無免ヒーローの日常   作:新梁

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いや、ちゃうねん、スランプというか……文章が全然書けなかったというか……モンハン生まれて初めてやったけど超面白いというか……ゴールデンウィークずっとモンハンしてたというか……ハイ、そういう事。まぁなにはともあれ、これで無免ヒーロー中学生編終了です!めでてえ!

あ、今回はソウルイーター側のキャラがだいぶ出てるので、ヒロアカのみご存じの方は分かりにくいかも……

今回のあらすじ

Q.何で師のジャスティンが居ないのに塩崎はあんなに強かったの?
Q.何で塩崎はスケバンになっちゃったの?
Q.塩崎の個性じゃ推薦試験あのタイムは出せなくない?
Q.海編の最後の方にひっついてたあの話何だったの?
Q.メデューサは分倍河原に何させたいの?
Q.無免○○○○って何?

リア10爆発46さん、たかたかたかたかさん、誤字報告ありがとうございます!


章間。無免○○○○の日常。

 時は、遡り。

 

 八月。

 

 聖石矢魔学園附属中学校。

 

 三年一組。

 

「塩崎さん、雄英高校受かったって本当!?」

 

 朝方、塩崎が登校*1した途端に飛んできた質問に、彼女は目を細めて「ええ!」と輝く笑顔を見せる。

 

 途端、キャアキャア、ワアワアとクラス中に騒ぎが広がり、少しばかり騒がしくなるのを彼女は髪をフワリと押さえながら*2困ったように笑う。

 

「えっと……皆さん、喜んで下さるのはとても嬉しいのですが、もう予鈴が鳴りますから*3

「あ、だよね! ごめんね! アハハ……」

 

 幼く見えるも整った容貌*4と、学校の生徒に危険が及んだ場合はその身を呈して助けてくれる勇敢さ*5とが相まってクラスの、否、学園全体の高嶺の花である彼女は困り顔で笑みを浮かべながらクラスメイト達を抑え、予鈴が鳴ると同時に席に着いた*6

 

「おー、皆おはよう。ホームルーム始めるぞ」

 

 その時はこれで有耶無耶になったものの、次の休み時間から授業の合間ごとに塩崎は多くの生徒達に囲まれ、たっぷり昼休みまで質問攻めや激励の波を困ったような嬉しいような顔で*7律儀にそれら全てに答えていくのだった。

 

 そして、少し時間は進み……

 

 放課後、先程も塩崎に一番に話しかけた少女が帰り支度をしている彼女に声を掛ける。

 

「ねー塩崎さん! 購買でちょっとお菓子買って合格おめでとう会しない? ……あとついでに勉強の方を教えて頂けると……」

 

 前半は溌剌と、後半は申し訳無さげに言う少女に、塩崎は「あ……」と困ったように呟いてから、申し訳無さげに頭を下げた。

 

「……ごめんなさい。今日は、実技試験方面の面倒を見て下さった方の所に挨拶に行く予定でして……」

「……あ、あー! そう! イヤいいよいいよ! ソッチのんが大切だって! 行ってらっしゃい!」

 

 ペコペコと何度も頭を下げつつ「明日でもよろしいでしょうか……」と尋ねてくる塩崎に快諾を返し、急ぎ気味に教室を出ていく彼女を見送ってから感嘆の溜息を吐く。

 

「ハァーッ……ホント、完璧美少女って感じ……」

「うん、本当に。成績優秀で物腰柔らか*8。隙の無い超優等生!」

「うん……塩崎さんの先生か……どんな人なんだろ?」

「塩崎さんの先生だし、なんか優しそう!」

「あー、分かる!」

 

 

 女子生徒二人は、塩崎の師を予想してはそれはあると無いとか言い合って笑っていた。

 

 

 それから数十分経ち、石矢魔市郊外のある工場。

 

 

 ギャアッ!! と、騒々しい擦過音が汚らしい工場内に響く。

 

 その音は、工場の中心……丁度何の機材も置いていない場所に居る塩崎と、明るめの茶髪の男の身体から鳴り響いていた。

 

 男がギャリギャリと金属音を撒き散らしながら塩崎の胴に向けて前蹴りを放つが、それを塩崎は膝丈のスカート*9から伸びた素足で迎撃する。

 

 男の足裏と、塩崎の膝が打ち合った瞬間、男から鳴り続ける騒音以上の音が二人の間に甲高く鳴り響く。

 

 そして、二人の身体は何かに反発するように勢いよく弾け飛ぶ。

 

 しかし男は蹴り上げた足を軽く振り戻すだけでその衝撃をいなし、それとは逆に塩崎は明らかに体勢を崩し、四肢と茨髪を床に付けて無理矢理勢いを殺していた。

 

 素人がこの戦いを見ても、どちらに分があるのかははっきりと分かる。

 

 間違い無く、有利なのは男の方である。

 

「……ックぅ!」

「おらどォしたァ!? さっきまでの威勢はよぉ!」

 

 吹き飛ばされた彼女は地面を自身の(個性)でガリガリと削ってブレーキをかけながら、ちら、と地面のコンディションを確認した。

 

「まっ……だ!」

 

 瞬時。

 

 両手両足を地面に付け、クラウチングスタートのような姿勢をとっていた彼女は、手脚を一切動かさず……つまり、予備動作を一切行わずに加速。

 

 その超加速の種は、彼女の両手脚に巻き付いた茨髪。

 

 服の中を通り、四肢に巻かれた彼女の個性たる茨髪は、まるで『チェーンソー』のようにその表面を回転する事で攻撃と移動を両立する事ができる。

 

 これにより、ただ『髪を操る』だけだった彼女の個性は、あまりに劇的過ぎる進化を遂げていたのだった。

 

 ジャアァッ!!! と地面の土くれと移動動作の中で少しずつ生まれる茨の切れ端をド派手に撒き散らしながら*10工場内の機械の間を縫うように移動する塩崎。それに対し、男は目線だけでそれを追いかけ、自身は一切動こうとしなかった。

 

 しかし、その男の身体からは絶えずギャリギャリという音が鳴り続けている。

 その音を高速移動しながら聞いている塩崎は、覚悟を決めた表情で唇を噛み締める。

 

「……どうした? 逃げるだけ──」

「ッ!!」

 

 男の煽りを隙と見たか、塩崎が工場の壁をジャァァアッ!!! と音を立てながら登り、身体を翻すようにして男の真上から蹴撃を繰り出した。

 

「な訳無ぇよなぁ!?」 

 

 その動きを完璧に追いかけていた男は、自身の身体から先程迄のギャリギャリという音とは違う、ヴォンッ!! というエンジン音のような物を鳴り響かせ、

 

枷脚(シャックルス)……二重(ツイン)ッッッ!!!」

 

 塩崎の左脚を……まるで鎧……否、拘束具*11のように茨髪が二重に覆い尽くすのをしっかりと視認しつつ、右脚に塩崎のそれとは非常に似た……そして、決定的に異なる(個性)を発現させる。

 

鋸脚(のこあし)

 

 それは、鎖鋸(チェーンソー)の刃。

 

「一速」

 

 ドウッ! と腹から響くエンジン音を鳴り響かせる男は、一速と言いつつ塩崎のそれよりも遥かに拘束で回転する脚を、彼女の脚に勢いよく打ち合わせる。

 

「キャアッ!」

 

 ギャアンッ!! 

 

 全体重と落下速度をかけ合わせたにも関わらず、先程までよりもずっと大きな音を立てて当然の様に迎撃された彼女は再び空を、今度は不格好な体勢で舞う。

 チェーンソーと打ち合った茨の拘束具は千々に千切れ飛び、髪の量も少なくなっている今は瞬時に男に再攻撃する事は難しそうだ。

 

 そう考えるに至った男がとどめを刺す為にグッと脚を曲げたその瞬間、それに目が行った。

 

 塩崎の髪が三本程、長く伸びて地面に埋まっている光景に。

 

「……あー」

 

 脚に力を貯めた姿勢のまま、男がボリボリと顎を掻く。

 

 それを空中でしっかりと視認した塩崎は、姿勢制御も上手くできない空中で、それでもしてやったりと笑った。

 

収容(コンツィメント)!!!」

 

 一本一本は然程太くない塩崎の茨髪。しかしその髪には普通の髪には存在しない、三つの特性がある。

 

 一つは、本人の意思次第でいくらでも伸ばす事が可能である事。

 

 二つは、切り離されない限り本人の意思で自在に操れるという事。

 

 そして三つは……その茨髪は、自由に枝分かれさせる事ができるという事。

 

 塩崎が地面に身体を打ち付けるほんの数瞬前、最後の最後に気を抜いた男の足下から、ゴバッ!! と幾本もの茨髪が飛び出して男を取り囲み、一瞬の内に球牢を作り上げる。

 

 塩崎の脚を覆った拘束具などとは比べ物にならない密度で茨は編み込まれ、最終的に最初に作った二倍程度の大きさの球となったのを確認した塩崎は、球に向けて伸ばしていた手*12を下ろし、ふう、と疲れた溜息を吐いた。

 

「……収容完(コンプリー)……」

「鋸脚、二速」

 

 塩崎の言葉を*13遮るように球牢を縦半分に引き裂いて外に出てきた男は、エンジン音と金属音を静めてから、疲労困憊で倒れ伏した塩崎の憮然とした顔を見ながら、その刺々しい頭を撫でた。

 

「まぁ。トシを考えりゃ、中々良い成長具合なんじゃねえの。特に最後のはジャスティンの野郎を思い出した。五年……いや、七年後が楽しみだな」

「……何故二年延ばすのですか」

 

 かつての師、ジャスティン・ロウから居なくなる自分の代わりとして紹介された、彼女にとって二人目の師……切子(ギリコ)に向けて、塩崎はその可愛らしい顔を不満げにキュッと顰めた。

 

 

 

 中学校を出た塩崎は、石矢魔市郊外にある自動車整備販売工場『ギリコオート』に訪れていた。

 

 そして、来て早々に何やかんやとあって手合わせを終えた後。

 

 その工場の一角にあるプレハブの商談室で、塩崎は目の前でジャーキーを噛み千切る男に向け書類を見せていた。

 

「どうでしょう?」

「知るかよ」

 

 塩崎は、雄英高校推薦試験合格の報告と、その手紙に付いてきた被服控除(コスチューム)申請書の内容に関する相談を自身の第二の師でありサポーターのギリコ……切子(ギリコ) (そう)に対して行っていた。

 

 ちなみに彼は、まだ免許が無く外では個性を使えない彼女に鉄鎖と鈍器のようなチェーンカッターを与えた張本人である。

 

「つか、ユーエーに居んだろ? 血統書付きの提携業者サマが。ソイツ等に頼め。俺が知るか」

「ですが、私の今の装備を作ってくれたのは……」

「だから知るかつってんだろ。見て欲しけりゃ酒の一つでも持ってこい、それか金……いや両方」

「そんな……」

「俺をタダでこき使おうってのが調子乗ってんだよバァカ。分かったらとっとと帰れ。掃除してからな。さっきの穴ちゃんと埋めとけ」

 

 塩崎は取り付く島もないギリコに対し、困ったように溜息を吐く*14

 

「……ふぅ、分かりました、自分で考えます……折角ですし、晩御飯も作りましょうか?」

「酒に合う奴」

 

 商談室の一角にある小さな冷蔵庫から発泡酒を取り出し、プルタブを片手で器用に開けて夕方からの酒盛りを始めてしまったギリコをじっと見て*15から、もう一度溜息を吐いて*16から買い出しに出掛けた。

 

 石矢魔市はとにかく治安が悪い。本当に隣が結田府と折寺なのか疑わしい程に。

 

「へぇい、こんな夕方に女の子が一人でおボブぉっ!」

「あ、相方ァ! ホベッボ!?」

 

 少し日が陰った途端ゴキブリのように湧いてくる不良をビール瓶より重くて硬いチェーンカッターでことごとくボディブローしながら、塩崎は献立を考え始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は、遡り。

 

 

 

 

 八年前。

 

 

 

 

 ダンダン、とドアが乱暴に叩かれる音を聞いて、机に向かっていた俺は溜息を一つ吐いてから医療用のマスクを耳に掛けて玄関に向かう。

 

「ドクター! ドクター!」

「ンな叫ばなくっても聞こえてるよ。『聞こえねえぞ! もっと大声で喋りやがれ!』」

 

 前オーナーに捨てられて、ボロボロになった廃モーテルのドアを開いて、俺は『客』の顔を見る。

 

 ドアの前に居たのは、この辺では珍しくない、ボロボロでヨレヨレのシャツとジャケットを羽織った痩せぎすの男。

 

 偶にウチに『物資』をねだりに来る連中の一人だった。

 

 階級としちゃ下っ端。強さとしちゃこの辺では中の下。厄介さは……ほとんど考慮しなくて良し。

 

 男を頭の先からつま先までザッと眺める。

 

 コイツ自身は怪我してねえ……が、服の袖口が血で濡れている。

 

 これだけである程度の事情は察せるモンだが、改めて口にさせるってのは大事な事だ。

 

「で、何があった? 『何も無かったらブッ殺すぞ!』」

「リーダーが! 俺らのリーダーが、腹から血が!」

「……ッンー、了解。場所はお前らのアジトでいいんだな? 『違うぜ! 俺が行くのはベッドだ! 寝たりねえ!』」

「ああ! 早めに頼むぞ!」

 

 ドダダ、と足音を立ててこの場を去っていく男を見送って、ワシワシと髪を掻きむしりながら洗面所へと向かう。

 

 マスクを外し、冷水で顔を洗い、適当に髭を剃ってから適当な服を着て、もう一度マスクを付ける。

 

 適度に適当な格好となった俺は部屋の入口に常においてある仕事カバンを持ちモーテルの部屋を出て、そのまま横の部屋をノックする。

 

 その部屋から出てきたのは、癖の強い黒髪を綺麗に整え、長く伸ばした後髪を背中側で編み込んだ、蛇を彷彿とさせる笑みを浮かべた女性だ。

 

「はい、何かしら?」

 

 部屋の中でも身なりを綺麗に整えている眼の前の女性を見ると、どこまでいっても適当でしかない自分の格好がみすぼらしく感じるが、そんな物は目の前の女性と六年付き合ってきた俺にとっては今更だった。

 

「姐さん、急患だそうだ。どのくらい掛かるか分からないから、一応連絡を、ってな『俺は眠たいんだよ! 寝かせろ!』」

 

「そう、分かったわ。行ってらっしゃい」

 

 何が面白いのか、黒目をキュッと細めて笑う彼女の顔を俺はじっと見つめる。

 

「何かしら?」

「いや……今度は黒髪なんだな、と思ってな『前は赤だったな!』いや、茶色だった」

 

 眼の前の彼女は、趣味と実益を兼ねて(と以前言っていた)よく髪や目の色を変える。

 

 俺が初めて彼女に出会った時は金髪金眼だった彼女は、一年程してから髪を青に変えたり、緑に変えたり、ツートンカラーにしたりと頻繁に髪色や眼の色を変えるようになった。

 

 と、共に髪型も日毎に替え、初めて会った時には胸の前で編み込まれていた髪は、お団子になったりウェーブをかけたりと毎日の様に違う形になっている。

 

「あら、似合ってないかしら?」

「いや、似合ってると思う『まぁまぁだな!』」

 

 間髪入れず答えた俺の言葉を、「そう?」と嬉しがるでもなく、当然の事として受け止めた彼女はそのままドアノブに手を掛けた。

 

「じゃあ、行ってらっしゃい」

「はいよ『首を洗って待ってやがれ!』」

 

 パタン、と閉められたドアの前で、俺はガクリと蹲る。

 

「…………ッ今日も変わらずとんでもねー美人だぜチクショー……! 『思春期かよ! ケッ!』うるせえ! 行くぞ! 『俺は寝たいぞ!』行くんだようるせえな!」

 

 ガシガシと髪を乱雑に掻き混ぜ、外に出てすぐに原付に跨り、五分ちょい。

 

「ドクター! こっちだ!」

「おう。患者の容態は『危篤だな!』うるせえ、黙ってろ」

 

 患者の男……このグループのリーダーは、聞けば他のヴィラングループとの抗争で脇腹を裂かれたらしかった。

 

「こいつの血液型は『Aだろ!』」

「あ、び、Bだ」

「そーかい『チッ!』」

 

 グループのたまり場の、安い長椅子に転がされている怪我人の前に立つ。

 

「『椅子持ってこい!』」

「え?」

「早くしてくれ」

 

 俺の言葉に大急ぎで用意されたパイプ椅子の上に手をかざし、個性を発動する。

 

 ドロリ、と、ヌルヌルとした質感の液体が俺の掌から溢れ出ると、それはひとりでにウゾウゾと形を変え、やがては一人の人間へと変わった。

 

 その人間は、首の骨がネジ曲がり、ピクピクと痙攣している半死人の男だった。

 

「ヒッ!?」

「『叫んでんなよ情けねえな!』そいつの体勢崩れないように抑えといてくれ」

 

 そこから俺はカバンから取り出した輸血用のチューブを使い、半死体から患者へと血を移す。

 

「し、死体から血とか、大丈夫なんですか」

「『ビビリかよ!』死後十分経ってない新鮮な死体だ……B型のな。それともテメーがどっかから別の輸血パック持ってくるか?」

「い、いや……」

 

 怖気付く患者の仲間を鼻で笑うと、俺は持ってきていたカバンから消毒液と施術道具を取り出し、フーッと息を吐く。

 

「んじゃあ集中するから、邪魔すんなよな」

「あ、ああ! 頼むぞドクター!」

 

 

 

 

 

 

 世の中からはみ出しちまった俺が姐さん……メデューサに拾われてからは、激動の日々だった。

 

 十六で姐さんに拾われた俺には、まず学が無かった。

 そして悪い訳では無いがお世辞にも良いとは言えない食生活により、身体も出来てなかった。

 さらにさらに、俺にとっては恩人だった勤務先の社長に裏切られたトラウマが尾を引き、精神も参ってた……つまり、いいトコ無し。

 ゲットできる野生ポケモン(ホームレス)としては最低ランクだろう。出合い頭ボール(勧誘)投げて一発ゲットなのも頷けるってもんだ。

 増殖ポケモンブバイガワラ。多分種族値最低ランクで特性だけが長所の奴だ。

 

 そんな事はどうでも良くって。

 

 姐さんに拾われてから数年間はあまり記憶に無い。というか、勉強していた記憶しかない。

 

 姐さんは最初から医者をやらせる気で俺を拾ったらしく、そりゃあ色んな意味で泣きたくなるほど懇切丁寧に、下手すりゃ中学生以下の知識しか無い俺に医療技術と医療知識を、それこそ寝る間を惜しんで叩き込んでくれた。

 そのお陰で俺は寝る間どころか不眠不休でその諸々をモノにする為に努力した訳だが。

 

 ニッコリと綺麗な笑みを浮かべながら「覚えられないなら脳に刻みつけてあげましょうか?」と彼女の個性である矢印を見せつけられた時は本当に死を覚悟したが……それも今では良い思い出だ。

 

 そんな姐さんの献身(?)的な教育と俺の努力が相まって、俺はなんとか五年で外科医としての最低知識を手に入れ、今はこうして立派に医者をしている……ヴィラン専門の。

 

 まぁとどのつまり、身寄りの無かった俺は中学を卒業して小さな工務店に入って……そこで一生を終えるのだと漠然と考えていたが、なんやかんやとあっていつの間にやらヴィランの仲間入りを果たしていたという訳だ。

 

「取り敢えず処置はした。内臓は傷ついてなかったから後でお前らであのホテルに……俺の右隣の部屋にでも運び込んどいてくれ。お代はそん時貰う『左隣には絶対チョッカイかけんなよ!』ほれ鍵」

「あ、あぁ! 助かるよドクター!」

「止めてくれ、それ。痒くなる……『無免だもんな!』うるせえ」

 

 血袋として利用した半死体を溶かし、プラプラと手を振ってからヴィランのアジトを出て、口元を覆っていたマスクを外す。

 

 どういう訳かはまるで分からないが、一度血を別の人間に移すとその死体を消しても別人の中にある血は消えないのだ。

 臓器移植ができれば最高だったんだが、それもまた個性の事情で行えない。地味に不便な個性だ。

 

「ハァ……ったく、お前もーちょい静かにしろよな」

「今じゃなくて」

「……オイ」

「……あぁぁぁ……ウザってえ……」

 

 ブツブツと独り言を呟いていると、路地を塞ぐように数人の人間が立っているのが見えた。

 

 数メートルの距離を離した所で立ち止まり、相手が避ける素振りを見せない事を悟ると、バリバリと髪を掻き混ぜながら誰何(すいか)する。

 

「……あー、どちらさん? 邪魔なんだけど」

「薄褐色の髪、目元の隈、白衣とボストンバッグ……無免ドクターはお前だな」

「いや? おれはしがないポケモントレーナーだよ。ヌケニンが好きでな」

 

 俺がテキトーにそう答えた瞬間、眼の前の男達が一斉に拳銃を取り出した。

 

「問答無用!」

「ウォホイ!?」

 

 眼の前に居た奴等から放たれるいくつもの銃弾に、俺は泡を食って白衣を翻す。

 

「くっそ、イカレ集団かよ!」

 

 そう言いつつも、俺は走る、ひたすら走る。

 

 何故ならここいらは俺の庭で、相手は少なくともこの辺を根城にしてる奴ではないからだ。

 俺の『ヴィランを診る医者』という立場上この辺のヴィラン事情に詳しいから分かる事だ。残念な事にこうやって追われた事も一度や二度じゃあない。

 

「ハッハ、この辺りの裏路地は入り組んでっからな! そう簡単に追いつけるかよボッ」

 

 背後に迫りくる殺意から逃げながら背後に向けてそう啖呵を切っていると、壁に思い切りぶつかってしまった。

 

 尻もちをついた状態で、ここに壁は無い筈なんだが……と前を見ると、

 

「……あー、まぁ……」

 

 眼の前には路地を埋め尽くす三メートル級の巨漢と、上空には羽の生えた男が居た。

 

 ……まぁ、ナビゲートがあるコイツラには俺の土地勘なんて無意味だった訳だ。

 あと、そりゃあ複数人いるのに全員並んで俺の目の前には来ないわな。

 

「……君ら、なんで俺を狙う訳?」

「お前は、我々が口封じに殺した筈の者を治療した。それが原因で我々の組織は崩壊した!」

「死亡確認してないお前等が間抜けなんじゃねーか」

 

 週に何人治療して、週に何針縫ってるのかも数えきれないような職業だから誰の事かは分からないが、完全にコイツラの落ち度だ。

 

「……ッハー……」

 

 大きく大きく溜息を吐く。

 

 と同時に、前後に居る輩がその殺意を膨れ上がらせている。

 

「喧嘩売ってきたのはテメーらだかんな……後悔するなよ『飴くれたってもう許さねェかんな!』」

 

 俺の掌からはバチャリと粘性のある黒い液体が滲み出し、手の中で形を作る。

 

 それは、黒と白のツートンカラーで出来た、刺々しい鍔の付いた両刃剣だった。

 

「個性『二倍』……か」

「おお、よく知ってんな」

「……だが、その個性は特殊ではあるが強力ではない! お前の個性で増やせるのは『一つだけ』! つまり剣を増やした今のお前は無個性と同じだ!」

 

 だっ、と前後から迫りくるヴィランに、俺は軽く手首のスナップで剣を揺らし、ひげの剃り残しを撫でながら言った。

 

「……相手の情報は、よく調べた方が良いぜ」

 

 そして、一番最初に間合い内まで迫ってきたヴィランに向けて剣を一振り。

 

「『スクリーチ「β」』」

 

 ズパッ、と小気味の良い音を立て、切り上げた刀身がヴィランの股間から脳天までを綺麗に二つに分ける。

 

 医者の俺が見るまでも無い。

 

 即死だ。

 

「……居るんだよな、無個性ってのを、医療職(非戦闘職)だってのを『弱い』ってのとイコールで結びつける奴」

「っ退却」

「もう遅い」

 

 切り上げの余韻で天に向けていた剣の切っ先を、部下を扇動しておいていの一番に逃げようとしたクソ野郎に向け振り下ろす。

 

「『スクリーチ「α」』」

 

 振り下ろされた剣から放たれる黒い衝撃波は、クソ野郎の背中を抉り取り、背骨まで削る。

 

 これも、勿論即死。

 

「……っ、うわァァァ!?」

 

 たちどころに二人の仲間が殺された彼等は慌てて逃げ出そうとするが、こちらとしてはそういう訳にもいかない。

 

「悪いな……『コイツ』見せた奴は全員殺せってよく言いつけられてんだわ」

 

 情報の秘匿だかなんだかで。

 

「だから、まァ……」

 

「悪いな」

 

 

 

 

 

 

 トントン、とノックをして、相手が出てくるのを待つ。

 

 後処理だなんだとやっていたら、いつの間にか廊下から見える空は赤くなっていた。

 

「あら、おかえりなさい。遅かったわね?」

「襲撃されたんだよ。治して欲しくない奴を俺が治しちまったらしい『ちゃんとブチ殺しといたぜ! ブドウ飴くれよ!』」

 

 メデューサは口元を隠してクスクスと笑いながら、白衣のポケットに入っていた飴を俺の掌に落とした。

 

「相手の規模は?」

「五人。待ち伏せの脳はあるが、後はお粗末なもんだ。チンピラさ、チンピラ」

「……そう、ご苦労様。ご飯を作ってあるから、入りなさい。温め直してあげるわ」

 

 姐さんが招き入れるようにほんの少し大きく開けたドアに、滑るようにして身体を入れ、ドアを閉める。

 

「毎日毎日、悪いな」

「良いわ。外は出づらいし、暇だもの」

 

 そう言う彼女の部屋は、部屋中に何らかのメモ書き(ルーズリーフ)や試薬の棚、何に使うのかも分からない機材などが溢れており、はっきり言って(更に言うなら毎度の如く)汚かった。

 

 その中でも比較的綺麗なコンロ周りにて食事を温め直している彼女の形良い尻を何となしに眺めつつ、俺は彼女の脱いだ白衣を畳んでソファに置き、テーブルの上に散乱した諸々を軽く片付け、得体の知れないカスを手で払いのける。

 

「ジン」

「何だ姐さん」

「自分に正直なのは結構だけれど、見すぎよ」

「……ウッス『スケベ男が! 死ね!』……うるせえよ」

 

 色々と『諸事情』のある彼女は食料品等の調達は俺任せだが、服等に関しては手縫いを行う事もあるが、それ以上に服屋に電話で注文を行い、それを俺に取りに行かせる形を多く取る。

 

 その時に俺の普段着も合わせて注文してくれるのだが、同じ店で服を買うという行為により俺と姐さんという素材の違いがより明確に(俺の心に)突き付けられるような気がする。

 

 そんな事を、鶏肉のシチューにパンを浸しながら言うと、

 

「それは、貴方が見せる気を持ってないだけよ」

 

 と、見事に一蹴されてしまった。

 

「貴方だって、顔立ちは悪くないし背も低いわけじゃないんだから、見てほしいならそれなりの努力をすれば、見てもらえるようにはなるわよ」

「……そんなもんかね?」

「まぁ、私は今のままの貴方の方が、嬉しいけれど」

 

 そんな言葉に、ついシチューを掬う手を止めて俺は姐さんの方を向く。

 

「……あー、それって、どういう……?」

「さぁ? 自分で考えてみなさいな? 私が手ずから鍛えたのだから、それだけの頭はあるはずよ?」

 

 楽しむようなその言葉に、俺は頭を悩ませる……までも無く、苦笑いで頬を掻いた。

 

「俺が目立つと、必然的に俺が住んでるこの場所、俺が関わりを持っている連中も目立つ……俺は特徴の少ない『その他大勢(ワンオブゼム)』であるべき。そうだろ?」

「ええ。簡単過ぎたかしら?」

「いや、難しかったよ……頭の中の、希望的観測が邪魔をして」

 

 そう言って苦笑いを続ける俺に、姐さんは再びクスクスと笑い始める。

 

「難しい人ね、貴方も」

「……ウッス」

 

 難しいのはアンタだよ、とは心の中に留める愚痴だ。

 

 この人は自分を襲おうとした性犯罪者の男の象徴を、その個性(矢印)で瞬時に、それこそ瞬きの間に跳ね飛ばすような女だ。

 

 この人に拾われて数ヶ月の時、正にその瞬間をこの目で見ていた俺は気持ち内股になりながらスープを掬う手を加速させた。

 

 この世の中、人類誰もが何らかの武器を隠し持っている物だ。人を見る目が無ければ、明日を生きるのも難しい。

 

「人生って、ままならねえな」

「そうね。だからこそ、人生は愉しいのよ」

 

 シチューを(恐らく)完璧なテーブルマナーで食べる目の前の女性の綺麗な形をした顎がモクモクと動くのを見ながら、俺は行儀悪く器を傾けてシチューをズズッと啜った。

 

「前にも言ったけれど、今度テーブルマナーを教えてあげましょうか?」

「前にも言ったけど、姐さんの教育は受けなきゃ死ぬ事じゃない限り死んでも受けない」

 

 首に刃物の様に鋭い矢印を押し当てられながら文字通り必死の覚悟で勉強した思い出が脳裏を過り、俺はウェー、と顔で拒否感を表現しながらうなじをバリバリ掻いた。

*1
早く来過ぎない、そして遅く来すぎない、教室に人が半分埋まる程度のタイミングでゆったりした所作で登校するのが至高だというのが塩崎の中に住まう中二病の化身、いばらちゃんの言である

*2
彼女は個性操作を駆使し、普段学校にいる時にはストンと下に落ちるストレートヘア、戦闘になるとその髪を横に広げて見た目のボリュームを増すという事を徹底している。いばらちゃんは戦闘態勢という言葉が大好きである

*3
いばらちゃんがこの時間帯を好むのは、こういう時に他人の追求を上手く躱せるからだ。尚、他人の追求を躱す機会など中学三年間でほぼ無かった

*4
勿論努力は欠かしていない。何もせずに美人は生まれないのだ……一般的には

*5
むしろこちらが彼女の素である

*6
心の中のいばらちゃんは、雄英推薦合格という事件が予想通りに皆に浸透している結果にご満悦である

*7
土日休みの内に作成、暗記しておいた想定質問カッコいい回答マニュアルを基に

*8
塩崎は学校でその中二的な本性を見せる事は無い。それは協調性とか羞恥とかではなく『表の顔、裏の顔』という物に強い憧れを抱いているからである

*9
本当はくるぶし丈スカートが良かったのだが、彼女の戦闘スタイル上どうしても膝丈にせざるを得なかった

*10
本物のチェーンソーのように環になっていない為長くなり過ぎた茨は自切するというやり方をしているが、ド派手に飛び散るのに関しては完全に趣味である

*11
拘束具と形容しないと塩崎は拗ねる

*12
手を伸ばす必要は特に無い。現に男に攻撃していた時は不意打ちの為に伸ばしていなかった。しかし彼女は、技を出す方向にどうしても手を伸ばしたがる

*13
それも勝利のキメ台詞を

*14
内心のいばらちゃんはウキウキである。いばらちゃんは滅びた密教の宣教者というファースト師匠のクセ強すぎるキャラも大好きだが、そのファースト師匠に並ぶ実力者でありこの石矢魔付近のヤクザ者に幅を効かせ、大きな企業の用心棒に雇われる事もある一般人というセカンド師匠のクセ強すぎるキャラも大好きなのだ

*15
片手で缶飲料のプルタブを開けるギリコを始めてみた時、いばらちゃんは世の中にこんなにカッコいい飲み物の飲み方があるのかと衝撃を受けた

*16
勿論いばらちゃんはその開け方を練習した。だが、彼女では手の大きさが足りず、どうしても出来なかったのだ




A.塩崎にはセカンド師匠が付きました。
A.セカンド師匠の影響です。
A.ローラーダッシュ!
A.土台作り。
A.無限マリオ。
A.各話タイトルに意味は無い。

あとついでに言うと、脚注が添えられていない塩崎の言動、つまり戦闘中や友人の誘いを断った時等は格好を付けていない彼女の素です。
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