steam and gunpowder smoke chronicles 作:張り子のキメラ
「な、きさ……」
「うるせぇ! 死ねや!」
驚愕の表情を浮かべてビークルを反転させようと試みる敵に対し、俺は無慈悲に強化ブレードを振り下ろした。
『ナイトメア』に搭乗していたブラッディマンティス社員は、アックスアームを持ち上げる間もなく絶命する。
俺はファーガスン率いるガーランド警察のビークル部隊と共に、林のかなり深いところまで足を踏み入れていた。
ここまで来ると、敵はデザートホーネット団だけでなく、ブラッディマンティスのビークルにも何度か遭遇し戦うことになった。
ほとんどが量産型の『ナイトメア』で構成された部隊であり、階級の高そうな奴は居ないため、片っ端から撃破して始末している。
情報収集はできていないが、徐々に敵を追い詰めているのは確実だ。
既に俺に奇襲を仕掛けてくるビークルはほとんど居なくなり、俺の攻撃への対処もできていない。
敵は攻勢の勢いを完全に失い、狩る側から狩られる側に回った。
このエリアに潜伏できる機体の数を鑑みても、ほとんどの敵戦力を潰したとみていいだろう。
しかし……。
「グレイ君、そろそろ敵も殲滅しきったのでは?」
「粗方はな。だが、まだ奴(・)が残っている」
ファーガスンの言葉も一理あるが、最初に少しだけ姿を見せたデザートホーネット団頭領の専用機『クリムゾン・ホーネット』が気掛かりだ。
あれ以来、奴はぱったりと姿を消していた。
既にデザートホーネット団のほとんどの戦力を削っているうえに、ブラッディマンティスのビークルもほとんど潰している以上、連中がここから何かできるとも思えない。
だが、デザートホーネット団の頭領ノーラがこんな場所まで出張ってきた理由は気になる。
原作には無かったムーブである以上、この件を放置することに関しては、どうにも喉に小骨が引っかかったような違和感を覚えるのだ。
とはいえ、そろそろ日も落ちかけて視界も悪くなってきているので、俺としても早めに決着を付けたいところである。
「グレイ君、夜間の行動は危険だ。馬車の時代とは違うとはいえ、戦闘においては視界の悪さが命取りとなることもあり得る。それに、こちらの戦力の損耗も深刻だ。一度退いて、立て直すべきだと思うが」
「そうだな…………っ」
俺はビークルを近づけて囁くように進言してきたファーガスンに相槌を打とうとした。
しかし、俺の研ぎ澄まされた神経は近くの藪の奥に微かな違和感を覚えた。
ビークル乗りとしてやってきた経験なのか、それとも狩人として森で活動してきたことで身に着けた感覚によるものなのか……とにかく、俺は林の奥に息を潜める微かな気配を頭のどこかで感知した。
ファーガスンの声を上の空で聴きつつ木々の間に視線を巡らせていると、次の瞬間、俺の耳は明確な金属の接触音を捉えて全身から冷たい汗を噴き出させた。
「残念だが、そろそろ「伏せろ!!」っ!」
俺は【ジャガーノート】を急加速させ、ファーガスンをビークルごと突き飛ばした。
レッグパーツが縺れて横転するファーガスンに続き、俺もコクピットで息を詰まらせつつビークルを前進させてその場から離脱する。
直後、先ほどまで俺とファーガスンが居た場所をガトリングの掃射が薙ぎ払った。
「なっ!?」
「危なかったな……」
ビークルを立て直しつつ驚愕の声を上げるファーガスンの無事を確認し、俺は安堵の声を漏らした。
見事な奇襲を食らった。
敵の射撃は完全に直撃コースだ。
一瞬でも反応が遅れていたら、【ジャガーノート】のミスリルボディといえど蜂の巣になって結構なダメージを食らっていただろう。
「ぅおっと!」
さらに続けて二連射でガトリングの着弾が接近してきたので、俺は半ば回転するようにビークルを滑らせて回避行動を取る。
「(ちっ、躱したか)」
藪の中から発せられたのは、若い女性の声だった。
しかし、そんなことを気に掛ける間もなく、こちらの陣営は深刻な事態に陥る。
さらに幾度かガトリングが掃射され、俺は何とかやり過ごすことができたものの、警察ビークルはほとんどが無力化された。
ファーガスンの機体はエンジンの中心部を撃ち抜かれ、機能を停止した。
ギリ動きそうな機体も、よく見れば被弾しており、通常通りの戦闘は不可能だろう。
こっちの戦力はほぼ壊滅。
最悪、俺一人で逃げることも考えなければならないが、敵がそれを許してくれるかどうか……。
「くそっ……」
俺は次の攻撃に備えてトリガーに指を掛けて迎撃の準備を整える。
敵は続けて発砲してくると思ったが……次の弾が飛んでくる気配は無く、山道を踏みしめるビークルの足音が近づいてきた。
俺は油断なくチェーンガンを構えて辺りを警戒しているが、神経を研ぎ澄ませても他の方向にビークルの気配は無い。
「(何だ……?)」
やがて、藪の中から敵は姿を現した。
シルエットは少し大振りな『イエロー・ワスプ』といったところだが、向こうが近づくにつれ吟味されたパーツや構造の差が明確に見て取れるようになる。
深紅の塗装に二門のガトリング、複座型のコクピット。
間違いない。
『クリムゾン・ホーネット』だ。
『クリムゾン・ホーネット』に搭乗する女性は、先ほどと同じ声で俺に向かって口を開いた。
「あんたが“ナツメッグ博士の右腕”かい?」
「ああ、そうだ。お前がデザートホーネット団の頭領ノーラだな」
「いかにも」
ノーラの外見は原作通り。
動きを阻害しないピンクのノースリーブに、アラブっぽい白いヒラヒラの付いた帽子にビークル操縦用ゴーグル。
オレンジの覆面で口元を覆っているが、目元を見ればなかなかの美人であることが窺える。
マルガリータが居なかったら、宝石を貢いで口説き文句の一つでも発していたかもしれないが……ノーラは俺を鋭い目で見据えて殺気を滲ませていた。
「他の仲間は?」
「全員、あんたにやられたよ。お目付け役で来ていたブラッディマンティスの連中もね」
辺りを見回しつつ疑問を投げかけると、ノーラは不機嫌そうに鼻を鳴らして答えた。
彼女の言葉を全て信じるわけにはいかないが、まあ結構な数の敵を撃破してきたからな。
そういう意味では、彼女に睨まれるのも当然か。
「“ナツメッグ博士の右腕”グレイ……貴様に決闘を申し込む」
決闘て……もう少し平和な解決方法を模索しませんかね?
おまけにそっち二人だし。
しかし、ノーラは俺の様子に構わず、さらに険しい目でこちらを睨みつつ『クリムゾン・ホーネット』のガトリングの操作レバーを握りなおした。
操縦席に座る男もハンドルに手を掛けて俺を見据える。
聞きたいことは色々とあるが、今は答えてくれる雰囲気ではない。
彼女は……やる気だ。
「いざ尋常に、勝負!」
裂帛の気合でノーラの口から吐き出された声に応じ、俺も【ジャガーノート】のスラスターペダルを踏みこんだ。
初手は俺の攻撃。
山の斜面の土を跳ね飛ばしながら【ジャガーノート】を横滑りさせ、俺はチェーンガンのトリガーを引いて敵目がけて弾丸を数発ほど発砲した。
さすがに早撃ち勝負では、こちらに分がある。
「くっ! 下がりな!」
「はっ」
手応えはあったが、ノーラも一撃でやられるほどヤワじゃない。
ボディに数発の弾丸を食らいつつも『クリムゾン・ホーネット』は後退し、大木を遮蔽物にしてビークルの半身を隠した。
今度はノーラの攻撃が飛んでくる。
クイックピークの要領でビークルを一瞬だけ飛び出させる動きと同時に、『クリムゾン・ホーネット』は二基のガトリングから弾丸を吐き出した。
「おっと」
武器の精度はこちらが上だが、山林は有効射程の優位を十全に活かせる環境とは言い難いうえに、ノーラもガトリング砲の扱いには慣れている。
アウトレンジからの一方的な攻撃などできるわけもなく、こちらも正確な射撃を見舞われた。
俺はスラスターを起動したダッシュ移動で藪の中へ引っ込むが、数発が【ジャガーノート】のミスリルボディを掠り、ガトリング弾に薙ぎ払われた俺の周りの木々がガサガサと音を立てて倒れる。
俺はさらに撃ち返そうとチェーンガンを上げたが、踵を返した『クリムゾン・ホーネット』は長いレッグパーツで軽快に林の奥へと走り去った。
「…………」
損傷度、弾薬消費、搭乗者の精神疲労。
全てを鑑みると、今の攻防は僅かに俺が優勢だ。
「(強い……)」
「そっちの腕も悪くないぜ」
俺は森林に木霊するノーラの声に答えたが、向こうからの返答は無かった。
俺たちはお互い遮蔽物の影にビークルを隠したまま神経を研ぎ澄ませ、そのまま散発的に木々を挟んで弾丸を撃ち合った。
【ジャガーノート】も『クリムゾン・ホーネット』も手数と火力に秀でた強力な射撃武器を搭載しているため、この攻防では一度の失敗が命取りだ。
お互いになかなか本格的な攻勢に出ることができない。
「ノーラ様! 3時に!」
「わかってるよ!」
『クリムゾン・ホーネット』の二人はこちらのビークルと接触した木々の音や動きを頼りに場所を特定し、ライトを照射しつつガトリングを放ってきた。
俺も向こうのライトの灯りを狙って負けじとチェーンガンを撃ち返し、着実にダメージを与えてゆく。
こちらのボディにも何発かガトリング弾が掠り、何とも耳障りな音を立てた。
やはり、そう簡単には攻めきれない。
しかし、しばらくガトリング弾の応酬を続けていると、やがてお互いのビークルのアドバンテージと弱点の差が明確になってきた。
俺の【ジャガーノート】はミスリルの装甲ブレストに装甲ボディを搭載しているため、通常素材のビークルよりも耐久力に優れる。
一方、『クリムゾン・ホーネット』はガトリングを二基搭載しているため、こちらよりも手数と制圧力に優れる。
そして、最も明確な差といえば、【ジャガーノート】が一人で操作する汎用ビークルなのに対し、『クリムゾン・ホーネット』はパイロットとガンナーが別れた複座型のビークルである点だ。
デザートホーネット団のビークルは、広大な砂漠で長距離を一気に移動するため、瞬間的な加速性能よりも最高巡航速度を重視した設計となっている。
運用としては、砂漠を駆けて標的に急速接近し、戦闘時には射手が砲撃に集中して大火力の掃射を見舞う戦術だ。
悪くない設計思想だが……あくまでも『クリムゾン・ホーネット』はキャラバンなど戦闘力の乏しい敵に飽和攻撃を仕掛けるためのビークルだ。
はっきり言って、汎用ビークルほど小回りは効かず、タイマンには向かない。
ノーラは素早く的確に操縦手へ指示を出しているが、やはり俺が搭乗する【ジャガーノート】を捉えるには至らないようだ。
当然、被弾率が両者で全く異なる。
時間が経過すればするほど、『クリムゾン・ホーネット』は損傷箇所が増えて動きが鈍っていったが、こちらは高い耐久力とマルガリータに調整してもらった足回りの機動力のおかげで然程ダメージを受けていない。
「ノーラ様! エンジンが……」
「くっ……」
所々をチェーンガンに撃ち抜かれた『クリムゾン・ホーネット』は、もうもうと黒煙を上げて稼働の限界が近いことを示している。
暗闇に包まれた山林地帯であることも相まって、敵はこちらの姿を完全に見失っているようだ。
このチャンスを逃す手はない。
「っ! 後ろだ! 反転!」
「なっ!?」
俺は逆サイドから回り込み、辺りを警戒する『クリムゾン・ホーネット』が後ろを向いたタイミングで呼吸を合わせて飛び掛かった。
ノーラはギリギリでこちらの接近に気付いたが、俺を迎撃するには遅すぎる。
そもそも、『クリムゾン・ホーネット』は近接武器を装備しておらず、接近された時点で詰みだ。
俺はアームを操作して強化ブレードを薙ぎ払いつつ、【ジャガーノート】の装甲ブレストで押し潰すように『クリムゾン・ホーネット』に突進した。
『クリムゾン・ホーネット』は独自のレッグパーツを持つ大型ビークルだが、出力では【ジャガーノート】も負けていない。
吹き飛んだ衝撃で背面から大木にぶち当たった『クリムゾン・ホーネット』はさらにパーツを撒き散らし、搭乗していたデザートホーネット団構成員とノーラも潰れたコクピットに身体を挟まれて悶絶する。
そして、エンジンを強化ブレードに破壊された『クリムゾン・ホーネット』は機能を停止して、ついにその場に崩れ落ちた。
第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。
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是非、読みたい! 早く晒せ!
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要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
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そんなことよりお腹が減ったよ。