デュバリィに 作:属性値システムに戻してv
「……良い味ですね。東方の茶葉ですか?」
「ええ、そうよ。紅茶も良いけれど、たまにはこういうのも趣があるでしょう?」
「はい」
どことも知れぬ空間の、どことも知らぬティーセット。
ティーテーブルに着いているのは二人。
片方は紫髪の少女。片方はプラチナブロンドの女性。
結社《身喰らう蛇》が執行者No.XV《殲滅天使》レンと、同じく結社が蛇の使徒第七柱《鋼の聖女》アリアンロード。
鉄騎隊はいない。ただ一匹を除いて。
この《お茶会》は、殲滅天使が主催したものだ。
鋼の聖女は快くそれを受け、今こうして共に東方のお茶を啜っている。
「……」
「……大丈夫よ、お姉さん。レンは『慣れる事』に関しては誰にも負けないから」
何も言わず、目を落としているだけの聖女に、しかし殲滅天使の方が居た堪れなくなったのだろう。
このお茶会は、レンが剣帝達に救出・保護され、結社入りしてから初めての対面。
安心させるためだったのかもしれないし、結社にお茶会に参加してくれる人がいないが故の寂しさだったのかもしれない。
いずれにせよ、レンの気丈なその発言に、聖女が苦く笑った事を一匹は見逃さなかった。
「ねぇ、お姉さん」
「はい」
「その……イタチ? って、”あの時”にもいたわよね?」
「ええ、エィレスは、攪乱のために先行していましたからね」
「……ふぅん」
一匹は思い返す。
鮮烈なる剣戟と豪槍の舞踏の前の、ささやかな自らの行いを。
恐らく居なくとも全く問題なかった――だが、僅かながらの助力の思い出を。
「……吐き気を催す場所、ですわね」
「きゅ」
眼下――山の中腹に造られたとある屋敷。
小型の飛空艇が幾台か停まっている事から、中に相当数の人間がいる事が伺えた。
耳を澄ませば――聞こえてくるのは、惨たらしい音。
情景を思い浮かべる事すら憚れる、凄惨な音。
「いいですの、エィレス。私達の役目は攪乱――マスターと剣帝、漆黒の牙がここに辿り着く前に、出来る限り
「きゅん」
「貴女は中に入って、幻のアーツで騒ぎを起こしてくださいな。私は外で待機していますから――出てきた者は全て、《神速》の名に懸けて叩き斬りますわ」
「きゅい」
任された。
私が出来得ることはまぁ、余りに少ないだろぉけれど。
下衆に降す裁きが一端を担えるってんなぁら、至高だぁね。
「では――」
デュバリィの姿が掻き消える。
身を隠したのだろう。さぁて、私も。
笑い声の響く屋敷。
獣の身では、異臭を強く感じてしまう。吐き気と暗い感情を抑えながら、身を隠して”そこ”へ向かう。
子供部屋――まるで機能していない、悪辣で悪逆な内容が壁一面に散りばめられたその部屋に、彼女はいた。
十字の傷を全身に負った、少女。自らを保つために自らに祈りを刻み込んだその姿。
彼女の顔の前に立ち、幻のアーツを組み上げる。
「――
「……だ、れ……?」
詠唱と意思が同時に世界を震わせる。魔女の技術。
たちまち、その少女の身体は空気に溶けて消えて行く。
眠りなさい、少女よ。起きた時には全てが終わっているはずだから。
「――さぁ、お待たせ、レン。次は君の番……だ……何!?」
同じように自分の身も隠したその時に、ソイツは現れた。
ニヤついた、嫌悪感しか沸かない笑みを浮かべた男。ソイツは部屋の中を一瞥すると、一転、血相を変えて憤怒の表情へと変わる。
「アイツ……! まだ逃げる気力があったか! 散々痛めつけてやったのに、まだ足りないか!」
「オイ、次の商品はまだかぁ?」
「いねぇ、逃げた! 捜せ! あの体じゃそう遠くにゃいけねぇはずだ!」
男どもが騒ぎ出す。
気分よく
その間に私ぁ、他の子供達の元へも向かい、同じように幻のアーツをかけていく。
こんな状態でも、生きている。
心臓が動いているのだ。生きているのさぁね。
だから、さぁ……いぶり出しの時間だ。
「――
その時、男達は幻視した。
自分たちのすぐそば――廊下に、一本の白い杭が現出してきたことを。
多少なりとも、学のあるものは大いに顔をひきつらせた。
学の無いものは、それが廊下に触れた瞬間に、その正体に気付いた。
杭が触れた廊下が――瞬く間に、白砂へと形を変えて行く。
白砂……否。
塩だ。
「し、塩の杭だと!?」
「そんな、アレはノーザンブリアにあるんじゃないのか!?」
「に、逃げろ! 塩になるぞ!」
「商品はどうするんだ! あれにいくらかけたと……!」
「諦めろ! 足の遅えガキなんざ瞬く間に呑まれる! 何、安心しろ、商品なら他の拠点に腐る程――カ」
その言葉を最後まで紡ぐことは叶わなかった。
その首を、一本の剣が刎ねたからだ。
くるくると回る視界のなかで、突然消えた塩の杭も、なぜ自分の視界が回っているのかも理解できずに、男は絶命する。
しかし周囲の男たちは悲鳴を上げる事すらない。
ただ、恐怖に染まった顔で、今しがた一人の首を刎ねた剣士の元へ向かってくる。
「……なるほど、いぶり出すとはこういうことか」
「強力な、幻属性のアーツ……」
屋敷内を探し回る必要はない。反対側の出口には《鋼の聖女》が。
こちらには、《漆黒の牙》と《剣帝》がいる。
両者ともに進みつつ、男どもを殲滅する。慈悲も救済も無い。
所業に対する裁きと、作業のような斬撃が返るのみだ。
「でも、おかしいな。情報の通りなら、子供がいるはずだけど」
「隠されているだけだ。進むぞ」
青年と少年は進む。
男達の抵抗はなく。
ただただ、屍だけが築かれていった。
そうして彼らは――スミレ色の髪の少女を、見つける。
「……愚かな」
250年前から、こういう人間はいた。
その中でも目も当てられない程に、愚かだと。
聖女――リアンヌ・サンドロットは独り言ちる。
自らの身体も決して、人道に則っているとは言い難い。
子を為す事の出来ない身体。250年を生きる聖女。
目的の為に、それを果たす為に。
「エィレス」
「きゅ」
「子供達に、防護を」
「きゅい。――
エィレスの起こしたアーツが、子供達に活力を与える。
エィレスが肩に乗った事で見えるようになった剣帝達や子供達の位置から、こちらはこちらで子供の保護を始める。
屋敷に下衆はもういない。
剣帝と漆黒の牙、そしてリアンヌ。さらには、屋根などから這う這う逃げた者をデュバリィが。
全て、殲滅した。
「もう、大丈夫ですよ」
聖女は少女に手を差し伸べる。
青髪の少女。かけられた幻術は既に解け、痛々しい傷跡が目立つ。
だが、それを決して見る事無く、聖女は微笑んで手を刺し伸ばしたのだ。
青髪の幼子は、その手を取った。
意識を失う直前にみた、白くて長細いものがなんだったのか。
それは聖女の元で、判明する事となる。
「ええと……だから、その……」
「エィレス、彼女の膝の上へ行ってあげてください」
「きゅん」
身を空気に溶かし、レンの膝へと現れるエィレス。
一瞬驚く様に身を竦めたレンだったが、すぐに
「……ありがと」
小さくつぶやかれた言葉は、お茶の中に消えて行く。
普段の彼女らしくない素直な言葉は、相手が動物故か。
だが、今度こそ聖女が苦いものではなく、柔らかな笑みを浮かべている事に気づき、一匹はそのままなされるがままに、またも微睡へと身体を預けるのだった。
「――