するに、ヒーローとしての優劣など入学させてじっくり見なければ分からないのだ。

 だから、一年のクラス決めは個性の性質がカブっている者については考慮されるが、それ以外は完全ランダム、クジ引きなのだ。

 

 だが、今回はそういう訳にもいかなかった。

 

 言わずもがな、たった一人で一つの試験場(千八百人分)の仮想ヴィランの六分の一を爆殺した男、爆豪勝己である。

 

「取り敢えず、奴は強過ぎます。推薦一位の塩崎とは別クラスにした方が良い。あの二人のレベルが普通だと他の生徒に思われては、無気力になるか……そうでなければ無茶な自主訓練をして壊れるのが目に見えている……それに、2つのクラスに明確な『差』があるのはよろしくないかと」

「明確な差……ならまだ良いが、その二人が組み合わさると『絶対的な差』になってしまうからな……という訳で」

 

「塩崎は俺のクラスに」

「爆豪はイレイザーが見るのが良いだろう」

 

 そこまで発言したイレイザーとブラドキングの間に、火花……でもない、もっとズモっとした重たい空気が流れる。

 

「……塩崎の個性は使い方を誤れば広範囲に被害を及ぼす危険がある。アレが体の一部である以上、俺ならばあの蔦を一本視界に入れれば個性を完封できる。塩崎を俺が見ます。ブラド、爆豪は頼んだぞ」

「塩崎はどちらかと言えば大人しい気性だと思われる。である以上、問題を起こしそうな奴の個性を即時抹消できるお前が爆豪には適任だ。不甲斐ないが、俺には無理だ。人の個性は千差万別、得手不得手は十人十色、コレばっかりはしょうがない……分かるよなイレイザー」

「分からん」

「分かれ」

 

 双方の、じっとりとした暗い視線が空中でカチ合う。

 

「……爆豪も、あれでいて責任感の強い奴だ。気に障る事があっても暴力に訴えたりはしないさ。という訳でブラド、頼む。本当に頼む」

「どういう理屈だ……!」

 

 彼らが爆豪を押し付けあっている理由は、実は爆豪自身には無い。

 

「……爆豪は、まだ良い。というか爆豪だけなら問題無いんだが……無いんだが……!」

「気持ちは分かる。痛い程にな」

 

 悲壮感を醸し出す今年の一年担任二人に、それぞれ隣に居たプレゼント・マイクとオールマイト、そして13号とセメントスがその肩を叩いた。

 

「お前ら……俺の前でよくそんな事に悩めるな……」

 

 この世全ての闇が籠もった声でそう呟くのは会議室の端にいるパワーローダー。

 

 史上最悪の新入生、発目明(サポート科一般入試主席)の担任になる事が決定している彼は、一年間の教材予算の上乗せ申請書を書いている。

 ちなみに書かれている申請理由は『利用者に発目明がいる為』……普通なら即時却下からのお説教コースだが、今の所却下された物は無い。

 

 ……事の発端は、全学科の試験が終了した次の日、一息ついていた職員室に掛かってきた一本の電話であった。

 

「……もしもし、教職員室の相澤です」

『あ、事務室の佐藤です。ヒーロー科受験生についてお話したい事があると……折寺中学校、の職員の方から連絡がありまして』

「分かりました、繋いで下さい」

 

 その電話は、緑谷や爆豪、何よりも発目明が通う中学からのものであった。

 

 そして、そこでイレイザーが聞かされた情報は即座に全員に共有され、その結果として今年の担任二人がこうやって火花を散らしているのだ。

 

 その情報とは……………………

 

『発目明は基本的に何があっても止まりません。それを止められる確率が高い緑谷は彼女を溺愛しているので、基本的に彼女による被害を抑えようとはしますが、彼女自身を抑える事はありません……爆豪だけが、発目の暴走を止める為に尽力してくれます……発目は基本的に少しでも緑谷のそばに居ようとしますので、被害を抑える緑谷と、発目の蛮行を止める爆豪を同じクラスにするのが一番被害が少なくなります』

 

 この情報と、入試での発目の言動を鑑み、本来は大体ランダムに決められるクラス分けで、緑谷と爆豪がセットにされる事となった。

 

 ちなみにおたのしみBOXの中には『1st』から『35th』まで三十五枚のプレートが入っており、『1st』を引いた方が偶々同率一位の成績であった緑谷と爆豪を引き受ける、という事になっている。

 

 つまり、このたった一枚のプレートを引けばその瞬間、自動的に発目明に二番目に近い教師となってしまう訳である。

 

 

 

 場面は現在に戻り、根津校長が箱を持ち上げた所である。

 

「さぁ、どっちでも良いから引くのさ」

「……では、俺から」

「待て、俺に行かせてくれ」

 

 箱の中身が多い程二人を引く確率は減る。

 

 その考えからヒーローらしからぬ醜い先制争いをしていた二人だが、校長がイレイザーにおたのしみBOXを差し向けた事で勝負は決した。

 

「良いから早くするのさ」

「……クッ!」

「フッ……悪いなブラド。校長命令だ……あっ」

 

 悔しがるブラドキングに対し彼らしからぬ勝ち誇った顔を向けながら、イレイザーはおたのしみBOXに手を入れ、どういう因果か、無事に『1st(緑谷&爆豪)』と書かれたプレートを引き抜き撃沈した。

 

 ここまでのヒーローらしからぬ言動がヒーロー神の気に障ったとでも言うのだろうか。何にせよ哀れである。

 

「ウワァ」

「一発か……ツイてねーなイレイザー」

「おお! そーかイレイザーが俺の負担を肩代わりしてくれるのか! そーかそーか! 三年間一緒に頑張ろうぜ! ヒヒヒヒヒ!」

「パワーローダー、そろそろ思い出せ。お前はヒーローだ」

 

 他人の不幸を心から喜ぶパワーローダーにチョップを入れたスナイプは、両隣の教員に迷惑の掛からない範囲で喜びの舞を踊っているブラドにおたのしみBOXを差し向けた。

 

 そうして複数回両者の間を行き来した結果、次年度の新入生のクラス分けは終了する。

 

 尚、その後珍しく定時帰りした相澤は猫カフェに閉店時間まで籠もり、その後居酒屋にプレゼント・マイクを呼び出して酒を奢らせたらしい。




次回、無免ヒーローの日常、中学生編最終回(予定)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。