無免ヒーローの日常   作:新梁

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涼しくなってきましたね。
皆体調崩さないように気を付けてねマジで。色々怖いからね。

それと今回文章五割増しです。気合い入れてくれ……

今回のあらすじ

心操人使、出陣。

zzzzさん、リア10爆発46さん、誤字報告ありがとうございます。


第五十八話。口から産まれた陰険お喋りクソ野郎

 授業前日、夜の職員室でオールマイトは悩んでいた。

 

 基本的に習うより慣れろでナンバーワンまで上り詰めてきた彼は、結果としてヒーローに必要な基礎など習うより慣れろとしか言えない。

 だからこそ彼は自身の行う授業を実技メインに進めるつもりであったし、その事は他のヒロ基担当教師にも伝え、了承を得ていた。

 

 だから、そこは問題無いのだが……

 

「…………うう、どーしよ……」

 

 ……問題は、習うとか慣れるとか以前に全てをなぎ倒してしまいかねないバケモンが二人程居る点である。

 

「……緑谷少年……爆豪少年……」

 

 心操人使は、問題無い。

 

 彼の実力はプロにも通用する程の、学生として見るならば間違い無く一級品ではあるが、所詮一級品の域を出ず、そして個性自体もトリッキーかつ頭を使わねば有効打足り得ないものである為、例え戦闘訓練で相手を圧倒しようともそこから学ぶべき事は多いだろう。

 

 芦戸三奈と切島鋭児郎に関しても、問題は無い。

 

 そもそも彼等は非常に優秀である事は間違いないが、精神のあり方や心構え等は別として、純粋な実力に関してはまだまだ他の生徒とそう差があるとは思われていないというのが教師陣の判断だ。

 

 精々が一般入学者以上、推薦入学者以下、といったラインに収まっていると思われていた。

 

 

 

 ただ、緑谷と爆豪は違う。

 

 彼等二人は何の捻りもクソもなく、ただ単純に、どこまでも単純に、『強い』。

 

 一般入学者も推薦入学者も、彼等二人にはまず間違い無く敵わない。

 そんな事は教師陣には火を見るより明らかな事であった。最早一分持つかすら怪しいと言わざるを得ない。

 

 だからこそ彼等二人は互いを相手に戦闘訓練を行って欲しいのだが、雄英の狭き門をくぐり抜けてきたプライドのある生徒達の前で、自分達と同じ境遇の一般入学者二人を明らかに別格として扱えばどうなるだろうか。

 

「……不満が出るよなぁ……!」

 

 ……そう。彼等は未だ出会って一日しか経っていないのだ。共に過ごした時間で言えばまだ一日すら経っていない。そんな中で明らかな特別扱い(実際には隔離措置の方が正しい表現だが)をされる生徒が居るとなれば、間違い無く良い印象は抱かれない。自分達教師にも、そして二人の生徒にも。

 

「……うーん……どうしよう……」

 

 いつの間にか冷めて酸っぱくなったコーヒーを啜り、再び頭を抱える。

 

 明日の授業は二人一組でヴィランチームとヒーローチームに分かれ、簡単な目標争奪戦を行う予定なのだが、そこでとにかく緑谷と爆豪をそれぞれのチームに分けてぶつけたいのだ。というか絶対にぶつけなければならない……教師としては。

 

「……うううん…………どうしよマジで」

 

 先程も言ったが特別扱いは出来ない。しかし特別扱いしなければ授業に……学びにならない。

 

「……ううん……もうゴリ押ししちゃおうかな……」

「お困りですねオールマイト」

「お困りだよ……」

 

 悩む彼の空になったカップの横に、新たなコーヒーが置かれる。

 湯気の立つそれを置いた主である相澤は、そのコーヒーカップの横にある小箱を置く。

 

「そうだと思い、解決策を持ってきましたよ」

「マジですかっ!?」

 

 その小箱は、雄英ではよく使われるタイプのくじ箱であった。

 中には様々なカラーボールを入れることができるそれは、オールマイトも明日の授業で使おうと思っていたものだ。

 

 その上部にある穴を相澤が向けてきたので、首を傾げつつ手を入れるオールマイト。

 

 すると中には、ボールを握っている骨ばった手の感触があった。

 

 パッと相澤の胴体側を覗き込むと、彼の手首が半分ほど箱の中に埋まっていた。

 

「どうです? ぱっと見中々分かりにくいでしょう。逆には開かないように出来てるので、二人に引かせれば後は上手く自分の手を抜けば誰にも気づかれませんよ」

「…………いや相澤君、これ不正……」

「授業のパートナー決めで不正したから何だってんですか……それにアイツらは自分の実力をそれなりには把握してます。これ使えば、きっとやりたい事は察してくれますよ」

 

 スポッと抽選箱から手を抜いた彼は、渋い顔をする新人教師に箱を差し向ける。

 

「どうせ明日の授業内容じゃあの二人をどうにかしてぶつけるのは確定なんですから、好きな方を選んで下さいよ……信用性を守る為にあくまで真っ直ぐにいくのか、それともその場で起きるトラブルを避けて搦手でいくのか」

「ウムム……」

「どっちを選ぶにせよ、一月もすれば子供達もそれが無理の無い選択だった事は理解してくれる筈です……どちらを選んでも、問題は尾を引きませんよ。アイツらだって馬鹿じゃない」

 

 腕を組んで真剣に悩むオールマイトに背を向け、相澤は自分の分のコーヒーを啜る。

 

 彼が自身のデスクに戻ると、隣りに座っていたプレゼント・マイクがニヤニヤと椅子を寄せてきた。

 

「ヘイヘイヘイ、相変わらずお優しいねェ相澤センセェは」

「……フンッ」

「俺のチョビヒゲがッ!!!」

 

 マイクのチョビヒゲを軽く毟った相澤はウエッと言いたげな顔で指先に付いた、ちょっと抜けた髭をティッシュで拭った。

 

「髭ベタついてんぞ。洗えマイク」

「ヘイ・ユー! ワックスって知ってるか!? ………………あー、知らなそーだな」

「ほっとけ」

 

 因みに、勿論相澤はワックスを知っているし、マイクもその事を知っている。

 

 昔からの旧友同士の、気心知れたやり取りであった。

 

 

 

 時は戻り。グラウンドβ待機所。

 

 

 

「訓練はヒーロー側とヴィラン側の二対二に別れて行う! 状況設定としては、市街地にあるビルのどこかに『核兵器』が持ち込まれており、ヒーローはそれを確保、ヴィランはそれを防衛するのが目的だ! 制限時間は十分!」

 

 やけにアメリカンな設定を告げた後、オールマイトはカンペ片手に詳細な説明を続ける。

 

 ・ビルは五階建て、ヴィランはその内部の何処かに爆弾を設置。外壁や屋上等は禁止。

 

 ・それぞれにインカムを配布。互いのパートナー、そして監督役のオールマイトとのみ通信可能。

 

 ・一人につき二本の確保証明テープを支給。相手の身体の一部に巻きつける事で確保証明となる。確保された生徒はその後仲間への通話を含め一切行動してはいけない。

 

 ・爆弾の確保はヒーロー側が接触した時点で完了とする。

 

 ・それぞれ、ヴィラン、ヒーローを意識した行動をする事。

 

 ・チームはくじ引きで決定する。

 

「……こんな所かな! なにか質問のある人は居るかな!?」

「つまりチーム決定は適当なのですか!?」

 

 ズパッ!! と挙手しつつ投げかけられた飯田からの質問に、オールマイトは「オフコースッ!!」とサムズアップする。

 

「サポート向きのヒーロー、そうじゃないヒーロー、どんなヒーローとでも合わせられる訓練も兼ねてるからね!」

「な、成程! 差し出がましい事を言いました! 申し訳ありません!」

「いいよ! 質問ついでに飯田少年からくじ引いちゃいな!」

 

 そうして各員がくじを引く中、緑谷がなんの気無しに手を入れると、自分の手の倍はあろうかという巨大な暖かいものに触れた。

 

「……うん?」

 

 パッとくじ箱を持っているオールマイトを見ると、彼はいつものヒロイックな笑みを浮かべつつ、小声で呟いた。

 

「……頼むよ、少年」

 

 そう言って、すでに引いたくじを弄びつつこちらを見ている爆豪にチラリと視線を向けるオールマイト。

 それだけで緑谷は、彼が何をしたいのか、自分達に何をさせたいのかを正確に把握した。

 

 箱の中で手渡されたくじを受け取り、皆の所に戻る。

 

 それから一分と経たず、チームの組み合わせが決定した。

 

 

 

Aチーム

緑谷&八百万

 

Bチーム

耳郎&砂藤

 

Cチーム

瀬呂&蛙吹

 

Dチーム

爆豪&轟

 

Eチーム

切島&麗日

 

Fチーム

峰田&常闇

 

Gチーム

障子&上鳴

 

Hチーム

尾白&芦戸

 

Iチーム

心操&葉隠

 

Jチーム

口田&飯田

 

 

 

 その組み合わせが決まった後、オールマイトは早速二つのボールを箱から取り出す。

 

 そこには、それぞれに『I』『G』と書かれていた。

 

「では、第一戦目はヴィランIチーム(心操&葉隠)対ヒーローGチーム(障子&上鳴)!! 十分間準備時間を設けるから、作戦会議やトラップ、バリケード! 何でもやっていいぜ! さぁレッツゴーだ!」

 

 四人各々が「はーい」と返事をしてモニタールームから出ていき、残された生徒達が思い思いに話し始める。その話題の中心にあるのは、勿論出ていった四人だ。

 

 その中で、昨日知り合ったばかりの八百万が緑谷に声を掛ける。

 ちなみに、緑谷の脚にもたれ掛かってPCを弄る発目は八百万の方を一瞬見て、その後直ぐに眼をディスプレイに戻した。脅威度無しと判断したらしい。

 

「緑谷さん、この組み合わせ……どう思われますか?」

「うん? …………うーん。ヒーローチームは二人共よく知らないから滅多な事言えないけど、ヴィランチームは……コレはもうズル(チート)だよ」

「……そこまで、ですか」

「ウン」

 

 緑谷は深刻そうに頷き、心操、葉隠二人の相性、そして互いのチームの相性について話し始める。

 

「そもそも、人使君はサポート型、葉隠さんもどちらかと言えばサポート型だけど、その方向性は全く違うんだよね」

「……方向性、ですか」

 

 緑谷の言葉にその場に居た者達が耳をそばだてる。

 

 緑谷が心操と付き合いが長い事もあり、聞くべき意見であるとその場の全員が考えているようだった。

 

「人使君はさ、基本的には『目立つサポート型』なんだよね」

「目立つサポート型……」

 

 確認するように復唱する八百万に、「囮って言っても正しいかも」と言う。

 

「勿論受け答え一つで決着が付く人使君の個性は立てこもり犯罪とか潜入捜査とか、そういう所でも物凄く活躍するんだけど、特に今みたいに個性がある程度割れてる状態だとあの個性は『コミュニケーション』を人質に取ってるに等しいんだよ」

 

 心操人使の個性は『洗脳』。

 他人と会話をするだけでその人間を自失状態にすることができ、しかもその状態の人間は彼の言葉で自由に操る事ができる。

 

 そして、その個性は任意発動であり、これはつまり、『心操人使が居る場所ではヴィラン(彼の敵)だけが喋れない』という不均衡を強いる事が出来るのだ。

 

「戦場でコミュニケーション不足は最も避けるべき事態だ……だから、敵は絶対に、一番最初に人使君を()ろうとする……人使君は、戦場では相澤先生並みに厄介なんだ」

「うん? 相澤先生はどのような個性なんだい? 緑谷君は知っているようだが……というかやっぱりあの人はヒーローなのかい!? 恥ずかしながら、あの人のようなヒーローは寡聞にして知らないんだが」

「え? …………あっそっか!! 知らないのか!! 確かに一回も言ってないねあの人!?」

 

 飯田の言葉によって判明した事実にそれで良いのかヒーロー科担任……と悩みつつ、緑谷はチラ、とオールマイトを見る。

 

 その視線の意味を察したオールマイトは、モニターをチラリと気にしつつも大仰に頷いた。

 

「うん! 君達の担任の相澤君は確かにヒーローだよ! ヒーロー名『イレイザーヘッド』! 相手を視認するだけで個性を消す……一時的に使用不能にできる、『抹消』の個性を持つスーパーヒーローさ!」

 

 その言葉に、ザワリと何名かが知っているという反応をする。

 

 メディア露出が徹底的に避けられていると言うだけで、無名ヒーロー等では断じてないのだから、ある意味当然ではある。

 

「まぁ、そういう訳で人使君はサポート役でもとにかく目立ちまくるんだよ。目立たないサポート役な葉隠さんとあまりにも相性良すぎる……」

「でもって人使さんの個性が実質的に『()』なのが今回の場合相当タチ悪いですねえ!」

 

 地面に胡座をかいて緑谷の脚に凭れ掛かり、ノートパソコンのキーボードをぶっ叩いている発目が、そう言う。

 

「え、何でそれがタチ悪いん?」

「……」

 

 麗日の質問。無視する発目。

 

 ピシ、と固まる麗日だが、緑谷が苦笑しながらその頭にパスッ、と軽くチョップを入れると彼女はフスゥーッと息を吐いた。

 

 ホントゴメンね、と麗日に向けて緑谷が苦笑いしながら両手を合わせる中、彼女は『簡単な事ですよ』と八百万に顔を向けた。

 

「百ちゃん」

「は、はい……?」

「今私の話を聞きながら、自分の背後に居る人間の衣擦れの音を聞けますか?」

「……あっ!!」

 

 彼女は、そして周囲の人間は発目の言いたい事を理解する。

 

「葉隠さんは透明人間、つまり……!」

「ええ。視覚は意味を成さない! 人間の嗅覚はそこまで鋭くない! 熱感覚も同様! そして触覚はそもそもほぼ使用不能に近い……残るは聴覚な訳ですが……知っていますか百ちゃん。人は二つのものを一度に注視できないように、二つの音源を詳細に聞き分けるなんて不可能なんですよ! これは脳の構造上の問題です! それに何より!!」

 

 ヒートアップする発目の声にゴクリと息を呑む聴衆。

 

 しかし、彼女の背もたれになっている緑谷はこの後に言う事を察し苦笑いした。

 

「人使さんは私の作ったサポートアイテムを着けているのですから!!」

「…………はい?」

「そもそも、あの口から生まれた陰険お喋り野郎のスペックを最大限に引き出せば、相手やパートナーが誰であろうと負けはしないのです!!」

「明ちゃん、口悪いよ」

 

 もう一度発目の頭にチョップを入れつつ、緑谷はモニターを眺める。

 

 もうすぐ、第一戦が始まろうとしていた。

 

「準備時間開始一分前!!」

 

 オールマイトの声に否応にも高まっていく待機所の熱の中、緑谷はチラリとこの中で一番付き合いの長い幼馴染を見る。

 

 偶々か、それとも必然か。

 

「ッ!」

「……」

 

 モニターの光の中、目が合った……自分が知る限り最も強い同年代……爆豪勝己と。

 

 オールマイトの意図。その意味を間違えていなければ、自分が戦う相手は間違い無く彼、そしてそのパートナー、轟焦凍となる。

 

 それを噛み締め、緑谷は強く手を握りしめる。

 

「……負けるかよ……いや、勝つんだ……絶対に」

 

 それは、決意だった。

 

「五! 四! 三! 二! …………!」

 

 オールマイトのカウントダウンが一秒止まり────

 

屋内対人戦闘訓練(ミッション)開始!! これから十分後にヒーローが現着する! ヴィランチームは防衛準備を整えるんだ! できる限りヴィラン的(悪辣)にね!」

 

 そうマイクに向けて指示した後、クルリと振り返った彼はいつもの笑みを待機生徒に向ける。

 

「さぁ、君達も休憩時間じゃないぞ! 彼等の行う防衛準備を見て、ヴィランチームの行動から彼等がどういった作戦を立てているのか、自分が同じ立場ならどうするか、もしくは防衛準備にどんな穴があるかを考えていこう!」

『はい!!』

 

 そして、十分は────

 

 

「え? アイツ何してんの?」

「あぁ、アレはですねぇ!!」

「悪辣……!」

「あー……あーあーあー…………」

「……え? これどーすんの?」

「……イキイキしてるなぁ、心操……」

「ヒーローとは……こんなにも厳しいものなのか……!!」

(え、心操少年やけに手慣れてね?)

 

 

 ────すぐに経過した。

 

 

 

『三、二…………十分経過! ヒーローチーム行動開始だ!』

「はい」

「ウイッスー!」

 

 インカムからオールマイトの声が聞こえ、十分間の訓練が始まる。

 ヒーローチームである障子と上鳴は、待機中にしていた作戦会議のまとめを行なう。

 

「良いな上鳴。俺は索敵向きだから基本的にそちらに集中したい。だから触れるだけで相手を半行動不能に出来るお前に多く戦闘を割り振る事になる」

「おう! オッケーオッケー! この上鳴サマに任せとけって!」

「ここから先は心操の個性があるからコミュニケーションは取りにくい。基本的に話す時は互いの口元を見ながら行う。良いな?」

「おう! 行こうぜ!」

 

 上鳴を先頭に、ビルに入る二人。

 

「さーてヴィラン退治だぜ〜っと」

「ん? 待て上鳴!」

 

 意気揚々と一歩目を踏み出そうとした上鳴の肩を障子が掴んで引き止める。

 それに彼が文句を言う前に、屈み込んだ障子はビル入口に付けられたトラップを指差す。

 

 それは黒い糸をピンと張ったもので、片方はただ糸を固定しているだけだが、もう片方の糸はこれみよがしに壁にそれとなく固定された手榴弾のピンに括り付けられていた。

 

「……見ろ、ワイヤートラップだ。危なかったな上鳴」

 

 ビルに入る一歩目から張り巡らされているトラップ。

 

 殺意に満ち満ちたそれにピクピクと眉をひくつかせ、上鳴はパートナーに礼を言う。

 

「お、オォ……サンキュー障子……」

 

 よく見れば昨日発目邸において散々解体したそれと同型のトラップに顔を引きつらせつつ、糸をヒョイと跨ぐ上鳴。

 

「ん? 待て上鳴!」

「グエッ!?」

 

 その身体の、右手左脚胴体襟首が、障子の複製腕でガッチリと絡め取られた。

 

「次は何だよ!!」

「……見ろ、丁度この糸を大股で乗り越えた辺りにもう一つトラップがある。しかも今度はご丁寧に見にくい透明の極細糸だ……危なかったな上鳴」

 

 その極細糸の先にある装置はこれまた目立たない大きさだったが、そのシンプルな見た目と一つ手前の手榴弾トラップがあまりにも目立ち過ぎる事で、障子はそれが何の役目を持っているのかにアタリを付ける。

 

「恐らくこれは発信機……この極細糸を踏めば一歩後ろのトラップに信号が送られて、手榴弾が爆発するんだろう」

「お、おおおおぉぉぉ…………さ、サンキュー障子……!」

「ああ。ここで時間を食う訳にはいかない。行こう……気をつけながらな……」

 

 上鳴の考え無しな部分を障子がフォローし、考える故に初動が遅くなりがちな障子を上鳴が引っ張る。個性の相性はそこまでではないが、二人は中々に良いチームであると言えた。

 

「葉隠も心操も、喋り声からして入る前は五階に居た。室内では音が反響するから分かりにくいが……」

「っとなると、目標も五階かね?」

「可能性は高いだろう」

 

 それでも一応一階から順にクリアリングを行っていく。

 

 一階のクリアリングが終わり、二階へと登る階段の前……そこの壁に、何やら赤いマジックペンで書かれた文章があった。

 それに気付いた上鳴は、文を読み上げようと顔を近づける。

 

「うん? 壁に何か書いてある……どれどれ……『ここより先、命の保証は出来かねます。ご了承の方は下記にサインを……』」

「絶対にサインするなよ上鳴……見ろ、壁に貼り付けてあるこの装置、恐らく赤外線トラップじゃないか?」

「ヒェッ!? アイツマジで何なんだよ!! 工作員かよ!!」

 

 心操人使のたった十分でここまでやれる程の実践慣れ……というか工作慣れに戦慄を隠しきれないまま、彼等は足元や壁に非常に神経を尖らせながら進む。

 

 だが、その気配りはある意味で無用に終わった。

 

 そもそもトラップが多いと言えど、所詮それは心操のコスチュームに入る程度の量である。

 赤外線や各種ワイヤー等のトラップが多く張り巡らされていたのは一階だけで、他の階は一つないし二つトラップがある程度であった。

 

 しかし、トラップがあるという事実が彼等の神経を尖らせ、精神を摩耗させていく。

 決してフロア内にまるで無いわけではなく、しかも数が無いならとばかりに分かりにくく悪辣な仕掛け方をされている事が余計に彼らを消耗させていた。

 

 そんなやり方で三階に辿り着いた時、障子がコクリと頷く。

 

「間違い無い。二人共まだ五階に居る」

「お? 喋り声かなんか聞こえた?」

「あぁ……内容は聞き取れないが、普通の声量で喋っているな。何か作戦か……?」

 

 首を傾げつつ、二人は三階を確認して上へと進み続けた。

 

 どれだけ意地の悪い仕掛け方をされようとも、基本的には仕掛け自体は同じものな上に障子が複製腕から多くの目を生み出して全方位を警戒していた為、終盤はアッサリと進む。

 

 ……だが、四階から五階に続く階段で、それは起こった。

 

「…………ここでそう来るんかいッ!! もうあいつ嫌いだ──ッ!!」

「……そうだな、俺も既にアイツ(心操)の事が若干嫌いだ」

 

 その階段には、黒々としたやたら目立つマキビシが足の置き場が無い程に所狭しとばら撒かれていた。

 

 ここに来て原始的トラップであるが、そのマキビシに混ざって壁には赤外線センサーがチョコチョコ張られているのが最早嫌がらせ等というレベルではない。

 彼等二人は心操人使というヴィラン(役)の底意地の悪さを改めて認識していた。

 

「……どーする? 一個ずつどかしていくか?」

「…………いや、もう五分以上経過している……時間が無い。俺の背に掴まれ、上鳴」

 

 上鳴を背負った障子は、触腕を長く伸ばして階段の壁に付け、脚を浮かせた状態で空中を進んでいく。

 

「…………お、おお……流石握力五四〇キロ……」

「上鳴……ッ」

 

 ごく普通に感心の声を上げる上鳴に対し、二人分の体重を支える為全力で踏ん張る障子が小さな声で言った。

 

「お? どした?」

「……こうやって……ッ、壁を、登って……! 五階から……! 探索すれば、良かったなッ!」

「…………うん、次に活かそうぜ! それより今は心操ぶん殴る事だけ考えてよう! な?」

 

 心操の策にしっかりハマってしまった反省をする障子を励ましながら辿り着いた五階。

 

 そこまでくれば、もう上鳴にもヴィラン二人組の話し声は聞こえた。

 元々広いビルでは無いのだ。それにあくまでも訓練用セットでしかないここは、防音処置もされていない。

 

 ……だからこそ、聞こえてしまう。

 

 自分達が苦労しまくっている中、仲良さげに会話を弾ませる二人の声が。

 

『……でね? そこのアイスクリームが美味しいんだけどさぁ、そのアイス屋台水曜日しかやってないの!』

『ヘェー、そんなに美味いのか?』

『うん! 私が子供の頃からあるんだけどさぁ、屋台のおじいちゃんは怖いけど、チョコアイスがもう美味しくて〜!』

『いいな。俺も好きだよチョコアイス』

『今度地元に来る事あったら案内したげるよ!』

『お、マジで? 頼むわ』

 

 ………………

 

 上鳴電気の怒りは!! 頂点に達した!! 

 

「オンドレァァァ!!! 人をこれだけ苦労させといて女子とイチャつくとはいい度胸じゃねえかこの陰険お喋りクソ野郎ォォォォ!!!」

「待っ!? 待て上鳴ッ!! 罠の可能性が……!!」

 

 怒りのままに声のする方に突撃し、薄いハリボテのドアを勢い良く開いた先には、日の入る大きな窓、入り口から一番遠い部屋の端にはスチール机や事務椅子などを組み合わせたバリケード。

 

 そのバリケードの隙間からは大きなロケット型のターゲットが見えた。

 それに触れればヒーローチームの勝利である。

 

 が、上鳴の視界にそんな物は映っていない。

 彼の視線は今たった一点に完全固定されていた。

 

「それでね、あ! 上鳴君来た!!」

『…………おお上鳴。割と遅かったな』

 

 ……彼の試験の先には、部屋の大窓に背を預けて葉隠と並んで日光浴をしているコート姿の心操の姿があった。

 

 そして、見えないから靴で判断するしかないが……横に居る葉隠との距離は肩がぶつかる程度……つまる所の、ガチ恋距離(ゼロレンジ)!! 

 

「ふざけんじゃねぇこのイケメン野郎ォォォォ!!!」

 

 怒りのままに心操に突撃する上鳴。

 その時部屋に辿り着いた障子が「あぁクソ!」と悪態を吐きつつも上鳴のフォローをしようとした瞬間。

 バサッ! と心操のコートとマスクが脱ぎ去られ、上鳴に投げつけられる。

 

 上鳴はそれを払い落とし、不逞の輩に鉄槌を下そうとするが……その手が不意に止まる。

 

「へっ?」

 

 理由は簡単。

 

 コートを着た心操が居たはずの場所に、誰も居なかったからだ。

 

 先程まで腰掛けていた筈の場所には誰も居ない……否。

 

「ドッキリ大成功〜! ってね?」

「葉がッ……!!」

 

 上鳴がその名前(葉隠透)を口にするより一瞬前に、窓際に居た……陽光を浴びていた葉隠の個性が発動。

 

 太陽光が集められ(集光)捻じ曲げられ(屈折)、太陽の光そのままの圧倒的光量を持つ閃光弾と化す。

 

「そのビックリ顔を〜? ハイチーズ!」

 

 バッ!! と、小さな部屋の中に太陽が出現する。

 

「がッ!?」

「ウグッ!」

 

 その光は部屋内に居たヒーローチーム二人の眼に入り、視神経に膨大な負荷をかける。

 

 まるで目を殴られたかのような衝撃さえ錯覚してしまう程の光量は、一時的に二人の視力を奪い去る。

 

 通常、強い光で視覚神経に負荷をかけられるとしばらくの間は目が使えなくなる。

 だが、ここには例外が居た。それは、たった今眼を潰された障子目蔵である。

 

「このッ……!」

 

 障子の個性は『複製腕』。その名前の通り、自身の肉体の複製能力を持つ腕を左右二本ずつに持っている。

 

 この能力の汎用性は凄まじく、自身の肉体であれば脳以外はどの部位でも即座に精製する事ができる。

 

 それは手であろうと、声帯であろうと、耳であろうと……眼であろうと。

 

 ギュル、と複製腕の先端に眼球を増設し、上鳴の様子を確認する。

 

 その瞬間。

 

「右だッ! 避けろ上鳴ィィ!!!!」

 

 そう、『後ろから』聞こえた声に反射的に「違っ!?」と叫ぶ……が、所詮即席のチームワークに、眼を潰される非常事態。

 

「障子! 分かっ……あ」

 

 返事をしたその瞬間、動作が止まる上鳴の身体。

 

 その身体に心操のブーツと浮いた確保テープ(葉隠透)が近付いていくのを睨みながら、障子は残る腕のうち一本を視覚に、一本を声帯に変える。

 

「…………いつの間に……後ろに居た……心操!」

「さぁて、いつだと思う?」

 

 自分の言葉に返事をしない障子に、「流石に無理か」と落胆した様子も無く呟く、コートもマスクもサングラスもブーツも何もかもを外した、シャツとズボンだけを着用した心操。

 

 上鳴に確保テープをリボン結びした葉隠はコートを畳みながら靴を履き替え、(恐らく)格闘の構えを取る。

 

「…………まぁ、何だ。所詮は十分漬けのチームワーク。『本気で叫んだ時の声』……なんて、聞き分けらんねーよな、普通」

「……」

「しかも眼を潰される非常事態だ……悪いな二人共」

 

 心操がニヤつきながら謝り、首の後をポリポリと掻く。

 

 その無防備な姿は障子をして隙だらけにしか見えず……

 

『十分経過ッ!! ヴィランチーム、ウィィィンンンッッ!!!!!』

 

「…………俺達の、勝ちだ」

 

 その姿が何よりも勝者を明確にしており、その姿を見た障子は力無く肩を落とした。

 

「……クソ、何も出来なかった……」

「いや? んな事ねーだろ。色んな意味でギリだったよ」

「うはー!! キンチョーしたぁぁ!! あ、私の演技どーだった!?」

「……はっ!? 何だどうした!? え、終わり!?」

 

 四人はそれぞれワイワイと今回の訓練を振り返りつつ待機所に戻る。

 

 そして、待機所のドアを開けた瞬間、ワッと歓声に出迎えられた。

 

 凄かった、や惜しかった等の声が多かったものの、この陰険おしゃべりクソ野郎! や訓練中に女のコ口説いてんじゃねえよ! 等の声も聞こえてきて、障子と上鳴は面食らう。

 

「え? 意外に好感触……え、マジに惜しかったん?」

「ずっと掌で転がされたようにしか感じなかったが……」

「HAHAHA!! まぁそのへんも踏まえて講評だ! ヴィランチームの準備時間から見ていこう!」

 

 

 

 そうして、(約半数にとって)激動の第一訓練の講評が始まる。

 

 

 

「うーん、まずは今回のMVPなんだか……まぁ皆分かってるよね! 文句無しに心操少年だ!」

 

 オールマイトの言葉に全員が頷く。

 

「いや、ぶっちゃけ怖かったぜ心操」

「俺お前と当たらなくて良かったわぁ……」

「うん! ヴィランらしさという言い方はあまりそれっぽくは無かったが、限られた戦力での防衛って意味じゃ本当に素晴らしかった! 良かったぜ心操少年!」

 

 パチパチと拍手するオールマイトに続いて(爆豪、発目を除く)全員から拍手をされ、赤面しつつ「っザス」と頭を下げる。

 

「……さて、じゃあ本題に入ろう。まずは葉隠少女と心操少年がビルに入った所から!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は最初の、ヴィランチーム準備時間。

 

 

 

「さて、まずはこの核兵器どこに置く?」

 

 心操はビルの入り口に足を踏み入れながら脇に抱えたパネルを動かす。

 

 そのパネルは中心にあるボタンを押せばそれだけで内部のバネが開き、ミサイル型の核兵器ハリボテになるというモノであった。

 つまり、これを一度開くと部屋のドアから外に出す事はできなくなる。故に展開場所には慎重にならざるを得ない。

 

「んー、やっぱ五階じゃない!?」

「だよな。じゃあ五階のどこにするか……希望はある?」

「日当たりいいとこ!」

 

 葉隠の言葉に、お前自分の部屋決める訳じゃねーんだぞと言う視線を向けると、それに気付いた葉隠はむぅ! と唸ってグローブを着けた手を上下に振った。

 

「テキトー言ってる訳じゃないんだよ!」

「そうなのか?」

「そうなんです! ほら見てこれ!」

 

 階段を登っていた葉隠がグローブを片方外し、電灯にその手を翳すと、その手がピカッと光った。

 

「集光屈折、ハイチーズ!ってね。私の個性、こういう事できるの。おひさまの下だともっと凄いよ」

「…………おお……」

 

 彼女の個性、その真髄を知り、ポク、ポク、ポク、と階段を昇りながら思考を重ねる心操。

 

 そして、五階で一番日当たりの良い部屋を見つけた時、その頭の中でチーン、とすべての計算が終わった。

 

「ここで良いよな?」

「うん、バッチリ!」

「……さて葉隠。今から俺の考えた作戦を話すから、気になる所はどんどん突っ込んでくれ」

「はーい!」

 

 主張の激しいヒーロー科生徒(例:爆豪)なら彼が作戦を立案する事に難色を示す事もあるだろうが、その点非常に素直な葉隠は迷い無く心操の話を聞く体制に入った。

 

「この作戦、名付けて……」

「名付けて?」

 

 ゴクリと、葉隠が喉を鳴らす。

 緊張感が高まる中、心操は核のハリボテを展開しながら、自信たっぷりに言い放つ。

 

「『しっかり足元見ようね作戦』!!」

「しっかり足元見ようね作戦」

 

 緊張感は霧散した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 時は戻り、待機所。

 

 

 

「しっかり足元見ようね作戦……」

 

 作戦名を聞いた生徒達は色んな意味で絶句しているが、心操はそれを見ても何食わぬ顔で立っている。

 

「心操少年、どういう経緯でしっかり足元見ようね作戦が決定されたか皆に教えてあげてくれるかな」

「ウス……まず初めに言わせて貰うと、今回俺と葉隠は圧倒的に不利でした」

 

 そこから心操は語る。

 

 

 

 そもそも、訓練開始前に緑谷が言ったように心操も葉隠も、主役が張れるような……メインになれる個性ではない。

 

 二人共が必殺の技を持ってはいるもののあくまでも個性運用はサポート方面に偏ってしまうものだ。

 

 逆に、ヒーローチームの二人を見ればどうか。

 

 まずは上鳴電気。

 

 個性『帯電』。身体に電気を纏わせる個性だ。

 

 電気というのは恐ろしいもので、電気が流れると身体が麻痺してしまい上手く動かせなくなる。

 更には電気が流れ終わった後でも身体は麻痺し、暫くは手指の動きが鈍化したりする。

 

 それと、余談にはなるがアニメでよくある感電の際にビリビリと音がする表現は、実際に感電者には聞こえる物だ。

 鼓膜ではなく、身体全体でその音を聞くようなそれは、人をまたたく間にパニック状態に陥れる。

 

 身体が動かず、精神はパニック状態に陥り、そこから逃れても短時間の神経麻痺、ないし通電時間が長期に渡れば後に続く重大な後遺症が残る。このような電気に対する恐怖は、経験した者にしか分からないだろう。

 幸いなのは、通電で感覚が麻痺するため痛みも同様に多少麻痺する事だろうか? 感電に伴う火傷等は恐ろしいが、感電自体は実はあんまり痛くはないのだ。

 

 商用電源の二百ボルトでもそうなのだから、自在に出力を変化させられる上鳴の個性はそれそのものが脅威となる。

 

 まるで鬼ごっこ。

 

 触れられれば、それで終わり。

 それが、上鳴電気なのだ。

 

 

 そして、その相方である障子目蔵もまた分かりやすい強個性。

 

 複製腕で複製される器官はどういう訳か性能が高く、足音の違いまでも分かる程であり、握力も、少なくとも普通の手の二倍以上はある。この分では視力に関しても優れているのだろう。

 

 更に厄介な事に、この器官は四つまで作り出せるのだ。つまり、目で見ながら匂いを嗅ぎ、そうしながら耳で聞き、そして口でそれを伝える等という芸当さえ理論上は可能である。

 

 もう一つ付け加えるとするならば、彼自身の非常に恵まれた体格もまた脅威である。

 

 当たり前の常識として、筋肉量は体格に比例する。葉隠は(分かりにくいが)小柄の部類、心操もまた、小さくはないが大きいとは言えない程度。

 翻って障子は誰が見ても長身である。そして筋骨隆々。この体格から繰り出される拳は、葉隠など当たり前のように捻り潰し、心操もまた、当たればまず無事ではいられない事だろう。

 

 真正面から戦いたくないのに、奇襲が尽く潰される。

 それが、障子目蔵なのだ。

 

 

 

「言っちゃなんだけど、俺達が真正面からお前らに勝てるビジョンがまるで浮かばなかった……っつーか、あと三分早くお前らがあの場所に辿り着いてたら……上鳴は洗脳でどうとでもなるとしても、二人がかりでも障子は止められないんじゃねえかな」

 

 心操は、一対一であれば勝てるとは言い切れないが、それでも簡単に負ける気も無い。

 例え腹パン一発で決着が付きそうな程筋肉量に差があっても、当たらなければ意味は無く、そして心操は避ける技術、受け流す技術に長けているからだ。

 自身の肉体のみにしか頼れない緑谷との最大の違いはここにあると言って良いだろう。

 

 だが、障子の勝利条件は核兵器に触れる事である。この場合直接攻撃手段に乏しい二人では彼を止めることは出来ないに等しい。

 すっごぉ〜〜いッ!! なんという爆発力(パワー)なんと言う根性、まるで重機関車ですッ!! と言わんばかりに二人を身体に引っ付けたままバリケードをぶち壊し、核兵器にタッチする未来はそう有り得ない事ではない。何せ目潰しも感覚器官複製の前では無力であるからして。

 

「……つまり」

「そ。今回の俺達の作戦は、一にも二にも時間稼ぎだ」

「もー、核のある部屋に二人が入ってきた時ホントーに終わったと思ったよー!」

 

 つまり、罠で意表を突き、警戒で時間を稼ぎ、できる事なら手傷を負わせ……兎に角、ありとあらゆる直接攻撃以外の手段を使いまくった結果がアレなのだと言う。

 

「実はあのトラップも偽物がちょっと混ざってて、油断したところに本命が……と思ってたけど障子が全部見つけるから」

 

 そう言って心操はコートの中から小さな何かの切れ端のような物を取り出し、それに息を吹き込む。すると、それはプックリと膨れ上がり手榴弾の形となった。

 

「上鳴だけなら爆殺する自信あったんだけどな」

「ひどくね!?」

「事実だろ」

 

 ウワーッと半べそで抗議する上鳴を葉隠に任せ、障子は最後に気になった事を尋ねる。

 

「……成程、大体の事は分かった……だが、一つ気になる……終了間際、なぜお前は、俺の後ろに立っていた? しかも室内からはお前の声がしていた」

「あー、天井に張り付いてた」

「……は?」

 

 オールマイト! と呼ばれ、生徒同士の議論を見守っていた彼は片手を軽く上げてから説明役を交代する。

 

「準備時間の間、ヴィランチームの二人は常に一緒に行動しているね? それに、心操少年を見てご覧……マスクを外した上に、常に口を動かしている。コレは、この十分間の間ずっと葉隠少女と世間話をしていたからなんだよ……そして、その世間話には、そしてマスクを外しているのにはある理由があった。それが……コレだ」

 

 葉隠と心操が仲睦まじく談笑しながらトラップの設置に励んでいる映像を早送りにし、すべてのトラップの設置が終わったところまで飛ばす。

 

 それは、四階から五階に続く階段にマキビシを巻き終わった後の事。

 心操は、自身の胸元に付いていたボタンを二つ外し、葉隠に手渡したのだ。

 

「ん? 今何か渡さなかった?」

 

 上鳴から出たその疑問に、答えたのはそれまで一切興味なさげであった発目だった。

 

「それは音声選別機能付きボイスレコーダーですね! 普通の録音は勿論の事、予め内部に設定している音……この場合は人使さんの肉声ですが、『登録した音(人使さんの声)だけを録音する』モードと『登録した音(人使さんの声)以外を録音する』モードがあります! しかもノイズキャンセリングは標準で小型サイズなのにバッテリ」

「明ちゃーん、こっちこっち」

「むふー!」

 

 長くなりそうだった発目の説明を、大型犬にするように頭髪をワシャワシャかき混ぜる事で遮る緑谷。

 

 その光景はともかくとして、事情を察したヒーローチームの二人は軽く額を抑えた。

 

「……つまり、その録音機を使って二人の場所を欺瞞していたと言う訳か」

「俺達ハメられてたって訳ね……アチャー……」

「すまん上鳴」

「ウェィ!? いやいやいや、俺お前居なかったらそもそも瞬殺だったからな!?」

 

 上鳴が相方のフォロー(というか事実を述べているだけ)をしていると、画面内の心操は葉隠にフード付きコートとマスクとサングラス、そしてブーツを手渡していた。

 

「あの服も作るの苦労しました! 『誰が着ても心操人使になれるように』なんて無茶なお願いよくできますよね!!」

「そーそー! あの服全身にワイヤーとか入ってて、しかも自由に調節できるの! 外見のシルエット好きに調節できるんだよー!」

 

 姦し女子二人の言葉通り、ブーツを履きコートを着た葉隠はすぐさま心操に手直しを施され、先程までの彼と何ら変わりない背格好に変化していた。

 

「人使さんのコスチュームは、基本全てが『欺瞞』『撹乱』の為にあります! ボタンに施されたスピーカーは取り外して壁や床に設置でき、録音した音声を流す事で彼の居場所を誤魔化し相手の注意を散漫にさせ、コート内部にあるグレネードは威力より閃光や音を派手に出すように調整が入っていて、服装も身体のラインが分かりにくい上に身長や肩幅等を自在に変更可能! 更に手袋には相手の視界を奪う超高輝度フラッシュライトが内蔵されており」

「明ちゃんこっち向いて、おおよーしよしよし」

「むふー!」

 

 発目の説明に改めて心操の不審者極まりない、むしろヴィラン的な格好の意味を察しどよめく生徒達。

 

 そんな中、背格好を偽装した葉隠と別れた心操は、マキビシがばら撒かれた階段の両側に手脚を当て、そのまま少しずつ登っていった。

 

 そして、天井に設置しているカメラの画角から彼の姿が消えた所でオールマイトは映像を止める。

 

「以上が、ヴィランチームが十分の間に行った事だ! ……ってところで、ヒーローチームの二人は何かコメントあるかな?」

 

 オールマイトの促しに従い、二人は腕を組んで軽く首を傾げる。

 

 そして、最初に口を開いたのは障子だった。

 

「今回は……そうだな、二人の声が五階からする事は分かっていたから、外部から攻める……もしくは内外二方面から攻める事を最初に思いつけなかったのは遺憾です。それと殆ど八つ当たりになるんだが……一つだけ心操に言わせて貰っていいか」

「俺はやっぱ、障子にずっとおんぶに抱っこで足引っ張るしか出来なかったのがなぁ……それと俺も一つ言いたい事あるわ。八つ当たりだけど」

 

 少し落ち込んでいたヒーローチーム二人が目線を心操に向ける。

 

 何を言われるかは大体分かっている心操は、仏の笑みでそれを迎え撃った。

 

「……いいぜ? 言えよ」

「「この陰険おしゃべりクソ野郎」」

 

 思いっきり苦い顔をした二人の罵倒をしたり顔で受け止めた心操は、涼しい顔で芝居がかった一礼をした。

 

「お褒めの言葉、誠に恐悦至極に存じます……ってな」

「あー、コイツ殴りてぇ……」

「訓練中も思ったが、他人を腹立たせるのが上手い奴だな……」

 

 嫌味と敵意が交差する彼らの間には、それでも何かしら、一種の気安さが見て取れた。

 その事を確認したオールマイトは、ホッと息を吐く。

 

 ヒーロー科の授業というのは、こうしたPvP(対人戦)で成績がつく事が多い。よってクラス内の仲も険悪になりがちなのだが……少なくとも彼らにその心配は無さそうである。

 

「…………あー、ヴィランチームからも、最後に何か感想あるかい?」

 

 そう促された二人の内、最初に声を上げたのは葉隠だった。

 

「……うーん、私は、頼まれた事は完璧にやれたけど、結局それだけになっちゃったもんなぁ。もっと自分で何か出来るようにならなきゃ、って思いました……うん」

「俺は室内に限定しちゃったので窓からの侵入対策と、今回は勝利の道が一本しか作れなかったのが心残りですね。今にして思えばもっとやりようあったなって感じします。今回は二人がこまめに探索してくれたから良かったけど、はっきり言って障子の探査能力を甘く見てました。次はこうならないようにします」

 

 これだけやってまだ足りないのか……と戦慄する空気の中、オールマイトは「そうだね!」と鷹揚に頷く。

 

「確かに今回はヴィランチームの勝利だったし、紙一重の勝利に見えるが今のままでは何度やっても結果は似たようなものだろう! だが、それでも紙一重なのは紛れもない事実だ! これから先、ちょっとした事で追い抜かれる事はあるだろうし、その逆、突き放すこともできるだろう!」

 

 初回を努めてくれた四人に拍手だ! と生徒に賛辞を送ってから、次のくじを引く。

 

「さてお次は〜〜〜ッとぉ!! ヴィランCチーム(瀬呂&蛙吹)対ヒーローEチーム(麗日&切島)だ!! さぁ準備へ!!」

 

 次のグループを見送ってから、何も言わずともそれぞれの個性とそれに対する考察を深める生徒達に、授業は上手くいっていると安堵の息を吐くオールマイト。

 

 そして、ある程度初授業の緊張も緩んできた彼は、今日一番の悩みの種をそっと見つめる。

 

(……しかし、なんの奇遇か、爆豪少年の相方が轟少年、緑谷少年の相方が八百万少女とは……つまり、ここに個性把握テストの上位四名が揃った事に…………ん?)

「あっ」

「どうしたんです? オールマイト」

「い、いや何でもないよ! ちょっと授業内容で思いついた事があっただけ!」

 

 最初から個性把握テストの順位で決めていればあれほど悩まずに済んだのではないか? と言う事にこの時やっと気付いたオールマイトであった。

 

 

 ……ちなみにその後の訓練二回戦であるが。

 

「っシャァ麗日! 丸太(オレ)は持ったな!」

「う、うん! ダイジョブ!!」

「行くぞォォォォ!!!!」

 

 一回戦に倣ってテープによるトラップを張り巡らせたヴィラン側に対し、ヒーロー側がそのすべてを薙ぎ払ってわずか数分で勝利を掴んだそうな。

 

「…………あぁ、そっかぁ……無重力って『重力の影響』が無くなるだけで、質量自体は変わらないもんね……」

「麗日五十キロとして切島が四捨五入で七十、計百二十キロぐらいの鉄より硬い塊が突っ込んで来るのか……止めれんのか? これ。相性良すぎんだろ」

 

 麗日が走った勢いで体育座りの切島を投げ飛ばし、瀬呂をボーリングのピンのように吹っ飛ばす光景を見て、緑谷がしみじみと呟く。

 

「個性って……奥が深いなぁ……」

 

 この日、ヒーロー科一年A組は『個性の組み合わせ』という新たなる可能性を知った。

 

 尚、オールマイトは「そういう趣旨じゃなかったんだけど……」と力無く呟いたという。

 

 

 

 ……そして、やがてその時が来る。

 

「では、これが最後の訓練だ! ヴィランチームは……Aチーム(緑谷&八百万)! 自動的に、ヒーローチームはDチーム(爆豪&轟)だ!!最後の一戦、ナイスバトルを期待するぜ!」




発目を無理やりこの授業にこさせたのは、無免の装備の説明役が必要だったのと、そもそもこの小説はかわいい発目を書く事が目的だからです。

…………今回全然戦闘してないけど戦闘シーン難しいよ……そしてこれからずっと戦闘シーン書き続けなきゃいけない事を思うと……くう、オラわくわくすっぞ……

感想欄での指摘がありましたので、無重力切島ボウリング(対人)を見た際の緑谷の台詞を修正しました。漆黒の守護者さん、ありがとうございます。
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