デュバリィに   作:属性値システムに戻してv

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千年魔境を謳う小道

 

 少々昔の話。

 

 デュバリィのマスターであるアリアンロードは、《身喰らう蛇》という、世間一般で言う秘密結社の最高幹部《蛇の使徒(レギオン)》である。それ故、結社の進めるオルフェウス最終計画やその前段階である幻焔計画などのために、様々な任務を課せられる。

 基本的には自由で、拘束されることのない組織であるのだが、計画を進める、その一点に置いてはしっかりとした目的のある組織なのだ。

 

 計画の内容、具体的な所はデュバリィも知らない。

 知る必要が無い。デュバリィはただ、マスターに忠誠を捧げる事を考えるべきだ。

 

 ――それでも。

 

 言い渡され、出向いたそこ――とある教団のロッジで行われていた、余りに凄惨なソレには、嫌悪感を隠す事は出来なかった。

 

 

 各国各地からかき集められた、才能ある子供。身寄りのない者。

 それらを薬漬けにし、従う様に拷問し、好事家に売り捌く事もあれば、その場で――。 

 そんな、地獄。否、名称こそは《楽園》。

 D∴G教団の拠点の一つ。小児性愛者(ペドフィリア)の集う余りにも悪趣味な場所。

 

 そこへ、マスターとデュバリィ、そしてエィレス。

 さらには同じく《身喰らう蛇》に所属する、剣帝、漆黒の牙。

 元より外れ者、犯罪者や身分を誇れない者の多い結社において、少なからず善の心を持った者が、この《楽園》の襲撃任務を負った。

 

 結果。

 

 デュバリィとエィレス、漆黒の牙の攪乱は些末な混乱を齎しただけで。

 マスターと剣帝が、その全てを終わらせた。暴虐ではない。圧倒的な力は、虐げるモノを生まない。

 神々しさと清冽さを以て、《楽園》を叩き潰したのだ。

 

 その時に保護された少女が二名いる。

 

 一人は紫髪の少女。否、幼女。度重なる拷問から人格をいくつにも分け、その内の主人格《レニ》から派生した、最後の人格《レン》。剣帝たちに保護された後、結社入りした。

 元よりの才能と、精神操作、薬によって引き出された演算能力は舌を巻く物があり、あの様子であれば、すぐに執行者として名を上げるだろう。

 

 そしてもう一人は、青髪の少女。

 デュバリィより一つ年上の、少女。念動力とでも言えばいいか、”放った矢の軌道を途中で変える”などという異質な力に目覚めて()()()()少女だ。

 名を、エンネア。マスターが保護したためか、マスターに忠誠を捧げ……デュバリィの所属する《鉄騎隊》へと入る事となった。尤も、エンネアが来たことでようやく”隊”としての形を為す事が出来るようになったので、入隊したという表現は少し違うかもしれないが。

 

 ともかくこれで、《鋼の聖女》に付き従う《鉄騎隊》として堂々と名乗れるようになったのだから(元から名乗ってはいたが)、万事良かった。はずなのだが。

 

 デュバリィは、現在目の前で繰り広げられているその光景に口を尖らせた。

 

「はーい、リンゴのパーユですよー」

 

「きゅい~」

 

 面白く、ない。

 衰弱しきっていたあの時の少女が、小動物に食べ物を分け与えられるようになった事。それは良い事だ。ここまで回復し、デュバリィ達と共に戦える程の戦力を身に着け、他者に糧を分け与えられる余裕まで出来た。

 それは良い事だ。デュバリィの持つ《鉄騎隊》としての矜持になんら反さない。マスターに仕える者として、その余裕はあって困る物では無いと思う。

 

 面白くないのは、同じく自分が保護したようなものであるエィレスが、その身体をクネクネとしならせながら、エンネアの膝で気持ちよさそうに鳴いている、という事だ。

 

 ――少し前は私の膝の上で鳴いていたクセにッ!

 

 つまりはまぁ、そういうことである。

 心なしか、デュバリィの膝の上よりもリラックスしている気がするし。

 気のせいでなければ、デュバリィが撫でている時よりも心地よさそうにしているし。

 

「きゅい?

 ――Nois Ivid Fotra(きゅぃぅぃ)!」

 

「あら……?」

 

 ふと、エィレスがデュバリィを見た。

 そこで何を思ったか、幻のアーツを組み上げはじめたではないか。

 

 そして次の瞬間。

 

「こ、れは……」

 

「あらあら~……デュバリィが寂しそうにしていたから、作ってくれたのねぇ」

 

 椅子に座るデュバリィの膝の上。

 そこに、エィレスと寸分(たが)わない――イタチの姿があった。

 膝の上に乗っている、という感覚。恐らく触れば、その感触もあるのだろう。

 

 剣帝の使う分け身のクラフトや、デュバリィが剣帝から取り込もうとしている同じく分け身とは原理からして違う。

 どちらかと言えばあの《道化師》カンパネルラの使うソレに近い、幻術。

 「身体のそこに」「そういう感触・重さの物が」「触れている」……というように錯覚させる幻惑の術。

 

「きゅ」

 

 そんな幻のエィレスは、何かを否定するように首を振った。

 途端。

 

「なッ……!」

 

 エンネアの膝に乗っていたエィレスの身体が空間に蝕まれるように穴あきになって、消えて行く。

 デュバリィの膝の上でエィレスが胸を張るように立ち上がった。

 エンネアはあらあらうふふ、と笑っているだけ。

 

「……ふ、ふん! 別に寂しくなんてありませんでしたが……まぁ、撫でて欲しいというのなら、話は別ですわ! ほら、早く横になりなさい!」

 

「きゅ~ん」

 

 日に日に、エィレスのアーツも強力になって行く。

 エンネアは《魔弓》を扱う遠距離タイプ故、今でこそデュバリィと争う相手はいないが、この先どうなるかはわからない。

 決して精進を怠るつもりはないが、もし――もしも、自分よりも遥か高みにいる者が、《鉄騎隊》へと参入したら。

 

 ――望むところですわ……!

 

 拳を握りしめるデュバリィ。

 まだ見ぬ敵。まだ知らぬ身内(てき)に、心の中で宣戦布告をする。

 

 ――筆頭も、マスターの忠実なる僕も、あとエィレスの主人と言う立ち位置も! どれも譲りませんわよ……!

 

 それは、その瞳と表情は。

 エィレスも、付き合いの浅いエンネアですらわかる程に。

 

 それはそれは、微笑ましいものだったという――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな矢先である。

 本当に矢先。任務からすぐの事。

 

 《楽園》の関係者であり、教団の関係者でもあるとある国の要人が護衛を引き連れ、新たなる”商品”を仕入れる算段を立てている、という情報が知らされたのは。

 結社は決して正義の組織ではない。むしろ()()ゼムリア大陸にすむ者たちにとっては害悪でしかないのだろう。

 それでも、デュバリィ達には……《鋼の聖女》には、”義”があった。

 それだけで、動く理由は十分である。

 

「エィレス、お願いしますわ」

 

「きゅ」

 

 その。

 要人とやらが使う、街道。

 

 幻属性のクオーツやセプチウムを多く食すエィレスは、その身が特殊な効果を発揮するクオーツのような特性を持っている。

 例えば、敵の情報を解析する”情報”、”探知”だとか。

 例えば、敵の先制攻撃を失くす”葉隠”だとか。

 

 例えば、今デュバリィがお願いした――。

 

「霧……? 昼間から霧なんて……」

 

「霧? どこかの山に出ていますか?」

 

「何を言っている。今、我々の近くに出てきているだろう!」

 

 敵の動きを鈍らせ、こちらを見つけづらくする”幻朧”に”幻惑”だとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 遊撃士(ブレイサーズ)協会(ギルド)は、その紋章の示す「支える篭手」の名の通り、民間人のための組織だ。民間人を魔獣などの脅威から守り、困りごとがあれば協力する。それが遊撃士。

 だが、完全なる正義かどうかと問われれば、青い遊撃士であれば即応で頷くだろうが、少しでも”経験”を積めば「そうだ」と断言するのは難しくなる。

 

 遊撃士協会は、国に逆らう事が出来ないのだ。

 

 故に、こういう――。

 

「ハハハ、今回は上モノ、のようですな」

 

「ええ、イキの良いのを仕入れましたからねぇ!」

 

 ……こういった、叩き潰したくなるような凄惨な()()も、見て見ぬふりをしなければならない。

 自身は準遊撃士で、彼らは護衛対象。彼らは自身に依頼をし、自身がそれを受けたのだから当たり前だ。

 

 だが――。

 

「おっと……暴れるんじゃねえよ、殺されてえのか!」

 

「ハッハッハ、良いのですよ。多少暴れているくらいの方が()()()()()()

 

 ギリ、と奥歯を噛みしめる。

 この外道どもを殴れない篭手が憎い。

 

 自分には力があって。

 外道の餌食になるモノ達を、助けられる力があるのに。

 

 何もできない。

 その悔しさが、拳を一層強く握りしめさせた。

 

「おや……霧が出てきましたね」

 

「霧? 昼間から霧なんて……」

 

 そんな時、護衛対象たちが何やら騒ぎ始めた。

 霧が出ているだの、出ていないだのと……そんなもの、見て分からないのか。

 

 立ち込めるような深い霧が出ているじゃないか。

 

「ッ――!?」

 

 そんなはずはない。

 昼間の、この季節に霧なんて。雨なんてここ一週間は降っていないのに。

 

 ならば――。

 

「敵襲ッ……!」

 

「子の確保を優先しなさい」

 

 凛とした声が聞こえた。

 全てが静まり返った。

 

 深い霧の向こうに、誰かいる。

 

「なッ、商品が無い!?」

 

「――遅すぎですわ」

 

「誰だガッ!」

 

「あらあら」

 

 小柄な影が霧を駆け抜け、その間を縫うように細い蛇のような、軌道を変える矢が飛び交う。

 そして――そして、巨大な槍を持った女性が、霧の中から現れた。

 肌が泡だつ。圧倒的な存在。思わず尻もちをついた。

 

「……」

 

「……ッ」

 

 兜面越に、目があった気がした。

 声が出ない。

 

「……デュバリィ、エンネア。目的は達しました。帰りますよ。エィレスはその子の匂いを辿りなさい」

 

「「はっ」」

 

「きゅーん」

 

 相手にもされなかった。

 その事実――よりも、民間人を救った白金の女性が頭に焼き付いて離れない。

 

 霧が収まるまで、しばらく呆けていた。

 収まると、”商品”も女性たちも、消えていた。

 まるで夢の様に。

 

「オイッ! 何を呆けている遊撃士! 商品が盗まれたんだぞ、犯人を追え! あっちの森に入って行ったのを見たぞ!」

 

「っ……了解しました」

 

 下衆に阻害された思考に憤りを覚えながらも、しかし責務を果たすべく森へ向かう。

 

 そこに果たして、本当に彼女がいて。

 

 そうして、自身の人生の分岐点に出会ったのだ。

 ……ボロボロに、返り討ちにされた後に。

 

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