無免ヒーローの日常   作:新梁

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久しぶり!みんなコトブキヤのARTFXJ発目明買った?
自分は勿論予約開始日に予約して手に入れたんだけど、メッチャ良かったっすよ。土台の工場っぽい謎に凹み部分のある汚ねーリノリウムの床とかあの謎のヘッドギアとか印象的なリブ生地っぽい服とか普通に良かった。

惜しむらくは靴が白くて綺麗だったのだけが不満点かな。発目なら重たい鉄芯安全靴か、白靴にしてももっと汚れてるべきだったと思う。床のクオリティが高かっただけにそこだけ微かに不満点だった……

あ、あとホントお待たせしました。最新話です。

今回のあらすじ

天喰考えれば考える程強過ぎる。

後書きにて脳無の考察とか語ります。

リア10爆発46さん、誤字報告ありがとうございます。


第六十九話。死闘の果て

 ────緑谷をよく知らない者は、彼の長所は格闘能力や発目の作る道具を満遍なく扱える器用さと思いがちだ。

 

 

 

 無論、それも秀でた部分であるのは違いない。

 

 

 

 しかし緑谷自身が、あるいは緑谷をよく知るものが、その長所を問われればこう答えるだろう。

 

 

 

『緑谷出久の真髄は観察力と、そこから正確な推論を見出す思考能力にある』と。

 

 

 ────で、あるならば。

 

 世界中で誰よりも、一番緑谷出久を理解している少女は、彼の最も秀でた部分をどこだと思うのだろう。

 

 そもそも、観察力も思考能力も彼の数倍は上であろう少女にとって、彼のそんな部分は長所らしい長所には見えないであろう事は想像に難くない。

 

 

 

 

 ……この問いを誰かが投げかければ、少女は僅かに困惑するように眉を下げながら、何を当たり前のことを聞くのかとでも言いたげにこう返すだろう。

 

『出久さんの長所って……そんなの、根性しか無くないですか?』

 

 

 

 

 

 

 

 ハッキリと言おう。

 

 緑谷は最早限界であった。

 

 ヴィランとの戦闘、死柄木との戦闘。

 

 ……そして脳無との戦闘。

 

 緑谷の現在の負傷は、それはもう酷いものであった。

 

 簡単に並べると、

 

 肋骨複数箇所不全骨折。

 

 頭部打撲及び軽度脳震盪。

 

 右鼓膜損傷。

 

 左前腕骨折。

 

 右腕二頭筋重度挫傷。

 

 全身九箇所の裂傷。

 

 全身無数の打撲。

 

 他。他。他。

 

 というようなものであり満身創痍という言葉が相応しかった。

 これ程の人間、怪我をしていない場所を探す方が難しい。

 

 

 ……もう一度言おう。

 

 緑谷はもう限界であった。

 

 しかし、そこにはもう一つの意味がある。

 

 緑谷出久は確かに限界を迎えていた。

 

 クラスメイトである麗日と飯田が脳無に襲われると頭では理解していても、最早身体が動かない。

 

 ────しかし、結局のところ凡人でしかない緑谷の肉体とは違い、正真正銘の天才メカニック、発目明が作り上げた種々のサポートアイテムはこの修羅場にあって一切の不具合無く彼の思い通りの挙動を返した。

 

 道具は、心を持たない。

 

 緑谷のように、限界点を超えて尚心の力……根性だけで動き続ける事などできない。

 

 しかし、それは逆に限界点を超えていなければ想定通りの動きを必ず返すという事でもある。

 

 ……もしも機械が心を持っていれば、作り主である少女の意を汲んで他者の命を捨ててでも緑谷の命を守る行動をしただろうか。

 

 しかし、現実は変わらない。

 緑谷の背に付けられた激戦で壊れかけたブースターはそれでも尚迅速に、緑谷を想定の場所へと連れて行った。

 

 そこは、腕を振りかぶる脳無と、固まっている麗日、飯田の丁度中間。

 

「ミドっ!!」

「デク君!?」

「ッ緑谷ァァァァ!!!!!」

 

 咄嗟の事に声を出すのが精一杯の飯田と麗日、そして目を見開いて叫ぶ相澤。

 

 そんな三人の己を案じる声を聞きながら、緑谷は己の死を自覚して、心中で発目に謝る。

 

 更にブースターを吹かして脳無の進行線から逃れる事はできるが、後ろに居る二人は死ぬだろう。

 

 だからこそ、緑谷は全身を丸めてなけなしの耐衝撃姿勢を取った。

 しかし、そんなものはなんの抵抗にもならない事は明白だ。

 今、全身ボロくずの緑谷が脳無に殴られれば、死ぬ。

 

 死ぬだろう、ではなく、死ぬのだ。確実に。

 

(……ああ)

 

 緑谷は、迫る脳無の拳を見つめ、後ろに居る二人の事を案じ、チラと脳無の肩越しに相澤を見た。

 

 そして、絶体絶命の危機に瀕した脳が極限まで引き伸ばしたゼロコンマ数秒の中で、緑谷はここまで戦闘中に破損せぬように守り抜いた『切り札』を握り締めた。

 

(これは賭けだ)

 

(『僕が無意味に死ぬ』か、『僕が脳無と相打ちになる』か)

 

(どちらにせよもう、僕は────)

 

 そこまで考えた後、眼の前の脳無を睨みつけ、覚悟を決める。

 

(死────!!)

 

 

 

 緑谷出久は、弱い。

 

 彼は『個性』を持たず、彼のライバルのような天才的な『センス』を持つわけでもなく、他より優れるものは多少の『戦術』、『戦略眼』程度のもの。そして、それさえも上回るものは多く居るし……おまけに五歳のあの運命の出会いに使い切ってしまったのか『運』も結構悪い。

 

 彼が誰にも負けないものなど、『恋人』と、『正義感』と……あとは『根性』くらいしか無い。

 

 故に、この脳無との戦闘の結果は……

 

 

 

「死、な! せる! かァァ!!!」

 

 

 

 ……彼の『根性勝ち』と言えるだろう。

 

 

 

 緑谷と、飯田、麗日の身体が急に、前触れなく……横向きに落下する(・・・・)

 

 突然の事に殆どと受け身も取れず、まるで地面が壁であるかのように悲鳴を上げながら動く彼等の先には、この鉄火場に似つかわしく無い半裸の女性が居た。

 

 クセのあるショートカットを汗でベッタリと顔に張り付かせ、動きやすさを優先したのであろう灰色のスポーツブラと分厚い宇宙服のようなデザインのズボンの腰部分は汗じみで大部分が変色している。

 

 さらに、ここに来るまでに戦闘もあったのだろう。全身に擦り傷や切り傷、そして返り血までもが付いており、ゼヒュー、ヒヒュー、と肩を上下させて息を整えている姿と合わせて、肌色の多い服装でありながらも色気よりも痛々しさが勝る姿であった。

 

「13号!!!」

「遅れてすみません……! 救援ですッッ!!」

 

 相澤は、その女性に向かって叫んだ。

 

 そう、彼女は最初の集団ワープによってこのUSJ内の相澤とは違う場所に飛ばされたもう一人の雄英高校教師……スペースヒーロー13号であった。

 

 彼女は別の場所に飛ばされてから、事態の緊急性を認識。オールマイトと同様に周囲の敵を掃討しながらUSJの広い敷地をここまで走ってきたのだ。

 

 そして、わざとこの脳無が居るエントランスから一番遠い位置で生徒を散らされた関係上、その罠から逃れた結果USJ最外端からヴィランをシバき回ったオールマイトとは違い比較的入口近くに落とされた彼女はオールマイトよりも早くこの場へと辿り着いたという訳だ。

 

 そんな彼女が現在ヒーローコスチュームをズボンしか履いていないのは、純粋に走るのに邪魔過ぎたからである。

 

 ヒーローとして支障の無い最低限の動きやすさはあるが、普段であれば肉弾戦などする必要の無い、その強力な個性のお陰もあり。

 そんな種々の理由から機能性よりもデザインを大きく優先した宇宙服モチーフのヒーロースーツは、それなりの長距離を走るのにはあまりにも不適に過ぎた。

 

 そんなスーツを脱ぎ捨てた上で不得意な格闘戦もこなし、そこら中に散らばっているヴィラン共の火線から逃れ……血塗れ泥塗れになっている片手を膝の上に置いて息を整えながらも、「助けに来た」と。そう相澤に叫ぶ13号。

 

 13号の『ブラックホール』により横に落ちるという得難い上にあんまり得たくない経験をした三人の生徒は、その超重力から開放され、地球の重力の世界に戻り、勢いよくアスファルトを滑る。

 

 怪我の具合から見て絶対に転がってはいけない勢いで受け身も満足に取れず派手に地面に転がった緑谷。

 すぐに起き上がり、心配げに駆け寄る飯田と麗日。

 

 13号の足元に転がったそんな三人の生徒に向けて再び地面を削って方向転換し、空気を震わす声で咆哮すると同時に膝を屈めて力を貯める脳無。

 

 そんな脳無に向け、両の手を光さえ逃さぬ超重量エネルギーの漆黒へと変化させた13号は相打ち覚悟で迎え撃つ。

 

 脳無の両足に貯められたオールマイトに匹敵する程の莫大なる運動エネルギーは、次の瞬間に、爆ぜた。

 

 

 

 バチュンっ!!! と、水っぽい爆発音と共に脳無の両足の内部(・・)で、爆ぜた。

 

 

 肉体の移動の為の運動エネルギーを作り出す、人体で最も大きな筋肉である大臀四頭筋、そこで作ったエネルギーの方向を変え、また不要な衝撃を分散する(くるぶし)と膝。

 

 両足の、その三箇所が殆ど同時に内側から爆散した脳無は、ドシャッと地面に転がる。

 

「……え?」

「はあ?」

 

 それまでの緊張からの、謎の脳無の転倒。

 

 その不意を突かれたことで、その場の全員に訪れる思考の空白。

 

 

 

 …………本来ならば(・・・・・)

 

 

 

 

 本来ならば、脳無がちゃんとした『生物』であるならば、ショック死していても全くおかしくない程の激痛に苛まれているであろう。そんな傷を受けても、脳無は怯まずに肉体を再生させる。

 

 しかし、そう。ここには相澤消太(イレイザーヘッド)が居る。

 

 つまり、再生できない(・・・・・・)

 

 そして、再生ができない結果として、脳無はフリーズする。

 

 

 

 

 ……この場では死柄木しか知らぬ事であり、緑谷の作戦図にここまでが描かれていた訳では無いが、脳無は複数の人間の遺伝子を混ぜ合わせて作られた改造人間であり、まともな成長過程を踏んでいるわけではない。

 

 よって、少なくともこの脳無には、本来生物が成長するにあたってどのような形にせよ得るであろう『経験』が皆無に近く、その代わりとして状況に応じてパターン化されたプログラムを脳に書き込まれている。

 

 そのプログラムの一つには、戦闘というものを知っていようがいまいが、誰もが考えつく至極真っ当な思考から書き込まれたものがある。

 

『四肢の欠損が起きた際は、その再生を最優先する』

 

 腕であろうが、脚であろうが、脳無から四肢の一本を切り離せるような相手を、その欠損した状態で当の脳無が相手にできる訳が無い。

 

 ならば、すぐに四肢を再生させ、再び立ち向かった方が合理的だ。

 

 なにせ脳無の再生力なら、失った手足を生やすなどほんの数秒なのだから。

 

 ……しかし、ここには対個性戦闘において最強の男が居た。

 

 緑谷出久がこんなトチ狂った全方面イカれ高校生にならなかった世界においては、この脳無にほぼ一撃で戦闘不能にされた男、相澤消太。

 

 この男の眼の届く範囲においては、ありとあらゆる個性の発動の選択権は、彼にある。

 

 よって脳無は、欠片も再生しない脚の再生を待つだけの『木偶(デク)』と化したのだ。

 

 

 

「……はぁ?」

 

 意図しない事態が起きたことで全員がフリーズしたその場で、最も早く復活したのは、殉職の覚悟を決めた13号でも、浅からぬ関係である四人の人間が轢き殺される所を見せられかけた相澤でもなく、最後の力を振り絞ったお陰で視界の霞み始めている緑谷でもなく。

 

 この場を『脳無による虐殺ショー』と考え、相澤への追撃も程々にそのショーの観客気分でこの場を見ていた為にある意味で誰よりも事態の客観視をできていた死柄木であった。

 

「何だ……何で倒れてる! 脳無ゥ!!」

 

 掠れる視界で、聞こえない耳で、たしかにそれを把握した緑谷は呆気に取られる二人のクラスメイトを手で制し、無理矢理に身体を起こして笑う。

 

(それを、待ってたんだ)

 

 重ねて言うが、脳無のフリーズは緑谷の作戦に無かった事だ。

 

 しかし、あらゆる事柄において不測の事態は起こるものであり、それが今回はヒーロー側に傾いただけの事。

 

 予想より良い結果となった事だけは嬉しい誤算というやつだが、最早この結果は揺らぎはしないだろう。

 

(これで、僕以外の犠牲は出ない……!)

 

 緑谷出久は心を決めた。

 

 己の命を使い切って、この化け物を潰す覚悟を。

 

 

 

 だが、先程の言葉をもう一度述べるが。

 

 

 

 ……この勝負は引き分けでも、負けでもない。

 

 

 

 緑谷の『根性勝ち』である。

 

 

 

救援です!!!

 

 緑谷が最期の力で脳無へと走り出そうとしたその時。

 

 ドゴッ!!! と凄まじい勢いで吹き飛ぶ正門と共に飛び込んできた、脳無に勝る大きさを持つ巨大生物がフリーズした脳無の脇に『角』を突き刺し、USJの外壁に向けて吹き飛ばす。

 

 そして、壁にドゴォッ!! と突き刺さった脚の無い脳無と緑谷達三人の間にその巨大生物は立ちはだかった。

 

 

 その肉体は、下半身が丸ごと陸上生物であるサイのそれとなっており、先程はその角で脳無を吹き飛ばしたようであった。

 

 そしてその肩から両腕にかけては黒黒とした体毛に覆われた筋肉質な腕……ゴリラの腕。

 

 その巨大な拳には、まるで突撃槍(ランス)のように構えられた、夜の漁をする釣人等にはよく知られた『世界で最も貫通力のある魚』……ダツの頭部が生えている。

 

 そして胸板からは二本の立派な牙と、灰色の長い……象の鼻。

 

 そんな『何も考えずに重量級を集めました! これが最強のキメラです!』とでも言いたげな頭の悪い組み合わせの怪生物の中心に埋もれるように存在する黒髪の青年は、脳無を睨みつけながら周囲に聞こえるように、己の存在を叫ぶ。

 

「ヒーロー科三年A組、天喰環です!!」

 

 そう。

 

 この最強生物全部乗せのエラく頭の悪い生物は、雄英高校のヒーロー科生徒であり、緑谷の先輩であり────緑谷と愉快な仲間達にとってはそれなりに縁のある青年であった。

 

 そんな天喰の背後、13号の足元に転がる緑谷達三人の近くに上空から空色の綺麗なロングヘアーをたなびかせる女性が舞い降りてきた。

 

「わ、すごい怪我。大丈夫? 緑谷君ねえ大丈夫? 大丈夫なの?」

 

 まるで物の解らぬ子供のように無邪気な声音で半死半生の緑谷に尋ねながら、しかし有無を言わせず(半分無理やり)彼を寝転ばせた後に本職もかくやという速度で包帯と消毒液を取り出し手早く彼の怪我を処置していく。

 

 それを受けながら、緑谷は戸惑っているクラスメイト二人にも分かるように、苦笑いをしながらたった今自身の窮地を救ってくれた……中学時代、ボコボコにした二人の先輩の名前を呼ぶ。

 

「あ……ありがとう、ございます……天喰先輩、波動先輩……」

 

 先輩と呼ばれた二人を呆気に取られた顔で見つめるクラスメイトを朦朧とした顔で眺めつつ、激痛を押さえてガクガクと震える脚でもう一度立ち上がり……かけ、四つん這いから動けなくなった。

 

 体力がそもそも限界である点と、両腕を飯田と麗日、そして頭を波動に抑えられた結果である。

 

「緑谷君、駄目!」

「いえ、多分アイツを完封できる策が……」

「駄目! 大人しくしなさい! するの!」

「けど、チャンスは今しか……」

 

 そう言いかけた緑谷に対し、眼前の脳無を吹き飛ばした巨大生物……天喰が軽く手を上げて遮る。

 

 吹き飛んで発生してしまった土埃に隠れたその時に、相澤のインターバル(まばたき)が来てしまったのだろう。

 

 既に吹き飛んだ脚が完全に回復し緑谷が相澤のサポートで一つ一つ地道につけていた傷は、半分以上が治りかけてしまっていたが、それでも埃が晴れてからはまた相澤が能力を使ってくれているらしく、傷の治りは少なくとも今は進行していない。

 

「緑谷君はもう大人しくしているんだ……大丈夫、俺ももう、あの時の俺じゃない」

「……はい」

 

「波動先輩……なら、せめて僕の、作戦を……」

「うん、分かった! 引き継ぐね!」

 

 包帯を巻きながらインカムを着けた耳を自分の口元に寄せる波動に聞こえるよう、声を心なしか(体力の関係で本当に心なしか)大きくして話す緑谷。

 波動が着けたインカム越しのそれを聞きながら、天喰は腰のピルケースを開け、『M.shrimp』と書かれたカプセルを口に放り込んだ。

 

『……というわけです。『切り札』は波動先輩に任せます』

「了解……なんとかしてみるよ」

 

 そう言った天喰の肉体はズモズモと変化し、左拳のダツが消滅し、その代わりに歪な鋏が現れた。

 

「脳無……ッ!!?」

「貴方があの黒いのに指示してるんでしょ? もう誰かを傷つける命令なんてさせないから!」

「クソが! どけよ!」

()〜〜っ!!」

 

 脳無に新たな命令を刻もうとした死柄木は、波動の放った螺旋状のエネルギー波による攻撃に耐えきれずにその場をゴロゴロと転がる。

 

 チラリと一瞬だけ吹き飛んだ死柄木に視線を向け、波動を見て、相手を崩壊させる為にはまず触れなければいけない死柄木と、そもそも触れられないエネルギー波を出す波動の、互いの能力相性が最悪に近い事を察した相澤は「ソイツを抑えてくれ! 掌には絶対に触れるな!」とだけ言い放ち、脳無に全神経を集中した。

 

 その視線の先では、当にその時、天喰の鋏と脳無の拳が激突する瞬間であった。

 

「ヴォォォォォ!!!!」

「はァァァァァ!!!!!」

 

 

 

 二人の拳が激突する。

 

 そのたった一度の衝突で、天喰は悟る。

 

(駄目だ、力が強すぎる!)

 

 バギャッ!! と、凄まじい音を立ててひしゃげたゴリラの腕と拳の代わりの鋏を修復して、同時に腰から生やした烏賊の触腕(ゲソ)で腰元のピルケースを探り、複数のカプセルを取り出して噛み潰し、飲み込む。

 

「衝撃に耐える甲虫の強固な外骨格、骨格の下には連打に向いた蟻の並外れた持続筋を多めに、そして威力確保の為に飛蝗(バッタ)の脚部の瞬発筋!」

 

 天喰のその言葉の通りに、ゴリラの腕の表面から艶のある梨地の甲殻が鎧のように生まれ、そしてミチミチと大量の筋肉が腕と鎧の間に生成され、不気味に蠢いた。

 

「これでッッ!!!」

 

 ゴガァン!!! と、先程とは違う音を立てて脳無の二撃目を迎え撃った天喰は、更に象の胴体から甲虫の脚を生やし、ガッチリと地面を掴んで吠えた。

 

「来いッ!!!」

 

 

 

 ……もう二年近く前、緑谷達無免ヒーローと戦い、そしてボロクソに負けていた三人の学生達。

 

 その中で二年掛け、最初からの伸びしろという意味で一番成長したのは通形ミリオであったが、しかし結果として三人の中で一番強くなったのはこの天喰環であった。

 

 彼の個性は『再現』。

 

 簡単に言って汎用性最強の個性であり、その特性は『食した物を自由に生み出せる』という無法極まりないもの。

 

 食す、という行為に消化吸収の有無は問われず、とにかく体内に入れれば例え生物由来ではなかろうと、どんなものでも、どれだけの量でも、どんな大きさでも……自由自在に生み出す事が可能だ。

 

 かつてはその個性を鍛え、イカや鶏、蜆に牛などといったごく普通の、一般的な食材を食し、それらの修練を続けていた。

 

 しかし、そう。

 

 二年程前の、無免ヒーロー達との邂逅の時。

 

 その際、緑谷にこう言われた事を彼は今でも思い出す。

 

『天喰先輩の個性って本当に便利ですよね。それってもしかして絶滅動物とかも『再現』できちゃうんじゃないですか?』

『……か、考えた事無かった……』

 

 無個性だが……否、無個性であるからこそ、普段から他人の個性の対処法と活用法について誰よりも考えている。

 

 そんな緑谷だからこそ出せた軽口。

 

 この軽口が。

 

 これが、天喰環の進化の始まりであった。

 

 それから彼は、担任に懇願し雄英高校経由で動物園や動物病院、絶滅、絶滅危惧生物の保全研究をしている博物館等に片っ端からアポイントメントを取り、自身の個性とそれの活用法についてアピール。

 

 緊張して吐きそうになりながら、半泣きでつっかえまくる天喰のセールストークは正直に言って、全く見れるものではなかった。

 

 しかし、動物園も、動物病院も、そして博物館も、そこに働いている人間は皆何かしらの熱意があって、その為に決して高給とは言えない額で働いている人々であった。

 

 天喰の熱意は、多くの人々にとはいかないが……ほんの数人ではあったが、確かに伝わった。

 

 それに、天喰に協力する事にリスクが殆ど無い事も大きかった。

 

 何故なら、彼が『再現』するのに大仰な物は要らず、体毛一本があれば生物の全身を生成できるのだ。

 

 最初は、病気を患ったある動物の手術をしたいという話から始まった。

 

 動物園に居るような特殊な動物の臓器不全となるとドナーなど居るわけも無く、手術などしたくともできず、そういった症状が出た場合には最早天寿を全うさせる事しかできない、と思われていたが、天喰の話を聞いた獣医が、駄目元でその動物の健康体である個体の体毛を天喰に食わせた。

 

 結果として、コレが天喰の、そして生物学業界の未来を変える事になる。

 

 天喰は生物の全身を生成した。出来てしまった。

 

 そして、そこに麻酔をして獣医が臓器を摘出し、手術。

 

 天喰産の臓器は死にかけていた動物の中で正常に動き、死ぬ筈だった動物はその生を永らえた。

 

 これはつまるところ、天喰の手によって救われない筈の一匹の動物の命が救われたのである。

 

 ……その結果として、天喰環という男の株価は昭和バブルも真っ青なハネ上がりを見せた。

 

 連日の様に様々な研究機関からの熱烈なラブコールに、それを通り越した人生を変えるチケット(ゼロがいっぱいの契約書)さえも山の様に届き、『君がヒーローになるなんて人類の損失だ』といった夢に向かう学生に対してちょっとその言い方はどうなんだと言いたくなるような誘い文句もたくさん受けた天喰は、当然の結果としてゲボ吐いて熱出して倒れた。

 

 胃腸と精神の数日間の療養を経て、それから根津校長どころか各国の外務省さえも巻き込んでそれらに丁寧に対処をし、しかし全部が全部を断り切れずにいくつかの企業や国家機関と協力契約を結んだ彼は、これまでに無い力を手にする。

 

 その一つが、食品として一般的に流通していない所謂『猛獣』の遺伝子の安定した供給ラインの構築。

 

 少量の血や体毛を小型のカプセルに込めて作られたその『サプリ』は、遺伝子の吸収や消化と言ったプロセスを経る必要の無い……一欠片飲み込むことさえすれば鉱石さえ生成可能な程に規格外の天喰の個性と合致して恐るべき性能を引きずり出している。

 

 当たり前だ。通常の手段で入手できる食材の元である『家畜』と一般人は生涯一度触れることさえ無いであろう『猛獣』では、荒事に対応する際のスペックが違い過ぎる。

 

 そして、彼にはもう一つ、切り札がある。

 

 

 

「威力が下がったな……緑谷君の言う通りだ」

 

 インカム越しに緑谷に聞いた情報。

 

 緑谷が命を懸けて集めた、彼の命より重い……今日この日、この先の多くの命を助ける為の情報。

 

 幾つものナイフの傷を刻み込んで、相澤の個性が途切れる瞬間を見据えて確認した────

 

「情報一、『傷の再生は大きいものが優先される』!」

 

 自分を蹴ろうとした脳無の脚の甲をダツで貫き、象の身体から鰐を作り出して膝を噛み、稼働を殺す。

 

 ガク、と体勢を崩しかける脳無の顔面を叩き割り、更には親指と小指をコブラに変身させ、噛み付かせて目を潰す。

 

「情報二、『感覚器系は傷の大小に関わらず最優先治療対象』……と聞いている。毒が効いてくれると有り難いが……」

 

 相澤の個性が切れた瞬間に、ギュルッと巻き戻るように再生する眼。

 最後に残った傷口からコブラの神経毒を逆にこちらに向けて噴射してきたのを避け、無理かと呟いてもう一度拳を構えた。

 

「そして、情報三……!!」

 

 天喰の全身全霊の拳が脳無のそれとカチ合い、手四つでガッチリと組み合う。

 

「……ぎ!?」

 

 組み合いの瞬間に軋む腕部に気付いた天喰は、歯を食いしばって泣き叫ぶように、言った。

 

「……自切!」

 

 ブヂブヂ!!! 

 

 そんな音と共に大量の血が天喰の両腕から吹き出し、それと同時に脳無がその腕を引っ張り、『腕だけを』放り投げた。

 

 荒い息を吐きながら血みどろの両腕部を抱えた天喰は、あまりの痛みに溢れかける涙を堪えて再び腕部装甲を作り上げる。

 

「……駄目だ、俺じゃあ緑谷君のような技巧的な戦闘はできない!」

 

 早く決めないと、と呟いた天喰は、自分に出来る『最高効率』を創造(つく)る。

 

 それこそが、彼の真骨頂にして、彼が精神力さえ鍛えれば通形ミリオ、波動ねじれの二人に勝るとされる所以。

 

 彼は、腰に付けていたピルケースをひっくり返し、その中の全てを嚙み砕き、飲み込む。

 

 それは、彼のヒーローネームでもある、サンイーターの名の通りに、何より彼の名の通りに。

 

 彼は、(すべて)を、(くらう)

 

ゴリラの腕+蜆の殻の積層装甲+甲虫の外殻の流形+黒檀の耐衝撃性+鉄の強さ+蟻の筋力+蛸の多腕+烏賊の多腕+蜘蛛の糸+蜻蛉の動体視力+象の重量+犀の頑健さ+チーターの瞬発力+コブラの毒+シャコの爆発力+黒曜石の鋭さ+ミイデラゴミムシの噴射機構そして……! 

 

 彼の前では、全てのものが彼以下の性能となる。

 

 例え生き物であろうと無かろうと、何ならただの石ころでさえ、彼が口にし喉を通れば、それは彼の所有物(個性)となる。

 

 それに例外は無い。例えば────

 

+ティラノサウルスの凶暴性(つよさ)

 

 太古の存在であろうとも、不完全でも遺伝子があれば複製は可能であり。

 

+波動ねじれのエネルギー!!!

 

 それは、物質という形を成していないものでも、例外ではないのだ。

 

 彼の二本の両腕と、蛸の八本の触腕と、烏賊の十本の触腕。

 

 その全てが、波動ねじれの青白いエネルギーを放出する……! 

 

二十連! ロケットパンチ!!!!

 

 

 

 コレこそが、現状の天喰最強のインファイト形態。

 

 しかし、これでさえも、ここまでして尚天喰と脳無の戦力差は四対六……否、三対七というところであった。

 

 脳無とは……オールマイトとは、そこまで他全てと隔絶した存在なのだから。

 

「……っ゛ぉぉぉおおおおおおおお!!!!!!!!」

 

 蛸の触腕八本と烏賊の触腕十本と、天喰の腕二本、総じて二十本の腕と、全ての先端に生えたゴリラの剛拳。それぞれに様々な素材からなる複合鎧と衝撃波発生機構を搭載している。

 

 脳無の腕力に張り合うために肘部には波動エネルギー噴射機構が付けられ、簡易的なロケットパンチとして使用される。

 

 ガガガガガガガ!!!!! と、破砕機のような音……否、実際に脳無の拳が天喰の拳を破砕する音が響く中、天喰の強化された動体視力が脳無の肩の筋肉の痙攣を見逃さなかった。

 

(……流石だよ、緑谷君。『情報三』は確からしい)

 

 それから数瞬。

 

 バヅッ!!! 

 

 汚く水っぽい破裂音が響き、再び先程の脚部と同様に、脳無の肩から胸にかけてが爆散する。

 

「波動さんっ!!」

「うん!!」

 

 天喰の合図と共に、もはや見物の余裕も無く回避に専念する死柄木に向けてエネルギーを撃ち込んでいた波動が『切り札』をエネルギーに乗せて脳無に撃ち込む。

 

 

 

 

 ────『情報三』。

 

脳無(コイツ)は、自分のパワーに耐えられる肉体をしていない!」

 

 ズガッ!! と、脳無の肩の剥き出しとなった肉に、波動の放った『切り札』が突き刺さる。

 

「『ショック吸収』、『超再生』。それらは全てオールマイト並みのパワーを使える(・・・)ようにする為のもの。その個性が無ければ、お前は自分自身の力に耐えきれずに自壊(・・)する」

「相澤先生! まばたき!」

 

 波動の叫びに、相澤は反射的に目を閉じる。

 

 その瞬間に始まる脳無の再生。

 

 再び生えてくる筋骨に埋まっていく『切り札』……それは、緑谷がコスチュームに装備していた発目製の放電型トラップ。

 

 そのトラップのボタンを、装置が見えなくなるその瞬間に波動が押し込む。

 

「僕が最後だけ引き継ぎはしたけど、それでも……緑谷君。君の、勝ちだ」

 

 本来は脳無に轢かれるその瞬間にでも緑谷が弾けたその身に叩き込む筈だったもの。

 

 ……どんなに凄まじい筋力でも、動かすのは神経……生体電気。

 筋骨の内部から電流を流されれば、それは全身を駆け巡り脳無の肉体を強烈に縛り付ける。

 

 ……肉で出来たロボットでしか無い脳無に、抗う術は無い。




 脳無の考察と今回の緑谷のアホアホ死に急ぎ野郎大作戦

 序盤の強敵としてとてもいいキャラしている脳無。しかし彼(?)ここで生き残った割にはこの後は特に活躍がありません。何故か?今回は後書きを使ってそんな所を話してみます。

 Q.まず、この脳無何だったん?
 A.作者の考えですが、AFOとドクターが作り上げた『OFAの器になり得る肉体』です。

 ヒロアカ世界最強の男、オールマイト。多分彼が作中一等強いことは誰もが認める所だろうと思います。
 そんな彼の世代で恐らく能力が爆上がりしたであろうOFAは作中終盤緑谷ですら発勁などの他個性を利用して擬似的な百パーセントしか使えていません。だがしかし、AFOならこう思う筈。

「オールマイトの力ブン回せたら絶対楽しいし、逆にそれが出来なきゃ個性手に入れてもオールマイトに負けた感あるよね」

 奴なら絶対にこう思う筈です。

 ですがしかし、オールマイトこと八木さんがOFAをあそこまで強くできたのは七人分のOFAを初見で普通にブン回せるとかいう彼自身の意味不明な強靭さあってこそ。そしてそこにはなんと個性が全然関係していません。柱間かよ。

 となると個性以外は奪えないAFOはオールマイトとは別方向のアプローチで肉体強度を上げる必要があります。はい、勿論個性です。ここサービス問題ですよ。テスト出ますからね。

 オールマイトの意味不明な頑丈さは個性無しでは再現が不可能です。ならばどうする?

 その答えこそが『OFAの肉体反動を軽減する為の衝撃吸収』と、『その衝撃吸収を貫通して蓄積する肉体ダメージを癒す超再生』である訳です。

 さぁ、皆さんここでもう一度原作脳無の活躍シーンを見てみましょう。死柄木君が言ってますね。オールマイト並みのパワーだと。さて皆さんもうお分かりですね。

 オールマイト並みのパワーならパンチ一発で雄英ぐらい瓦礫の山じゃね?

 そうです。昨今いろんな媒体で描写されるオールマイトの身体能力であれば少なくともUSJくらいは一撃でブチ壊れるでしょう。なら何故そうなっていないのか?正解は『衝撃吸収が脳無のオールマイト並みのパワーの大半を吸収していたから』です。なんだってー!

 そんな訳で、あのオールマイト脳無はAFOがオールマイトの力を使いこなす為に作った新しい肉体の試作品なのです。そして、衝撃吸収の個性は搭載するとオールマイトの力を十全に扱えても同等の破壊力を生み出せない点で廃案となり、逆に超再生は有用とされその出力をバカ増しされた上で新しい身体の死柄木君に搭載された訳ですね。以上が脳無についての考察となります。

 え?今回の緑谷の作戦?脳無ボディが壊れた後相澤のまばたきの瞬間見計らって突撃、脳無の治りかけ肉体に放電機埋め込んで後は踏み潰されるか反撃食らって死亡の相打ちです。

 まぁ何が言いたいかっていうと、次回か次次回くらいに発目が緑谷に助走付き全力本気のグーパン食らわす予定なので楽しみにしていて下さいって事です。
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