無免ヒーローの日常   作:新梁

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旅行の際、車で林道走ってる時に物凄い腹痛に見舞われ、仕方なく脇の茂みで用を足した時、そのほんの一分程度でアブに噛まれ腕が血塗れになる。そんな経験、誰しも一度はあると思います。

その後もう一回腹痛が来て、その時降りていた河原で仕方なく用を足した時、丁度同行していた友人がパノラマ写真を撮影しており、大自然写真にウンk……用を足す座りの自分が写り込んでしまう。そんな経験、誰しも一度はあると思います。


つまり何を言いたいかと言うと、トイレは大事なので壊れたらすぐ修理しましょう。この無免たちは数日間近くのコンビニのトイレ使ってました。

今回のあらすじ
上の話しといてマジごめん、今回のご飯シーンカレーなんだわ……

セネットさん、誤字報告ありがとうございます。


第五十六話。突撃!無免の晩ごはん!

「皆いらっしゃい! 庭にコンクリ柱あるけど気にしないでね!」

(((コンクリ柱……!?)))

 

 あれから。

 

「やー、こんなに早くお客さんを招く事になるなんて! ね! 人使君!」

「あー、そうだな……あ、悪い! 風呂場と洗面所は今生き物が過ごせる環境じゃないんだよ。手は台所で洗ってくれ」

(((生き物が……過ごせない……!?)))

 

 色々と。

 

「緑谷ー! 一番右の薪って使って良かったっけか!?」

「え、テープ巻いてるやつ? ダメダメダメ! ソレに着火したら大爆発しちゃうよ! 一番右の一個隣のやつ使って!」

(((薪が……爆発……!?)))

 

 ありまして。

 

 

 

 雄英高校一年A組から、緑谷にトイレの製作を依頼された八百万、家賃一万円と聞いてすっ飛んできた麗日、色恋に興味津々の葉隠、色欲に異常執着の峰田、あと先のテストでちょっと仲良くなった上鳴と瀬呂の計六人が無免ヒーローの巣窟へと足を踏み入れていた。

 

「あ、そこの床に爆弾設置されてるから気をつけてね! 床のワイヤー踏まないで!」

「な、何で爆弾があるんだよ……!?」

「や、ゴメンゴメン。外し忘れててさ」

「そうじゃねえよ!」

 

 廊下には色んな所に焦げ目や破壊跡が付いており、果てにはドアに穴が開いている所もある。

 

 まるで廃墟のようであるが、これら全ては彼等がここに来て一週間程度で作り上げたものである。

 

「あ、壁の穴に手入れたりしないでね。感電して死ぬかもしれないから」

「怖えよ!?」

 

 ドクロマークのピクトグラム(意味:有毒物質)が貼られた洗面所の扉を素通りし、台所で手を洗う。そこから見える庭では、切島が焚き火でドラム缶の中の湯を沸かしていた。

 

「ねぇデクくん、アレ何しとんの?」

「へ?」

 

 何の臆面もなく緑谷をあだ名呼びした麗日に、近くに居た心操がギョッとした顔をするが、麗日は気付かない。

 

「あぁ、アレはお風呂を沸かしてもらってて……っていうか、デクくん……って?」

「え? ほら、バクゴーくんが言うてたから」

「ンンンンッ」

 

 悪気は無いのだ。麗日に、悪気は無い。

 

 彼女はただ、知らないだけなのだ。緑谷という男に取り憑く発目明という疫病神がどれ程の危険人物なのかを。

 

 そう。彼女はただ無知なだけなのだ。

 

「出久さぁん!」

「ゥイッ!?」

 

 ……それを、この疫病神が斟酌するかは別として。

 

「ちょっと、手伝ってもらって良いですか!」

「うんオッケー! 人使君! あと任せた(麗日の防衛を)!」

「任せるな!! クソッ、やればいいんだろ!」

 

 二階の階段から顔を出した発目の言葉に敬礼付きで即答した緑谷は、一足飛びに階段を駆け上がっていった。

 

 何の話? とクエスチョンマークを浮かべている客人達だったが、心操はもはやそれを気にしている暇は無い。

 

「……ッ麗日」

「ん、なに?」

 

 自分が何をしたのか(当たり前だが)未だに分かっていない麗日の目を見て、彼はオブラートに包んでいては埒が明かないと判断し、発目明の危険性を伝えることにした。

 

「……とりあえず、お茶出すよ。リビング行こう」

 

 

 

 発目邸。リビング。

 

 

 

「始めに言っておくけど、発目明はイカれたサイコパスで価値観が普通の人間と全く異なり世間一般的な倫理観を一切持ち合わせていないヴィラン予備軍だ」

「メチャクチャ言うやん……」

「……いや、まだ決定的な事をしてないだけで精神的には八割方ヴィランだ」

「メチャクチャ言うやん!?」

 

 お茶を出して早速ブッ込まれた衝撃発言に、全員がざわめく。

 

 皆を代表した麗日の叫びに、まぁ信じられないよな、と心操は淹れたお茶を啜った。

 ちなみに芦戸と爆豪は一気に量が増えた食材の買い出しで居ない。役に立たねぇ! と彼は心の中で叫んだ。

 

 発目、爆豪等の無免ヒーロー畜生レベル上位勢であれば当然のように叫んでいた場面である。

 

「うーん、そうだな……じゃあさっきのブービートラップなんだけどさ、アレ設置したの明なんだけど、理由は何だと思う?」

 

 心操による唐突な発目明クイズが繰り出され、発目明初心者達は首を捻る。

 

「えっと……侵入者対策、とか?」

「お、流石だな上鳴。ゼロ点です」

「ゼロ点なんかいッ!!」

 

 あまりにもスムーズに上げて落とされた上鳴は叫ぶが、そんな事は誰も気にせずに今度は八百万が手を挙げる。

 

「誰かを罠に嵌めたい、とかでしょうか?」

「おっ、流石は八百万。ゼロ点です」

「ゼロ点なのですか!?」

 

 じゃあ何が理由なんだよ! と憤る彼等に、心操はお茶を一口飲んでから答えを言った。

 

「正解は、『何となく暇つぶしで作った。捨てるのも勿体ないからとりあえず設置した』だ」

 

 沈黙が。

 

 沈黙が、リビングを支配した。

 

「……いや、流石に冗談」

「じゃないんだな、コレが……皆に伝えておくが、アイツはただギリギリ大事になってないだけの重犯罪者だ。そんなアイツが曲がりなりにも人として生活できてるのが、出久のお陰なんだ」

 

 そう前置きして、心操は緑谷と発目の関係を適当に掻い摘んで語る。

 

 発目がなんやかんやあって昔塞ぎ込んでたこと。

 

 緑谷とその母がなんやかんや世話焼いて慰めたこと。

 

 その後なんやかんやで今の性格になったこと。

 

 ……本当に適当に掻い摘んだだけである。

 

 まぁ、この話題の詳細を勝手に他人にする訳にもいかないからこの程度が限界なのだが……例え勝手に話したとしても当の彼女がそれを気にするかは別として。

 

「ま、そういう訳で、明が今曲がりなりにも外ヅラはマトモっぽいフリできてるのは、大好きな出久と引き離される事を恐れての事だ」

「マトモっぽい……?」

 

 峰田が意味不明と言いたげな顔で首を捻る。

 そんな彼は、入学試験の際に彼女の暴走に巻き込まれた被害者である。

 

 そんな峰田の声と共に皆の脳裏によぎるのは、相澤に向って一切スピードを落とさずに台車で突撃した彼女の姿。

 心操は、大体言いたい事を察しつつも力強く首を横に振った。

 

「出来てるんだよ、アレでも!」

 

 そう、出来てるのだ。アレでも。

 

「まぁ、つまり出久がアイツの外付けタイプの倫理観(セーフティ)って訳だな。という訳で麗日、明を警戒させるような真似はやめてくれ。最悪日本が滅びる」

「えぇ……分かったけど……そんなに?」

 

 色々と話を聞いたが、未だに納得の行っていない様子の一同に心操は、庭に続く大窓を開けて火の調整に四苦八苦している切島に声を掛けた。

 

「切島!」

「おん? どした?」

 

 火に当たって火照った顔を上げた切島が見たのは、食卓に無造作に置いてあった何かのリモコンを見せつけるように掲げる心操の姿。

 

「オギャァァ!!!!? お前何してんだッ!?」

 

 それを見て素早く何かを察した切島が即座にその場から退避し、心操がそれを確認してからボタンを押した。

 

 その瞬間、窓の外、庭にあるドラム缶風呂の準備をしていた切島の背後にあった、冒頭話題に出ていた薪が爆発した。

 

「…………………………」

 

 庭の端に避難して「あっぶねー!」と額を拭う切島を見て、それから全員が心操に目を向け直す。

 

「…………分かるか、コレが、恐るべき発目明の実態なんだ……!」

いやお前の方が怖えーよ

 

 どこの世界に友人の隣にある爆弾を爆発させる高校生がいるものか。

 

 瀬呂の言葉に全員が同意し、心操は「えぇ!? 何でぇ!?」と心底わからなさそうに叫んでいた。

 

 ……そんな彼は、無免ヒーロー畜生ランキング三位である。

 

 

 

 数十分後。

 

 

 

「アハハハ! そんな事あったんだ!」

「えぇ……笑い話なん……?」

 

 アハハと快活に笑いながらジャガイモの皮を剥く芦戸に、同じく人参の皮むきを行っていた麗日が戸惑う。

 

「うーん……そう言われれば笑い事じゃない気もするけど……もう慣れちゃった!」

「ふーん、ってかさ! アシミナってここに住んでる皆とどれくらい長い付き合いなの?」

 

 その横で鶏肉をさばいている葉隠の言葉に、彼女は「んー」と顎に指を当てながら首を捻り、「二年くらい?」と言葉を返した。

 

「中二の夏頃からの付き合いだなー。切島と心操は中一の頃からつるんでたらしいケド」

「ふーん……かっちゃんは?」

「誰がかっちゃんだぶっ殺すぞボケ!」

 

 葉隠の言葉に吠えた爆豪は、玉ねぎをフライパンで炒めている最中である。

 

 そう、彼等は現在大鍋でカレーライスを作っている最中なのだ。

 勿論いつものように、全体量に比べて肉は少なめである。

 

「もー爆豪、そんな誰にでも吠えるのやめなよー! 犬じゃないんだから!」

「誰が犬だコラもっぺん言ってみろやァ!!」

 

 芦戸の文句にそう吠える爆豪だが、食材にツバが飛ばないように開いている窓に向かって吠えているのが嫌に生真面目というか、粗雑なだけではない彼の性格を感じさせる。

 

 コイツが曲がりなりにも皆と仲良くしているのはこういう所が原因か、と微笑ましい気分になる新参二人に、芦戸はニヒヒと笑う。

 

「かっちゃんはねー、緑谷と明ちゃんとはもう十一年くらいの付き合いになるんだって」

「人のプライベートを勝手に暴露すんじゃねえよボケが!!」

 

 木べらでジュアジュアと玉ねぎを混ぜつつ猛る爆豪にさらなる言葉を返そうとした時、一般よりも大きい台所がズン、と揺れた。

 

「あ、トラップ解除失敗したかな?」

 

 今この場に居る四人以外の連中のうち、八百万、緑谷、発目は入居一週間で既にアチコチにボロが出ている発目邸の修理に。峰田、瀬呂、上鳴、切島、心操は発目がバカみたいに適当に設置しまくったトラップの解体作業に当たっていた。

 

「切島君ってトラップの解体とかできるんやね……」

 

 爆豪に剥いて切った野菜を渡しつつ、麗日は感心半分、呆れ半分で呟く。

 それに対し、芦戸は少しばかり得意げに「まぁね〜」と言った。

 

「つっても緑谷とか、爆豪とかの方が上手なんだけどね。けど、アタシらの先生が言うには『防御力の高い個性の人間がそういうリスクのある作業をできるのは、普通の人間がそれをやれるよりもずっと価値がある』って。それで切島はメッチャ訓練したんだよ」

 

 まぁアタシも簡単なのは出来るように訓練させられたけど、と言う芦戸は電工二種の免許を所持している。

 

「へぇ、すごい!」

「って言っても二種だから全然大したこと出来ないんだけどね……実務してないから免許も発行されてないし」

 

 爆豪は一種免許持ってるけどね、と芦戸は話を振るが、肝心の爆豪は鼻を鳴らすだけである。

 

 そんな爆豪の塩対応を見て、少しばかり怯んだ様子の葉隠は心なしか小声で芦戸に話しかける。

 

「……もしかして、爆豪君ご機嫌斜め? わたしうるさかった?」

 

 爆豪のこの対応を見ていれば、誰しもがそう思うだろう。

 それに、葉隠は明るい性格で、まぁ芦戸と似たような……クラスの人気者といった感じのポジションにいた事が伺える。

 

 かつては自分も似た悩みを抱いたなぁ、と思いつつも、彼女はニッコリ笑ってその不安を打ち消してやる事にした。

 

「女のコばっかりで照れてるだけだよ。ねーかっちゃーん?」

 

 ……勿論、爆豪をイジる方向で。

 

「ハァァァァ!? んな訳あるかブチ殺すぞボケナスゥ!!」

「えー、ホントかなぁ? 試しに何か面白い話してみてよ」

「上等だ笑わせ殺したるわオルァァァァ!!!!」

 

 当たりは強いがなんやかんや律儀に返答をする爆豪と、それを見てケラケラ笑う芦戸。

 

 見るからに乱暴で粗暴で人を人とも思っていなさそうな爆豪だが、これはこれで付き合うと意外に楽しそうだ。

 

 この二人を見てそう、麗日と葉隠が思っていると……

 

「バァーン!! とドアを開け発目明只今参上です! いやぁ皆さん聞いてくださいよ! 百ちゃんがすごいんです!! どんな部品でも構造と材質を説明すればすぐに作ってくれるんですよ! お陰でほら!!」

 

 

 ハイ来ました。

 

 

 

 バァーン!! とドアを開けて唐突に参上した発目がリビングの壁になにかの装置を設置すると、それは『ピピッ』と小さな音を響かせた後、プシュッと空気音を響かせてアンカーを射出。リビングに入るドアに簡易的な電磁バリケードを作り上げてしまった。

 

 モゾモゾと匍匐前進でリビングに入りながら「ね!? これ全部百ちゃんが作ってくれた部品なんですよ!! 凄くないですか!?」とほざく発目の後ろでは、頭の痛そうな顔で額を押さえる緑谷と、半泣きになりながら台所組にペコペコ頭を下げる八百万が居た。

 

 このイカレ女と面識の無い二人が呆気にとられた顔をしている横で、芦戸は自分が二年掛けて地を這うようなスピードで彼女と仲良くなったのに、それを八百万の個性が一日で上回った事に呼び方(百ちゃん)から気付き、ガックリと肩を落とした。

 

「め、明ちゃんの好感度ランキング*1、一瞬で抜かれた……! 明ちゃん、私もちゃん付けで呼んでよー!」

「必要性を感じませんね*2

「うわーん!」

 

 泣く芦戸に、ペコペコと頭を下げ続ける八百万、その肩に手を置いて宥めている緑谷に向け、カレールーを入れた鍋をかき混ぜる爆豪は吠える。

 

「っつーか誰がそれ撤去すると思ってんだゴルァァァァ!!!!!」

「ごっ、御免なさい! 私が部品を創ったせいで!」

「い、いやいやいやいや、八百万さんはなんにも悪くないよ!」

「そォだな!! 止めらんねぇテメェーが悪いン゛だろォがこんカスが!」

 

 

 

 爆豪と緑谷の言い合いと、やたらフレンドリーに接してくる発目に対処しきれず泣きかけている八百万(彼女は発目明がどれ程の危険人物なのかをしっかりと理解したようである)を見て、台所の二人はポカンとしたままであった。

 

 無免達の、このスピード感は慣れていないと置き去りにされがちなのだ。

 

「なぁ芦戸さん、もしかして爆豪君ってええ人?」

そんな訳ないじゃん

「あ、ハイ」

「けどさーアシミナちゃん、バクゴーくん悪い人には見えないよ?」

 

 緑谷と発目を殴りに行った爆豪からお玉を受け取り、発目が爆豪の拳を全部避けているのを見ながら葉隠はそう言う。

 それに頷いて同意を示す麗日を見て、芦戸はプスーと息を吐いた。

 

「良いやつじゃ無い……けど悪いやつでも無いよ。アイツはそこんトコロ複雑なの」

「ふぅん……」

「強いて言うなら……嫌なやつ!」

 

 うん! と力強く頷く芦戸だったが、その頃リビング入口の混沌とした状況は急展開を迎えていた。

 

「おっすー、トラップ撤去終わったぞーってまたトラップ設置されとるぅ!!!」

「は? なにこれ(呆然)」

「あ、おかえり」

 

 そう、トラップ撤去組の帰還である。

 

 彼等はトラップの解体という非日常イベントを聞きつけて「見てみたい」という結論に至り、爆豪ハーレムと化した台所へ吶喊しようとする峰田(緑谷もハーレムなのだが、彼は発目には近づきたくないようであった)を引きずって心操、切島についていっていたのだ。

 

 つまり、今帰ってきた者の中には。

 

「あっ上鳴君!」

「おぉ上鳴!」

「金髪ゥァ!」

「えっなになに?」

 

 ……そう、彼らの中には電磁トラップに滅法強い男、上鳴電気が居た。

 

 今日の試験、そして発目邸に帰ってくるまでの道で彼の個性とそのデメリットについては聞き及んでいる無免達。

 

 色んな意味で遠慮も容赦も倫理観も無い彼等が行動に移るのは、早かった。

 

「いけんのか?」

「どーせ許容量超えてもアホんなるだけなんだろ。やれ」

「えっちょっ、なになになに? どしたん爆豪おま、おいあんま押さないでってなに? 無言怖いんだけどォッ!? 切しっ、心そっ、ちょっ、なに!? え!? あ、待って!? 嫌、嘘だろオイ、止めっ、待っ…………ヤメローッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 十合炊きのクソデカ炊飯器からご飯をよそい、その上に野菜たっぷりのカレーを注ぎ、芦戸と爆豪が買ってきたコロッケを上に載せる。

 

 それを今日の客人達に回していき、客人達はそれを受け取っていく。

 

「このコロッケねー、駅近くのお肉屋さんのなんだけど、いっこ六十円なんだよ」

「まぁ! とてもお安いですわね!」

「買ってすぐ食べる時はそう言ったらね、その場で揚げてくれんの」

「へー、駅近く? 今度俺も帰りに行ってみよ」

「オススメだよ! ていうか緑谷が見つけてきたんだけど」

 

 そうしてコロッケについて和やかに会話をしている時、葉隠の顔面に向かって唐突にしゃもじが飛んでくる。

 

「おっと!」

「ひゃ!?」

 

 それを手を伸ばし間一髪でキャッチした芦戸は、軽く怒りながらそれを投げ返す。

 

「ちょっと! 慣れてない子も居るんだから暴れないでよ!」

「あ、スマン葉隠! 芦戸もサンキュー!」

「もう!」

 

 放り投げるとか言うレベルではなく、完全にフルスイングで投げつける形になったしゃもじを受け取った切島はそう言った次の瞬間、爆豪に蹴り飛ばされる。

 ちなみに、この一連の動作全てにおいて客人はもれなくドン引きしている。

 

 椅子ごと空を舞いながら「ナイスパンチッ!」と叫んだ彼は、椅子を脚で保持しつつハンドスプリングで一回転し、その勢いのままに今度は爆豪の脳天に椅子の脚を叩き付けた。

 

「甘ェんだよボケクソが!」

 

 その脚を片手で受け止め、合気の要領でまた別方向に投げ飛ばした彼だったが……その瞬間には彼の保持していた二つのコロッケは緑谷に奪い取られ、一つは彼のカレー皿に、もう一つは発目の口内に*3格納されてしまった。

 

「テメェのせいで!!」

「わぁ! ごめんて!」

 

 残念な事に今回の敗北者となってしまった二人を余所目にチャッカリとコロッケを二つ手に入れている心操は笑いながらカレーを口に運ぶ。

 

 刻んだ生姜とおろし生姜が混ぜられた少し和風のテイストが入っている結構辛口のカレーは、しかしよく炒められた玉ねぎの味がしっかりとついており、更にはゴロッとした鶏肉や人参、ジャガイモ等などが入っており非常に美味であった。

 

「このコロッケマジで美味いな。温かいコレと冷や飯とかで食いたい」

「心操……俺にもコロッケ半分くれよ」

「六十円くらい自分で買え」

「今食いてえ」

 

 彼の感想通り、このカレーは香辛料のピリッとした辛さと生姜の独特な味わいがミックスされた会心の出来栄えなのだが、如何せん(味付けが辛味大好きな爆豪という事もあり)辛さの主張が激しめなのが事実である。

 

 だが、それを良い具合に均してくれるのがコロッケなのだ。

 

 六十円だけあって肉はミンチが申し訳程度に入っているだけであるが、このコロッケは砂糖醤油で甘く味付けされていた。そして買い出しの二人がそれを買ってきてから、帰ってくるまでで十分、料理やら上鳴の蘇生やらで何のかんの一時間強ほど。

 

 この少し冷えた、シットリしたコロッケが辛口カレーに奇跡の如く絶妙にマッチしていたのだ。

 

 尚、上鳴は現在ウェイウェイ言いながらアホな顔で美味そうにコロッケカレーを食べている。

 

 人体の、いや生物の許容を遥か超える電力を体に蓄えられ、それを超過したとしても短時間ちょっとアホになるだけで済む……思えば彼も爆豪級にデタラメな個性の持ち主である。

 

「んん、んく、美味し……ねぇアシミナー」

「ん、ング。なに?」

 

 パクパクと美味しそうに(……というか美味しいと口に出している。彼女は周りに見えない分、そういう事を口に出すようにしているようであった)カレーを頬張る葉隠が芦戸に話しかける。

 

「アイツらっていっつも『ああ』なの?」

「うん、そだよ。鍋物の時は絶対ああなる」

 

 葉隠の袖の先には、今度はカレーの大鍋を取り合って殴る蹴るの喧嘩を繰り広げるバカ四人とそのバカの内一人から給餌を受けている美少女の姿。

 

「ふーん……賑やかでいいね!」

透ちゃん無免ヒーローの素質あるよ

 

 男連中はドン引きを隠せておらず、八百万と麗日は止めたほうがいいのかなんなのか分からずにハラハラとした表情を隠せていない。

 

 ちなみに芦戸は未だふんわりとしか危険性を理解していないせいか、それとも癖になってしまったか、「うわー、デクくん……うわー……」と無意識にデクくん呼びをしてしまっている麗日にハラハラしている。

 

 見たところ本人に恋愛感情のようなものは無さそうなので、それだけが救いか。

 ……考えたくないが、もし麗日に恋愛感情があれば……発目は自身の所属するH組から恋人の居るA組までの壁を全てぶち抜いて一教室にするなどと言い出しかねない。

 そして、彼女の場合『言い出す』という事は大概の場合『やる準備は全部終わって後はスイッチを押すだけ』なので更に質が悪い。「やろうと思うんですよやりますねやりますはいドーン!!」みたいなスピード感で全てを薙ぎ倒していくのだ。

 

「おちゃこォ〜」

「んぇ、どしたん?」

「……緑谷だけは、絶対に……ぜェェ〜〜〜〜ッッッ………………対に、好きになっちゃ駄目だかんね」

「……お、オス」

「明ちゃんの恋路を邪魔する奴は、対地爆撃機でその周りの人間ごと面制圧されるんだから」

「…………お、オッス……!」

「って言ってもあんなラブラブ見せつけられて間に入ろうとしないでしょ」

 

 嬉しそうな顔で、雛鳥のように緑谷の給餌を待つ発目を()差して葉隠は言う。

 

「………………まぁ、それもそうかなぁ」

「んばっ!? ここどこだ!? あっ辛っ! 美味っ!」

「お、上鳴起きた」

「無事? 上鳴」

「無事な訳あるかぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 そうやって楽しい(楽しい……?)夕飯は終わり、客人達は帰る準備を始める。

 

「んじゃ、今日はサンキューね!」

「カレー、とても美味しかったですわ。今度は私も何かご馳走させて下さいね」

「この庭ならバーベキューとかも出来るよな。今度意外にアウトドア派の瀬呂様の実力見せてやるよ」

 

 葉隠、八百万、瀬呂と、家もそこそこ遠く、夕飯を食べるとすぐに帰る者。

 

「今日は散々な目にあったからな! せめて風呂には入らせてもらうぜ! つーかもう泊まるわ今日!」

「つーか芦戸とか発目もあのドラム缶風呂入るんだよな? な?」

「アタシは家近いしもーちょい片付け手伝ってから帰る!」

 

 上鳴、峰田、麗日と、それなりに家が近い、もしくは家庭的に外泊が問題無い者。

 

 の中で、上の三人は腹ごなしにランニングをする爆豪に駅まで見送って貰えることとなった。

 

 

 後ろから聞こえる、「なぁ、風呂入るなら何時?」「俺ドラム缶風呂とか初めてだよ! コーフンするぅ!」「うわ、部屋カレーくせー」「明ちゃん、今日はお客さん来てるしお風呂一人で入れる?」「「はァァァァ!!!!?」」といった賑やかな声に耳を傾けつつ、四人は歩き出す。

 

「けどさー、割と意外だわ」

 

 市街地の、ポツポツとした街頭に照らされた道を歩きながら、瀬呂が唐突に呟く。

 

「何がでしょうか?」

「え? や、バクゴーよバクゴー。こういう見送りとかしてくれるタイプじゃなさそーじゃん? 見るからに」

「は? ほざいてんじゃねぇボケ殺すぞ」

 

 最早反射的に凄む爆豪を親指で軽く指差し、「ホレ」と肩をすくめる。

 

「見るからにこーゆー性格じゃん? 意外でさ」

「……まぁ、確かにそうですわね」

 

 そう頷く八百万の脳裏に過るのは、目の前のこのヤンキーが火でも吹くかと言わんばかりの剣幕で吠え、緑谷の顔面を爆破し、心操の腹に蹴りを入れ、切島を投げ飛ばした光景である。

 

 名家のお嬢様らしく、テーブルマナーというものを叩き込まれた彼女からすれば、先の食事は食事ではなく、もはや戦争に近かった。

 

「んー、けど私は割と……バクゴーっぽいな〜って思うけど」

 

 だが、この二人と、曲がりなりにも爆豪と一時間強一緒に作業をした葉隠では意見は違っていた。

 

「え? そーか?」

「うん。だってバクゴーってさ、意外と人並み以上に周りの事ちゃんと見てるし、私が切り方手間取った時もすぐ気付いてやり方教えてくれたし。口は悪いけどそんなにヤな奴じゃないよ……っだぁッ!?」

 

 スパコーン! と、葉隠の不可視の頭を爆豪の平手がキレイにすっ飛ばした。

 

「オアだぁっ!?」

()ゥッ!?」

 

 そしてそのまま無言で、瀬呂、八百万と彼は腕を振るう。

 

「人の前で性格論評してんじゃねーよクズ共が! んな一瞬で分かられて溜まるかボケ! 死ね! つか殺す!」

「どわぁぁ!? おち、落ち着け爆豪! あ、止めてくれる奴が一人も居ねぇ!」

「わ、ヤバ、ブチギレじゃん!?」

「お二人共、逃げましょう!」

「逃がすかボケナス共ォォォアア!!!」

 

 たしかに爆豪は決して悪い奴ではない。

 

 だが暴力的なのは間違いの無い事実であり、普段は上手いことノセて話を反らせる芦戸、真っ正面から宥められる切島、煽って被害を最小限(自分一人)に収めてくれる心操、上から取り押さえられる緑谷と、ストッパーが何人も居るからこそ彼はそこそこどこにでも居そうなツンデレキャラ程度の位置に収まっているのだ。

 

 つまり……

 

「イデぇっ!! し、舌噛んだァ!」

「キャンッ!! 待って! 痛いって! ごめん! ゴメンナサイ!」

「イヤ、お尻はァウッ!!」

「待てゴルァァァァ!!」

 

 それらが居ない爆豪は、危険性的にはぶっちゃけ発目とそこまで変わりはない………………は言い過ぎにせよ、危険人物には違いない。

 

 むしろこれだけストッパーになる人間が居て普段から特級危険人物扱いされる方がヤバい。

 

 三人は、その事を身を以て学んだのであった。

*1
正式名称:発目明の『世間一般的に「好意」に分類されるような行動で親密性を稼いでおき、イザという時に自分の事情や自分が行った行動についての便宜を図りやすくしてもらうべき人間ランキング』

*2
人は一般的に特別扱いされると優越感を感じるものなので、他と違う呼び方は自分に利益を齎す人にしかしない方が効果的(発目明調べ)

*3
「出久さん、あー」「え? ……ハイハイ。ほら、あーん」




無免ヒーロー畜生ランキング

聖人:切島(圧倒的)

〈〈〈〈越えられない壁〉〉〉〉

善人:芦戸(割と普通寄り)

〈〈〈〈越えられない壁〉〉〉〉

普通:緑谷(善人寄り)、心操(悪人寄りだけどギリギリ)

悪人:爆豪(残当)

〈〈〈〈越えられない壁〉〉〉〉

畜生:発目(満場一致)

次回予告!

君は覚えているか!あの日した約束を!

僕は覚えている!あの日誓った事を!
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