steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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107話 山狩り

 

「この辺りか? ファーガスン」

「ああ、情報ではそうなっていたが……」

 足場の悪い山の斜面で【ジャガーノート】を停止させると、俺は木々の間から狩猟で獲物を探す要領で辺りを見回した。

 追従するガーランド警察のビークル部隊も、ファーガスンを筆頭に周囲に意識を割き始める。

 敵影は見えずエンジン音なども聞こえなかったことで、俺たちは再びビークルを前進させた。

「それにしても、またこの場所に来ることになるとはな。トンネル関連ではロクなことが無かったから、懲り懲りなんすけど……」

「そういえば、ここを占拠した盗賊団もグレイ君とバニラ君で殲滅してくれたんだったね」

 そう、今日の俺はウズラ山に来ている。

 ファーガスンたちガーランド警察の愉快な仲間たちと一緒に、ビークルで線路を辿って移動し、以前『スチーム・ハムレット』を撃破したトンネル近くまでやって来た。

 さて、何故俺がこのタイミングでハッピーガーランドの街を離れ、朝からこんな場所に居るのか?

 話は昨日の午後に遡る。

 

 

 

 

 バニラとコニーがネフロへ向かった直後。

 ロブスター亭の俺をファーガスンが訪ねてきた。

 そろそろブラッディマンティスの動きとフクロウヶ森の方を調べるため、出立の用意をしていたところだったが、ファーガスンのただ事ではない様子に俺は空の言葉に耳を傾けた。

「おお、グレイ君! よかった、ハッピーガーランドに居たか!」

「ああ、ファーガスン司令……いや、今は警部に戻ったか。どうかしたのか?」

「手を貸してほしい」

 余裕の無い表情でそう言うと、ファーガスンは矢継ぎ早に説明した。

「ウズラ山トンネル付近で盗賊ビークルの目撃情報があった。それも大編隊だ」

「何だって!?」

 一瞬、トンネルを占拠していた『スチーム・ハムレット』の盗賊団の残党か第二陣がやって来たのかと思った。

 しかし、目撃されたというビークルの特徴を鑑みると、どうやら敵の正体は別物のようだ。

「ブラッディマンティスの『デリンジャー』に『ナイトメア』……それにデザートホーネット団の『イエロー・ワスプ』だと? 確かか?」

「ああ、以前ガラガラ砂漠を訪れたことがある商人からの情報だ。あまりにも不自然な場所に出現したため、通報したそうだ。情報の確度は高いと思われる」

「……奴ら、列車でも襲うつもりか?」

「今のところ被害報告は無いが、この先はわからん」

 俺はファーガスンの言葉を聞いてしばし逡巡し、そして顔を上げてさらに疑問を投げかけた。

「連中の狙いは?」

「不明だ」

「現金輸送車両や戦略物資を積んだ列車が通る予定は?」

「無い。公的には」

「…………」

 少し気になる言い方だが、少なくともファーガスンの権限でタッチできる範囲にそういった情報は無いようだ。

 そうなると、やはりブラッディマンティスとデザートホーネット団の連合ビークル部隊の目的は、ただの列車強盗ではないというわけか。

 もしかしたら、汽車を襲撃してバニラを排除しコニーを攫う気かもしれない……。

 デザートホーネット団が砂漠の外に出てきたことは気掛かりだが、彼らもブラッディマンティスに強く言われれば断れないのだろう。

「グレイ君、私は連中を殲滅するべきだと思う。過去の所業と残存戦力を鑑みれば、またとんでもないことをしでかす可能性は十分にある。それに、今は列車やペンシル鉄道に被害は出ていないが、いつ一般市民に牙を剥くかわからない」

「ああ、同感だ」

「だが、奴らは百台近いビークルの大編隊だ。ガーランド警察には街の警備やパトロールの仕事がある。市民からの有志を募るのも、戦争が終わった直後であることを思うと考え物だ。君にしか頼れないのだ」

 ファーガスンの言葉に俺はしばし考え込んだ。

 相手が百人からの大規模な部隊ともなれば、少しでも頭数を集めた方がいい。

 少なくとも、俺とファーガスンだけで山狩りに向かうなんてのは自殺行為だ。

 言い方は悪いが、盾や囮になる連中が周りに居るのと居ないのでは、危険度が段違いだ。

 そうなると、今すぐに出撃するのは無理だな。

 当然、俺がフクロウヶ森に乗り込むのも遅れることになる。

 しかし、この問題を放置する気にもなれない。

 先のことに気を取られて、それでコニーとバニラが原作とは違うところで襲われては目も当てられないからな。

「……わかった。少しでも人員とビークルを集めて機動隊を編成してくれ。俺も討伐に参加する」

「ありがとう!」

 こうして、俺たちは翌朝の日も昇らぬうちにスクランブルすることとなったわけだ。

 

 

 

 

 ウズラ山トンネル付近の捜索を開始してから数時間。

 すっかり日も高くなった頃、俺たちはついに目当ての存在と遁走した。

「来たぞ」

「っ!」

 俺が静かに声を掛けると、ファーガスン指揮下の二十台ほどの警察ビークルの操縦手たちは、緊張で顔を強張らせながら身構えた。

 警察ビークルはボディなどの基幹部分こそコスト削減を優先した量産型だが、大盾にランチャーと近接武器を搭載した防御主体の重装機でもある。

 ファーガスンが厳選した戦闘部隊のパイロットも、比較的フィールドでの戦闘に慣れた優秀な警官たちなので、死角は少ない。

 しかし……。

「ぐわっ」

「ちっ!」

 一瞬のうちに、先頭に居た警官の『ギャロップ』がガトリングに撃ち抜かれて大破した。

 二方向からの集中砲火を浴びては、あのライオットシールドも役に立たない。

 俺は即座に林に向かってチェーンガンを応射するが……手ごたえは無かった。

 敵の『イエロー・ワスプ』は既に移動している。

 先ほど奴らが居た場所にビークルの気配は無い。

「野郎……うぉ!」

 嫌な予感がしたので、俺はスラスターをふかして【ジャガーノート】をダッシュ移動で後退させた。

 案の定、先ほどまで俺が居た場所に、逆サイドから発砲されたガトリングの着弾が通り過ぎる。

「奇襲だ! 散れ!」

「「「「「はっ」」」」」

 ファーガスンは的確な指示を下したが、それでも敵は一枚上手だった。

 警官たちが遮蔽物を確保してビークルを下げる前に、さらに数台がガトリング弾を食らって損傷する。

 もちろん、俺も林の中から煌めく敵のマズルフラッシュを狙って撃つが、なかなか敵を捉えられない。

「くそが! ちょこまかと……」

 一対一や広い場所での撃ち合いならば精度と射程の差で俺が有利に立ち回れるが、今回は完全に待ち伏せを食らった。

 有効射程のアドバンテージを潰され、しかも、敵は視界の悪い林の中で次々とポジションを変えていくものだから、未だに俺の撃破数はたったの二機である。

 警察ビークルより前に出て矢面に立ちながら応戦していてこのザマとは、まったくシャレにならない。

「あいつら……」

 敵は明らかにデザートホーネット団の『イエロー・ワスプ』だが、どう見ても普通じゃない。

 こんな日の高い時間帯にもかかわらず姿を視認させず的を絞らせない挙動に、警察ビークルを的確に無力化する正確な射撃。

 彼らの庭である砂漠とはかけ離れた場所においてもこれだけの立ち回りができるとは、向こうは相当な精鋭を連れてきたようだ。

 それに、先ほどチラッと見えた敵影……『イエロー・ワスプ』と似た造形だが、明らかにサイズとカラーリングが違う機体が居た。

 あれは、間違いなく……。

「グレイ君っ」

 慎重にビークルを進めつつ俺に声を掛けてきたのはファーガスンだった。

「このままではマズい。一度、撤退を……」

「ダメだ」

「っ! 何だって?」

 俺は林に向かってチェーンガンを点射しつつファーガスンに答えた。

「防御態勢を取らせろ。間隔を空けて俺に続き、キャノンで援護だけしてくれ」

「まさか……」

「ああ、俺が始末する」

 正直、ここで敵を深追いするメリットはあまり無い。

 既に敵は戦闘状態に突入したことから散開した。

 再び集結して防備を整えるまでには時間が掛かるはずであり、鉄道が襲撃されるのを回避できただけでも十分だ。

 そもそも、この時間なら、バニラとコニーは既にネフロを出発していてもおかしくない。

 しかし……奴の存在はあまりにも気掛かりだった。

「(何故、『クリムゾン・ホーネット』が……)」

「グレイ君?」

「……いや、何でもない。出るぞ、掩護しろ!」

 

 

 些か強引にファーガスンを説得した俺は、チェーンガンで敵のマズルフラッシュ付近を狙いつつ【ジャガーノート】を林の中に飛び込ませた。

 掩護射撃があるとはいえ、奇襲を受けた状態でここまで無鉄砲な突撃など、滅多にやるものではない。

 正直、あまりやりたくない戦法だ。

 しかし、俺はここで退くつもりなど毛頭無かった。

 敵のガトリングが何発かブレストパーツやボディに掠るが、ミスリル装甲なら耐えられる。

 正面から受けた弾丸も何とか装甲ブレストで防ぎつつ、俺は木々の間からこちらを狙う敵ビークルに肉迫した。

「敵、接近!」

「くっ、何て奴だ……」

 一番近い場所に居る『イエロー・ワスプ』はこちらにガトリングを向けるが、ここまで来ればこっちのものだ。

 アームを持ち上げる動作に合わせて流すようにトリガーを引き、敵の駆動部に向かって数発チェーンガンの弾丸を撃ち込むと、『イエロー・ワスプ』は武器の狙いを付けることもままならず崩れ落ちる。

 そのまま強化ブレードを振るってコクピットごとデザートホーネット団の構成員を仕留めて止めを刺した。

「おのれっ」

「ぬっ!」

 敵も精鋭だけあって立ち回りの選び方は的確だ。

 距離を詰められたら詰められたで、ある程度は接近戦も止む無しと判断して対応してくる。

 もう一台の『イエロー・ワスプ』は俺の【ジャガーノート】を蹴り倒すように体当たりを敢行してきた。

 こちらの射撃を封じて押し込み、そのままゼロ距離からガトリングで止めを刺そうという腹積もりだろう。

 しかし……。

「なっ!?」

「まあ、最善手だとは思うよ」

 俺は【ジャガーノート】が半身になるように引いて、強化ブレードを敵ビークルのレッグパーツの支点に差し込み、最小限の動作で敵の駆動部を破壊した。

 勢いあまって倒れ込んだ敵を、さらにスラスターを使ったダッシュアタックによる突進で張り倒す。

「ぐぁ!」

 敵の突撃をいなしてからの華麗な捌き技だ。

 シュナイダーの真似というほどの完成度ではないが、彼も似たような立ち回りをしていた記憶がある。

 見様見真似だが、俺のカウンターは見事に決まり、敵のビークルはパーツをぶち撒けて大破した。

 そもそも、操作性においても加速力においてもパワーにおいても、【ジャガーノート】と『イエロー・ワスプ』では隔絶した差がある。

 いかに精鋭部隊といえど、この差は覆せないだろう。

「……よし、次だ」

 そんな具合に、俺が矢面に立ちつつデザートホーネット団のビークルを続けざまに撃破していると、ようやく敵の砲火は目に見えて勢いを失ってきた。

 ファーガスンたち警官隊も徐々に山林で遠距離砲撃型ビークルを相手取る戦闘に慣れ、犠牲を出しつつも数機の『イエロー・ワスプ』を撃破した。

 そして、日も傾きかけた頃には、俺たち討伐隊は百機近い敵ビークルを撃破していた。

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃。

 ロブスター亭のホールにて。

「何だよぉ......ローズマリー、すぐに行っちゃったじゃん」

「仕方ないさ。ネフロのアパートを引き払って、完全に引っ越しだからね。バニラとコニーが居るとはいえ、しばらくは忙しないだろう」

「ぶぅー」

 いかにもつまらなそうにテーブルに突っ伏したバジルは、マジョラムの言葉にさらに口を尖らせた。

 しかし、バジルは突如何かを思いついたようにガバッと起き上がると、表情を一変させて明るい声を上げた。

「あ! でも、ゴールドーンなら結構近いし、ロブスター亭のライブにも呼べるかも!」

「やめておけ。排ガスが悪いんだろ。ハッピーガーランドに長く留まるのは良くない」

 いつの間にか現れたフェンネルが、バジルに釘を刺した。

 再びブー垂れるバジルにマジョラムは苦笑いしたが、フェンネルはそんな二人の様子に構わず、視線を外にやって口を開く。

「グレイの奴は、まだ帰ってないのか?」

「ああ、ファーガスン司令と一緒に盗賊退治だって」

「ようやく戦争が終わったってのに、よくやるよねぇ」

 何か用があったのかと聞くマジョラムに対し、フェンネルは素っ気なく否定の言葉を返すと、再びあらぬ方向へ視線をやった。

 そんな具合に、些か微妙な空気になるなか、バジルの口からふと疑問が発せられた。

「あれ? セイボリーは?」

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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