今年は月一投稿目標って言おうとしたけど出来ないこと言うて期待させるもんじゃないよなと思ったので今年の目標は年中健康です。
あと、いくつか漫画版と同じ読みで違う表記にしている技名がありますが、作者の脳内でオリジナル斬魄刀とかを年中考えてる部分がこうしないとヤダって駄々をこねた結果なので、あまり気にしないで下さい。
あと一万四千文字超えてます
リア10爆発46さん、新年一発目の誤字報告ありがとうございます。
「New Hampshire……!!」
ぐ、とオールマイトの全身が捩れ、引き絞られた肉体に秘められたパワーが開放される。
「SMASH!!!!!」
『ギャァァァ!!!!』
全身収縮からの開放による全方位攻撃で周囲のヴィランを全滅させたオールマイトは、しばらく静止して周囲の観察に努めた後、生き残りが居ない事を確認し、側にいた生徒に親指を立てて制圧をアピールする。
そこにいたのは触腕を耳に変え、オールマイトと同じように周囲を確認していた障子と……
「怪我はないかね? 葉隠少女!」
「うぇ!? 気づかれてた! 今全裸なのに!」
「女の子が全裸とか言わないの!」
その後、二人と協力して山岳地帯に居たヴィランを捕縛ロープで一纏めにしたオールマイトは、ニコリと、障子と葉隠(の気配がする場所)に笑みを向けてからヴィランの監視を頼む。
「では私は次の現場に行かなくてはならないので、コレで失礼するよ!」
それだけ言ったオールマイトは、その背に葉隠の応援する声を受けつつ足早にその場を飛び去る。
ゴォォ、と凄まじい風切り音に脳が埋め尽くされるが、この移動法を長年に渡り続けてきたオールマイトにとっては最早落ち着ける静寂と大して変わり無い。
故に、超速移動を続けながらも彼は思考を巡らせる余裕があった。
「……しかし、敵が弱いな。私の居る雄英に来るぐらいだ、何かしら切り札のようなものがあるのではと思っていたが……」
そう、オールマイトを相手取るにしては、敵があまりにも弱過ぎる。それに、少なすぎるのだ。
先程轟音が鳴り響いていた、緑谷の居るであろうエントランス広場に向かう最中、眼下の敷地内に見える生徒と教師以外の人間を片っ端からシバき回って、ほんの数分。
最早彼はUSJの三分の二のヴィランを制圧していた。
……オールマイトの他を隔絶する戦闘力は、彼を構成する要素の中でも最も有名と言って差し支えないものだ。
だというのに、それに最も警戒心を持つであろうヴィランがこの程度の温い攻めをするとは、彼にはどうしても考えられなかった。
(……私は一体、何を見落としている……?)
そう思った時、USJ各所に存在する施設案内板を覗き込んでいる見覚えのない風貌の男を確認する。
早速とばかりに、空中で体勢を変えて突撃しようとするが、その男の異様さに、彼の中に僅かに躊躇が生まれた。
(……? 何をしている? アイツ……)
黒く艶のある硬質な被り物を被ったその男はこの雄英高校に襲撃に来た身分にしてはあまりにも警戒心がなく、まるでそこらへんの街道の案内板でも見るかのような気楽さで頭を掻きながら案内板を見て何やら独り言を呟いている。
「……ちょいと、事情聴取と行くかな!」
緑谷を始めとした、危機に陥っている生徒たちを気にする気持ちはあるが、それ以上にオールマイトはこういう状況での自身の勘を重視していた。
オールマイトの勘は、こう言っている。
(この男は、何かヤバい)
と。
黒尽くめの服装に、更に身分バレを防止する目的か、目の部分に☓の意匠をあしらわれたメット状の黒い仮面を着けているその男の後ろに、ドンッッ!! と派手に着地したオールマイトは「やぁ!」と元気よく声を掛けた。
轟音というのは、それだけで人を警戒させる。
その上、その轟音に振り向いた先に居るのがヴィランにとっての悪夢、オールマイトその人であれば彼等は大概の場合動揺を見せるのだが、男はごく普通に振り返り、ごく普通に驚いた。
それだけで、オールマイトの中の警戒心は天井知らずに上がっていく。
「……ん? ああ、オールマイトか『おお! オールマイトじゃねえか! ぶっ殺す!』まだだアホ!」
「ふむ、賑やかだね? 案内板なんて眺めて、迷子かな? 迷子なら一緒に警察に行こうか?」
このセキュリティの厳重な雄英敷地内にいる時点で、迷子などある筈が無い。
両者共にその事を理解しているからこそ、二者間の緊張は際限無く張り詰めていく。
「あー、まぁ……『迷子だぜ! こいつがな! 俺は違う!』迷子と言えなくも無いかもな『迷子だろ!』うるせェ」
(何こいつ怖ァ……)
大体全ての悪人は、オールマイトを見れば緊張や絶望を見せる。
それは、オールマイトと出逢うことはヴィランの人生における死と殆ど同義である為だ。
それは、しばらく前に折寺市にて捕まえられたあのヘドロヴィランも同様であった。
しかし、彼の長いヒーロー活動の中には確かに目の前の男のように自身に対し恐れの感情を見せない者も居た。
それは、オールマイトに勝てるという過剰な自信であったり、自身の後詰めに対する信用であったり、何も考えていなかったりと理由は多い。
しかし、オールマイトは眼の前の虚空と言い争いをする男はそのどれでもないと直感していた。
「……まぁ、言い訳は署で聞くってやつだね!!」
腕を構えて、パンチを撃つその瞬間まで眼の前の男が微動だにしない事で、その直感は益々強くなる。
(……この男は、この状況でさえ命の危機を一切感じていない!)
ドンッ! と放たれる拳と、周囲に吹き荒れる暴風。
男の見ていた看板が床のタイルと共に吹き飛び、粉々に千切れ飛んで何処かに消える。
そして、男は。
「『ヤベー! おいマジでヤベーぞ! 吹っ飛びかけた!』いや拳圧でこれかよ! 凄えな……No.1ヒーローって……『まぁ余裕だったけどな!』」
「やっぱり……耐えちゃうか〜……!」
自身の服の下から黒黒とした液体に見えるものを出し、それを盾に使ってこの必殺の暴風を涼しい顔で受け流していた。
「さて、とりあえず、拳の直撃は防げそうに無いな『防げるぜ! 余裕だ!』黙れアホ」
男はその黒い液体を地面に突き刺し、バネのように使ってビル火災訓練に使われるビルに飛び移り、そしてそのビルの壁に直立した。
(壁に立った……! 分からない、どういう個性だ)
オールマイトの困惑に対し、マスクで表情さえ見えないその男は袖口から大量の液体を開放した。
ヌルヌルとした粘性の光沢を放ちながら水飛沫のような小さな無数の球となって空気中に拡散する黒い液体。
その液体から染み出る匂いを嗅いだオールマイトは、僅かに眉根を寄せる。
「……鉄臭い……血か?」
「『おお、流石はNo.1! 嗅ぎ慣れてるってか!』まぁえらく黒いが……これは確かに血液だ」
濃密な血の匂いを周囲に撒き散らしながら、黒い血はどんどんと空気中に散らばって周囲の光景を黒めていく。
「『俺達の血は、黒いんだ』」
遂には上空、太陽の光さえ通さぬ程にまで密度を高めた『黒血』が視界を覆い、ぐるぐると渦を巻く。
未だ壁に立ち、その光景を背にする男はズボンに手を突っ込んだ体勢のまま一言、技名を口にする。
「
「ぐ!」
大規模に広がった血の
「S……MASH!!」
ドッ!!! と先程のチンピラに当てた一撃とは比べ物にならない勢いの衝撃波が飛び、血の天に風穴を開ける。が、その手応えの無さに彼は舌打ちを隠せなかった。
(手応えが、無い! まるで水を殴ったかのような……いや、これは実際に水か!)
振り抜かれた拳の衝撃によりバシャンッ!! と飛び散った黒い飛沫。それは空中で静止し、その先端を鋭く尖らせた無数の針となって最強のヒーローに降り注ぐ。
「
「舐めるな!!」
全方位から刺し貫かんと迫る針を、爪先を起点にベーゴマのように身体を回転させて弾き散らしたオールマイトはそのまま更に加速を続け、遂には小規模な竜巻を創り上げる。
その凄まじい力強さの竜巻は、仮面の男が立っていたビルのガラスを風圧で叩き割り、壁に塗られたコンクリを引き剥がし、建物を鉄筋を引き千切り……数秒後にはビルの土台ごと地面から引っこ抜いた。
つむじ風に攫われるゴミのように空を舞ったビルに立っていた男も勿論一緒に飛ばされ、流石に立っていられまいと手をついた。
その手からは件の黒い血が飛び出し、コンクリートに根を張るようにして風圧に負けそうになっていた男を固定している。
それを見て、オールマイトは理解する。
今までの情報から考えても、男の個性はブラドキングのような血液操作個性なのだろうと。
(まぁ、規模も何もかもブラドとは違いすぎるがね!)
「『や、ヤベェェェ!!! 何じゃあコイツはァ!? バケモンか!?』おいおいおいおい!!! 流石にここまでとは聞いてねえぞ!!」
風の回転に囚われ、他の建物やら床材やらにぶつかりそうになりながら慌てる男だが、オールマイトの攻撃は風を起こすだけでは終わらない。
「────
オールマイトの力により作り上げられた超高速、超密度、超威力の竜巻の中心。
そこで、回転していたオールマイトは圧倒的筋力によって回転を無理矢理止め、今度は逆回転をする。
既に巨大な竜巻と化していたその中心で逆回転の竜巻を生み出す事で、二つの竜巻は互いにぶつかり合い、瞬間的に全てを粉砕する絶大な威力の暴風が吹き荒れる。
「『のおあああぁッッ!?』」
暴風と、それによって玉突き事故のように衝突しまくって一塊となった瓦礫群に向け飛び上がったオールマイトは、大きく息を吸い、両腕を力一杯に引き絞り……
「
それは、威力よりも圧倒的なスピードを求めた、圧倒的超高速のパンチ連打。
いくら速度偏重の弱パンチといえどもオールマイトの挙力で放たれるそれは、コンクリートも鉄骨も、そして硬化した黒い血さえも破壊し、まるで巨大なおろし金にかけるかのように空中の瓦礫を全て粉末へと変化させた。
その粉末化していく瓦礫の中から先の男が飛び出し、血の翼を作って空へ逃げるのをその優れた動体視力で確認したオールマイトは、空気を殴って己の落下方向と速度を変え、辛うじて原型を留めているビルの足下に着地し、コンクリートが剥がれて剥き出しになっている鉄骨を両手で握る。
「いやあんなんアリか!? 何なんだあいつバケモンだろ! 『オイ仁! 後ろ! 後ろ見ろお前アホ!』ホォァ!? 」
男が飛びながらオールマイトの方を向くと、そこにはまるで
「こんなの普通の町中ではできないぞ! オールマイトの! 『一球入魂! ビルバット!!!』」
「『ウォぉぉぉあああああぁァァ!!!!!!!?』」
叫ぶ男が全身を黒い血で球形状に包み込んだその瞬間、ビル一棟抱えて空を飛んでいた男の元まで跳んできたオールマイトは、地面に向けてその
「第一球ピッチャー前ゴロ!!!」
ドゴォンッッッ!!!!! と巨大なクレーターを作って地面に減り込んだ黒球に向け、オールマイトが、ビルバットを叩きつける。その反動で浮かび上がる自分の身体を拳で強引に地面付近に戻してもう一度スイングを叩き付け、それをビルが千切れて潰れて手のひらサイズになるまで続け、
「第二球ホオォォォ────ム、ラァァァンッ!!!」
最後に目茶苦茶のベコベコになった黒球だったものをクレーター内部からつまみ上げ、
地面と水平にぶっ飛ぶ黒い残骸に超スピードで並んだオールマイトは、そこにダブルスレッジハンマーをブチ込んで小規模なクレーターを作りつつ勢いを完全に止めた。
「第三球、キャッチ! バッターアウト! 攻守交代!」
ムンッ!! とマッスルポーズを取りつつ勝利宣言(?)をした怪物打者オールマイトは、ペチャンコになった黒球に貫手を突き込み、中から黒仮面の男をつまみ出す。
男はオールマイトの情け無用のラッシュをモロに食らって両手両足が滅茶苦茶にへし折れ、半死半生の状態となっていた。
そんな状態であるにも関わらず、オールマイトの脳裏にある警鐘は未だ鳴り止まない。
「ヘイ、ヘイガイズ!」
「……んぐぉ」
男の息がある事を確認した上で、ぺぺぺぺぺと半液状化しているヘルメット越しに軽く往復ビンタを当てて目を覚まさせると、男は唸り声を上げて意識を取り戻した。
「……強すぎんよ、オールマイト……」
「君等が好き勝手するのを止めるために鍛えた力さ! さて────お前達の目的は何だ」
浮かべていた笑みを表情の奥に押し込め、歯を食いしばった怒りの形相で黒仮面を睨み付ける。
しかし、黒仮面は何も言わず、マスクの下から血を流しながら目前の英雄を嘲笑うのみ。
「……とりあえず、顔を見せてもらうよ」
そう言ってオールマイトは黒い画面を掴み、ヘルメットを脱がすように上に力を掛けると……
……そのまま、ポロッと男の頭ごと引っこ抜けてしまった。
──静寂、そして。
「ううぅぉぉああああ!!!?」
まるで下から取り外し可能かのように取れた頭部。
その光景に対するあまりの驚きに絶叫するオールマイトは、掴んでいる頭部がヌルリとした粘性を持ったことを認識した瞬間に頭と胴を投げ捨てた。
「……何、が」
「ハハハハ……今日は俺の負けだよオールマイト。また会おう」
「待て! お前は一体何者だ!」
黒仮面はドロドロと地面に溶けて水溜りとなり、そして消えていく。
それを見て今まで戦っていた相手が遠隔操作か何かだと判断したオールマイトは、せめてと相手が何者なのかを問う。
返事は返ってこないと思っていたが、しかして殆ど消えてしまった黒い水溜りから、笑い混じりの声が聴こえた。
「『俺の名前はラグナロク!』……だ。まぁ、忘れていいぜ」
「
その言葉を最後に、本当に消滅した黒仮面。
一瞬考え込みそうになったオールマイトだが、現状を思い出して直ぐに跳び上がる。
……それからしばらくして、粉々になった瓦礫の下から黒いものが現れた。
それは小さな、そして真っ黒な蛇であった。
それは、暫くの間あたりを見回してから、溶けるようにして消えた。
……もしも、この場に心操が居ればこう言ったであろう。
────『USJ中に散らされる前に見たのと同じだ』……と。
…………それと、ほぼ同時刻。山岳地帯。
「走れ、走れ、走れ!!」
「進め進め! 『電源室』へ!!」
耳郎、八百万、上鳴の三人は散らされる前に手渡されていた心操からの指示に従い山岳地帯奥地にある、USJ全体の電源を統括する『電源室』へと歩を進めていた。
しかし、何故それほどに急いでいるのか?
それは今が非常事態であることも理由の一つだが、それ以上に……
「っやべ、耳郎!」
「クソっ!!」
……追手が居ることが大きいだろう。
耳郎の個性による音響破壊で砕かれた地面から少し離れた所からボコボコと盛り上がるようにして地中を何かが進み、壁際を走っていた上鳴の前にボゴッ!! と腕を飛び出させる。
「ヒィィ!?」
「上鳴さん!」
横を走っていた八百万が咄嗟の動きで、腕に持っていた鉄棒で上鳴に迫る腕を叩いた。
「コイツ壁の中も動けんのかよォ!!」
「泣き言言うな!」
「けどさぁ!!!」
泣く上鳴の気持ちも分かる、と、八百万は必死で足を動かしながら思考を回す。
今自分達を追ってきているヴィランは一人だ。しかし、相手は間違いなく強い。
地面の中を潜るようにして進む個性に、掌から電撃を発する個性の複合個性。
地中を進む速度は自分達が走るよりも速く、そして壁さえも進むことができるようだ。
耳郎という壁や地面ごと攻撃できるクラスメイトがいるからこそまだ三人共無事だが、そのうちに限界が来るだろう。
自分と耳郎は掴まれればそれで感電して終わり。上鳴の帯電によるカウンターも通用しないであろう事を考えれば、現状ヴィランの撃退は不可能。
(……勝てない……いえ、諦めるのは早い!)
そう、勝てない。
自分達三人では、このヴィランには、勝てない。
……しかし、戦闘で勝つ必要は無い。
自分達の勝利条件は、施設外へ連絡を取る事なのだから。
そして。
(……その為には、誰かが……)
八百万の脳裏に映るのは、先日の模擬戦でのひと時。
(緑谷さん……!)
模擬戦をしたあの日、緑谷は準備時間中に自分から爆豪の相手を申し出ていた。
それは、その前日の個性把握テストで爆豪のバケモノっぷりを散々に見せつけられた後の八百万からしてみれば最早自殺志願としか思えないような行為であった。
当然だろう。最強の存在と言って差し支えない爆豪に、無個性である緑谷が一人で対処するというのだから。
『駄目です! 危険すぎます! 私の個性で最上階への道を潰すのならば、その上で爆豪さんと轟さんに二人で立ち向かうべきです!』
『八百万さん、上階への上がり方なんていくらだってあるよ。轟君は氷の個性なんだから、何なら一階から氷の階段を作ってくる可能性だってあるし。最後の守りは僕の銃と違う、火花が出ない遠距離戦をできる八百万さんしかいない』
『ですが……!』
『八百万さん』
緑谷は、ガソリンのタンクを両脇に抱えてさも当たり前のように言う。
『僕等は仲間だ。そして、仲間っていうのは一つの目的のために一蓮托生となる存在だ。今の僕の命は、僕だけのものじゃない。僕と八百万さん、二人のものだ』
バコ、とポリタンクを一つ揺らしてから緑谷は笑い、続ける。
『そして僕ら二人の命は爆弾の起爆のために費やされるべきものだ……そして、能力的に一人生き残れば無限の抵抗手段を創造できる君と、君がいなきゃこの模擬戦で何もできず殺されるであろう僕……先にすり潰されるべきなのは、僕だよ』
『緑谷さ……』
『命の重さに大小は無い。だから、この先の作戦に対するウェイトの重さで決める』
『八百万さん、君はこの作戦を確実に遂行する為に、僕を限界まで使い潰すべきだ』
……緑谷は、そう言った。
まだ色褪せるには早すぎる、あまりに鮮烈すぎた出来事だ。
その言葉は、八百万の脳裏に強く強くこびりついていた。
故に。
(……今、『使い潰すべき』なのは……)
八百万がその考えに至るのは当然の帰結と言えた。
(上鳴さん……は、駄目。通信機を持っている彼はこの先で不可欠。それ以上に相性の悪い彼を使い潰してもこのヴィランを止められる画が思い浮かばない)
本来、八百万は……否、緑谷さえ『それ』をできる程戦術家としての経験を積んでいない。
緑谷が『それ』を自信をもってできたのは、偏に敵戦力爆豪勝己に対する深い理解と、明確なルールが決まった上での戦いだったからだ。
(耳郎さん……も、駄目。この先にも待ち伏せがいるかもしれない可能性を考えれば、索敵要員を削るわけにはいかない)
そもそも、『それ』を行えるのは相応の覚悟と能力が要求される人員に限られるのであり、一学生でしか無い彼女には不可能である。
指揮者の責任と、自己の責任は違う。それを履き違えたものの『それ』は────
(……この場で、目的の為に『潰れる』べきなのは……)
────時として、最悪の結論を導き出す。
「わ……たくし……?」
「はっ、ハ……え?」
「ヒィッ、ヒッ、ど、どしたヤオモモ?」
……そして、若過ぎる指揮者は全てを壊す指揮を振るう。
「……皆さん、このままでは三人共、電源室に辿り着く前に倒れてしまいますわ」
「ハァ、ハァ……うん」
「は、ふ、お、おうッ」
耳郎の音響で壊れる壁。しかし、敵は攻撃の避け方を学んでいるのかその隙は少なくなってきている。
それ以前に、全員息が上がって疲弊してきている。
あと数分もすれば、この時間稼ぎの妨害も意味を無くすであろう。
「……ですから、私があのヴィランにわざと捕まり、全身からトリモチを創造する事によってあのヴィランの捕獲を……ふきゃあ!? 」
「ふぬぅぅぅ!!!! でんきひゃくぱーせんとォォォォ!!!! 」
八百万が全てを言い切るその前に、その言葉は途切れた。
何故なら、隣を走っていた疲労困憊の筈の上鳴が突如叫んだかと思えば、八百万を俵担ぎにして先程以上のスピードで走り始めたからだ。
「な、何を、上鳴さん!?」
「うるせー知らねー!! もうアレ! お前の意見全部却下!」
「何故です!?」
八百万という、若過ぎる指揮者にとって幸運であったことが、二つある。
一つは、彼女は明確に指揮者ではなかった事。
「ねぇヤオモモ! あのさ、ウチらさぁ! 仲間見捨てて逃げる為にヒーロー科に入った訳じゃ無いから!」
「そうだぜ!! ンな真似してさぁ! これから先他の奴らと一緒に勉強とかできねーし!!」
コレが上司と部下といった、上下関係のある関係性だったとすれば、八百万は己の意見を押し通すか、或いは二人が意見を押し殺しただろう。
しかし、彼女の横に立っていたのは部下ではなく友だった。
故に、二人は『
「で、ですが! 誰かが犠牲に……」
『何とかするから!!!! 』
上鳴と、耳郎。
二人の揃った声に、八百万は目を見開き、そして、閉じる。
「……はい!」
そして、幸運の二つ目。
「……ぐ!?」
「え」
それは、敵がどこでも実力を発揮できるような万能の無法個性ではなかった事。
電源室に近づいて、山岳地帯の景観から無骨なアスファルトに周囲の景観が変わったその時。
ヴィランの地中からの侵攻がそこを境に止まり、ボゴリとそこから抜け出してきたのだ。
「な、何で」
「わかんねえけど好都合だ! さっさと行こーぜ!」
戸惑う耳郎と、笑う上鳴。
そして、思考を回す八百万。
(コンクリートの主成分は石灰石が七割、そして砂利や粘土。そんなものは地中にだって当たり前に存在する。であれば地中を潜れる個性持ちがコンクリートを潜れない道理は無い)
上鳴に俵担ぎにされている現状、八百万にはそれが見えた。
ヴィランが脚を浅くコンクリートに沈め、スケートかのように加速しているのを確かに見た。
(ヴィランはコンクリートに潜れる! ならば、潜れない理由は!)
「鉄筋!!」
「えっ何いきなりウォ!?」
上鳴の肩の上でいきなり叫んだ八百万は、掌から長い鉄パイプを生成し、それを放った。
地面に落ちガランガランと音を立てて跳ね回るそれに、ヴィランは滑走していた足を止めた。
(これだけでは確信には至れませんわ! ならば、長さを確保できて脂質の消費が少ない……!)
「
「またぁ!!」
二の腕辺りから伸びるように生成されたパイプは、コンクリートの通路の両側に突き刺さって彼女の身体から切り離される。
上鳴の肩辺り、ヴィランにとっての胸先に固定されたその棒を、男は鬱陶しげに叩き折った。
「……間違いありません! あの敵は地面に潜れる個性を持っていますが、鉄鋼はその範囲外! 地表に上がってきたのは崩れることが前提として作られた山岳ではなく、ここが訓練で壊れないように頑丈に作られた『鉄筋コンクリート』だからですわ!」
「ヒィッ、ヒィッ!! な、なるほど!!」
「だったら、どーすんのっ、さぁ!!」
「こうしますわ!!!」
その脳裏に浮かぶのは、これまたかつての訓練での心操のマキビシ。
しかし、生成するのはダメージを与えるマキビシではなく、単純な正方形の鉄パイプで作られた枠だ。
ジャングルジムの一ブロックだけのようなものを大量に生成し、ガラガラドガラガラと地面に落としていく八百万。
それらは地面に落ちるたびに跳ね、滑り、他の枠に当たって即席のバリケードを作っていく。
「糞ガキがァ!」
「……効いてる!」
ガラガラと枠を生成し続け、やがてそれに手間取ったヴィランは距離を離され見えなくなる。
しかし、脂質を使い果たした昨日の今日である八百万が通路を埋め尽くす程の鉄パイプでできた立体物など創ればどうなるか。
当然ながらあの模擬戦の焼き増しのように、彼女の顔からは生気が抜けていく。
「……ヤオモモ、もう良いんじゃない?」
「……まだ、です……私が……」
「ヤオモモさぁ!! こないだもそれで保健室行ったじゃん!! 緑谷化すんのやめな!? *1多分それあんまし良いこと無いから!!」
それでも生成を続けようとする八百万を無理矢理に止めた二人は、遂に電源室の扉の前に辿り着く。
「……鍵付いてるの、忘れてたな……」
「待ってください、今私が手斧を……!」
「ヤオモモはもう駄目……それにこのくらいなら、ウチなら多分……壊せる」
「はい?」
電源室の鍵が無い事に気付き脱力する上鳴だが、そのドアをを見て、何度かゴンゴンと叩いてから耳郎が呟く。
「……けどごめん、マジで完璧にブッ壊すから……後で一緒に怒られてくれる?」
「ええ」
「……おお! やっちまえ!」
二人の笑顔を確認した耳郎は、両足のスピーカーに耳から伸びるジャックを接続する。
「
このスピーカーから出力されるのは、耳郎の
ここまで走ってきたのだから、最高の音を鳴らせる。
「
「
八百万の献身に対し、何も感じない耳郎ではない。
このヒーローとしては早すぎる修羅場に、仲間となってからの時間に反して重すぎる覚悟に、何も感じない彼女ではない。
────カッコイイんだ、人を救うのは。
自分達を生かす為に、自己犠牲を選んだ八百万に反感を覚えた。
けど、それはそれとしてカッコイイと思った。
────音楽も好きだ。
ヒーロー科に入ったら、いきなりこんな修羅場に突っ込まれる。
それを知っていたら、自分はヒーローの道を辞めて音楽を選んでいただろうか?
────自分のイヤホンジャックは音を聞くだけでなく、自分の心音を送れるって知った時……
嬉しかったな。
『
「
ドクンッッ!!!!
最高潮の耳郎の、最強の攻撃が雄英生最高速でドアにぶち当たる。
秒速三百四十メートルのスピードで発せられた
「っシャア開いたァ!」
「開いたっつか……粉々……」
「足音がします! 速く入ってください! 私が鉄板で改めて蓋をしますわ!」
三人が急いで入って、八百万が息を荒げながらはめ殺しの鉄板を創り、ドアを塞ぐ。
「……来たはいいけどさ……」
「……あぁ」
電源室は、いくつかの電線と電源盤があるくらいで、通信機らしきものは置いていなかった。
「上鳴。アンタ電気関係わかんないの?」
「わかんねーよ! 俺先月まで中坊よ!?」
「電気関係個性なら勉強しとけって話なんですけど!?」
ここに来て行き詰まった二人が言い争いをしていると、入口の方でバンッ!!! と大きな音がして、同時に八百万の悲鳴が聴こえた。
「んギッ!?」
「ヤオモモ!?」
「ヤオモモ! ……って、扉が!?」
肩の部分を押さえて呻く八百万に気を取られていたが、耳郎が気付く。
八百万が作った鉄の扉が、段々と赤熱化してきている。
「……さっきの奴……! もう追いついて来たっての!?」
耳郎は顔を青ざめさせる。
恐らく、八百万はあのヴィランの高電圧を鉄扉越しに受けてしまったのだろう。意識はあるが、動けそうになかった。
「このままじゃ……上鳴!? なんか、手は……」
何か手はあるか。
そう上鳴に聞こうとした耳郎は、その上鳴が何かを決めた表情をしている事に気が付いた。
それは、先程の八百万と同じ表情で。
しかし、先程の八百万とは違い、悲壮感は少なかった。
「耳郎、さっきの、一緒に怒られてくれるかってのさ、俺のも一緒に頼むわ」
そう言って、八百万が取り落とした鉄棒を拾い、上鳴は笑う。
「心操ってさ……アタマいーじゃん? そんな奴がさ、何で頭わりー俺にいの一番に電源室行って警報鳴らせって地図渡してきたのか、ずっと考えてたんだよ」
上鳴は鉄棒の強度を確かめるようにガンガンと床を叩きながら、覚悟を決めるように言葉を続ける。
「メシん時にさ、爆豪が言ってたじゃん? 雄英の警報の話さ」
そう。飯田が食堂で活躍したあの日。確かに爆豪はA組全員の前で吠えていた。
『俺じゃねえよクソ共が!! レベル三警報は侵入者発見警報だろーが!! 火災報知器作動ならレベル四! 施設破壊警報はレベル五! 今の爆発のせいじゃねえ!』
心操が上鳴に渡した地図に書かれていた、警報鳴らせという言葉。
お利口な人間である八百万や耳郎などはこの部屋に警報機があると思っていたようだが、事実は違う。
頭脳的にも素行的にも決してお利口とは言えない上鳴には、それが理解できた。
心操はこう言ったのだ……
「『電源室に行って、施設破壊警報が鳴るレベルで何もかもをぶっ壊せ』……『帯電』できる俺に……感電しない俺に一番最初に地図渡したのはさ……」
鉄棒を、配電盤に向けて振りかぶる。
汗が一筋流れ落ちるが、上鳴は笑った。
「こういう……こったろ!!」
「心操!!!!」
ガギャァッッ!!!!
鉄と鉄の当たる音、火花の吹き出る音、電気が周囲を走る音、そして……
『非常事態発生! グラウンドH-11にてレベル五警報が発令されました! 三十秒後全校舎通用口を緊急遮断します! 教職員は非常事態マニュアルに従い被害対応を行ってください! 繰り返します────』
……この情報は既に既出であるが……レベル五は、雄英において『絶対に発動してはならない』とされている警報である。
なぜならこれは電気や水道、ガスといったインフラ面や重要な設備面の重大異常……即ち、有り体に言えば『侵略警報』だからである。
……だからこそ、この警報……というよりはレベル四も含めた学校施設の大規模破壊警報は、その性質上無線が通じていない事態も考慮し、無線と有線の両方で全校舎に非常事態を伝える手筈となっているのだ。
故に、この警報は遅延無く即座に全校舎に鳴り響く。
直にUSJには大量のヒーローが押し寄せて来るだろう。
しかし、この時、この瞬間には間に合う筈も無い。
「ヅッッラァァァ!!! やってくれやがったなクソガキ共がァァ!!!」
電熱により溶け落ちた扉を跨いで飛び込んでくるヴィランに、八百万を抱え込んだ状態で身構えた耳郎。
その耳郎の前に、上鳴が一歩進み出る。
「死ねガキ共ォォォ!!!!!」
「上鳴!!」
「上鳴、さん……!」
全身が電光で仄かに光る上鳴は、最早ヴィランの拳を避けることさえ出来ない。
本人の容量を遥かに超えた電気を『帯電』してしまった彼は、それが周りに……仲間に飛ばないようにするだけで精一杯である。
だからこそ、ヴィランの拳を上鳴は無防備に顔面に受ける。
ヴィランは、その拳で上鳴に触れる。
空気という絶縁体と、他ならぬ上鳴の決死の努力により電気の発散を防がれていたUSJ一つ分の電力は……その拳から全てヴィランへと流れ出る。
「ッガァァァァアアアアア!!!!」
「ウェェェェへエエエェェエイ!!」
自身の個性による耐性を超過した電流に、悲鳴を上げるヴィランと、顔面を殴られた結果どことなくヌケた声で吹っ飛ぶ上鳴。
ゴシャッ!! と地面に倒れた二人を見て、耳郎は直ぐに上鳴に駆け寄った。
「上鳴ッ!! アンタ大丈夫!? かみな……り?」
「ウェ〜〜〜〜イ」
上鳴を抱え上げて、その無事を確認した耳郎は、そのあまりの情報量にコチンと固まってしまった。
USJの電力を一身に受けた上鳴は、なんか……なんか……緩んだ……なんか……気の抜ける、こう……アホな顔をして親指を立て高速で前後させていた。
「え、何アンタ……え、どしたのアンタ!? 」
「ウェ、ウェゥイウェイウェイ、ウェ〜イ!」
「……ッフフ」
そのあまりのアホさに思わず吹き出してしまった耳郎の側に八百万が這い寄ってきて、ドサリとそこで力尽きた。
「……お疲れさまですわ、お二人共……」
「ウェ〜イ……」
「上鳴それ止めてよホント笑うから。何なのそれ? ……でも、お疲れ……」
今も配電盤からは火花が出ているし、警報は鳴り続けているが……自分達の仕事は終わった。
それを感じた三人は、それぞれが達成感を抱えて力尽きた。
「……っクソ野郎が……!」
「……え!?」
「ウェイ!?」
しかし、まだ終わっていない。
帯電の個性を持つ上鳴に耐えられる電気に、同じ電気系個性を持つヴィランは耐えられなかった。
……しかし、全く軽減できなかった訳ではない。
常人よりも強い電気に耐えられるヴィランは、あれだけの電気を肉体に流されて尚短時間での復活を果たした。
起き上がった男が、両手に電気を迸らせて駆け寄ってくる。
上鳴は、アホになったまま帰ってこられない。
八百万は、身体は動けど物質の創造がうまく行えていない。
耳郎は、動いてはいるが、完全に気を抜いていた分男の方が早い。
(……あ、これ無理かも)
耳郎の頭脳の落ち着いた部分が、落ち着いたままにそう結論を出した。
辛うじて動けた八百万よりも、自分の方が早くヴィランに接敵する。
(う〜わ、私友達助けて殺されるのか。なんか、いい感じの死に方じゃん)
死に際にゆっくりと流れる時間の流れの中で、バチバチと電気を閃かせる掌が緩慢に自身の顔に迫る。
(……あ、でもこのあと後ろの二人も殺されるのかな。じゃあ死に損ってことか)
そして、視界が黒に覆われた。
(……あ、全然痛くないや。これで終わりなんだ)
(………………あー、思ってたより、ヤだな)
……そして、次の瞬間に見えたのは。
「えっ」
輝く金髪と、赤い、派手なマント。
「
「ゴゲァァァァァ!!!!?」
突っ込んできたヴィランに対して突如現れ、完璧な形でカウンターを叩き込みぶっ飛ばした赤いマントの青年は、そのまま少し空中に飛び上がって着地した。
「……へ?」
「よう! 大丈夫かい一年生! 話はこの上で戦ってたピンクの子から聞いたよ! いやぁしかしマジで間に合ってよかった! 気付いたか分かんないけど俺さっきまでこのヴィランの後ろにいてさ! 君等の姿が見えて良かった〜って思った瞬間ヴィランが立ち上がったもんだからもう慌てた慌てた! 後ろから殴ったらコイツが君等にぶつかるかもしれなかったから慌てて君等の後ろに飛び出してそこからもう一回ヴィランに向けて動いて百八十度ターンでもう内臓ペッチャンコ…………っととと」
顔面が変形するほどのパンチを受けて今度こそ完全に気を失ったヴィランを携帯手錠で拘束しながらベラベラと聞いてないことを喋っていた男は、突然焦った顔をしてコスチュームを漁り、ハンカチを取り出して耳郎に差し出した。
「拭きなよ、涙」
「……え、あ……」
ハンカチを反射的に手に取り、そこで初めて耳郎は気付く。
自分は涙を流していたのだと。
ありがとうございますとか、すみませんどうもとか、あなた誰ですかとか。
言いたいことも聞きたい事も一杯あったが、耳郎の口からはそのどれとも違う言葉が漏れ出ていた。
「……怖かった」
「うん、うん。そりゃそうさ。ヴィランを前にして怖くない奴なんて居ない」
「ウチ、死んじゃうんだって思った」
「うん。けど生きてるよ」
「死ぬって思って……怖かった! 怖かった……!!」
「うん。怖いよね、ヴィランと戦うって。けど、今日はもう安心して良いよ」
「ここには『俺がいる』から」
「……っづゔぅぅ……ッッ!!!」
そう言って、肩を叩いてくれる男のハンカチに顔を埋め、耳郎は声を押し殺して泣いた。
「……あの、ところで貴方は……?」
そして、その震える肩を慰めるように抱き寄せた八百万は、眼の前の赤いマントの男にそう尋ねる。
「ああ! 俺は君等の先輩。雄英高校三年の通形ミリオさ。この横のグラウンドで実習しててね!」
「数キロ離れていますが!?」
「そーいう『個性』! また今度教えてあげるよ……それより、電波ジャックを担っていたのはこのヴィランみたいだね。携帯が使えるようになってる────もしもし環? そっちどう? ……こっちはちょっとま動けないかな〜ってカンジ。怪我はないっポイから心配ナッシーで! ……え、緑谷君一番強いのと戦ったの!? 無茶すんなぁあの子! で、勝ったん?」
随分と落ち着いた様子で電話をする通形を見て、八百万はこの事件も終わりが近いのだと深く溜息を吐いた。
次こそは緑谷と脳無の決着書くんだ……緑谷と……脳無の……(力尽きる)