無免ヒーローの日常   作:新梁

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おヒサです。

コロナしました。皆も気をつけてねマジで。

それと、今回ちょっとその、この話の投稿時点で単行本にはまだ来てない話で相談があるので、作者のような完全単行本派の方はあとがき飛ばしてやってください。あとネットニュースのネタバレ見出しまじ許さねえから……

今回のあらすじ

発目、動く。

大自在天さん、リア10爆発46さん、誤字報告ありがとうございます。


第六十二話。朝食は一日の調子を決める

 ────立て、焦凍

 

 ────お前はNo.1になるのだ。俺を超え……オールマイトをも超えてな

 

 

 ああ、夢だな、と。

 

 轟はすぐに理解した。

 

 

 ────僕もみんなと遊びたいよ。ねぇ、一度だけでいいから……

 

 

 轟は、昔から父が嫌いだった。父が彼を、そして家族を見る目は……冷たかったから。モノを見るような目だったから。

 

 

 ────駄目だ

 

 ────お前とは、世界が違う

 

 

 あのときの風景がこの目に見えてるわけじゃない。これはただの風化しかけた記憶でしかなく、細部は自分でも驚くほどに曖昧だ。

 

 ……だが。

 

 

 ────私、もう無理……日に日に、あの子の半分が憎く思えてきて……もう、育てられない……!! 

 

 

 母のあの『眼』は。

 

 驚く程に、鮮明に。

 

 

 そして母は、彼の顔に熱湯を────

 

 

 

 ガギリャリリリリリリリリッッッ!!!!! 

 

「ッがっ!?」

 

 音で殴られる、とはまさにこういう事。

 

 騒々しい等という言葉で済ませるには余りにも程度が凄まじすぎる音の衝撃に脳天を揺さぶられた轟は、慌てふためいて咄嗟に身を起こす為に床に腕を付く……

 

「ッおっ!?」

 

 事もなく、その腕はスカッと宙をきった。

 

 その時バランスを崩し、グルンっとその場で回転してしまった轟の視界に入ってきたのは、自宅の畳ではなくフローリングの床であった。

 

(……ああ、そうだった)

 

 それを見てすべてを思い出した彼は、早々に体勢を立て直すのを諦めてそのフローリングに身体を打ち付けた。

 

 ゴヅッ、と鈍い音が、凄まじい金属音の中に掻き消える。

 

「ふぁ……ウオッス轟。生きてっか?」

 

 ベッドから手を出してギャリギャリとけたたましい音を出す時計を止めた切島は、隣でハンモックから転げ落ちている轟にそう声を掛ける。

 

「……なんだ今の音」

「目覚まし」

 

 そう言って忌々しげに枕元のゴツい置き時計(ヒーロー達からのプレゼント)を睨む切島は、かつてこれを貰った日の晩に結田府の実家で鳴らしてしまい物凄く怒られた経験がある。そのぐらいうるさいのだ。尚工場も兼ねている発目邸は騒音対策も完璧なので周辺家屋に迷惑は掛からない。都合のいい話である。

 

「瀬呂、峰田、布団から出ろ! 砂藤……はもう起きてっか」

 

 切島が硬化させた両手をガンガン打ち鳴らしながらそう言うと、部屋の隅と轟の寝ていた隣に貼られていたもう一つのハンモックから唸り声が聞こえた。

 

 そこには、頭や腕に包帯を巻いた状態で耳を抑えて唸っている二人の男子の姿があった。

 ついでに一つ綺麗に畳まれている布団があるので、恐らくはそこに砂藤が寝ていたのだろう

 

「……野戦病院か?」

「ワハハ!」

 

 轟の言葉に元気よく笑った切島(笑い事ではない)は二人の布団をガバっと剥ぎ取って覚醒を促していた。

 

「ま、アイツラと初めて飯食ってこの程度で済むんならジョートーだろ!いやーなんか懐かしーな!」

「オホウアッ寒ッ!!」

「やべ、朝ダチが!」

「してても言わないってモラルも大事だと思うぜ!」

 

 寝ぼけた二人をおいて轟と切島がペタペタと冷え切ったフローリングを歩いていると、リビングの方から良い匂いが漂って来る。

 

「オウ! ハヨっす!」

「あ、おはよ。轟君は寝れた?」

「オウ。スゲー音したな。耳大丈夫か?」

 

 リビングから見える台所では緑谷と砂藤(頬にガーゼが貼ってある)が並んで朝食を作っていた。

 

 緑谷は料理ができてもキチンと作り込むことは殆ど無いので、今日は非常に料理が上手な砂藤をメインに据え、その手伝いに専念していた。

 

「轟君は昨日の事覚えてる?」

「……炊飯器が頭にぶつかったところまでは」

 

 あらー、と曖昧に笑う緑谷。

 

「何があったんだ?」

「まぁまぁ」

 

 轟のごく当然の疑問をさらっと受け流し、ジュワジュワとフライパンを揺らす緑谷と、気まずそうに頬のガーゼを撫でる砂藤。

 

「何があったんだ?」

「あ、俺乾布摩擦してくるわ!」

 

 鮮やかな逃げを見せた切島がスチャーッと庭に繋がる大窓を開けて外に出る。

 

 その庭には、凄惨な爆発痕が見えた。

 

 轟の記憶では昨日その痕跡付近では焼肉をしていたはずだ。

 

「俺が気絶した後何があった?」

「まぁまぁまぁまぁまぁ!!!!!」

「ほぼッ」

 

 ホカホカのオニギリを口に突っ込まれた轟は、疑問と共にそれを噛んで飲み下す。

 

「……鶏そぼろ」

「じゃこと昆布の佃煮もあるけど」

「くれ」

 

 緑谷と砂藤の手によって大皿にトントントンと手際よく並べられていくオニギリを物色していると、食堂のドアがまた開く。

 

「はーよす」

「あ、おはよ! 上鳴君寝れた?」

 

 そこにはあくびを噛み殺す上鳴と、朝から血圧高そうな爆豪が立っていた。

 

「おー、カイミンよカイミン……つーか爆豪の目覚ましの音やばくね? 知ってる?」

「だからウチの目覚ましはアレしかねーっつってんだろ理解力ゼロかボケ」

「ひどくね!?」

「理解しねーテメーが悪い」

 

 半べそをかく上鳴と、それを無視する爆豪を見つめる轟の耳元で緑谷が半笑いしながら囁く。

 

「かっちゃん、言い方は最悪だけど間違ったことは言わないんだよね。言い方はめちゃくちゃ間違えてるけど」

「あぁ、らしいな」

「聞こえてんぞゴラ」

 

 台所と食堂を隔てるカウンター越しに凄む爆豪は、そのままオニギリを一つ咥えてから緑谷に無言で手を突き出し、これまた無言で渡された布巾で机を拭きだす。

 

「砂藤君、僕ちょっと明ちゃん呼んでくるよ」

「おー、じゃあそろそろ焼き始めるか」

 

 フライパンにベーコンを敷き詰め、そこにパカパカと卵を落としていく砂藤。

 緑谷は庭に続く大窓を通り、乾布摩擦をしている切島の近くにあった地下扉を開いて降りていった。

 

「はよはよ〜」

「おはー」

「お、オハヨウゴザイマス……」

 

 と、その庭を通ってこの家の別棟である旧発目研究所(女子寮)側から既に制服姿の三人……芦戸、葉隠、麗日がやってきた。

 

「ウッス。よく寝れたか?」

「まーねー」

 

 言いつつ皿に盛られたオニギリを一つ食べる芦戸。昆布だった。

 

「ウマ」

「卵焼き甘味か塩味どっちがいい?」

「しょっぱいの」

「出久に任せたら甘い卵焼きしか作らねーからな」

 

 勿論、発目の好みである。

 

 オニギリをモムモムしながら食卓に座っている芦戸の前に、取り皿が一枚置かれる。

 それを置いた爆豪に対し、彼女は「ゴクロー」と鷹揚に頷いた。

 

 今日の配膳当番は、爆豪である。

 

「みなさんおはよーございます!!」

「明ちゃんおはー」

「朝っからうるせーな」

 

 一人一人の皿に盛られた五つの大サイズオニギリと、一人三切れのきれいな焼き目の卵焼き、オニギリに入り切らず余った鶏そぼろ、そして一人一枚ずつ香ばしく焼けたベーコンエッグ、メザシ二匹が並べられ、丁度良く発目や瀬呂、峰田が食堂に入ってくる。

 

 全員が揃った所で、パチッと手を合わせる音が鳴り響く。

 

『いただきます!!!』

 

 本日は随分と人数が多いが、これが彼らの日常である。

 

(……え、多くない?)

(あ、朝からこの量……)

 

 米の量は、一人につき約二合が日常である。

 

 時刻は六時過ぎ。

 

 カツカツカツと、食器の音と会話が響く、賑やかな食卓。

 

「切島さぁ、朝に乾布摩擦するのは良いけど服着てから飯食えよ」

「んぉ? あぁ悪ィ。この後汗流すの考えたらさ」

「明ちゃん、今日ヒーロー科に来る予定は? あとさっき地下で何してたの?」

「今日は実技科目なんで行かないです! 何してたのかは言えません!」

「明ちゃん来ないの? じゃ今日はゆっくりできそう」

「昼休みは行きますよ」

「……だよねー」

「あ、この卵焼き刻みネギ入ってる。ウマー」

「ねぇ明ちゃん本当にさっき何してたの?」

「イイコトです!」

「イイコトォォ!!!?」

「峰田うっさい!」

 

 分け合う(奪い合う)物が無いので必然と平和的な食事を終え、皿を洗ったり服を着替えたり朝っぱらから女子と同じ部屋に居ることに興奮したりとそれぞれがそれぞれの時間を過ごしている時、轟は姉の冬美に連絡を取っていた。

 

『おはよ焦凍。今日は早いね』

「おはよう……テレビの報道陣が集まらないうちに学校入る事にした」

『あーハイハイ。凄いもんね今……ところで身体は大丈夫? 死ぬほど疲れてて今熟睡してるって昨日シンソウ君? には聞いてたけど』

「…………」

 

 何やら情報が改竄されている気がするが*1、まぁ話をややこしくするほどでもないかと、轟は頭部をさすりながら「もう平気だ」とだけ伝えた。

 

「オー轟ー、もう出っぞ……っとワリ、電話中か」

「お、分かった。じゃあ今日はちゃんと帰るから」

『はーい。学校頑張ってね』

 

 電話を切った轟に、切島が「カーチャンか?」と聞く。

 

「いや、姉さんだ」

「へー、仲いいんだな!」

「……まぁな」

「俺は一人っ子だからなー。つーかここに住んでる奴等全員だけど。ネーチャンいるってどんな感じ? 一人っ子とはやっぱ違うか?」

「知らねえ」

「ワハハ! まぁそうだわな! 俺も兄弟持ちと一人っ子の違いとかわかんねーし!」

 

 事情を知る人ならば物凄く胃が痛みそうな地雷まみれの会話をしつつ、二人は玄関を出る。

 

 他の住人はもう学校に行ったようで、玄関の戸締まりをした切島がゴミ袋を持って轟に並び、徒歩二、三分の道を少し急ぎ目に歩き始める。

 

「そーいやよ、轟の髪ってそれ天然なのか?」

「……おう」

「へー! 俺染めたんだよなー。高校入るからちょっと派手にしてやろと思ってさ! 元々黒髪なんだよ俺!」

「……」

「そん時さぁ、緑谷が滅茶苦茶反対してきてよ、何をそんなに反対すんだと思ったら地味な奴が自分ひとりになるのが嫌つっててなぁ!」

「……へぇ」

 

 轟の返事はお世辞にも友好的とは言えないが、普段接する人間の半分は非友好的である切島はまるで気にも留めずに話を続ける。

 

「あ! ってか轟の個性さ!」

「……」

「スッゲー強えよな!! 寒くなると体の動きも鈍るし凍らせれば相手の動きを制限できる! 範囲も広いし、ヒーローとしちゃマジで最強だと思うわ」

「……あぁ」

 

 ゴミ袋を収集ステーションに置いてからも、話は続く。

 彼はコミュニケーションに難のある人間と接し慣れている為、自分一人が話し続ける事に抵抗感は無い。

 

「火もいいけどさー、やっぱその氷だよなぁ。無傷で捕らえれるってのは本当に強えよ。足場にしたり汎用性も高いしさぁ。いや、俺もケッコー汎用性ある個性だけどさ、芦戸とか爆豪なんかは割と純戦闘用じゃん? 轟の氷は割と羨ましんじゃねえかな。派手だし普通に強くてしかも何にでも使える!」

「切島」

「ん?」

「ありがとう」

「お? いーっていーって!! 本音ホンネ! 気にすんな!」

 

 そうと知らずに地雷原でブレイクダンスを踊り狂う切島だが、普段の行いが抜群に良いためか、それとも単純にその善性から話す話題を無意識に選別しているのか、奇跡の如く地雷を避け続ける。

 

 やがて、知る人が聞けば目を剥くような会話を続けながらも、二人は気まずくなるとか悪印象を抱くとか一切しないままにマスコミがまだ大挙していない校門を通り、校内に入っていった。

 

 

 

 朝のHR、予鈴と共に教室に入ってきた担任の相澤は、本鈴が鳴り響いた途端に一言言い放つ。

 

「学級委員長決めろ」

『学校っぽいのキタァァァ!!!!』

 

 ワシャァァ!!! と盛り上がる教室……をたった一睨みで鎮圧した相澤は、委員長と副委員長、その二人を決める事、手段は自分たちで考える事を伝える。

 

 委員長決めでなぜここまで……と思われるかもしれないが、ヒーロー科においてリーダーとはそれだけの価値がある立場なのだ。

 

 事実、名のあるヒーローのインタビュー等で『学生時代は委員長をしていた』といった内容が出てくることはよくある。そして必然的に、人の上に立つヒーロー……大規模事務所のトップヒーロー等になるとその率は跳ね上がる。

 

 多くのヒーロー科生徒にとって、特に向上心の強い者達にとって、委員長とはそういうものなのだ。

 

「ふむ! では一人一票、相応しいと思う人に投票しようではないか!!」

「あ、僕は辞めとくよ」

「んお? 何でだよ緑谷」

 

 しかし、それぞれに委員長希望の言葉を放つ者達を抑えるような飯田の言葉に、緑谷が唯一人辞退の言葉を告げる。

 

「僕はホラ、どうしても明ちゃんの面倒見なきゃいけないから……辞退もありですよね? 先生」

「決まりゃ何でもいいよ」

 

 最近買った電熱で温まるタイプのアイマスク(メチャクチャ気持ちいい)を着けた芋虫にぞんざいに許可を得てから緑谷は適当にノートを数ページ裂いて投票用紙を作り始める。

 

 ちなみに、その緑谷の言葉を聞いてそっと手を降ろした者が複数人居たが、本人達以外誰も気づかなかった。

 

「……けど、無記名投票になるでしょう? 私なら自分に入れるわ。緑谷ちゃんが辞退する以上、これってやる意味あるのかしら? 緑谷ちゃんに誰が良いか直接聞くのが一番効率的になっちゃわないかしら?」

「え? ぼ……俺は他人に入れるつもりだが」

「真面目ね、飯田ちゃん」

 

 とにかく、そういう事になった。

 

 ……して、結果。

 

 一票の人間が多い中、最も得票数を得たのは……

 

「ぼ、僕が四票ッ!? い、一体誰がッ!!!」

 

 飯田天哉四票、八百万百三票、という結果となった。

 

 驚き狼狽する飯田に、緑谷と、その言葉を聞いて手を降ろした者達……芦戸、切島、心操が応える。

 

「そりゃーねー、昨日焼肉で男子達の暴走止めようとしてくれたしー?」

「うん、僕としては飯田君以外無いかなーって感じかな」

「発目が頻繁に出入りするクラスの委員長とか死んでもやりたくねぇしな!」

「飯田ならある程度押し付けても責任持ってやってくれそうだし」

「やる気ねーなら俺に入れろやボケ共が…………!!」

爆豪だけは無いから

かっちゃん鏡見たことある?

族のカシラ決めるんじゃねーんだからさ

クラスの品位が下がるだろ

殺す!!!!

 

 爆豪の猿叫を止めようと相澤がアイマスクをズラした時、最多得票者となってしまった飯田がその場で起立し、大きく声を張り上げる。

 

「……ッ!! 不肖飯田天哉!! 学級委員長を務めさせて頂きます!!」

 

 ズバッ!! と手を挙げて宣誓を行う飯田の姿にパラパラと拍手が贈られる。

 

 それを見て、必要最低限は和を尊ぶ爆豪はギリリと歯を食いしばって再び席についた。

 ここから混ぜ返すのは無理だと悟った故である。

 

 委員長は諦める。けどあの連中は殺す。

 

 一段落した空気、そんな中で、誰かが呟く。

 

「……アイツ、無記名投票で自分に入れなかったんだな……真面目だな」

「んま、アリなんじゃん? すげー真面目そうだし?」

「うんうん! 真面目は良いことだよ!」

 

 彼らも、委員長をやりたかったのは間違いないのだ。だが、無理であればキッパリと未練を断ち、己に代わるものを真っ直ぐに祝福する。

 

 これができるから、彼らはこの最高峰の学園に来ることができた……のかも、しれない。

 

 

 

 委員長を無事に決めた後は授業が待っている。

 

 以前にも言った気がするが、ヒーロー科は基本的に七時限授業である。午前四時限は一般科目、午後三時限はヒーロー科専門科目だ。

 

 つまり、ヒーロー科の生徒にとって、午前中は前哨戦のようなものなのだ。言ったら怒られるが。

 

 そして、そんなヒーロー科にとって重要な事に、昼食がある。

 

 なにせ過酷極まりない、しかも一般授業後のヒーロー科目の為の貴重な栄養源であるからして、それがどれほどに大事かは言わずとも知れることであろう。

 

 

 ところで話は変わるが、雄英最狂の女、発目明は非常に焦りを感じていた。

 

 というのも、何を隠そう麗日お茶子の存在である。否、麗日お茶子を始めとした女子の存在である。

 

 彼、あるいは彼女らの出身である折寺では、二人は街公認のカップルであった。

 幼稚園、周囲の人間が色恋の『い』の字も知らない頃から二人は……少なくとも発目は*2……相手を想って生きており、それは周囲から見ても丸分かりであった。

 

 人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて地獄行き……そんな感じの言葉があるように、既に実った二人の恋を邪魔するものはそうは居なかった。

 そして、居たとしても自身のセンサーに引っ掛かる範囲であったし、驚異となり得る程の存在も居なかった(失礼)。

 

 しかし、雄英(ここ)はどうか。

 

 ここに居る女子はタイプはそれぞれ違えど美人かつ皆頭脳も悪くはなく(比較対象:自分(発目))、その上気立て良く品行方正である。

 

 更にはそのうちの一人など昨日のうちに自身の運命の人を名前で呼ぶという不敵さを見せている。

 

 と、ここまで出揃えば彼女の優秀な頭脳は現状を的確に判断する。

 

 ……即ち、危機。

 

 誰に対しても押しも押されもしない唯我独尊精神を持っているがこと恋人に関する事象に対してはそりゃもう敏感な彼女は、この危機に際しいち早く対策を講じていた。

 

 外見では負けていないのだ。

 

 スペックでは負けていないのだ。

 

 負けているのは品性である。……自覚はあった。直しはしないが。

 

 ……ならば、どうすれば良いのか? 

 

 答えは簡単。

 

 装えばいい。偽ればいい。誤魔化せばいい。ハッタリを効かせればいい。緑谷出久の彼女は非の打ち所のない完璧超人スーパーウーマンであると周囲に思わせてやればいい。対抗する気力すら湧かない程に。

 

「出久さん、ご飯……一緒に食べよ?」

 

 であるならば、やるべき事は学校内デート………………即ち、お弁当作戦である。

 

「ゲボッ」

 

 尚、四時間目が終わった開放感と共にやってきた、弁当箱を抱えた発目から上記の言葉を聞いた瞬間緑谷は胸を押さえて水っぽい咳をした。

 

 ときめきではない。心痛(ストレス)である。

 

 

 

 と、言うことで。

 

 

 

「はい出久さん、おくち開けてください? あーん」

 

 昼食時の食堂にわざわざやってきて長机の端(通路側)に座ってキラキラ(作り)笑顔を振りまく発目の「あーん」攻勢を一身に受ける緑谷は、発目からのラブラブ大好き光線と全方位からのリア充死ね死ね光線に全身を蜂の巣にされ、精神崩壊を起こしかけていた。

 

 既に最初の一口目から考える事を放棄していた彼は、黙って口を開き、弁当用に固く水気をきられたほうれん草のおひたしを優しく放り込まれていた。

 

 程よく茹でられたほうれん草はシャキシャキとした食感と瑞々しい甘み、そして残る繊維感もあっさりと口から引けていき、美味と言わざるを得ない。

 

「はい、出久さんの大好きな一口カツですよ? ……美味しいですか? もう……朝から揚げ物って、結構手間なんですからね? 分かってますか? ふふっ」

 

 幸せそうな(作り)笑顔を振りまきながら緑谷の好物を捏造し始める発目。

 彼女はそのまま(作り)笑顔を煌めかせながら緑谷に甲斐甲斐しく給餌を続ける。

 

 ……なぜ先程から作り笑顔作り笑顔と表記しているのか。

 

 それは単純。今の笑顔は発目が作り上げた笑顔だからである。

 

 確かに、彼女は普段から眠るとき以外笑顔を欠かさない。

 だが、言い換えればそれは彼女にとって笑顔こそが無表情(デフォルト)であるという事。

 

 その笑顔は確かに笑顔ではあるが、見る人によっては顔に張り付いた仮面のようといった印象も与える、無機質さを持った表情なのだ。

 

 まぁ実際には結構微小ながらも感情によって表情は変わる……とは生粋の発目キチ、緑谷の談であるが。

 

 翻って、今浮かべている(作り)笑顔はどうか。

 

 これは、彼女自身がそのインテル入ってる頭脳でもって自身の顔のパーツをどのように動かせば他者に良い印象を与えられるのかをシュミレートして生み出した、言わば『発目明の顔で作れる最高級の笑顔』である。

 

 元々目の覚めるような美貌を持つ少女。最早その威力は計り知れないものとなっている。無論、緑谷に対する虚しい敵対心も天井知らずに上がっていく。

 

「はい、あーん!」

 

 誰か助けて。

 

 緑谷はそう呟きたかったが、少し開いたその口には硬めに炊かれた白米が放り込まれた。冷めた時にべたっと不快な食感にならない配慮がされている。

 

「……ねぇ、いつお弁当の練習したの」

 

 発目に甘すぎる緑谷は彼女の演技が周囲にバレないよう小声でそう尋ねるが、彼女は恋する乙女の顔のまま同じく小声で返す。

 

「ぶっつけ本番ですよ? 今朝地下で作りました」

「今朝かァ……」

 

 もう今更何を言ってもどうにもならない事を察している緑谷は、全て諦めて差し出された卵焼きを食べた。

 

 彼の恋人は突飛な事をするが、大概思いつきなので長くは続かない。

 彼は今だけは周囲の情報をすべてシャットアウトし、おそらく今後の人生で数えるほどしか無いであろう恋人の手作り弁当を堪能することにした。

 

 

 

 ……そんなヤバい女とその女より色々な意味でヤバい男のカップルの様子を、ヒーロー科A組の連中は学食をつつきながら遠巻きに見つめていた。

 

「……しかし、先程はああ言ったが……本当に僕に委員長が務まるものだろうか」

 

 が、一部慣れている者やちょっとそれを気にしている場合ではない者なども居るようであった。

 

「ダーイジョブだって!! ちゃんとやれんよお前なら!」

「……いや、しかし……」

 

 切島の言葉にそれでも思い詰めた表情を崩さない飯田は、黙ってカレーを掬い、口に運んだ。

 

「つか、誰もお前がちゃんとやれるなんざ思ってねーよ。思ってんのお前だけだろ」

「お、おい爆豪……」

「メガネ。お前、インゲニウムの弟かなんかだろ」

 

 爆豪の言葉に、ぐっと詰まる飯田。

 

 その動作が、何より雄弁に爆豪の言葉が真実であると伝えていたので、緑谷を視線で焼き尽くせるほどに睨んでいる峰田以外の面々はそれぞれに驚きを顕にする。

 

「え、そーなん!?」

「あ、あぁ。インゲニウムは俺の兄だ……しかし何故……?」

「個性ダダ被りじゃねーか」

 

 そう言われ、皆は一斉に机の下を覗き込んでは「確かに」と口々に呟く。

 

 飯田天哉の兄、飯田天晴はプロヒーロー『インゲニウム』として活躍している。

 その天晴の個性は飯田と同じ『エンジン』。ちなみに兄は肘にエンジンが付いている。回転率を上げるわけでもないならそれはもはやブースターでは? とは言わないお約束である。というかそれを言うなら飯田も相当怪しい。

 

「しかし、それが俺の委員長適正と、どう関係が……」

 

 飯田はそう尋ねるが、爆豪は自分の昼食であるチキン南蛮に集中してしまい答えない。

 

 ので、その肩に切島がガッと腕を回し、爆豪の足りなさすぎる……というかほぼ皆無の説教を翻訳する。

 

「まーま、つまり! 飯田は今経験値ゼロの初期レベルなんだから、兄貴に対して何思ってんのかは飯田個人の話だけど、今はとりあえず兄貴を見ずに自分のレベルアップをして、将来同じくらいの歳になったときに兄貴に追いつくのを目標にしようぜ! ってことだろ! な! 爆豪!」

「飯食ってる時に肩組んでくんなや! 溢れんだろが!」

 

 超解釈である。

 

 超解釈であるが、特に否定するところも無かった爆豪は切島をとりあえず殴ってからもう一度チキン南蛮の攻略を始めた。

 

「……なんだよバクゴー、いい事言うじゃん」

「というか今の全部切島が思った事じゃないのか? 本当に爆豪のあのクソ以下の台詞を翻訳したのか? …………マァジで?」

「今の切島の言ったことを爆豪が言うとあんな意味不明なクソ台詞になるの? なに前世でそういう呪い受けた?

「お前ら全員ぶっ殺したろかァ!!!」

 

 ドギャッ!!!! とプッツンした爆豪が両掌から爆煙を立ち上らせる。

 

 ……その瞬間、スピーカーからサイレンの音が鳴り響いた。

 

『非常事態発生!! 非常事態発生!! レベル三警報が発令されました!! 生徒の皆様は早急に避難してください!! 繰り返します! 非常事態──』

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 サイレンが鳴り響き続ける中、爆豪が掌を爆ぜさせた体勢のまま固まる。

 

 周囲の学生達が我先にと出口に殺到する中……爆豪に視線を集中させているA組の者達は一斉に口を開く。

 

『……爆豪オォ〜〜〜ッ!!!』

「俺じゃねえよクソ共が!! レベル三警報は侵入者発見警報だろーが!! 火災報知器作動ならレベル四! 施設破壊警報はレベル五! 今の爆発のせいじゃねえ!」

「そーだっけ?」

「生徒手帳読んどけや!!!」

「皆、避難するよ……どうしたの? 何かあった? ……まさか、かっちゃ……」

「違えつってんだろがッ!!」

 

 ちなみにこの後、なんやかんやで飯田が避難誘導にて活躍などするのだが、割愛とさせて頂く。

*1
到底ヒーロー志望の所業ではない

*2
彼女の恋心の自覚は六歳である。仕方がないとはいえ早熟過ぎる。












 えー、はい。皆さんにお聞きしたいのはなんかしらんけど複雑なことになってるらしい誰山君の事なんですが、その前に一つここで宣言しておきます。

 感想欄では何度か言ったような言ってないような気もしますが、この小説は無免が仮免を取ったところを一区切りにしたいと考えています。これは無免ヒーロー開始時から考えていたことです。だって無免だもん、タイトル。

 明らかに試験後を意識した伏線なんかも張っちゃったりしてるので、一区切りさせた後も(仮免ヒーローの日常にタイトルを変えるなどして)普通に続けたいナーなんて思っちゃいますが、実際問題キッチリとあらすじを作っているのがそのへんまでなので、区切るのは間違いないです。


 と、ここからが問題なんですが……感想欄では度々言及していたのですが……今のシナリオのままでは青山君、体育祭でメチャクチャ活躍するんです。
 最近出たらしい情報を考慮してない、裏山君じゃない綺麗な青山君が。

 いやどういう事情でそうなってるのかは自分にはまだ分からないので綺麗な〜は言い過ぎかもしれないですけど。

 ……お聞きしたいのは、そこら辺の話が単行本で出てから青山君周辺のシナリオを考慮し直すか、それとも、どーせ仮免取ったらこれからだエンドじゃあ〜〜ッ!!と突き進むか。です。

 一つ目の方は、執筆時間的にどう考えても自分が体育祭編に辿り着くよりもそこの話の刊が出る方がはやいので、まぁ問題点は自分が元々考えていたシナリオにできないくらいのモンです。

 二つ目は、自分の考えていたシナリオで進めた場合、だいぶシナリオ的に致命的な問題が出る可能性がある事です。けど自分は屁理屈とこじつけには自信があるのでぶっちゃけどうにでもできるかもなーとか楽観視してたりもします。そもそもシュジンコウの状況違いすぎるしね。

 どちらもありだと思いますし、それどころか原作の内容次第では今考えているあらすじをそのまま使っても一切問題無いじゃんっ!!俺の悩み返せよ!ってここで愚痴る可能性もあります。

皆さんは、どう思いますか?

どう思います?

  • 原作の設定をある程度踏襲してほしい
  • 元々練っていたシナリオを優先してほしい
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