普段飄々として弱味を見せないタイプの人が酔っぱらって弱ってる時の気だるげな表情とかそういうのって良いと思うんですよね。それがシュタインみたいな普段は割とSっけの多いキャラだとなおよし。そんな人が徹夜で荒れに荒れた髪を鬱陶しそうに掻き上げながら冷たい水飲んで、細い声で「あぁ…」とか唸りながらちゃんと歩こうとしてる風によろつきベッドに向かって、そのままダイブした後にそれを見つけた人の対応でも割と好みって別れると思うんですよ。あ、これ男女じゃ無くてもね。本文で見てもらえると思うんですけど緑谷は今回何も言わずにシュタインの足をベッドに上げて布団を掛けてあげたんですけど(たぶん枕の位置も直してる)これ心操なら一回起こして無理なら足は上げずに布団だけ掛けるとかしそうですし、爆豪ならもう何がなんでも叩き起こしますよ多分。発目?無視だろ。もしソウルイーター原作だとスピリット先輩とかだと何回か起こしてそれでも起きないとなったら凄いブツクサ言いながらちゃんとした体勢で寝かせてあげるのかなって思ったりね。今この小説に出てるキャラクターだと芦戸なんかはちょっと違うかなって思うんですけど、見かけたらまず寝てるかどうか確認して、それで一回今の姿を写真に納めてから割と優しく起こしてくれるかなって思います。んで本人がそんなこともあったなっていうのを忘れるかくらいのタイミングで「そういえばこの間さー」ってその写真見せてくるんですよね。それで恥ずかしがるところを見てニッカリ笑うんですよ。んで「へへ、秘密握っちゃった!」とかって言ってこっちにちょっとしたコンビニスイーツとかを奢らせて一人じゃ悪いから一緒に食べようよって言ってまた一人無自覚に哀れな犠牲者の恋心を盗んでいくんだあああああああああアアアアアアアアアァァァァァァッッッッ!!!!!!!!!
あ、みんな大好きスピリット先輩が一応出ますよ。
リア10爆発46さん、Almecaさん、みえるさん、誤字報告ありがとうございます。
「ド~はドリルのド~♪ レ~はバレルのレ~♪ ミ~はエンドミルのミ~♪ ファ~はFANUCのファ~♪」
朝のシュタイン家、幾度もの爆発に耐えかねてドアが壊れてしまい、今や廊下と部屋を区切るものが何も無い発目の私室。そこから何者か……発目なのだが、ドレミの歌の歌詞を適当に変更した『鉄材加工ドレミの歌』を歌いながら卓上旋盤で細かな部品を作っていた。そこに、毎朝食事を作りに来る緑谷がエプロンをほどきながらかつてドアの存在した部分に取り付けられたノッカーを鳴らした。
「明ちゃん、おはよう。ごはん食べよう?」
「ソ~はソルトバス~♪ ……っと、おはようございます出久さん! 今日のごはんは何ですか!?」
一時間ほどの僅かな仮眠のみで活動している発目の髪に付いたゴミをさっと手で取り、何やら得体の知れないカスが大量に付いた顔面を、持ってきた温タオルで拭き取る出久。そのタオルを発目に渡し、手を拭かせながら緑谷はやけに上機嫌な発目に話しかけた。
「朝からご機嫌だね」
「そう見えますか見えちゃいますか!? そうなんですよ機嫌良いです私! というのもですね! 私が二年前からおじさんの力を借りずに単独開発しているデバイスに進展があったんですよ! 今までだって少しづつ進んではいたんですけどここに来てやっと」
「はい、油汚れ落としてね」
緑谷は緑谷に興奮を伝えるのに必死で渡したタオルを使うのを忘れている発目の手を取り鉄粉を落としてやる。その間も発目の話は続く。
「大きな壁が取り除かれて今までとは比べ物にならないほどのスピードで開発も進むはずですしこの調子なら高校に入るまでに拡張システムの開発に取り組めるかもしれないですよ少なくともあと一年あれば出久さん専用アイテムがとりあえず形になると思いますので! ああ名前を」
「はい、ピザトーストだよ。飲み物は牛乳で良いよね?」
ペラペラと話を続ける発目を見つつ、良くこんなに舌が回るなあ等と考えながらシンクで手をキチンと洗わせた緑谷は、椅子に座った発目の前にピザトーストを置く。発目は話しながらもそれにかじりついた。
「決めはぐっ! まぐまぐまくむむんふふんふふんむ! ふむむっふふむーむむんはぐ! はぐんむむうまぐまぐむんあぐ!」
「へえ、もう基本構想はできてるんだね。しかし一人でやってるって、凄いなあ」
不明瞭な早口を完璧に理解して返答する緑谷。ちなみにこの芸当は爆豪や心操、シュタイン等も錬度に差はあるができる。一番理解度が高いのは緑谷であるが。
「むんむむ! まぐんむんむふむむはむ! むまむまぐんまぐむがむぐ!」
「はは、そこら辺はお手柔らかに……」
「むんぐ! むむむんむぐっむ! っぷは! ごちそうさまです!」
「はい、お粗末様です。昨日のお湯沸かし直してるから、さっとお風呂入ってきてね?」
「はーい!」
発目がバスルームに向かったのを確認して、緑谷が弁当の準備にかかる。とは言っても前日の残りを詰め、余ったスペースにはちょっとした冷凍食品等を入れる程度だ。それと、自分の分のご飯はそのままだが発目の弁当箱にはラップで包んで握ったおにぎりにして入れておく。基本的に食事中も作業の手を止めない発目に対する心遣いだ。クラスメイト達どころか教師陣にまで「発目を甘やかしすぎ」と言われる緑谷のお気遣い男子としてのスキルが如実に反映されていた。
「出久さん石鹸新品何処でしたっけ!?」
「棚の二段目だよ」
「ありましたァ!」
この家誰の家だっけ、というのは言わない約束だ。緑谷が弁当を包むと同時に玄関の扉が開き、誰かが台所に入ってきた。緑谷がそちらを振り向くと、シュタインが立っていた。その目は赤く、髪型は普段以上に荒れ、ついでに酒臭かった。今の今まで飲んでいたらしいことに緑谷は苦笑し、冷たい水にレモン汁を数滴垂らし、ほんの少しの砂糖を混ぜた二日酔い用の薄いレモネードをシュタインに渡した。
「お早うございます。先生」
「……ありがとう……」
「珍しいですね。何かあったんですか? こんな時間まで……」
緑谷の渡したレモネードを美味そうに飲み干し、水道の水で顔を洗ったシュタインが嫌そうに、しかし、付き合いの長い人間にしか分からないがとても嬉しそうに朝帰りとなった経緯を語る。
「イギリスに居た頃お世話になった先輩がこっちに来ててね……ずっと愚痴聞かされてたよ」
「へえ、ヒーローですか?」
「んー、まあね。浮気性の女好きで、それで奥さんに愛想尽かされて娘連れて家出ていっちゃったんだってさ。それ追いかけて仕事やめて日本まで来たらしい」
シュタインがヘラヘラしながら語った内容が思ったよりもコメントしづらい内容だったことに緑谷は思わず閉口する。話を聞くと完全にダメ人間だが、その話しぶりからしてシュタインがその人を慕っているのはよくわかる。おまけに自分はシュタインの義娘と交際している立場だ。色々複雑すぎて何と言うのが正解なのか分からない。
「……」
「結婚したときはあんなにラブラブだったのに、変わるもんですねって言ったらガチ泣きされた」
「……」
さらにそっちの話題を盛るのは止めて欲しい。緑谷は朝食を作った際の食器などを片付けながら切実にそう思った。自分から振ったのは確かだがこんなに反応に困る話題だと思ってなかった。
「出久も気を付けないと」
「そのコメントしづらい話題を僕に振るんですね!?」
「いやいや、ヘラヘラ」
「いや、僕は明ちゃん以外とはそういうことしませんよ!?」
「ヘラヘラ……うん、信じてるよ。おやすみ出久」
「えっあっ……あ」
普段のシュタインならここから五分ほどヘラヘラしながら煽りに煽ってくる場面だが、やけにあっさりその場を去ったことに出久が何かを言う前に、彼はその理由に気がついた。
「……あー、うん」
「……」
シュタインが出ていった台所の入り口に、バスタオルを巻いただけの発目が立っていたのだ。その表情は普段の判子でも押したように一律な笑顔ではなく、嬉しいような照れ臭いような困ったような、不可思議な笑顔だった。その表情を見れば先程の緑谷の発目一筋宣言は確実に聞かれていたと解り、緑谷の全身からは変な汗が吹き出た。とりあえず服着てきなよ、とでも言えばこの場は切り抜けられるだろうに、緑谷の口からはあっ、とかうっ、だとか、奇妙かつ少々気持ち悪い声しか出なかった。
「……え、と」
「……」
「……あー……その……ね」
「……ふへへっ」
「!?」
発目から何やら聞いたこともないようなハニカミ笑いが聞こえた。その事実に緑谷が愕然とすると同時に発目はパタパタと脱衣所に消えていった。たっぷり十秒、石像と化した後に緑谷はゆっくりと膝から崩れ落ち、地面に両手を着いた。
「……不整脈起きそう……」
なんだよあの笑いかた。あれは反則だ。かわいすぎる。そう思っていた緑谷だが、ふと発目が先程まで居た場所を見ると床がビタビタに濡れている(恐らく風呂に入ってから体をろくに拭かなかったのだろう)のを見て非常に安心感というか、ホッコリとした感覚を覚えた。
「あー、やっぱり明ちゃんは明ちゃんだなぁ……」
菩薩のごとき笑みを浮かべながら布の端切れを棚から取りだし、鼻唄など歌いながら床を拭く緑谷。他人から見て全く意味不明であるが今の発目のした、躾のなっていない犬のごとき所業は緑谷の琴線に触れるものであったらしい。先程見た、普段と違う笑顔も相まって緑谷の機嫌は天井知らずに上昇する。発目のなす事ならば何でも笑顔で受け入れてしまう。発目病末期患者などと学友からは呼称されている事を彼は知らない。
「……ん、よし! ついでに玄関の掃除もしとこう。明ちゃん! 準備はー!?」
「万事オッケーです!」
「あれはできてないな……玄関は帰ってからにしよう」
案の定髪が生乾きの状態で制服を身に纏い、発明の続きをしていた明を作業台から引き剥がして身繕いをさせ(七割は緑谷がしたが)、私室のベッドに突っ伏して寝ているシュタインの足を持ち上げキチンと寝かせて布団をかけ、その僅かな時間で再び作業台に張り付いていた発目を引きずってやっとの事で家から出た緑谷は隣の家の玄関を開け、そこから母親に挨拶をした。
「母さん、行ってきます!」
「引子さん行ってきます!」
「行ってらっしゃーい! 気を付けてね!」
コレが、緑谷出久の日常である。
通学時間、通学路。
例えば、ヒーローマニアに折寺市近辺の有名なヒーローを上げさせれば、まずシンリンカムイが始めに出されるだろう。人気商売の面が非常に強いヒーローという職で、メディアを味方に付けた彼は瞬く間に人気ヒーローへと成り上がり、元の実力も高かったこともありその地位を一種不動のものとした。あまり語る事でもないが、劇的な過去とは常に一定の需要があるものだ。
ではとりあえずそれを置いておいて、折寺市民に折寺のヒーローと言えば、と尋ねると、また別の答えが帰ってくる事だろう。
「デステゴロ!」
「デステゴロー!」
「おはよーデステゴロー!」
「おう、今日も勉強頑張れよ!」
そう。警告色のヒーロースーツを身に纏ったヒーロー、剛力ヒーローデステゴロである。
彼は他の目立つ活躍を望む多くのヒーロー達とは違い、完全に地域に密着する形で小学生の登下校の見守りや地域自治体との共同イベントなど、他のヒーローが金にならないと断るような仕事を積極的に受け入れ、『折寺のヒーロー』としての不動の地位を築いていた。
また自らの事務所に積極的に若手ヒーローをサイドキックとして数年間のみ受け入れ、ヒーローの現場を教える等といったヒーロー育成の方面でも近年その名を広めている。
最近になって彼のワークスタイルが業界紙に掲載されたこともあり、一般的な認知度は低くともヒーローの間ではそれなりに有名どころのヒーローであった。
「岳山!」
「たけやまー!」
「岳山ァ!」
「るっさいわねクソガキども!」
「キャー!」
「岳山ァが怒ったー!」
「岳山ァ!」
「……ふふふふふ、ガキだからって手出しされないとでも思ってんのかしらねェ!?」
「止めろ馬鹿」
そして、そんなヒーローの下で働き始めて四年目になる岳山もまた、折寺の人間に『デステゴロのサイドキックの岳山』として認知されていた。彼女が独立してヒーロー活動を始めても、この街では自分の考えたヒーロー名よりも岳山の名前の方が有名になってしまうだろう。南無。
「あらァ岳山ちゃん、今日も綺麗ねぇ。ほら、飴あげるわ」
「有難うございます、岳山は止めてください」
「岳山さん! いつ独立するんです? あ、これ試供品なんですけど良ければどうぞ!」
「ありがと、余計なお世話。あと岳山は止めろ」
「おう岳山ァ! もう飯食ったか!? おにぎり持ってけおにぎり!」
「だァから岳山は止めろつってんでしょうがッ! ありがと!」
デステゴロとはまた違う方向で折寺の住民達とある意味素敵な関係性を築いている岳山は、今日も今日とてパトロール中に岳山岳山と呼び捨てにされては栄養ドリンクだのおにぎりだの飴だのミカンだのを貰っていた。彼女が独立のために日々困窮した生活を送っている事はそれなりに知られている事実である。
「は──ー……疲れるわ」
少し人の少なくなった路地で、岳山は手に色んな差し入れを抱えながらコキコキと肩を回した。そんな彼女に、デステゴロが苦笑しつつも注意する。
「あんまりそういう事言わねえ方がいいぞ……てか、良いじゃねえか。ああいう気安い人気ってのは中々得にくいんだぞ?」
両手に抱えた大量の食料品からダイエットビスケットを取りだし、デステゴロにひとつ渡した後に岳山自身もそれを口に含む。チョコレート味の生地がそれなりに美味しかった。
「分かってますけどォ。私としてはヒーロー名も名乗らない、ヒーロースーツも着ないって状況での人気はフクザツですよ」
「いっそ出久みたいに個性使わずにヒーローするか? 体術ヒーロー岳山って」
「うるさい馬鹿」
岳山は常々ダサいとデステゴロに進言している、警告色と濃緑色の布を使われた作務衣風サイドキックスーツの裾を弄りながら、ポツンと溢した。
「出久君……だけじゃないですけど、あの子達みたいにはなれませんよ……私、あそこまでカッコいい生き方できません。私は目立ちたくてチヤホヤされたくてお金欲しくてヒーローしてるんで」
「ハハハ! まあ、アイツらはヒーローだからな。まぶしいのは仕方ねえよ。それにお前が人助けするのが夢なんです! とか言っても嘘臭さしか感じねえ」
「ンだと」
「それに、別にそれで良いだろ」
「はいぃ?」
要領を得ないデステゴロの発言に、露骨に怪訝な顔を向ける岳山。それを見て苦笑しながらもデステゴロは言葉を続ける。
「目立ちたくてチヤホヤされたくて金が欲しくて……確かに欲にまみれてるけどよ。その手段としてしんどい上に痛くて辛い『
「先輩……」
思ってもみなかった言葉だったのか暫く言葉を無くした岳山は、その後輝くような笑顔を作って、
「先輩めっちゃクサい事言いますね!」
「絶対言うと思ったわ! あークソ見回り続けんぞ!」
「はーい、あ、あと相談なんですけど」
「給料は据え置きだ」
「ふぁっく」
町の治安や近辺に現れたヴィランの事、ここら一体に流れる都市伝説勇者とんぬらについて、彼氏ができない等々、様々な話をしつつ通学時間に合わせた巡回をしていると、二人はよく見知った顔を見つけた。
「……ん、おはよう出久! 明!」
「あらおはようお二人とも。相変わらずラブラブねえ」
「おはようございます。毎日ご苦労様です」
「おはようございます! デステゴロさん、うちの製品どうです?」
二人が見つけたのは自転車に乗った緑谷と発目だった。今日は特に急ぎの用事もないので2人乗りはしておらず、それぞれ別の自転車を漕いでいる。デステゴロ達を見つけた二人は、自転車を降りて彼らにペースを合わせて歩き始めた。
「ああ、こないだのあれか。また製品レポートを送る……にしてもここ一、二週間お前らの顔を町中で見ないな。何かあったのか?」
「あ……最近は先生が暇してて……」
「もう言わなくていい。全部分かった」
緑谷の制服から覗く生傷と、なんとも形容し難い表情に全てを察するデステゴロ。恐らく暇を持て余した彼らの師に手ずから地獄巡りツアーでもさせられているのだろう。何だかんだで緑谷達と関わりが深く、必然的にかの人を良く知っているデステゴロにはそれが分かるため、黙って胸の前で両手を合わせた。さらば緑谷の合掌である。当の緑谷は苦笑いをしているが。
「……あ、もう学校ですね。仕事頑張ってください」
「あいよ。岳山ァ! 見回り続けるぞ!」
「えー、そんなの作ってんの……分かりました! 明ちゃん、また相談乗ってね!」
「顧客の頼みなら聞きましょう! では!」
発目と何やら話をしていた岳山を呼び、デステゴロは校門前から離れていった。緑谷達はそのまま校内に入る。
「明ちゃん、何の話をしてたの?」
「巨大化した際に何か武器を使えないかという話でしたので、スイッチ一つで硬化するグローブなどの案を出しておきました。まあ材料と設計と加工道具とそれにメンテナンスも必須でしょうし、簡単にはやれません。岳山さんの個性は開発者泣かせでワクワクしますね!」
「確かに。身長を約十倍にする個性。普通なら一生使うことの無い個性だ。その個性でヒーローになろうと思うというのは凄い。でもその個性の性質上普通の武器は使えない。でも普段からサイズを十倍にした武器なんてとても持ち歩けないよな。労力に見合わない。でもそれだと結局多少丈夫な全身タイツという防御力の低い装備にならざるを得ない。もしかすると足の裏に鉄板とかさえ装備していないのかも」
「岳山さんは結局のところ伸縮性が最重要視されますからね。
「あーそうか。そういうタイプでも動力源の問題があるよな。いくら巨大化すればスイッチサイズとはいえ異物感は拭えないしそもそもかなりの高電力が必要で現実的じゃないし、うーんこれは、考えるほどうまくいかない。確かにこれは楽しいね」
発目の癖なのか、両手をダイナミックに広げながらペラペラと自分の考えを披露する横で緑谷も癖で自分の口元に手を当てながらブツブツと考察をする。尚ここは学校の玄関である。周囲の同じ時間帯に登校した生徒達が気味が悪い物を見る目線を二人に向けている。
「岳山さんの女性的なイメージも崩せないのでシルエットを変えるような事もあまり考えられないんで痛いです!」
「ブースターなんかの機動力底上げ系も結局は、いや小さい時に飛び上がって大きくなってプレスっていうのはッンガァッダアァ!!?」
その時、後ろから来た男によりペラペラうるさい発目の頭には手の軌道が残像として見えるほどの早さで振るわれた平手、ブツブツ不気味な緑谷の頭には情け容赦の一切存在しない本気の肘鉄がかまされた。勿論犯人は今登校してきた、うずくまる二人を睨んでいる爆豪である。尚、本人に睨んでいる意識はあんまりない。普通に見てるだけである。六割くらいは。残り四割は殺意。
「朝っぱらからブツブツ気味悪いんだよ。人目につかんとこでやれや」
「何するんですか勝己さん」
「……ふぬおぉ痛ぁぁ……かっちゃん、おはよ……ねえ血出てない?」
「ケッ」
「え、出てないよね!?」
「いつも通り普通の顔ですよ出久さん」
「出てないよね!?」
「では私は部室に行きますので! また後で!」
「出てないよねぇ!!!?」
一人教室に去った爆豪。風のように部室へと飛んでいった発目。一人になった緑谷はトイレに行き血が出ていないことを確認して教室へと向かった。
まあもしも血が出ていれば彼らは自分を放っておくほど薄情ではないし、なにもリアクションが無かったということはつまりそういうことなのだと理解してはいても何となく釈然としない緑谷であった。
昼休み、教室。
「あ、出久さん」
「え、何?」
「魂威銃の試作品できましたよ!」
「へえそうなん……え?」
「魂威撃てる銃の試作品できましたよ!」
「ええええっ!? 嘘!? いつ!?」
「飯食ってる時に騒ぐなデク!」
「っとごめんっ……で、いつなの?」
緑谷に追求された発目は、おにぎりを齧りながら動かしていた手を止め、コトリと机に置いた。
「今です!」
そう言って鞄を漁った発目は、その中から多数の様々な部品を取り出し、爆豪と緑谷、そしてクラスの全員が注目する中ガチャガチャと素早く組み立てる。そして、五分もかからない内に机の上には一丁のゴツいリボルバー銃が出来上がっていた。
「まだ名前ありませんけど。私の渾身の試作品ベイビーです! 弾薬とかはありませんから、撃ってみてください!」
「え"」
ぐいと押し付けられ、え、と緑谷がそれを受け取った瞬間、周囲は行動を始めた。
まず窓際に居たクラスメイトが5月中旬でまだまだ肌寒い時期にも関わらずグラウンド側の窓を全開にした。
そして廊下側にある緑谷の席からその窓までの間にある机や椅子が、そこに居た人間の手で即座に撤去される。と同時に爆豪が緑谷の学ランの襟を思い切り掴みあげた。
「えっちょっ」
「外で──」
勿論、助走を付けての投擲。爆破付き。
「───やれやッ!」
「うわっととっとぉ!? ちょっと何すんだよかっちゃん!」
「うるせえ! あのクソ女の一発目の試作品なんざ爆発するに決まってんだろが!」
「いやっ……そんっ……な事……は……あー……っ……うん!」
否定できない緑谷。
まあだからといって窓から投げ飛ばす必要はないのだが、その言葉に丸め込まれた緑谷は大人しくグラウンドの中心に歩を進める。何やらサッカーに興じていたらしい三年生が緑谷を見て、その手に持った
「みっ、緑谷だああああ!」
「逃げろおおおお! 死ぬぞおおおお!」
「ぐっ! まさかさっきのシュートで足が……!」
「何してる!? 早く立てよ死にてえのかっ!?」
「くそ……俺はもうダメだ……お前らだけでも、早く!」
「チクショウ……チクショオオオオオッ!!」
「いや、退避するまでは待ちますよ?」
まるでハリウッドのワンシーンのような熱演を繰り広げる先輩に緑谷が声をかける。すると突然声のトーンを日常会話に戻した先輩が「あ、そう?」とだけ言い、走って戻っていった。足を怪我したというのはどうも嘘だったらしい。緑谷はげんなりした顔で溜め息を吐いた。自分はこの校内でどういう立ち位置だというのか。
「……ありがたいけどさ。受け入れてもらってるのは」
「そうですか? 誰がなに考えてようが実験に関係なくないですか?」
「うん、今から実験するから明ちゃんはちょっと大人しくしててね」
その後、発明謹製の試作型魂威銃、仮名『
ちなみにこれに対する発目のコメントはこうである。
『対多数の制圧に使えそうじゃないですか!?』
そして、発目の録画した映像を見たシュタインのコメントはこう。
『出久の魂威が拡散してこの威力? 明、もうちょっと威力あげる方向で行ったら?』
遠縁の筈なのに、何故こうも性質が似通っているのかと緑谷達は肩を落としたのだった。
鉄材加工ドレミの歌
ドはドリルのド
レはバレルのレ
ミはエンドミルのミ
ファはFANUCのファ
ソはソルトバス
ラはフライス盤
シは真空炉
さあ歌いましょう