「ただいまー」
我が居城、安息の地へと帰還を遂げた私ブッシは帰宅のアピールをした。
「あら、おかえり。どうだった学校は?」
迎えてくれたのは我らが母。一般的なエプロンに年相応の肌。経産婦として普通の身体で美貌はない。こんなことを本人の前で言ったら飯抜きにされるので心にとどめているが。
「上々であります」
「なにそれ、まあいいわ」
適当に流しつつ、自室へと向かう。
ごく普通の家庭、サラリーマンな父と妻であり僕の母。2つ下の弟と同い年の黒猫が家族構成である。
さて、ご飯までは時間がある。配られた教科書とかプリントを整理して待つことにした。
我が家の夕食は普通である。ご飯と汁物、主菜副菜が基本である。和食が好きな父がいるため、和食多め。今日は鮭の切り出そうな。
夕飯の時には父も帰っており、夕刊を広げていた。顔色があまりよろしくないのは贔屓の球団が負けたのだろう。
ちなみに弟はいつも部活で遅い。猫はいる。
「おう武。学校はどうだったんだ?」
父が気づいて顔を上げた。
「上々であります」
さっきと同じ返しをした。
ちなみに反抗期でも何でもないので関係は良好。
「何が上々だ」
父は母のようにはいかないようだ。
「神がいたよ。女性だから女神だね」
冷蔵庫から麦茶を取り出しながら返答。冷たい麦茶がおいしい。
「ほお、変な高校だな。で、惚れたか」
麦茶が霧となり虹を作った。ここまできれいに吹き出せるのは世界を探しても僕だけだろう。
「あんた汚いわね。ちゃんと掃除しなさいよ」
母は嫌そうな顔を向けてきた。きれいな虹越しにね。
「で、惚れたのか」
父も父であった。自分と血縁関係にあることがよくわかる。
「話がはやいんだよ!びっくりしたじゃないか!」
「女の子の話なんてそこに行きつくもんだろ?」
「だとしてもはやいんだよ!名前とか聞けよ!」
音速で繰り広げられる会話をしながら、地面に墜落した麦茶を掃除する。
「ほお、確かにそうだな」
父もようやく人が追い付く速度へと戻ってきたようだ。普通の会話ができそうだ。
「で、神なのか?その女の子は」
「ついに我が家も神の域なのね」
「神じゃない!母さんも悪乗りしないでくれ!疲れるじゃないか!」
息が切れ始めてきた。なぜ、ここまで頑張らなければならないのか。
「天皇と並んじまったなぁ、母さんや」
「天皇は人間宣言したから今や私たちの方が上なんじゃない?」
「話が成層圏を突き抜けてるぞ!仮に僕が神と縁があってもあんたたちは神にはならん!もういいからご飯にしよっ」
無理やり話を終わらせた。じゃなければ僕のHPだかMPだかは無くなっていただろう。
結局、その女神の話はうやむやとなった。
「そうそう、今晩おじさんが泊まりに来るわよ」
母が唐突にそんな話をし始めた。
「へー、なんで?」
おじさんとは年に1回会うか会わないかの関係だ。我が家に来るのも初めてのことだった。
「なんちゃら委員会って言っていたわね。なんだったかしら?」
「文化財審議委員会な」
「そうそう、その文化祭実行委員会よ」
「母さんや…」
父はあきれ顔で母の顔を見つめていた。
「それがなんでうちに?」
「あの秀明神社を町の文化財にするために調査するらしい。私としては あんな大きな神社が文化財になっていないと驚いたよ」
「へー、そうなのね」
特に興味のある話でもなかったので適当に相打ちをした。
そういえば、あの女神である飛鳥原さんは秀明神社だったな、と思い出した。
翌日も普通の朝だった。少し違うところがあるとすれば叔父がもう家を出ようとしているところだった。
「あ、おじさん。おはようございます」
「おお、武くんじゃないか。久しいね、大きくなったなー」
昨晩は家に着いたのが遅かったらしく、顔を合わせることができなかった。なので、今日が初の顔合わせ。
「もう、行くんですか?早いですね」
「はは、役所は老いぼれの私をこき使ってくれるんだ」
時間にしてまだ6時。武は役所仕事も大変だなと思った。
「じゃあ、行ってくるよ」
「今日夕飯はどうします?」
見送りに来ていた母が叔父に尋ねた。
「お願いします。遅くなると思いますが。それでは」
そういって、おじさんは玄関を出ていった。
「文化祭実行委員会も大変だねぇ」
「文化財審議委員会ね」
昨日のボケに乗ったら真顔で返された。マジレスつらいンゴねぇ・・・。
その後はいたって普通の日常だった。祐輔らとくだらない話をして、授業を受けて、帰る。
何かが動き出したのは帰宅後からだったのだろう。ただ、武がそれを異常として気づくことはできなかった。
いつもは夕食の時にはいるはずの父がいない。母は残業と言っていたが、今まで父が残業をしたことは記憶にはなかった。
ただ、武はそんな日もあるだろうと受け流し、母と二人だけの夕食をとる。
その日、叔父も父も帰ってこなかった。
おそくなりますた