steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
砦の城壁が開け放たれ、『ロングシンフォニー』は砂漠地帯を走り出した。
「いよいよ始まるぞ!」
高揚したファーガスンの声に同調するかのように、『ロングシンフォニー』は一気に速度を上げて砂地を高速で滑走する。
巨大なホバーや推進装置の効果か、巡航速度はビークルとは比べ物にならないほど凄まじいものだった。
最高速での移動は稼働テストでは試せない内容だったが、この分なら実用性に問題は無さそうだ。
さすがは砂漠地帯での運用を前提とした巨大決戦兵器。
こいつを考えた奴は、デザートホーネット団の殲滅でも画策していたのかな。
しかし、そんなことを考えていると、俺たち市民軍の雰囲気を一気に緊張させる存在が砂漠に現れた。
「あれが……『エビルタローン』」
砂煙を上げながら接近してきたブラッディマンティス側の巨大陸上戦艦『エビルタローン』は、こちらの『ロングシンフォニー』とは逆側に舵を切った。
時計回りに円を描くように移動し続け、お互いに距離を測りながら睨み合う。
この距離と揺れでは、俺たちビークル部隊は何もできないので、戦局の判断は戦艦側に全て託された。
お互い敵艦を左舷に捉えたままじりじりとした時間が過ぎ、ついにファーガスンの鋭い号令が轟いた。
「砲撃開始!」
一斉に稼働を始めた『ロングシンフォニー』の主砲は次々と砲弾を撃ち出し、応射する『エビルタローン』の砲弾も交差して、所々で爆炎と土埃が上がった。
大口径の回転砲台から放たれる砲弾はかなりの火力を持つ。
ゲームではそれほど意識しなかったが、実際に砲弾の雨に晒されてみると、その轟音と衝撃はなかなかに迫力があるものだ。
特に『ロングシンフォニー』の左舷甲板に搭乗していた連中は間近で砲弾が炸裂していることもあって、爆音と破片に悲鳴を上げている者も居た。
「うぉおおぉ!」
「ひぃ」
「情けねぇ声出すんじゃねぇ! 何のこれしき……」
「くっそ! 本当に大丈夫なんだろうな!?」
しかし、この世界における火砲は概して精度が低い。
艦砲とはいえ、火力はともかく射程距離と命中精度はお察しだ。
戦艦同士の砲撃戦ではお互いにほとんど有効弾を当てられないまま時間が過ぎた。
たまに嫌な軌道で甲板近くまで飛んでくる砲弾もあるが、それは俺がチェーンガンで撃ち落とした。
艦砲の砲弾は空中で歪な花火を咲かせるようにして霧散する。
防御としてそれほど意味のある行為ではないが、味方の士気を上げるのには役立ったようだ。
「おおぉぉぉ! 撃て撃て!」
「勝てるぞー!」
砲手たちは俺が敵の砲弾を撃ち落として防いだのを見て、狙い通りやる気を出して射撃を継続した。
しかし、火砲の精度が悪いのは『ロングシンフォニー』も同じこと。
相変わらず、お互いの戦艦に有効打は与えられないまま、弾薬だけが減っていく。
そして、呼吸を合わせるかのように両者の距離が少し開いたタイミングで、ファーガスンは次の指示を出した。
「トロットビークル部隊出撃!」
ついにビークル部隊を投入しての戦闘が始まった。
『ロングシンフォニー』から主に警察出身の市民軍兵士が乗る『ギャロップ・タイプD』が次々と飛び降りると、それに呼応するように敵の『エビルタローン』からもブラッディマンティスの制式ビークル『ナイトメア』が飛び出す。
砂煙の中にビークルのヘッドライトが揺らめく光景は何とも不気味だが、ここまで来たらやるしかない。
「野郎ども! 遅れるなよ。片っ端から撃破だ」
「「「「「おう!」」」」」
俺の指示に野太い歓声で答える荒くれビークル乗りたちも砂地に降り立ち、『ギャロップ・タイプD』の隊列に並びながら突撃する。
トロット楽団メンバーのビークルも、防御特化仕様のマジョラムの【イエロー・ベア】を残して、皆が戦艦の甲板を飛び降りた。
こちらのビークル隊の先頭には、いち早くスラスターをふかして飛び出したシュナイダーの【マキシマム】が突出している。
彼は敵艦の砲撃を掻い潜るようにして敵ビークル部隊の真ん中に飛び込むと、一瞬で数台の『ナイトメア』を撃破した。
さすがは接近戦のエキスパート、初撃で凄まじい戦果だ。
「ふん……」
シュナイダーがスカした表情で――本人にそのつもりはないかもしれないが――金棒アーム構え直すと、ブラッディマンティス側の『ナイトメア』が続いて【マキシマム】に襲い掛かる。
向こうも仲間をボコボコに潰されて黙っているタマではない。
だが、そんなタコ殴りを許すほど市民軍側も甘くはなかった。
シュナイダーに追従するように敵の隊列に突っ込んだこちらのビークル部隊は、そのまま敵と激突し、勢いに任せて押し込み始める。
「うぉらあぁぁぁ!」
「ブチ殺せぇ!!」
「くたばれ、盗賊が!」
「俺たちの街を滅茶苦茶にしやがって!」
ブラッディマンティス側のほぼ規格化された『ナイトメア』の集団と違い、市民軍側には警察ビークルこそ多いものの途中参加のビークル乗りたちが大勢参加している。
これが原作とは大きく違う部分だが、トロット楽団メンバー以外にもカラーリングや武装の違うビークルが多数入り混じり、戦場は一種のカオスと化した。
荒くれどもの品の無さも相まって、各所でどちらが敵か味方かわからなくなりそうなビークル同士のぶつかり合いが勃発している。
敵側はほぼ『ナイトメア』一色で統一されているが……俺はともかく、一部で誤射は避けられないかもしれないな。
そして、本格的なビークル同士の衝突が始まると、見慣れたトロット楽団メンバーたちも奮戦しているのがわかった。
「ちっ、出遅れたぜ」
「そこだ!」
「ぼ、僕だって!」
フェンネルの長距離キャノンが密集した敵ビークルの集団のど真ん中に炸裂し、バニラはガトリングアームを乱射しつつトライデントで的確に敵ビークルに止めを刺し、バジルもすり抜けざまに『ナイトメア』の駆動部をクローアームで叩き斬っている。
三人の連携もなかなかのものだな。
フェンネルの【ブルー・サンダー】は完全に遠距離特化型で、バジルの【グリーン・リーフ】は接近戦仕様とはいえ軽量化によって機動力を向上した機体のため耐久力が低い。
十分な装甲と遠距離近距離ともに強力な兵器を搭載しているのはバニラの【カモミール・タイプⅡ】だけであるため、前衛と後衛の両方で戦うバニラの負担が大きそうな編成だが……操縦者の技量――特にバニラとフェンネル――でカバーしている。
見た感じ、『ナイトメア』ごときに遅れは取らなそうなので、放置でいいだろう。
「よし、こっちも片付けてやるか、な!」
正確に狙いすましたチェーンガンの点射は、こちらの戦艦に横から回り込もうとしていた敵ビークルの燃料タンクを撃ち抜いた。
俺も『ロングシンフォニー』の甲板から降りて、【ジャガーノート】のスラスターを起動して敵のビークル部隊に突撃する。
そして、砲弾の雨の中、しばしビークルが入り乱れての乱戦が続いた。
「死ねぇ!」
「…………」
正面に迫る『ナイトメア』は、俺に向かってアックスを大きく振り下ろした。
量産型戦闘ビークルでは機動力も操作性も【ジャガーノート】に劣る以上、機体の重量を乗せた力押しは悪くない選択だ。
だが……。
「ぐわっ」
馬鹿正直に打ち合いはしなかったが、俺は強化ブレードで鋭く反撃した。
相手のアックスの柄近くを切り落とし、返す刀で敵ビークルのエンジンを突き刺して無力化する。
『ナイトメア』が崩れ落ちるのを待たず、俺はスラスターを噴射する勢いで【ジャガーノート】のボディを当てて敵を正面に弾き飛ばし、もう一台の敵ビークルを巻き込んで転倒させた。
舐めてもらっては困る。
俺もシュナイダー対策を含め接近戦の訓練は積んでいるのだ。
ちょうど正面が空いたため、俺はビークルを前方に滑らせながら旋回し、周囲に居た『ナイトメア』二台にチェーンガンを流し撃ちした。
燃料タンクを撃ち抜いたことで敵ビークルが炎上したが、俺は最後まで確認せずにさらに【ジャガーノート】を半回転させる。
「なっ!?」
俺が強化ブレードで後ろから迫るアックスを防ぐと、敵ビークルの操縦手は驚愕の声を漏らしたが、こちとら乱戦の状況には慣れているのだ。
全方位に神経を張り巡らすことなど最早当たり前だ。
動きを止めた目の前のビークルのコクピットをチェーンガンで撃ち抜くと、そのまま次の敵の対処に移る。
至近距離で密着していたため、俺が鍔迫り合いをしている状況と見たのか、俺を仕留めようと発砲してきたブラッディマンティスのビークルが居たが……俺は危なげなくスラスターで砲弾を躱すと、チェーンガンを応射して無力化した。
「がっ、やめ……」
「悪いな」
スクラップと化した目の前の『ナイトメア』を【ジャガーノート】の人脚ノーマルM強化型で踏みつけながら、俺は続けてチェーンガンを点射して敵ビークルの燃料タンクや駆動部を撃ち抜いていく。
こちらに土手っ腹を晒している目立つ深紅の『ナイトメア』などいい的だ。
砂嵐で燃料タンクやコクピットに照準を絞ることは難しいが、最悪エンジンや駆動部に甚大な損傷を与えれば、近くの市民軍側のビークルがタコ殴りにしてくれる。
連鎖的に、俺も味方が敵の大群を抑え込んでくれるおかげで、チェーンガンを自由に撃ちやすくなっていた。
そんな具合に狙撃を続けていれば、俺の撃破スコアもどんどん溜まっていく。
「あいつだ! あの黒いビークルをやれ!」
「また一台やられたぞ!」
さすがに味方を次々と撃破されれば、ブラッディマンティス側も黙ってはいない。
一部のビークルの編隊は市民軍の警察ビークルを無視して俺に向かってきた。
敵艦の近くではシュナイダーとバニラが盛大に暴れているが、少なくともひっきりなしに俺を狙う敵も現れるあたり、今のところ撃破数は俺の単独トップかもしれない。
俺の武装は命中精度が高く射程距離も長いので、どちらかと言えば後衛寄りにポジションを取っている。
土埃と砲弾の舞う戦場では、視界が悪すぎていつも通りの射撃能力は発揮できないが、敵は俺を討ち取ろうとやってくるので、近場の敵を殲滅するだけでも撃破数は順調に伸びている。
近づいてきた『ナイトメア』をまとめて強化ブレードで斬り捨て、俺は容易く敵の包囲網を突破して後退る敵ビークルにはさらにチェーンガンの弾を撃ち込んだ。
「退け! 退くんだ!!」
「あいつはいい! 手を出すな!」
さすがに突撃部隊を殲滅されては分が悪いことを感じ取ったようだ。
指揮系統に近い敵ビークル部隊は、徐々に俺から距離を取っていった。
さて、戦局はどう動くか……。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。