無免ヒーローの日常   作:新梁

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車が事故ったりバイクが潰れたり、ワクワクチンチンしたり。やっぱ夏休みって忙しいねえ!

あ、怪我とかは無いです。強いて言えば最近ずっとテラリアばっかやってました。遅れてゴメンね。文句はテラリアに言ってね。

今回のあらすじ

君は覚えているか、あの時の約束を。

タクモンさん、自戒さん、イニシャルRさん、誤字報告ありがとうございます。

それと、誤字報告機能の性質上同じ部分の報告を上げてくださった方に関しては先着一名のみこの場に名前を出させて頂く事になります。ご了承下さい。


第五十七話。お披露目!!無免ヒーローズ!!

 ヒーローの殿堂、雄英高校ヒーロー科には世界中から入学希望者が押し寄せる。

 

 じゃあ何で日本人ばっかりなんだよと言われるかもしれないが、それは日本の学校である為仕方が無い事である。

 日本語しか出来ない超天才がMIT工科大学を受験しても英語のテストが解けないように、ヒーローの志高い、英語しかできない外国人が雄英を受験しても書類選考の時点で多くが落とされるという訳だ……MITなら数学だろうからある程度解けんだろというツッコミは控えて戴きたい。

 

 この辺り、日本語という言語が日本でしか使用されていない事もあるのだろう。なにはともあれ、毎年合格者はその殆どが日本人である。

 

 と、そんな話はどうでも良くて。

 

 そんな雄英高校ヒーロー科に合格し、今年度晴れて一年B組に編入された生徒の一人に鉄哲徹鐵(てつてつてつてつ)という、何というか親のネーミングセンスを疑わざるを得ないような名前の少年が居る。ノリで決めたのだろうか? 

 

 この個性時代、異形型や、生まれたその時に既に個性の発動している子供はその個性にちなんだ名前を付けられる事が多い。

 

 この辺りは個性黎明期に『個性は自身の一部である』という教育が国主導で行われた事がきっかけであり、この個性命名という風習も国の扇動では無いかという陰謀論もあるが、当時は混乱した時代であった為真実はもはや誰にも分からない。

 

 まぁともかく、鉄哲徹鐵という噛みそうで噛まなそうな、でもちょっと噛みそうな名前をしたその少年は、雄英近くのアパートで一人暮らしをしていた。理由は単純、家が遠いからである。

 

 冒頭にある通り日本中、果ては世界中から人が集まる雄英ではこうした生徒が一般高校に比べ非常に多い。

 

 なので、鉄哲が日課である早朝ランニングを行っている時に、雄英高校の制服を着た、早めに登校しようとする生徒と出会っても何ら不思議ではないのだ。

 

 だが、その日は少しばかり事情が違った。

 

「な…………」

 

 何故なら、その日鉄哲が出会ったのは……

 

「何じゃぁ!? ありゃぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 雄英高校正門。登校時刻。

 

 

 

 …………話は変わるが、ヒーロービルボードチャート圧倒的ナンバーワンである、スーパーヒーローオールマイトの雄英高校就職は、ビデオメッセージという形でまずはヒーロー科新入生徒に公表された。

 

 尚、その為にオールマイトが撮影した動画の本数は、ヒーロー科四十名への実技(推薦試験分含)点数を含めた個別総評がそのまま四十本。たった数分といえど、合計すれば一時間強にはなる。

 

 職業柄カメラの前に立つのは慣れているであろうとはいえ、全く同じテンションで、ほぼ同じような内容の台詞を、何度も何度も……全くご苦労様である。

 

 そうして一部生徒には知らされたものの、基本的に秘匿されていたオールマイトの雄英高校就任は入学式当日に発表され、その極上の話題(エサ)は飢えたマスコミの横っ面をぶん殴った。

 

 その結果……

 

「すみません! そこのあなた! 入学式でのオールマイトの様子はどうでしたか!」

「えっカッコよかったです……?」

 

「そこのあなた! オールマイトが教師になった感想は!?」

「うーん……嬉しいけど、ヒーロー科専任ってどうなの? っとは……思いますね」

 

「失礼! オールマイトは教師として優れているのでしょうか!?」

「え、いや……まだ授業始まってないんですけど……」

「第一印象で結構ですので!」

 

 …………こう、なる。

 

 

 マスコミが大挙する雄英高校正門前、そこに居るリポーターの女性とカメラマンの男性は、新たに来る生徒を待ち構えながら話をしていた。

 

「フッフッフッ……オールマイト雄英赴任の報を聞いて新聞社からすっ飛んできたけど、やっぱり駅なんかで出待ちするよりも雄英正門前で待ってた方が効率的よね! (状況説明)まだ世間に慣れてスレてない若い学生……聞けば何かが帰ってくる……まさに入れ食いだわ! (状況説明)」

「ええ……正門前に陣取っている教師は口が堅いのが分かりきっているんですから、生徒に狙いを定めるのが賢い選択でしょう(状況説明)」

 

 そして、彼等はこうなればもう止まりはしない。

 

 何せ彼等にとっては情報とはそのまま飯の種。より良い情報を手に入れようと奔走するのは最早生存本能に近く、そんな彼等に対しあくまでも情報に対して情報という価値しか抱いていない一般人は、どうしても一歩遅れてしまうのだ。

 

「しっかし、校舎バックに絵が撮れるのは良いけど、みんなフツーの子ばっかりで、どーもインパクト不足ねぇ(前フリ)」

「えぇ、雄英なんですからもう少し強烈な個性が欲しいですね(前フリ)」

「そう! あーいい生徒居ないかしら!? どんなぶっ飛んだ奴からでも情報ぶん取って見せるのに! (死亡フラグ)」

 

 その時、何やらザワザワとした喧騒が正門向かいの道路から聞こえてくる。

 

「うん? …………なぁっ!?」

「何かあったのかし──らぁっ!?」

 

 多数の修羅場を潜ってきた歴戦のリポーターである二人が素っ頓狂な声を上げて後ずさる。

 

 それ程にまでインパクトのある、道路の曲がり角から出てきた人物とは!!!! 

 

 

「どすこーい!」

 

 朝の陽光に煌めく汗。一糸まとわぬ上半身を流れるそれは、『彼等』の筋肉の凹凸を魅せ付ける事に一役買っており、『彼等』が筋肉を盛り上がらせる度、そして深く一歩を踏み込む度に光を反射しキラキラと滴り落ちる。

 

「どすこーい!」

 

 右肩、あるいは左肩にタオルを巻きつけ、その上に太い鎖を抱えて、一歩一歩歩調を合わせて歩く。その度に、ドシ、ドシ、と重厚な振動が地面から伝わる。

 

 全員が肩に掛かる壮絶な荷重に呻き、顔中を汗だくにしながらも、歩みを止める者は居ない。

 

 全員がギリギリと太い鎖を軋ませ、背筋に力を込め、荒い息を必死に整えながら、掛け声と同時に足を上げ……

 

「どすこーいッ!」

 

 はい、無免ヒーローです。

 

「どすこーい!」

「どすこーい!」

「はいそこ!! すとーぷ!! 旋回! 旋回でーす!」

 

 しかし、勿論普通の無免ヒーローではない。

 

 今彼らは上半身裸で頭に『折寺夏祭り』と赤い筆文字で描かれたハチマキを巻いた、そんな祭りスタイルである荷物を運搬していた。

 

「な、何だありゃあ!? 攻城兵器かぁ!?」

 

 若干キレ気味に長々とマスコミ対応をしていたプレゼント・マイクが驚くが、それも無理ない事である。

 

 ちなみにその横では同じくマスコミ対応を行っていた相澤が吐きそうな顔で無免達を睨んでいた。

 

 そんな無免達が運んでいる荷物とは、勿論前話においても大活躍したコンクリ柱くん(約二・二トン)である。

 入学式の前に緑谷が(狡い手段で)雄英敷地内に搬入する事を事務に認めさせたそれを、彼等はあろう事か人力で運搬していたのである。

 

 全員分の荷物や上着の入ったリヤカーを引きつつ、赤く光る誘導棒(どっから持ってきた)を振って先導する発目の後ろ、一番前で切島が柱を持ち上げつつ音頭を取り、柱の横に右前から緑谷、その向かいに心操、後ろに爆豪、そしてその爆豪の向かいには不幸にも前日に発目邸に宿泊してしまった上鳴が泣きながらそこそこ付いている筋肉に力を入れている。

 

 そして、柱の後ろ側……サンドバッグにする際地面側になる場所を支えているのは、見慣れぬ金属のような質感の肌を持つ男であった。無論彼も汗だくである。錆びないのだろうか。

 

 ちなみに先程も言ったが運んでいる六人は全員、上半身裸である。

 

「どすこーい!!」

「どすこーい!!」

 

 ズシン、ズシンと地面を揺らし、謎の掛け声で空気を揺らす。

 

 多くのリポーターが言葉を無くし、カメラマンがほぼ反射で撮影を行っている中、人六人くらい殺せそうな眼をした相澤が彼等に近付く。

 

「……おはよう、登校ご苦労」

 

 相澤が誘導棒を振る発目に後ろから嫌味たっぷりに声を掛けると、彼女はクルリと振り返ってその美しい瞳を煌めかせた。

 

「おや、誰かと思えばそこに居るのは相澤先生ではないですか! オハヨウゴザイマス! 今日もお髭がステキですね! では私は用事があるので!」

 

 顔面に笑顔を貼り付けて、表面上だけは非常に愛想良く挨拶をする発目だが、誘導棒を振るのを止めないどころか何食わぬ顔で「オーライ!」と運搬人員に声を掛ける彼女が敵か味方かは分かり切った事である。

 

「なぁおい……それは、何だ?」

「ん? 見ての通りサンドバッグですけどそれが何か!」

コンクリ柱はサンドでもバッグでも無い

 

 誤魔化そうとしたのか本当にコンクリ柱をサンドバッグだと思っていたのかは分からないが*1、そんな発目の言をバッサリ両断した相澤は、上半身裸で鎖を持ち、汗を滝のように流しながらトン単位の重量を持ち上げている男衆……に話しかけてこれを地面に落とされては堪らないので、最後尾でやる気なさげに誘導棒を振っている芦戸に声を掛けた。

 

「オイ芦戸、何だこれ」

「切島用サンドバッグです」

「……マジで言ってんのかお前」

「緑谷は搬入許可貰ってるって言ってましたよ?」

「緑谷ァ!!」

 

 ドスの効きまくった相澤の声は、しかしどすこいどすこい進んでいる男衆には届かない。

 圧倒的質量を運搬する男衆は、そのままゲラゲラ笑っているプレゼント・マイクの横を通って校舎敷地内に入っていってしまった。

 

 ……相澤だって、色々考えていたのだ。

 

 無免ヒーローの連中はどうしたって悪目立ちするからせめて体育祭まではできる限り目立たないようにしてやりたいとか、その間に良い点も悪い点も、とにかく目立つように取り上げるマスコミへの対応を教えておきたいとか、色々考えていたのだ。

 

 そんな気遣いも今ので完全に徒労に終わった。

 

 表情には出さないものの、もう泣きそうになってきた相澤は、しかし気になる事を芦戸に尋ねた。

 

「……何で、上鳴と鉄哲が?」

「上鳴は昨日ウチに泊まったんで。鉄哲は、あたし達がコンクリ柱を家から搬出してるの見て『スゲェ! 俺もやりてぇぇ!!』って」

 

 相澤は頭を抱え、地の底から鳴り響くような溜息を発した。

 

「はああああぁ……!」

「鉄哲、無免ヒーロー(トンチキ集団)の素質ありますよ」

「………………もういい、さっさと行け」

「はーい」

 

 相澤にシッシッと払われた彼女は誘導灯を持ち直し、話を聞こうとにじり寄って来ている正気を取り戻したマスコミに向けて走り出す。

 

 一歩、二歩目でトップスピードに達した彼女の身体はマスコミに向けてすっ飛んでいき、突然の襲撃に動揺する彼等……のすぐ横、街路樹の幹を踏み台にし、三角跳び。

 

 その時、片腕は誘導灯を持っているので片手だけで木の枝を掴みブランコのように勢いをつけ、マスコミの頭上を抜けて着地。

 その際舞うスカートは膝を曲げて抑えている辺り抜け目無い。

 

「じゃ、先生! また後でねー!」

 

 チカチカ光る誘導灯をヒラヒラと振りながら、衆目の中正門の内に消えていく彼女を撮り、その後飢えた獣の目で相澤に向き直るマスコミの群れ。

 

 そんな彼等の目を見た相澤の判断は、実に迅速であった。

 

「ハハハハ!! マジイカれてんなアイツら! な! イレイザー!」

「マイクあと頼んだ。俺は事務室に確認取ってくる」

「は?」

 

 つまり、全力全速の逃走(逃げるんだよォ!)である。

 

「……あ! 待てお前コラ…………」

「すみません! 今のは新入生ですか!?」

「ヒーロー科なんでしょうか!」

「どうなんですか!? 教えて下さい!」

「うわぁぁ!? あ、アンニャローッ!!」

 

 プレゼント・マイクが空に向かって叫ぶが、それでマスコミは止まらない。

 

「どうなんですか!?」

「我々は真実を知りたいんですよ!」

「報道の自由!」

「おわ、ちょ、ステイッ!!」

 

 悲痛なマイクの叫び声を背中に聞きながら、相澤は黙って正門近くに停めていた校内移動車(原付)に跨った。

 

「マイク……死ぬなよ」

 

 去り際にそう言い残して。

 

 ……相澤消太。教育に関しては厳格であるが、それ以外ではそこそこ良い性格をしている男である。

 

 トトトト、と単気筒の振動に揺られて数秒後、ガコンッ! という衝突音と同時に「あ! これ校舎入り口入りませんよ!」「ぶつける前に言ってよォ!!」という叫び声が聞こえ、相澤は深い深い溜め息を吐いた。

 

「…………オイ、お前ら」

「取り敢えずバレない内に修復しちゃいますね! …………あ」

「とりあえずそれ降ろせ。そして一列に並べ」

 

 男衆プラス発目、プラス合流していた芦戸を横一列に並べ、一人一回ずつ脳天に拳骨をプレゼントする。相澤は過度にならないという条件付きではあるが、体罰賛成派であった。

 

 尚、鉄哲や上鳴は神妙にしていたが無免組は拳骨一発で済んだ事に『え? これで終わり?』という顔をしていたので相澤の頭痛は倍増しとなった。

 

 

 

 一年A組。ホームルーム。

 

 

 

「……という事が今朝ありました。本当に訓練に必須なものだった事、本当に家には置けなかった事、『一応』事務室に連絡して許可を取っていた事、それと初犯だった事を鑑みて今回はこれ以上言わんが、次やればマジで容赦しねえからな分かってんのかそこの五人」

「オッス」

「はい、スミマセン……」

「ウス」

「ういす」

「はーい」

 

 教室の端々……若干五名のイカレ共(可愛い生徒)から上がる声に相澤は軽く頷く。

 

 それで一旦は怒りを収めたと判断したか、切島がおずおずと手を挙げたので、目線で言葉を促す。

 

「……あの。言いにくいんすけど、先生……」

「何だ?」

「訓練用のセントリーガンと地雷の持ち込み許可も貰いたいんスけど……」

 

 相澤は全力で切島にチビたチョークを投げつけた。

 

 

 

 昼休み。職員室。

 

 

 

「……って事があったんですよ」

「ワハハハ!! そりゃ災難だったなイレイザー!」

 

 雄英高校では、希望する教職員には昼弁当が支給される(給料天引き、一食四百円)。

 

 弁当は基本的に一ヶ月のメニューが決まっている為、自分で食べたいものがある職員は食堂に行くが、別に食にさしたるこだわりの無い者や、食堂から仕事場が遠い者、仕事が多くて食堂に行く暇もないごく一部の者などは弁当を注文している。

 

 弁当は注文する際に設定しておけばドローンで指定場所まで運んでくれるので多くの職員は昼前授業が遠めの移動教室である場合等に弁当を頼む。

 

 相澤の言葉を聞いて笑っているパワーローダーは毎日弁当勢であった。

 

 彼いわく、「メニューにハズレも無いし、食堂行く為に服着替えるのもな……」との事である。

 彼は基本的に一日中ずっと学生達と鉄を削ったり溶接したり薬品を使ったりしているので、そのヒーロースーツは大体いつでも相応に汚れているのだ。

 

 ちなみに、その横に居る相澤に関しては弁当も注文していないし食堂にも行かない。

 

 彼は隙間隙間の時間に十秒でチャージできるタイプのアレと栄養素サプリメント、それにカロリーバーを適宜補給する事でキッチリと一日に必要な栄養素を取っているのだ。

 

 彼は大したことでもないと「起きてる時は常に腹四分目、膨れてもないし空いてもないぐらいにするのがヒーロー活動には最適です」と言う。知り合いにヒーローロボットと呼ばれる事のある相澤ならではの感覚と言えるかもしれない。

 

 尚、後々この事を聞いた緑谷が「プロヒーローにも僕らみたいな変わり者が居るんだなぁ」と呟くのだが、言っている事自体は間違っていないし自身が変わり者であるという認識をきちんと持っている事は褒められて然るべきであるが、それはそれとして彼は相澤に殴られても文句は言えないであろう。

 

 と、無免のエピソードも交えつつ。

 

「全く……入学一週間くらい大人しくできないもんですかね」

「ハハ、その程度可愛いもんだろ! 俺なんてなァ……」

 

 窓の側に居る彼ら二人の眼下には、件のコンクリ柱と『屋外鍛錬場敷設予定地』の看板を設置している発目以下数人のサポート科、そして無免ヒーロー達、そして端の方には体育座りで黄昏れているセメントス(監督兼補強作業役)が見えた。

 

「……俺なんてなァ! 発目(アイツ)の熱意にアテられてもう……クラスの半分が暴走状態なんだよ!!!」

 

 ワッショイワッショイと大騒ぎしながらコンクリートを釣るための鉄骨を地面におっ建てようとしている複数人のサポート科達。無免達の力技で立体交差させた鉄骨に近寄った金髪のサポート科生が、ヘソからレーザーを出して交差部分の溶接に掛かる。

 

 職員室にまで、「きらめき☆レェ──ザッ!!」というシャウトが聞こえてきたので、精神衛生上良くないと考えた相澤は黙って窓を閉めた。

 しかし、閉めた窓越しに「んメルスィッ!!」というシャウトまでハッキリと聞こえたので、彼は窓から一番遠いコーヒーメーカーに向かった。

 

「砂糖いくつ要ります?」

「三つ」

 

 自分の分はブラックで、心労激しいパワーローダーの分は砂糖三つにミルク二つを添えて手渡す。

 

 窓の外からは未だにやいやい声が響いていた。

 

「…………パワーローダー、俺」

「言うな。何であれやり切らなきゃならねンだ」

 

 あの連中を三年見る自信が無い。

 

 その言葉を遮られた相澤は、黙ってコーヒーを啜った。

 

 教育って難しい。その事を痛感する昼下がりであった。

 

 

 …………ちなみに、一連の会話を横で書類を書きながら聞いていたオールマイトは、午後からそのクラスに向かうのが恐ろしくなってガクガク震えていた。

 

 そうこうしている内にどうやら敷設が終わったらしく、窓の外からは万歳三唱が聞こえてきたのだった。

 

 

 

 午後。予鈴前。

 

 

 

 ヒーロー科は一日に七時限まで授業がある。

 

 前半、昼休憩までの四時限が一般科目の授業であり、残る三時限がヒーロー科授業だ。

 

 このハードスケジュールが週六日……つまり土曜日までミッチリと詰まっており、ヒーローになることの大変さが伺える。

 

 ちなみに参考を出すと、普通科は週五日、その内二日は五時限までであり、サポート科、経営科も同様だ。

 

 その代わり、サポート科や経営科は数学A、Bや古文といった科目が削除され、数学総合、国語総合、社会総合といった総合科目に統合されている。ヒーロー科は全部きっちりやる。

 

「……ッわーたーしーがー!!!」

 

 そして、その午後のヒーロー科目の目玉、ヒーロー基礎学の教科担任。それこそが日本が誇る圧倒的ナンバーワンヒーロー、オールマイトなのだ。

 

「普通にドアから来たッ!!」

 

 バンッ!! と、ヒーロースーツを着用してドアから普通に入ったオールマイト。

 

 感動にざわめく教室の中、昼の作業の影響か汗だくの上半身裸でお行儀良く座っている複数の生徒を努めて見ないようにしつつ、彼は教壇に立つ。

 

 オールマイトのスルースキルが三ポイント上がった。

 

「……さて! 今日からヒーローの卵として様々な事を学ぶ君達に、まず聞こうかな。『ヒーローにとって必要なものは何か』!?」

 

 オールマイトが発したその疑問には、様々な答えが帰ってくる。

 

「まず迅速かつ明快な判断力でしょう! 何故ならばそれが無ければそもそも人を助けることもままならないからです! その証拠に入試において」

 

「お色気」

 

「やっぱあれじゃね? 正義の心! ってやつ!?」

 

「露出」

 

「殺傷力」

 

「元気ー!」

 

「肌色」

 

「ケロ……人当たりの良さは必要でしょうね」

 

「ムネとシリオボァァアッ!?」

 

「こういう奴を許さない気持ち」

 

 これだけで大体誰の言い分か分かるというものだが、オールマイトは若干一名を除く全員に「大体正解ッ!!」と親指を立てた。

 

「というかぶっちゃけヒーローに『正解』って無いんだよね! 何故か分かるかな!?」

 

 うんー? と全員に問題提起をする……瞬間、教室の端で手が挙がる。

 オールマイトが発言を促すと、手を上げた主……八百万が立ち上がり、背筋を伸ばしてつらつらと持論を述べる。

 

「はい。理由は偏に、現代のヒーローは『完璧さ』を求められているからではないでしょうか。

 

 ヒーローはヴィランを倒す為に制定された職業ではありますが、彼等の社会地位が向上するにつれ活動の幅はそれだけに留まらず、街の警邏、警察や消防イベントへの出席、果てはスポンサーのCM起用など芸能界に進出する事も多く、自身の飲食店を持つヒーローも多いと聞きます。

 

 よって人々がヒーローに持つイメージは優しく、しかし悪滅に躊躇せず、華やかでありながら世界を支える縁の下の力持ちのような役割もあり……と、相反するものが多いです。

 

 ……ですからこそ、ヒーローに求められるのは答え……正解が存在しない『完璧』、という事でしょう」

 

 

 しん、と一瞬静まる教室。

 

 どこまでも実直で思う丈をぶつけてくる飯田のそれと違い、八百万の話し方は長文ではあるものの緩急や抑揚があり、人に聴かせる言葉だった。人を引き込む語りだった。

 

「………………うんっ、そうだね!」

 

 そうした、ある種鍛えられた語りの前ではオールマイトは最早何も言えない。

 

 なんせ、オールマイトのコミュニケーションは基本的に勢いとボディランゲージ、そして溢れ出るカリスマと誠実さによるゴリ押しである。こういう、『上手な会話』には彼は意外と弱かった。別に意外でもねーか。

 

 心の中で(思ってたより言われた……!)と思いつつ、切り替えの早い彼は彼女に着席を促してから気を取り直して一つ咳払いをした。

 

「んー、ゴホン! ありがとう八百万少女! 良く考えている意見だったよ! この短時間でそれだけ纏まった意見をよく出せる!」

「いえ。一意専心、プロになろうとするのであればこの程度は当然ですわ!」

(そっか、私はこの理屈先週考えたけどね!)

 

 拍手しながらも、オールマイトの背には冷や汗が流れていた。

 

 自分が全ての面において学生に優っているなど、ある訳がない。しかしそれでも、なんとかして導いてやらねばならない。

 

 教育って、難しい。初めて人を育てるオールマイトがそれを痛感したのは、初授業開始三分後であった。

 

 ……しかし、彼女の言う事は正しくともそれが全てではない。それを伝えるため、オールマイトは右腕の人差し指を立てる。

 

「……確かに、彼女の言う事は正しい。非常に正しい。常に他人の評価に晒され、ある意味で他人に生き方を定められる。正しくヒーローという職業に対する一つの正解だろう……けどね、君達にはそこにもう一つ、大事な視点を増やしてほしい!」

 

 そう言って、彼はもう一本、中指を立てて生徒達にピースサインを見せる。

 

「それはね、『君たち自身』がどういうヒーローになりたいのか、さ!」

 

 おお、とざわめく生徒達の前で、ピースサインを収めてグググッ……と身体に力を溜める。

 

「『多くの人に認められる』! そして『何より自分自身が誇れる』ヒーローに! その為のヒーロー基礎学! 君達の将来の足場、文字通りの基礎になるヒーローの素地を作る為、様々な訓練を行う科目だ! あ、あとあんまり大きな声で言わないけど単位数も一番多いからね……と、いう訳で! 

 

 バッ!! と生徒達に見せつけるように掲げる一枚のプレート。

 

 そこには『BATTLE(戦闘)』とデザイン文字で描かれており、それを見た生徒達が盛り上がる*2その盛り上がりに火を注ぐように教室の壁が開かれ、そこから番号の描かれたアタッシュケースがせり出してくる。

 

「うぉ!? そこ開くんか!?」

「え!? まさかそれって……!?」

「そう!! 君達が入学前に送ってくれた「個性届」、そして「要望書」に沿ったオーダーメイドの……!!」

戦闘服(コスチューム)キタァァァァ!!!』

 

 最早クラスの盛り上がりは最高潮。

 

 大衆のテンションを上げる事に関しては世界トップクラスのオールマイトはそのまま彼等にコスチュームのケースを配布し、自身のマントを翻す。

 

「着替えたら、順次グラウンド・βに集まるんだ!」

『はーい!!』

 

 そうしてオールマイトは教室の外に颯爽と出て行く。

 

 途中、後ろから『あのクソバカ安全装置掛けてねえッ!!』という声と何かの破壊音が聞こえたが、切島鋭児郎(無免ヒーロー)の声だったのでまぁいいやと思ってそのまま一足先にグラウンドに向かったオールマイト。

 

 オールマイトのスルースキルが三ポイント上がった。

 

 グラウンドβの入り口で、仁王立ちで腰に手を当てて少しの間待っていたオールマイトは、入り口に人影が見えた事で笑みを深める。

 

「……格好から入るってのも、大事だぜ少年少女! ああ、格好は大事さ! コスチュームを纏い、そして自覚するのだ。今日から自分は……ヒーローなんだと!」

 

 グラウンドβの入り口で、相応に重い胸の支えに腕を組んで少しの間待っていた発目明は、入り口に目当ての人間が見えた事で笑みを深める。

 

「なるほど! ガリガリフォームとマッスルフォームを使い分けるオールマイトが言えば説得力も倍増しですね!」

 

 …………………………

 

「…………あの、所で君は何でここに居るの? 発目少女」

 

 残念ながら彼女の存在を流す為にはオールマイトのスルースキルが足りなかった。

 

「ああ、気にしないで下さい! 出席日数と単位の計算は完璧ですので! 一単位も落としませんよ! 補習なんて時間の無駄でしかありませんからね!」

「いや、そういう事を聞きたいんじゃなくてね、もっとこう……」

「…………ああ! 問題ありませんよ! パワーローダー先生には早退届を出してますから!」

「そうじゃなくて…………いや、もう……まぁ、いいか。邪魔はあんまりしないでね」

 

 ロンモチ! と声を張る発目の姿を見て、彼女の目当てである緑谷が貧血を起こしかけるが、誰の手も借りずギリギリで踏み留まる。

 

 多くの生徒達が様々なコスチュームに見を包む中、緑谷を含むツギハギだらけの(・・・・・・・・)一団は、それで尚異彩を放っていた。

 

 厚底のシークレットブーツで身長を高くし、トレードマークである逆立てた紫髪をフードで完全に覆い隠し、そして大きな黒いサングラスと変声マスクで顔を隠す。

 更にはツギハギマークが目立つ大きいコートを羽織って肌の露出一切を無くした、個人の特定が極限まで難しい……一見すれば男か女かすらも曖昧な……心操人使。

 

 

 身体の前面を見れば一切の装備を付けていない、下はツギハギのボロいズボン、そして上は裸一貫の少年。

 しかしその分かりやすいガチンコ系な見た目の背中側には細々とした装備が敷き詰められている。

 肘と脹脛近くには小型のブースター。ズボンを止めるベルトの後ろにはアンカー射出装置。そして背中にはアタッシュケース(K-SATs)

 どこかの誰ぞに個性を気に入られたせいで装備の厚みが想定より半分増した……そしてどこかの誰ぞが原因の暴発トラブルのため非常に顔の引きつっている……切島鋭児郎。

 

 

 身体のラインがよく出るビビッドカラーのボディスーツを纏い、ツギハギのショートジャケットを羽織った少女は、何やら唇を尖らせて頭を抱えながらボディスーツの各所を引っ張っていた。

 彼女が引っ張った部分には小さなスリットが開いており、そこに何かが入っているのを確認しては頭を捻り、別箇所のスリットを引っ張っては中身を確認して頭を捻っている……芦戸三奈。

 

 

 全体的に動きやすい軽装ながら両腕には手榴弾を模した大きなガントレットが装着されており、そして右腕には拳銃のシリンダーからバレル部分を模したパーツが装備されている。

 そのガントレットには全体的にツギハギマークが付けられているが、その重厚感から脆さは伺えない。

 カラフルで安っぽい、ガムボールによく似たものを手持ち無沙汰に二つ三つ弄んでいるその手には小さなアタッチメントが付いており、それと同様の物がブーツにも付けられている。

 そのブーツの踵部分には、無限軌道のようなローラーと、切島のそれとは違うブースターが設置されている。

 片目に装着した小型HMDの調子を確かめてふてぶてしく笑みを浮かべる……爆豪勝己。

 

 

 赤い帽子を目深に被り、同じ色のタクティカルズボンを履いた少年。

 黒色のメッシュやリブ生地がツギハギされたノースリーブシャツから誰よりも極限まで磨き上げた筋肉質な腕を剥き出しにした少年の首元からは、緑色の長いマフラーが伸びている。

 彼にヒロイックさを添えているのはそのマフラー程度のもので、後は普通の服と言われても信じてしまいそうな位に普通な彼のベルトには、非日常的なガンホルダーがぶら下がっている。そして、背中には切島と同形状のブースターと、木刀のような形をした金属……俗に言う鍛錬鉄刀を背負っている。

 オールマイトの横に発目が立っているのを見て全てを諦めた笑みで雲の数を数えている……緑谷出久。

 

「…………さぁ、始めようか!! 有精卵共!!」

 

 オールマイトはとりあえず緑谷は無視でいいやと声を張る。

 

 オールマイトのスルースキルが三ポイント上昇した。

 

「戦闘訓練の、時間だぜ」

 

 

 ヒーロー基礎学(夢への地獄道)最初の授業……戦闘訓練、開始。

*1
A.本当にそう思ってます

*2
特に半裸の連中の一人が物凄く盛り上がっていた。何豪とは言わないが




君は覚えているか、あの時の(次に重いもの持たせるときは車とか使わず自分達で運ばせるという)約束を。

心操のコスは完全にオリジナルですが、緑谷のコスは武器と同じく洞窟物語からです。他の面々もチョコチョコ改装入れてます。

次回から戦闘ですねー……どーしよ。
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