無免ヒーローの日常   作:新梁

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超お久しぶりです!

あけおめ!

あと何話発目明出せない話書くんだ(戦慄)

今回のあらすじ

緑谷(まだ)死んでない

リア10爆発46さん、BONDXさん、誤字報告ありがとうございます!


第六十六話。凡人の限界点、改人の到達点

 ここまでお付き合い頂いている読者諸氏であればご存知の通り、発目明という少女は天才である。

 

 そんな発目が作り上げた愛する緑谷の為に心血を注いで作り上げた至高のヒーロースーツがただの衣装としての機能しか無いのか? 

 

「はっは、一発かよ! 圧倒的じゃねえか脳無!」

(あ゛ー、これどーしよっかなあ)

 

 無論、そんな訳はない。

 

 緑谷のヒーロースーツは内部にリキッドアーマー機構*1を搭載しており、衝撃に対し強い減衰性を持つ。

 

 更には緑谷自身が衝撃に合わせて反射的に大きく後ろに跳ねていた事もあり、決して軽傷とは言えないながらも、動けないほどではない状態であった。

 

 ぶっ飛ばされた際、宙を舞っている隙に取り出していたスーツに備え付けられてある大容量血糊ボトルを使って頭部大出血を装い、更にはそれによる即死を装うため受け身も殆ど全く取らずに地面にぶつかった緑谷は、出来る限り肺を動かさない為に細く細く、そして長く呼吸をしながら頭を悩ませる。

 

(……脚が無事なのはありがたいけど、右手の筋を痛めちゃったな。左腕は尺骨完全にへし折れた。肋骨にも一本二本くらいヒビ入ってそうな痛みがある……戦えないってわけじゃ無いけど、参ったな……勝てるビジョンが全く浮かばない)

 

 それであった。

 

 緑谷は『無個性』という一つの括りの中では間違い無く最強に位置しているが、それはあくまでもその括りの中だけの話であり、世の大半を締める個性持ち……その中でも上澄みであるヒーロー業界の中ではどう高く見積もろうと中の下、どれだけ甘く見ても中の中程度の実力でしかない。

 

 それを戦術、戦略、武装でもって補っていくのが緑谷のスタイルだが、それで尚今現在辿り着けているのは上の下といったところ。

 

 そして、先程自分を殴り飛ばした『脳無』とやらの力量は、どう少なく見積もっても上の中程度はあると緑谷は見積もっていた。

 

(あーマズイなぁ、何がマズイって僕の場合力量が上の相手に一矢報いる手段がほぼ存在しないのがマズイよなぁ。無駄死には出来ないからなぁ……せめて皆が少しでも楽にこいつらを倒せるように……)

 

 ……ここに、緑谷の異常性がある。

 

(……この二人と戦いながらポーラスターをLEVEL3には持っていけない。つまりあの手だらけの……手マンは倒せても、脳味噌むき出しの……なんてったっけ、そう脳無。脳無は無理だ……けど、脳無を倒さなきゃ……絶対犠牲が出るよなぁ……)

 

 犠牲が出ないようにする心は勿論ある。

 

 出来れば自分を含め、誰もが生き残るようにとも考える。

 

 ……しかし、その中で『どうしても、誰かが』……となった時、緑谷は一切の躊躇いを見せずその『誰か』に自らを据える。

 

(……使うか? 自爆……)

 

 今の緑谷に使える最大威力の攻撃は、ポーラスターのリミッターを外した上で全霊の波長を込めて銃身を暴発させる、最早攻撃とも言えないような攻撃だ。

 

 しかし、これには銃が壊れる以外にも二つ欠点がある。

 

 一つは、爆発までのタメに時間が掛ること。

 

 そしてもう一つは、そのタメ時間の最後の最後……つまり、爆発するその時まで銃を持って波長を送り続けなければいけないことだ。

 

 無論、銃を握っている手は無事では済まない。

 

(……いや、無理だな。どっちを狙うにしても、爆発させる前にどっちかの邪魔が必ず入る)

 

 何もできない無力さに緑谷が歯噛みしていると、その頭にゴリッと手だらけの男の靴が乗せられる。

 

「オイオイ、調子乗ってた割に一撃死かよ。情けねえな」

 

 グリグリと体重を乗せられ、軋む頭蓋に肝を冷やしながらも、尚緑谷は一言のうめき声を発しない。

 

 声を一つでも出せば、この男は油断なく自分の体を崩壊させようとするだろう。その事は緑谷も理解していた。

 

 今の状況は、この男の脳無に対する絶大な信頼と緑谷の演技力がうまく噛み合った結果の、薄氷の上の安全なのだから。

 

(……チャンスは一回。手マンが死体()に興味を無くした時)

 

 現在、脳無は緑谷を吹き飛ばしたその場所で静止している。

 その事を、緑谷は地面に押し付けた耳から捉えた振動で察知していた。

 

(恐らく脳無は何らかの個性で作られた生物兵器に近い。手マンの命令がなきゃ動けない……なら、手マンを戦闘不能にすれば……何とかなるのか?)

 

 ならないだろう。緑谷は心のなかでそう結論付ける。

 

 手マンの個性は触れたものを崩壊させる個性だ。ならば、この脳無を作れる個性を持つ人間が別に存在する筈。

 

 そして、その人間が脳無を操作できないなどという考えは……甘いなどという表現でも足りない危機感の欠落した考えであろう。

 

(……うん、手マンは雄英(ここ)の先生達なら何とかできる。けど脳無は……誰かが死傷を負う可能性がある……だったらやるしか無い。脳無は危険過ぎる)

 

 緑谷は覚悟を決めた。

 

(脳無の口内にポーラスターを突っ込み、自爆させる)

 

 自身が一瞬で発することのできる何倍もの波長を体内から喰らえば、タダでは済まないだろう。無論自分もであるが。

 

(……タイミングを見計らえ。手マンが一番油断するであろうタイミングを……!)

 

 その時。

 

 手マンに踏み躙られていた緑谷の耳に、トサっと軽い着地音が聞こえる。

 

「……あ? やっと来たと思ったら……オールマイトじゃねえじゃん。何やってんだよ黒霧……さっさとオールマイト連れてこいよ……」

 

 どうやら自分と同じように、誰かが連れてこられたらしい。

 

「……緑谷」

「あー、お前こいつの先生?」

 

 どうやら来たのは相澤であったようだ。

 

(オールマイトならともかく、相澤先生はヤバい! 殺される!)

 

 相澤と緑谷は身体的には無個性の範疇であるという共通点がある。

 それ即ち、緑谷が確実に殺される状況では相澤も確実に殺されるという事。

 

 そして、緑谷の懸念が一つ。

 

 本当の所は違うが、緑谷は脳無を『この場に居ない誰かの個性によって作られた存在』であると考えている。

 つまり、脳無は人間ではない……と、緑谷は想定していた。

 

 そして、汎用性を投げ捨てた、限定的な範囲において絶対の力を持つ個性というのは多くの場合、その範囲を逸脱した物には全くの無力なのだ。

 

(相澤先生は……『個性によって作られた脳無を消す事はできない』可能性が高い! そして、もし本当にそうなら、正面からぶつかればそれこそ命に関わる!)

 

 実際には『個性抜きでもアホほど強い』という相対する側からすればふて寝したくなるような身も蓋もない脳無の特性と奇跡的にマッチした緑谷の考えは、結果的にこの場における最良の行動を取る。

 

「ッ!!」

「な、テメッ!?」

 

 ガッ!! と強く頭を揺さぶる事で上に乗っていた手マンの足をズラし、その後うつ伏せのままに無事な両足を使ってでんぐり返しの要領で動揺する手マンの肩に両脚を引っ掛け、全力で体勢を崩す。

 

 そのまま手マンが尻餅を付く前に空中で三角絞めに体勢を移行し、しかし完全には気道を締めない。

 

 そうすれば……! 

 

「ッ脳無ゥゥ!!!」

(来たッッ!!)

 

 ゴゴガガッッ!!! と決死の表情を浮かべた相澤の眼の前で地面と両脚の骨肉を削りブレーキをかけた脳無は、血肉と石の礫に顔を覆う隙だらけの相澤を無視して進行方向を反転し……その瞬間には緑谷の目前に居た。

 

 だが、先程は兎も角、今の緑谷に隙は無い。

 

 手マンが脳無を呼んだその瞬間には首を極めていた脚を崩し、へし折れた左腕を脳無の予測進路上……を僅かにかすめる形で置く。

 

(要するにコイツは機械なんだ! 要求された目的を最短工程で達成しようとする! そんな予測の容易いテレフォンパンチなら……)

「折れた手でも、流すくらいはァ!!」

 

 ゴッ、と、振るわれた脳無の剛腕。

 

 その上部に左肘を叩きつけた緑谷は、背中のブースターを吹かして空中で回転し、直進してくる剛腕の勢いを利用して脳無の腕の上を高速で転がり、肩から背中方向へと飛び降りる。

 

「アイツを殺ッ!?」

 

 殺戮命令を言いかけていた手マンの顔面……の手を牽制がてらポーラスターで撃ち、相澤の下へと駆け寄る。

 

「相澤先生、状況は!」

「…………恐らく、クラス全員が分散された。お前は?」

「勿論まだ戦えます!」

違う

 

 この状況ではギロリと睨むこともできず、相澤は敵に目を向けたまま捕縛布を手元に巻き直した。

 

「違うと言われても、今はそれが重要なんですよ」

 

 何やら、辿々しい動きで緑谷に撃ち落とされた手を拾い上げている手マンを睨みつつ、懐から取り出した硬化テーピング*2を折れた腕に強く巻きつける。

 

 その様子を見るでもなく察した相澤は、一度首を鳴らして気合を入れ直した。

 

「あの二人……手マンの方は掌で触れた物を崩壊させる個性です。手から離れれば崩壊は止まりますが、強力です」

「手マンは止めろ馬鹿」

 

 が、流石にそこは教師として止めさせた。

 

 ついでに、遠くの方で会話を聞いていた手マン(暫定)がビシリッと動きを止めた。

 

「え? じゃあ……白髪マン?」

「死柄木だ! 死柄木弔! 俺の名前! ぶっ殺すぞテメェ!!」

 

 緑谷の白髪マン呼びにキレた死柄木が足を踏み鳴らしながら吠えるが、肋骨の損傷からくる酸素不足で思考が鈍化している上に煽りを日常会話に取り入れる事に慣れすぎてしまった緑谷はなんというか……怒っている理由にイマイチピンと来ていない顔をしていた。

 

「信楽焼? たぬきの置物の? かわいいね」

 

 挙句の果てにはこの発言である。相澤は(うわぁ)と思った。言った。

 

「……うわぁ」

「え? 駄目ですか?」

「いや……うわぁ」

 

 明らかに、何かがキレる音がした。その音を相澤は確かに聞いた。緑谷には聞こえなかった。

 

「……脳無、地面を殴れ」

 

 主が(精神的、あるいは社会的に)どんな状況であろうとも、脳無は命令に従うのみだ。

 

 ドゴアッ!! と轟音を響かせて地面が大きくひび割れ、地震と見紛う程に地面が揺れ動く。

 

 その揺れは、緑谷が気絶させた多くのヴィランを目覚めさせる結果へと繋がる。

 

「てめぇら!! 何時までも寝てんじゃねえ!」

 

「今すぐにあいつらを殺せ!! 脳無! てめえもだ!」

 

 起き上がるヴィラン。

 

 拳を地面に叩き付けた状態から、霞むようなスピードで迫ってきた脳無の拳を間一髪で避けた緑谷は、腰から抜き放ったナイフを脳無の肩周りの筋に突き込み、軟骨を抉るようにしてゾリッ!! と切り裂いた。

 

「悪いけど! 両手両足動かなくするよ!」

 

 足元を縫うようにして動き、両膝の裏からナイフを突き込んでグリグリと掻き回し、膝関節を完全に破壊した緑谷はバランスを崩した脳無の、もう片方の肩の筋肉も切り刻む。

 

 相澤は思う。『容赦も躊躇も無さすぎだろ怖えよ』と。

 

「何やってんだッ、テメェ!!」

「あっ、あのガキを撃て! 撃ち殺せ!」

 

 恐らく、事前に脳無の強力さを知らされていたのだろう。

 

 それが一瞬で無力化された事に狼狽したヴィランが緑谷に向けて遠距離系の個性を発動させる……

 

「……え?」

「何だ、個性が出ねッ……!?」

 

 ……事は、出来なかった。

 

「流石、先生!」

「ゴッ!?」

 

 その一瞬の躊躇の間隙にヴィランの一人の足下を掬い、ドダッと尻餅を着いた所を、顔面を鷲掴みにして床のコンクリートに叩きつける。

 

 ゴジャッ!! という耳を塞ぎたくなる音が鳴り響き、遂にそのヴィランは完全に動きを停止した。

 

「……峰打ちだから、安心していいよ」

 

 峰打ちって何? 

 

 その時、全員の気持ちが一つになった。が、緑谷はそんな事を気にしない。

 

「……さて、言っとくけど、今度はもうアイツは立てないよ? 痛みだけだから極論精神論で何とかなるさっき(魂威)とは違う。手脚の腱を切った以上、もう物理的に移動ができないんだ……それでも、まだ、やるの?」

 

 ビク、ビク、と震える脳無を見て、緑谷(悪魔)を見て、ヴィランの間に動揺が広まっていく。

 

「……な、なぁ死柄木、もう撤退した方が良いんじゃねえのか……?」

「はぁ? 指図かよ……ウザ」

 

 思わずといった感じで死柄木に意見をしたヴィランは、何でもないような仕草でその脇腹を触られる。

 

「……え?」

「ビビリは俺のパーティには必要無い……だからまぁ、何だ……死ねよ、バァカ」

「……ハァ!? ふざけんなよ!? 待てよオイ! コレ止めろよ! オイ! ぶっ殺すぞ! 早く、止め……!」

 

 ビシ、ビキッ!! と細かな破砕音を響かせながら少しずつ崩れていくヴィラン。

 

 死柄木に助けを求めて詰め寄ったその男は、顔面を鷲掴みにされ、そのままグシャリッと顔を『握り潰された』。

 

「……他に? 意見のあるヤツは?」

 

 最早、その場で死柄木に逆らうものは一人とて居なかった。

 

「……外道が」

「外道? オイオイそりゃ見当違いだろ先生さんよ。ならお前らは誰様の許可を貰って正道名乗ってんだ? 分かるだろ? この世に外道正道なんてモンは存在」

うるさい

 

 ドパァンッ!! と、最大火力の緑谷の銃撃が死柄木に飛ぶ。

 

 しかし、死柄木は既に半分以上崩れた男の死体でそれを防いだ。

 

「最後まで語らせろよ。常識無え奴」

「常識はあるよ。使ってないだけで」

 

 緑谷と死柄木が、丁度正面から互いを睨み合う。

 

 だからこそ、緑谷は気付けた。

 

 ほんの一瞬、死柄木が緑谷の背後に意識を向けた事に。

 

(──────!?)

 

 今死柄木が緑谷の後ろを気にする理由など一つしかない。

 

 だが、それは有り得ない。

 

 だって、脳無は、自分が……! 

 

「……そいつはさ、人間をベースに複数の個性を無理矢理に混ぜ合わせて作った改人(かいじん)なんだ。使われてる個性は二つ! 『ショック吸収』と……」

 

 緑谷と、相澤が素早く振り向く。

 

 視線の先では、未だ覚束ない足取りながらもしっかりと腱を関節を裁断された筈の脳無が立ち上がっている。

 

「『超再生』だ……一応忠告しといてやるけど、お前らじゃ逆立ちしても勝てないぜ? 何せそいつは!!」

「オールマイトと同じだけの力を使えるように設計されてんだからな!!」

 

 ゴガッ!! とコンクリートを削りながら脳無は飛ぶ。

 

 全ては、死柄木から下された命令(あいつらを殺せ!)を完遂する為。

 

 そして……脳無の近くに居たのは、相澤だ。

 

 咄嗟に避ける事に成功するが、それでもその風圧で体勢を大きく崩された相澤は、返す裏拳で吹き飛ばされる。

 

「先生ッ!!!」

「さぁてめぇら! 撃て! 殺せ! ……あぁ、近寄るなよ!? 脳無にぶっ潰されちまうぞ!! ハハハ!!」

 

 チラリと瞬間的に相澤の方を向き、身体に力を入れて起き上がろうとしているのを見て、一息吐く間も無く突き出された脳無の正拳突きを受け流し、その肘に、袖から抜き放った暗剣*3を突き刺す。

 

 しかし、肘の可動を妨げるように突き込んだまま手放した暗剣は、脳無の肉体の回復に伴ってズチ……と僅かな血液と共に肘部から排出された。

 

「……ウッソぉ……あの刃物返し付きなんだけど……」

お前後で持ってる装備全部確認するからな

「相澤先生! ダメージはどうですか?」

「どうであれ動かなきゃ嬲り殺しだ。お前が言った事だぞ」

 

 グラ……と出血で揺れる頭を押さえつつも、相澤はハッキリとした言葉遣いで緑谷の心配に対し答えになってない答えを返す。

 

「……まぁ、そうですね。とにかく脳無の攻撃だけは受けないようにしましょう。下手すれば一撃で……」

 

 死ぬ。

 

 それを言いかけて、緑谷はピタリと言葉を止める。

 

 飛んできた脳無から逃げる為に二人が左右に分かれ、緑谷を狙おうとしたヴィランの一人の側頭部を銃身で殴りつけ、足払いをして体勢を崩してから片腕で投げ飛ばす。

 

「っぎ……!」

 

 投げる際に上に放り投げていた銃をキャッチし近くに居たヴィランに向け発砲する緑谷だが、その表情は大きく痛みで歪んでいた。

 

(片腕折れてるしもう片方筋痛めてるんだよこっちは!)

「死ねよガキがァ!」

「うるさい!」

 

 袖から再び取り出した二本目の暗剣で悪態を吐くヴィランの頬を軽く削ぎ、その痛みに身を強張らせた相手の顔面に思い切り頭突きを食らわせて昏倒に追い込み、突っ込んできた脳無から情けなくもゴロゴロと転がって逃げる。

 

(今は痛みは無視しろ! 思考を鈍らせるな!)

 

 両手を鞭にして叩きつけてきたヴィランのソレを踏みつけ、痛みに叫ぶその男の腹部に肘打ちをかまし咳き込む男に三発発砲して意識を刈り取り、暗剣を二本、迫りくる脳無の眼球に投擲して視界を一瞬奪い、やり過ごす。

 

 この男、どうせ治るからとやりたい放題である。

 

(今『何か』が引っ掛ったんだ! 分からない! さっき僕は『何』に違和感を感じたんだ!? 分からない! 理解しなきゃ!)

「相澤先生ェェ!!!」

「ッ!!」

 

 一瞬で眼球を修復して緑谷に向き直った脳無の三度目の突撃(チャージ)に、緑谷は相澤の名前を叫ぶ。

 

 その言葉に自分もヴィランの対処をしながらも、緑谷の現況を理解した相澤は瞬時に捕縛布を投擲し、緑谷を自分に向けて引き寄せる。

 

 横っ跳びに合わせた相澤の引き寄せで射線上から逃れた緑谷の後ろで、ゴガアンッ!!! と大きな噴水が砕かれた。

 

 罅の入った肋骨が締め上げられる激痛に声にならない叫びを上げながら、相澤側のヴィランに向けて銃を乱射するが、痛みで威力の下がった弾では僅かなりの足止めにしかならない。

 

「囲め! 囲め!」

「一斉に撃て!」

(この状況はどう考えてもジリ貧だ! 何か、何かある筈なんだ! 何か────!!)

 

 緑谷をよく知らない者は、彼の長所は格闘能力や発目の作る道具を満遍なく扱える器用さと思いがちだ。

 

 無論、それも秀でた部分であるのは違いない。

 

 しかし緑谷自身が、あるいは緑谷をよく知るものが、その長所を問われればこう答えるだろう。

 

『緑谷出久の真髄は観察力と、そこから正確な推論を見出す思考能力にある』と。

 

 それをよく理解しているからこそ、彼は思考を止めない。

 

 そして、それ故に彼は気付く。

 

「何やってんだ脳無! さっさと殺せ!」

「……あれ?」

 

 それは。

 

(噴水が砕けた? オールマイト(世界最強)の突進なのに砕けただけ(・・・・・)? そんな事ある?)

 

 そこから、連鎖的に浮かび上がる、種々の違和感。

 

「死ねオボアッ!?」

(そうだよ。何考えてたんだ僕は! オールマイトの力(・・・・・・・・)!? そんなモンで思い切り殴られたら直撃じゃなくても死ぬに決まってるだろ!)

 

 駆け寄ってきたヴィランの腹に蹴りを食らわせ、死柄木にこれでもかと銃撃を浴びせる。

 

(地形を変え、天候を変える力だぞ!? 死柄木の命令に従ってる以上アイツの性格的にも手加減はしないだろう! オールマイトの力を持つ奴が全力で戦ってこの場所が原型を留めてる事自体おかしいじゃないか!! 一歩の踏み込みで地震を起こして一発のパンチで突風が吹き荒れる人だぞ!)

 

 最後の雑魚を相澤が殴り飛ばし、残るは脳無と死柄木だけとなった事で、遂に緑谷の思考は加速する。

 

 緑谷の中で様々な情報が駆け巡る。

 

 脳無。

 

 改人。

 

 使われたのは『ショック吸収』と『超再生』。

 

 つまり、個性無しの素の身体能力で緑谷と相澤を一撃で重傷に追い込み、噴水を破壊するという事実。

 

 死柄木の言った、「オールマイトと同じだけの力を使える」という言葉。そこから、自分は『勘違い』をしていた? 

 

 ……緑谷は相澤の身代わりにここに来て、次に相澤が送られてきた。

 何故、ワープ個性の持ち主はこの場所に一番に相澤を連れてきたのか? 

 

「……先生ッ!!!」

「どうした!」

 

「先生の個性を、できる限り脳無に『発動させ続け』て下さい!」

「ハァッ!?」

 

「頼みます! その間……」

 

 噴水を砕いてから直ぐにこちらに飛び込んてきた脳無の振り下ろした拳を紙一重で避ける。無論紙一重なので砕けた床の礫が身体に突き刺さるが、身を丸めて歯を食いしばって耐える。

 

「緑谷!?」

コイツ(脳無)は……僕が引き止めます……から!」

 

「だからッ、頼みます!」

 

 脳無は、変わらず破壊と殺意をばら撒いている。

 

 そして緑谷は、今度は逃げずにそれに真正面から立ち向かう。

 

「馬鹿かお前は!? 何やって……!」

「何か知らんがやらせる訳無えだろが! 脳無! 先にイレイザーを、ガアッ!?」

 

 新たなる命令を下そうとした死柄木だが、トスッという軽い衝撃と共に腹部に強烈な熱と痛みを感じて、目を向ける。

 

 そこには、先程から緑谷が主力としている暗剣が突き刺さっていた。

 

「僕から脳無を引き離すなら……命の覚悟はしてもらうよ」

「……カスがァ!」

 

 

 

 

 

 死柄木は負傷した腹を庇いながら相澤の個性を阻止しようとするが、鋭く痛む腹が動きから精細を奪う。

 その状態ではプロとして膨大な対人経験を積んできた相澤を捕まえるなど出来よう筈も無く、相澤は死柄木から只管逃げの一手を打ちながら、祈るような気持ちで緑谷と脳無を視界に入れ続けていた。

 

 死柄木の個性を相澤はしっかり理解している訳では無いが、体に触れたものを崩壊させる個性であることは理解した。

 

 故に、下手に拘束はできない。抜けられる可能性が高いからだ。

 

(視界に入れ続けるったって、どうやったって瞬きはしちまう。それを知らない緑谷じゃない。今は上手くいなしているが、一発一発が掠り傷ですらないレベルのダメージになってる)

 

 相澤の先に居る緑谷は脳無の攻撃を、相手が高速で移動して彼の視界から外れないよう、出来得る限りその場に留まって受け流し続けている。

 

 しかし、その代償として緑谷は、ヤスリで削られるように少しずつその身を削ぎ落とされていく。

 

 

 ……相澤では、一分を保たせる事すら困難な脳無との零距離格闘を成立させている緑谷の技術は驚嘆に値する。

 

 値する、が、それではどうしようもない。

 オールマイトが直に来るであろうから時間稼ぎは必須だとしても、それならば今相澤がやっているように逃げる事が最適解だ。脳無に正面から立ち向かう必要など無い。

 

(……何に気がついた、緑谷。お前は今、何をしたいんだ、緑谷……!!)

 

 あの場に立てば、自身に勝率は無い。どころか生存率もごく低い。

 

 自分では、生徒を守れない。

 

 この場で生徒を生き残らせるには、生徒を死線に立たせるのが最善策だ。

 その事に絶大なストレスを感じながらも、相澤は思考を止める事は無い。思考を止めた時にこそ、死が訪れると知っているから。

 

(お前は、何を考えているんだ緑谷!!!)

 

 

 

 

 緑谷は。

 

 

ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!!!!!! 

 

 

 みたいなことを考えていた。

 

(もう全身ズタボロだ! ダメージの無い骨が無い! 痛めてない筋が無い!)

 

 

 脳無の一撃を躱し、触れていないにも関わらずその衝撃波で地面を転がる。

 

 全身からジャンジャンと鳴り響く痛みのアラートに耐えながら、地面に(折れた)手を付いて姿勢を立て直す……その前に、拳で削れたコンクリートの礫が全身を打ち据える。

 

「っがががっ!! ッ()ァァっ!!」

 

 礫でバランスを崩し、ゴロンと一度回転してから脳無の方を向き直り、その身体に刻み付けた浅い切り傷がジワリと治り始めているのを認識する。

 

「っどぉぉッ!?」

 

 瞬間的に背中のブースターを吹かした大ジャンプでドゴォッ!! と凄まじい音を立てて突っ込んでくる脳無の上を通過し、振り返る巨体に暗剣を使って新しく幾筋かの刀傷を刻み込む。

 

 刻んだ傷が治らない事(相澤の個性発動)を確認し威力の弱い魂威銃を連射するが、LEVEL1の銃弾では目潰しにしかならない。

 

(もう暗剣が残り少ない……!)

 

 脳無を刻んだ時の切れ味から、今使っている刃が血糊で切れなくなった事を確認し、それを相手の顔に放り投げて牽制とする。

 

 暗剣の残り本数を気にして捨てる事を渋るよりも、切れ味の鈍った刃が切った瞬間筋肉に止められてしまった場合の隙を嫌った判断だ。

 

 しかし、それでも暗剣が尽きかけているのは事実だ。

 

(……僕の見込みが正しければ、必ず……! 必ず(・・)! あるはずなんだ……『個性によって隠された』この脳無の弱点が!! それさえ分かれば……この脳無を『完全に無効化』できるッ!!)

 

(それを見出さなきゃいけない! 僕の体が! まだ動く内に!!)

 

 ドゴアッ!!! と、再び来る脳無の岩の散弾を出来る限りリキッドアーマー部分で受け止め、溜まったダメージを感じさせる量の血反吐を吐き散らす。

 

(……………………無理かも!!!!)

 

 ちょっと無理そうだった。

 

 しかし、その時緊迫したその場に変化が訪れる。

 

『非常事態発生! グラウンドH-11にてレベル五警報が発令されました! 三十秒後全校舎通用口を緊急遮断します! 教職員は非常事態マニュアルに従い被害対応を行ってください! 繰り返しますーーーー』

 

 鳴らないと思われていた、非常ベルが、鳴った。

 

「……はぁ、マジかよ……なんか、醒めたわ。帰るか……」

「……は?」

 

 未だ続く脳無と緑谷の戦闘……否、嬲り殺しを睨み続けながら、相澤は怪訝な声を出す。

 

「おーい、黒霧。もう帰る。ゲート出してくれ」

「……何を」

「それとさ、脳無。このまま帰るのもイラつくし……あそこのガキ二人やっちまえ」

 

 緑谷は、脳無との戦いに必死過ぎて、そして相澤は脳無の個性を消すのに必死過ぎた。

 

 この場で必死になっていない、遊び気分の死柄木だけが、『それ』に気付いていた。

 

 ……それは、青い顔をして立ち尽くしている、飯田と麗日であった。

 

「ッッ」

 

 脳無の視線が切り替わる。

 

 相澤が二人の近くにある柱に布を飛ばす。

 

 緑谷がブースターの緊急スイッチを押し、暴走したブースターが半ば火を吹きながら全身ズタボロの緑谷の身体を吹き飛ばす。

 

 死柄木が、嗤う。

 

 凄まじい破裂音が鳴り響き、血飛沫が舞った。

 

 

 

 

 

*1
強い衝撃に反応して瞬間的に固形化する特性を持つ『ダイタランシー流体』を服や装甲内部に充填した機構。現実世界では使い物になるレベルにするには内部液が沢山リットル必要になったりするので重いわかさばるわであんまし現実的じゃないぞ! 

*2
密閉袋を開けると空気と反応し急速に硬化する簡易ギプス。発目製作

*3
暗器の刃物。言うなればクナイ。




この回で進んだ時間:だいたい五分くらい


次の話で他の連中の話して、その次で緑谷の安否確認してUSJ編エピローグ……の、予定……
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