最終話のあらすじ
無免ヒーローの戦いは(色んな意味で)これからだ!
リア10爆発46さん、寿咄さん、雷小龍さん、zzzzさん、誤字報告ありがとうございます。
折寺中学校。卒業式。
「この……ごのッ、
壇上に置かれた演台に突っ伏して号泣を始める折寺中学校の校長。その解読不能な言葉を聞いた教師陣は同じく感極まって号泣し、三年生は「全く……しょうがねぇな!」とでも言いたげな顔で目尻に涙を浮かべ、一、二年生もそこそこ瞳を潤ませており、その輪に入れていないのは保護者のみである。
否。
「んくゥ……」
「めいちゃ、明ちゃん寝ちゃ駄目! 普段あんまりうるさく言わないけどここだけは寝ちゃ駄目! 明ちゃんだけはちゃんとコレ聞かないと駄目! 頼むよ!?」
今保護者がほったらかしにされている全ての元凶かつ、この非常に感動的な名演説を前にして既に寝かけている発目(正真正銘の人でなし)と、いたたまれない表情でその肩を揺する緑谷(満場一致の苦労人)の二人だけはこの空気に混じりきれていない。
今のこの演説にはあの無免二番目の人でなしと(主に心操に)呼ばれている爆豪でさえ何やら思うところがある様なので、この二人は正に異端と言えるだろう。
異端ではあるが、緑谷は殆ど悪くないのが彼の不遇さをどこまでも際立たせている。
「びんだ、ぞつぎょぉ、おべでどォ──!! ぞしで、ぎょーいんのびんな゛、おづがれさばでずッッ!!」
そんな言葉で締められ、保護者による戸惑い混じりの拍手、及び教員と生徒による涙ながらの、万雷の拍手に見送られ校長は滂沱の涙を流しつつ、壇から降りる。
ちなみに緑谷は、途中から発目がしっかり目を開いて話に集中しだしたので安堵のため息を吐きつつ拍手を贈り、発目は緑谷にバレないよう目を開けたまま寝ていた。
卒業証書の授与も
「先生、今日まで……本当にありがとうございました!」
「ッス」
「……おォ、お前らか」
担任の教師に頭を下げ、横に居た発目の頭も下げさせる緑谷。
その横にいた爆豪も、無言で軽く会釈をする。
担任の教師はそんな三人の肩を軽く叩き、顔を上げさせた。
「……全く、お前らは史上最悪の問題児だったよクソッタレ。何度引っ越してくれと思ったか」
「すいませんごめんなさい申し訳ありませんありがとうございました!」
「あーしたぁ」
発目の半端な挨拶に、横に居た爆豪がその後頭部を叩こうとして避けられる。
「ンな半端な挨拶ならしねぇ方がマシだわクソ女!」
「ホント、それな!」
「ごごごごゴメンナサイ本当に最後までこの子がもう!」
我関せずな発目、憤る爆豪、震え上がる緑谷。
その最後の最後まで何も変わらなかった三人の姿に、担任はふと笑いを向ける。
「……まぁ、お前らならどこでだって大丈夫だろ。話に聞くだけでも大変な高校だけど、頑張れよ……次に会うのはテレビ越しかな」
雄英体育祭にこの二人が出ている姿を想像し、担任は笑う。
この三人に関していい思い出などまるで存在しないが、それでも卒業するとなると少し寂しいのは何故だろうか。
「緑谷……俺はお前がヒーローになれると信じる。信じる事にする。だからホント……頑張れよ」
「ッはい!」
「爆豪、二人の面倒、ちゃんと見てくれよ。俺は雄英校舎爆発なんてニュース見たくないからな」
「……ッス……」
「発目…………頼むから犯罪は犯すなよ」
「あー、まぁ」
「そこは即答しろよ」
それぞれに言葉を贈り、校門から出ていく三人に手を振る。
「さよなら先生!! また顔見に来ます!!」
「おぉ、じゃぁな! もう見たくねえし二度と来んな!」
手を振って、三人が門の外に出て、その姿が見えなくなり………………
「…………………………ッッッィイやったぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!! 無免ヒーローォ、卒業だぁぁぁぁぁ!!!!!」
担任は、デスクワークでなまった身体を必死に動かし、職員室に駆け戻る。
途中にあったゴミ箱に、胸ポケットに入れていた水なし一錠タイプの腹痛薬をフルスイングで叩き込み、笑いながらそのゴミ箱を持ち上げて投げ飛ばした。
ゴガァン! と廊下に響く音を放って、担任は諸手を挙げて廊下を爆走する。
「無免ヒーロー卒業だァァ!!! 無免ヒーロー卒業だァァァ!!!! やったァァァ!!!! やったァァァ!!! バンザァァァイ!!!!!! ワハハハハハハ!!!!!! ヤーハハハハハハハ!!!!!」
その日、折寺中学校教員一同は悪の魔王から開放された村人の如く一晩中叫び回り、踊り狂った。
尚、発目が三年間の間にチョコチョコ校舎全体を改造していた事が明らかになり、それを直させるために彼女をこの学校に再び呼び戻す事になるのは、まだ数年先の話である。
数時間後。デステゴロヒーロー事務所。
パパァン! と、破裂音と共に紙吹雪が飛ぶ。
その紙吹雪……クラッカーのアレを浴びながら、緑谷は恥ずかしげに、爆豪は鬱陶しげに軽く会釈をする。発目はテーブルの上の料理に手を伸ばしていた。
「卒業、おめっとさん!」
「卒業おめでとう!」
クラッカーを鳴らしたデステゴロとバックドラフトの二人は、折寺駅前で買ってきた小さなケーキを二人に差し出した。
「悪いな、この時間に集まれんの俺達二人だけでよ」
「イエイエそんな! 祝ってくれるだけでもう!」
ペコペコお辞儀マシーンと化した緑谷を他所にささやかなご馳走を次々に掻き込む二人の頭を緑谷が鷲掴み、強制的に頭を下げさせる。
「ほら二人もお礼言う!」
「テメェに指図されんでも言うわボケクソが! ザッス!」
「あーとぉござぁむす」
キレながら雑に礼を言う爆豪と、口いっぱいに食べ物を詰めながらまぐまぐ礼を言う発目に、ヒーロー二人は笑った。
「オウ! ま、好きに食えよ」
「心操らにも同じ事したしな……それに、明日にはもう行っちまうんだろ?」
そう。
無免プラス発目の六人は、折寺中学校の卒業式が終わった次の日には雄英高校の方に発つ事になっていたのだ。
「……ええ、まぁ……あっちには家具はヤカンとドラム缶と薪と寝袋しかないですし、そこらへんを揃えたり……共同生活になるから、それぞれが生活リズムを合わせたり……学校始まってからだと難しいでしょうから」
「そっか……この街も、静かになっちまうな」
タバコを咥え、火は付けずに口元でプラプラ揺らしながら、デステゴロがシミジミと言う。
「普段使いの携帯の着信音にビクビクする日々も終わりって訳だ」
「本当に申し訳無かったです……」
「別にいーって。それが仕事だ」
そう手を振ったデステゴロは、座っていた椅子の裏から三つ箱を取り出し、三人の前に置いた。
「……何ですか? コレ」
「俺等からの卒業と入学祝いだ」
「エェ!? わ、悪いですよそんなァ!」
恐縮する緑谷に箱を押し付け、デステゴロは「返されても困る!」と鼻息を荒くした。
「俺等の連名だし、別に大したモンでもねえよ……つーか心操等にゃもう渡してんだ。受け取れ!」
結田府中は私立中学であり、公立の緑谷達とは授業スケジュールが少し違う。
なので、心操達結田府組は数日前に彼等ヒーロー一同から卒業祝いをして貰っていた。
数日違いの卒業祝いをきちっとしてくれる辺りに彼等の生真面目さが出ている……と思いきや、パトロールシフトの関係で結田府組はシンリンカムイと岳山が主催した、というだけである。
デステゴロに箱を押し付けられた緑谷は、尚も恐縮しつつ箱を開ける。
隣に居た二人も、ラッピングされたその箱を開ける。
因みに緑谷は普通にビリビリと紙を破り、爆豪は机に置いていたペンでセロハンテープを切って、包装紙を破らないように几帳面に、発目は手持ちのナイフを滑らせ紙を切り裂いていた。
「…………あ、コレって……目覚まし時計?」
箱から出てきたのは、三人でそれぞれに緑色、桃色、カーキ色と、髪色をイメージさせるようなカラーの、そこそこゴツい軽金属製の外装の、デジタル目覚まし時計であった。
「おォよ。しかも、好きな時間に五つタイマーをセットできる奴だ。タイマーの曜日指定もできて便利だし、紐アンテナ伸ばせばラジオも聞ける……有名所から中堅無名まで、色んなヒーローの御用達だぜ」
腕を組み、タバコを揺らしながら満足気にしているデステゴロ。その横で同じように満足げなバックドラフトが、言葉を続ける。
「それ、ヒーローの事務備品とかを扱うような会社の商品でな。少々の荒事にも耐えられるように耐衝撃、耐熱、耐冷、防水といろんな機能が付いてるんだ。ヒーロー……いろんな人間の中で、特に強力な個性の奴等が普段使いする前提だからな……それに何よりも、その時計は…………」
「……その時計は?」
「「メッ……チャクチャうるさい」」
ウンウン、と、恨みも籠もっていそうな目で時計を見ながら言う二人に、緑谷は軽く気圧される。
「俺も昔ヒーローの先輩にこれ貰った時、初めて使ってビビったよ。もーマジでうるさい。携帯のアラームとか比べ物にならん」
ヒーローには一分の寝坊が致命的になる仕事とて存在している。
それに、街のパトロール等でもヒーローが多過ぎて犯罪の取り合いとなるような都会はまだしも、折寺レベルの都市であれば近辺のヒーローがガチガチにシフトを決めている場合も少なくはないのだ。
そんな時間に追われるヒーロー達から、『もっと音を大きく! 一瞬で起きられる目覚まし時計を!』と要望が上がり続け、音量も上がり続け、今ではヒーロー御用達の癖に法ギリギリの音量の悪魔的な目覚まし時計となって売られているのがこの時計だ。
因みにお値段はまぁ、性能相応にソコソコするのだが、その時計を売り出す会社はヒーロー免許割引を実施しているためデステゴロ達からしてみれば実際払った値段はそこまで高い訳ではない。
「起こすとかそういう次元じゃ無ぇンだよなこれ。もーほんとマジでうるさい。音でぶっ叩いて来る。色んな機能あるけど音量調節機能だけねぇし……昔岳山にプレゼントした次の日殴られたっけな」
枕元に置いていた為に寝起きからパニックになったと怒る岳山の顔を思い出しつつ、デステゴロは笑う。
「はぁ……そんな凄い時計を……」
「それだけじゃねえぜ。横見てみ」
「横……? わぁ!」
バックドラフトの言に従って時計の横を見た緑谷は歓声を上げる。
「これ、デステゴロのサインじゃないですかァ! それにバックドラフトのも! エアジェット、シンリンカムイ、Mt.レディ!」
金属製の外装の両側面には、一つ一つはそこまで大きくは無いものの、折寺近辺を縄張りにする五人のヒーローのサインが、レーザー刻印されていた。
「……アンタらからの贈りモンって忘れんな……って訳か」
「いやそんなセコい考えじゃねえけど……つーか俺はやめとけつったんだよ! 岳山が妙に乗り気になっちまったから、止めきれずに……」
爆豪の言葉に思わず噛み付くデステゴロ。
実際、そのサインは七割以上岳山の暴走で入れられたモノであった。
彼女自身、未だ駆け出しヒーローの域を出ていない為、自身のサインが刻印されたグッズ、みたいな物に思うところがあったらしかった。
「……コレ、アイツラはどんな反応してたんだよ」
「岳山によると三人共喜んだらしいぞ。俺も三人中二人は喜んだんだろうと思ってる」
残る一人は間違いなく心操であろう事は爆豪にも良く分かった。「おォーっ……っはは……あー……ッざぁーっす!」みたいな微妙な反応をした事は想像に難くない。
「お前ら三人も……出久は滅茶苦茶喜んでくれて、発目はほぼ興味を持たないだろう事は予想ついたんだけど……お前はどんな反応するかわからんくてなぁ」
サイン刻印入りの時計を大事そうに胸に抱え、バックドラフトとツーショットの記念写真を撮っている緑谷と、そちらを一瞥もせずに栄養補給に勤しんでいる発目を見て、爆豪は手元の時計を持ち上げた。
「……なんで目覚まし時計だったんだよ」
「オン? そりゃお前……これから三年間、ヒーロー科はマジで超絶忙しいぞ……適当にやって、大学もヒーロー科行って、そこで免許取れりゃいっかぁってんなら話は別だが……お前らはそうじゃねえだろ?」
その言葉に、爆豪は頷く。
ここまでヒーローになる為に生きてきた。
ならばなれる時にヒーローになる以外の選択肢など、無い。
「……なら、それは必ず役に立つさ。多くのヒーローがその時計を恨んでるが、それでもずっと使われ続けてる由緒あるブツだ……ヒーロー目指すお前らには、そのプレゼントが良いと俺は判断した」
「……そーかよ」
言って、爆豪は時計を箱に戻してから発目の近くに行き、食事を一皿分強奪する。
即座にフォークが飛んできたが、爆豪はものともせずにそれらを指の間に挟み、それを使ってポテトを口に運んだ。
「……誰でもねぇアンタが『コレだ』って判断したなら、取り敢えず文句ねえよ」
「…………!!」
「実際なんか言うンは使ってからだ」
そう言って今度はナゲットを口に運ぶ爆豪を見下ろして、彼は最近もろくなってきた涙腺がにじむのを認識した。
「あ? ……ァに泣いてんだアンタ」
「……いや、お前って俺の事そんな信用してくれてたのか……って……」
タバコを口から外しつつ、口元を押さえて上を向く巨漢に、爆豪は「えぇ……」とでも言いたげな表情を向けていた。
「デステゴロ! デステゴロも写真いいですかって泣いとるゥ!? かっちゃんにいじめられたんですか!?」
「アァ!?」
「あぁ、良いよ……ごめん、最近なんか涙もろくてな……」
何年も通い、よく馴染んだヒーロー事務所で緑谷は笑い、発目は食事を食い尽くし、爆豪は吠えていた。
だが、それも暫くは見納めである。
「出久、勝己、ヒーロー科は滅茶苦茶大変だけど……負けんじゃねーぞ!」
「ハイッ!!」
「負けねぇよ!」
二人は、偉大な先輩からの激励に笑顔で、そして仏頂面で答えた。
「明、頼むから犯罪だけはするなよ。バレなくても犯罪だからな」
「あー、まぁ」
「今日くらいは即答しろよ」
一人は、今まで迷惑掛け通しだった大恩人の言葉さえも軽く受け流した。
「そんじゃ、元気でな! 偶には帰ってこいよ!」
「体育祭、楽しみにしてるからな!」
プレゼントの箱を持って事務所から出ていく三人にそう声を張り上げ、その姿が見えなくなってから、二人は事務所内へと戻った。
「さーって、と!」
「テキトーに片付けたらパトロールにでも行くかな!」
二人は意気揚々と、かつ適当に片付けを始めた。
「アイツら見てっと……こう、ヒーローやりたくなってくるんだよな」
「あー、それ思うっす!」
テーブルを拭きながらの言葉に、個性で皿を洗いながら反応するバックドラフト。
「何にせよ、三年後が楽しみだな!」
「お、デステゴロ……三年後も現役宣言っすか! やりますねぇ!」
「……あ、そうなんのか……っしゃーないな! 目指せ三年後も現役! だな!」
二人のヒーローは笑いながら未来に思いを馳せる。
若い希望が、その光で世界を照らす未来を。
数十分後。ツギハギ研究所。
「あ、マリーさん!」
「あら、おかえりなさい」
緑谷たち三人が事務所を出た足でツギハギ研に来ると、彼等の師の一員であるマリー・ミョルニルが庭の端で何かしていた。
ちなみに、マリーは数日前から無免達の引っ越し手伝いという名目で折寺に滞在していた。
そんなマリーが地面にレンガを並べたり、土を整えたりしているのに興味を持った発目は彼女の横に座り込む。
「マリーさん、コレ何してるんですか?」
「んー? この庭にお花でも植えようかと思って……アナタも居なくなるし、もうしばらくはこの庭が爆発するような事も無さそうだし」
「ふーん」
発目は即座に興味を無くし、とっとと家に戻っていった。
爆豪もそれに続き、緑谷だけがその場に残る。
ツギハギ研の広い庭が殺風景な理由は、発目がよく爆発事故を起こすからなのであった。燃えるものがあると危ないのだ。
「明ちゃんと違ってシュタインは結構マメだから、ちゃんと世話しろって言っとけば取り敢えず世話はするしね」
「なるほど……」
「……あ、卒業おめでとう!」
「ありがとうございます!」
忘れられていた卒業祝いを緑谷が受け取ると、花壇予定地の地面からボゴ、と青い肌の男が顔を出した。
「卒業おめでとう!」
「おァァァァァ!?」
無免の師の一人、シド・バレットである。
その場で縦に四十センチくらい吹っ飛ぶ緑谷を無視し、ボコッと腕を出したシドは、マリーの横に置いてあった腐葉土の袋を持ち上げた。
「手伝ってもらってごめんね」
「俺は案外お人好し……そんな男だった」
そう呟いてからモコモコと地中に戻っていくシド。
緑谷は腰を抜かしながら、「シドさんも来てたんですね……」と呟く。
「まぁね。なんかこっちに用事あったみたいよ?」
「へぇ……」
地中に腐葉土を配置してくれているため、モコ、モコ、と盛り上がる土を見ながら二人は話を続ける。
「そういえば、今日三奈ちゃん達には会った?」
「いえ、会ってないですけど?」
「ふーん……まぁ、あの子達もあの子達で挨拶回りに忙しいのかしらね……という事は切島君のアレも見てない訳か……」
「アレ?」
アレとはなんだろうか、と緑谷は疑問に思うが、ピラピラと手を振られて誤魔化される。
「まぁ、いいでしょ……明日の引っ越しの準備はもう出来てるの?」
「あ、ハイ。家具は全部アッチ着でもう注文してるので、元々手で持っていくのは大した量じゃなくて……六人分、先生が運んでくれるそうです」
コレは別にシュタインが親切な訳ではなく、発目が雄英に持っていく物の中に有資格者が運搬しなければならないような危険物(準兵器)が幾つもあるから、そのついでである。
「そ……新生活って感じね!」
「……ハイ!」
ニコ、と笑う緑谷に、マリーは笑い返す。
「明日は電車よね? 走りって事は流石に無いだろうし。何時出発のに乗るの?」
「あ、割と朝方で……」
何度か情報のやり取りを行い、その後緑谷は他二人と共に街中に挨拶回りに出掛けた。
その背中を見つつマリーは携帯を取り出し、タプタプと幾度か画面を叩いた。
「……これでよし、と! さぁシド、今日中に終わらせちゃうわよ!」
「誰に連絡したんだ?」
「んー? 『とっても大きな』お友達。昨日知り合ったの」
「そうか」
「さぁレンガ積むわよ!」
緑谷宅。夕飯時。
「いただきます」
「いただきます」
「はい、どうぞ」
緑谷と、相変わらず両親が多忙を極めている心操が手を合わせ、湯気を立てる鶏肉と根菜の煮物を白米と共に掻き込む。
「っうまいッス」
「んん……おいしい!」
「そう? よかった」
ガツガツと食事を吸い込んでいく二人をニコニコと眺めながら、今日の料理人である引子は箸を動かした。
「にしても明が居ないのは珍しいな」
「あー……明日のサポートアイテム運搬の為にトラックの荷台に詰めまくってるから……」
ただの服や靴ではない、戦闘能力に関わるサポートアイテムの運搬には専門資格を持った人間と、どういうものをどれだけ運んだのかという届け出の提出が必須である。
その書類に発目が何も考えずに発明したもの全部書き込んだ為、今ツギハギ研は修羅場と化していた。
「他の三人に連絡しとかないと……明日は先生手荷物運んでくれなさそうって」
何とかして荷台にサポートアイテムはすべて積み込むだろうが、自分たちの荷物のスペースは確実に無くなっている筈だ。
「つーか、ほんとスイマセン……こんな日に夕飯お邪魔しちゃって」
「良いのよ〜! 二人分も三人分もそんなに変わらないんだから!」
「いや、料理じゃなくて……いや、はい。ありがとうございます」
気まずげに、しかしありがたそうに頭を下げる心操。そんな心操に引子は笑顔で「明日は六人分、お弁当つくってあげるからね」と言う。
何だかんだと食事を世話される事の多い心操は相も恐縮しながら、飯をかっ喰らった。
「……そだ、人使君、切島君って何かあったの?」
「ンフッ」
先程のマリーの言葉をふと思い出した緑谷の質問に、心操が吹き出す。
その、思わずといった様子に緑谷が思わず首を傾げるが、心操はそれ以上一切語ろうとはしなかった。
それが気になる緑谷の追及と、のらくらと逃げる心操のダラリとしたやり取りを、引子はずっと笑顔で聞いていた。
やがて食事が終わり、心操も(申し訳無さげに何度も頭を下げながら)帰宅し、緑谷宅には静かな空気が漂っていた。
「出久、お茶飲む?」
「あ、うん。お願い」
緑茶を湯呑に淹れ、二人で向かい合ってテーブルに座る。
「……ふぅ」
二人で取り敢えず一口緑茶を飲み、一息つく。
「……明日ねぇ」
「うん」
引子の言葉に、シミジミと頷きつつもう一口お茶を含む。
「長かったわねぇホント」
「あっという間だよホント」
「え?」
「ん?」
二人の間で奇妙な空気が流れるものの、二人はそんな空気を使ったメモを捲るようにアッサリサッパリ入れ替え、会話を継続する。
この辺りは理不尽な展開に慣れているというか、正気度を減らすような出来事に対する自己防衛というか……まぁ、いいか。
「今まで、本当に……お世話になりました!」
緑谷は、深く深く、頭を下げる。
引子は、少し涙ぐみながら、緑谷の下げた頭を優しく撫でた。
「馬鹿ね……頭なんて下げなくても良いのよ」
その掌の暖かさ、そしてそこから伝わる優しさを感じ、緑谷はより一層深く頭を下げた。
「雄英でも……頑張ってね」
「ッはい……ッ!!」
「明ちゃんが先生方に迷惑掛けないようにちゃんと見てるのよ?」
「あー、まぁ」
「そこは即答して……」
この雰囲気でも言い切れない事はある。
「……とにかく……勉強はちゃんとする事」
「ハイ」
ポン、ポン、と頭を撫でながら、言葉を続ける。
「毎日ちゃんとご飯を食べる事」
「ハイ」
「夜ふかしはし過ぎないで、ちゃんと寝る事」
「ちゃんと寝ます」
「喧嘩はしても良いけど、あんまり深刻にしないように……って、そんなの言うまでもないわね」
「うん、大丈夫」
緑谷の日常の六割は喧嘩である。
「毎日お風呂はちゃんと入って」
「入ります」
「歯をちゃんと磨いて」
「磨きます」
「服も放りっぱなしにしちゃ駄目だからね」
「毎日洗濯します」
「ゴミも溜めちゃ駄目だからね。それから……」
尚も続けようとした引子の言葉が止まり、その瞳からはホロリ、ホロリと涙が溢れ出てきた。
「……母さん」
「ッ……アレ……?」
「……」
「ご、ゴメンね! ごめんなさい! 別に悲しい訳じゃなくて、笑顔で送らなきゃって、思ってだ、のに゛ぃ……!」
誤魔化すように引子がパタパタと手を振るが、その瞳からは止め処なく涙が溢れ続けている。
「……あのね」
引子は緑谷が四歳の時から緑谷の夢を応援し続けてきた。
応援しているという事は、少なからずその界隈に興味を持つということ。
普通に見ていてもそう深刻には感じない。目を逸らしていると気付く事すら無いかもしれない。
だが、興味を持って見てみればよく分かる。ヒーローという職の、殉職率の高さが。ヒーローという業界の常軌を逸した危険さが。
「……お母さんね、出久の事応援してる……けどそれと同じくらい、出久にヒーローになって欲しくないの……」
それは、親として当然の考え。
それを聞いた緑谷は、テーブルに額が付く程に頭を深く深く下げた。
引子が、今言った考えをずっと持っていたのであろう事は当然理解できる。
引子が、その上で緑谷の地獄のようなトレーニングに一切口を出さずに見守ってくれていた事に、彼は深い深い感謝の念を抱いた。
「……母さん……本当に……今までありがとうございました……!!」
「うん……雄英でも、頑張ってね」
最初と殆ど同じやりとり。最初と殆ど同じ姿勢。
二人は、ポロポロと涙を零しながら中学生でも高校生でもない夜を過ごし続けた。
翌日。折寺駅前。
「オイース緑谷、明ちゃん……朝からよくやるね」
「オハヨ、相変わらずの奴隷っぷりだな」
「ホガンフガ、フガフンガ」
まだ息をする肺が芯まで冷えるような三月中頃の夜明け前、緑谷がヒイヒイ言いながら歩いてきた駅前には二つの人影があった。
緑谷が眠いとぐずる発目を(いつものように)背負って、発目と自分の大荷物を両手に抱え、口におにぎりがぎっしり詰まった重箱の風呂敷を噛みながら駅前にやって来た時、まだそこには芦戸と心操しか居なかった。
「まじで弁当作ってきてくれたのか? 助かるけど申し訳ないな」
心操はそう呟きながら、緑谷の口から風呂敷包みを受け取る。
「ぷはぁ、いよいよだね」
「……だな」
緑谷の目元が少し腫れているのには気づかない振りをしつつ、彼は自販機に百円を吸い込ませた。
「何がいい? 弁当作ってきてくれたし、このくらいは奢るよ」
「ホットココアで! ボトルの!」
「お前に聞いてんじゃない」
都合のいい時はコンマ三秒で覚醒する発目にツッコミを入れつつ、緑谷に自販機の前を明け渡すと、彼は苦笑いしつつペットボトルのホットココアを選んだ。
「お前なぁ」
「アハハハ……」
自販機の横に荷物を置いて、笑いながらココアを一口飲み一息ついてから発目に残りを明け渡す。
「うん、おいしい!」
「お前なぁ……」
当然の如くココアの缶を受け取り、緑谷の背中に乗ったまま甘味を堪能している彼女にシラッとした視線を向ける心操だが、彼女は
勿論ながら、この気付かなかったというのは分かっていてマル無視したという意味である。
そんな早朝から混沌とした空気の中、いつものように肩を怒らせながら特大のショルダーバッグを提げた爆豪が到着した。
それを目ざとく見つけた芦戸が、椅子代わりにしていたキャリーバッグからぴょん! と飛び降り、彼に駆け寄る。
「バクゴーおはよ!」
「フン」
「うーん、二年近く経ってもこの態度!」
ッハー! と大袈裟にため息を吐きながらヤレヤレと肩を竦める芦戸。
その何がと言う事も無いのだが何となく腹の立つ仕草に、爆豪の眼が釣り上がる……が、その怒りは即座に霧散した。
「オイース」
「あ、切島君おはよおおおおぉぉぉお!!!!!? 」
最後に駅前にやってきた切島。
キャンプ用のようなゴツいリュックをパンパンにしてやって来た彼は……赤くなっていた。髪が。
あとトガッていた。髪が。
そんな、真っ赤になった髪をワックスで逆立て、ついでとばかりに前頭部に二本の角を作るヘアスタイルに対し、それを初めて見た折寺組の反応は……
「切島君どうしたの!? 病気!?」
「いや、待っ」
「うひゃぁ、どーしたんですか切島さん。どこか良くないんですか? 頭? 頭が良くないんですか?」
「ちょっ」
「あ゛ァ!? テメェー高校デビューかコラ!」
「心が死んでいく!?」
ボロカスであった。
「チクショウ! 雄英髪色自由だから思い切って染めたらチクショウ!」
地面に突っ伏してオンオンと泣き始める切島の肩を、同中の二人が両側からポンポン叩く。
「アタシは似合ってると思うよ! ツノ生えてるし!」
とは、前頭部に二本の角がある芦戸の言。
「俺も似合ってると思うぞ。逆立ってるし」
とは、同じくワックスで髪をガッツリ逆立てている心操の言。
「さり気なく入れた要素をチクショウ!」
切島の身体は岩でも、心はガラスであった。あと全然さり気なくない。
その場にうずくまり、硬化させた拳で地面を殴る……前に、駅前はタイル張りである事を思い出して個性を使わず普通に殴った。タイルが割れたら困る。
「へぇ……にしても、髪色変わると印象違うねぇ……」
緑谷は悪ふざけのイジりを一旦止め、切島をマジマジと見つめて呟く。
今まではゴワついた髪の、それ以外大した特徴の無い(強いて言うなら目元の古傷だろうか)少年だった切島が、今では遠目から見てすぐにそれとわかるような、印象的な見た目となっている。
「ヘヘッ、だろ!? いや、俺も染める前はちょいビビってたけどよ、やってみたらスゲーシックリくるっつーか!」
「うん、似合ってると思う……僕も染めようかなぁ」
切島の髪を眺めながらそう言う緑谷の声を目ざとく拾い上げ、発目がピョコ、と顔を上げる。
「桃色ですね!?」
「これ以上ピンク系増えてもなぁ……」
三人ピンクの六人組はあまりにバランスが悪すぎる。緑谷は結構そういうのを気にするタイプであった。
そんな、朝から元気な彼等の目の前に一台のレンタルトラックが停車する。
「あ、博士」
「メガネジ」
「おじさん!」
その中から降りてきたのは、無免連中の師匠にしてトラックの運転中でも白衣を脱がない系男子、フランケン・シュタインその人であった。
「皆、おはようございます」
そんなシュタインは既に切島の頭については知っていたようで、一瞬チラリとそちらを見たものの特に言及は無かった。
「切符は買った?」
「あ、まだです」
「俺が全員分買っといた。後で金払ってくれ」
「……だそうです」
「そりゃ結構」
気配りのできる心操に感謝しつつ、全員が何言うこともなくシュタインの前に並んだ。
「アッチに行ったら積み荷の片付けやなんやでゆっくり話す機会も作れないでしょうし、今のうちに語っときます」
「はい」
「親御さん方にも色々言われてるだろうからカブるかもしれないけど、そこはスルーしてね」
「はい」
一つ、前置きの終わったシュタインはコキコキ首を鳴らす。
「……今日から君等は、親元を離れて自分達だけで生活します。夜更ししても、歯を磨かなくても、風呂に入らなくても誰も何も言いません……その代わり、今までは親御さんにやってもらっていた諸々を自分達でやらなければなりません。そして、何か問題を起こせばその責任を取るのは遠く離れた親御さんだ」
一息、間を置いてから、シュタインは全員の顔を見回し、ハッキリと言う。
「君達が手に入れた『自由』は、これまでの十五年で積み立てた『信用』を担保にしている」
鋭い視線と口調で放たれたその言葉に、全員の背筋が自然と伸びる。
「これまでの行動、言動、傍から見た思想信条、そういうのをひっくるめて『コイツなら大丈夫だ』と思われたからこそ、君達は自由を手に入れようとしている……一つだけ、覚えておきなさい」
「『自由にする事』と、『好き勝手にする事』。この二つの間にある差は絶対的です……出久、その差は何か、分かる?」
突如、シュタインに問いを向けられた緑谷は少し慌てつつも、考えて答える。
「えっ、あっ……せ、責任の、差……ですか?」
どもる緑谷の回答に頷いたシュタインは、
「そうですね。『自由』には自らを抑え、律する……自律責任が必ず伴います。その責任を放棄し『好き勝手』にすれば、君達の性質はもうヴィランと変わらなくなる」
もう一度この場の面々を見回したシュタインは、指を一つ立てて「宿題を出します」と宣言した。
「君達全員、『自由』に生きなさい。それと、『責任を負えない自由』と、それを犯してしまう人間……ヴィランの本質について、考えて下さい」
「……ヴィランの、本質」
自由には責任が伴う。だが、その責任があまりにも重すぎて、人一人の身には余る……そんな事象を人は、『禁忌』と呼ぶ。
そして、そんな禁忌を犯す事を罪と呼び、犯した者を犯罪者と呼ぶのだ。
そのような事をイチから説明はせずに、シュタインは宿題の為の最低限の情報のみを彼等に伝えていく。
「ええ……こう言い換えてもいい。『正義と悪』について、常に頭の端に置いておく事。そして、その内に何か答えのようなものが出れば、それを聞かせてください。期限はありません。一生かけて考えなさい」
シュタインの真剣な眼差しに、その場に居た者達はそれぞれに真剣さをもって頷く。
「わかりました」
「なら良し……ま、君等なら大丈夫だよ。それじゃあアッチで会おう」
そう言ってトラックに乗り込み、走り去るシュタイン。
無免達はそれを見送って、改札へと向かった。
「オイ、ソイツ背負ったままかよ」
「え? いや引きずっていくのは可哀想でしょ」
「起こせつってんだよ」
シュタインの話の最中も我関せずと寝続けていた発目を連れて。
予定通りの時間に到着した、土曜の始発電車には人が少ない。
彼らは一列丸々空いていた椅子に座り、窓の外を眺めていた。
「……この景色も、暫くは見納めだね」
「そーな」
芦戸のしみじみとした声に、心操が軽く答え、切島が深く頷く。
中学生の移動手段はもっぱら歩き、自転車、電車である。
故に、この電車から見る自分達の街は、彼等にとって思い出深い物であった。
「今から三十分くらいでハブステーションに着くから、そこで乗り換えて、一時間半くらいで終点駅に着いて、そこでもう一回乗り換えて……聞いてる?」
「聞いてる」
緑谷は今日の予定を周知し、爆豪はそれに耳を傾け、発目はポケットPCを弄っている。
思い出深かろうと感慨にはあんまり浸らない勢である。
発目に至っては(PCのフォルダを展開するように好きな記憶を好きなように思い出したり出さなかったりできる為)思い出という概念がそもそも存在しない。
この女、そろそろ本当に人間か怪しくなってきている。
「二回目の乗り換えぐらいで昼ごはんにするとして……うん?」
到着予定と食事のできる所(彼の持ってきた弁当は六人により一瞬で消滅する前提である)を携帯で検索していた緑谷は、岳山から電話が来たという通知を見て驚く。
「ん? どーした」
「岳山さんから電話だ……何だろ?」
パッと周囲を見回し、車内に人がほとんど居ない事を確認してから画面を操作する。
「はい、もしも──」
『あ、繋がった! っぶなぁ!』
「え?」
何が危ないのか。緑谷がそう思う間もなく、電話口の岳山は『外見て! 海岸の方!』と尚も叫ぶ。
そして、その後すぐに電話は切れた。
「何だったんだ?」
「えっと、何か……海岸の方見て、だって」
六人全員が自分の背中側の、窓の外を見る。
雑多なコンクリートの建物が多い中、朝焼けの光を浴びて海がキラキラと輝いている。
遊泳はできないが、彼らにとっては(色々と)思い出のある海である。
その海岸に、見覚えのある人影があった。
「あ! あれ!」
「えっ、うわ嘘!」
正確に言えば、二十メートルちょいの人影があった。
朝日に照らされながらも大きく片方の手を振る人影……巨大化した岳山にその場の全員が目を奪われていると、この中で圧倒的に眼の良い発目が「おっ」と声を上げる。
「振ってるのと反対側の手に皆さん居ますね!」
「皆さん……って、もしかしてデステゴロ達!?」
「はい!」
夜勤や昼勤などのシフトが忙しく、この時間だと普段なら寝ている人も少なくないのに……手の上に目を凝らすと、確かにそこには五人の人影があった。
「……っはは……!」
「うわぁ、何かスゲーありがてえ……!」
もはや笑うしかないと呆れ気味に口角を上げる心操と、グッと喉を鳴らす切島。
芦戸は少しだけ瞳を潤ませ、爆豪はフンと鼻を鳴らしつつも、視線は彼等から逸らさない。
緑谷は、もう一度、今度はデステゴロの携帯から掛かってきた電話をスピーカー状態にして、出る。
それと同時に、電車と海岸の間にビルが差し込み、ヒーローの姿は見えなくなった。
「ッはい!」
『おう! 出久か! 他の奴らもそこに居るな!』
高い場所に居るからだろうか。電話口のゴウゴウと鳴る風の音に負けない大声で確認してくるその言葉に、緑谷以外の五人はそれぞれに返事をする。
「オウ」
「居るよー!」
「居るっす」
「オッス!」
「はーい」
『そうかそうか! 見えたな!?』
デステゴロの後ろからギャアギャアと騒ぐおっさん(+岳山)の声が入ってくる中、緑谷達は見えました、と少し言葉に詰まりながらも返事をする。
『そーか! おいお前ら! せーので言うぞ!』
えー、だの、グダグダかよ! だの、打ち合わせたじゃん! だの、背後の同僚の声を無視して、デステゴロの声は元気良く音頭を取る。
『行くぞ! せーの!』
そして、その音頭に何やかんやで合わせるヒーロー達は、緑谷達に言葉を送る。
『気合い入れて、行って来い!!』
それは、折寺一帯を守っていたヒーロー達の、『無免ヒーロー』への、心尽くしの応援。
そして。
『お前らが帰ってくるまで、ここは俺等が守ってやる!!』
何だかんだと問題も多数多数そりゃもう多数起こしながら、それでも街に生き、人を助けてきた『無免ヒーロー』への少しだけ捻くれた感謝。
そして。
『後なぁ!!』
『何時でも、好きな時に帰ってこいよ!!』
自分達も経験した、『ヒーローになる』という困難にこれから挑む、強くはあれど未だ何の立場もも持たない『無免ヒーロー』への、精一杯の支え。
『っつーワケだ! もう切るからな! 電車であんまり話させる訳にもいかんし!』
『ちょ、俺らにも語らせてくれよ!』
『つかデステゴロ泣いてる?』
『うっせー泣いてねー! オラ仕事戻るぞ! ほれほれ!』
ツッ、と電話が切れると同時にビル群を抜ける電車。
窓の先にはもう、先程のヒーロー達の姿どころか海岸すらも、もう見えはしない。
そこに変わらずあるのは、少しずつ地平線から離れゆく朝日だけ。
無免ヒーロー達は、暫くの間窓の外の朝日を眺めていた。
一瞬で静かになった車内に、芦戸が鼻をグシュ、と鳴らす音が微かに響いた。
「……いつでも、帰ってきて良いってさ」
「ありがてえよなぁ」
心操の言葉に切島はウンウンと頷く。
「…………皆、頑張ろうお゛ァダアッ!?」
「音頭取ってんじゃねえクソデク」
椅子に座り直してスッキリとした笑顔でそう言った緑谷の頭を爆豪が張り倒し、意味的には全く同じ宣言をもう一度やり直す。
「テメーら、もう情けねえ真似できねーぞ……分かってんな!」
『おッス!!』
芦戸はハンカチで目元を押さえつつ、切島は胸を張り、心操は薄い笑みを浮かべて、緑谷はしょうがないなぁ、と苦笑いしながら。
それぞれに覚悟を新たにするのを、発目は何時もの顔面に張り付いたそれとは少しだけ違う、慈しむような笑みで眺めていた。
「……フフッ」
多くの人の思いを受け止め、意思を託され、彼らは進む。
新しい日常が、始まる。
新しい日常一日目。
「大変だぁ! トイレが爆発したァァァ!!!!」
「明ぢゃぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
「クソ女ァァァァァ!!!!」
総話数五十二話。
総文字数五十六万文字強。
中学生編、完!
はい、二年半かけてようやく本格的に原作入りですね。長かった……!ちなみに最終話タイトルは割と初期から決めてました。
ここで無免ヒーロー達の物語は一旦幕を下ろし……ません。つーか今やっと幕を上げ終わりました。
次話はちょっと番外編(途中で出てきた塩崎とか、
最後に……
ここまで応援下さった皆さん、本当にマジでありがとうございました。
ほぼ毎回のように応援メッセージをくれた方々がいました。
心に響くような感情の籠もったメッセージがついた高評価を入れて下さる方がいました。
推薦文を書いて、サイトの他の方々にこの作品を宣伝してくれた方がいました。
全身全霊でひねり出したクソみたいなギャグにここすきボタンを連打してくれた方がいました。
皆、マジでマジでマジでマジで!!!!!ありがとう!!!!そして、これからもよろしくね!!!!
作者も頑張るから!!!!
使用楽曲
タイトルに使用
カサブタ:千綿ヒデノリ