今回のあらすじ
皆通形見たときにこのネタ思い付いたよね?
リア10爆発46さん、珈琲藩士さん、Lősさん、誤字報告ありがとうございます。
「ああどうも、お久しぶりです。やだなあ俺ですよ俺……切らないでくれます?」
「ええ。ええ。今は、はい。日本で……あ、もう帰化しちゃいました。あっちの物ももう全部売りました……いえ、別に。引き取った時にもう決めてましたんで。はい。ヘラヘラ」
「それでですね、実は少しお願いがあって電話したんですよ……切らないでくれます? いや、大したことじゃ無いんですけど……ありゃ、もしかして知られちゃってますかね? そうです。はい。はい『彼ら』の事で」
「……ちょっと雄英、貸してくれませんかね?」
ある日の夕飯時、緑谷宅。
「私、十五才になる前に個性使用免許を今のうち取っときます」
「ああ。いいんじゃない?」
「あら、もうそんな時期ねえ。時が経つのは早いわぁ」
発目は緑谷、引子、シュタインと共に食事をしている最中、業務用魚の小骨抜きで焼き魚の骨の除去作業をしながらそう言った。
「明ちゃんの個性なら丙種だね。まあ、そんなに気負うことも無いかな?」
「ええ。今月の創立記念日にサクッと取ってきます!」
「私が取った時の教本を貸してあげたいけど、個性免許の試験内容って数年ごとに変わるんでしょ? ねえ先生?」
「んん、まあ本当に大まかな部分は早々変わりませんけどねェ。合否に関わってくる程度にはいろんな制度がいろんな風に変わってる。奥さんの個性じゃ大丈夫でしょうけど、俺が昔取ったときは乙種で良かったのに制度が変わって甲種取り直したし」
この個性社会、基本原則として個性の使用は禁止である。しかし自動車免許がそうであるように、その原則を曲げる事ができる。それが『個性免許』、正式名を『個性取扱許可免状』である。これは個々の個性届けに記載されている個性の強さ、影響力の高さによって三つの段階に分けられる。
まず発目の個性『ズーム』や引子の『引き寄せる』等の、『自分以外に影響が無い、もしくは他者に危害を加えることの難しい』個性が『
次に『意図せずとも他者に危害を及ぼす可能性がある、又は使い方によっては他者に重い損害を与える可能性が高い』個性は『
最後に『容易に他者を殺害できる、又は社会に重大な影響を与えることができる』個性が『
まあ正直ものすごくどうでも良い話だが。
「別に私の個性なら取る必要も無いかなと思ってたんですけど、サポートアイテムの開発申請が十五才から取れますからね! 私のベイビーなのにいつまでもおじさんの名義を使うわけにもいかないですし!」
「あー、サポートアイテム申請に開発者の個性免許が必要なんだ」
「ですね。ごちそうさまです!」
「お粗末様です。明ちゃん、食器は水につけといてね」
「分かりましたお義母さん!」
カチャカチャとシンクに食器を持っていった発目はそのまま玄関から飛び出し、隣にある自分の家に戻っていった。これから深夜まで開発漬けなのだろう。後で何か持っていこうと緑谷は心に決めた。
「……にしても、明ちゃんは先生の事をお父さんと呼びませんねぇ。私はお義母さんって呼んでくれるのに」
「ま、お父さんじゃ無いですからね。俺はあくまで保護者なんで。戸籍の上は養父になってますけど」
シュタインが呼ばれていない手前喜んで良いのかどうなのか微妙な表情をする引子の横で、焼き魚をほぐし無表情でパクパクと食べていくシュタインは自分でそういった選択肢を選んだと説明する。
「奥さんも覚えてると思いますけど……今は平気な顔してるけど、初めて会った当時は結構不安定だったんですよ。そもそも両親を失くしたばかりの子供に『新しい親だよ』って代わりをすげてもスレ違うだけだと思って。その時に『無理に親と思わなくて良い』って言ってからもうずっとこうですね」
「あ……ご、ごめんなさい、変なこと聞いちゃったわね」
「いやいや。俺も、多分明も、そういう話題出されたって気にしませんよ」
悪意が無いならなんでも良いんですよ。そう言ったシュタインは眼鏡が曇るのも気にせずに実に美味しそうに味噌汁を飲んだ。
「……うまい。これ作ったの出久だよね?」
「あ、はい」
「また腕を上げたんじゃない?」
「……気づくんですね。実は出汁の取り方をちょっと変えたんですけど……」
「……あら、本当……よく気づけましたね、先生?」
地味に辛辣な言い方をする緑谷の作った味噌汁を飲んだ引子が目を丸くする。そして息子と同様になんとなく失礼な物言いをするが、シュタインは気にせずにヘラヘラと笑う。
「データ集めは癖なもんですから。自分で知った事は大体覚えてるよ」
「明ちゃんの誕生日は?」
「さあて、栄養補給もしたし研究に戻ろうかぁ! 奥さん、出久、ご馳走さま」
ガチャガチャと食器を重ね、さっさとシンクに運んで水につけ風のように去っていくシュタイン。二の句を告げられなかった緑谷は、母と二人だけのリビングで開きかけた口を溜め息に利用する。
「……四月の十八だよ。まだ二ヶ月経ってないよ……」
「……ま、まあ、あの
「だよね……」
緑谷が再度溜め息を吐きながら思い出すのは発目の誕生日当日にあったあの親子の会話。
『おじさんおじさん! 今日何の日か知ってます!?』
『ジンバブエ独立記念日』
『そうなんです! さっき出久さんに聞いたんですけど私今日誕生日なんですよ! 覚えててくれたんですね嬉しいです! あ、プレゼントはいいですどうせ用意してないでしょうし! 自分で買うのでお金だけください! 多めに!』
『んじゃはい……誕生日おめでとうございます。生まれてきてくれてありがとう、明』
『こちらこそありがとうございます! 大事にパーっと使いきります! ウヒョー豪遊豪遊! 出久さんジャンクショップ行きましょう! あ、ケーキはチョコレートケーキがいいです!』
『出久、はい材料費どうぞ。毎回作って貰っちゃって悪いね』
『……どうも……いや良いですけどね……』
『? どうかしたんですか? 出久さん』
『あれ、作ってなかった?』
『いや作ってますけど! 作ってますけどね!?』
…………まあこれはひどいと。そう言わざるを得ない会話だ。義娘の誕生日を覚えていない事も酷いし、そもそも自分の誕生日を覚えてないのはもっと酷い。互いに会話のキャッチボールどころか話す速度も相まって最早会話の卓球になっているのも常人の目から見れば結構酷いし、そもそも先程まで覚えてすらいなかった誕生日のプレゼントに現金を(それと多めという条件まで付けて)要求するのは色々とどうなのだろうか? 唯一まともな所としては、誕生日おめでとうとちゃんと目を見てプレゼントを渡す所だろうか。まあ渡しているのは現ナマで、渡す相手はそんなシュタインの僅かな良心を心に留めてすらいないのだが。ちなみにこの親子の間ではこういう会話が普通で、これでもすごく仲が良い。
「毎年思うけど、あまりにも酷い……! 本人達がそれで満足してるのがまた酷い……!」
「……明ちゃんと出久の子供がひねくれないか心配ね」
「子どっ……めっ、明ちゃんは……その……『多分絶対確実に私の方が血が強いので私に似ます! だから何も問題ありません!』って……」
「…………うん! なら問題ないわね! あ、私食器洗うわ! 出久はゆっくりしてなさい!」
「待って母さん! 諦めないで! 理解を! 考えることを止めないで!」
食事を終えていた緑谷の食器も一緒に洗うために持っていき、鼻唄など歌いつつ現実逃避ぎみに食器洗いを始める引子。一人取り残された緑谷は「……いや、いいけどさ」とすっかり口癖になった言葉を呟く。と、自宅に戻った筈のシュタインがヌッとリビングに顔を出した。
「うわっ……先生?」
「……出久」
「……な、んですか?」
「明日予定空いてます?」
「へ? ……空いてますけど」
「んじゃそのまま空けといて。あと勝己と人使にも伝えといてくれます? 明日朝六時にここに集合って……久しぶりに修行ですよ」
翌日。車で三十分程かけてとある施設へと向かうらしい。修行には普段山だの砂浜だのを使っているため施設というのは新鮮だ。
しかし……
「狭ぇ……」
「…………」
「……こうする度に思うよ……五人乗りっていうのは『五人乗れはする』ってだけなんだ……シートベルト五本ついてるってだけなんだ……」
「ブツブツ言うなキモい殺すぞ……」
とても古く、そして小さな車の運転席及び助手席にはシュタイン、発目が座り後部座席には緑谷、心操、爆豪が詰め込まれている。鍛えている男三人が密着していることによって五月にも関わらずクーラーの無い車内はかなり暑い。そんな状態でさらにシュタインの運転が結構荒い物だから後ろの三人は隙間を空ける事も出来ずあちらに傾きこちらに傾き、ブツブツうるさい緑谷と既に破裂寸前の爆豪に挟まれた心操などは感じることを止め、無表情になっている。三人とも、外を見る余裕すら無い。
「でもおじさん、どこ行くんです? 修行ってなんですか?」
「まーまー……ほら、もう着いたよ。出な」
シュタインが車のエンジンを止め、荷物入れを開き紙袋を取り出す間に緑谷達は外に出た。そこはどこかの地下駐車場で、彼らは首をかしげる。
「……本当にどこだろうここ」
「三人とも、早くいきますよ」
駐車場の階段を上り、ドアを開けるとそこは窓の大きな、清潔感のある廊下だった。そしてそこには身綺麗なんだか小汚ないんだか分からないようなスウェットに身を包んだ男と、その足にしがみつく金の髪をツインテールにした、翠の目の幼い少女がいた。
「お久しぶりですねェー相澤先輩」
「久しぶりに連絡してきたと思えばとんだ提案だなシュタイン」
「ヘラヘラ」
「誤魔化すな……そいつらが?」
相澤はチラリと緑谷達三人を見やる。その視線に若干の警戒をしつつ、まず緑谷が慎重に自己紹介をする。
学生服に仕込んでいる小型ナイフにさりげなく手を触れ、ほんの少し、半歩だけ後ろに下がり、相手の体全体を視界に納め決して目を合わせる事無くそれでいて表面上はにこやかに。
爆豪は警戒を隠そうともせず、簡易戦闘用の対爆手袋をゆっくりと着けながら、押さえつけるような威圧感のある声で。
心操は着ていたタートルネックの裾を摘まみ、いつでも口元を覆い隠せるようにして。
「……初めまして。シュタイン先生の好意で様々な修行を付けて頂いている、緑谷出久と申します」
「……爆豪、勝己」
「心操人使です……よろしく」
「……おい」
緑谷達としてはシュタインがわざわざ自分達に紹介する人間など、八つ当たりで洋式便器を跡形もなく粉砕する研究職や、そういう個性でもないのに猿と会話をし一人(と一匹)で爆笑するキグルミヘッドの国家諜報員、国に要注意危険人物として監視されている女医や挙げ句には紹介された次の週に国家転覆罪で逮捕された神父等、間違いなく狂人か危険人物しか居ないという経験上での行為だったのだがそれを見た男は深い、それはもう深い深い溜め息を吐いた。
「……お前、こいつらにどんな教育してんだ。俺が素性を隠してヴィランに接触する時とほぼ同じ対応されたぞ」
「おじさん、この窓最近発表されたばっかりの対個性強化ガラスですよ」
「あれ、俺が居たときは普通の学校用強化ガラスだったけどな」
「おい」
相澤と呼ばれたその男は、はあとひとつ溜め息を吐くと隣に立っていた少女を抱き上げて緑谷達に背を向ける。
「ま、とりあえず校長室こい。全部それからだ……あと」
「……後?」
男のその言葉に、ピクリと三人は即座に第一級警戒態勢に移行する。そのとんでもない警戒っぷりに男は腕の中の少女を抱え直して溜め息を一つ吐いた。
「……全く……勘弁してくれ……ただ俺の自己紹介をするだけだ。そこの馬鹿の高校時代の先輩、相澤消太だ。よろしくね……この子は俺の姪、相澤
「あーそうそう先輩、スピリット先輩がお姉さんを説得してくれって言ってましたよ」
「死んでくれって言っとけ」
「了解♪」
そう言ってすたすたと廊下を歩き始める二人に続き、心操、発目、緑谷、爆豪の順で並び歩き始める。その際、心操が相澤に対しいくつもの質問を投げつける。
「……あの、相澤さん、でしたよね? 質問良いですか?」
「俺に答えられる物なら」
「じゃあ一つ目。ここ、どこなんです? 俺達博士になにも知らされずに運ばれてきたんですけど」
「……おいシュタイン」
「いやあ、できるだけ実戦に近づけてあげようっていう親切心ですよ。親切心」
「……俺が説明しなきゃならない事に対する親切心は無いのか?」
「ははは」
等と笑うシュタインの頭を叩こうとして
「えー……ここがどこかだったか……確かに中からじゃ分かりにくいよな。ここは……」
「やあ! 雄英高校にようこそ! 未来ある中学生達! 僕らは君達を歓迎するのさ!」
相澤の説明を遮った足元からのその声に、相澤とその姪、シュタイン以外の四人の瞳が勢い良く足元へ向けられる。するとそこには、立派な扉……に開いた小さな穴から顔を出すスーツ姿のネズミ擬きが居た。
「……ま、そういうことだ」
唐突な謎生物の登場に呆然とする緑谷達を気の毒そうに見ながら、相澤は頭を押さえつつそう言った。
日曜午前、雄英高校校長室。人が多く少し狭め。
「改めまして、ようこそ雄英高校へ!」
「意味が全く把握できて無いんですけど」
「うん、そうかい? 全く! シュタイン君も少しくらい説明してくれたって良いんじゃないかと思うのさ! 連れてきたのは君なんだからさ!」
「ヘラヘラ」
「まあ良いのさ! 彼がそんな性格だってことは分かりきってたしね!」
(流すの!? 流しちゃうの!?)
(俺達は全然良くないんだけど)
「ケッ!」
「さあさあ! そんな君達にプレゼントなのさ! 非売品の雄英ジャージ! 泣いて喜ぶがいいのさ!」
僕らが校長……根津校長の言動に果てしない不信を感じていると、校長は僕らに白を基調としたジャージを渡してきた。身振りで僕らに広げることを指示してきたのでその通りにすると、背面ど真ん中に『ゲスト』と大きく書かれていた……中々良いセンスだ! ちなみに明ちゃんには普通にゲストと書かれた名札を渡されていた。
「クソダセぇ……」
「確かにゲストだもんな……これ着ろって事か……」
「良かったですね出久さん。私も良かったです。こっちで」
「うん! カッコいいなぁ……! まさかこんなレア物貰えるなんて!」
「約一名の意外な好反応にビックリなのさ! ちなみに、君達には今からそのジャージを着て実際にうちのヒーロー科一年生と今日一日訓練を受けてもらうのさ!」
職員用の更衣室で雄英のセンスが光る白いジャージを身に付け、校内を移動すること数分。まさかの学内バスに乗って辿り着いたのは一つの倉庫のような建物。その前には、一人の有名なヒーローが立っていた。ホルスターに入れた銃と、西部劇に出てくるようなハットが特徴的な彼は──
「……ようこそ雄え」
「狙撃ヒーロースナイプ!? わあファンです! 握手してください! わ、ありがとうございます! 感激だァ! スナイプの拳銃スタイルは僕の戦い方の基礎になってて物凄く憧れてるんです! あの拳銃を使った遠距離狙撃にはロマンを感じざるを得ないって言うか、でも僕が一番気迫というか力を入れてるなって感じるのは近接銃格闘なんですよね! あ、失礼ですよねこんな言い方! でもなんていうか遠距離のロマンと様式美を追求したフォームとは違った極限まで効率化を図ったシャープ、いや違うぞニュアンスが。シンプル? えっとまあ何ともうまく言えないんですけどあのイダァィ!」
「暴走すんなアホ」
「ウチのヒーロー馬鹿がすみません。話を続けてもらっても良いですか?」
「……あ、ああ。凄いな君達……いろんな意味で。中二で既に雄英感あるよ。うん」
いつもの癖でついつい前のめりになってしまっていた僕の頭をかっちゃんが爆破して、その間に人使君が僕の代わりに頭を下げてくれた。なので、僕も頭部から立ち上る煙を払ってすぐに同じようにする。
「……す、すみませんでした」
「いや、良いよ。そんなに俺の事を見てくれているファンに会えて光栄だ。後でサインを書こう」
「本当ですか!? うわあ嬉しいなぁ! あ、そういえば質問があっ」
「これ以上話続けんなら殺す」
「すみませんでした」
そんなこんなで。
「三対三の模擬戦……すか」
「そう。俺の受け持つ一年生の三人と。普通の中学生なら相手にならんだろうが……俺は正直なところ君達が勝つと考えている」
雄英と言えばエリートの中のエリート。そんな彼らに勝てると言われ驚いた僕らを見て、少し笑ったスナイプは「当然だろう」と一言。
「『あの』鬼人フランケン・シュタインが何年も面倒を見てる直弟子だ。そんなのが三人もいれば……多分ウチの教師でも大体は負けるよ」
「俺らの戦ってる所を見てもないのにそこまで言えんのか」
「かつてシュタインは一年だけ雄英に在籍していたことがある。その当時は俺も生徒だった。君らの事は分からないが、シュタインに関しては……良い意味でも悪い意味でも……悪い意味で……信用している」
一体在学中に何があったというのだろう? その声音には多量の恐怖と諦念が感じられた。
「一体……何が?」
「黙秘する。子供に聞かせる話でもない……さてさっさと入ろう。お前達はどうする?」
「俺は久々の雄英を散歩してきますよ」
「俺はシュタインに着いていく。休みだから少ないとはいえ学生も居るんだ。コイツを一人にはできない……摩可はどうする?」
「ショータといる!」
「あいよ……んじゃ、終わったら連絡してくれ」
そうと決まればとばかりにさっさと行ってしまった先生達を背に、僕らは建物に入る。
「ここは雄英に勤める教師によって作られた体育館でね。トレーニングの台所ランド、TDLと呼ばれている」
「……へ、へぇ……」
夢の国からの夢の請求書的な意味で反応に困る話題に何とか言葉を返していると、建物……TDLの中から人の声が聞こえてきた。
『ねえねえ通形、本当にやるの?』
『ミリオ、悪いことは言わない。止めておいた方が良い。確かにそういう事を臆面もなくやれるのはミリオの長所だが時と場合を弁えた方がいい……頼むからやめてくれ……もしスベったら……スベったら……クソ……鬱だ……帰ろう……』
『大丈夫だって本当に! いや見ててよ!? 大ウケするからね! しちゃうからね大ウケ! 俺の必殺一発ギャグで笑い取っちゃうからね!? あ、来た』
『待てミリオッ!?』
聞こえては居るのだろうが、完全に無視したスナイプがTDLの大扉を開けた。そしてそこには、手を突き出すような形で半身を壁に埋め込んで、何やら苦しそうな表情を浮かべた金髪の男子高校生が居た。
「ハン・ソロ!!!!!!」
スナイプが黙って開けた扉を閉めた。
個人移動用ミニカー、相澤達の三人乗り(私有地のため定員超過で使用中)。
舗装された道を50ccのエンジン音が鳴り響く。それを運転している相澤は、エンジンを思い切り吹かしながらシュタインに問いかけた。尚、摩可は二人の間に挟まって後ろを見ている。
「しかしお前も唐突だよ。十年前からとは言わないが、何で今になってなんだ?」
「特に理由は無いですねー。強いて言うなら『今がその時だと思ったから』です」
「勘か」
「俺は自分の勘を信頼してます……勘ってのは、つまりは自分の本能が自動的に導きだした統計学ですから。今までの人生で積み上げてきた
「……まあ、同感だな」
「……わわっ!」
大人二人が会話を弾ませていると、摩可が驚いた声を出す。うん? と相澤が金髪の少女に目を向けると、ポカンと口を開けた彼女が中空を見つめている。
「でっかー……」
「どうした摩可、何があった?」
「うん……あのね、あのみどりの人ね、さっきまでたましいが見えなかったの」
「……おい、まさか……」
「すっごいでかい……」
相澤の姪、摩可の個性は『魂感知』。他人の魂を目に見ることができ、その質や強力さを直感的かつ視覚的に感じることが出来る。そして、その摩可が言うには魂とは普通は拳大程度のサイズであり、人の肉体からはみ出る程の大きさになることは少なく、今までに一番大きいと言われていたシュタインがその身を覆うほどであった。
「……おい、シュタイン」
「出久はとんでもない『強靭な魂』の持ち主ですよ。俺なんかお呼びじゃないくらいのね……まあ、魂の量で負けようと戦闘ではまだまだ負けませんけど……しかし摩可ちゃん凄いですね。今じゃ自分の周辺なら見なくても個人を判別出来るんでしょ? 将来有望ですね」
「父親みたいのに引っ掛からないのだけ気を付けて、後の将来は自由に決めればいい。姉さんもそう言ってた」
「マカね! ヒーローになりたい!」
「ヘェー。ならもう少し大きくなったら俺が修行してあげようか?」
「やめろ」
シュタインの凶行への第一歩を未然に阻止した相澤は姪に聞こえない程度の溜め息を吐いた。
「所で何で摩可ちゃんが?」
「今日姉さんがスピリットさんと離婚調停してる。その間だけ預かってるんだよ」
「なるほど♪」
いかにも可笑しそうにヘラヘラと笑うシュタインと、溜め息を吐く相澤に車においていた絵本を読みだす摩可。酔わないのか、と思いつつ相澤は少し車のスピードを落とした。
東k……TDL。心なしか寒め。
「はいスベりましたーってね! いやあ自信あったんだけどね! 一発ギャグ『ハン・ソロ』! あ、もしかしてハンソロ知らない? 昔の名作映画でスターウォ」
「通形、セメントスは?」
「岩山ステージ作ってからすぐに書類仕事があるからって帰りましたよね!」
「なるほど。じゃあ紹介しようか。彼らは雄英高校ヒーロー科一年生……の、この間の体育祭で一番成績の悪い三人だ」
そう言ってスナイプはまず興味深げにこちらを見ている長い青髪の少女を差す。
「生徒達の中でも随一のセンスを持つが体育祭終盤の戦闘においてステージ上空を飛んでいた鳥に気をとられ一発KO。その他も似た案件多数。波動ねじれ」
「ねえねえピンクの子、そのゴーグルカッコいいねぇ。どうなってるの? 何が見えるの? 何色に見えるの? 重くない?」
次に、壁に頭をつけて体を斜め四十五度に傾けている黒髪の少年。
「個性は強力。才能もあるが極度の緊張癖で体育祭開会式にて貧血で倒れる。その後も『重要な試験』で
「……そうだ……俺は結局何をやっても結果の出ないダメ男……そんな俺に初対面の中学生と戦えなんて無理に決まってる……帰りたい……」
最後に、自分のスベりっぷりに大爆笑している金髪の少年。
「……で、個性の制御が上手くいかず、目下訓練中の最下位。通形ミリオ」
「改めて言われると正直辛いところあるよね!」
その三人の紹介が終わってから、静かに爆豪が呟く。
「……つまりは、アレか? わざわざ修行だっつってこんなとこまで連れてきて、落第寸前の人間の面倒見ろってか、あ?」
怒りを最大限身の内に溜め込んだ状態での、静かな問い。それを聞いたスナイプは「半分正解」と言った。
「……半分って、どういうことです?」
「シュタインは、我々雄英に『個性を思い切り、全力で使える訓練所』を貸してくれ、と要求した。勿論我々は部外者に対してそんな事は出来ないと拒否した。この期にあの鬼人をうまいことやって消し去れないかという話にまでなった。過去、就寝中に奴に外科的人体実験を幾度と無く無許可で行われていたプレゼント・マイクなんかがその筆頭だった」
「なんか本当にごめんなさい」
「君が謝る必要はないさ緑谷君。まあ、そうするとシュタインがある提案をしてきたんだ」
『あ、ならこういうのはどうです? 『雄英の生徒達への特別補習の一環として、格上の同年代との戦闘訓練、その後元トップヒーローとの戦闘訓練』。向上心のある雄英生にとっては、良い刺激になると思うんですけどねェー。んで、そのあと施設を俺達に使わせて貰うって感じで』
「完全に最初からこの条件を狙っていたのだろうが、シュタインが自信を持って推す実力者との戦闘は確かに魅力的な条件だ。我々はその条件を飲んだ。マイクなんかは最後まで反対していたが、民主主義に飲まれる形でその意見は封殺された」
「まあそういうわけだからね! やろう! ね!」
「テメエにプライドはねえのかよ。年下より格下って断言されてんだぞ」
「プライドならプロになった後でいくらでも持つさ! だからほらやろう!」
「まあ……僕らとしては願ってもない話ですが……」
こうして、この場に『折寺の無免ヒーロー』対『未来の雄英トップ3』のマッチが組まれた。
「……で、君は何をしてるんだ?」
「最終調整です!」
TDLの隅。発目によるサポートアイテム説明会。
「ハイ人使さん」
「ども。これ、前言ってた奴か?」
「ええ。電力式の複数回使用できるフラッシュバン機能を備えたガントレットです。ここを押すと三秒後に大音量と目眩ましの光を。強度もそこそこあります。それと、いつもの変声機に、このフラッシュバンの音を軽減するキャンセラー。他の音は消えませんので安心して使ってください。それとゴーグルです。これも自分のバンで目が眩まないようにですね」
「本番一発勝負か……爆発しないよな?」
「爆発はしないですけどバッテリーに無理させてるので異常発熱したらすぐ捨ててください。燃えるかもしれないので」
「マジか……着けたくねえ」
心操はカチカチ、とガントレットに付いたベルトを締めながら『これ外そうと思ってもすぐには外せないよな?』等と考えながら、爆豪の方に向かう発目を見た。本当に、この女は生粋の異常人物で、危険人物だ。悪い奴では、無いのだが。
「勝己さん、どぞ」
「んだこれ」
「銃です。勝己さんの爆発汗を使ってスーパーボール撃ちます」
「ざけとんのか」
「まさか! これは超高弾力ゴムを使用してますのでとんでもない勢いでいろんな場所を跳ね回ります。ので、このHUDを使ってください。装着部分のカメラと銃口の向きと貯まっている爆汗の量を計算して軌道を算出します。あ、今回訓練なので銃の爆汗タンクは半分のサイズにしてます」
「暴発すんのか」
「一発くらいならたぶん問題ないと思います!」
「マジでいっぺん死ね!」
そう言いつつも爆豪は発目からアイテムをぶん取り、片目式のグラスと専用手袋、銃を装着してその機能を確かめている。発目の態度とは違いそのアイテムは満足のいく出来であったようで、爆豪はグラスの位置をしっかりと固定しつつ凶悪な顔でニヤリと笑った。
「で、ハイ出久さん!」
「銃と手袋と、かんしゃく玉? ……前回に比べて何となく改良されてるね。手袋は素材が変わってる。もしかして魂威の通りが良くなってるのかな?」
「はい! やっぱり素手が一番なんですけどそれも厳しいと思うので発動系個性で良く使用される個性無効糸を使ってみました! たぶん少しだけですけど通りが良くなってると思います!」
「ああ、こないだ僕の髪の毛持っていったのはそういう意味だったんだ……で、関節部にはプレートか。勿論こっちも?」
「はい! それとその試作型魂威銃二式なんですけど……」
「うん。かなり軽量化されて実践向きになってる。持ちやすいよ。ダイヤルは波長の通しやすさかな? いくつまで使っても良い?」
「いくらでも! ですけど多分数が増えるほど暴発の危険が高まります! 5ならほぼ確実に吹っ飛ぶかと! ちなみに0は威力的には空砲程度であまり役には立ちませんね!」
「なるほどね。癖が強いなあ。前の試作品の感じとこの開発スパンなら……もって3発くらい? でも前と違って作りがシンプルだし、暴発してもあまり高威力にはならないかな」
「ですね! 私もそう思います! さあどうぞどうぞ! あ、こちらは波長を込めるときっかり二秒で爆発します! こないだのを参考にしました!」
手袋をはめ、かんしゃく玉をポケットに突っ込み、撃鉄もスライダーも無い形だけの銃をズボンに差し込む。
「……うん、よし」
「君らは……テスト運用とか、そういう考えは無いのか?」
「あー、まあ、うん、無いですね。主に明に無いです。なので俺達にも無いです」
「そうか……」
「多分戦闘中に爆発しますね」
「……そうか」
「すみませーん! 準備できましたー!」
「こっちも準備万端だよね!」
というわけで。
「ではこれより、三対三実践訓練を始める」
「よろしくお願いします!」
「胸を借りるつもりで行かせてもらうよね!」
「ハッ、秒でぶち殺したるわ」
「……お腹いたい……秒でぶち殺される未来しか見えない……帰りたい」
「ねえねえ君クマ凄いねえちゃんと眠ってる? 髪が紫色できれいね。触って良い? 私、直毛だからクセっ毛って新鮮な感じ。そのゴーグルどんな機能がついてるの? 素敵性能高いけど君の趣味?」
(早く始まらねえかな)
何だかんだで半強制でぐだぐだで、それでもやっぱりそこには何かしらの覚悟が見える。
『雄英トップ3』と、『折寺の無免ヒーロー』。
いざ尋常に。
シュタインの知り合いの狂人達
話が進めば全員出します。
相澤摩可
相澤先生のお姉さんの娘さん。四歳。海外で妊娠し、海外で出産するも妊娠中に三人、摩可が四才になるまでに七人の女性と父親が浮気していたことが発覚(尚風俗等の水商売を含めれば更に人数は増える模様)。元々浮気癖をやめるという条件で成立していた結婚のため、お姉さんは旦那に離縁状を叩きつけ娘と共に日本に帰国。現在実家に住みつつブライダル関係の仕事をしている。相澤先生は摩可に会う際には最低限の身だしなみを整える事を厳命されている。