無免ヒーローの日常   作:新梁

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話を作ってる時は会議シーンなんて読者は読んでて楽しいのかとか色々考えるけど、書いてるときは会議書くのたのちい〜ってなってる。ので今後も書きます。

今回のあらすじ

ひさしぶりの折寺ヒーローズ!


第六十三話。会議あんど会議

 夜半、最終下校時刻をとうの昔に過ぎた雄英高校に、煌々と明かりの灯る一つの部屋があった。

 

 

 

「揃ったね」

 

 その部屋──職員室の隣、教職員会議室には主に各クラス担任及び校外警備を兼任するヒーローを中心とした教員達が詰めていた。

 

「では、緊急会議を始めよう」

 

 その会議室の中心に座る小動物……根津校長は一度周囲を見回してからよく通る声でそう宣言する。

 

「議題は勿論、本日発令されたレベル三警報の仔細とそれにまつわる対策についてだよ」

「レベル三……僕が雄英に来てから初めてです」

 

 まだ教師としての経験が浅い13号が誰に言うでもなくそう呟く。

 

 雄英高校の非常警報には五つのレベルが用意されており、それぞれに、

 

 レベル一──校舎各所に設置されている押ボタン式の警報機や、消化器、消火栓等の災害用手動設備が作動した場合の警報。

 

 生徒は警報が発令された場所以外はその場にて待機、もしくは教員の指示に従う。*1

 

 レベル二──教師が持つそれぞれの業務用端末に用意されている携帯式の教員用警報機や、スプリンクラー、防火シャッター等の災害用自動設備が作動した場合の警報。

 

 避難体制はレベル一と変わらない。

 

 レベル三──校門や侵入防止壁など、警備用の設備のアラートが起動した場合、及び複数人の教員による『侵入者発生もしくは発生疑い』の判断が為された場合。

 

 この場合は全区域生徒の最寄りの教室への避難が促される。

 雄英高校の教室は各々独立した強固なシェルターとなっているからである。因みにガラスの面は内部からシャッターが降りる構造となっている。

 

 ……そして、レベル四──これは火災や地震等の災害もしくはヴィランによる大規模攻撃が行われている、と、複数人のヒーロー資格を持つ教員もしくは校長が判断した場合に発令される重篤災害警報である。

 

 これが発令された場合、警報が鳴り響いた十分後、全教室は外界と遮断され、雄英地下にある巨大シェルター……かつて受験の説明に使われていた大ホール、視聴覚室が外に居た避難者(生徒)達の受け入れ先として開放されるようになっている。

 

 最後のレベル五は、雄英において『絶対に発動してはならない』とされている警報である。

 

 なぜならこれは電気や水道、ガスといったインフラ面や重要な設備面の重大異常……即ち、有り体に言えば『侵略警報』だからである。

 

 ただ、基本的な対応としてはレベル四と変わりはない。

 

 

 ……とまぁこんな感じで、今回発令されたレベル三警報というのは下二つとは違う『明確に事故ではない警報』なのである。

 

「正門の、侵入者対策のバリケードが『崩壊』……ね」

「ヴィランの侵入痕跡は? 何か盗まれたとか」

「それが……重要そうなものは何も。校内情報を入れた金庫などには指紋検証までしましたが、一切何も出ませんでした」

「……ふむ」

 

 一度、会議室はシンと静まる。

 

「……人混み(マスコミ)に紛れての示威行為、あるいは度胸試しとかか? あの大勢の中に居て、一緒に校内に入り込み、一緒に追い出されるのは簡単だろうしな」

「宣戦布告って線もある。雄英はヒーローの巣窟だからな。それと、ここに度胸試しに来るような思い切りのある奴はそんな慎重なやり方はしない気がするが」

 

 雄英高校に入り込むぐらいの度胸があるならば、こんなせせこましい真似をせず真正面から突っ込んでくるだろうというブラドキングの言葉に、プレゼント・マイクは腕を組む。

 

「……っかし、だからって目的が分からねえぜ?」

「『ここに入ること』が目的ならどう? 例えば……一度行った場所ならワープできる個性、とか」

「個性の話でもしもを言い出したらキリがないだろう……」

 

 最早手詰まりかと思われたその時、会議室に一人の事務員がオズオズと入室してくる。

 

「し、失礼します! 校長!」

「何かな?」

「減っている書類が、見つかりました……!」

 

 ザワリ、と動きを見せる室内。事務員が見せたその書類は、今月分の教員用ヒーロー科授業担当表であった。

 

 外秘ではある。外秘ではあるが……何故、これを? 

 

「これが、一枚減っていまして……」

「……オールマイト『先生』の写真を取りたいパパラッチとかかもね」

「授業をするオールマイト……確かに金になりそうだな」

 

 確かに、あの時大挙していたマスコミが犯人ならば、それもあるかもしれない。

 しかし、そんな事のために? その思いも、消えない。

 

 だからこそ……思考は先に進む。

 

「……この状況で考えられる最悪の目的は?」

「教員スケジュールなんだから……私達教員の誰かが、何かしらの形で害され……最悪は受け持っている生徒諸共殺される、って所かしら」

 

 ミッドナイトのその言葉を、否定することは誰にもできなかった。それだけの状況が揃っている。

 

「……校長」

「うん。しばらくは君たちには苦労を掛けるけど……学内ヒーローでの特別警備シフトを組む。それと、校舎の外での授業の際は担任以外に複数人のヒーローを同行させよう。それと……」

「それと?」

 

 全員の視線が集まる中、根津はある衝撃的な方針を打ち出す。

 

 それは、雄英高校の警備体制の敗北を宣言するような方針。

 

「学内の『仮免取得者』に、念の為の警戒を呼びかける」

「ハァ!?」

「本気ですか校長!!」

 

 この場合の『仮免取得者』とは、勿論学生の事を指す。

 教員の動揺も理解できる。そう前置きをした根津は「それでも」と言葉を繋げた。

 

「それでも、なのさ。そもそもちゃんとした敵の目的が分かっていないんだよ。ここで教師をしているヒーローが目的なのかもしれないし、生徒の誰か一人なのかもしれない。学内施設なのかもしれないし、どれでもないのかもしれない……分かるね? 我々だけでは、現状打てる手が少なすぎる」

「しかし!! ……しかし! 未成年の学生です! 我々が守るべき!」

「どうやってだい? オールマイト。分身でもするかい?」

 

 突き放すような根津の言い分に歯噛みするオールマイト。

 彼とて今の状況が分かっていない訳ではない。

 

 しかし、状況が分かるのと、状況に納得するのはまるで別の話である。それはオールマイトだけでなく、この場に居る他のヒーロー達も皆苦い表情をしていた。

 

「……別に、警備に参加して貰うわけじゃないさ。ただ、門が破壊された事で今後もそれに類する事があるかもしれないと警戒を促すだけ。奪われたのはヒーロー科の科目表なんだから、せめて彼らにそういう気構えを持ってもらうのは間違っていない……それに、仮免を持つならイザという時の覚悟もあるはずさ。いいね?」

 

 では以上、と会議を締める根津。これから彼はスケジュールの調整と各所への対応に移るのだ。

 

 そして、ガヤガヤとざわめきを増す会議室で、雄英ヒーローの中でもオールマイトの教育係を務めているイレイザーヘッドと、教員全体の纏め役を担う実質的な教頭であるミッドナイトが沈黙しているオールマイトに寄った。

 

「……アンタの気持ちは理解できる。皆心の中では同じ気持ちですよ」

「今はこれが最善。この広い敷地をたったこれだけのヒーローで守り切るのは不可能よ。貴方が居てもね、オールマイト」

「大丈夫、分かっている……分かっているが、飲み込めないだけさ」

「普通の人は、それを飲み込むんですよ……アンタはやろうと思えば何とかなってしまうかもしれないから、そういう考え方になる」

 

 オールマイトの言葉をバッサリ切り捨てた相澤は、そのまま踵を返す。

 

「全てを守るのは不可能。それでも全てを守りたいから、こうして小細工をする。これはきっと、オールマイト(スーパーヒーロー)に欠けてるものの一つです」

 

 そう言い捨てて廊下に出ていく相澤を見送って、ミッドナイトもまたその場を離れる。

 

「イレイザーの言う通りよ、オールマイト。次善策はいくつあっても損はない……それに、今の貴方は『教師』でしょう? 『ヒーロー』の使命は人を救うことだけれど、『教師』の使命は学生を卒業の日まで導き続ける事……今この瞬間に全てを出し切って、この瞬間だけ彼等を守れても、それは教師としては、決して正解じゃないわ……勿論今の方針も不正解極まりないけどね」

 

 校長を手伝ってくるわ、と言ってその場を辞したミッドナイト。

 椅子に座って丸まったオールマイトの骨ばった薄い肩を、ブラドキングが通りすがりに軽く叩く。

 

「皆言ってますけどね……気持ちは同じです」

「我々はただ、できる限りの事を……ですよ、オールマイト」

 

 セメントスと13号もまたそう言って気遣う。

 

 それはトップヒーローに対するものではなく、新人教師に対する気遣いだ。

 

「……うん、よし!」

 

 切り替え完了! とオールマイトはその場でマッスルフォームへと変化し、頬をバチンと張った。

 

 

 

 そして翌日、雄英から遠く離れた住宅街、知る人ぞ知るキチの聖地(失礼)、折寺市。

 

 この現代社会とは何ぞやと考えさせられるほどに治安の悪い世界において、折寺市は相当治安の良い街である。

 

 しかし、それは他の治安が悪い街と比較しての事であり、仮に個性が存在していない現代社会があるとすれば、それと比べて犯罪率は最早比較にもならない程に高い。

 

「オラお前ら! そこで止まれ! 止まらねーとこの裕福な家庭がどうなるかわかってんだろーな!?」

 

「クッ!! 卑劣な……!」

 

 強盗殺人などを起こしている凶悪犯罪者、僧帽ヘッドギアが三人の親子を抱えてヒーローを恫喝する。

 

 それに相対するのは、ソコソコ長い経験以外には別に特筆するところの無い剛腕ヒーロー、デステゴロである。今日も今日とて没個性が極まっている。

 

「くっ、為す術ないってのかよ!」

「ハハハ!! ヒーローってのは難儀だなァ!! ま、ソユコトで、あばよ……お?」

 

 ヴィランが高笑いしながら人質を抱え直そうとしたその時……人質と自分の腕の間に何やら、茶色いツタがあるのを見た。

 

「なんだ、コレってぇ!?」

 

 ヴィランがそれに気付いた瞬間、丁度背後にあったマンホールが勢いよく吹き飛び、そこに入っていた樹木をデザインしたアーマーのヒーロー、シンリンカムイが飛び出す。

 

「ィよっしゃ獲ったァァァッ!!!」

 

 スポンッ!! と捕らえられていた家族をヴィランの腕から抜き取り、下水道から飛び出たカムイがダイビングキャッチ。

 それを確認したデステゴロがヴィランに肉薄する。

 

「っやべ!」

「喰らえ必殺ッ!! 『ステゴロラッ──』」

「デステゴロ伏せてッ!!」

 

 必殺技を放とうとした瞬間に聞こえたその声に反射的に横っ飛びしてゴロゴロと地面を転がるデステゴロ。

 

 その事にヴィランが疑問を覚えるより先に、背後からその名前の通り、頭部を覆うほどに肥大化した僧帽筋にメートルクラスのトゥーキックが炸裂した。

 

 その衝撃にたまらず意識を失ったヴィランを素早く拘束しながら、対処をしていた二人は堪らず文句を言う。

 

「何をするァ!」

「あっぶねーだろバカヤロー!」

「ごめーん!! 急ぎなんです!」

「わりーな!!」

「あ? バックドラフト?」

 

 ヴィランを撥ねつつドシンドシンと地面を鳴らしながら去っていった一般通過岳山の掌の上に見慣れた消火栓頭が居た事に首を捻るデステゴロだが、人質の無事を確認したカムイがそのあたりの情報を集めていた。

 

「向こうで轢き逃げです」

「……ハァ。んじゃ俺らもそっちの応援に……」

「オウお二人! おはよーさん!!」

 

 応援に行こう、そう言いかけたデステゴロの眼前に飛行ヒーローであるエアジェットが降り立つ。

 

「おう、おはよう」

「おはようございます」

「早速で悪いんだけどさ、ちょっと来てくれや。向こうで立てこもり事件発生」

「今日なんか多くなァい!?」

「本当は岳山ちゃんが良いんだけどな、お前らで我慢するわ」

「しかもなんか雑じゃない!?」

 

 ちくしょおおお!! と叫びながら業務用の自転車に跨がり街を駆けるデステゴロ。

 普段は相当平和な街であるのでヒーローの数が少ないのがかなり裏目に出ている。

 

 

 ……そんな状況を支えているのは、シンリンカムイやエアジェットという速度と移動距離に優れ遠方の事件に即応できるヒーローが居るからなのだが、以外にもその面々に岳山が名を連ねていた。

 

「ごーめん! ちょっと地面揺れるよ──!!!」

 

 朝の通勤ラッシュでごった返す道路……の、中央分離帯を疾走する岳山は掌の内のバックドラフトに声を掛ける。

 

 そのバックドラフトは、自身の眼前に数枚の水で形作られたレンズを浮かせて簡易な望遠鏡を作り、それで轢き逃げ犯を探していた。

 

「ねぇまだァ!?」

「まぁ待てよ……あ、見つけた! あのナンバーだ! あの緑の車! あ、信号無視しやがった! 余罪だヨザイ!」

「りょかい!! 市民の皆さぁぁぁん!!! 緑色のナンバー5569から離れてくださあぁぁい!!!」

 

 轢き逃げの車を見つけた岳山は、速度をそのままにバックドラフトを匿っていた手を振りかぶる。

 

「舌噛まないでよね!!」

「りょかい!!」

「ッンンンンウッ!!!!」

 

 数メートル級の長大な腕をしならせ、車など置き去りにする勢いで凄まじい投球(人)を見せる岳山。

 

「んゥゥゥ!! ひっっっさつ!!!」

「いいからはよ投げろ!!」

 

 ボッ!! と空気を切り裂いて投げ飛ばされたバックドラフトは、即座に自身を水で覆い尽くし空気抵抗を無くす。

 そうして車に追い付いた彼は、腕から水を出して、それを『道路に』流し込んだ。

 

「車を止めるにゃこれで充分だ」

 

 水操作の個性によって、轢き逃げ車の下にのみタイヤがすべて浸かる程の水を保持する。

 

 そうすることによってまるで冠水道路を走るかの如き抵抗がホイールに掛かり、車は一気に減速する。

 

 そして、車が減速すれば後は……マフラー(排気口)からエンジン部に水を流し込めばそれで車は完全に止まる。ブチ壊れるとも言う。

 

「ヒーローだ、大人しくお縄につけ!」

「ぐっ……」

「はー、朝ッから走ったわぁ……」

 

 水の牢で拘束される犯罪者を横目に、パンパンと太ももを叩きながら手信号で交通整理を始める岳山。

 

 車の窓や歩道から向けられるスマートフォンのレンズにファンサをキメながらも交通整理を続ける、そんな真面目さが評価され。

 

 更には個性柄(師とは違い)家屋倒壊や規模の大きい交通事故等必要とされる現場が多く。

 

 そしてそして、そんな場に行くに連れて個性と外見の派手さもあってメディア露出も多くなり。

 

 ……と様々な要因が重なり合った結果、今、彼女の人気は新人ヒーローとしては破格のものとなっていた。

 

「Mt.レディ〜〜!!」

「はーい! 応援よろしくねぇ〜!」

「岳山ァ!」

「ハァン!?」

 

 同時に、かつてデビューその日にネットの海に放流された自身の本名もまた、ドえらい広まり方をしていた。

 

 が、しかし。その名前のお陰で元々考えていたお色気系のニッチ路線よりずっと多くの世代、多くの人々に抵抗無く受け入れられているのも事実であるので彼女としてはなんとも大変複雑である。

 彼女とて、街の世代問わず多くの人々に慕われる師の姿に憧れる気持ちが無かったわけでは無いのだから。

 

 ……実際、ビッグになるという野望を掲げている彼女が事件率の低い折寺近辺を活動区域にしているのも、そんな師への憧れというか感謝というか、信頼というか……どうにもこうにもハッキリと言葉にできない複雑な気持ちがある……のかどうかは、本人のみぞ知るところである。

 

「岳山ちゃん! ここは警察に任せて次行くぞ! デステゴロ達が立て籠もりの方行ってるから応援!」

「名前ァ!」

 

 こんちくしょぉぉぉ!! と叫びながら再び中央分離帯を走り始める岳山。

 

 こういうところでなんだかんだ一番に行動するところは、流石師弟であり、岳山を折寺市民が支持する理由の一つでもあった。

 

 ……まぁ、そんな感じで折寺近辺で起こる事件が解決方向に向かいだした頃、雄英高校では新任教師サポート担当の相澤が溜息を吐いていた。

 

「……その、本当に申し訳ないと……ええ、はい」

 

 その理由の一端は、目の前にいる骸骨のような男である。

 

「朝の喧騒に紛れて各地で起こる事件。オールマイトは出勤ついでに三件解決……と」

「……いや、もう、その……」

「……誤解ないように言っておきますが、アンタを責める気はありませんよ。嫌味を言う気もありません」

「え? でも今……」

「さっきのは事実を言ったまでです」

「ハイスミマセン」

 

 しょぼくれるオールマイトを見て、もう一度息を吐いた相澤は「実は」と話を始める。

 

「俺も出勤時に軽犯罪に遭遇しました」

「……!?」

 

 それは、と考える間もなく、プレゼント・マイクが職員室に入ってくる。

 

「Hey! なんか今日治安悪くねーか? 来るまでに二回もひったくりにあったぜ!?」

「おはようございます〜……はぁー、朝から疲れた……聞いてくださいよ、さっき朝からコンビニ強盗に遭遇しちゃって」

 

 マイク、13号と誰かが出勤するたびに聞こえる犯罪の影。

 

 職員室に居たヒーロー達の顔は少しずつ、少しずつ険しさを増していく。

 

「もしも、仕掛けてくるならこちらの対処が間に合わない近日中だろうとは考えてましたけど……」

「ああ、間違いないだろうね……そして、一つ分かった事がある────相手は恐らく、個性を持て余したチーマー集団等ではない……実行犯はともかく、その後ろに居る奴は」

 

 オールマイトの言葉を聞いた相澤は、携帯からヒーローネットを開いて犯罪発生件数を調べる。

 

「今朝は全国的に、軽犯罪が多発している。特に……この(雄英)辺りが多い」

「全国規模で犯罪を誘発させることができる……それだけの組織力……または影響力を持つ誰かが。もしくはそんな誰かが背後にいる何らかの者達が、今回の件で動いている」

 

 呟いたオールマイトの脳裏には、一人の、男。

 

「……午前中は昨日渡されたシフトの通りに警備をするけど、午後の……ヒーロー科の授業は……」

「そうですね、人を増やした方が良いでしょう。校長に進言してきます」

「じゃあ私は他のヒーロー(教員)にもっと話を聞いておくよ」

 

 そうして、相澤の意見具申から始まった授業開始前十数分の緊急会議。そこで決まったのが……

 

「お前ら、今日午後のヒーロー基礎だが、緊急でオールマイトの他に俺と13号もサブで付く事になった」

 

 この内容であった。

 

 ちなみにこの布陣は、だだっ広い校内を巡回するにあたって長距離狙撃のスナイプや広範囲の索敵ができるハウンドドッグ、大規模な面制圧を行えるミッドナイトにプレゼント・マイク等を割り当て、その上で『雄英で最も個性攻撃に対するアドバンテージを持っている』として相澤を、同じく物理攻撃に対するメタとして13号を配置した。

 

 尚、B組は同時刻は教室にて座学を行っている。校舎内のヒーロー密度は半端ではないので何かあればすぐに分かると、ここまでガチガチには定められていない。

 

「あの、理由は……?」

「昨日マスコミの侵入があったろ。アレに対する警戒だ」

 

 何かあってからじゃ遅いからな、とバインダーに何事か書き記す相澤は、連絡は以上だ、と言って教卓を離れる。

 

「俺達が守ってやる……と言えればいいが、俺達教師も人間だ。出来るところまではやるが、どうやっても全校生徒を完璧には守れない。お前らも、不測の事態には備えとけよ。何があるかわからん御時世だからな」

 

 それを、ただの警告と取るのか、それとも……生徒である自分達には言えないような危険があると取るのか……それは、各々の感性次第である。

 

 一つ、言える事があるとすれば。

 

 彼等(・・)は、後者であった。

 

 

 

 午前授業が終わり、昼休みに入ってから食堂ではいつもの面々による凄まじい勢いの早食いが行われていた。

 

「はぐっ、はぐむぐっ!!」

「ハフッ、まぐあぐんっぐ!!」

「ズビッ!! ズババババッ!! ガツガツッ!!」

 

 弁当は作っていなかったので食堂で買った平均約二人前の飯を吸い込むようにして食べ、ほぼ同時に食べ終わった全員が水の入ったグラスを煽り、飲み干してからガツンッ!! と机に叩きつけた。

 

「クマァ!!」

「あいよ」

 

 爆豪(カレー大盛り、ピザトースト二人前、梅おにぎり二つ)が怒鳴ると、それに答えて心操(鶏唐丼大盛り、きつねうどん大盛り、日替わり小鉢(たけのこのおかか和え))が大きな大きな用紙を取り出し、机全体に広げる。

 

「どこから盗ってきたの、雄英高校の全景図なんて」

「校舎裏に生えてた」

 

 適当言ってる心操が取り出したそれは、だだっ広い雄英高校の敷地すべてを記した地図であった。

 それを見て緑谷(カツ丼大盛り、牛丼大盛り、日替わりサラダ)は唸る。

 

「とりあえず、敵に雄英高校のゲートを破壊するだけの能力があるのは確かだ。それも不審人物を捕らえられていないあたり、時限発動か、もしくは手で触れた瞬間粉砕できるような挙動を最低限に抑えられるタイプ」

「オマケにマスコミには被害が出てないあたり、相当個性制御のレベルが高いか……あるいは、人使君の例で言うなら手で触れたものしか(・・)壊せないような、対象がごく小規模に限定される個性」

「ん? いや、もう一つあると思うぜ」

 

 相手方の戦力を僅かな情報から探っている緑谷と心操に、切島(焼肉定食ご飯大盛り、唐揚げ二つ、温蕎麦)が指を立てる。

 

「セメントスみてーな、特定の材質にだけ作用する個性だ。石材をコントロールできるみたいな奴なら遠距離から操作できるだろ」

「アタシも、手で触れるとかではない気がするなぁ。だって流石にマスコミの群れから離れて行くやつが居たら分かると思うし?」

 

 雄英高校も間抜けではない。警報が鳴ったその瞬間から学校周辺の捜査を警察に頼んでいるし、マスコミも一人一人身元を確認しているだろう。

 

 その時に事情聴取も行われているので、不審者が居ればその時に分かる。

 何かと目ざといマスコミが集団から一人抜け駆けしようとするような人間を見逃すとも思えない。

 

 そういった点から、芦戸(チキン南蛮定食ご飯大盛り、鮭おにぎり一つ)は遠距離型個性を推す。

 

 即ち、遠距離からゲートを壊し、雄英側がマスコミの対応に一杯一杯になっている時にこっそり侵入、そして何か『雄英教師が警戒度を上げざるを得ない事』をしたのだろうと考えたのだ。

 

「まぁ、言っても変わらねえ。相手がゲートを壊せるのは間違いねえんだ。問題なのは壊した後だ」

「先生が僕らの授業を三人体制で見るって言ってるって事は恐らく僕らに関係する何かがあったんだろうとは思う。それがこのクラスの誰か一人なのか、クラス全体なのか、それともヒーロー科全体なのかはわからないけど」

 

 僕等が今日実習をするのはここだね、と大きな敷地をマジックで囲い、パラパラと生徒手帳をめくり、学内施設の簡易地図のページを開く。

 

「これだね。ウソの災害や事故ルーム。雄英高校の中でも随一の広さを持つ巨大グラウンド」

「ネーミングセンスゼロか」

「……確かに、雄英外壁に近いっちゃ近いな……」

 

 指尺で約数キロメートルというところであり、もしもバイクや車などのエンジン付き移動手段があるならば、数分後にでもこのグラウンドに入り込んでくるだろう。

 

「……とはいっても、僕らにできるのはとにかくいち早くグラウンドから避難する事だ。そして、一瞬でも早く助けを呼ぶ。これに尽きるよ」

「この事故ルーム各所の避難経路は暗記しとくべきだな」

 

 このテーブルに着いているほぼ全員が一様に頷き、ふと気付いた緑谷が一人頷いていない女の頭に手を置く。

 

「……と、言うわけだから絶対に来ちゃだめだからね、明ちゃん」

「えぇー?」

 

 完全に着いていく予定であった発目(塩ワンタン麺)は不満げに口を尖らせる。

 

「今回ばっかりは着いてきたら嫌いになるからね」

「ビェッッッ!?」

 

 この言葉で、「まぁ黙って着いてけばいいや」と考えていた発目の顔が盛大に引き攣った。

 

「ま、待ってください出久さん? 私が貴方の役に立つ発明をするには新鮮なインスピレーションが」

「駄目。しばらく口聞いてあげないよ?」

「不肖発目、待機します!」

 

 普段から振り回されている印象が強いが、やっぱりパワーバランスはそもそも緑谷にあるんだなぁと、顔からダラダラと汗を流して敬礼する発目を見て無免達はそう思っていた。

 

 ……尚、強さはあれど未だ経験の足りない彼等は恐ろしく希少価値の高い「ワープ個性」の可能性については遂に思い至らなかった。

*1
例:『非常事態発生! サポート科実習棟にてレベル一警報が発令されました! 該当区域の生徒は安全を確認の後速やかに教職員の指示に従い避難してください! 繰り返します──』




次回、手マン登場。
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