無免ヒーローの日常   作:新梁

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クソ久しぶり。

USJ編一斉投稿しようとしたんだけど、こんだけ時間かかったのに二話しかできてないのでもう諦めて投稿します。

明日二話目投稿するっす。

今回のあらすじ

ヴィラン側に奴が居る。

リア10爆発46さん、誤字報告ありがとうございます。


第六十四話。BREW【(良くない事を)企む、起こす】

 

 一人の、この世界ではどこにでもいる……訳ではないものの、探そうと思えばそれなりには見つかる程度の凶悪犯罪者が居た。

 

 その犯罪者の名前は渡我被身子。

 まだ成人さえしていない身の上ながらも異性ばかりを狙った連続殺人を行い、トガヒミコというヴィランネーム(彼女がヴィランネームを同業者に尋ねられた際に本名をまんま名乗ってしまったので、そこから警察、ヒーローにも広まってこの名である)を付けられるに至った、硬めの頭髪を頭の両サイドでお団子結びにした、見た目は可愛らしい少女である。

 

 そんな彼女は誰にも心を許さず、誰の下にも属さない、そんな野生動物のような警戒心と孤高の精神で警察にその影さえ踏ませていない。

 

 が、しかし。

 

 そんな彼女が、今現在、唯一心を許している二人組が居る。

 

「じんせんせー」

 

 廃ホテルの一室が、ガチャンと開く。

 

 そこから先述の渡我が顔を覗かせると、中に居たTシャツとトランクスだけを身に着けた、駄目人間ファッションの男は、それに目を丸くする。

 

「お? おお。『うわ! ヒル女!』どうした? またナプキンか? 『なんかお菓子ある?』」

「んーん、暇だからきただけなのデス」

「お、そうか。『お菓子は?』まぁゆっくりしてけ『なぁお菓子は?』」

「おせんべいる?」

「『いるに決まってんだろ!!』」

 

 とある廃ホテルの一室にバリバリ、ボリボリという煎餅を食べる音が響く中、先生と呼ばれた男は何やらバインダーに書き込んだり計器のモニタを覗いたりと忙しそうであった。

 

「……むう、じんせんせー忙しそう」

「闇医者はやること多いんだよ『もうお菓子ねーの? 甘いの!』今隣の部屋患者いねーから、シャワーもベッドも使っていいから、テキトーに」

 

 男の言葉は最後まで続かない。

 

 渡我のカーディガンの柔らかな布地に包まれた腕が、キュッと男の首に回されたからだ。

 

 後ろから首元に抱きつかれ、ビタリと動きを止める男。

 

 そんな男のうなじに鼻を寄せ、そして、まるでキスをするかのように首筋に歯を立てる。

 

 ……が、その鋭い犬歯は、肌にほんの少し食い込んだ時点でピタリと、何か硬いものに阻まれたようにその動きを止める。

 

「……ねぇせんせ、血、吸わせて?」

「……やめとけ。俺の血なんて吸ったら身体おかしくなるぞ」

 

 柔らかく回されていた腕を解かせ、「ぷー」とぶーたれる少女の頭を撫でる。

 

「ぶー、ちょっとくらいいいじゃん」

「駄目だ。俺の血は他のやつとは違うんだから『黒いからな!』黙ってろ」

 

 むぅ、とむくれていた渡我は、ちぇ、と一つ舌打ちをしてから男の首元を離れた。

 

「ふーん、いいもん。おねーちゃんの血飲ませてもらうから」

 

 渡我がプイと顔を背けるのを見て、男はそれに応える。

 

「『メデューサなら居ないぜ!』姐さんは外出中だ」

「へ? おねーちゃんって外出るんですか?」

「珍しいけどな。なんか大事なイベントがあるんだとよ」

「ふーん……つまんないの」

 

 完全にむくれてしまった渡我は、カーディガンを脱いで男の頭に被せてから、隣の空き部屋ではなく男が作業をしているこの部屋のベッドにモソモソと入り込む。

 

「暇ならコーヒー入れ直してくれよ」

「ヤぁです」

 

 彼女が団子を作っていたヘアゴムまで外して寝る体勢に入り、そこから完全にリラックスして寝息を吐き始めるのに時間はかからなかった。

 

「ハァ……おっさんのベッドで当たり前みたいに寝るなよな……『よし、襲うか!』襲わねーよ! お前もうだァ()ってろ!」

 

 ハーッと息を吐いてからシャワーを浴びるために立ち上がる。

 

 ガラガラとシャワー室のドアが開く音がして、それから水音が出始めた時……コッソリと起きていた渡我はちらりと片目でそちらを見てから軽く息を吐いた。

 

「ふあぁ、ねむた」

 

 少女がかつて社会を見限り……あるいは、社会に見限られたのとほぼ同時期から何かにつけて面倒を見てくれている二人組……謎多き女メデューサと、その下僕であり医者の仁。

 

 その二人の前でだけ、少女は本当の意味で気を休めることが出来るのだ。

 

「……おやすみなさい」

 

 

 

 そうして一人の少女が安らぎを得ている中、彼らの間で話題となっていた一人の女性はとある喫茶店に居た。

 

 そこは雄英高校に程近い……雄英の校舎が窓から見られる事が少しばかりウリになっている小さな喫茶店。

 

 その窓際の席で、窓を少し開けて入り込む風を感じながら、その女性はペラリと手に持っていた文庫本のページを捲った。

 

「……ふふ」

 

 その形の良い口元には、酷薄な、蛇のような笑み。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆! スムーズにバスに乗れるよう二列に並ぶんだ! さぁ!!」

「絶好調だなぁ委員長」

「どうでもいいけど学校のバス対面式だよ」

「何ぃっ!?」

「はいしゅーりょー。並び方とか何でもいいからとっとと行こうぜ」

 

 ドカドカと校内移動バスに乗り込んでいく生徒達。

 

 最後に引率の相澤が乗り込み、バスは発進する。

 

 そして、車内においてヒーロー科が行う話題と言えば最早一つしか無い。

 

「てか爆豪の個性強すぎねェ!!?」

 

 コレだ。

 

「しかも派手だしよ! なんなんだよその個性チートすぎんだろ!! ソフトボール投げキロ超えて!!!」

「ウルセェ」

「見ろよ俺なんかテープよテープ! お前のそれマジでヒーローの個性じゃん!」

「ウルセェってんだ! お手軽強力な個性だとでも思ってんのか! んな訳ねぇだろが!」

 

 ギャーッと叫ぶ爆豪に、話を始めた瀬呂と上鳴がため息を吐く。

 

「この性格が無けりゃなぁ……完璧なのに」

「爆豪ちゃんは将来人気出なさそうね」

 

 近くの席に座っていた蛙吹の一言に、既に切れていた爆豪の堪忍袋は爆発した。

 

「ボケかお前出すに決まってんだろクソが!」

「ヴィランっぽいヒーローランキングならすぐに一位取れそうなんだよね」

「殺すぞクソデクゴラァァ!!!」

「おい、いい加減静かににしろよお前ら」

 

 相澤の言葉によって渋々鎮火した爆豪をちょんちょん突きつつも、話は緑谷に移る。

 

「緑谷はそれ鉄砲だよな? 触っていい?」

「ん? いいよ〜」

 

 緑谷が上鳴に僅かに青みがかった鈍色の銃を手渡す。

 

「お、おぉ……すげ……」

「それセーフティ無いから一応トリガーには触らないでね」

「セーフティ無いの!?」

「え? うん」

 

 緑谷のセーフティ無し発言に相澤がチラリと生徒達の方を見るが、緑谷はそれを気にせずに上鳴から再び銃を受け取り……普通にトリガーを引いた。

 

「どぅぉ!?」

 

 しかし、その銃口からは何も出ない。

 

「…………お?」

「緑谷ちゃん、それ銃弾入ってないのかしら?」

「うん、正解。なんというか……説明が難しいけど、人体に流れるエネルギーを発射する銃みたいなものなんだよね。訓練してない人には使えないんだ」

 

 その言葉と共に再び上鳴に手渡された銃。そのトリガーをカチカチと引き絞るが、確かにそこから銃弾が出る様子は見られなかった。

 

「……マジだ。弾倉には何入ってんの?」

 

 銃の形はリボルバーである。緑谷がそのシリンダー部分をスイングアウトさせると、その内部は何やら複雑な機械がギッシリと敷き詰められていた。

 

「……まぁ、この通りでさ。僕も内部機構についてはさっぱりって訳」

「うお、スゲ!」

「これも発目ちゃんが作ったん?」

「うん。あの子本当天才でねぇ……これにもまだリボルバーになぞらえて六種類の弾を出せるようにするとか言ってたよ。地面を跳ねるファイアボール弾とか、フワフワ飛ぶバブル弾とか、障害物を貫通するスネーク弾とか、とにかく連射力を高めたマシンガン弾とか、あと……」

「オイ……着いたぞ」

「え?」

 

 ブツブツと愛する恋人が作り上げた銃の解説をしていた緑谷は、いつの間にやらバスが目的地に着いていたことに気が付かないどころかクラスメイト全員に置いていかれていた。

 

 

 大きな岩山。

 

 轟々と燃え盛る音の聞こえるドーム。

 

 中心に大きな噴水。そして、ウォータースライダー。

 

 更には廃墟や土砂崩れ、そして森林などを模した様々なセットは、まるでどこかのテーマパークのような様相をしていた。

 

「すげー!!!」

「USJかよ!!」

USJ(嘘の災害や事故ルーム)なんだよなぁ……

 

 

 生徒手帳に記載されていた、明らかに施設を作るときに深夜テンションでゲラゲラ笑いながら決めたであろう名前を頭痛そうに呟く心操だったが、その後ろからヌッと白い影が現れる。

 

「アレ? もう名前知ってるんですね。予習してきたのかな?」

「うおっ!? ビビったァ!」

 

 ビクッと震える心操と、普通に驚いたことを声に出した切島の横を通り抜けた白い人影……ずんぐりむっくりとした宇宙服のようなスーツを着用した、災害レスキューを活動の主とするヒーロー、13号が全員に聞こえるように声を張り上げる。

 

「そう! ここは僕が作り上げた、ありとあらゆる環境での事故、災害を想定したシュミレーションが可能な施設……その名も『嘘の災害や事故ルーム』!! 略してUSJ!!」

「良いんですかその名前……?」

「……? 逆に聞くけど何でUSJは駄目なのかな?」

「……いや、まぁ……言われてみれば別に駄目ってわけじゃない……のか?」

 

 無論、ただ単に施設の名前を略すとUSJになってしまっただけであり別にユニバーサルでもスタジオでもジャパンでもないので問題がないことは確実である……あるのだが、何となく問題があるような気がしてならない。

 

 因みに、雄英ではその他にも総コンクリ製でどんなトレーニングメニューでも作り上げられるTDL(トレーニングの台所ランド)やらチームアップを考慮する際に複数人の個性相性を確かめられるAKB(相性確認ブース)なんかがある。自重しろ。

 

 とはいえ、今はそんな事は関係のない話であるので13号はその話をサクッと終わらせ、オールマイトの横に立つ。

 

 ……『もしも』、オールマイトが何らかの原因で雄英高校に赴任する前から寿命を削るような無理を続けていたとすれば、今朝の多発事件にて消耗した彼は今この場に立つ事はできなかったであろう。

 

 しかし、かつて根性だけ超一流などこぞの誰テゴロに助けられた彼は未だ一日三時間程度の活動(見た目だけなら約六時間)ができるだけの余力を残していた。

 

「さて、もうわかってると思うけど、本日はレスキュー訓練だ! しかし、君達の中にはこう思う者も居るんじゃないかな!? 『自分の個性(ちから)は救助には役に立たないんじゃないか』ってね!」

 

 オールマイトの言葉に複数の……特に上鳴や葉隠といった面々が頷く。

 

 そう、世の中には八百万百(創造)や、葉隠透(透明人間)、といった、悪意を持たなければ人に危害を与える事は難しい個性も多い。

 しかし、爆豪勝己(爆破)上鳴電気(帯電)といった、悪意があろうと無かろうと人に危害しか与えないような個性もまた、多いのだ。

 

 そして、やはりというか。このヒーロー科という場所に多くいるのは後者である。

 

「うん! やっぱり居るよねそういう子も! そして敢えて言おう! ──それは事実だ」

 

 複数人の息を呑む声が聞こえる中、オールマイトの言葉は続く。

 

「ヒーローとは、ヴィランを倒す職業だと思われがちだ。それが仕事の多くを占めることも否定しない。だからこそ、人は派手で攻撃力の高い……いわゆる強い個性や、他に類を見ない特殊性を持つ珍しい個性を『ヒーロー向き』と言う。しかしね……そうではない! ヒーローとはそんな職業では、断じて無い!」

 

 ズン、と重量のある肉体から発せられる声が腹を揺らす。

 

 そこにある、オールマイトの『本気』に、二人の教師含めてその場の誰もが気圧されていた。

 

「世間一般の言う『ヒーロー向き個性』だからこそ使えない、使ってはいけない場面というのはヒーローの仕事においてとても多い! そして人命救助はその筆頭! そして、『人を救う職業』であるヒーロー業で最も重要視されるのもまた人命救助だ!」

 

 そこまで言ってから、オールマイトは片手を後ろに振る。そこから見える何かのアトラクション施設のような風景は、皆テレビで……ニュース等で見たことのある状況ばかりだ。

 

「ここには、様々な設備がある。ここに居る13号が設計したこれはすべて現実的な環境設定であり、同時に……どんな個性であれ、一箇所くらいはほぼ間違いなく使い物にならない場所がある。

 君達は、今日は普段のように自分の個性をいかに上手く使うのかだけではなく、個性を使えない状態でいかにして人を救うのかを考えて欲しい……そう! 今日行うのは『個性を使う』訓練ではなく『個性を使わない』訓練だと思ってくれていい! 

 そして、その中でいま一度実感して欲しい。全くもって見栄えの悪い……地道で面倒な人助けこそが、華やかなヒーロー業界のすべての基礎になっている、という事をね!」

 

 後ろに振っていた手を胸の前でクッ、と握りしめ、オールマイトは締め括る。

 

「昨今派手さばかりが重視されるが、ヒーローとは本来は『奉仕活動』! 地味だなんだと言われても! そこ(土台)を忘れちゃいかんのさ!」

『ッ、ハイッ!!』

「ナイス返事! それじゃ張り切って行こうぜ有精卵! まずはあのアトラクションからだ!」

(アトラクションって言っちゃった……)

 

 ガッツリと気合の入った面々の顔を見て、相澤はアトラクションに向けて歩を進めるオールマイトに話し掛ける。

 

「流石ですね」

「うん? ああ、まぁあのくらいはね……ここに勤めているヒーローなら誰にだって言える事さ。経験の浅い新人ヒーローならともかく、命の重さを知らないヒーローなんてこの学校には居ないからね」

「派手さを追い求める……ヒーローのタレント化ですか……これも、平和な時代だからですかね?」

 

 続いて話しかけてきた13号は治安維持よりも広報活動に重きを置くヒーローに対し思うところがあるようだ。

 

 13号自身、災害対応というある意味ではヴィラン退治よりも人の命に重点を置く現場を専門としている故の感情なのかもしれない。

 

「仕方がない、人助けで飯は食えん。平和な時代なら尚更だ」

「私も、事務所の運営費とか考えたら……人命救助の報酬だけじゃ多分病院代と生活費でカツカツだろうなぁ」

 

 CM一本出ればそれだけで全部賄えるけど、との呟きに、横の二人は色めき立つ。

 

「やっぱり相当もらってるんですね」

「凄いなァ、ナンバーワン」

「……いや、そもそも私の事務所個人事務所だからね? エンデヴァーとこみたいな大型事務所じゃないからね?」

 

 そうは言うが、オールマイトの事務所はあくまでもヒーローが彼一人というだけでマスコミ対応やらグッズの販路調整やらでそこそこの人数、しかも全員一流の人材を雇っているので、その給料はそんじょそこらのヒーローに払える額ではない。しかも、ヒーローが多数いる事務所とは違い事務所内で稼いでいるのは無論彼一人であり、他は皆彼のサポートでしかないのだ。

 

 尚、一般的な大型ヒーロー事務所の運営は所属サイドキックのヒーロー活動による給料やグッズ販売益の何割かを事務所に収める代わりに、広報や確定申告、グッズ作成、管理などを肩代わりしてもらうという形態である。

 この形態は弱小〜中堅くらいのヒーローにとって益の大きいものであり、逆にその事務所を経営するヒーローにとってそこまで純粋な利益の出るものではない*1……が、オールマイトほど持ち出しは多くない。

 

 とまぁそんなわけで、オールマイトが毎月事務所関係で払っている額はどこぞの誰テゴロの月収三十人分を優に超える……との噂もある。

 

 

 

 そんなこんなで数分後、一同は一つのエリアに辿り着いた。

 

 柵に区切られたそこは、コンクリートや土砂等の瓦礫が一面を覆っており、否が応でも起きた惨劇を想起させる。

 

 そんなエリアの横、黒々とした大砲のような物の前に立ったオールマイトは眼の前の生徒達に聞く。

 

「さぁ! みんな! 目の前にあるのはなにかなー!?」

「瓦礫でーす」

「土砂及びビルの倒壊物です!」

「地すべり?」

「うん! 全部正解! ここは地震や土砂崩れ等の再現さ! ここで君達にはこちらの被災者人形を救助してもらう!」

 

 オールマイトが言うそれは、黒いスウェットのような服を着た身長の高い、チベットスナギツネみたいな顔をした人形であった。

 腕や足の各所には何やらセンサーのようなものが付いており、緑色にチカチカと光っている。

 

「……相澤先生?」

 

 そう、その被災者人形は相澤を象っていた。

 

「うん! 今回は、この土砂エリアから五名の被災者を救助してもらう!」

 

 そう言って次々にプレゼント・マイクやミッドナイトといったヒーローコスチュームを着た被災者人形を取り出し、柵にもたれ掛からせ、話を続ける。

 

 その横では、13号がモニターを用意していた。

 

 そのモニターにはデフォルメされた五体の人形が表示されており、その横にはそれぞれ『100』と数字があった。

 

「この被災者人形には、見ての通りセンサーが付いている。できる限り手早く! そして丁寧に運ばないと〜!!」

 

 オールマイトは徐ろに相澤人形の頭をボカッと殴ると、緑に光っていたセンサーが一瞬赤く光り、モニターの相澤人形の数字が『88』へと下がる。

 

「ウワァ!? 相澤先生ッ!?」

ソレは俺じゃない

 

「このように! センサーが衝撃を検知してこちらで管理しているモニターに信号を飛ばす! 勿論〜ッ!」

 

 そう言いながらオールマイトがゴスゴスと相澤人形のみぞおちを殴ると、どんどんモニターの数値が減り、『重体』の文字が光り……やがて数字がゼロになると同時に文字が『死亡』となった。

 

「あ、相澤先生が死んだ!!」

「このようになることもある! これを使ってどれだけ慎重に運べたかをこちらで採点するというわけだ! 勿論時間経過でもこの数値は減っていくから、慎重すぎるのも問題だぞ! という訳で……」

 

 ざわめく生徒と微妙な顔の相澤をスルーしてずっと傍らにあった大砲に近づくと、側面にあるドアを開く。

 

 おい、まさか……? そんな生徒達の目線にサムズアップを返し、ドアに相澤人形をいれて、スイッチオン。

 

『相澤先生ェエエェェェ!!!!』

「これの名前は『被災者砲』! この砲身に被災者を入れて、範囲を指定すると……その範囲にランダムに被災者を投げ入れてくれる! 無論我々にも位置は分からないので教師による置き方の癖も出ない! という訳さ!」

『スルーッ!?』

 

 ドギャンッ!!! と爆音を立てて相澤人形が天高く昇ってゆくのを見て絶叫する生徒達と無感動にそれを眺めている教師三人。

 

 教師陣の反応の薄さは、彼等も彼等で高校時代三年間をこの被災者砲と共に過ごしたからである。

 

 USJこそ13号が作り上げた施設であるが、この砲台はオールマイトが学生だった時分からあるものなのだ。

 

 何せ、二年生、三年生時には被災者の救助とヴィランの戦闘を同時にこなすなどの授業も多くなるので、教師の数がどうしても足りなくなってくるのだ。少数精鋭の悲しき弊害と言えるかもしれない。

 

「更に地震スイッチオン!」

 

 オールマイトがボタンを押すと、眼の前の土砂がガラガラと揺れ動き出し、いくつかのビルの残骸が派手に崩れる。

 

 相澤先生……と、切ない顔をする生徒達だが、彼らはまだまだ環境適応力が足りないと言えるだろう。

 

 現に、切島や芦戸といった面々は平気な顔をしているし、いつもの三人(緑爆心)に至ってはオールマイトが突然相澤人形を殴った時にすら眉一つ動かしてはいなかった。

 

 このレベルまで行ってはちょいと問題がある気もする。

 

「さ、ではとりあえずいつも通りくじ引きしてから五人一組でこなしてこう!」

「この組み分けとステージ次第では、個性上どうしても活躍できない人も出てくると思います。ですが、それに腐らず、自分にできる事を考えてくださいね」

「くじはこっちだ。班のリーダーには人形の位置を示すレーダーを渡すから、まずは救助の基礎をよく覚えろ。捜索はまた次回だ」

「……相澤先生、あんなにされて平気なん?」

あれは俺じゃない

 

 相澤は生徒の疑問に対しそれだけを言って、モニターの準備に戻った。

 

 

 

 

 各ゾーン横にある青天井の高台で生徒十五人と教師二人の、計十七人が眼下の作業を眺めていた。

 

「もしもし! 聞こえますか! 痛いところはありませんか!」

『イタイトコロ、アシ、コシ、ウデ、アタマ』

「成程! 全身ですね!」

『ゼンシン』

「今瓦礫を退かしますわね。頑張ってくださいね」

『ガンバル』

「くそっ!! ゆっくり相澤先生ボイス面白すぎる!!

「ハイハイ集中〜! 一刻を争うんだよ〜!」

 

 相澤人形の合成音声に笑いそうになりつつ飯田が容態を確認する間に砂藤が瓦礫を持ち上げ、変に身体を挟まないように気をつけながら持ち上げていく。

 

 そして、ある程度上がったところで切島が瓦礫の間に挟まり、ガチリと身体を固める。そうする事で、瓦礫は完全に固定され、びくともしなくなる。

 

「オケ! やっちゃってくれ!」

「っしゃ! 引き抜きますからね! せーのっ!」

 

 残りのメンバーである葉隠と八百万が慎重に瓦礫から被災者を引き抜き、予め創造しておいた担架の上に横たわらせる。

 

「砂藤! 瓦礫ぶっ壊してくれ! 今硬化解除したらそのまま潰れちまう!」

「っし! 任せろ!」

 

 体内の糖分を糧にパワーアップをする『シュガードープ』の個性による馬鹿力でドガッ!! と瓦礫を粉砕した砂藤は、そのまま救助現場の横に置いてあった小型のアタッシュケースを開いた。

 

「えっと、どれだ?」

「一番右!」

 

 葉隠と八百万が改めて診断をする間、切島の追加装備を装着する飯田と砂糖。

 そのおめかしが終わるのは、簡易的な診断が終わるのとほぼ同時であった。

 

「おっけい!キリシマバギー担架接続完了!」

「患者容態安定ですわ!」

「良し! では皆、撤収だ!」

「おー!」

 

 

 ギュウゥとモーターの音を響かせながら瓦礫の上を走る切島と、その後ろを走って追いかける四人。

 

 その五人を……他のチームを圧倒する速さで救助を終えた五人を、他三チームと教師達は口々に評価する。

 

「切島マジ便利じゃん……」

「ヤオモモもだよなー。担架持っていかなくていいのズルじゃね?」

「純粋な力の砂藤含め、五人中三人が汎用性の鬼だもんな」

俺達Aグループの悪口は止めろ

「言ってねーよ」

 

 ちなみにAグループは緑谷、上鳴、芦戸、蛙吹、尾白の事故グループであった。最早普通の救助と変わらない。

 

「皆さん中々の成績ですね」

「まぁ、だがまだ一箇所目だ。環境によって成績もバラけてくるさ。瓦礫地帯は一番とっつきやすいしな」

 

 そう言いつつ、相澤はモニターのディスプレイを生徒に見えやすいように調整する。

 

 そこに、現場で生徒達の監督役をしていたオールマイトが高台に上がってきた。

 

「ハイお疲れ様! という訳でね! 四チーム全ての結果が出揃った訳だけども! 皆はこの訓練にどんな印象を持ったかな!?」

 

 その言葉に、それぞれが口々に感想を言い合う。

 

「俺の個性全然役に立たなかった……」

「オイラもだぜ。なんか……ぶっちゃけもうちょい何かできると思ってたわ」

「人形なのにメッチャ緊張した〜」

「戦闘訓練よりも疲れた……」

 

 次々に出る言葉にウンウンと頷くオールマイトは、手を挙げて彼らの言葉を一旦区切ってから、「その通り」と笑う。

 

「ああ! それぞれに思うところはあるだろう! しかし共通した思いがあるはずだ! それは、昨日の戦闘訓練とは明らかに神経の使い方が──」

 

 ぞわ。

 

 と。

 

 慣れ親しんだ、背筋の粟立つ感覚に従いオールマイトはその場を反射的に飛び上がる。

 

「キャッ!?」

「ウオ、何だッ!?」

「お前達! 一塊になって動くなッ!! 通信機持ってるやつは外部に連絡試せ!」

 

 飛び立つ力で生まれた突然の暴風に生徒の悲鳴が響く中、飛び上がった先の上空でオールマイトは先程自分が立っていた場所に黒い(もや)が蠢いているのが見えた。

 

「イレイザーッ!! 13号!!」

 

 オールマイトの声に即座にゴーグルを着けた相澤の髪がザワリと蠢き、13号もまた個性である『ブラックホール』を使って煙を吸い取る。

 

 ……が。

 

「個性が消えない! この靄は本体じゃないッ!!」

「四方八方から靄が……! どこが中心だ!?」

「全員衝撃に備えるんだッ!!」

 

 13号の処理が追いつかず、だんだん辺りに充満し始める靄に、上空を飛んでいたオールマイトが叫ぶ。

 

 そのまま両腕で虚空に肘打ちを放ち、空気を叩いて急降下。

 

 その勢いプラス、右手にパワーを集中させ床に振り下ろし、その相乗効果により凄まじい衝撃波を生み出す。

 

 それこそが、オールマイトの数ある中でも最もポピュラーな技。

 

 それは、言ってしまえばただの正拳突き。しかし、その拳一つで天候さえも変えられる程の威力を持つ。

 

「DETROIT──SMASH!!!」

 

「グォッ……!」

「威力ヤベェって!?」

 

 ドォォアッ!!! と風の音とは思えない轟音を立てながら周囲を漂っていた煙が吹き飛び、その吹き出し口が露わになる。

 

 ──それは。

 

「ッ!? イレイザーッ!!!」

 

 相澤(抹消)の、真後ろ。

 

(……マズい!)

 

 この時点で、相澤は敵の狙いをほぼ正確に把握していた。

 

 最初に不意打ちで狙われたのは、オールマイト……という事は、あの靄が何であるにせよ敵の狙いはオールマイトに何かしら危害を加える事である可能性が高い。

 

 そして、その不意打ちが通用しなかった結果、次に狙われたのは自分……つまり、個性を消せる人間。

 

 それはつまり、自分をオールマイトの次に脅威に感じている可能性が高いという事であり、それはつまり……この靄の主が自分の視界に入る場所に居るという事。

 

(この靄が何かは分からん、だが……)

 

 視界の先で、不安な顔をする子供達がいる。

 

 ここにプロヒーローが三人も居て尚そんな顔をさせてしまった事に申し訳無さを感じるが、だからこそ。

 

「今、やられる訳には──!!」

 

 

 

 ──そして、その相澤の思いは、叶えられる。

 

 他ならぬ、守るべき生徒の一人によって。

 

「相澤先生!!」

(みど)ッ!?」

 

 相澤の肩に、強い衝撃。

 

 ドッ、と床面に叩きつけられた相澤が起き上がるのとほぼ同時に、クラスメイト達を庇うように最前列に立っていた爆豪が壮絶な怒鳴り声を上げる。

 

 その爆豪の声こそが、緑谷が誰にも何も言わず、相澤を救うために反射的にすっ飛んできた何よりの証拠であった。

 

「ァにやってンだテメェエエッ!!!」

 

 起き上がった相澤が振り返ると、彼を飲み込もうとしていた靄に、緑谷が沈んでいく瞬間をその目に捉えた。

 

「……ごめっ、身体が勝手に……!」

「なモン言い訳になるか!」

 

 爆豪が掌を爆破させ飛んでくるが、他のクラスメイトが周囲に居る状態ではその速度も抑えざるを得ず、緑谷の身体は靄に消える。

 

 頭が痺れるような無力感と絶望感に必死に抗いながら、相澤は溶けるように消えていく靄に向け、叫ぶ。

 

「緑谷! 後で説教があるから──死ぬな! 生き残れ! 必ずだ!」

 

 返事はなく、靄は消え去る。

 

 もはや何もないその空間に目を向ける事もせず、再び個性を発動させた相澤はもう一度周囲の索敵に移る。

 

 しかし、オールマイトが吹き飛ばした黒い靄も既に復活しており視界はゼロに近い。

 

 ……その能力の高さからチンピラ相手の護身程度は何とかなるものの、実戦経験の無い足手まといの生徒達。

 

 ……緑谷が特にこれといった反応をしていなかった事から速攻毒などではないのは確かだろうが、それでもなんの効果があるのかも分からない、現状拳圧やブラックホールが通用することから実体があることぐらいしか分からない黒い靄。

 

 ……そして、何よりも緑谷の『消失』という異常事態。

 

 未だ実戦経験の少ない生徒達は漠然とした焦燥と危機感のみを抱いていたが、この時、この場に居る教師三人と爆豪の内には疑いようもない『絶体絶命』の四文字がチラついていた。

 

「マズいですよ、イレイザー……!」

「イレイザー! 私がもう一度この靄を吹き飛ばす!」

「それからどうします」

「相澤君が次善目標に認定されていた以上、敵は近くにいる可能性が高い! だから、この高台を降りて、私がUSJを、いや、全身全霊で雄英の敷地四分の一を粉砕する!! 個性の遠距離制御は集中力が必要だ! 足元が崩れれば自ずと個性制御も甘くなる!」

「マジですか……けどまぁ、それくらいしないとこの状況は……」

 

 そうつぶやいた相澤の耳に、ド、ン……と、低い破壊音が聞こえた。

 

「! ……今のは」

「戦闘音だ! デクが戦ってやがる!」

「と、言うことはこの靄はワープ個性!? そんな、レア中のレア個性じゃないですか!!」

 

 13号が悲鳴に近い声を出し、二人の教師も歯を食い縛る。

 

「だが触れても問題ないかは分からん! 取り敢えず靄を吹き飛ばすぞ! 『IOWA──』」

 

 彼が腰の位置まで揚げた右足を振り下ろそうとした時、相澤の視線はガクリと下がる。

 

「……な、に」

 

 ……オールマイトの後ろから、黒い靄が発生した。

 

 自分の後ろに発生した靄の身代わりになって、緑谷は消えた。

 

 ……だからこそ、この極限状況下で、油断した。

 

『地面に靄を発生させる事はできない』と、思い込んだ。

 

「……一年A組総員!!」

 

 自分の不甲斐なさも何もかも全て一旦置いておいて、自分と同じように足元に発生した靄に飲まれかけている生徒達に相澤は叫ぶ。

 

「戦闘を、許可するッ!」

 

 自由落下特有の浮遊感に包まれる中、即座に繰り出す技を変えたオールマイトが一番近くに居た尾白と轟を片腕ずつに持ってその場を離脱し、爆豪が自力で床から離れているのを視認した相澤の視界は、闇に沈んだ。

 

 

 

 ……そして……

 

 

 

「……あ? やっと来たと思ったら……オールマイトじゃねえじゃん。何やってんだよ黒霧……さっさとオールマイト連れてこいよ……」

 

 一瞬の後光が戻った相澤の眼に入ったのは、

 

 如何にもチンピラといった風貌の数十人の男女が、うめき声を上げながら倒れている死屍累々の光景。

 

 そして、その中で比較的軽傷な、身体中に手を模した装備を身に着けた男が口元の血を拭いながら何かを愚痴っている様子。

 

 ……そして。

 

「あー、お前こいつの先生?」

 

 黒い皮膚で脳味噌が剥き出しになっている、オールマイト並の体格を持った人間と、その人間の足元に倒れている……

 

「ヒーローが来るの遅いからさぁ、一人死んじゃったよ。コイツほんと頑張ってたんだぜ? 俺含めて脳無以外全員ボコボコにしやがった。尤も……」

 

 ……相澤を庇った、緑谷出久であった。

 

「オールマイトに勝てるように調整されたコイツには、まるで歯が立たなかったんだけどな! ハハハハ! まぁどんだけ鍛えても雑魚は雑魚。チートキャラには勝てないよ。世の中の摂理だろ? なぁチート個性のイレイザーヘッド?」

 

 相澤の髪が、ザワリと逆立つ。

 

 

 

 相澤の脳裏に、眼の前の緑谷と、いつかの、『誰か』が重なる。

 

 

 

 ……相澤の中の、何処かが、キレた。

 

 

 

「……ッヅア゛ァァァァッ!!!!!!」

 

 

「ハハハハ……助けに来なかった癖に逆ギレか? ……ま、いいけど」

 

「脳無、やっちまえ」

*1
無論、大型事務所を持つことで名声が高まり、結果的に利益が出る事はある




※緑谷生きてます。

次回投稿は明日0時!その次は……わからん!この話ムズい!
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