今回はみんな大好きハーメルンチュートリアル戦闘四天王、爆豪君をボッコボコにする回です。
今回のあらすじ
爆豪(を)十分(で)クッキング
「……なぁ、明」
「なんですかー?」
モニターを隔てたその向こうで繰り広げられる……ヴィランとヒーローなどというお綺麗な言葉では表せないような血生臭い激闘に、絶句する生徒達と、険しい顔でいつでも中止できるようにマイクを片手に持つオールマイト。
その中にあって、『あの二人』との付き合いが最も長い二人だけが、全く以て冷静な顔で意見を交わしていた。
「予想でいいから教えてくれよ……どっちが勝つんだ?」
「この訓練ですか? それとも今この戦闘?」
ちょっとばかし不満げな顔でモニターを見ている彼女に、心操は「どっちも」と言う。
「この訓練に関しては分かりませんね! 勝己さんと出久さんの事はよく知ってますが、百ちゃんとあの、おめでたい配色の……」
「轟な」
「そのトドロキさんに関しては殆ど何も知らないので!」
フンシュッと(何故か)自慢気に鼻を鳴らす発目を見ずに、心操は残りの質問を繰り返す。
「じゃあ、今この二人に関しては?」
「それなりには消耗するでしょうけど普通に出久さんが勝つと思いますよ? このまま続くならですけど!」
それは、言外にこの状況が続く事は有り得ないと言っているようであった。それに対し、彼は「だよなぁ」と呟いて腕を組み直す。
……そう。
「出久が強いのはよーく分かるし、アイツの置かれてる状況の絶望的さも分かるんだけど……それでも勝己がこのまま何も無しで負けるなんてありえねえだろ」
「出久さんの味方としては腹立ちますけどね!」
心操も、発目も。
緑谷がこのまま順当に勝てるとは一切思っていなかった。
……爆豪が為されるがままになるなど、考えてすらいなかった。
そんな二人の視線の先、モニターの中では緑谷の拳が爆豪のみぞおちを、爆豪の膝が緑谷の脇腹を、それぞれ強かに打ち付けた所であった。
「ぐぶっ……!?」
「ガッ! ……クソがァ!」
爆豪を窓枠に叩きつけ、ゴバッ!! とベニヤで作られた簡易戸を突き抜けた緑谷は即座に突入した部屋の内装を確認する。
一回戦の時にも言った気がするが、ここはオフィスビルを模しているのでスチールデスクやキャスター椅子が並んでいた。
霜の降りたキャスター椅子の背もたれを掴んだ緑谷は、突入してきた爆豪の顔面に向けてそれをフルスイングする。
「っクソ」
「っぁあ゛ッ!!」
上体を即座に仰け反らせた爆豪だったが、その後直ぐに繰り出される蹴りは避けきれず、手榴弾型の篭手で
爆豪が体勢を崩す一方で、ガッ!! と振り回した椅子をその勢いのまま地面に叩きつけてバランス制御に成功した緑谷は、アイゼンを装着したその足で、一度下がって体勢を立て直そうとしていた爆豪の足の甲を踏み潰す。
革と特殊繊維で作られた頑丈なブーツだが、緑谷のそれも硬い氷に突き刺さり体重を支えられるだけの硬さと長さ、何より鋭さがある。
ブーツを貫通はしないまでも、足の甲に奔る鋭い痛みに爆豪の身体が硬直し……完全に姿勢を崩した彼はガシャッと氷の上に倒れ伏す。
「ッオオオッ!!!!」
「舐めッ……なやァ!」
顔面をかち割る為に振り下ろされる刃の無い鉄刀を、首をひねって文字通りに間一髪で回避した彼だったが、その胴体、胸部に向けられた
緑谷の全体重を掛けた衝撃を受けた篭手はメギ、と嫌な音を立て、アイゼンの刃が食い込んだ外装部には無視できない罅が入る。
その状態からもう一度振り下ろされる鉄刀を、籠手の上に乗せられた脚をもう片腕で殴る事でズラして回避する爆豪。
胸の圧迫が無くなった事で咳き込みつつその上体を起こす……瞬間に、側頭部に緑谷の回し蹴りが炸裂する。
蹴りの衝撃を身体全体で流し、結果としてガシャァッ!! と派手にスチールデスクに身体ごと突っ込んだ爆豪は、両手でデスクの引き出しを抜き取り、それを緑谷の顔面に叩きつける。
べゴン!! という音と共に緑谷の額が切れ、鮮血が舞う。
しかし緑谷は、そのような怪我など気にも留めずに引き出しを叩きつけた爆豪の腕を掴み、思い切り引き寄せる。
引き寄せる力と、身体全体のバネを使った全速の緑谷の正拳が、爆豪の顔面に突き刺さった。
「カッ……!?」
そのまま腕を手放さずに、下に引く緑谷。
そして、大きく下がった爆豪の腕……その肘部に向けて、思い切り膝を突き上げる。
それは、明らかに肘関節を永久破壊するための攻撃。
しかし、正拳突きによる自失状態から復活した爆豪が咄嗟に肘を曲げる事で関節破壊は回避した。
しかし、それとて無理をした動きに変わりは無い。短時間で幾回もの負担を受けた彼の関節は既に鈍痛を訴え始めていた。
「……ッんのッ!」
何とか、どうにかして仕切り直しを図ろうとする爆豪。
しかし、緑谷は逆にそれをさせないようにひたすら無言で爆豪に拳を、脚を、振るい続ける。
冷徹に、残酷に、無慈悲に。
立ち上がろうとした彼の脚に払い蹴りを仕掛け、今度はしっかりと受け止められる。
しかし、受けとめると言う事は動きを止めるという事。
再び緑谷の接近を許してしまった彼は、緑谷が自身の片腕を掴んだのを見て、何をするつもりかを察し、ある種の最終手段に出た。
……それは、今の彼自身にとって緑谷の
自身の腕を掴んだ緑谷がこちらの懐に入ったその瞬間、爆豪は肘辺りにあるワンタッチボタンを押し、篭手とグローブの固定を緩める。
その瞬間に懐の内に居る緑谷がダンッ! と脚を踏み込み、背負い投げの形で篭手だけを投げ飛ばした。
それを隙と見た爆豪は舌打ちをしながら
「ゴホ、ゲホッ……オ゛ィ半々ンァ!!」
『爆豪、無事か?』
ここまでの戦闘による打撃音や内臓を揺らされた爆豪の苦悶の声はインカムを通じ轟と八百万にしっかりと届いていた。
だが爆豪は、水音混じりの声で去勢を張る。
「余裕じゃボケェ! テメェーみてぇなザコに心配される程落ちぶれてねーんだよ! それより目標はどうしたァ!」
『悪い、まだだ』
「何でじゃア!!!」
『四階から五階の階段を塞ぐように厚い鉄板が置かれてた。アレは無理だ。絶対通れねえ』
「あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!! 死ねェェェ!!!」
爆豪は走りながら実行犯八百万と計画犯緑谷を呪わんばかりの雄叫びを吐いた。追いついてきた緑谷が拾った篭手を投げつけてきたが、勘でそれを避ける。
『今氷で足場作って窓から侵入しようとしてるんだが』
と、そこまで言ってバリン! と甲高い破砕音が響く。
『部屋に直接入ろうとしたらボウガン撃たれたんで、今別の部屋から侵入した。お前の方は?』
「フン、ンじゃあさっさと確保しろよ」
『お前の方は?』
「ッそが!!」
通信はそこまでだった。
当てずっぽうで投げられた篭手とは違う、明確な害意をもって放たれた拳大の大きさがある氷の破片が、爆豪の耳を掠める。
「逃げるなよ」
「うるせえボケ! 死ね! カス!」
「追い詰められて語彙力無くなってる?」
「黙れ! んで死ね!」
悪態をつく爆豪であるが、実際このままでは彼は確実に
緑谷から逃げて、先に核兵器を触る。
それが今の爆豪にとって最も有効な勝ち筋であったのだが、それは最早潰えてしまった。
四階から五階に続く階段が閉じられているので、轟が作った二つの足場のどちらかを使って窓から上階に行かねばならず、そうなると今も背中にピッタリ張り付いている緑谷に突き落とされる可能性が非常に高いのだ。
彼は、轟が作ったという氷の足場に手すりなどという上等なものが付いているなどという楽観視は一切していなかったし、もし付いていても緑谷なら手すりごと自分を吹き飛ばすだろうという確信もあった。
氷で密封されているとはいえど、ガソリンまみれのビルから何メートル離れれば火気が使えるようになるのか、爆豪には知識が無かった。そして、知識が無い以上『ヒーロー』としては、不確定な要素に賭ける事等出来る筈も無かった。
よって、空中で爆風を使った姿勢制御は不可能。つまり、落ちれば死亡、もしくは重傷……は無いにせよ*1、訓練時間中に復帰できるかは怪しい所だろう*2。
「……チッ」
絶体絶命、という言葉が頭をよぎる。
それを振り払うように彼は二階に上がる階段を登りながら手すりに蹴りを入れ、べキン! と折れたそれを階下に迫る緑谷に投げつける。
それを鉄刀で事も無げに跳ね上げて追跡を継続する緑谷を見る事もせず、爆豪は三階、四階と滑る階段を駆け上っていく。
……そして、四階から五階に続く階段が事前情報通り鈍色の鉄板で覆われているのを見て、大きく舌打ちをし、ダンッ!! と、強く床を踏みつけた。
「……っソがよ……!」
「どう? かっちゃん。負ける覚悟は決まった?」
「……言ってろボケ、がァッ!」
追ってきた緑谷が不安定な階段を登りきる、その瞬間に彼の胸元に向けて蹴りを放つ爆豪であるが、流石に読まれているのでサラリと避けられ、カウンター気味に脚を掴まれ……る、その瞬間、掴もうとしていた手をバッと引っ込めて一段、二段階段を下がる緑谷。
「……マジで?」
「ハッ、マジに決まってんだろが」
靴裏に鋭利な
その爪先部分から、白く光を反射する仕込み刃が飛び出していた。
脚を戻し、もう片方、刃の出ていないブーツの踵もダァンッ! と思い切り踏み鳴らすと、その爪先からも刃が飛び出る。
そして、片方にだけ残された篭手の裏からはそこそこの幅がある分厚いナイフを取り出し、もう用済みとばかりに重い篭手を捨て去る。
「わざわざ五階にまで来たのも、仕込み刃を出す為の足踏みを誤魔化す為? ……そんなに不意打ちしたかったの? 流石に殺意高すぎない?」
「安心しろ……気に食わねえクソをぶっ殺す以外にゃ使わねえよ」
「安心できないなぁ……」
大振りのナイフをキツく握りこみ、ギラギラとした笑みを隠さない爆豪と、三段下で帽子を深く被り直し、正面に刀を構える緑谷。
そんな二人に、見かねたオールマイトからの通信が入る。
『……二人共! 分かっていると思うが、これは訓練だ! やりすぎたと判断すれば即座に失格にするぞ!』
「丁度いい殴り方なんてしてたらこっちが殺されますよ。それにかっちゃんがそんな簡単に死んでくれる訳無いし!」
「このバカ相手ならやりすぎくらいで丁度いいんだ!! どーせコイツぁ百回殺しても死なねえよ!」
互いに、オールマイトの警告は実質無視。
そして、笑んだままの応酬から、一秒、二秒。
ガッ! と氷を削って飛び出した爆豪が脚力と重力を武器に足元の緑谷に蹴りを放つ。
緑谷はそれを軽くいなし、鉄刀を振りかぶる……と見せかけ、柄を握る手を緩める。
重力に従って落ちる鉄刀の丁度中心部、本来刃がある部分を強く握った緑谷は、ギチチッと音さえする程にキツく握った刀を時計回しにブンッと振り回し、柄部で爆豪の腹を殴る。
「っそがよ!」
「刃がない刀なんだから、わざわざ狭所で不利な使い方なんてしないでしょ!」
緑谷の変則的な柄打ちを避けた爆豪だったが、緑谷は伸ばした腕の力を使い手の内で刀を滑らせる。
刀の中心部から端の端……鋭く尖った鋒部を握り、自身の腹に突き立てるような形で爆豪の背を打つ。
爆豪は背中から迫る鉄刀の勢いに下手に抗わず、背骨付近にあった打点を微かにズラし肩甲骨辺りに当たるように調整し、そしてその勢いに任せて一回転し、攻撃をいなす。
「っらぁ!!」
「っプッ!」
そして、その回転の勢いを使い緑谷の頬に裏拳を当てる。
……ここまでやって、やっとまともに入った一撃。
それは近接格闘戦における両者の技量差を明確に示していたが、爆豪はそんな事は知るかとばかりに歯を剥き出しにし、笑う。
「……ハァ……ハァ……! どォだオイコラ……!」
「……どうも、何も……!」
各部がボロボロになった爆豪は顔に散った自身の血をクッとナイフを持っていない側の親指の腹で拭い、緑谷は爆豪の一撃で飛んだ帽子をチラリと眺めてから鍛錬刀を握り直した。
爆豪の裏拳時の踏み込みにより、先程とは逆に爆豪が数段ほど下となった階段。
爆豪は、緑谷を睨みつけながらも勝ち気な笑みを決して崩さない。
「……俺は負けねえぞ……! どんだけボロカスにされようがなァ……! 最後に勝つのは俺なんだよ……!」
「……ッ」
その笑みに緑谷の身体が強張った一瞬を見計らい、爆豪は階段の中程から四階に飛び降り、脇目も振らず逃走した。
「あ、ま、待て!」
「待つかボォゲッ!!」
背後から凄まじい勢いで氷を削り飛ばしながら追ってくる緑谷の圧を感じながら、爆豪は追いつかれない内に……視界に入らない内に、耳元のインカムに手を触れる。
「……オイ半々野郎、とりあえず黙って聞け。んでもってやり方はテメーで考えろ」
緑谷は非常に慎重な性格だ。石橋を叩いて渡る等という非効率的な事はしないが、石橋を渡る際には命綱や救助要員、そして石橋が崩れた際の次善ルートを予め用意しておくタイプだ。
……そうやって、自身が石橋の崩落に巻き込まれようと、それによって行動不能になろうと、必ず目的を遂行できるようにしておくタイプだ。
だからこそ、その次善策を発動できない程の速度での不意打ちと、速攻攻略こそがこの場においては求められていた。
「あのクソ天パぶっ殺すぞ」
『殺さないぞ』
「黙って聞いとけや」
既に、訓練の残り時間は五分を切っていた。
「……無視されましたね? オールマイト」
「ぐ……なんで分かるの君……」
「アイツラとの付き合い長いんで」
ザワザワと各々が恐怖や戸惑い、ドン引きなどの感情を露わにするモニタールームで、心操は悔しそうなオールマイトにそう答えていた。
そこに、「質問があるのですが!」と手を高く挙げた飯田。オールマイトの促しにより、彼は目線を緑谷を刻もうとする爆豪に固定しつつ発言する。
「先生、ヒーローの装備に刃物というのはありなのですか!?」
「……うーん、諸手を挙げて歓迎はされない、って感じかな。ケーブルとかロープとか、切断能力の要る局面は少なくないから多くのヒーローがナイフなんかを所持してるけど、戦闘に使うとなると『ヴィラン退治』じゃなく『傷害』のイメージが増すからね! けど禁止じゃない!」
「……結局んとこ、ヒーローっぽくないとかいう適当な理由ですからね、それも」
「そうだね。けど結局の所やっぱり、市民に安全と……更には『安心』を与える事がヒーローの本懐さ! 刃物に危険なイメージが付き纏うと言うなら、考慮はするべきだよ!」
爆豪がナイフを逆手に持ち、格闘と織り交ぜて緑谷に細々とした裂傷を与える様を見ながら、瀬呂が肩を竦める。
「……分かってた事だけど、やっぱヒーローって土台からして不利なんだよな。ヴィランがやるのにヒーローがやれない事多すぎだろ」
「基本的にヴィランが先手を打って、ヴィランの用意した舞台に突っ込んで、ヴィランから市民を守りながら、ヴィラン的な手段を使わずに、ヴィランを倒さなきゃいけない……確かに、厳しいよな」
瀬呂の言葉にそう返して表情を曇らせる砂藤に、オールマイトは深く頷く。
「それは間違いないね! ヒーローは常に全力を出せない状況で戦わざるを得ない。ヒーロー活動はその全てがハンデ戦さ。だがヒーローは、それを乗り越えねばならない! 皆も知っているだろう! 雄英の校訓を! 『plus──』」
「あっ、状況動きそうっすよ」
「ン゛ン゛ン゛ン゛!!!!」
既に爆豪がガチ刃物を取り出しており、もう訓練とは言えない程の血みどろの戦いをしている二人と同レベルとまではいかないが、五階の轟と八百万の戦いも、静かに、しかし恐ろしい程の緊張感の中で繰り広げられていた。
ガスマスクを装着し、モコモコとしたファーコートの上からボウガンを四丁下げた明らかに顔色の悪い八百万が、その内の一丁を入口付近に居る轟に向けている。
そして轟は、ジッと
コートの下から覗く八百万の生白い手足からはボタボタと漏れ出すように液体が垂れ落ち、氷の張られた足元にオレンジ色の水溜りを作っていた。
そして、部屋中に充満するむせる程の石油臭。
八百万は炎と
彼女は轟がこのビル全体を凍らせたその瞬間から、自身の体力や肉体の『創造』許容量を鑑みて、十分間ずっとガソリンを放出し続ける事が可能であると判断し、それを選んだのだった。
とはいえ、可能というのはあくまでも『可能なだけ』であり、それをすれば自分がどうなるのか等は分からなかった。
これは大体の生徒に言えることであるが、無免連中や飯田、轟といった身近にプロヒーローが居るような環境でなければ個性を限界ギリギリまで酷使するなどといった経験はしないのが普通なのだ。
これは当人達の意志の問題ではなく、個性を限界まで使うとそのまま制御が効かなくなり、暴走事故を引き起こす可能性がある事から、私有地にて
八百万の創造は、自身の身に蓄えられた脂質を基に様々な物質を創り出す。
そんなことを言っても明らかに蓄えている脂質の量と創り出せる物質の量が釣り合っていない事この上ないのだが、今の問題はそこではなく『脂質を限界まで搾り取れば、その次はどうなるのか』。
その答えを、轟は目の前で見せつけられていた。
無傷ながらも、既に彼女は顔色が悪く、息も荒くなっていた。
以前にも何かの折に言った事がある気がするが、『個性』には二つ、種類がある。
それは、限界に至れば全くもって使用できなくなる個性と、限界に至っても自傷ダメージ等と引き換えに無理をして発動し続けられる個性。
その中でも一つ目の個性、明確に限界が存在する……切島の硬化*3、上鳴の帯電等がそれに当たるが、八百万もこのタイプに該当していた。
しかも、上鳴と同様に『個性の限界』が『肉体の限界』と非常に近しいタイプ。
「……八百万、お前」
荒い息を吐く八百万に轟がつい、といった感じで一歩近付くと同時に、バシュッ!! と擦過音が響き、轟の左半身を覆う氷が砕ける。
「……お前」
「近寄らないで下さいませ……『轟さんが怪しい事をした』と私が判断すれば、躊躇無く撃ちます……次は、氷の無い場所を」
カシャッ、と最小限の動きで矢を充填する八百万の片手には、ライターが握り込まれている。
ガソリンは八百万の身体から出ているものだ。火などつければ間違いなく彼女は焼死する。
だから、八百万はライターを使わない……その筈だが、そうと言い切れない『凄み』が、今の彼女にはあった。
(……ヤバいな。こいつ完全に、緑谷に『引っ張られて』やがる)
轟は先程の、爆豪に対し奇襲を仕掛けてきた緑谷を見ている。
彼の気迫……確実にこちらを潰すという害意、『本気度』とも言えるか。そういったものは、轟からこの十分間が訓練であるというある種ナメた態度を完全に払拭していた。
たった一瞬の交差だけでそうなるならば、十分間緑谷の本気を感じ続けた八百万もまた、ある種の覚悟というものを宿していてもおかしくはないだろう。ガンギマリっぷりが伝染したと言っても良い。
(……これ、一人じゃ無理か?)
今の八百万を安全に止めるには、意識外からの奇襲しか無い。そしてそれをできるのは……今はここに居ない人間だけだろう。
そして、それはインカムの向こうで嗤いながらゴキッとかバキッとかグシャッとか凄まじい音を垂れ流している男しか居ない。
そして、先程その爆豪からも緑谷を
(考えろ……今の俺にできる事。この場所を動かねえで、爆豪と緑谷を引き剥がして、そっから即座に八百万を制圧できるような……)
八百万との睨み合いを続けながら、轟は考える。
考えて、考えて……
ふと、天井に目が向いた。
「……氷柱が出来てきた」
「……?」
八百万が唐突に発したその言葉に首を傾げるが、轟からは目を離さない。彼の氷の展開速度であれば、一瞬目を離すことが致命傷になると分かっていた。
それが轟の思い通りであるとは、この時点で気付く余地も無い八百万であった。
所変わって一階下の廊下では、爆豪のナイフが緑谷の鉄刀に弾かれて甲高い音を立てていた。
「ッチイ!!」
体勢の崩れた爆豪の脇に回し蹴りを叩き込み、窓ガラスに叩きつける。
ガラスがそこに張っていた氷と共に砕け散る。
そこに緑谷が素早く近付き、爆豪を窓から階下に蹴り落とそうとするが、それを身体をよじって回避。緑谷の蹴りが窓枠に叩き込まれ、歪んだアルミサッシが空を舞う。
「死ッ……ねェ!!」
突き出された爆豪のナイフ。
その刃部を避け、持ち手を握り込んだ爆豪の拳を掴む緑谷。
置かれた状況のまずさに彼が歯を食いしばった瞬間、刀を氷に突き立てた緑谷の鉄拳がその顔面に突き刺さる。
「ガバッ!?」
「ちょっと! 攻撃をッ! 焦ったねッ!!」
顔面、側頭、そして肩を掴んでの腹部膝蹴り! 遂に爆豪を捉えた緑谷の一切躊躇無い三連撃が彼を襲い……ついに爆豪は膝を着いた。
「ッ!?」
「んがっ!!」
その事に緑谷が一瞬気を緩めたその隙に、爆豪が突き立っていた緑谷の鉄刀を掴み取り、自身の拳を握り込んでいる緑谷の腕に向けて一閃。
緑谷はそれを難なく避けるが、しかし拳を離してしまう。
それに一切目を向けずにおぼつかない足取りで廊下の向こうへと走り去っていった爆豪を、緑谷は追いかける。
「八百万さん、大丈夫? あと一分だから、頑張って」
インカムの先から返事は聞こえない。ただ、荒い息だけが聞こえた。
もう一度、頑張れ、と口に出してから、緑谷は走る。
「かっちゃん!!」
「あぁ!? クソが! 来んじゃねえよボケ!」
走り出して三秒で爆豪の背中を見つけた緑谷は、グッと床を蹴る力を増す。
しかし、この期に及んで警戒を緩めていなかった緑谷は、爆豪の動きに違和感を感じた。
それは何かを、気にしているような。
何かを、探している……ような。
しかし、緑谷がそれに気付くのは少しばかり遅かった。
爆豪が一つの部屋に入る。
予めこのビルの立地は分かっていた緑谷。そして、八百万の報告があった為にそこが轟が最初に氷の足場を作って入ろうとしてきた部屋であることも分かっている。
「行かせるか!」
窓に向かって走る爆豪を追って、緑谷もまた部屋に入る。
その時、緑谷は確かに見た。
爆豪が、血塗れの顔でこちらを見てニヤリと笑う、その瞬間を。
「……ッ!?」
窓に脚を掛けた爆豪が、キュッと緑谷の頭上を指差す。
そこには……否。『そこにだけ』、氷柱がビッシリと並んでいた。
……緑谷は、知らない。
『…………氷柱とかは出来ねえんだろうな』
『作ろうと思わなきゃそういう形は出来ねえ。普通にやれば普通の氷を出すだけだ。目の前にモノがあればそれに纏わりつくように氷ができる』
『……』
ヒーローチームが突入した直後、こんな会話があった事を、緑谷は知る由もない。
だが、この一瞬で緑谷はヒーローチームの作戦を全て正確に把握していた。
(……ああ、僕は馬鹿か! ビル一棟凍らせるだけの能力を持つ轟君だぞ! 『床越しに氷を出す』ぐらいやってくるに決まってるだろ!)
「ッ八百万さんッ!!」
「やれェ!! 半々野郎ァ!!」
咄嗟の判断で緑谷がインカムに向け叫びながら前方に向けてステップをするが、それはほんの一瞬遅かった。
バキンッ!!!
「クソっ!!」
「オオオオッ!!!」
そして爆豪は動きを止められた緑谷に一瞥すら向けず、氷の足場を跳ぶように駆け上り、八百万の攻撃によって砕けた窓から中に飛び込む。
「まさかっ!?」
「あ゛!?」
驚きつつも、緑谷から通信が来ていたこともありボウガンを向け、躊躇無く発射した八百万。
しかし爆豪は、貧血の頭痛に歯を食いしばりながらもその飛んできた矢を恐るべき反射神経で以て掴み取った。
「こんなもんでなァ!」
「うそ、キャァッ!!」
そして、入口近くに居た轟がすかさず爆弾に駆け寄ってタッチした音を聞きながら、爆豪は眼を白黒させている八百万の耳からインカムを外し、それを口元に持っていく。
「……ハッ、よぉデク」
時間ギリギリ。面の皮一枚。どちらが勝ってもおかしくない勝負。
……何を言おうが、変わらない。
……この場の結果には、何の事情も関係が無い。
『目標、確保ッ!! ヒーローチーム、ウィィィンンンッッ!!!!!』
「まぁ、テメーにしちゃ頑張った方なんじゃねえか?」
爆豪の、その勝ち誇った声に、刀で氷を砕いて自由になった緑谷が、苦い声で返す。
「……今回は……勝てるって思ったんだけどね……」
『俺がテメェーに負けるかよ』
「……言ってろよ」
捨て台詞を吐き、緑谷はインカムを耳から外す。
そして、ゴロンと氷の床に転がって、大きく大きく溜息を吐いた。
「……また、勝てなかった」
「……どうやったら勝てるんだ、僕は」
インカムを外したその声は、オールマイトにも聞こえてはいない。
火照った身体を冷ますように氷に寝そべりながら、脚に付けたアイゼンを外し、刀を放り出した緑谷は、授業中であると分かってはいてもオールマイトが様子を見に来るまでずっとそうしていた。
原作となんか色々逆になってる所がいっぱいあるぞ!さがしてみよう!
次回で戦闘訓練編終わりです。無免の醍醐味、みんなで飯の回の予定です。