無免ヒーローの日常   作:新梁

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総集編(偽)

今回恐ろしいほど手こずった。

今回のあらすじ

一日目は!!終わらねえ!!

シーゴンさん、ネモさん、セネットさん、誤字報告ありがとうございます!


第五十五話。総集編は突然に。

 これまでの無免ヒーローはッ! 

 

 

 

 どこにでも居るごく普通の男の子、緑谷出久はヒーローに憧れていた! 

 誰かを救う事に全霊を捧げるその生き方は、緑谷出久の中に燦然と輝く道となっていた! 

 

「僕もあんなヒーローになれるかなぁ……!」

 

 この時、彼は自分がその輝く道を往くのだと疑っていなかった! 

 

 しかし、転機は突然に訪れるッ! 

 

「諦めた方がいいね」

 

 ……それは、四歳になっても個性が発現しなかった緑谷を不安に思い、母が病院に連れて行って、そこで言われた言葉……! 

 

 緑谷出久には、才能(個性)が無かったッ! 

 

「この世代には珍しい、何の個性も無い型だよ」

 

 この日、緑谷出久は産まれて初めて挫折を経験したッ! 

 

 そうして彼は失意のままに病院から帰る……

 

 しかし、転機は突然に訪れる(二回目)!! 

 

「どーも初めまして。今日から隣に越してきた、フランケン・シュタインです。こっちは義娘の明です。よろしく」

 

 自分の身に個性が無いと知り、絶望した緑谷の隣の家に、『個性を戦闘で一切使わないヒーロー』が引っ越してきたのだッッ!! 

 

 ────

 

「ちょっと待ってくれないかッッ!?」

「え、ナニ?」

「こういう言い方は非常に失礼かもしれないが……あまりにも都合が良過ぎないか? 

「あはは……ぶっちゃけ僕もそう思う

 

 

 

 

 現在走り幅跳びの測定中。

 唐突に無個性であることを周囲に暴露した緑谷は、その数奇な人生を十数名のクラスメイトに対して語っている最中であった。

 

 ちなみに飯田の言う事は尤もである。挫折期間半日はあまりにも短すぎる。人生に関わる大きな挫折をそんな一瞬で乗り越えられては、お前もういっそ十年くらい挫折してろよと言いたくもなるというものだ。

 

「しかし……凄いなぁ緑谷は。よくヒーローになろうと思えたよなぁ」

「あはは……ぶっちゃけ僕もそう思う」

 

 来歴話しがてら全員と自己紹介を行い、取り敢えず知り合いとなった少年……太ましいフサフサの尻尾がチャーミングな尾白が心の底から感心した様子でしみじみと呟く。

 彼もその特徴的な尻尾以外は普通の人間と言って差し支え無いので、他の者よりも一層緑谷の苦労、苦悩が分かるようであった。

 

「尻尾だけの俺でも相当苦労してるのに……本当に凄いよ。そう思う」

「あ……はは、ありがとう。何か初めてそこまで苦労を分かってもらえたかも」

 

 二人が「どうしても手数が他の奴より少ないんだよなぁ」「ああ、それホント分かる! 動きに幅が出せないんだよね!」と弱個性(無個性)あるあるを話していると、背後から不可視の手が緑谷の肩を、小さな手が太ももをガッと掴む。

 

「そ・ん・な、事よりもぉ〜〜?」

「そォ……んン……なあァ……事よりもオォ……!!」

 

 緑谷の背後に居たのは、透明人間の葉隠とブドウ頭の峰田。

 二人が発した全く同じ台詞。しかしそこに込められた感情は、あまりにも差がありすぎる。

 

「明ちゃんが緑谷の婚約者ってホントなのぉ!? さっきの話じゃ緑谷の師匠の連れ子なんだよね!? 幼馴染かぁ〜いいなぁ〜!! ってーか緑谷服の上からじゃ分かんないけど筋肉すごいねー!?」

「あのオッパイちゃんを好きにしてるってのァどういう了見だァ!? さっきの話ならまさかテメェ小学校入る前からヨロシクやってたんじゃねぇだろうなオイ! あぁ゛ァァ!! 羨まし! 妬まし! 許ッッ(せん)!! っつーかお前太もも硬ッッッッッた!!!! 

 

 緑谷と発目が婚約している事の真偽確認。

 

 先程のあらすじ(これまでの無免ヒーロー)を聞き、幼馴染である事を羨ましいという感想。

 

 緑谷の鍛え抜かれた肉体に対する反応。

 

 二人共言っている事はだいたいあってる筈なのにこうも言葉から受ける印象が変わるとは、恐ろしいものである。*1

 

 明らかに失礼で下衆な発言をした峰田だが、変人、狂人慣れしている緑谷はサラッとソレをスルーして「そんなに硬いかなぁ」と脚をペシペシ叩く。

 

「普通じゃない?」

「いやオメー、これタンパク質がしていい硬さじゃねえぞ……」

「次、緑谷」

「あ、ハイ!」

 

 幅跳びのラインに向かって駆けていく緑谷。

 

 緑谷の脚の硬さと自分の脚の硬さを比べて愕然とした表情を浮かべている峰田を放って葉隠は次なる獲物……中破した台車に座り、持ってきたPCを弄り回している発目明の元に向かった。

 

 彼女は知る由もないが、それは正しく自殺行為だ。

 

「ッと葉隠、さん待って!」

「わ、エーッと……心操くん? と芦戸ちゃん」

 

 次回葉隠死す! デュエルスタンバイ! となる一歩前に、彼女の前に芦戸と心操がうまいこと割り込む。

 

「どしたの?」

「あー……っと、そのォ……言いにくいんだけど……」

 

 つい反射的に、葉隠を守るために彼女を止めてしまった芦戸だが、彼女の興味を発目から逸らすうまい言い訳が思いつかない。

 そう思い言葉をうまく発せずにいると、横に居た心操が首筋をポリポリと掻きながらヘラッと笑った。

 

「悪いな、アイツ集中してる時に邪魔すると物凄く機嫌悪くなるんだ。落ち着くまでしばらくそっとしといてやってくれ」

「あ、そうなんだ……」

 

 ちなみに嘘である。

 実際には、発目は興味の無い人間に作業を多少邪魔をされた程度で何らかの反応を返したりはしない。ただしつこすぎるとその後には死が待っている。

 

「あの二人の話なら俺と勝己がするからさ。昔っからつるんでるから色んな話できるし」

「俺を巻き込むなクソがァ!」

 

 緑谷が握力で九十八キロを記録したので非常に気が立っている爆豪(八十九キロ)が吠えるが、いつもの事なので心操(五十七キロ)はそちらを見る事すらしなかった。のでいつものように蹴っ飛ばされた。

 

「ダイジョブ? しんそーくん」

「お、おう……いつもの事だから……」

 

 無免特有の唐突な暴力に早くも適応し始めている葉隠(二十八キロ)の透明な手を借り、立ち上がる。

 その横で呆れ顔の芦戸(三十七キロ)がその背に付いた靴跡をパスパスと払ってやった。

 

 愕然としていた峰田の表情が人知れず憤怒に染まった。

 

「あからさまに煽ったから避けるアテあるのかと思ったのに」

「自分でも気づかない内に煽ってた」

「心操ソレ末期だかんね……マジで。息するように煽るとか、普通しないよ?」

 

 この言葉と同時刻、入学式に出席している一年B組の一人がクシャミをしたが、その場に居ない彼らにそれを知る術は無い。

 

「ウッ……分かってるよ……つかなんかお前、ちょっと機嫌悪くね? 気のせい?」

「機嫌? ……気のせいじゃない?」

 

 自分自身、別に機嫌が悪い自覚は無い芦戸はそう首をかしげる。

 

「ちゅーか機嫌悪い時に人の靴跡払ってあげたりしないで、しょッ! と!」

「アデェッ!」

 

 靴跡を手ですっかり消して、その仕上げに心操の腰をバシンッ!! と叩く。

 その衝撃によろめいた彼は、少し叩かれた部分を擦りつつ「あんがとさん」と笑って礼を言う。

 そして、それに対し芦戸はヒヒヒッ、と歯を見せてイタズラっぽく笑い、「いーよ!」と返した。

 

「…………おぉ」

「まぁ!」

「ケロ……」

 

 無論、そんな一連のやり取りは同級生達にもしっかりとみられている。

 

「入学一日目にしてカップルが二組成立してるんだけど……どういうこと?」

「分からん……全然分からん……」

 

 かつて発目明にワンチャンあるかもと期待し、その三秒後に失恋した金髪に黒のメッシュが入った少しチャラめの男上鳴と、両腕の肘がセロハンテープ台のようになっている、服を着るのに苦労しそうな男、瀬呂は怨嗟の籠もった小声で呟いた。

 

 ちなみにこの瀬呂、握力測定において肘から個性によって生成したセロハンテープを二つに折って紐のようにし、それを測定器の把握部分に巻きつけて振り回し、遠心力を生み出して百一キロをマークしていた。

 

「ほれ次ボール投げ。芦戸」

「あ、はーい!」

「伸ばすな」

「ハイ!」

 

 

 芦戸が相澤に呼ばれ、心操から離れる。

 その隙を狙って、先の二人に峰田を含めた三人は彼に詰め寄る。

 

「ちょっとお時間ありますかコラァ」

「女の子と仲良くなる秘訣教えて下さいコラァ」

「てめえマジでぶっ殺すぞオルァァァ!!!!」

 

 誰とは言わないが一人だけ熱量が違う。

 

 大記録が出たり出なかったりしてるボール投げを見ながら、心操はその謎の(別に謎ではないが)熱量に負け、決して言ってはならない事……しかし言わなくてもおそらく数日以内には周知となる事を、言ってしまった。

 

「仲良くなるって……芦戸とは出身中学同じだし」

「あぁ!? このクラス同中多すぎね!? 地元高校じゃねーんだぞ!」

「へぇ同中! どのへん?」

「こっからかなり遠いよ、何時間も掛かる。だから今は同じトコから来た奴らで集まって共同生活してる」

 

 ブッフゥ!!!! 

 

 その音は、ボール投げ測定を終えて相澤が律儀にも用意してくれていたスポーツドリンクを飲んでいた芦戸が、口内のそれを霧吹きのように噴出する音。

 そして皮肉にも、一番その事をバラしたくなかった彼女が出したその音が、心操の言った事が紛れもない事実であることの何よりの証明となってしまった。

 

「な……何で言っちゃうの!!!」

「え? ……アレ、マズかった?」

「マズイよ! マズ過ぎだよ!!!」

 

 そらそうである。

 だが、芦戸よりマトモ指数が低い心操にはその事がイマイチピンと来ない。

 別に同じ布団で寝てる訳でもあるまいし、というのが彼の考えだ。寝袋で隣り合って寝たことはあるのだが。

 

「いや、でも絶対その内バレるだろ」

「だからって今バラさなくてもいいじゃんさァ! 違うからね! 別に、ひとつ屋根の下とかじゃないからね!?」

「あーまぁ、それはそうだな」

 

 芦戸の周囲に対する必死の言い訳に、なんだか可哀想になってきた心操は乗ってやる事にした。

 そもそも別に嘘を言う訳では無いのだから、芦戸の言葉を否定したりするつもりはないのだが。

 

「三奈ちゃん、さっき女の子と二人で住んでるって言ってなかったかしら?」

「そう! 女の子! そこの明ちゃんと二人! コイツラは隣の建物!」

「そうだな。完全に別の建物だよ」

 

 二人の言い訳を聞いた蛙吹は「あやしいわね」と本音をはっきり口にしつつも取り敢えず引き下がった。

 

「心操おいコラテメェ! あのそばかす天パ野郎(みどりや)に続いてお前まで女子とヨロシクやってんのかゴラァァ!! ヒーロー舐めてんのかオラァァ!! やっぱピンクは淫乱ォボッフ!?」

 

 キャラクターデザインの都合(身長百八センチ)で物凄く蹴り飛ばしやすい位置にあった峰田の顎に靴裏をクリーンヒットさせた芦戸は、ゴミを見る目で「何言ってんの」と吐き捨てた。

 

「……アシミナ、そんじゃしんそーくんとは本当にな~んにも、な~んの感情も無いの?」

「あ…………な……無いよっ!」

「そだな。そういうのは無えよ。一ミリたりとも考えた事無い」

 

 重ねて言うが、心操が芦戸の言葉に合わせているのは完全に善意からである。

 一つ加えて言うならば心操の恋愛ハードルが白馬の王子様願望並に高いという現実があるだけだ。

 

「…………ほんとぉ?」

「ホント!」

「アシミナなんか落ち込んでない?」

「ぜぇんっ、ぜんっ!! 落ち込んでない!」

 

 フンガーッと鼻息荒く暴れる芦戸(女子力低)からキャアキャアと可愛らしい悲鳴を上げながら逃げる葉隠(女子力高)を見て、心操は「そんなに隠したいもんかね」とポリポリ頭を掻く。

 

「オィィィ……こっちの話は終わってねえぞォ……!?」

「また蹴り飛ばされんぞ。もしくは俺が蹴り飛ばす」

 

 そんな事をやっている間にボール投げの順番が来たので脚にしがみつく峰田(顔面靴跡付き)をズリズリ引きずりながら歩き、相澤からボールを受け取る。

 

「何やっても良いんですよね?」

「円からは出るなよ」

「勿論腕のスイングで投げなくても?」

「良い」

 

 言質を取った心操は、未だ足にへばりついて呪詛を垂れ流しているナマモノをベシっと蹴り飛ばし、靴を両方脱いだ。

 

「何やってんだ? 心操」

「ま、ま。見てろって」

 

 転がってる峰田の疑問をはぐらかしながら、靴から紐を抜き取り、2本を合わせてボールに巻きつけ、それからジャージのズボンの紐まで抜き取り、ボールに巻きつけた靴紐に結びつける。

 

 そうして出来た紐付きボールをクルンクルンと数回回し、紐の緩みが問題ない事を確認した心操は「っし」と笑った。

 

「ハァ!? おまっ、そんなんアリかよ!」

「アリだよ」

 

 フォンフォンと空気を切る音を響かせながらボールを回転させる心操は、タイミングを見計らって腕の勢いを付け、遠心力でボールを飛ばす。

 

「七十三メートル」

「っしゃ!」

 

 ガッツポーズを取った心操だが、彼の記録を見た爆豪が落ちたボールに素早く近寄り、個性を使わない普通の投球で返球してきた(しかもそこはかとなくドヤ顔で)ので喜びの顔は即座に微妙な顔となった。

 

「先生アレ、アリなんすか!?」

「何してもいいって何回も言ってんだろ」

「いやだって! 道具(アレ)がアリならもう何でもアリになりますよ!?」

「だからそう言ってんだろ、何回も何回も。次、耳郎」

「ハイっす」

 

 ズボンに紐を戻そうとモソモソしている心操の側に、爆豪が近寄って来る。

 

「…………」

 

 見つめ合う二人……そして、爆豪は他人を思い切り馬鹿にする顔で盛大に鼻を鳴らした。

 

「……ハッ、雑魚が」

「ハァァァァ〜〜〜〜!?」

 

 なんとこの男、心操にこの言葉を言いたいが為だけにボールを拾い、投げ返し、そして彼の側に犬のように駆け寄ってきたのだ。

 

 ヒーローとしてうんぬん以前に、人として最低以下である。

 

「あぁ……分かった……解った……久しぶりにキレちまったよ勝己ィ……あぁ久しぶりだよ。俺の個性で他人に恥をかかせたいと思ったのは……!」

「アッハァ! やってみろやシチサンがァ!」

「お前は今晩フルチンで三回連続バック宙をキメた動画をクラスの連中に送る! 社会的に抹殺してやる! 覚えとけ!」

「陰キャのコミュ障が連絡先なんて聞けんのか」

「芦戸に聞くから問題ないよ」

「いや、自分で聞きなよ……」

 

 無論、二人共本気ではなくじゃれ合いの範疇である。

 もし爆豪が本気ならば心操が何かをする前に爆殺しているし、そもそも会話をしているのに洗脳を行っていない時点で互いにふざけ合っている事など丸わかりだ。

 

「ホント仲いいよなあ、アイツら」

「だねえ……」

「次、爆豪」

「爆豪カマせー!」

「かっちゃんがんばえー」

「うるせえブッ殺すぞゴラァ!」

 

 緑谷と切島の応援など無くとも平気だとばかりに最早語る事も無い暴力の具現化のような記録を出した爆豪。

 その次に呼ばれた緑谷は、相澤に手渡されたボールを見つめながら思案する。

 

 自分も心操と同じように遠心力投擲をするか、それとも……

 

「……うん、決めた」

 

 無個性であることを明かしてから、明らかに変わった自分を見る目を感じつつも、緑谷はボールを真上に高く放り投げた。

 

「え、何してんのアイツ……」

 

 スゥッ、と天高く登っていくボールを見つめ、耳郎が呆気にとられた様子で呟くが、丁度その横に居た心操は何かを察した様子で「あぁ」とだけ呟いた。

 

「まぁ……見てろよ」

 

 天高く登ったボールは、徐々にその速度を緩め、上空でほんの一瞬停止する。

 

 そして先程と反対に、地面に向かって落ちるボールを、緑谷はジッと睨みつけ……

 

「…………今!」

 

 ズパンッ!!! 

 

 上から落ちてきたボールに振り上げられた緑谷の脚がタイミング良くぶつかり、脚の勢いと反発力が加わったソレはピッタリ四十五度の角度で空を飛ぶ。

 

「け……」

「蹴……」

『蹴ったァァァァ!?』

 

 周囲の言葉通り、ボールを渾身の力で蹴り飛ばした緑谷に、「百十九メートル」と声が掛かる。

 

 そして、お約束のように性格ロイヤルストレートクズの呼び名で有名な爆豪がそこそこの爆発で軽〜く緑谷にボールを投げ返してきた。

 

「百十九メートルかぁ。もうちょいタイミング上手かったら百二十以上いけるかな? ……あ、先生! 切島君(バット)使うのはアリですか!?」

「協力はナシだ」

 

 何故か唐突に原因不明の凄まじい寒気を感じている切島をよそに、しっかりと二投(投?)目で百二十二メートルをマークした緑谷を下がらせ、次の生徒を呼ぶ。

 

(……確かに、緑谷や心操のやり方は一種の正解ではある……だが……)

 

「オッシャやるぜェェェ!!」

 

 緑谷の次である峰田が先程の心操の真似をし、ボールに靴紐を巻きつけて遠心力で投げる……だが……

 

「八メートル」

「チクショォォォ!!!」

 

 どのタイミングで手を離せばいいのかが上手く計れなかった峰田は、若干下向きにボールを放ってしまい残念な結果となっていた。

 

「普通に投げた方がよっぽどマシじゃねえか!」

「峰田、何でもアリとは言ったがこれはあくまでも『身体能力テスト』だ。身に付いてない技術を使った所でロクな結果にはならないよ……ほれ、二投目」

「ウス、身に沁みました……」

 

 緑谷がやった事は技術的に不可能と分かりやすいが、心操のそれは誰にでもやれそうな気がする。だからこそ、身体能力に優れず、かつ彼の後に投げた葉隠や峰田はそのやり方を真似していた。

 だが結果は葉隠が普通に投げるのとトントン、峰田に至ってはタイミングをミスし少々情けない結果となっていた。

 

(だが、実際の記録はともかく(・・・・・・・・・・)中々どうして動き自体は全員悪くない)

 

 顎髭を擦りながらそれぞれの記録でワーワー盛り上がっている生徒を見ながら表情に出さず感心していた相澤に、出席番号最後尾の八百万が近寄って来る。

 

「あの、一つ質問をよろしいですか?」

 

 相澤からボールを受け取った彼女のその言葉に許可を出すと、彼女はこのテストの核心を突く質問を繰り出してきた。

 

「このテスト、順位はどういった風に付けるのでしょう?」

「通常の身体能力テストの点数付けをそのまま採用する。つまり女子ハンドボール投げなら二十三メートル以上ならどれだけ点数伸ばそうと全員十点だ」

 

 ボール投げの円の中に大砲を生成しつつ、八百万の質問は続く。

 

「…………分かりました。では、成績下限は何点(・・)ですか?」

「何点? そんなモンは知らんな(・・・・)

 

 その言葉に、八百万は瞳を見開き……そして、軽く微笑んだ。

 

「ありがとうございます。では一投目を撃ちます!」

「言わんでいいから」

 

 

 

 と、まぁ彼女のようにこのテスト前にされた脅しの意味を正確に察する者もいれば、脅しを素直に受け止め、怯えに怯えているものもまた存在していた。

 

「みみみどみど緑緑谷ァ! 俺もしかして最下位か!? 違うよな!? 違うって言ってくれよぉ! なぁ!」

「……えっと、サライとか歌おうか?」

「勝手にシメようとすんなよぉ!!!」

 

 何を隠そう、体格(デザイン)の関係で女子よりも記録の劣る所が多い峰田実その人である。

 

 彼は反復横跳びでは両脇に自身の個性であるモギモギクッションを起き、立ち幅跳びでもそれをジャンプ台とする事で大記録を出していた……が、その他の記録が軒並み悪かった。

 

「峰田……お前のその気持ち、俺にはよく分かるぜ……」

「あ、お前は! ……あー……お前は……チャラ男!!」

「名前忘れたなら忘れたって素直に言ってくれた方が傷つかねえモンだぜ?」

 

 そう、このテストでは大記録を出せる者と出せないものが居る。それは個性柄仕方が無い事なのだ。

 

 ついでにチャラ男こと上鳴は自身の個性である『帯電』を使い握力計の数値操作をしようとして、勢い余ってそれをぶっ壊したという悲しい汚点が付いてしまっている。

 

「二人共、私にも分かるよ、その気持ち……」

「あ、葉隠! 同情するなら透っぱい揉ませてくれ!」

「嫌です」

「サイテーかよ」

 

 このテストに通用しない個性はまだまだ居る。葉隠透は透明人間であり、自身の周囲の光の流れをコントロールするという凄まじい個性を持ってはいるが、身体能力には繋がらない。

 

 そして、何よりも。

 

「三人共、俺にも分かるよ、その気持ち……」

「来んじゃねーよイケメン野郎!」

「リア充男! 爆発しろ! 爆破されろ!」

「しんそーくん絶対上位じゃん!!」

「泣いていい?」

 

 無免の誇る参謀役、心操人使もまた個性が身体能力に直結しないタイプである。ついでにモテるタイプのツラをしている。

 

 せっかく勇気を出して初対面の人に合わせに行ったのにさんざんボコボコにされた彼は落ち込みながらも、「まぁテストの点数で決められるとは思わねーけどな」と言った。

 

「え、なんで?」

「だって雄英のやり方がそんなフィジカル至上主義なら卒業生にミッドナイトとかプレゼント・マイクが居るのはおかしいだろ……というかそもそも、誰がどの程度体を動かせるのかなんて入試でだいたい見てるじゃん。もう一回同じふるいに掛ける必要あるか?」

 

 言われてみれば確かに……と頷く三人の足元から、「その通りですわ!」と声が響く。

 

 彼等が床に視線を移すと、そこには長座体前屈に備えて柔軟をしている八百万とそれを手伝う耳郎が居た。

 

「や、ヤオモモ……!」

「どういう意味だ? 八百万」

「今回のッ、テストは、ただ肉体のお゛ッ! ま、ちょっと待ってくださいまし耳郎さん!?」

「あ、うんごめん……ちょっと魂持ってかれてた……」

 

 背中越しに見える、八百万の脚と胴体の間で自在に形を変える(ポヨポヨ)に意識を奪われていた耳郎と位置を交代し、彼女の背中を押しながら八百万は説明をする。

 

 それは、要するに。

 

「……つまり、『個性を使ってどのくらいの記録を出せるか』じゃなくて『記録を出すためにどういう個性の使い方をするか』を見てるって事?」

「ええ! そういう事ですわ!」

「や、ヤオモモギブ……ちょ、怒ってる?」

 

 ギッコギッコと耳郎の背中を緩急つけて押しまくる八百万は、いつの間にやらコチラに向いて話を聞いている生徒達に先程聞いた情報を伝えていた。

 

 因みに、相澤は握力や長座体前屈、上体起こしなどの生徒達だけで測れるようなものの面倒を見る気は一切無いようで、「十五分後に持久走始めるからそれまでに全部済ませとけ」とだけ言って芋虫に退化してしまった。

 

「まず、このテストはどれだけ好記録を出そうとも十点を超える事はありません。長座体前屈であれば六十センチ以上を出せば後はもう何でも良いのです。よって、これは個性の強さがどうこうではないのです! 現に個性の無い緑谷さんは全科目で十点取ってますし!」

 

 自分が道具やなんや作って使いまくってそれでも緑谷に追いつけていないという受け入れがたい事実を引き合いに出す八百万。

 その張本人である緑谷は百八十度開脚した状態で発目を背中に載せ、顎から腹筋までしっかりと地面にくっつけた状態で照れ笑いをしていた。

 

 どうやらこの種目も十点は硬いようである。

 

「つまり、このテストで本当に見られているのはいわゆる『関心・意欲・態度』という訳か! ……言われてみればそんな気もしてくる……凄いな八百万さん! 俺はそんな事を考えもせずにこれが最高峰! とか思ってしまっていた」

「いえ、それ程では……という訳でこのテストは恐らく、最初からできる事できない事を決めつけて自分の可能性を狭めるような生徒が除籍対象になるのでは? 相澤先生も最低『点数』は? と聞くと知らないと仰られましたし。まだ数時間の付き合いですが、教えられないなら教えられないとはっきり言う方のように感じますから」

 

 そんなこんな事を言いつつもテストは進み、持久走にて原付スクーターを創造した八百万が本気を出した(ムキになった)緑谷(四足歩行)に千五百メートル延々追いかけ回されて本日何度目かの半泣き状態にさせられるなど種々のトラブルはあったものの。

 

 

 

「ハイ順位を発表します」

 

 雄英入学一日目、初めてのテストは終わりを告げた。

 

「成績は通常の体力テストの基準に従い付けてある。面倒なので一斉開示するぞ。あと成績の悪い者はいなかったので除籍はナシです。よかったね」

 

 生徒の中に自身が発言を翻した事に驚きを見せる者が居ない事を確認し、相澤は「じゃあ後は流れ解散で、お疲れさん」と言い彼らに背を向ける。

 

「あ、あの先生! 結局このテストって何を測ってたんですか!?」

「八百万にでも聞いとけ。あ、あと教室の机の中に入学のしおりとか入ってるから読むように……それと、教室なんだが毎日六時半までは自由に使っていいぞ。じゃあまた明日」

 

 スタスタとグラウンドを去る相澤に呆気に取られた面々であったが、彼が校舎の廊下に入り、寝袋を装備する頃(砂地で芋虫移動をするとすぐに寝袋がボロボロになってしまうため)には全員が正気を取り戻し、ドヤドヤと教室に戻っていった。

 

「はーヤレヤレ、初日からドッと疲れたな」

「これから先これずっとかぁ」

 

 首をベキペキ鳴らす心操と、自分の肩を揉む芦戸はそう言っているが、その時融通の効かない相澤(クラスどころか学科の違う生徒を授業に参加させていた事は融通の内に入らないようである)が居なくなった事で元気を取り戻した発目が特定の一人にとっての爆弾を投下する。

 

「出久さーん、今日のごはんお魚がいいです」

「ん、オッケー。魚……なにか安かったっけー?」

 

 何でもないような会話。しかし、生徒達全員の目がその二人に釘付けになっていた。

 

 なんせ、ついさっき芦戸から男女で同居なんてしてないよ! という言葉を聞いたばかりである。

 

 そして、芦戸の真の同居人である発目が、緑谷に夕食のリクエストをしている。

 

 …………と、いうことは。

 

 だが、彼等がその結論を口にする前に、「あぁ!」と叫んだ緑谷が振り返り、一人の女子……八百万を見る。

 

「八百万さん!!」

「は、はい……?」

「トイレ作れる!?」

「ハイ!?」

 

 初っ端から混迷を極める高校生活。

 

 一日目はまだ終わらない。

*1
『だいたいあってる』とは、言葉通りの意味に加えて多くの場合『大切なところが決定的に間違っている』という意味も含む。




次回、八百万が半泣きになります。

お楽しみに!
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