無免ヒーローの日常   作:新梁

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原作の相澤先生が大体常に男前な言動をしているせいで、初登場時の芋虫が頭の中をよぎりどうしてもギャグ感が抜けない……この事を作者は『きなこに塩ちょっと入れたらめっちゃ甘く感じる理論』と名付けていますと書こうとしたけど男前な塩部分の方が多いんだよな……

今回のあらすじ

発目砲、着弾!

ソーシローさん、リア10爆発46さん、Fluoroidさん、コダマさん、誤字報告ありがとうございます。


第五十四話。無個性テスト。

 時は遡り、入学式前日夕方。

 

 

 

「やぁ、相澤君」

「オールマイトさん」

 

 翌日に入学式を控え、少しばかり慌ただしい雰囲気の職員室内で、そんな空気を物ともせずに辛気臭い顔でキーボードを叩いていた相澤の机に、痩せ細った状態のオールマイトがコーヒーを置く。

 

「あぁ……気を遣って頂いて」

「気を遣うのは新人の努めさ!」

 

 快活に笑いながらそう言ったオールマイトは、自分の分のコーヒーを飲みつつもかれこれ数時間液晶に向かいっぱなしの相澤を休憩させる為に、軽い話題を提供する。

 

「明日、君のA組は入学式に出ないんだってね」

「ええ。入学式など時間の無駄です。単位も無いし」

「ナイス一刀両断!」

 

 HAHAHA! と大仰に笑うオールマイトに若干辟易した表情を見せつつも、相澤は前言を撤回しなかった。

 

「入学式で述べられる偉い人の無駄に長ったらしい挨拶を、一週間後にどれだけの生徒が覚えていますか」

「皆無だろうね! 少なくとも私は覚えていない!」

 

 こちらもスッパリ両断するオールマイトに軽く頷き、コーヒーを呷る相澤。

 

「俺もです。ならそんなモン出なくていい。保護者の出席もありませんし、ガイダンスだって入学のしおり以上の事は話さないんだから、必要ないでしょう」

「ガイダンスまですっ飛ばすのかい……?」

「雄英の良いところは生徒自身の思う通りの勉強、ひいては教師自身の思う通りの教育がやれる所ですよ、オールマイト」

「ふむ……」

 

 メモっとこ、と些か印象に無い勤勉さを見せるオールマイトに、それを見て分かりにくい顔で笑みを浮かべる相澤。

 

「それに、校舎前の一番近いグラウンドが使えるのは一年でこの日ぐらいですからね」

「? ……何故だい?」

「ヒーロー科は音も振動も派手になるし、グラウンドの損傷も多くなりますから、基本校舎から離れたグラウンドの使用許可しか降りないんですよ。オールマイトだってこの学校にいた時、普通の体育はともかくヒロ基(ヒーロー基礎学)はバス移動のイメージがあるんじゃないですか?」

 

 そう。

 

 ヒーロー科は市街地や工業地帯を模したフィールドを普段の屋外授業で使っている。

 そういうのがヒーロー科の特別扱いとして他科との軋轢にもなっているが、ならば普通のグラウンドを使わせればそれこそ軋轢なんてレベルではない問題が噴出する。

 

 もしもヒーロー科が校舎に近い一般グラウンドを使うような事があれば、その他のクラスでは授業中に地面が揺れ、窓の外を見れば雷が閃き、夏でも冬でも変らず大火災並の業火が教室をジリジリと熱し、整地が間に合わなければヒーロー科の後に授業をするクラスはボコボコの土で走ったり飛んだり投げたりする事となる。

 

「あー……」

 

 その事を聞いたオールマイトはコーヒーのカップを傾けつつ、納得の声を漏らした。

 

 思うのは自身の個性……確かに、戦闘の余波で教室の窓ガラスの十枚や二十枚、簡単に吹き飛ぶだろう。

 

「入学式が行われるホールはグラウンドから遠く、その上防音対策も施されてます。そして今日は全学年始業式とガイダンスの後に校舎横グラウンドは使いません……二、三年のヒーロー科は授業自体はやるそうですけど」

「フム……で、ガイダンスも書面で済ませてクラス自体の親睦を深める時間を増やそう、と!」

「まぁ、初日から名前もよく知らん連中とバスに載せられて……となると緊張も出るでしょうし、行き帰りで無駄な時間を食いますから。明日の生徒の拘束時間は必要最低限にしたいんですよ」

 

 よく考えてるなぁ! とメモを取る手を加速させるオールマイトに、相澤は気恥ずかしそうな顔をしながら目を逸らして頬を掻いた。

 

 基本的にテストというのは簡単なコミュニケーションの話題となり得る。

 この教科で誰が何点取ったとか、これはこうした方がいいとか。あまり面識の無い者同士でも互いを意識し交流するには中々に適したツールである。

 

 相澤は個性テストの場を互いの個性を含めた自己紹介の場とし、ガイダンス等を省いて午前中の間に終わるであろうソレを今日の全過程とする事で、その後の自由時間により互いの事を知るようにと考えたのだ。

 

 これならばある程度口下手な生徒であっても自分が何をできるのかは何となくでも伝える事ができるし、会話も天気デッキよりは弾ませやすいだろう。このヒーロー科に来るのだから他人の個性には興味もあるだろうし。

 

 尚、それを横の席で聞いていたブラドキングはウエェ、と正気を疑うような顔をしていた。

 

「相澤……考えがあるのは分かるんだが、それでも一生に一度の入学式だぞ……?」

「もし親御さんの入場が許可されていれば考慮したけど、ココの式は生徒と教師だけだからな…………それと、校長の無駄に長い話なんざ聞いてられん。避けられるなら避けるべきだ」

「お前それが本音か!」

 

 それ()本音である。

 

 因みに、ハイスペックの個性を持ち他人の言う言葉の裏の裏まで正確に推測できる雄英高校校長の根津は、自身の演説は教養とウィットに富んだ聞くべき価値のある素晴らしい演説だと思いこんでいるので、相澤のこの本音には一切気付かなかった。

 

 

 

 ……と、言った具合に、相澤は相澤で考えて考えて、考え抜いた結果が、

 

「個性把握……テストォ!?」

 

 入学初日からの抜き打ちテストであったのだ。

 

 グラウンドに、ヒーロー科A組総勢二十人の声が響く。

 その声に、相澤は「そう」とだけ短く呟いた。

 

 頭の中ではちゃんと色々考えているのに、立場や状況からどうしても必要でなければそれを口にしないのはこの教師の明確な欠点であろう。

 勿論、生徒の自身に対する印象向上等は『不要』の部類に入る。

 

「入学式は!? ガイダンスは!?」

「ヒーロー目指すんならそんな悠長な行事出てる暇無いよ」

 

 麗日の困惑混じりの言葉を(もっと理由はあるのに)一言でバッサリと切り捨てた相澤は、生徒が来る前に用意していた様々な器具からボールを一つ取り出し、手元の端末を操作する。

 

「中学の時やったろ。個性禁止の身体能力テスト」

 

 ピピ、とボールが光り、相澤はそれを確認してから生徒達の方に顔を向け直す。

 

「国は未だ前時代的な平均データを作ってる。文科省の怠慢だよ。合理的じゃない……入試一位の……」

 

 相澤の目が緑谷と爆豪の間を彷徨い、そして爆豪に固定される。

 

「爆豪、中学の頃ソフトボール投げ何メートルだった」

「七十九」

 

 七十、九……!? と戦慄する生徒達を無視し、相澤は爆豪にボールを渡す。

 

「個性使ってやってみ。ルールは円から出ないだけ。思いっきりな」

「思いっきり……!」

「はよ」

 

 相澤に急かされ、ソフトボール投げ(高校一年生男子平均は二十五メートル前後である……が、これは『ハンドボール投げ』の成績なのであまり比較はできない)の円の中に入る爆豪。

 

 爆豪は、両手の指をそれぞれ一回ずつパキ、パキ、と鳴らす。

 ……それは、爆破のリミッター解除(全力全開)の合図。

 

 爆豪以外の無免ヒーロー達の思いはこの瞬間、完全に一致した……殺す気だ! 何をかは知らないけど何かを確実に殺す気だ!! 

 

 緑谷(八十三メートル)と心操(五十一メートル)はクラスメイトの方を振り向き、「皆しゃがんで! 体勢低く!!」「お前ら全員耳塞げ!!!」と叫ぶ。相澤は既に自前の耳栓を耳に挿し、首に巻いていた帯を束ね、顔を守るように掲げていた。

 

 二人の言葉に即座に反応した切島(四十六メートル)と芦戸(三十四メートル)が地面にベッタリと身体を伏せて耳を塞ぎ、その二人に触発された他生徒も反射的に膝を曲げて体勢を低くした。

 

 そんな熊に出会ったときの対処法みたいな反応をされている爆豪はというと、両掌で包み込むようにボールを持ち、地面から四十五度程度の角度で両腕を固定し、ガリガリと地面に窪みを作って踏ん張る用意を行っていた。

 

 それを地面に伏せながら見ていた緑谷は、小さな声で「艦砲射撃だぁ……!」と嘆くように呟いていた。

 

「迫撃砲みてェに……球の半分包むように爆風をォ……!!」

 

 緑谷が諦めたように目を瞑り。

 

 心操が胸で十字を切りながら「南無三」と呟くという祈ってるんだか喧嘩売ってるんだか分からない行為をし。

 

 校舎側のグラウンドからかなり遠くの方でお馴染みの金色に輝く瞳の少女がどっかから(パク)ってきた台車をキックボード代わりにしながらその光景を見て「おやおやっ!?」と叫んだ次の瞬間。

 

「死に晒せェ!!!」

 

 音の前に、衝撃が来た。

 

 そう錯覚するほどの、大気を焼き尽くすような爆風がグラウンドを揺らす。

 

 低姿勢が甘かった何人かが衝撃と爆風に煽られて地面を転がり、全員に平等に砂埃が襲いかかる。

 

 およそ十秒。

 

 爆豪が白煙を立ち上らせる掌をパンパンと叩いてからひっくり返っている生徒集団の中に戻るまで、誰も口をきかなかった。

 

 スポ、と両耳から耳栓を抜いた相澤は、手元の端末に表示された数値……『1886.8m』を転がっている全員に見せつけた。

 

「まず、自分の最大限を知る。それが…………」

 

 生徒全員を見渡すようにした相澤の、その視界の端で緑谷が凄まじい形相で起き上がり、獣のような瞬発力で自分に向かって飛び掛かって来たのを、相澤は不意打ちにも関わらず辛うじて認識できた。

 

 だが、認識できただけ。

 完全に生徒に接する心持ちでいた相澤には、唐突に突撃してくる緑谷に対処するだけの余裕は無かった。

 

 しかし、相澤の驚愕は、結果的に言えば取り越し苦労である。

 

 何故なら、緑谷は相澤に向かって突進した訳では無いからだ。

 

「ッ! 何を……!?」

「ッそれがヒーローの素地を形成する合理的手段という訳ですか!!!! 流石は国内イチのヒーロー生産工場と名高い雄英高校!!! 初日から全力疾走じゃないですかァ!!! アハハハハ!!」

 

 …………何故なら、緑谷は台車キックボードで加速するだけ加速して、後はノンブレーキで相澤(教師)に突っ込もうとしていた発目を身を挺して止めただけなのだから。

 

「あ! 申し遅れました私は発目明と申します! こちらの出久さんを技術、装備面で支えるサポーターであり婚約者です! 貴方が出久さんの担任の方ですね! あっ名前は知っているので言わなくて結構です! 以降よしなにお願いします! ところで首のそれって武器ですか!? 武器ですよね! 私繊維系の技術に疎いんですけどそれどういった素材でどういった用途なんですかね!?」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!! 本当にホントォーッにすみません! すぐに元の所に返してきますんで! 悪い子じゃないんです! 頭がおかしいだけなんです!」

 

 中破し、横転した台車がカラカラと音を立てて回っている。

 

 緑谷に受け止められた(尚一般的には『緑谷を轢いた』と言う方が正しいレベルの衝突であった)際、地面にぶつからないように確保された発目が緑谷に抱っこされながら相澤に自己紹介を行う。

 

 それを見ていた生徒全員(除三名)がポカンとしている中、顔を微かにヒクつかせた相澤が頭を掻き、発目を指差す。

 

「……発目。お前はH組だろ。入学式は、ガイダンスはどうした」

一流サポーター目指すんならそんな悠長な行事出てる暇無いですねぇ!!!! 

「ごめんなさい! ごめんなさい! 本当に申し訳無いです! もう本当に、ちゃんと言って! 聞かせますから!」

 

 先程自分が言った台詞を聞いてたのかというレベルで*1完璧に返してきた彼女に、これ以上付き合っていられるかと 強行手段に出る相澤。

 

 尚も何やらペラペラと喋っている発目を無視し、学校用の携帯を取り出して内線番号をコール。

 

『……はいモシモシ』

「パワーローダーか? 発目コッチ来てるぞ。引き取りに来い」

『あ、わりーな! 今から登壇なんだわ!』

「は?」

 

 パワーローダーの登壇など、そんな予定は無い。職員会議に出席している相澤は当然それを知っているし、パワーローダーは『相澤がそれを知っている事』を知っている。つまり、タダの煽りである。

 

 この時の相澤先生の顔は本気で怖かった。間近で見ていた緑谷は後にそう語る。

 

『まぁ入学式は単位無いし? なんならお前んトコもクラスごとぶっちぎってるし? そっち世話役の緑谷居るし? お前に預けたほうがホラ、合理的っていうか?』

「…………は?」

『ま、お前の予定だと半日で終わるだろ? 取り敢えず今日だけ頼むわ! じゃあな!』

 

 ブッ。

 

 

 

 

 …………因果応報等と言うが、こんなにもここ数日の自分の行いが徹底的に帰ってくるものなのだろうか? 

 相澤は、今の自分の気持ちをどう表現すれば良いのか分からなかった。驚き、嘆き、怒り、どれも合っていて、どれも間違っている気がしてならなかった。

 

 だからとりあえず。

 

 

「………………緑谷」

「ヒッ、は、ハイ!」

 

 相澤は、自分自身の喉から絞り出された地獄のような低音に自分でも驚いた。

 

「発目がちょっとでも授業を邪魔したら、退学にするからな」

「は、はい! すみません! ありがとうございます! 本当にすみませんッ!!」

 

 彼は、一刻も早くこの授業を終わらせてしまう事にした。

 

 

 

 

 本来……相澤の想定していた流れならば、生徒達がこのテストを面白そうだとかなんとか言い、彼がその発言にそこそこキレて退学を仄めかすという展開がある筈だったのだが、爆豪の圧倒的パワーと発目明という特大ハリケーンの直撃により生徒達はポカンと静まり返っており、そのような発言は出てきそうに無い。

 

 だが、彼は用意周到な男である。無免達の担任になった時点で物事は自らの思うようには進まない事を半ば確信していた。

 

「さてと、切り替えていこう」

 

 発目は暴走して広範囲の他人に迷惑をかけるだけであり、意図的に誰かの行動を妨害する事は滅多に無い。

 側に緑谷が居るのも相まって今はニコニコと大人しく笑っている彼女を一瞥し、相澤はそう言った。その言葉一つでどれだけの人間が切り替えられるのだろうか? 

 

「さて入学早々で悪いが、このテストで成績下位の者にはプレゼントを用意している」

 

 そう言い放った彼は、生徒達に見えるように三枚の書類を出す。

 

「えっ、これって…………!?」

「そう、見て分かる通りの『退学通知』だ」

 

 三枚の書類には同じ文面が書かれており、一番上には彼の言った通り『退学通知届』の文字が印刷されていた。

 

「ちょ、ちょっと待って下さいよ!」

 

 ざわめく生徒の中で、太い尻尾を持つ少年が抗議するが、相澤はそちらに視線を向けすらしない。

 

「待たない。成績下限を割った者の下位三名を『見込み無し』として除籍処分とする事にする」

「そんな、入学初日ですよ!? いや、入学初日じゃなくてもそんなの横暴すぎです!」

 

 横暴……麗日のその言葉を聞き、相澤は我が意を得たりとばかりに凶悪な笑みを浮かべる。

 

 その笑みに気圧された生徒達を見回し、彼は脅すように、低い声で呟いた。

 

「横暴……ね。お前らそれ、自分が死んだ時にも同じ事言うのか?」

「え……?」

 

 唐突に突き付けられた『死』という言葉に全員が静まる。

 

 それを見て尚言葉を止めない相澤は、ある一つのデータを引き合いに出す。

 

「二十人中三人……つまり十五パーセント。これがなんの数字か分かるか?」

 

 答える者は居ない。それを確認し、彼は話を続ける。

 

「これは、ヒーローとして華やかなデビューをしてから一年以内に引退、もしくは殉職する(死ぬ)人間の割合だ」

「……!?」

 

 ザワ、と動揺を見せる生徒達に、相澤は更に言葉を畳み掛ける。

 

「賢明なる君らなら、もう俺の言いたい事はよく分かっているとは思うが、それでも敢えてもう一度言わせて貰う……君ら、ヒーローになった後で事故に、犯罪に、災害にぶち当たってこの『十五パーセント』に入ってしまった時、今と同じ事を言うのかい? 『こんなの横暴だ、理不尽だ』って、な」

「…………」

 

 誰も。誰一人……相澤の言葉に答えられなかった。

 

 そんな静寂の中、無精髭の生えた顎をポリポリと掻きながら、彼はふてぶてしく笑う。

 

「……君等は俺の事を厳しいと思うかもしれないが、むしろこれは『優しさ』だぞ? 二年生になって、三年生になって……もしくは向いてないのにプロになって、それから文字通り死ぬ程痛い目を見てこの業界から叩き出される位なら、今日この場でヒーローは諦めて来年から普通の高校に行くなり、働きに出るなりした方が年単位でのロスがない分余程合理的だ。若い内の一年は貴重だからな」

 

 相澤の言葉はどこまでも続く。生徒を追い詰める。苦難を与える。精神を痛めつける…………まるで、『魂』を鍛えるように。

 

「更に言わせて貰うなら、こういう考えは決して俺だけじゃない……放課後にマックで談笑とか、そういう『よくある高校生活』やりたかったならお生憎。これから三年間、俺達雄英ヒーロー科教師陣は全身全霊で君等に『苦難』を与え続ける」

 

 相澤の気迫に固まり、顔を強張らせている……その中で一人コソコソと体力テスト測定器具と自身の持ち歩いているPCをリンクさせている発目を一睨みしてから(サムズアップを返された)、相澤は最後に発破の一言を放つ。

 

「『真の英雄とは人生の不幸を乗り越えていく者』……お前ら全員、死ぬ気で乗り越えて見せろ。『Plus ultra』さ」

 

 ここにいる者全員(除一名)、本気の本気でヒーローを目指している者達……そして、その上で雄英高校に憧れた者達だ。

 

 雄英に憧れ、雄英に入ったならば入学初日であろうと心は立派な雄英生。

 

『………………ッッはい!!!』

 

 ここまで言われて奮い立たない者等一人も居ない。

 

「よし、分かったら五十メートル走からだ。呼んだら来る事。それと発目、せめてデータの流出はさせるなよ」

「ロンモチですよ!」

 

 声の調子を変えた相澤が背を向けた事で、生徒達の緊張が解け、各々が各々なりの反応を始める。

 

(洗礼……と言うには重すぎる。これが、最高峰……やるしかない!)

 

 決意を固める者。

 

「ウヒー、マジでやんの? 俺電気系だからマジ不利じゃね〜!? な! そ~思わね?」

「は? 知らんし……」

「私も私も〜! どうしよ〜! 顔色悪くなってない!? ほら見て!? どう!?」

「いや、えっと…………見えない」

 

 緊張しつつもあくまで自分のスタイルを崩さない者。

 

「〜〜〜〜ッ!」

「……既に土壇場……!」

 

 緊張と意欲にその身を武者震いさせる者。

 

「……『成績下限を割った者の』下位三名……ですか……」

「……百ちゃんも気になったかしら? 相澤先生の言葉」

「ええ……このテスト、恐らく……」

 

 相澤の言葉の『意味』を、ある程度正確に察していた者。

 

「勝己、どんなモン?」

「もーちょいやれる」

「ウヒェー、爆豪まじヤベェ……」

「バクゴーさぁ、もうちょい周りに気ぃ遣いなよ! 見て! 髪砂まみれ! ねぇ!」

「知るかカス」

 

 緊張感とか、そのへんの調整スイッチが吹っ飛んでる者。

 

「……あのー先生? 僕ってほら……『アレ』なんですけど、どうしたら……」

「『やります』以外言う事あるか?」

「無いですハイ」

「出久さーん、ちょっと手伝ってくれませんかー?」

「………………呼んでるぞ。行けよホラ」

「本当に申し訳ありませんッッ!!!」

 

 このテスト、色々な意味で既にだいぶ絶体絶命な者。

 

 

 

 それぞれの魂が燃え上がり、一つの目的の為に動き始める。

 

 

 

 

 個性把握テスト、開始。

 

 

 

 

 

 

 

 第一種目。五十メートル走。

 

 

 

 

 

「せんせぇー」

「伸ばすな。何だ」

 

 出席番号順で呼び出された芦戸は、自身の靴を指差した。

 

「靴脱いで走っていいですか? あと私のやり方地面ボコボコになっちゃうと思うんですけど」

「レーンを変えるから問題無いよ。さっきも言ったけど記録さえ出れば基本何してもいい」

「やったー! せんせーありがとー!」

「ありがとうも何もそういうテストなんだよ。あと二回目言わすつもりか?」

「イイエ先生! 百ちゃーん! ちょっと靴預かっててー!」

 

 芦戸は足の裏に強酸を生成。それをスパイク代わりにする事で中学の記録を上回る事に成功。

 

 そしてそれを見た切島もまた足の指をスパイクとする事で記録を更新した。

 

「ヘイヘイヘーイ!!」

「ん? おぉ!」

「流石だな」

「ヘヘッ、まぁな!」

 

 先に走り終わっていた芦戸と次の次に走る心操のハイタッチに応じた切島は、ふと辺りを見回し……恐ろしく興奮した様子で八百万に襲いかかろうとする発目を抱き止めている緑谷を発見して切ない顔になった。

 可哀想に、八百万は発目の余りの剣幕に涙目になっている。まぁ緑谷も涙目なのだが。

 

「……あの子は何の個性なんだ?」

「『創造』だって。どんなものでも組成と構造が分かってれば作れるらしいよ」

 

 それを聞いた切島は黙って空を見上げた。いい天気だった。

 

「ちょっと! ちょっとでいいんで! 愛の検体提供にご協力をォ! とりあえずレアメタル類を! あ、基盤とかって作れます!? ちょうど切らしてるダイオードがあるんですよ! PCとかはOSが無いと動かないですよね!? あ、木材って出せるんですか!? ガソリンをいちいち買いに行くのって面倒なんですよね! そういえば純水とか出せます!? 苛性液体とかを出したら肌に影響あるんですか!? ねぇ! ねぇねぇねぇねぇ!!!!」

「待ってッ、ほんと! 僕の居場所無くなる! お願いだから!!」

「なっ……何ですの……!?」

 

 切島が走る前は八百万のポジションに居たのは上鳴だった。

 紛う事無き変人ながらも紛う事無き絶世の美人である発目に迫られ、戸惑いつつも満更ではない表情で応対していた。

 そして、発目の婚約者発言により複数人の男女に囲まれつつそれを近くで見守っていた緑谷もまた、彼女が他人と積極的に関わろうとしている事が嬉しいといった風にニコニコと笑っていた。

 

 そう、切島が走る前……もっと言えば、切島の前の組の上鳴が走るまでは平和だったのだ。そこには笑顔があったのだ。

 

 それに比べ今はどうか。

 

 暴走する発目を止める緑谷の周りには人が居らず、最早そこには笑顔の欠片も無い。

 

「次。轟、葉隠」

 

 そんな事を思っている内に、遂に緑谷の番が近付いてくる。

 

「…………はぁぁぁぁぁ」

「しゃぁねえよなぁ……あぁ行きたくねえ」

「行くしかねえよ」

 

 芦戸と切島、そして無難に走り終わっていた心操は悲しみの溜息を吐きながら緑谷の方に駆け寄った。

 

 この場で緑谷に次いで発目を止める能力に長けた爆豪は緑谷と共に走るし、心操は発目の憎たらしい程優秀すぎる頭脳を騙して返事をさせる(洗脳を掛ける)事など無理に近いので、必然完封はできない。

 

 ここは緑谷が二度走る間、結田府組三人で発目の強行を身を挺して止めなければいけない場面である。

 

 ……何故なら、自分達はヒーローなのだから────

 

 

 

「先生、少し良いですか?」

「何だ?」

「あ、いや。かっちゃんの横で走りたくないんですけど……下手したらコースアウトしますし」

「……まぁ、それもそうか。じゃあ爆豪先やれ」

 

 相澤の許可を貰い、一人ずつ走る事になった二人。遠くの方から切島の断末魔が聞こえた気がしたが、今だけは勘弁してと緑谷は心の中で頭を下げた。

 

「爆豪、もうちょい音を小さくできないのか」

「無理」

 

 そんな言葉の後に、先程と同じような壮絶な爆音を響かせて身体を射出し、爆破一回で二秒三七というとんでも記録を生み出した。

 

「次、緑谷」

「はい」

 

 緑谷はごく普通のクラウチングスタートの姿勢を取る。

 

 が、相澤は見た。

 

(……裸足?)

 

 そう。緑谷は靴を脱いで、裸足となっていた。

 切島や芦戸等、個性に関する事柄でそうした方が早いならばまだ分かるのだが、緑谷はそうではない……何をするのか若干不安になった相澤であるが、爆豪のように周囲に被害は出ないだろうと思いピストルを掲げる。

 

 パン! と空砲が鳴った瞬間、緑谷は地面を蹴り前方に飛ぶ。

 

「……おいおい」

 

 その次の瞬間、相澤はつい呆れたような声を出した。

 

 緑谷はクラウチングスタートの超前傾姿勢のまま地面に手を付き、相応の硬さがある筈の砂地に指を食い込ませ、腕の力を使ってさらなる加速を行った。

 そして、腕の力により少し浮き上がった体勢で脚をもう一度曲げ、再び地面を強く蹴る。

 

 …………つまり、緑谷は『四足歩行』で五十メートルを走り切ったのだ。

 

 緑谷出久……記録、四秒九八。

 

 

 

 

 

「三人共大丈……し、死んでる……!」

「…………お、オォ……お帰り……」

「生きてる……」

 

 走り終わって帰ってきた緑谷が見たのは暴走する発目を止めようとしていとも簡単に一蹴され地に伏した三人の英雄と、八百万に携帯の半分位の大きさの鉄や石、人工木材等の各種試料(何でも自身の個性の幅を知る時に作った事があったらしい)を貰うと先程までの狂乱ぶりが嘘のように大人しくなった発目であった。

 

「えっと、八百万さんだっけ? ゴメンね、明ちゃんのワガママで……」

「い、いえ……あれで満足頂けたなら良かったですわ。あの程度ならテストに影響も出ませんので」

「そっかぁ。良かった……」

 

 本当に安心したように胸を撫で下ろす緑谷が「あんまり迷惑かけちゃ駄目だからね」と発目を叱る。

 

 しかしその叱り方が余りに優しいもの(メっ! て感じ)だったので、八百万はついつい吹き出してしまった。

 

「っふふ、緑谷さんは発目さんにとてもお優しいのですね?」

「え? ……あ、あぁ! もうちょっとキツく叱った方が良いよね! ごめんね!」

 

 ワタワタと慌てて頭を下げる緑谷に「気にしないで下さいな」と八百万が返す。そんな二人の元に、大柄で眼鏡を掛けた男子……飯田が近寄ってくる。

 

「やぁ! 君はあの試験の時一緒だった緑谷君だな! 名前は切島君から聞いたよ! 俺は飯田天哉、宜しく!」

「あ、ああ! うん、よろしく!」

 

 差し出された手を握り、軽く振った二人。

 自己紹介が終わった後で、飯田は悔しげに首を振った。

 

「しかし俺は脚の速さには自身があったんだが、とんぬら君は凄まじいな……五十メートル走で負けるとは、まだまだ未熟だよ俺は!」

「いやぁ……かっちゃんは色々おかしいからね。あんまり気にしない方がいいよ」

 

 ニコニコ笑いながら飯田を励ます緑谷に、八百万は「爆豪さんもですけれど、先程の緑谷さんにも驚きましたわ」と感嘆混じり呆れ混じりの言葉を発する。

 

 次行くぞーという担任の声に各々が返事をし、ゾロゾロと付いていく。その流れに遅れないように緑谷達は慌ててそれぞれ足元の三人を引き起こした。

 

「ンッシ! サンキュー飯田!」

「ああ、このくらいはお安いご用さ!」

「ヤオモモサンキュー!」

「いえ! 手を貸しただけですから!」

「ウウッ……ヤオモモはええ子じゃのう〜! アタシ感動しちゃったよぉ〜!」

「そんな、大げさですわ……え、泣いてますの!?」

 

 飯田が切島の身体を持ち上げ、八百万が芦戸に手を貸し、芦戸はそのあまりの普通の女の子な反応に涙する*2

 その中で、緑谷の手を借りた心操が服の砂埃をパスパスと叩きながら先程の競技について疑問を投げかけた。

 

「あんがとさん、所でさ。出久何でさっき裸足で走ったんだよ」

「え? あぁ……あれは足の握力で地面をしっかり捕まえるためだよ。地面を蹴る力が強くなり過ぎるから、そうしないとどうしても跳んじゃうんだよね」

足の握力

 

 奇妙奇天烈なワードを素直に受け取れない心操が「そんなんある?」という顔をする中、素直に受け取った飯田が「それは凄いな!」と驚愕する。

 

「つまり君は足と手の両方、それも握力だけで動物が地面に(スパイク)を立てるのと同じ事を成したと言う訳だ! やはり純粋な強化系個性かい?」

「うん? いや、違うよ」

「違うのかい!? ならば……」

「僕、個性無いんだ」

 

 飯田も、八百万も、緑谷の個性的な走法に興味を持って聞き耳を立てていた周囲の人間も。

 

 皆が皆、静まった。

 

「……次は握力だ。芦戸から順にやってけ」

 

 そんな中、わざと空気を読まなかった相澤の声だけが響いていた……

*1
相澤は……というか発目以外知らぬ事であるが、実際聞いていた。手段は伏す

*2
彼女が一般通過女子高生になれないのはこういう所である。




戦闘技能とかを抜いた、純粋な身体能力に関しては緑谷の方が爆豪よりもちょい上です。

そして、やっとの事で緑谷の無個性バレです!

…………いやぁ、一気に登場人物増えすぎて書き方分かんねぇ!ちょっと内容がとっ散らかってるかもしれませんが、二十人以上のキャラクターを動かすのになれるまでは多目に見てやって下さい!
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