無免ヒーローの日常   作:新梁

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新章高校編第一話って事で、零時投稿ではありません。

………………ただ、ちょっと……あらすじの会話を全然思いつかなかったので、今回はちょい……あらすじ会話無しになってます。(居るのか分からないけど)あらすじ会話楽しみにしてた人、ごめんね……本当になんか、書けなくて……

これからも無免ヒーローをよろしくね!

今回のあらすじ

原作麗日の節約ライフ、正直痛々しい。せめて飯はちゃんと食え。

リア10爆発46さん、誤字報告ありがとうございます。


雄英高校の日常
第五十二話。殺伐だけど、ウキウキライフ。


 雄英高校学区には、遠方から入学してくる生徒の為にワンルームマンションが多く建っている。

 

 そして、その周辺には学生贔屓な安い飲食店やスーパー、ホームセンター等々がそこそこの数並んでおり、取り敢えず生活の上で学区から出る必要は無いという造りになっている。

 

「んー、お肉は隣のスーパーが安くて……お米はアッチのドラッグストア……ここは別に……あ、お野菜めっちゃ安い」

 

 そんな便利な街にこの度引っ越して来た少女、茶髪にクリンとした眼がうららか可愛い少女、麗日お茶子は早速自宅周辺の色々な店を巡り、この土地の最安価格帯を調査していた。

 

「わ、もやし十一円! 買わな!」

 

 彼女の実家はあまり裕福な方ではなく、雄英に入学し、一人暮らしとなった彼女は現在生活費の殆どを奨学金(学生ローン)から捻出している。

 

 両親からは仕送りを送ってもらう予定にはなっているが、実家の厳しさを知っている彼女としては早々に使える物ではなかった。

 

 故に、とことんまで切り詰める。一日の贅沢は未来を一つ狭めると自分に言い聞かせて。

 

 雄英新一年生の間での熾烈な安部屋争奪戦に勝ち、そこそこセキュリティがしっかりしている家賃月二万五千円(維持、管理費含)のワンルームを借りる事に成功した彼女であるが、それでも月二万五千円である。その分生活費を詰めねば。彼女は正に燃えていた。

 

 ……この辺り、『子供に健やかに育ってもらいたくて渡した仕送りを子供が遠慮して使わずに極貧生活を行っている』事を知った両親がどう思うか、そういうのを考えていない所にまだまだ人生経験の浅さが見て取れる。

 

 いくらエリート高校生とはいえ、まだたった十五歳の少女である事の証左とも言えるだろう。

 

「わ、キャベツ七十八円!? 最安値! ……けど一人一個かぁ……」

「うわぁ、キャベツ七十八円!? うそォ!? 全員招集しないと!」

 

 麗日が台に並べられたキャベツを見て驚くのと、隣に居た同じくらいの年齢の少年が驚くのはほぼ同時であった。

 

 重なり合うようにして同じような事を言った二人は互いの顔を見る。

 

 このなんとなく気まずい感じの空気に、お互いが軽く愛想笑い混じりに頭を下げ、視線を野菜コーナーに戻す瞬間、麗日は眼の前の少年が何処かで見たことがあると気付いた。

 

 どこだ? と、スマホをてちてち指で叩いている少年をチラ、と見て、気付く。

 

「……あああ!!! 実技試験の!!」

「へぁ?」

 

 麗日の叫びに少年……緑谷が反応し、大きく眼を開く。

 

 緑谷も麗日に対して少々の既視感を感じていたのだが、彼女の叫びによりそれが何なのかが分かった。というか思い出した。

 

「……あ、ああ! あの時のズッコケてた子! 合格したんだ!」

「うん、ギリギリ合格! あとコケたんは忘れて!」

 

 キャベツを計五個取って籠に入れた緑谷は「もうこの辺の地理把握した?」と聞く。

 

「あ、ううん。昨日引っ越して来たばっかりやから」

「へぇー! 僕は十日前にここに越して来たんだよね! あ、このスーパーは野菜と魚が安いけど、魚はちょっと品質悪い時があるんだ。隣町のスーパーは鮮魚コーナーが充実してて安いから、もしいい魚が食べたかったらそっちに行くと良いよ。あと駅前のスーパーはタイムセールの気前が良いんだよね」

「へえぇぇ……」

 

 麗日が緑谷に倣いキャベツを一個取る間にもガッサガッサと大量に野菜やらなんやらをカゴに入れる緑谷。そのかごを持つ手と反対側には、二つ三つ、それぞれ別の店のロゴが付いたビニール袋がぶら下がっていた。

 

「一杯買うんやね、家族の分?」

「うん? あ、違う違う! 僕ルームシェアっていうの? やってるんだ! ヒーロー科五人とサポート科一人の六人暮らし」

「ルームシェア!」

 

 気心の知れた学生同士で一つの建物を借り受け、共同生活を送る。学生としては憧れのシチュエーションと言わざるを得ない。

 

「誰とシェアしてるの? やっぱりあの時一緒に居た子?」

「うん、そうそう。あと幼馴染三人と、友達一人の計六人だよ」

「へぇー! いいなぁ! あたしもやってみたい!」

 

 ワクワクと羨ましげな表情をする麗日であるが、その脳裏にはあくまで男六人のイメージがある。男四人女一人変なの一人の嬉し恥ずかし共同生活であると知ればどう思うであろうか。

 ……実際はどちらかといえば嬉死恥ずか死共同生活といった感じであるが。

 

「その人らもヒーロー科なん?」

「うん、そうだよ……っと、早いね!?」

 

 緑谷が、会話をしていた麗日の背後に声を掛ける。

 麗日は背後に振り向いて、ビシッと固まった。

 

「おーす! 安売りだって?」

「うわー、緑谷もう女の子引っ掛けたの? 明ちゃん怒るよ」

「違うよ!?」

 

 そこに居たのは、派手な赤い髪をバンダナで纏めた快活な少年と、肌と髪が紫がかったピンク色をした、これまた快活な少女であった。

 

 二人はそれぞれランニングウェアを着用しており、どうやら近場を走っている最中の様だった。

 

「……えっ、と?」

「ああ、この二人がルームシェアの相手」

「ルームシェアっていうかハウスシェアだけどねー」

 

 二人にキャベツを渡す姿を目で追いながら、麗日の脳裏には色々な思いが(よぎ)っていた。

 

 高校生が男女でおんなじ所に? 親御さんはなんて言ってたの? よく学校から許可降りたね? ていうか抵抗なかったんかな? 

 

 そう頭の中で色んな事がグルグルしている間に、二人にキャベツを渡した緑谷は麗日に声を掛ける。

 

「どうしたの? …………えー、ゴメン、名前聞き忘れてた」

「あ、ハイ。麗日……デス」

「麗日さん。僕は緑谷です」

「アタシ芦戸三奈! 雄英生? よろしくねー!」

「俺は切島! 麗日は試験でコケた時の怪我、大丈夫か?」

 

 未だ混乱絶頂期にある麗日に切島が声を掛ける。麗日はその言葉に、目の前の少年があの時の黒髪であると察する。

 

「アッッッッあの時の踏ん張りながらオナラしてた人!!!」

「気づいてなかったのね! でもってその件は忘れろ!」

 

 気付かれてなかった事と屁をこいた事は覚えられていたというダブルパンチを受けガックリと項垂れた切島だが、心身共にえげつない鍛え方をされた彼は、すぐに復帰した。

 

「にしても一人暮らしなんだろ? 大変だよなぁ。俺達は六人居るから五等分できるけどさあ」

「いいなぁ……え? 六人やのに五等分?」

 

 六人居るなら六等分ではないのか。そう首を傾げた麗日に、切島と芦戸はニッコリと不自然に綺麗な笑顔を返した。

 

 ちなみに、横の緑谷は苦笑いである。

 

「……まぁ、色々あるんだよ」

「そう、色々あるの。色々ね」

「へぇ……色々あるんやね……」

 

 これは突っ込まない方が良いやつだ、と即座に判断できた麗日はこの連中と付き合う才能があるのだろう。緑谷は携帯で誰かと連絡を取り、「二人も今着いたって!」と言って買い物カゴを抱え直した。

 

「あ、そうそう。一応これ連絡先と住所ね。何か困る事あったら連絡してよ」

 

 そう言ってメモ書きを渡され、慌てて受け取ると緑谷は入口の方に歩いていった。

 その先にはなんか……ヤンキーみたいな二人組が居る。

 

「……どーいう組み合わせ……?」

「思うよなーそれ!」

「私も、初めて見た時は違和感すごかったなぁ。あれだけタイプ違って仲のいい幼馴染だっていうんだからさー」

 

 キングオブ地味顔と言っても問題無い程度には地味顔(そしてジャージ)の緑谷と、パーカーの上からデニムジャケットを羽織った、目立つ紫の髪を派手に上げている……なんかモテそうな雰囲気の青年、そして柄シャツとスカジャンという服装に加えキングオブヤンキーみたいな容姿の青年。

 明らかに似合わない二人と一人は、しかし息の合った様子で談笑していた。

 

「……あ、そーいや麗日は何組だ? 入学通知に書いてたろ?」

「……あ、A組」

「おー、じゃあ俺等と一緒だな! 俺等全員A組だからよ!」

「え、そうなん!?」

 

 麗日はへぇーっと驚くが、そういう事もあるのかとひとまずの納得を見せた。

 

「じゃあ俺等もこれ買ってくっから!」

「麗日、今度家遊びに行っていい!?」

「あ、うん! モチロン!」

「やったー!」

 

 先に行っていた緑谷達三人を追い掛けてドダバダ駆けていった二人を見送り、麗日は腕に下げていた買い物カゴの位置を直す。

 

「……嵐みたいな人らやったな……」

 

 一気に色んな情報を叩き込まれたせいか、若干間抜けなポケッとした顔でそう呟く麗日。

 同時に、あんなに賑やかな人達に囲まれたらきっと退屈なんてしないんだろうな、と愉快さに似た感情で薄く笑う。

 

 彼女が、嵐みたいな人と称した五人組であるが、今彼女が出会わなかった六人目が超特大ハリケーン級の問題児である事を彼女が涙ながらに思い知るのは数日後の事である。

 

 

 

 数十分後。発目邸。

 

 

 

「たっだいまうぉあっ!?」

 

 麗日という少女と邂逅を果たした後、何やかんやと色々必要な食材を買い足し、RPGの如くぞろぞろ連なって帰ってきた緑谷達。

 

 そんな彼等が玄関を開けると、金色の大きな瞳をギラギラと輝かせた発目が仁王立ちの状態で待ち構えていた。

 

「……え、どしたの? 明ちゃん……」

 

 緑谷の困惑もどこ吹く風に、彼女はジイィーッとその眼を見据えてくる。

 

 何か面倒なことになりそうだと察した残る四人はサッサと裏口に回ってしまい、玄関に居るのは二人だけとなる。

 

「……えっと……?」

ハンズアップ(手を挙げろ)!!!!!」

「はいっ!?」

 

 発目の唐突な言葉に緑谷は戸惑いつつもシュパッと手を挙げる。

 

 発目はその状態で固まった緑谷の、ジャージを軽く引っ張り、両脇腹辺りをパンパンと叩き、ファスナーを下ろして中に着込んでいたシャツの匂いを軽く嗅ぎ、最後にその筋肉がギチギチに詰まった硬いケツをパァンッ! と叩いて満足した。

 

「行ってヨシ!」

「何今の!?」

「セクハラです!」

「今セクハラされたの僕!?」

 

 発目が用事は済んだとばかりに発目邸に隣接する研究所に戻って行くのを洗面所から見ていた芦戸は、ランニングの汗を流す為に切島のシャワー上がり待ちをしながら「体臭チェックだぁ……!」と戦慄していた。

 

 発目は意味の無い事をする人間ではない。

 恐らくは緑谷がどこの馬の骨とも知れぬ麗日と接触していた事に気づいたのだろう。が。

 

 ……どうやってそれを察した? 

 

「……もしかして、盗ちょ」

「芦戸、それ以上詮索すんな……家賃一万円設備万全学校まで徒歩五分のこの家から追い出されたくなかったらな」

 

 洗面台で手を洗いつつ、同じ様に一連の流れを把握している心操の言葉に芦戸は重々しく頷く。

 

 そう。何を隠そうこの家の持ち主……家主は発目明その人なのである。

 

 一応彼女の財産の総合管理はシュタインが行っている為に彼女の一声で即座に宿無し……とはならないであろうが、一定猶予期間の後に宿無しは十分にあり得る。

 

 ……まぁ、そもそも本気で彼女の逆鱗に触れれば、その十分後には完全犯罪(殺人)計画が立案されている可能性が高いので家がどうこう言ってられないのだが。

 男女一つ屋根の下は流石にどうなのか、という事で発目邸の一室ではなく研究所の仮眠室を寝室に改装している芦戸なら尚更である。何故なら発目は一日の三分の二を研究所で過ごすのだから。仕込などいくらでもできる。

 

「……緑谷一生夜遊び出来ねえな。あ、バスタオル取って」

「今更だろ。あいよ」

 

 シャワー室から顔だけを出した切島の言葉に鼻を鳴らしつつ、心操は真新しいタオルを渡した。

 

「あ、人使さん! 三奈さん!」

「ウォあっ!?」

「キャァっ!?」

 

 去ったと思っていた発目がガバっと洗面所の入り口に顔を覗かせ、名を呼ばれた二人は仲良く飛び上がる。

 そんな二人に首を傾げつつ、彼女は二人に向け何かの用紙を差し出した。

 

「これ、署名の部分書いといて下さい。お昼までに!」

 

 二人が……心操は手が濡れていたので代表して芦戸が受け取り、心操は横から覗き込む。

 と、そこには『救急活動衣服申請書』と書かれていた。

 

「……なぁにこれ?」

「ヒーローコスチュームの個人使用登録申請書類ですね! 今日昼から出来上がったのを高校に運び込むので!」

「おお! できたの!?」

 

 発目の言葉に飛び上がる程喜ぶ芦戸だが、「まぁ適当ですけどね!」との言葉に撃沈する。

 

「どうして……」

「だって三奈さんと人使さんの個性、アイテム作っててつまんないですもん。三奈さんは何を作るにしても耐食性を第一に考えないといけないし、頭から爪先まで全身使って戦うから武器も持たせられないし、そーなってくるともう服くらいしか作れませんし。人使さんのはまぁ、マスクはそこそこ面白かったですけど後はなんの変哲も無いありふれたものですし」

「それは出久も同じだろ?マスクと銃の違いはあっても」

「人使さん、自分が出久さんと同じレベルで扱われてると思ってるんですか?」

「思ってません」

 

 発目にとって、緑谷の武器やコスチュームを作るのはとても面白く、充実した時間だ。緑谷が好きだから。

 心操や芦戸の武器、コスチュームを作るのは面倒臭くつまらない時間だ。彼等の事は割とどうでもいいから。

 

「まぁ、お願いしますねー! それないと搬入できないんで!」

 

 そう言いスタコラ去っていく桃色を見送り、紫色とピンク色はとりあえず溜息を一つ吐いた。

 

「……書くかァ」

「だね……」

「ッシ、お先! 俺は早くに出来上がってたからそれもう入学書類と一緒に出したんだよな……にしても、あと四日かぁ」

「なんかこう……感慨深いよな」

「アタシ先にシャワー浴びるから、それはリビングのテーブルに置いといて」

「あいよ」

 

 洗面所からそそくさと退散した二人は、向いにある廊下の窓を見て、家の前に何やらトラックが来ている事に気が付いた。

 

「……何だ?」

「荷物とか頼んでねえよな?」

 

 二人で首を傾げつつそれを眺めていると、やはりこの家への荷物だったらしく、玄関のインターホンが鳴らされる。

 

「俺が行くわ。お前はそれ書いとけよ」

「助かる」

 

 未だ湿り気のある髪をタオルでガサガサ掻き混ぜながら玄関に向かう切島を横目に心操はリビングに入り、芦戸の分の書類の上に文鎮代わりの箸立てを置く。

 

 そして、誰かが置きっぱなしにしていたボールペンを取り、

 

「心操ー! 助けてくれェェ!!」

「えぇ……?」

 

 その状態でガクッと肩を落とした。

 

 

 

 ……発目邸において、各家事は六人で分担されている。

 

 料理と発目の世話(生贄)、ついでに家賃、食費、水道、光熱費の徴収は緑谷固定。

 

 そして、料理補佐(買い出しや下処理、食器洗いの手伝い)、共用部の清掃、衣服の洗濯、ゴミ出しやらなんやらの雑務を心操、爆豪、切島、芦戸の四人でローテーションし、最後に発目は(主に自分で壊した)家屋、家具の修繕となっている。

 

 発目殆ど何もやってねーじゃん! と思われる方も多いだろうが、何度目かになるが彼女は家主である。他五人とは立場が違うのだ。

 

 そんな訳で、現在緑谷と爆豪(今週の料理補佐担当)は昼食の準備をしていた。

 六人分の食事を作るのはそこそこ大変であるが、そもそも二人前三人前を平らげるような人間火力発電所が何人も居るので、その量は平均的な六人前からは程遠い。

 

 そんな環境において、緑谷はここに越してから二日目には小鍋を戸棚の奥に仕舞った。そんな彼は今も寸胴鍋で野菜ぶち込みスープを作っている所である。

 

「ん、こっちも入れろ」

「はーい。荷物ってなんだろうね?」

 

 爆豪が短冊切りにした二玉分のキャベツをドッサリと鍋に入れ、セロリやら玉ねぎやらこま肉やらベーコンやらなんやらと一緒に煮込む緑谷。塩コショウと顆粒コンソメ、ついでに鷹の爪とローリエの葉を入れてひたすら混ぜ続ける。

 これこそが緑谷特製の野菜たっぷりコンソメ風何味かよく分からんけどそこそこうまい味スープである。

 

「別にかっちゃんも何か頼んだりしてないでしょ?」

「してねえ」

「うーん、先生かな……?」

 

 そう首を傾げる緑谷だったが、心操が台所に入ってきたことでそちらに目を向ける。

 

「あ、悪い出久、勝己。ちょっと荷物運ぶの手伝ってくれ」

「そんなに大きな荷物なの?」

「あぁ……っつーか完璧に忘れてたわ」

「忘れてただぁ?」

 

 コンロの火を止めて、玄関前に向かう三人。

 

 そこで、彼等はようやっと思い出した。

 

 そして、その思い出した事象に爆豪は悪態をつき、緑谷は膝に手を当てハァーっと溜息を吐いた。

 

「……普通こんなモン送ってくるかあのクソメガネ……」

「…………あ゛ぁ…………完ッ璧に忘れてた……!」

 

 トラックの上には、鉄鎖の巻き付いた切島のサンドバッグ(鉄筋コンクリート製)がドカンと鎮座していた。元のものは度重なる打撃により中の鉄骨が見えていたのだが、目の前のものを見る限りでは新品を送ってくれたようだった。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「……取り敢えず、運ぼっか」

「うーい」

 

 顔に『これ送り先間違いとかじゃないんすか?』と書いてある配達人に苦笑を返しつつ受け取りサインを付け、信じられないものを見たような顔をする彼の前で四人はそれぞれいい感じの場所の鎖を持つ。

 

「エ……大丈夫ですか? 行けます?」

「あ、はい。鍛えてますんで……かっちゃーん、お願い」

「チッ、テメェら三で上げんぞ……一、二のォ……三ッ!!」

 

 ゴ……ンッ、と、トラックの荷台が鈍い音を立てて揺れる。

 

 どこから見ても中学生くらいで、引き締まってはいるが筋肉も(パット見)そんなに付いていない四人組がコンクリ柱を持ち上げた事に、配達人が恐ろしいものを見た、という顔をする。

 

「段差あるから気をつけろよ!」

「勝己、ゆっくり降りてくれよ」

「分かっとるわ! 馬鹿にしてんのか!」

 

 鉄とコンクリートの塊が家の中に消えていくのを呆然と見つめていた配達人は、魂の抜けたような顔で「……ありあとあーす」と礼をし、帰っていった。

 

 

 

 …………風呂上がりの芦戸が一瞬だけ庭に顔を出し、見たくないものを見てしまったという顔で首を引っ込めてから数十分後、無免達はリビングでおにぎりをかっ喰らっていた。

 

 十合炊きの炊飯器でガッツリと炊き上げた白米に軽く塩味を付け、引っ越しが一段落した時にやった鍋の出汁昆布を佃煮にしたものや、冷蔵庫にちょっとだけ余っていた挽き肉を軽く炒めた物、鰹節に醤油かけたやつなど、若干しょぼいおかずを詰め込んで大きめに握り込んだそれを、モッシャモッシャと争うように……まぁいつも通りに口に詰め込んでいる。

 

「……で?」

 

 そんな中で、ごく僅かな(と言っても人数分……六つはあるのだが)豪華具材、明太子を一つでも多く当てようと(みんなで分ければ確実に一人一個食べられるのに、それをせずより多い利益を求めて争う、こういった精神の動きを囚人のジレンマと呼ぶ)高速おにぎりバキュームと化している連中の中、運良く一個目で明太子を引いていた心操が声を上げる。

 

「どーすんだよあのコンクリ。あんなモン部屋に運び込めねえぞ」

 

 会話の内容は勿論、庭にドデンと横たわっているコンクリの柱だ。

 

 そう、かつて切島の部屋にアレを置いておけたのは、あくまで切島の部屋が研究所として作られた部屋の一室であったからだ。

 つまり、大型の機械や部品を出し入れする為に元々窓やドアが広く設計されていたから。あくまで普通の住宅用の部屋でしかない今の自室ではコンクリ柱はそもそも入れられない。

 

「雨ざらし……ってのも可哀想だもんなぁ」

「可哀想てお前。可哀想て」

 

 デパートの立体駐車場とかのむき出しコンクリ柱を見ると無性に殴りたくなる程度にはコンクリ柱に対し愛着を抱いている切島は頭を捻るが、無免の切り込み隊長として日頃からクレバーさの欠片も無い脳死突撃を繰り返している彼の頭脳では良い案は出てこない。ついでに無免の参謀役のドン引きした声も聞こえない。

 

「って言っても、フツーに雨ざらししかないでしょー? ねぇ明ちゃん?」

「加工場と研究スペースに入れたら即爆破します!」

 

 無免の紅一点にして元気印と無免の自爆装置もその答えは変わらないようで、切島は肩を落とすが、その間に切島の分の明太おにぎりも食した無免の最大火力がボソリと呟く。

 

「ガッコに置いていいか、聞くだけ聞いてみりゃいいんじゃねえのか」

「ああ、それ良いかもね! 雄英敷地広いしさ!」

 

 爆豪の言葉に賛同した無免の……無免の……無免の不憫枠が笑顔で手を叩き、二つ目だった明太おにぎりを発目に半分譲り渡す。

 切島と同じく明太おにぎりからあぶれた芦戸が泣きそうな顔でそれを見つめていた。

 

「あんむ……それじゃ、今から行きまふし、聞いてきますよ」

 

 おにぎりを頬張りながらそう言う発目だが、勿論それは同行する緑谷が、という意味である。

 

「ワリィ、頼めるか、緑谷!」

「うん! 任せといてよ!」

 

 

 

 ………………尚、この一時間後に雄英に『親類が善意で贈ってくれたサンドバッグが賃貸部屋に入らなかったので、雄英に寄贈したい。許可が貰えれば搬入は生徒側で行う』という旨の申請書類が(ヒーローではなく)事務員を通して提出され、特に審議されることも無く通されてしまうのだが、それはまだ未来のお話である。




まぁ、無免ヒーローだし?高校編一話目はこれで良いかなってね!

これからもダラダラ投稿していくからね!
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