steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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110話 砂漠の掟

 

 デザートホーネット団の頭領ノーラを下した俺は、辺りを探して先ほど彼女に叩き落とされた拳銃を回収した。

 ノーラは相変わらず起き上がる気配が無いので、彼女のことは一旦放置して【ジャガーノート】の所に戻る。

 幸い、ビークルに深刻な損傷は無い。

 愛機のコクピットに乗り込んだ俺はエンジンを再始動し、圧し掛かっていた『クリムゾン・ホーネット』の残骸を押しのけながらレッグパーツを動かして、【ジャガーノート】を横転から復帰させた。

「ファーガスン! ここだ!」

 俺は【ジャガーノート】のチェーンガンを空に向けて何度か発砲し、逸れたファーガスンたちを呼んだ。

 まるで俺が遭難したみたいだが、四の五の言っていられる状況ではないので、ビークルのヘッドライトを点灯したままにして味方にこちらの位置を知らせる。

 こんなことなら、フレアガンでも持って来ればよかった。

「ぅ……っ……」

 俺がビークルを降りると、ノーラも少し回復したのか、顔を上げて俺の方に視線を向けた。

 もう殴り合いはご免なので、俺は少し離れた位置から彼女の眉間にS&W M10の銃口を突きつける。

「おい、妙な動きはするなよ」

「…………」

 こちらを見据えるノーラの目には、何の感情も浮かんでいない。

 やがて、彼女は視線を下げると、静かに口を開いた。

「これまでか……」

「ああ、お前の負けだ。今回の件の経緯、ブラッディマンティスに関して知り得たこと……洗いざらい喋ってもらうぞ」

「好きにしなよ。どうせ、もう終りだ。アタシも……アタシの盗賊団も」

 俺は若干の驚きを覚えながらノーラの顔を見た。

 彼女は口を噤むと思っていただけに、少し意外な反応だ。

「やれるだけのことはやった。奴らは納得しないだろうけど……もう、どうしようもないことだよ」

 ノーラは完全に諦めきった様子だ。

 友軍が全滅しても窮地に陥っても屈しない先ほどの気迫は、今の彼女の姿には微塵も無かった。

 先ほどまで、あれだけしつこく粘り俺に挑み続けていたというのに……少し拍子抜けだ。

 まあ、この期に及んで抵抗されるよりはマシか。

 もう、こいつと殴り合うのはご免だからな。

「(おーい! グレイ君! そこかぁ?)」

「こっちだ!」

 林の中からビークルの足音に混じってファーガスンの声が聞こえたので、俺はそちらに向けて声を張り上げて呼びかける。

 しばらくすると、ファーガスンは一番被弾が少ない警察ビークルで、俺の場所までやって来た。

「他の隊員は?」

「負傷者は一か所に集めて待機させている。幸い死者は出ていないが、動けないほどの重傷を負っている者も多い。無事な隊員たちを見張りに立たせてはいるが、まともに動くビークルはこれだけだよ」

「わかった。早いところ、こいつの尋問を済ませてしまおう」

 

 

 ノーラは宣言通りこちらの質問に素直に答えてくれた。

 やはり、今回の件はブラッディマンティスの差し金で、目的は俺の足止めだ。

 そのために、わざわざトンネル付近で派手に動いて俺たちを呼びよせ、山林に誘い込んで持久戦を挑んだらしい。

「君らは陽動だったわけか。一体、何から……? ブラッディマンティスの奴らは一体何を企んでいるのかね?」

「さぁね。アタシたちはただグレイの奴を南側に引き付けるよう言われただけさ。お目付け役でアタシたちと一緒に来てた奴らは鉄道や街の周辺も探ってたみたいだけど……詳しいことは知りやしないよ」

「そうか……」

 ハッピーガーランド近郊の警備体制でも偵察していたのかな?

 どちらにせよ、そこら辺の情報はノーラもこれ以上持っていないだろう。

「ああ、でも……」

「ん?」

 ノーラは宙に視線を彷徨わせると、一拍置いて口を開いた。

「奴ら、ハッピーガーランドの北の方で何かしているみたいだね。向こうの司令部がどうとか言ってたよ」

「北か……」

 ハッピーガーランド北西には、奴らがゲーム終盤で戦力を集結し飛行船『グランドフィナーレ』を準備していたフクロウヶ森がある。

 間違いないな。

 ブラッディマンティスは俺にフクロウヶ森のことを嗅ぎつけられている前提で、ノーラを足止めに寄越したわけだ。

 当然ながら、ノーラは『グランドフィナーレ』の件を知るはずもない。

 ファーガスンは他にも色々とブラッディマンティスに関することを質問したが、ノーラの口から特に重要な情報は出てこなかった。

「むしろ、グレイ自身の方が色々と奴らのことを知ってるんじゃないかい?」

 ノーラが俺を顎で示したことで、ファーガスンもこちらへ視線を向けた。

 もちろんファーガスンも『グランドフィナーレ』のことなど知らない。

 下手な嘘は良くないが、フクロウヶ森に関して俺が最初から知っていたというのも不自然だな。

「確かに、ホトトギスの森周辺でブラッディマンティスが動いているという情報があった。念のため、俺も調べに行こうと思っていたが、出る直前にファーガスンがロブスター亭に来たからな。向こうは後回しにしちまったが……やはり、ガセじゃなかったか」

「なるほど……ブラッディマンティスはグレイ君の戦力と行動力を危険視して、本命から引き離したというわけか」

 俺はあくまでも確証は無いというスタンスだが、ファーガスンも余計な猜疑心を働かせる気は無いようで、俺の話に納得した。

「とりあえず、ホトトギスの森方面に行ってみるしか無いだろう。連中の企みを暴くには、それが最も手っ取り早い」

「……そうだな」

 ファーガスンは少し懸念が残るような表情をしていたが、最終的に俺の言葉に納得した。

 

 

 肝心のブラッディマンティスに関する情報を粗方聞き終えたところで、ファーガスンはしばしの逡巡の後に口を開いた。

「ノーラ、もう一つ聞きたい」

「…………」

「何故、君たちはブラッディマンティスにそこまで従うんだ?」

「…………っ」

 ファーガスンの言葉にノーラは一瞬だけ顔を強張らせたが、目を背けるようにして沈黙を続けた。

「今回の状況や先ほどの話から、デザートホーネット団とブラッディマンティスが協力関係にあることはわかった。しかし、君たちは砂漠の盗賊団だ。それに、砂漠の外で狼藉は許されないと……その掟を破ることは許されないと聞く。それを曲げてまで……どうしてブラッディマンティスにそこまで肩入れするんだ?」

「っ! アタシたちは……!」

 ノーラは絞り出すように呻いたが、最後まで言葉を紡ぐことなく唇を噛んだ。

 彼女たちは望んでブラッディマンティスに協力しているわけではない。

 しかし、それを自らの口から言うのも辛いものがあるだろう。

 ノーラは完全に口を噤む構えなので、俺はゆっくりと口を開いた。

「三年前だったか? 俺がこの国に来る前の話だが……確か、ガラガラ砂漠で大規模な討伐作戦があったらしいな?」

「ああ、街と警察の上層部からのお達しで、盗賊団の一掃作戦が実施されたのだ。キャラバンを襲撃して物流を阻害する砂漠の盗賊団は、最優先の排除目標だった」

「その作戦が設定された背景は……あれか。五年前の件も影響しているのだろう?」

「……うむ。当時、ガーランド警察は大きく評判を落としていたからな。否定はできん」

 あの事件は、チコリに対して見て見ぬふりをした市民全員が加害者みたいなものだ。

 しかし、一般市民にしてみれば、その責任は組織に……警察あたりに押し付けたいものだろう。

 何にせよ、当時にガーランド警察はそんな針の筵状態をどうにかしようと考え、大規模な盗賊討伐という世間的にも受けがいい作戦に及んだわけだ。

 結果は……世間からの評判で言えば大成功だ。

 大勢の盗賊を検挙することに成功し、ガーランド警察は何とか面目を保った。

 チコリの件に関しては街の人間たちにとっても都合が悪いので、蒸し返されることも無く、と。

「だが……」

 ファーガスンは一拍置いてから苦々しい表情で言葉を続けた。

「実際の現場はひどい有様だった。双方の損害はかなりの数に上り、砂漠の商人など民間人からも犠牲が出た。寧ろ、我々警察が被害の拡大を助長していた感さえあった。ハッピーガーランド以外の住民ならお構いなしといった具合にな。そんな折、突如、上層部から討伐隊の解散が言い渡されたのだ。ちょうど、最大規模の砂漠の盗賊団デザートホーネット団との戦いが佳境に入った時期だ」

 ファーガスンは深く思案するように顎を撫でた。

「砂漠の深い場所で度々襲撃され、警察ビークル隊の犠牲が嵩んでいたのも事実。反対意見などほとんど出なかったが……今思えば少し不自然だったな。当時の上層部がマスコミ受けする功績に関して慎重な姿勢とは……」

「その意向にもブラッディマンティスの影響があったのかもな。賄賂なり裏工作なり……」

「なるほど。では、彼女たちは……」

 ファーガスンはノーラに視線をやるが、彼女はそっぽを向きばかりで何も答えなかった。

「ふん……」

 ノーラは最後までブラッディマンティスに恩があり従っていることを実際に口にはしなかったが、彼女の苦々しい表情からは否応なしに要求を呑んでいることがはっきりを伝わった。

 もしかしたら、構成員を人質にでも取られて脅されているのかもしれない。

 まあ、仮にそうだったとしても、俺もそこまで面倒見ることはできないが……。

 

 

「さて、問題はこいつをどうするかだが……」

「ふむ……」

 今回の件、ノーラたちの作戦は自爆特攻もいいところだ。

 掟を曲げて砂漠の外に進軍し、俺と大勢の警察ビークルを相手取り、山林という慣れない環境でのゲリラ戦。

 仮に俺たちを倒せたとしても、砂漠の外にまで手を出し脅威と見なされたデザートホーネット団が、その後も警察の捜査網から逃げ続けられる確率は低い。

 ただ破滅へ向かうだけの無謀な行いだ。

 だが、ノーラはじめデザートホーネット団の連中がこんな行動に出た背景には、ブラッディマンティス存在があった。

 デザートホーネット団が恩義によってブラッディマンティスにいいように使われていることは、ファーガスンも先ほどの話で理解しているだろう。

 ファーガスンは職務に忠実な男だが、人並みに情もあり自分なりの正義感も持っている。

 しかし、ガーランド警察がデザートホーネット団に煮え湯を飲まされ続けてきたのもまた事実だ。

 彼らからすれば、頭領ノーラの捕縛を足掛かりに、徹底的にデザートホーネット団を潰したいと考えてもおかしくはない。

 そして、俺にとっても……。

「…………」

 基本的に、盗賊ってのは旅人やビークル乗りを殺して金を奪うクソッタレだ。

 ビークル乗りにとって、撃退した盗賊は殺すか警察に突き出すのが基本である。

 次の被害者を出さないため、そして自分の情報が盗賊団に渡って報復されるのを避けるためだ。

 デザートホーネット団も砂漠を渡る商人やビークル乗りから散々略奪しており、その過程で死んだ被害者も一人や二人ではないだろう。

 だから、俺もノーラの部下たちを遠慮なく殺してきた。

 しかし……デザートホーネット団には既に俺の情報が十分に渡ってしまった。

 最早、死人に口なし作戦は意味を成さない。

 むしろ、一人でも多くデザートホーネット団の構成員を殺すたびに、奴らの俺に対する恨みは蓄積される。

 それを思うと、ここでノーラを撃ち殺すことに意味など無ければ、彼女を警察に突き出して拘束するメリットも少ない。

 デザートホーネット団にも復讐に及ぶ奴が少なからず居ることは、以前の『アースウィンド』との遁走で理解しているが、少なくともノーラはもう少し理性的だ。

 そして何より、ノーラとデザートホーネット団は、バニラやコニーが友誼を結んだ相手だ。

 ……そうだ。

 よくよく考えれば、俺がここまで原作シナリオのメンバーたちに関わったのは、愛着のあるキャラクターを少しでも救いたかったからじゃないか。

 ならば、答えは決まっている。

「……俺も甘いな」

「グレイ君?」

 

 

 悩んだ末に、俺は拳銃をショルダーホルスターに戻して、ノーラに顎をしゃくった。

「行けよ」

「え……?」

「むっ……?」

 ノーラもファーガスンも面食らった様子でこちらを見たが、俺はノーラに向かって言葉を続けた。

「森にはまだ生き残っている仲間も居るだろう。今から回収を始めて素早く逃げれば、日が昇って警察の後続が来る前にここを離れられるはずだ。砂漠という過酷な環境で生きてきたお前らなら、ここからでも生きてアジトに戻れるだろう」

「逃がしてくれる、ってのかい?」

「今回の件に関しては、司法取引ってことでいいだろう。お前はブラッディマンティスに関する有用な情報を俺たちに齎した。鉄道の襲撃は未遂の容疑の段階だし、俺らへの攻撃も情報提供でチャラにしてやる。他の犯罪に関しては知らん」

 俺が視線でファーガスンに伺いを立てると、彼は些か難しい顔をしたが、やがて頷いた。

「今回は……我々は完全に役立たずだったからね。ほぼ一人で敵と戦い制圧したグレイ君がそう言うのなら、私たちに口を挟む権利は無い」

「すまんな。あんたにとっては、犯罪者は皆等しく刑罰の対象かもしれないが……」

「なに、構わんさ。そのくらいの司法取引の権限は私にもある。それに、ここで彼女たちを拘束して連行しようにも……護送する警察ビークルが無いからな」

 もしかしたら、俺が意外な対応をしたことで、ファーガスンは下手に手を出さない方がいいと判断したのかもしれない。

 まだ、黒幕であるブラッディマンティスの件が残っているからな。

 俺はノーラに向き直った。

「お前がブラッディマンティスとの同盟を裏切って情報を漏らしたこと、それに過去の略奪行為の罪は消えない。精々、報復と追及に怯えて暮らせ」

「グレイ、あんた……」

「まあ、警察や敵対組織のことより、今のお前は頭領としての立場の方が危ういか。明らかに利の無い意思決定をして、部下を死なせて……仲間からの突き上げを心配した方がいいかもな」

「それはない。アタシたちは家族だ。アタシと共に来た奴らは、皆が死ぬ覚悟でついて来た」

「けっ、ひどいブラック企業だ」

 そして、俺とファーガスンが撤収の準備を終わらせたタイミングで、ノーラも自分の腹部や腕に応急処置を施し終えた。

 気絶している『クリムゾン・ホーネット』の操縦手の男を背負ったノーラは、踵を返して林の中へと歩き出したが、ふと足を止める。

 彼女は振り返らず、そのままの体勢で口を開いた。

「グレイ、礼は言わないよ。でも……この借りは必ず返す」

「結構だ。砂漠の掟だか何だか知らねぇが......てめぇらの顔は二度と見たくねぇ」

 俺がそう吐き捨てると、ノーラは再び小走りに歩き出し、森の奥へと消えていった。

 ノーラがこちらを振り向くことは無かったが、僅かに見えた彼女の横顔には微かな笑みが浮かんでいるように見えた。

 

 

「さて、警部殿。一旦、ハッピーガーランドに戻ろうか。報告やら処理班の要請やら、色々とやることがあるだろう?」

「了解した。……君は、どうするんだ?」

「俺はこれから北に……ホトトギスの森に向かう」

 俺の言葉に、ファーガスンは顔を強張らせた。

 ビークル部隊を支援に送ることを検討しているのかもしれないが、今のガーランド警察にそんな余裕は無いはずだ。

 まあ、重要度で言えばこちらの方がヤバイ話なわけだが、まさか『グランドフィナーレ』のことを俺の口から言うわけにもいかず、ましてや警察ビークルを引き連れていったところで解決するとは思えない。

「弾薬の補給だけさせてくれ。スナイパーアームやガトリングアームと同じ高速弾だ」

「ああ、警察署の整備場のものを使ってくれて構わん。私も予備の機体を調達したらすぐに君を追いかけよう」

「ああ、頼む」

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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