無免ヒーローの日常   作:新梁

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昨日一話投稿しております。

それと、今回は中々状況が混沌としているので後書きに時系列を載せときます。

そして、これ書くのに手こずりまくったから続きも中々時間かかりそうな……

今回のあらすじ

めちゃくちゃ。

リア10爆発46さん、zzzzさん、誤字報告ありがとうございます。


第六十五話。BREW【(様々なものの)混ぜ合わせ、混合物】

 それは、オールマイトが不意打ちを食らった直後。

 

「上鳴! 通信は!?」

「駄目だ! ジャミングされてるくせえ!」

「おいおい……!」

 

 心操は上鳴の返答を聞いて歯噛みをする。

 

「し、心操! コレって……」

「ああ、そうだよ! ……クソ、いつも通りの悪ふざけで終わってくれりゃどんだけ良かったか……!」

 

 まだ混乱の収まっていない他の面々に比べ、明らかに緊張感が違う芦戸と切島。

 

 他の級友達と、自分含めた三人の違いは明白だ。

 

 ヴィランを……世に蔓延る悪意を、知っているか、どうか。

 

「勝己!」

「うるせえ! 気が散る!」

「まだ何も言ってないだろ!? 出久!」

 

 黒い靄を爆破で吹き飛ばしている爆豪にはすげなく振られ、緑谷に話し掛けると、深刻な表情を崩さずに頷いた。

 

「うん……間違い無いと思う。ヴィランだ」

「だァクッソ! 侵入警報は何で鳴らないんだ!」

 

 悪態を吐きつつ心操は考えを止めない。

 

 電波が通じていないという事は、施設内にある非常警報ボタンを押しても無意味だろう。

 もしかすればこの施設全体には警報が鳴り響くかもしれないが、電波妨害をされている今、施設全体に設置されているボタンの対策を打たれていないとは考えづらい。

 

 押す価値はあるが、それだけだ。

 

(授業始まってからもう三十分は経ってる。その間で多分目につくものは一つ残らず壊されてるか、それとも通信線が切られてるか……)

 

「あ」

 

 その時、彼は一つの事に気が付いた。

 

「え、何どーしたよ心操……」

「ちょっと、待て。考えさせて」

 

 峰田の質問をビシャリと遮って、思考にふける心操。

 

 その頭の中で一つの作戦が立ったその時、オールマイトの声が頭上から降ってくる。

 

「全員衝撃に備えるんだッ!!」

「マジかよ……!!」

 

 咄嗟に、近くに居た峰田と蛙吹の肩を持って、グッと下に押し付ける。

 

 直後、凄まじい衝撃と暴風がその場の全員を襲い、麗日や葉隠といった特別筋力に優れない生徒達がバランスを崩した。

 

 そしてその時、心操は見つける。

 

 いつの間にやら、この高台の手すりに黒い紐のような物が絡みついている。

 

「なんだ、アレ……?」

 

 その黒い紐のようなものは、すぐに復活した靄に覆われ見えなくなるが、彼はどうしてもそれが頭にこびりついていた。

 

 周囲は靄の中に溶けるように消えてしまった緑谷の事で騒然としていたが、この一瞬だけはそれさえも意識に登っていなかった。

 

 イレイザーヘッドの『抹消』を全方位に振りまいても消えない靄。

 

 しかし、明らかにこちらを認識しているとしか思えないような襲撃の手際。

 

 そして、手すりに絡まる黒い……何か。

 

「勝己!」

 

 そこまで考えて、心操は叫ぶ。

 

「ンだコラこちとら忙し……」

「周りの手すりを粉々にふっ飛ばしてくれ!! 全部!」

 

 その言葉を聞いた直後、爆豪の指がパキ、と鳴らされる。

 

「ちっと伏せてろ」

 

 緑谷が消え去った直後の、この突拍子もない心操の言葉に対し、ノータイムでの返答。

 それは、これまでに積み上げてきた確かな信頼があっての事であった。

 

 しかし、それはほんの少し、タイミングが悪かった。

 

 最大爆破を叩き込もうとした爆豪は遠くから聞こえる戦闘音に一瞬気を取られ、心操もまた、その音にある覚悟を決める。

 

「クソ……上鳴! これ一応持っとけ!」

「へ? 何これ!?」

「お守りだ!」

 

 コスチュームのポケットに入れていた生徒手帳のページに何かを書き留め、それを裂いて上鳴に渡す。

 

「お前らも!」

 

 そのまま一枚、二枚と書き留めては破って飯田の掌に、そしてもう一度、酸化して使えなくなった爆発汗を振り払って最大爆破のルーティンを行う爆豪の襟首に突っ込み、オールマイトのストンピング……『IOWA・SMASH』に備える。

 

 が、その備えは結局のところ無駄となる。

 

 ……足場が無くなるという異常事態によって。

 

(……ヤバい。完全に後手だ)

 

 そう思いながらも、その視界は闇へと溶ける。

 

「戦闘を許可するッ!!」

 

 焦るヒーローの声を残して。

 

 

 

 

 一瞬の黒い世界……光が戻ると、そこは空中であった。

 

 そして、下を見れば深い青に染まる水と、そこに浮かぶ小舟。

 

 ……心操は何故か一瞬で水上に転移していた。

 

「オオホォォォォア!?」

 

 一瞬混乱と前後不覚に陥るが、同じく空中で奇声を発している峰田を発見し、その思考を切り替える。

 

 混乱はしている。戸惑いもある。だが、そんな悠長なことをしている暇は無い。

 

「峰田ァ! 身体丸めて手で目鼻口覆え!」

「おおおっ、おう!」

 

 二人共が対衝撃姿勢を取り、その後ドボンッ!! と水柱が上がる。

 

(あの黒い靄がこのワープの原因なら……)

 

 水中のぼやける視界で辺りを見回し、遠くから迫るそれを見つける。

 

(そりゃ居るよな、ヴィラン!)

 

 ブワブワと水中で揺らめくコートに四苦八苦しながらも懐のフラッシュバンを取り出し、いくつかのピンを抜く。

 

 それからすでに空気を求めて水上に上がっていた峰田を追って水面に顔を出し、息を吸った。

 

「心操!」

「水吸ったコート重すぎ……!」

「おいらもマフラーに首絞められるかと思ったぜ……ところでここどこ?」

 

 水面下からバン、ボン、とくぐもった破裂音が微かに聞こえ、僅かに光が顔を照らす。

 

「どこでもいい。逃げるぞ! 水の中にゃヴィランが山程いるんだ!」

「それ先に言え!」

 

 ジャバジャバと水をかき分けて、取り敢えず近くに見えている船に乗り込もうと泳ぐが、前方にどことなく魚に近い姿をしたヴィランが浮上してきた。

 

「ヒィ!?」

「テメェ! ガキの癖に舐めやがって!」

「舐めてねえよ。ほらプレゼント」

 

 そういう個性なのだろう。自分を掴める位置まで水しぶきを上げずに移動してきたヴィランに対し、心操はピンを抜いた手榴弾を手渡す。

 

「ウオァァ!?」

「食らえモギモギパンチ!」

「お、ウワァ! はっ離れねぇ!!」

 

 手榴弾を持った手に峰田の個性である超粘着モギモギを付けられ、恐慌状態に陥るヴィランの横をすり抜け、船を目指す二人。

 

「あ、言っとくけどそれ偽物だから安心していいぞ」

「ハァ!? てめぇふざけっ────」

 

 すれ違いざまにモギモギを剥がそうと四苦八苦するヴィランをアッサリ洗脳し、更に遠方から追ってくるヴィランにもう一つ手榴弾を投げる。

 

「ハッハァ! どうせこれも偽物なんだろ!?」

「いや、それは本物」

「オギャァァ!!!」

 

 ドバァァッ!! と水しぶきを撒き散らしながら吹っ飛んだヴィランを横目に、二人は悠々と船に掛けられたはしごを登る。

 

「心操、お前マジでエゲつねえな」

「もっと褒めていいぞ」

「流石ね心操ちゃん」

「ヴォアびっくりしたァ!?」

 

 気付くと、はしごを登っている自分の横で蛙吹がペタペタと壁を這っていた。

 

 見ればその手と足の指先には吸盤のようなものが付いているようで、それを使って船体に張り付いているようだった。

 

「本当はすぐに助けに行こうと思ったけど、閃光弾で私も目がくらんじゃったの。ああいうのって水中でも使えるのね」

「あ……居ると思ってなかった。悪い」

「ケロ……ごめんなさい、責めたわけじゃないの。それにもう治ってるわ」

 

 そんなことを話しつつ船の甲板まで登った三人は、そこでようやく落ち着いて周囲を見回した。

 

 船の上からでは大した景色も見れはしないが、その中でも分かるものは、遠くに見える、自分達を取り巻く無骨な壁……USJの外壁であった。

 

「……一瞬雄英の外に放り出されたかと思ったけど、USJの中なんだな」

「ええ。だって外に出したらそのまま援軍を呼ばれちゃうわ」

「オイ……っつーことはオイラ達以外もこうやってバラバラに色んなとこに放り出されたって訳か!?」

 

 それは不味いな、と心操は一人喉を鳴らす。

 

「……何が不味いんだよ!? 怖え事言うなよ!?」

「何が不味いって、そりゃ相手に『オールマイトを殺害ないし無力化できるであろう戦力』があることが不味いな」

「ハァ!? ま、待てよ! なんでそーなんの!?」

 

 最早様々な事が起きて半ばパニック状態の峰田と違い最低限の冷静さを保っている……或いは、できる限り冷静さを保とうと努めている……蛙吹は、その言葉に頷いた。

 

「私もそう思うわ。だって……相手の目的が何であるにせよ、じゃないとオールマイトのいる雄英に大勢で攻めてこないと思うの」

「そ、それは……! 気が大きくなったとか、物の弾みで……!」

「こんな大規模でか? この水場だけでも十人は居る。オールマイトの怖さを一番知ってるヴィランなら、根拠無しにこんなにも集まらないだろうよ」

「じゃ、じゃあよ! オールマイトが今日はいないと思ってとか!」

「今朝出勤ついでに事件解決! ってニュースのトップに出てたわね」

 

 現実逃避気味に放たれるいくつかの言葉が次々に否定される。その度に峰田の顔色は悪くなるが、それは無理からぬ事だ。

 

 ────何故なら。

 

「……じゃあ、本当に……オールマイトが死ぬかもしれないってのか?」

 

 オールマイトとは『平和の象徴』。

 つまり、オールマイトが倒れる危険があるというのは一介のヒーローが倒れる事とはワケが違うのだ。

 オールマイトが倒れるということは、日本の社会秩序が崩壊するに等しいショックを受けるのと同等であるのだ。

 

 理解し難ければ、アンパンマンがバイキンマンにぶっ潰されて蟻の餌にされている所を子供が見ればどう思うかを考えて欲しい。それと大体同じである。

 

「いや、多分そこまででもない。だって一回目はオールマイトを不意打ちで殺そうとしてた。正面からまともにやって倒せる自信があるなら最初からそうするだろ」

「絶対の自信がないのか……それとも、ある程度不意打ちじゃないと効かないとかかしらね」

「かもな。とすれば、俺等のやることは決まってる」

 

 

「早急にここを抜け出して、オールマイトを援護するんだ」

 

 そう心操と蛙吹が頷き合う様を見て……ごく普通の感性しか持たない峰田は信じられないと呟く。

 

「……マジで?」

 

 

 

 

 所変わって、山岳、荒地ブースに転移させられた五人の生徒は落とされて早々に修羅場を駆け抜けていた。

 

「どっせーいっ!!!!!」

「オオォっ……シャラァァ!!」

 

 芦戸が酸を纏った手足を振り回し、その横では砂藤がその剛腕でもってヴィランを投げ飛ばす。

 

 そして、バックラーを片手に持った耳郎が個性を応用した衝撃砲で敵の身体にダメージを与え、上鳴が作ってもらったワイヤーロープを投げては敵を感電させる。

 

 そして、最後の一人の八百万は、先程上鳴が心操から手渡された紙切れを凝視していた。

 

「……これは。いえ、ですが……!」

 

 顔色を悪くしてその紙を何度も読み直す八百万。そんな八百万を見て、非常事態を確信した芦戸は一枚の『切り札』を切る。

 

「ヤオモモ! 人数分のガスマスク出せる!?」

「え!? は、はい!」

「じゃあお願い!」

 

 八百万に頼んでから、ピッチリと体に張り付くボディスーツに目立たないように作られたスリットから一枚のシートを抜き取る。

 

「ちょ、何する気?」

「イイコト!」

 

 そう呟いた彼女は、強酸を纏わせた両掌でそのシートをギュッと挟み込み、丁度近くに居たヴィランのアーマーに貼り付ける。

 

「うわ、なんじゃこりゃ!?」

「そりゃっ!!」

 

 得体のしれないものを貼り付けられて焦るヴィランを蹴り飛ばし、八百万が創ったマスクを着けた芦度は、もう三枚ほどを同じようにヴィランに貼り付けた。

 

 シートを貼り付けられたヴィランは最初は不気味そうにしていたが、やがて目や口、鼻を押さえてジタバタと地面をのたうち回り始める。

 

「ッがァァァ!? 目、目がァっ!!」

 

 涎や鼻水を撒き散らして地面を転がる仲間を怪訝そうに見つめるヴィランが、そのうち同じように喉や目を押さえて叫び始めると、それはどんどん周囲に広まっていき、あまりの痛みに耐えきれず嘔吐するヴィランさえも現れ、数秒しないうちにその場は一気に阿鼻叫喚の地獄と化す。

 

「……あ、芦戸? お前何したん……?」

「明ちゃん特製の鎮圧武器……なんだけど……実際使ってみるとエグいねこれ……」

 

 ヒクヒクと顔を引き攣らせる芦戸はスリットから先程のシートを一枚出してヒラリと風に泳がせる。

 

 ────それこそが、発目が芦戸に創った唯一の武装であり、彼女の狂気と悪意と天才ぶりをフルに発揮した装備、『マジックシート』である。

 

 この紙程度の薄さしかないシートは、芦戸の分泌する酸の成分に対し反応を起こし、煙幕や発火、硬化などをする特殊素材で作られているのだ。

 因みに現在ヴィランを地獄に陥れているシートは、発目から「んー、ちょっとした催涙ガス? 的な?」と言われて渡された種類である。

 

 これによって芦戸は多少であれば搦め手や特殊工作という手段を使えるようになったのだが……如何せんこれは絵面が悪すぎると言わざるを得ない。

 

 シートの餌食となったのは十人も居ないが、ヴィラン達はその地獄絵図を警戒して生徒達を……正確には芦戸一人を……遠巻きに囲っている。

 

「で、心操何渡してきたの?」

「……地図です」

「地図ゥ?」

「はい。これは……生徒手帳に記載されている、学内施設略図です。多分……」

 

 何とも、微妙に歯切れの悪い八百万。

 遠くの方で大きな爆発音が聞こえ、ビリビリと緊張が走る中、付き合いの長い芦戸は「んで?」と続ける。

 

「その地図で、どうしろって言ってんの?」

「……『警報鳴らせ』……そう、書いていますわ」

 

 そう、上鳴が手渡され、今八百万が見ているその紙切れには、山岳地帯の一箇所、『電源室』を囲む二重丸と、汚い走り書きの字で『警報鳴らせ』の文字が書いてあった。

 

「つまり、電源室に行けば動いてる警報機があるってわけか!?」

「インフラに直通しているなら……可能性は……あるかもしれませんわ」

 

 色めき立つ上鳴と、考え込むように眉をひそめる八百万。そんな二人を見ていた芦戸は、「よっしゃ!」と勢い良く頬を張る。

 

「上鳴、ヤオモモ、あとジロちゃん……行って」

「え?」

「アイツ頭良いからさ! アイツが行けって言ってるなら行くっきゃ無いよ! だから行って! 早くホラ!」

 

 チラリと地図を見て方向を確認してから、八百万と耳郎の腕を引いて走り出し、着いてきた男二人と共に芦戸を警戒して広く薄くなっていた包囲網を突破する。

 

「うお、待て! 逃がすなッ」

「ココはアタシらに任せて先に!」

 

 包囲を抜け出された事にヴィランが反応すると芦度は二人の手を離し、上鳴の肩を強めに殴った。

 

「ってぇ!?」

「ちゃんと二人守ってよね、男の子!」

「っお、おうっ!!」

「……ちょいどいて!」

 

 ちょっと浮足立った上鳴を雑に退けて耳郎がヴィランの前に立ち、そのイヤホンを地面に挿して大地を爆音で揺らす。

 

 ドガンッ!! とこちらに駆け寄ってくるヴィランの足元が揺れ、一時的にその足を止める。

 

「警報鳴らしたらすぐ戻ってくるから!」

「ん! 待ってる!」

 

 足音を鳴らして駆けていく三人を背中で見送り、芦戸は横で何も言わずに拳を構えてくれる砂藤に謝罪をする。

 

「ごめんね、砂藤。メンバー勝手に決めちゃって」

「別にいいぞ。対応力のある八百万と電気に強い上鳴、索敵ができる耳郎を向かわせるのは当然だろ。分かるよ」

「へへ、そっか。あんがと」

 

 そう、静かに笑った二人は、ジリジリと迫ってくるヴィランの軍団に向け、犬歯を剥き出しにして啖呵を切る。

 

「こっから先に行きたきゃ私達を倒してからにしてよね!」

「ぶっ飛ばされたい奴から掛かってきやがれってんだッ!!」

 

 

 

 

 

 廃墟ゾーンに飛ばされた飯田は、既にそのゾーンを脱していた。

 

「飯田君! アレ見て!」

「クソッ、ここも駄目か!」

 

 同じ場所に落とされていた数人の生徒に託された麗日を背中に背負い、無人の通路を走る。

 

「意外とヴィランおらんね……」

「恐らく、各ブースに集中して配置されているんだろう……だからこそ、そこに希望がある!」

 

 その希望とは、飯田と同じ場所に飛ばされた障子の言葉。

 

「うん。正門横の待機室に行って、携帯取って……USJから離れたら、電波も復活するかも!」

 

 それが、飯田達が見出した逆転の可能性。

 

 殴って殴られ飛び転がりと、激しいにも程がある戦闘機動に付いていけるはずもない市販の携帯は基本的にヒーロー訓練時には持たない。

 今回はそれが裏目に出て、外部と通信を行えるのがコスチュームにそういう機能を付けていた上鳴だけであったが、それは逆を言えば訓練場に入る前に携帯を預けた待機室にさえ辿り着ければ、誰であっても外部と連絡が取れるということ。

 

 その為に、彼等は機動力に優れた飯田と縦方向への移動を補助できる麗日をブースから逃し、残りの数人でその場のヴィランに対処したのだ。

 

「ん!? オイオイ逃げてる奴いんじゃねーか!!」

「麗日君ッ!!」

「うん!」

 

 通路の脇から出てきた、見張りであろう数人のヴィランの数メートル手前で、飯田がドンッ!! と地面を蹴りつけ、それと同時に麗日が飯田と自分の体に指先を触れさせる。

 

「ッヌオオオッ!?」

「ホギャァーッ!?」

 

 その結果、十数メートルの高さを軽々とぶっ飛んだ二人は、空中で暫し硬直する。

 

「っう、麗日君! 解除! 解除だ!」

「わ、わ、わ!! 解、除ッ!」

 

 両手の指先を合わせた途端にズンッ!! と二人の身体を重力が襲い、急速に落下する。

 そして、その二人分の勢いを両手両足で受け止めた飯田は、曲がり角に見えたものに目を輝かせる。

 

「見えたぞ麗日君! 正面門だ! あそこを抜ければ────」

 

 しかし、その言葉は直ぐに止まる事となる。

 

 何故なら。

 

「……そんな」

 

 正面門前の広場、中央に噴水のあるそこは、多数のヴィランが寄り集まっていたのだ。

 

 そして、そのヴィラン達は彼等二人に目もくれない。

 

「囲め! 囲め!」

「一斉に撃て!」

「黒いのに合わせろ! ぶっ殺せ!」

「何やってんだ脳無! さっさと殺せ!」

 

 彼らの視線の先には……全身血みどろのボロボロとなって尚戦っている、相澤と緑谷が居たのだった。

 

 

 

 

 しばらく時間は遡る。

 

 

「じゃあなオールマイト」

「待つんだ! 待ちたまえ爆豪少年!」

「待たねえ!」

 

 ああもう! と叫んだオールマイトは、掌を爆破させて飛び立とうとしている爆豪の襟首を掴んだ。

 

「離せコラ!」

「離さない! 生徒の安全確保は教師の務めだ!」

「じゃあ他の奴らの安全確保しに行けや! どっからどう考えても悠長にしてる場合じゃねえだろが!」

「んっぬううっ!!」

 

 爆豪の言い分は正しく、またオールマイトの言い分も正しい。

 つまり今現在、状況は二者択一となっていた。

 

 先に爆豪、轟、尾白の三人を修羅場より逃がすか、それともこの三人を修羅場に放置したまま他の生徒を救いに行くか。

 

「……分かりました。それじゃあオールマイト、俺達はここに待機します」

「あ゛ぁ!? 何言ってんだクソ尻尾ォ!」

「俺達だって戦える。何ならクラスでは最大戦力だ。遊ばせとく理由無えだろ。戦闘許可も出てる」

「いいから! ……お前らちょっとはさ、オールマイトの立場も察しろ」

 

 完全にヴィランを殴る頭になっていた二人を尾白がおっかなびっくり抑え、その目をオールマイトに向ける。

 

「ここは開けていて視界がよく通ります。それにここは施設の真ん中に近いから『ヴィランが来たらどこにでも逃げられます』!! 一時避難場所には最適ですよね? だから、他の奴らを助けに行ってください、オールマイト!」

「……うん! 私からも言っとくけど、『いざという時は戦闘を躊躇わないこと』! この場は任せるよ三人共! じゃあ行くからね!」

 

 やはり焦りも危機感も多くあったのだろう。言うだけ言って一瞬で飛び立っていったオールマイトを見送ってたっぷり三十秒。

 

 自分が『騙した』事と、相手が『騙されてくれた』事を察している尾白は深く深く……それはそれは深ぁ〜〜……く、溜息を吐いて、自分の後ろで腕を組む二人に向き直る。

 

「……で? どーすんの」

「俺は速度が出るから、単独行動する」

「じゃあ俺と尾白で一組だな。あんまり危ないことすんなよ爆豪」

「テメエに言ってろボケカス死ねザコ」

(動くのか動かないのかを聞いたつもりだったのに、どう動くのかを話してる……)

 

 とはいえ、予想通りでもある。

 騙すようで申し訳無さはあるが、あのままではどちらも引き下がれない綱引きだった。

 最早最善は選択できない。ならば次善の為に、泥を被れる人間が泥を被るべきだ。尾白はそう考えた。

 

「じゃあな! ヘマすんなよ!」

「おお」

「ハァ……これ後でメッチャ怒られるな……」

「ヴィランに見つかった事にすりゃいい」

「するけどさぁ……」

 

 挨拶もそこそこに高速ですっ飛んでいく爆豪を背に軽口を叩きつつも、二人は行動を開始した。

 

「皆が消えた後、上空であの黒い靄が一つのブースに一つ現れてた」

「おお、多分俺等を分散させて各個撃破だろ」

「だよね……ま、近場から行こうか」

 

「皆を助けに」

「おう」

 

 世界最強のヒーローと、世界最強の高校一年生が動き始めた。

 

 

 

 そして。

 

 

 

 相澤の身代わりとなって靄に飛び込んだ緑谷は、一瞬の無重力の後硬いアスファルトに尻を打ち付けた。

 

(……死んでない。じゃあ少なくともあの靄は即死トラップじゃないのか)

 

 尻を打ち付けた衝撃をそのまま使い、その場で一回転して立ち上がる。

 

(この床、USJ入口と同じタイルだ。風速もさっきと変わらない。地面の熱も大差無い。日差しの向きと風向の角度にも差は無し。恐らく気絶はしていないし大きく時間が過ぎてる訳でもない。靄に包まれて数秒、長くても数分かな)

 

「あ? やっと来たと思えば……子供(ガキ)じゃん」

 

(やっと来たってことは、つまり転送個性な訳か……参った、完全に想定外だったな。それにこの人数……身なりからして全員ヴィランなんだろうなぁ)

 

「ま、いいや……運がなかったなぁお前。この人数にガキが勝てる訳無え(・・・・・・・・・)

(この人数だと時間掛かっちゃうな(・・・・・・・・・)

 

 それは、意識の違い。

 

「ドボァッ!?」

 

 バシュッ!! と空気の漏れるような音を響かせて緑谷の右手から白い弾丸が飛び、最前列で緑谷を脅すように身体中から刃物を生やしていた男の顔面に炸裂する。

 

 それにより怯んだ男の顔面に緑谷が首に巻いていたスカーフを巻き付け、身体から生えた刃物を無効化した上でその顔を鷲掴みにし。

 

「一人目」

 

 バッ、バッ、バシュッ!! と顔面に零距離で拳銃を三連射した。

 

 無論緑谷の右手には、不世出の天才、発目明の最高傑作(ポーラスター)が握られている。

 

「ッ!?」

「二人目」

 

 その事にヴィラン集団が何かしらの反応を返すよりも速く、地面を蹴りつけた緑谷は残像が残るほどの速度で集団に肉薄し、倒れる刃物男の横でボサッと突っ立っていた男の顔面にローリングソバット(空中後ろ回し蹴り)を叩き込みつつ空中で背中に背負っていた模造刀を左手で抜き放ち、蹴った男を足場にして跳躍、近くに居た手指が銃口となっている男の両手に高速の二連撃を放つ。

 

「ギャッ! 手が!?」

「三人目」

 

 刃は付けられていないとはいえ竹刀とは比べ物にならない打撃力を持つ鉄刀の一撃は男の両腕を砕き、壮絶な痛みに叫んだ男に対し、緑谷は一切の容赦なく顎に銃のグリップを叩き付け、意識を刈り取った。

 

「こ、殺せ!」

 

 最初に喋っていた全身手だらけの男とは別のヴィランがそう叫び、周囲を取り囲んでいたヴィランが一斉に、

 

「判断が遅い!」

 

 ドパンッ!! と、先程とは明らかに違う破裂音を発した銃撃で片端から昏倒していった。

 

「……痛ッッテェ。さっきはこんな威力無かったじゃねえか」

 

 緑谷の放った弾丸を腕に受けた手だらけの男は、ズンと響く痛みに歯ぎしりをする。

 

 それまでの様子から銃弾に特別な効果が無いこと、そもそも弾に実体が無いことを察した上で腕で受けたのだが、その腕は痺れてしばらく使い物になりそうになかった。

 

「ああ、さっきとは違うからね」

 

 そう言って、相手の強さを察して逃亡を始めるヴィランの背中をドパッ、ドパンッ!! と撃つ緑谷。

 

この拳銃(ポーラスター)は僕の集中力や戦意による魂の高揚で威力が三段階まで上げられるんだ。ちなみに最初が一段階目(LEVEL1)、今が二段階目(LEVEL2)

 

 そこまで話した直後──手だらけの男の、右後にて控えていた黒い肌の、脳味噌むき出しの大柄なヴィランが、ズガァンッ!! という轟音と共に吹っ飛んだ。

 

「────これが、最終段階(LEVEL3)

「……オイオイ、今時のガキってこんな強えのかよ。まだ目当てのオールマイトどころか教師ですらないってのに……難易度調整クソすぎだろ」

「いやいや、そりゃ雄英ヒーロー科に居るんだから日本でトップクラスに強いガキに決まってると思うんだけど」

 

 言うなり飛び出した緑谷は、地面を這うような体勢の下段から手だらけの男に向けて刀を掬うように振り上げる。

 

「うっお!?」

「遅いッ」

 

 ガッ、と腕に付いた手の一つを剣先で弾き飛ばし、返す刀で先程撃った事で動きの鈍い腕を叩きのめす。

 

 バギッ!! と、軽く鋭い音が響いた。

 

「があっ!?」

 

 苦し紛れに男が振り回した手が緑谷のスカーフを掴む。

 

 それを気にせずに……むしろ幸いとばかりに男に顔面ストレート(拳銃パンチ)を食らわせようとした緑谷は、その瞬間何かに気付き、即座に狙いを変え男の腹に発砲した。

 

「ゴッ……!」

「ウッソでしょちょっと……!」

 

 今度は緑谷の方がなりふり構わずに男から離れ、首の後ろ……男が触れていた部分から一番遠い場所を持ち、スカーフを引きちぎった。

 

 バッ!! と投げ捨てられたスカーフは、布製であるにも関わらず……男の握った部分を中心にして鋭い罅が走っていた。

 

「……『崩壊させる』個性……ッ!!」

「せいかぁい……俺に近付くってことは、そういう事だ……それに……」

 

 男は、自身がつい先程撃たれた腹を指差す。

 

「『弱くなったな(・・・・・・)?』」

「…………」

 

 その問いに、表情を変えない緑谷……しかし、先程までは何くれと反応を返していた彼のその様子が何よりも、男の発言を肯定していた。

 

「多分お前の個性は俺と同じで、このよく分かんねーエネルギーを接触面から相手に放つ……つまり、本来相手に触れてなきゃ意味が無い。それをその銃は遠く離れた相手に当てるように作られてんだ。スゲー技術だけど……随分とまぁ繊細みてえだな?」

 

 男の言葉に、緑谷はただ刀と銃を構え直す。

 

「さっき言ってたな? 『集中力や戦意による魂の高揚で威力が三段階まで上げられる』ってさ……つまり、戦いに全力で集中しなきゃLEVEL3には持っていけないんだろ? でもって、今みたいに少しでも戦いから意識が逸れればこの通り、威力はずっと弱くなる」

「……よー喋るね」

 

 実際のところ、男の予測は全て当たっていた。

 

 緑谷の魂威銃(ポーラスター)は不世出の天才、発目明の頭脳のすべてを結集した現代のオーパーツとでも呼ぶべき道具であるが、その精密さから扱いは困難を極めるのだ。

 

 以前の爆豪との戦いでこの銃を使わなかったのは、魂威銃の構造上火花が出る可能性が高かったので建物中が火気厳禁状態であったことが主な理由だが、そもそもの話、対爆豪での超近接戦ではこの武器レベルを保てないことも理由の一つである。

 

 男の言葉に更に追加するとするならば、この銃は緑谷以外の人間では弾が出ない。完全に緑谷専用武器なのだ。

 

(参ったな……まさかたったこれだけでそこまで見破られるなんて。『個性』って部分以外全問正解じゃないか)

 

「あぁ、ついでに言うならこの個性自体もそこまで強いものじゃないな。確かに痛いし身体も麻痺するが、最大威力(LEVEL3)じゃなきゃ吹っ飛んだりはしない。あくまでスタンガンレベルの威力しかない」

「いや、それ以上あったら問題でしょ。ヒーローだよ? 今は目指してるだけだけど」

「ハハ……確かに。それとあと、もう一つ」

 

 もう既に勝った気で居るらしい男は、芝居臭い動きで肩をすくめ、背を向ける。

 

(……何を)

 

 怪しむものの、好機であるには違いないのでその背中に銃を向け、引き金に指を掛ける。

 

「今回の襲撃のリーダーは、俺だ……けどな」

「ッ!?」

 

 引き金を引こうとしたその時、凄まじい圧を感じて咄嗟にその方向に銃を向け、発砲する。

 

「一番強いのは、俺じゃないんだ」

「効かなッ」

 

 手だらけの男の後ろに控えていた、先程LEVEL3の銃撃を撃ち込んだ筈の大男に反射で撃った銃弾が命中するが……LEVEL3の銃弾からこの短時間で復活するタフさを持つバケモノにLEVEL1の銃弾など、足止めにすらならず。

 

 緑谷の腹部に、オールマイトのようなサイズ感の狂った拳が突き刺さった。

 

 ……こうして、話は前話の冒頭へと戻る。




※緑谷生きてます。

今回の時系列

1、緑谷無双のシーン(皆はまだ飛ばされてない)

緑谷の目的『マジでなんにも状況わかんないけど何とかしてどうにかする』

2、どっかの天パとすり替わってしまった心操のシーン(皆飛ばされる)

心操チームの目的『現状の打開及びオールマイトの援護』

3、立場が色々と難しいオールマイト達のシーン(皆が飛ばされた直後)

爆豪チーム(空中分解)の目的『皆殺し』

4、作戦会議中は周囲を威嚇していたので決してハブられた訳ではない砂藤のシーン(飛ばされてから暫く経ってる)

芦戸チームの目的『救助を呼ぶ』

5、飯田と麗日の機動力凄いチームのシーン(4とほぼ同時くらい?)

飯田チームの目的『救助を呼ぶ』

こんな感じです。今回書いてない連中は皆真面目に働いてます。



続いてポーラスター

以前も言いましたが(言ったっけ?)、この武器には元ネタがあり、今回のレベルが上がったり下がったりする仕様についてはその元ネタを個人的にいい感じにアレンジしたものです。

要するに何が言いたいかと言うと、ぶっちゃけ攻撃力的には殴ったり直接魂威ぶっ込んだほうが強いです。

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