それと時間なくて全然推敲してないからもしかしたら誤字多いかも分からんです……
追記
推敲の事を推古って書いてました……もう……寝るわ!
あ、今年もよろしくね(喪中)
今回のあらすじ
轟回。
麦茶太郎さん、愛想豆腐さん、誤字報告ありがとうございます。
「さて! 講評の時間だよ!」
恐怖と混乱、戸惑いと興奮の冷めやらぬモニタールームにオールマイトの声が響く。
そんな彼らの視線の先に居るのは……『二人』。
それは終ぞ怪我らしい怪我を負う事の無かった轟と、十分を超える死闘を行ったにも関わらず結果的にはちょっとした打撲とナイフによる切り傷程度しか付けられなかった緑谷である。
ちなみに八百万はちょっとした栄養補給と肌がかぶれる前に全身の石油を落とすためのシャワーに、そして爆豪は普通に保健室に緊急搬送された。
血塗れながらも勝ち誇った高笑いをこだまさせながらハンソーロボに運搬されるその様を見ていたクラスメート達の心境は察するに余りあるというものだろう。
「まずは今回のMVPなんだけど……難しいね、色んな意味で!」
オールマイトのその言葉を皮切りにして、クラスのあちらこちらから色々な意見が飛び交う。
「いや、緑谷だろ。凄かったし」
「じゃあその緑谷を超えた爆豪だろ」
「轟は? 決め手になったじゃん」
「いや、一番の活躍はヤオモモでしょ。緑谷今回ヤオモモいなかったらたぶん何も出来てないよ?」
「心が死んでいく」
称賛の言葉、否定の言葉。ついでに心は硝子の緑谷。
様々な意見にウンウンと頷くオールマイトだったが、それがある程度一段落すると、コホンと控えめに咳をした。
「……えー、色々な考えが君たちの中にあるのは分かった。確かに、今回は様々な面で様々な……それも、眼を見張るような活躍があった。だからこそ! ここは『戦闘訓練として』のMVPを決めたいと思う! そしてそれは────君だ、轟少年」
オールマイトはピシリと手を向けた轟に対して宣言する。
それに対して轟は不満そうに眉根を寄せた。
「……俺は今回、殆ど何もしてませんが」
「うーん……逆かな? 今回君以外は
「ハイごめんなさい!」
意味ありげなオールマイトのアイコンタクトを受け、すっかりと雰囲気が元に戻っている緑谷が頭を下げる。
そして、周りの生徒達もやりすぎというオールマイトの言葉には大きく頷いていた。
「緑谷少年のチームが行った事は多岐に渡る。危険な武器や飛び道具の使用、手加減という概念の欠如した徹底的な追撃、ガソリンによる自爆作戦、そして警告の実質的無視……そして何よりも『
ヴィラン的要素を指を使って一つ一つあげていき、ウンウンと頷くオールマイトであるが、その頷きは非常に重かった。
……これは、ちょっと怒ってる……?
生徒がそう察するも、講評は続く。
オールマイトは先程のカウントで広げた五本の指を拳にし、それを確かめるように包み込む。
「……勘違いしないで欲しいのでもう一度言わせて貰うが……緑谷少年と八百万少女の作った作戦はヴィランの思考をトレースする、という意味では最適だ」
警告の無視や確保テープの不使用は別としてね、と言い、オールマイトは顎に指を当てる。
「ちなみに私が緑谷少年達の立場なら……ガソリンを撒く前に複数箇所の廊下の床を抜いて穴を作ったね」
「その手が」
「少年?」
「ゴメンナサイ」
緑谷が下げた頭に、上に乗せるだけのチョップをボスッと喰らわせたオールマイトは腰に手を当て、ムンと気合を入れる。
「訓練と実戦の決定的な違い、それはちゃんとルールがあるという事だ! 今回の訓練、特に緑谷少年と爆豪少年は確かにルールを破る事こそしなかったが、ちゃんとルールに則った上で健全な訓練を行ったか? と言われると何とも言えないだろう?」
その言葉に、緑谷含め全員が頷く。
「ヒーローは
「ハイ!」
「分かれば良し。道徳持っていこう! しつこいようだけど、緑谷少年達の作戦はヴィランとしては満点だったからね! じゃあ解説に移ろうか!」
スパッと気分を切り替えて、両者の作戦と戦闘の駆け引きを解説するオールマイト。
その後に引きずらない切り替えの良さは、流石の貫禄を感じさせた。
そして、始まった解説にドン引いたりげんなりしたりするクラスの面々を、轟は一歩後ろからあまり納得のいっていない表情で眺めていた。
入学時には「コイツに勝てる奴居ねぇだろワハハ」といった評価をされていた爆豪が一回目の授業から全身打撲と中度の脳震盪に顔面を中心に出血多数と、怪我人の多い雄英高校の基準でさえもちょっとヒくような傷を負って保健室に運び込まれた。
「全くどうしようもないねアンタは! 止めるとか警告するとか実力行使とか全員一発ずつ殴るとかやれる事は幾らでもあるだろうに!」
「や、本当に申し訳無い!」
ので、つい先程まで緑谷に説教とかしていたオールマイトは授業終了後その足で保健室に来て、腰をビッタリ直角に曲げて保険医であるリカバリーガールのありがたいお説教を聞き続けていた。
ちなみに、ヘドロ事件において無茶をしなかった為にオールマイトの活動時間は一日三時間をキープしている。
その為、オールマイトに試合のMVPを聞いてからずっと不機嫌丸出しな、包帯まみれの爆豪とカロリーバー(二箱目)をモキュモキュと品良く食している八百万の視線が背中に突き刺さっていた。
「……あの、生徒の前ですので、できれば……」
「ハァン!? 最近耳が遠くてね! 今なんて言ったのかもう一回言ってごらん!」
「反省してますと言いました!」
キュバ! ともう一度頭を下げるオールマイトを呆れた目で見て、それからベッドとその脇の丸椅子にそれぞれ座っている二人の重症者に視線を向けた。
「ま、とりあえずあんた等は今日のとこは帰んな。嬢ちゃんはちゃんとしたご飯をたらふく食べて、しっかり寝る事。そんでアンタは……言うまでもないね。これ以上馬鹿なことをすんじゃないよ」
「ウス」
「はい」
二人が立ち上がった時に間髪入れず「アンタは残りな」と言われションボリするオールマイトを見つつも保健室から出た二人。
コツコツと八百万のローファーの音だけが響く廊下で、少しばかり時間が経った時、「あの……」と彼女が前を歩く爆豪に声を掛けた。
「あ゛?」
「……あの、私は……どうでしたか?」
具体性に欠ける質問。
普段の爆豪なら切って捨てるような質問であるが、彼は一つ鼻を鳴らして、
「どーいう意味だよ。具体的に質問しろや」
「あ、え、ごめんなさい……」
普段通り切って捨てた。
「……その、私の今回の立ち回り……についてなのですが……」
「ほとんど見てねえよ」
取り付く島もない態度にますます萎縮する八百万であるが、背後のその気配を敏感に察した爆豪はいかにも面倒そうに立ち止まって頭を掻いた。
「半々野郎が部屋に入れねーつってきた時はまじで腹立った」
「え」
「ブッ殺そうかと思った」
「あ、あの一体、何を……?」
「次はテメーもクソデクも半々野郎も全員ぶっ殺すつってんだ!!」
クソが! 死ね! と廊下に罵声を響かせつつドカドカと歩いて行く肉体的にもメンタル的にもタチの悪い爆弾みたいな男に小走りで着いていく八百万の頭の中は疑問符で一杯だ。
この一連の意味不明な罵倒が爆豪なりの褒め言葉であることを彼女が知るのは、もう少しだけ先の話である。
スバァンッ!! とやたらめったらデカい教室のドアを開けた爆豪を待っていたのは、称賛と畏怖の視線であった。
「あ、おかえり爆豪! どーだった?」
「あ? どーもこーもねえよ」
「爆豪! 俺と麗日の作戦どうだった!?」
「お前突っ込んだだけだろボケ」
気難しげに、偏屈に、しかしながら割と律儀に言葉を返す爆豪に、クラスの人間が何となく彼の性格を把握し始めるが、そんな彼の意識はそことは別の所にあった。
それは、現在この教室に居ない者の事である。
「……おいクマ、デクは」
「ん? 明引きずってサポート科に土下座しに行ったけど」
緑谷に関しては完全に確認だ。もはや聞くまでも無かった。
「……なら、半々野郎はどーしたよ」
「さぁ? 帰ったんじゃん?」
変声マスクの調子を整えながらそう言う心操の言葉に、舌打ちを一つ鳴らす。
そして、たった今くぐったばかりの扉をもう一度開いた。
「鞄も持たずにどこ行くんだ?」
「便所」
そう言うだけ言ってスパーンッと閉められたドアを、呆気にとられて見る生徒達。
その中で、心操だけがいかにも面白そうにクツクツと喉の奥で笑い声を殺していた。
「……ねぇ心操、今のって何?」
「うん? ああ……」
よく分かっていない様子の芦戸を見てまた笑うが、流石に堪えて疑問に答える。
「まぁ簡単に言えば……アイツらしいって事だよ」
そう言っても疑問の表情を止めない芦戸に、心操はもう一度、今度は声を出して笑うのだった。
四月初頭は、まだまだ日が落ちるのが早い。
空が赤らみ始めている中、一人鞄を抱えて校舎から校門への長い道を進む轟の背に、声が掛けられる。
「オイ」
僅かな時間で聞き慣れたその声に振り向くと、そこには予想違わず仏頂面の爆豪が立っていた。
今にも舌打ちしそうな顔でガツガツとアスファルトを鳴らし、轟の前に立つ。
何故爆豪がここに居るかが分からず、内心で首を傾げる轟……その襟首を、爆豪は煙立つ掌でガッと掴み、引き寄せた。
「ッグ!? 何して……」
「次はデクもテメーもガソスタ女もぶっ千切ってぜってえに俺が勝つ!! 次からテメェーのMVPは有り得ねえからなァ!! 次は俺が一番だ!!」
「……は?」
言うだけ言って突き飛ばすように襟首を離した爆豪は、「クソがよ!!」と悪態をついてクルリと踵を返した。
未だ頭の上に疑問符が飛び交っていた轟であるが、どうやら爆豪から宣戦布告を受けたらしいと理解し、つい彼を呼び止める。
「オイ」
「ア゛アン!?」
ギュルンッ!! と土煙を上げる凄まじいターンを見せた爆豪が敵意を露わにしてガンを飛ばしてくるが、轟には彼の言葉にどうしても反論したかった。
「……勝つも何も同じチームだ。それに、お前の方が実力は上だろ……客観的に見て」
「………………ハァ?」
「今回は、俺の実力で取れたMVPじゃねえ。だから──」
「馬鹿かテメェ」
自身の勝利を否定する轟。
そんな轟を、爆豪は正面から否定した。
「テメェの意見とか知るか! 俺が欲しいのは圧倒的な! 完膚無きまでの一位だ!! 世界全員納得しても俺が納得しなきゃゴミなんだよ!! 分かったかクソが!」
ブシューッと鼻から蒸気を吹き出してもう一度轟に背を向ける爆豪。
そんな爆豪に、轟はもう一度声を掛けた。
「オイ」
「今ッ度は何だァッ!!! 何ッ回も何回も呼び止めやがって要件は一回で言えやボケ殺すぞ!!」
この後緑谷にも
────轟焦凍は、自他共に認める程に圧倒的な努力を積み重ねてここまで生きてきた。
例えそれが誰かに強制されたものであったとしても、その努力は本物だ。だからこそ分かる。目の前の男や緑谷は、自分を圧倒する程の努力を積んできている事が。
だからこそ、解せない事があった。
だからこそ、聞きたい事があった。
「お前は、何で……そこまでやれたんだ?」
自分には復讐心があった。自分はあの男を……自身に苦行を強い、家族を引き裂いた実の父を見返す為に歯を食いしばってきた。
ならば────
「お前は……何でそこまで強くなれた?」
「俺は生まれた時から強えよボケ」
「流石にそれは嘘だろ」
呆気に取られる轟。冗談か? と言いたそうな顔をするが、どっこい爆豪は本気も本気である。
「っつーか、強さを求めるのに理由なんて探してる時点でテメーは三流だろ」
「……は?」
「強さを求める理由? どっからどう考えても一つしかねーだろが。『強くなりたいから』だ。単純な事をわざわざ難しくするからそうやって意味分かんねー事ほざき始めんだろ」
……これが、爆豪の強さ。
強さを求める先に何があるのかなど考えない。前に進む理由を他者ではなく自身に求める。
見方によっては愚か極まりないその態度はだからこそ、ブレない。決してブレない。何があろうとブレる事は無い。
「単純な事を……難しく……」
ボソリとそう呟く轟に対し鼻を鳴らして、今度こそ背を向ける爆豪。
そのまま一歩、校舎に踏み出そうとして。
「あ! 轟君居た〜〜〜!!!」
もう何回目になるか、今度は校舎から走ってきた緑谷に脚を止められた。
「アァ!? デクコラテメェ」
「ごめ、後にして!」
「待てやァ!!」
殴ろうとする爆豪の腕(重傷)を掌底で一切の容赦無く思いきり払いのけ、その痛みと衝撃にブルブル震える彼の横を軽やかに通り抜けた緑谷は轟の左手を掴む。
「……ねぇ、右は氷でコッチは炎出せるんだよね!?」
「…………オウ」
「お願いします!! 晩御飯ご馳走するからお風呂沸かし手伝って下さい!!」
「……は?」
この唐突さに慣れている人間にとってはなんてことの無いような発言であるが、それに慣れていない轟はただ目をパチクリと瞬かせた。
しばらくして。
「あ、どうぞ上がってよ」
『お邪魔しまーす……』
一般的に言えばかなり大きい一軒家に、緑谷を先頭としてゾロゾロと灰色のブレザーを着た集団が入っていく。
先程までの訓練の反省会をしつつ互いを知ろうという事で心操が「教室でやるより俺らの下宿先で飯でも食いながらやらねえ?」と言った結果である。
ちなみにここに来ているのはクラスの半数であり、残りは肉やら野菜やら買いに行っている。ちなみに本日は焼肉である。
場所を借り受けるクラスメイト達が連名で奢ってくれるとの事であるが、その対象に焼肉を選んだ事を彼らが色んな意味で後悔するのはもう少しだけ先である。
「……今日は、何も設置されてねーよな?」
「え? うん多分」
「多分!?」
昨日この家に来て無免の洗礼を浴びているメンバーは非常にピリついた様子で部屋や廊下を伺っているが、特に怪しいものは見つからない。
「洗面所コッチね。手洗ってね」
「あ、洗面所使えるようになったんだ……」
緑谷に促され一人一人昨日まで有毒物質に汚染されていた洗面所で手を洗う。その奥にある風呂場のドアはきっちりと目貼りされており、虫一匹出る隙間も無い。そのドアには昨日洗面所のドアに貼られていたドクロのピクトグラムが雑に貼り直されていた。
「さあさあ、皆はお米洗ったり今ある野菜切ったりしてね! 轟君はこっちだよ!」
普段中々食べることのできない焼肉(何故なのかは言わずとも大体わかると思う)を食べられるとあって地味にテンションの高い緑谷が轟の腕をグイグイ引っ張って中庭に連れて行く。半分無理やり連れてこられた轟は死んだ目でコンロに入れる為の炭をいこらせていた*1。
「いやぁ、助かるよ! 轟君がいると早い早い!」
「……おう」
左手に炭を一つ握り、高温で熱する。そうすると猛烈な量の煙が吹き出し、それが無くなれば既に炭に火がついている……ほんの数分の早業である。普段から高速でうちわを振るなどしている緑谷からすれば、涙が出そうな光景だ。
「轟君が居てくれたら本当に楽でしょうがないよ!! 部屋あるからこの家に住まない? 今日みたいにまだ寒い時期にお風呂沸かすのが本当に苦痛で!!」
「風呂ねえのか?」
「明後日くらいには新しい湯船が出来上がるんだけどね」
その言葉にふぅんと流した轟だが、勿論注文している訳ではなく発目がこの家の地下作業場で毎晩結構必死に作業していると言うだけである。
基本発目には甘い緑谷だが、この寒い春先に毎晩ドラム缶風呂はキツ過ぎた……というか真面目に風邪をひきかねないので結構本気で発目を叱りつけ、さっさと作れと急かした結果である。
尚、珍しくも緑谷の*2許容ラインを見誤った発目は彼の珍しいガチ怒りに大層恐れ慄き、半泣きになりながらその日の内に素材を調達し(そして正確な修理期日を伝えて緑谷に許してもらい)、次の日には大体の形を作り、その次の日には耐水塗装を施した。今はそれの乾き待ちである。
が、こんな人間関係からやってることまで一切の隙無く非常識極まりない話を轟は想定していないし、逆に緑谷は物が壊れたら相当な物でも無ければ大体発目が作るし、それで済むなら基本何でも許すのが幼い頃からの常識なので何も言わなかった。悲しいすれ違いである。
ありがたいありがたいと轟を持て囃す緑谷に乗せられ(緑谷は乗せている気は無いのだが)次々に火種を作っていく轟だが、そのスピードが早すぎるのですぐにそういった作業は終わる。
早々にやる事の無くなった轟は掌についた炭の粉を焼却清掃しながら(便利)レンガを積み上げてコンロを作っている緑谷を何となしに眺める。
「……手伝う」
「え? ありがとう! ならアッチの端に積んでるレンガ全部持ってきてくれる?」
緑谷の言に従って庭の端に置いてあるレンガを全て運び終わり、再び手持ち無沙汰になる轟。
ウキウキワクワクを全身で表現しながら轟が火を付けた炭を火箸でコンロに振り分けていく。
その様をボーッと眺めながら、轟は気になっていた事を尋ねた。
「……なぁ、緑谷」
「何?」
「お前、どうしてそこまでやれるんだ?」
それは、先程爆豪にしたのと同じ問いかけ。
その具体性の無い問いに、緑谷は首をひねって「何でここまで強くなれたかって事?」と確認する。それに対して頷く轟。
「何もできない無個性のクズの癖になんで身の程弁えて早々に諦めなかったのかって?」
「いや、そこまでは言ってねえ」
「冗談だよ」
あらゆる意味でセンスゼロの冗談をカッ飛ばした緑谷に、轟は引き気味になりながらも質問は止めない。
「俺だってここまで強くなんのにスゲー苦労した。多分爆豪も同じだろ。だから分かる。お前はとんでもない苦労してここまで来てる」
「んー、まぁ、否定はしないかな」
「……だから、そこまでするだけの理由は……」
「無いよ」
ピシャリ、と遮るように告げられた否定に、轟は眉をしかめる。
「何もって、んなワケねえだろ。何か……」
「劇的な過去とか、隠された秘密とか? アハハハハ!! ナイナイ! なんにも無いよ!」
うははは! と引き続き腹を抱えて笑い転げている緑谷に、毒気を抜かれた轟は眉の力を抜いてポカンと小さく口を開いている。
そんな轟の表情を見て、今度はニコリと微笑んだ緑谷は、「そんな難しく考えなくて良いんじゃない?」と言う。
「難しく……?」
先程爆豪にも似た事を言われた事を思い出す。
家の中から肉や野菜を持って級友達がゾロゾロとやってくるのを見て、コンロの前から立ち上がる緑谷は、轟の顔を真っ直ぐに見つめ一本人差し指を立てた。
「これ、僕の持論なんだけどさ」
「……」
返事をしない轟を気にせず、緑谷は持論を展開する。
「何かをする時、何かを目指す時。『それをしたいから』、『それになりたいから』……要するに『それが好きだから』以上に人の原動力になるモノって、無いんじゃないかな?」
「……好き……だから」
「特にヒーローなんて人生賭けるものなんだし、あんましゴチャゴチャ考えてたら出せる実力も出せなくなると思うよ? ……まぁ僕の考えだから、あんまり気にしないでね」
そのままルンルンと肉皿を受け取って複数のコンロに均等に配置し始めた緑谷を眺めながら、轟はただひたすらに押し黙っていた。
茶色く焼けた、表面に脂を滴らせる肉を摘みとり、タレを付けて口へ運ぶ。
「んー、んま!」
香味の効いたにんにく醤油と牛の脂が口内を蹂躙するのを感じながら、芦戸は白米をそこに投入し、米の甘みを噛み締める。
「お肉最高! 美味し!」
横から飛んできた金属皿をシュッと身を反らして避け、茶碗から無くなってしまった白米を炊飯器から補充する。
「いくらでもイケる!」
「ね、ねぇ三奈ちゃん?」
「私には何も見えないよ」
「あ、ハイ」
今回焼肉の為に用意されたコンロは三台。そしてA組の約八割……十六人はその内一番端の一台に寄り集まっていた。
「シャッラァ! どけボケそれは俺の肉だ取んな殺すぞ!」
「アッウマッ! 熱っ! うま!」
「ガード! ガード!」
「行け! いけ! 進め! アタックアタック!! 上がれ上がれ!」
もういつもの事なので描写は割愛するが、いつもと同じ光景が残り二台のコンロでは繰り広げられていた。
ちなみに参加しているのは言わなくても分かるメンツである。
血も滴るような(そんなにいい肉ではないが)ジューシーな焼肉を顔中のいろんな穴から血を滴らせながら食べる四人のバケモノ共と、その中で一切ダメージを受ける事無く器用に肉を掠め取っていく少女。
二台のコンロの前で繰り広げられる大乱闘に全員ドン引きしている……と思いきや、そこに立ち上がる者が居た。
「……ちょっと俺、行ってくるわ!」
その者の名前は砂藤力道。雄英高校一年A組において、最もフィジカルに優れた男である。
「ヴェ!?
「オウ、ガチだ……肉が目の前にあるのに、止まれねえだろ……!」
砂藤は普段は心優しき男である。誰であろうと別け隔てなく接し、善悪をしっかりと分け、その上でやるときはやる男だ。
唯一欠点があるとすれば、上記の誇るべき長所はヒーロー科の人間なら大抵持っているので相対的に見て『名前のあるデカいモブ』程度の扱いにされがちな点であろうか。
しかし、その砂藤にも譲れないものはある。
砂藤という男を言葉で表すならば、一言目には『大柄』が浮かぶだろう。
そして、この世において普遍の法則が一つある。
「肉よこせェ!!!」
「あ゛ァ!? やんのかボケコラ! タラコ唇がテメェゴラァ!!」
「切島君の威力を味わいたいようだね……」
「オイ」
…………人間だろうと動物だろうと
「よし、俺も行ってくる」
「障子ィ!?」
「お前までか!?」
「……!!!」
『口田ァァァ!!!?』
障子と口田は普段は心優しき以下略で『名前のある無口なモブ』程度の扱いにされがちな彼らも、体格は無免たちの誰よりも大柄である。よって、よく食う。
「……う、うおおお!! こうしちゃいられるかよ!! 俺も行くぜ!!」
「っしゃァァ!! 瀬呂様舐めんなよ!!」
「えぇ……? みんな行く流れ?」
それをキッカケとして何やかんや成長期で肉に目がない男連中がドカドカと箸と皿を持って戦場に向かう。
ブルブル震えながら「コレがハーレム……!」等とほざいていた葡萄頭をその猛獣の群れに蹴り入れながら、芦戸はハグッと白米を噛んだ。
「お肉オイシ」
「いや芦戸さんヤバすぎひん? アレ肉汁ちゃう奴出てんねんけど……」
「麗日、見ちゃダメ。頭おかしくなるよ」
「えぇ……」
だだっ広い庭で、男共のギャーギャーと騒ぐ声が響く。
今現在女子用コンロ(……と言うわけでもないのだが)に留まっているのは尾白と常闇、そして轟だけだった。
普通に男たちのテンションに引いている尾白や、男の中に入りたいけど謎のプライドが邪魔をしているらしい常闇はともかくとして、轟は心ここにあらずと言い表すべき表情で、機械的に肉を口に運んでいた。
何となく男達の肉祭りに混ざりたそうにソワソワしている八百万をさり気にガードしながら、連中との付き合いが長いだけに色々と察する所のある芦戸はその皿に焼けたての肉を何枚か盛ってやる。
「お」
「イヤ、『お』て! …………あの二人見て何思ったか知んないけどさ、あんま考え過ぎない方が良いよ? どーせ最後には全部かなぐり捨てて一生懸命にならなきゃどーしようもないし」
まるで自分の心を見透かしたかのようなその言葉に目を丸くする轟を見て、彼女はニシッと笑う。
「……何で分かったんだ? あいつらの事考えてたって……」
「ん? そりゃーほら、アタシも通った道だし?」
そんな事を言っていると、ぶすくれた表情で(超)珍しくも緑谷から離れて女子コンロにやってきた発目を見つけ、すぐに轟の横から去っていく。
『明ちゃんあの中に居なくていいの!?』
『引き際を弁えてるからこその天才ですよ』
そんな言葉を言った直後に男達を巻き添えにして木っ端微塵に吹き飛ぶコンロ。
最早阿鼻叫喚の惨状となった焼肉パーティーには目もくれず、轟は黙って安肉の噛み切れない筋を口の中で転がした。
『強くなれる理由なんてどうでもいい』という、爆豪の強さ。
『夢を追う理由に夢だから以上のものは要らない』という、緑谷の強さ。
雄英高校に入学してから僅か二日で出会った、己に迫る……或いは超える二人の強者。
その二人のあり方は……確かに轟の中の『何か』に新しい風を与えていた。
「わーっ轟君!! 轟君!! 上上上上!!!!」
「……あ? がっアッ!?」
「う、うわああァァァ!!?
まぁそれはともかくとして、爆風で天高く飛んだ炊飯器が綺麗に脳天に着陸してしまった轟はあまりの衝撃に脳震盪を起こしその場にぶっ倒れるのであった。
次回からは『USJ編』、無免的に言えば『無個性が個性持ちに勝てるわけ無いだろ編』です。がんばります。