デュバリィに   作:属性値システムに戻してv

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おねがっしゃす


高楼たる不屈の大地

 

「……」

 

「……あなた、独り……ですの?」

 

 雨が降っている。

 土砂降り、というわけではない。ただ、しとしとと。

 雨が、降り注いでいた。

 

「……」

 

「親……は、まぁいませんわよね。こんな所に放置するくらいですし」

 

 どこかの森。ここがどこなのか、なんという名前がつけられた森なのか。

 それを知る者はこの場にはいない。

 片や興味が無く。

 片や知識が無い。

 

「……」

 

「っ……声が出ませんの? よく、みれば……怪我もしているんですのね」

 

 たかが枝葉では、降りしきる雨の全ては防げない。

 ただ、此処に捨て置けば、体力が尽きて死ぬのだろう、という事は――知っていた。

 見下ろす彼女も。見上げるソレも。

 

「ま、まぁ私には関係の無い事ですが……ついて来たかったら、着いてくるといいですわ。少量の食べ物程度であれば、あげられますから」

 

「……」

 

 言い残して、彼女は去る。去ろうとする。

 降る雨は彼女も濡らすが、彼女はその程度で弱る程、軟ではない。

 ただ、捨てられていたソレは――もう。

 

「……歩く力も無い、と……はぁ、まったく」

 

「……」

 

 大きく溜息を吐き、去ろうとしていた彼女は踵を返す。

 そうしてソレを抱きかかえた。

 彼女の上質な洋服が泥に塗れるが――それを気にする程、彼女の精神は低俗ではない。

 高潔たるマスターに忠誠を捧げる、誇り高き”鉄騎隊”が筆頭――もっとも、一人しかいないが――《神速》のデュバリィは、そんなことを気にも留めない。考えすらしない。

 当然の様に、捨てられたソレを拾い――掬い上げ、拠点へと持ち帰るのだった。

 

 雨はいっそう、強く降り注ぐ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……デュバリィ」

 

「はい! あ、ええと、これはそのぅ……」

 

「いえ、拾ってきた事を咎めるつもりはありませんよ。

 ……拾ったからには、しっかりと育てるよう。一度きりの幸福を与えて、捨てるなど……そんな、”外道”は赦しません。それだけです」

 

「は、はい! ですの!」

 

 ――怪我を治癒して食事を与えたら野に戻すつもりでした、とは言えませんのね……。

 

 敬愛し、信奉するマスターに忠告を受けた。

 それは命令であり、それは誓いにも似る。その言葉にその意が含まれていなかったとしても、そう受け取るのが忠実な僕。

 彼女――デュバリィは、美しき自身の主人が部屋を出て行くのを見送って、視線を()の中に落とした。

 箱。

 そこですやすやと眠るのは、身体を洗った事で多少は見栄えの良くなった、幼子。

 ()()()()()()、今こそ見えないが、銀耀石のような瞳。光に当たると輝きを持つ()()()。腕に巻き付けられていた紙に書かれていた、【Areth(エィレス)】の文字。

 

 デュバリィの知識に相違なければ――イタチ。そう呼ばれている生物の、幼体だ。

 体中に傷を負い、酷く消耗していたようだが、一応、安定したと見える。

 彼女は戦場での治癒の心得あれど、医者ではない。ましてや動物に関することなど、分からない事の方が多い。

 かといって主を頼ることなど出来るはずもなく。

 自分たちの立場上、一般の医者にかかるということも、到底考えられなかった。

 

 今、自らの使える回復アーツ……ティアラをかけ、アースグロウも掛けておいた。これ以上の処置は現状包帯を巻くくらいだが、その柔らかい体に布を巻きつけるという発想は酷く難しい物に思えたため、行っていない。

 何の義理もない――先程拾った、というだけの生物ではある、が。

 

 デュバリィは無事であるようにと、静かに、空の女神へと祈りながら。

 椅子に座ったまま、眠りに就くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 空の女神に祈ったって、救っちゃぁくれないと思いますがねぇ、私。

 心地の良い、地と水の補助アーツに包まれた身体をくるぅりくるぅりと回しながら、思考を紡ぎあげる。

 捨てる神あれば拾う神あり、という言葉を脳裏に浮かべつつ、僥倖僥倖と、これまた口に出さずに呟いた。

 

 とある目的の為、このゼムリア大陸へと来たのはいいのだが、目的の人物がどこにいるか全く分からない、と言う所がまず、第一の難だった。

 タイムリミットがある。それはわかっている。

 今がいつなのかは、まぁ、感覚でわかる。”まだ”である、って事くらいだぁけどね。

 

 第二の難は、戦術オーブメントが想像以上に出回っていなかったコト。

 そりゃあそうだ。アレは非常に高価なもので、生産数も少ない。裏市場に出回っている、ってぇのは知っていたけれど、私は動物の身。買えるはずも、盗めるはずもなく。

 ただ一部、アーツを扱える魔獣に倣ってセプチウムを食らい、多少の事は出来るようになった。その程度。

 もっとも目的を果たすために幻のセプチウムしか食えねえモンだぁから、それも加えて第二の難にしてしまおうかぁね。

 

 空を飛べる生きモンだったらぁ、まぁ、話は違ったんだろぅが。

 生憎と此方はイタチ。それもヤマイタチ――オコジョと呼ばれていた、非常に体躯のちっさいチビイタチと来たもんだ。移動に時間がかかってしょうがねぇたぁ、予想していなかったね。

 

 とまぁ、そんなこんなの難あり三昧で、えらく時間をかけてしまったぁけれど。

 捨てる神あれば拾う神あり、って二度目だぁが、そう、その通り。

 人間に取り入って情報収集に、と動き出したその一軒目が戦火に飲まれ、命からがら逃げだして――あの森で体を休めていた。

 ちょぉっとばかし端折ったけれど、大体そんな感じ。

 

 そぉして彼女、《神速》のデュバリィに拾われた、ってカンジさ。

 

 私は散々自分の不運を災難を呪い祟ったが、最後に此処に行きついた事は感謝しなけりゃならん。

 なんたって――私の目的は、デュバリィ、ではなく。

 彼女の主。《鋼の聖女》アリアンロードなのだから。

 

 そう、目の前で私をじっと覗き込んでいる――ッ!?

 

「……害のあるモノ、というわけではないようですね。しかし、他の命を気にかける余裕が出来た、というのは……喜ばしい事。しばし、見守ることとしましょうか……」

 

「……」

 

「見逃す、ということですよ」

 

 釘を刺された。

 さ、流石聖女! こちらに人並みの意識があることにしっかり気付いてらぁ!

 特にメリットデメリットがあるわけじゃあないから黙っておくつもりだったのに! というかいつもの仰々しい鎧じゃなくてフラットな鎧なんですね! そっちの方が好きです!

 

「……」

 

 小首をかしげる。

 意味が分かっている、と言っているようなものだぁが、まぁ。

 それを含めてぇの、疑問さなぁ。

 

 私は害獣ではありませんよぉーって。

 

「まぁ、良いでしょう」

 

 ありがとうございます!

 ってぇね。

 

 

 

 

 

 

「エィレス! そちら、行きましたわよ!」

 

「きゅっ!」

 

 早い物で、あれから一年の月日が経った。

 その間、アリアンロードと私達でD∴G教団を叩き潰したり、向かってきたブレイサーを返り討ちにしたりと色々あったが、特に語る程活躍していないので割愛。

 そもそも幻属性のアーツは攪乱が主だぁからね。高位アーツともなればまた違ってくるのだろぉけど、単体アーツではそこまで役に立てない。

 

 今私は――ウルスラ間道で、ご主人ことデュバリィと狩りの真っ最中である。

 無論、デュバリィのための狩りではなく、私を強くするための狩りだぁけどね。

 

「――Dna Rbs Oahc(きゅぅぃっ)

 

鳴き声に乗せるは幻の印。

 刻み付け、焼き付けるように敵――バブーンモンチ――を囲う幻覚の刃が、その思考を混乱させる。

 体内を巡る幻のセピスが導力を滲ませ、それを纏め上げて、今度は身体へ纏う様に放つ。

 

「――Ereh Pswo Lloh(きゅぅぃいい)!」

 

 幻の導力が周囲の景色と同調する。

 元より細長い身。幻術が加われば、完全に身を隠す事が出来る。

 

 混乱から覚めたバブーンモンチが周囲を見回せど、そこに私はいなぁい、って寸法さね。

 

「ゼェアッ!」

 

 そして、そんなエテ公の頭蓋を勢い良く叩き斬ったのがご主人様。

 ゴーディアンを主としたバブーンモンチの群れ。討伐完了。

 幻を解いて彼女の腕に飛び乗れば(上る前提で腕を出してくれている)、此方を一撫で。

 LEVELも順当に上がり、ほくほくだぁね?

 

「ふぅ……ま、上出来ですわね。自らの五倍はあろうかという魔獣に優位に立てるのなら、及第点ですわ。これからも精進するように、ですわ」

 

「きゅい」

 

 はぁい。

 腕から肩に乗って、彼女の走行の邪魔にならない位置で待機。

 私がしっかり捕まったのを確認すると、彼女は走り出した。

 

 《神速》の名に違いない、凄まじい速度での帰宅だった。

 

 

 

 

 

「おかえりなさい、デュバリィ、エィレス」

 

「戻ったか。食事の用意は出来ているぞ」

 

 デュバリィが各地にいくつかある自ら達の拠点に帰投すると、エィレスを拾って直ぐくらいに鉄騎隊に加入した二人が出迎えてくれた。

 《魔弓》のエンネア。《剛毅》のアイネス。

 外道の集団に捉えられていた青髪の女性と、愚かにも準遊撃士としてマスターを討伐しに来て返り討ちにされ、その在り方に忠誠を誓った赤髪の女性である。

 最古参にして筆頭はデュバリィ。それは変わらない。

 だが、二人の方が年上なのだ。

 年上なのだ。

 

「きゅい」

 

「エィレスの言う通り、年齢なんて気にしなくてもいいのよ?」

 

「エンネア、貴女はどうして言葉がわかったような……はぁ。ええ、ええ、わかっていますわ。余程私がわかりやすいとか、そういう理由でしょう!」

 

「うむ。お前はわかりやすいな」

 

「私よりわかりやすい奴に言われたくないですわ――!」

 

 調子が狂う。

 それが普通になりつつある――というか、これが鉄騎隊の常であることは最早疑い様が無いのだが、デュバリィは認めたくなかった。

 認めてしまえば、自らの未熟さまでも認めてしまっている様な気がして。

 

 その認識自体が幼いと、薄々は勘付いていたけれど。

 

「食事の用意は出来ている。手を洗え、デュバリィ」

 

「エィレスも、身体を拭いてあげるわ~」

 

「きゅぅ」

 

 この、どうあっても”姉”みたいな態度の二人に劣っている事を自覚するのが、怖かった。

 

 

 

 

 

 

「きゅい」

 

「む、どうしたエィレス。……あぁ、このセピスが欲しいのか? まぁ、私には無用の長物だからな。ほら、食べるといい」

 

「きゅぅ」

 

「EP1のクオーツをさっき拾ったのだけど……食べるかしら?」

 

「きゅぅーっい!」

 

 あと、デュバリィが拾った、デュバリィが主人のはずのエィレスが、妙に二人に懐いてるのも悔しかった。

 

 ――結局餌付けですの……ッ!?

 

 

 




「――Dna(夢を見るモノ) Rbs(痛みと共に) Oahc(心を乱せ)

「――Ereh(揺らめきよ) Pswo(我が身を) Lloh(隠したまえ)

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