steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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112話 ホトトギスの森は朱に染まり

 

 コンフリーが鋭く手を振り下ろすと、俺を取り囲む『デリンジャー』の砲身が一斉に射撃態勢に入った。

 それぞれのビークルが四つの砲身に火炎弾を装填し撃発する作動音を発したが、当然ながら敵が撃つのを待ってやるつもりはないので、俺はチェーンガンを横に振り抜くようにアームを操作し、指切りでトリガーを引いて流し撃ちした。

 向こうは多砲身による制圧射撃に特化したビークルなので、俺の攻撃を避ける術は無い。

 一連射で四台の『デリンジャー』に弾丸を撃ち込むことに成功し、砲身内部や弾薬庫を高速弾に貫かれた敵ビークルは爆散した。

 しかし、俺を取り囲む『デリンジャー』の数は多い。

 コンフリーの指示に忠実に従う彼らは、横で吹き飛んだ仲間に目もくれず砲撃を開始した。

「おっと……っ!」

 無事な『デリンジャー』がこちらに火炎弾を浴びせてくるのと同時に、前衛を担っていた『ナイトメア』の部隊が俺に迫る。

 スラスターダッシュで砲弾の雨を潜り抜けた先でアックスを振り上げていた『ナイトメア』は、ビークルのボディごと俺に突進するように攻撃を仕掛けてきた。

「覚悟!」

「ふんっ」

「ぬぉ!?」

 当然ながら、フェイントも不意打ちも無い見え見えのフルスイングなど、俺の操縦スキルと【ジャガーノート】のスペックなら簡単に避けられる。

 お返しに強化ブレードの刃をエンジンに叩き込みつつ、後ろへ回り込んでいた『ナイトメア』のキャノンの弾薬ボックスをチェーンガンで撃ち抜いた。

「第二分隊! 射撃開始!」

 コンフリーの指示で再び『デリンジャー』部隊の火炎弾が迫ってくるが、こちらも大立ち回りを演じつつ激しく動いていたので、いつまでも敵の砲撃を食らう位置には居ない。

 接近戦を仕掛けてくる『ナイトメア』の間を縫うようにしてビークルを滑らせ、横合いから刺し込むようにして強化ブレードやチェーンガンの弾を叩き込み、次々と敵機を撃破していく。

 さらに俺は、先ほど接近戦で仕留めた『ナイトメア』を【ジャガーノート】のアームで引っ掴み、横へ振り払うようにして正面に投擲した。

 『ナイトメア』の集団のど真ん中に敵ビークルを放り込みつつ、俺はダッシュ移動を駆使して一気に後退し距離を取る。

 目の前に味方の残骸が放り込まれたことで、敵の集団は一瞬だけ俺への接近の手を緩めた。

 このチャンスを逃す手は無い。

 俺はチェーンガンの狙いを残骸ビークルの燃料タンクにつけ、トリガーに指を掛けた。

 砂漠の決戦で使った手と似ているが、誘爆でまとめて敵を倒せずとも、ちょっとした目晦ましにはなると踏んでの戦略だ。

 しかし……。

「っ! 散開!」

 突如、コンフリーは緊急のオーダーを発令しつつ、『デリンジャー』の砲撃トリガーを引いた。

 通常使用の『デリンジャー』の砲台よりも早い発射速度で火炎弾が吐き出され、【ジャガーノート】のかなり近くに着弾し、俺は思わずビークルを引いた。

 思ったより正確な射撃だ。

「第一分隊!」

 再び、装填が終わった『デリンジャー』部隊による砲撃。

 続いてさらに火炎弾を装填し終えたコンフリーが、敵ビークルの残骸も利用しつつ砲撃を躱す俺に、さらに正確な砲撃を見舞ってくる。

 もちろん、俺も応射して敵のビークルを三台ほど仕留めたが、こちらも回避行動にそれなりに注力している状況、一気に畳みかけることは叶わなかった。

 なかなか粘るじゃないか……。

 

 

 コンフリーの搭乗する『デリンジャー』は装填装置と撃発トリガーをカスタムし、火炎弾のリロード速度と発射速度を上げているようだ。

 通常使用の『デリンジャー』よりも明らかに4発の砲弾を撃ち出す速度が速く、射撃間隔も短い。

 後ろでコソコソしているだけかと思いきや、瞬間火力を向上させたゴリゴリの戦闘カスタムである。

 デスクワーク担当の参謀と思いきや、それなりに戦闘の心得はあり、前線指揮能力も確かだ。

 思った以上に厄介な相手だった。

 しかし、俺も着実に敵の数は減らしている。

「おらぁ! 次だ!」

「…………」

 相変わらず冷徹な目で俺を見据えて砲撃を続けるコンフリーを尻目に、俺はまたチェーンガンで『デリンジャー』の弾薬ボックスを撃ち抜き、敵機を爆発炎上させた。

 敵は散開してこちらを囲み、キャノンやアックスで俺を仕留めようと試みるが、砂漠の戦争を経験したこともあり、俺はさらに一対多の乱戦の腕に磨きをかけていた。

 ゲーマーとしての経験が下地になっているのかは不明だが、一度コツを掴めばそれほど難しいことではない。

 全方位へ神経を張り巡らし、どこから敵の攻撃が来ても撃ち返し、敵の連携する陣形の外に近い奴から倒せばいい。

 既に敵ビークルの戦力は十を切り、敵の残存戦力はコンフリーを含めて数名のみとなっていた。

「どうする? このまま全滅するまで続けるか?」

「…………ふっ、さすがですね」

 コンフリーはビークルのハンドルから片手を離し、全身から力を抜いた。

 さすがにこのまま続けても勝ち目がないことを悟ったのか、彼の纏う雰囲気も幾分か無念と哀愁を滲ませたものとなった。

 肩をすくめたコンフリーは、俺に向き直ると周りの部下たちにも戦闘中断を指示した。

「降伏しましょう。さすがに分が悪い」

「……どういう風の吹き回し……っ!」

 しかし、コンフリーの意図を尋ねようとした俺は、またしても首の後ろをチリチリと荒い繊維で撫でられたような感覚を覚え、慌ててビークルを下げた。

 同時に、乾いた炸裂音とともに【ジャガーノート】のミスリルボディの一部に軽い衝突音が聞こえる。

 ……うん、わかってたよ。

 見てみると、林の中にライフルを構えたブラッディマンティスの制服の男が居た。

 目立つビークルに搭乗せず、小銃で俺の暗殺を企んだようだ。

 予め伏兵を潜ませておくなど、コンフリーの仕業以外ありえない。

 とことん不意打ちが好きな奴だ。

 ビークル搭載火砲とは比較にならない豆鉄砲でも、直接コクピットの俺に命中すれば普通に致命傷を負ってしまう。

 自分でも銃の威力はよく分かっているだけに、今のはなかなかに肝が冷えた。

 そして、当然……。

「撃て! 攻撃開始!」

「くっ……野郎っ」

 俺がビークルを引いた拍子に、コンフリーの部下たちは猛攻を掛けてきた。

 散開した『デリンジャー』が全弾撃ち尽くすとばかりに放ってくる火炎弾が降り注ぎ、『ナイトメア』はキャノンを撃ってそのままアックスを振り上げて突っ込んできた。

 素早く狙撃手が居た辺りにチェーンガンを撃ち込み、生身のブラッディマンティス社員を大口径高速弾で吹き飛ばしたが、敵のアックスがすぐそこまで迫っていたため俺は強化ブレードで敵の攻撃を防御する。

「……おい! またこれか!!」

「あなた相手に警戒しすぎということはありません。二重三重に策を弄するくらいがちょうどいい……そのまま押し込んで、少し時間を稼ぎなさい! 勝てる策はあります!」

「ちっ、面倒くせぇ……ぬっ?」

 だが、そんなことを部下に言いつつも、コンフリーは徐々に『デリンジャー』を下げている。

 時折、部下を掩護するように火炎弾を放ってくるが、何と言うか少し射撃精度が下がったように思える。

 そして、彼が気もそぞろである理由については、すぐに察しがついた。

「あの野郎っ!」

 コンフリーは徐々に包囲網を横にズラすよう器用に指示を出し、俺を崩落しやすい山道の端に追い込んでいる。

 一瞬、最後の攻勢に出てくるのかと思ったが、コンフリーの意識が後方へ配られる割合が増えているように見えるあたり……あいつ、逃げる気だな。

 俺をこの場所から一瞬でも切り離し、その隙に離脱する腹積もりだろう。

 予想はしていたが、また器用な真似をしやがる。

「ぬぅ……」

 すぐに敵の包囲網を突破して攻撃を仕掛けたいところだが、こちらも足場の悪い環境で奴の部下から捨て身の攻撃を受けているため、なかなか本格的な突撃に移れない。

 少し厄介なことになった。

 しかし、次の瞬間……。

「うぉ!」

「っ! 何が……」

 突如、後ろの方から飛んできた大口径のミサイル弾が、俺の【ジャガーノート】の鼻先を掠めて飛び去り、そのままコンフリーの斜め前辺りに居た『デリンジャー』に着弾して機体を粉々に吹き飛ばした。

 

 

 コンフリーのカスタム型『デリンジャー』はどうにか回避行動をとったようだが、元々が小回りの利かない砲撃用ビークルであるため、爆風と破片で結構なダメージを負っている。

 そして、援護射撃が飛んできた方向に俺が軽く視線を送ると、そこには予想通りの人物が居た。

「グレイ! 大丈夫か?」

「っ! ああ!」

 青いボディに長距離キャノンアームを装備した射撃戦カスタムの汎用ビークル【ブルー・サンダー】。

 現れたのはフェンネルだった。

「助かった! 後は任せろ」

「おう」

 フェンネルの返答を聞き流しながら、俺は先ほどの彼の射撃で浮足立ったブラッディマンティスのビークル部隊に突撃した。

 近距離での乱戦となったが、この状況では出力と装甲の質で遥かに勝る【ジャガーノート】が有利だ。

 俺は次々と敵の残党ビークルを撃破して、徐々にビークルを前進させていった。

 そして、ついに俺はコンフリーの搭乗するカスタム『デリンジャー』の目の前に到達する。

「くっ、何という……っ! ま、待ちなさい! 私が死んだら……」

 コンフリーのビークルは駆動系がイカれているようで、時間稼ぎの言葉を吐きながら懸命に操縦桿を動かそうと試みるも、まともに動く気配は無い。

 今まで冷徹な表情を崩さなかったコンフリーの目には、確かな恐怖が浮かんでいる。

 俺はそのまま止めを刺すため、強化ブレードを振り上げるが……。

「参謀をお助けしろ!」

「おぉぉぉ!」

 先ほど武装と燃料チューブ辺りを切り裂いた『ナイトメア』二台が、エンジンに引火するのもお構いなしに、凄まじい勢いでこちらへ突っ込んできた。

 そのまま【ジャガーノート】にタックルするような勢いで、こちらのレッグパーツにしがみ付くようにしてコンフリーを庇う。

 ……正気じゃないな。

 彼らの『ナイトメア』は最早まともに操縦が利く状態ではなく、機体もいつ爆発するかわからない。

 コンフリーのためにここまで全力で食い下がる部下が居ることには驚きだが……今はそれどころではない。

「せめて……一撃入れて……逃げ……っ」

 こちらが満身創痍の『ナイトメア』二台に組み付かれて動きが止まった隙に、コンフリーはどうにかカスタム型『デリンジャー』砲塔を回転させて至近距離から【ジャガーノート】に砲弾を撃ち込もうとしている。

 さすがにこれはマズい。

 俺はフルスロットルでエンジンをふかし、ペダルを深く踏み込んだ。

「ふんっ!」

「がぁ」

「ぐはっ」

 勢いよく飛び出した【ジャガーノート】は、取り付いたビークルを巻き込む形で一気に前進する。

 さすがに駆動部やエンジンには無理が掛かったが、【ジャガーノート】の最大出力は通常の汎用ビークルを大きく凌駕する。

 俺の戦闘スタイルだとあまり格闘戦の力比べをしないため実感しにくいが、ナツメッグ博士謹製のハイブリッドエンジンと内蔵補助エンジンをフル稼働すれば、シュナイダーの【マキシマム】のような格闘仕様のビークルや大型ビークルをパワーで圧倒することも可能なのだ。

 想定通り、スラスターを噴射する勢いを乗せたダッシュアタックを食らった二台の『ナイトメア』は、弾き飛ばされるように横転した。

 コンフリーの『デリンジャー』も巻き込み、パーツをぶち撒けながら地面を転がり、川沿いの柵にぶち当たってようやく止まる。

 やがて、折り重なるように倒れた三台のビークルの内の一台、先ほど俺に飛び掛かってきた『ナイトメア』は、ガソリンをぶち撒けながら炎上を始めた。

「くっ、脱出を「くたばれ」っ!」

 コンフリーは往生際悪くもビークルから這い出ようと試みるが、それを許す気は無い。

 俺は横転している『ナイトメア』のキャノンの弾薬ボックスにチェーンガンの狙いを付けると、トリガーを引き絞り十数発の弾丸を吐き出した。

 直後、コンフリーたちのビークルは眩い閃光と爆炎に包まれ、続いて轟音と共にスクラップや土埃が舞い上がる。

 うまい具合に、弾薬の炸薬を吹き飛ばしたようだ。

 飛び散ったビークルの破片や木片がこちらにまで飛んできて、【ジャガーノート】のボディに当たって音を立てた。

「やったか……」

 コクピットで身を低くして飛翔物を避けていた俺が顔を上げると、爆発で川沿いの柵は吹き飛び、土手が崩れ始めていた。

 脆い補強しか施されていない土壁は、爆発とビークル三台の重さには耐えられなかったようだ。

 補強パーツと地盤がガラガラと崩れて濁流に沈んでゆく。

 そして、コンフリーたちのビークルの残骸も、ゆっくりと川の流れに落下した。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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