steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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114話 潜入! グランドフィナーレ

 

 先頭に立ってフクロウヶ森に乗り込んだフェンネルに続き、俺とバニラとファーガスンも橋を渡って森に足を踏み入れた。

 原作よりも大所帯になってしまったが、幸い敵の見張りに発見されて警報を鳴らされるような展開にはならず、俺たちは順調に渓流地帯を抜けていく。

 先ほど、俺とフェンネルの襲撃で何台かのビークルに損害が出ているにもかかわらず、ブラッディマンティスの警備は意外なほど緩い。

 恐らく、彼らは湖に戦力を集中させているのだろう。

 数名の襲撃者への報復より、今は『グランドフィナーレ』の稼働準備が優先だろうからな。

 もしくは、スームスームからの追っ手を警戒して、そちら側の偵察と遊撃に戦力を割いているか……。

 時折聞こえる鳥の鳴き声と森に響くビークルの足音に些か神経をすり減らしながらも、俺たちはどうにか敵の本陣に辿り着いた。

 そして、ブラッディマンティスの戦闘ビークル『ナイトメア』が集結している辺りの少し手前で、俺たちはもう一名の招かれざる客と対面する。

「よう、ダッドリー。こんなところで何してる?」

「フェフェ、フェンネル! それにグレイ! お前らこそ、どうしてここに?」

 後ろから声を掛けたフェンネルに、ダッドリーは飛び上がるようにして反応した。

 一応、彼なりに姿を隠してブラッディマンティスの様子を窺っていたようだ。

 あの鈍くて粗暴なダッドリーが慌てふためく姿というのも新鮮だが、フェンネルは構わず言葉を続けた。

「知り合いがビークルに攫われたんだ。お前、見なかったか」

「ああ、コニーだろ? 見たぜ見たぜ。あの妙な建物に連れてかれたんだ」

 ダッドリーは特に気にした様子もなく言い放った。

 バニラは若干前に乗り出しながらダッドリーに質問する。

「妙な建物?」

「よく見ろよ、あのデカいの。湖の水面の上に建ってるんだ」

 ダッドリーが示した方向に視線を向けると、確かにそこには『グランドフィナーレ』が鎮座していた。

 ブラッディマンティスの最終兵器で、地球で言うところの飛行船だ。

 もちろん、ダッドリーどころかバニラたちにも飛行船の知識など無いので、彼らはただ訝しげな視線を『グランドフィナーレ』に向けるだけだ。

 そんなバニラやフェンネルたちに向けて、ダッドリーは自信満々に語り出す。

「アレはきっと貯蔵庫だぜ。あの中にいくつもの木箱を大事そうに運び入れてるのを見たんだ。ブラッディマンティスはあくどい手口で莫大な金を貯め込んでるって話だ。それが、あの中にあるに違いねぇ!」

 飛行船の大部分は低比重気体を詰めた気嚢なので、あの中に大量の荷物を積むことは不可能なはずだが……彼がそんなことを知る由もない。

 まあ、短絡的でおめでたい奴が考えそうなことだな。

 自信満々に言い放つダッドリーにフェンネルは些か呆れを含んだ目を向けていたが、当の本人にはそのことに気付いた様子もなく、名案を思い付いたとばかりに俺たちに向き直った。

「お前ら、アレを分捕るのを手伝え。成功したら分け前をやるぜ」

 ファーガスンの前で堂々と言うあたり、なかなかにダッドリーは頭のネジが飛んだ奴だが、俺からすれば話はうまい具合に進んでくれた。

 ダッドリーの策に乗るフリをして、コニーを助けに行けばいいのだ。

 俺は即座にダッドリーに返答した。

「乗った!」

「そうか、やるか! お前ぇならそう言うと思ってたぜ!」

「ああ、さすがはダッドリーだ。こんな儲け話を嗅ぎつけるとは、いいカンをしてやがる」

「がはは! だろっ?」

 ビークルに乗ってなかったら、ダッドリーは俺の肩を叩いてきそうな勢いだ。

 きっと、今までの諍いのことなど、ダッドリーの頭からは綺麗さっぱり消えていることだろう。

 そして、この段になると、フェンネルも俺の意図に気付いたようだ。

 そういえば、原作ではここでダッドリーを煽てるのは彼の役目だったな。

 フェンネルなら普通に合わせられる程度には頭も回るだろう。

「おお! そいつはいい話だな。なあ、俺たちも協力しようじゃないか」

「……そうだね。協力しよう」

 フェンネルのアイコンタクトを受けたバニラもこちらの意図を悟ったようで承諾した。

 残るは、勢いで連れて来てしまったファーガスンだが、生真面目な彼が妙なことを言い出す前に、俺は先制して声を掛ける。

「ファーガスン、お前さんも安月給にはうんざりだろ? ダッドリーの仕事が成功すれば一攫千金だ。もちろん、協力するよな? な?」

「う、うむ……そうだな」

 横目で今は話を合わせるように圧を送ると、ファーガスンも俺の雰囲気を感じ取ったのか、たどたどしいながらも首を縦に振った。

 どうにか話はまとまったな。

 

 

「んんっ? ぬぅぅ……」

「どうした?」

 鈍い獣の唸り声のような音を辿ってみると、ダッドリーが何やら唸っていた。

 先ほど皆の同意を取り付けたことで、ここに居る全員で『グランドフィナーレ』を襲撃することが決まったわけだが……ダッドリーは何故か浮かない表情だ。

「ちぃと数が多いぜ。この人数だと分け前が……」

 ……こんな馬鹿でも、割り算はできるんだな。

 しかし、やる気になったダッドリーにへそを曲げられても面倒だ。

 俺は努めて涼しい表情でダッドリーの懸念を否定した。

「なに、心配するな。ブラッディマンティスはここらで一番の金持ち盗賊団だ。この人数で分けても十分な獲物になるさ。それに、ビークルの数が多いほど大量のお宝を持ち出せるだろ」

「おお! 言われてみりゃ、その通りだぜ。グレイ、お前ぇ頭いいな!」

 適当な言い方だったが、ダッドリーは簡単に言いくるめられた。

 こいつが馬鹿で助かったな……。

 そんな具合にダッドリーを乗せつつ、彼が妙なことを言い出さない内に俺は話し始めた。

「よし、それじゃあ計画を説明するぞ。なに簡単な話だ。まず、ダッドリーとフェンネルとファーガスンの三人は警備をおびき寄せてくれ。奴らの注意を引いて、その後派手に暴れてくれればいい。その間に、俺とバニラで橋と内部を制圧する」

「おい、何でお前らが……」

 ダッドリーはとりあえず暴言を吐かなければ気が済まないといった様子で、俺に突っかかってきた。

 この展開は知っていたので、俺は冷静にダッドリーを煽てるセリフを吐く。

「ブラッディマンティスの奴らを引き付けるんだ。腕利き以外には任せられん」

「ふふん! なるほどな……じゃあ、しょうがねぇ!」

 単純な奴だ……。

 実際のところ、今回の人選の理由は、原作の展開に沿った形にしたのと、ビークルのカラーリングだけどな。

 フェンネルの真っ青な【ブルー・サンダー】と、ダッドリーが乗る原色っぽい赤色の【レッドタランチュラ】は目立つ。

 ホワイトグレーの警察ビークルに乗るファーガスンは言わずもがなだ。

 黒塗りの【ジャガーノート】と地味な【カモミール・タイプⅡ】より、この三人には陽動を担当してもらった方がいいだろう。

 シナリオ通りのフェンネルとダッドリーにプラスしてファーガスンまで居るので、いざ戦闘になったときの戦力も十分なはずだ。

 そして、肝心の潜入組の方だが……俺は声を潜めて改めてバニラに計画を話した。

「(バニラ、俺たちは隠密行動であの建物に忍び込む。見つからないように橋を渡って、正面の人間用のドアから建物内部に侵入しよう。邪魔な見張りは排除だ。俺が先行して敵を片付けるから、後ろを警戒しながらついて来てくれ。コニーとマーシュを助け出すぞ)」

「(わかった)」

 ゲームのバニラは忍び込んですぐに捕まってしまったが、今回は俺が居るので大丈夫だろう。

「(フェンネル、ファーガスン。聞いての通り、俺とバニラはビークルを降りて行動する。恐らく、そっちの援護には回れない。くれぐれも気を付けてな)」

「(ああ、そっちこそ気を付けろよ。コニーを頼んだぜ)」

「(うむ、あまり無茶はせんようにな)」

 ファーガスンは気楽に言ってくれるが、ビークルを降りて戦うだけでも十分に無茶だ。

 そんな具合に心の中で愚痴りながらも、俺は白兵戦の準備を整えた。

 まずは、ショルダーホルスターのS&W M10を取り出してシリンダーをスイングアウトし、六発の38口径弾に不備が無いことを確かめ、ポケットのスピードローダーにも六発の拳銃弾がセットされていることを確認する。

 護身用ならともかく、今回はこれでは少し心許ない。

 俺はビークルのコクピットの収納スペースからスピードローダーをもう一つ取り出し、ベストのポケットに入れた。

 これで拳銃弾は合計18発……現代のオートマチックなら、大体マガジン一本分だ。

 これだけの弾数があれば、最悪撃ち合いになっても、ある程度は戦えるだろう。

 続いて、鍔(ヒルト)が大きめのハンティング用シースナイフを取り出し、ベルトに鞘ごと留める。

 折り畳みナイフよりデカくて物騒な代物なので普段は携帯しないが、サバイバルナイフなどに比べれば小柄で軽量でありファイティングナイフに近い扱いができる武器だ。

 もちろん、ナイフファイトになる展開などご勘弁願いたいが、これなら静かに敵を始末するのにも使いやすいだろう。

 サプレッサー付きの拳銃があればご機嫌だが、無い物ねだりをしても始まらない。

「よし、行くか」

 準備を整えた俺が合図をすると、バニラたちは一斉に頷き行動を開始した。

 

 

 

 

 俺とバニラがビークルを降りて少し離れると、ダッドリーたちは派手に騒ぎながらその辺の資材を警備ビークルの近くにぶん投げ、一斉に三方向へ散った。

 他の盗賊団か酔っ払いの荒くれビークル乗りの襲撃と勘違いしたブラッディマンティスの警備兵たちは、罵声を漏らしながら彼らを追う。

 そして、ならず者ビークルを演じてブラッディマンティスの警備を引き付けるフェンネルたちを見送った俺とバニラは、そのまま湖畔の停泊所へと至る橋へと走った。

 こちらは意外と警備が緩い。

 橋には見張り台のような設備があり歩哨に立っている者たちも居たが、ほとんどはフェンネルたちが起こした騒ぎに注目している。

 そこら中に置かれた資材や見張り台の下に身を隠しつつ進めば、俺たちは特にブラッディマンティス構成員の目に晒されること無く『グランドフィナーレ』の入口近くに到達した。

「(待て)」

「っ…………」

 飛行船のタラップ付近ではブラッディマンティスの兵士が見張りに立っていた。

 原作では、こんな奴など居なかったが、そう都合よくゲーム通りに事は運ばない。

 俺は握り拳をサッと上げてバニラに待機の指示を出すと、音を立てないように注意してナイフを抜いた。

 足音を立てないようにゆっくりと歩を進め、敵兵に後ろから静かに近づく。

 そして、相手との距離が数メートルに迫ったとき、俺は一気に地面を蹴って走った。

「ん? ぐぇぼっ……」

 ブラッディマンティスの兵士はこちらを振り向こうとしたが、その前に俺は男の口を左手で塞ぎ、背中から心臓に向かってナイフを突き刺していた。

 うまい具合に肋骨に阻まれること無く刃が通る。

 しかし、完全に急所を捉えるには至らなかったのか、男は俺の腕の中で激しく暴れ始めた。

「げぃ、ぁお……ひゅ……」

 俺は男の背中からナイフを抜くと、さらに脇腹と胸を数回刺し、続けて喉を掻き切った。

 殺しを楽しむ趣味は無いが、確実に殺すためには仕方ない。

 特殊部隊員なら一撃で仕留めるかもしれないが、生憎俺は暗殺訓練を受けたプロなどではないからな。

「(武器は……ほぼ無しか)」

 男が死んだのを確認した俺は軽くボディチェックをしたが、飛び出しナイフ以外に男が所持している武器は無かった。

 どうやら、こいつは完全に下っ端の見張りだったようだ。

 俺は男の服でナイフを拭って血を落とすと、死体を湖にゆっくりと落として沈める。

 環境にはよろしくないが、他に方法も無いので勘弁してもらいたい。

「(グレイ……)」

 目の前で人が死ぬ瞬間を直視したバニラは若干顔が蒼い。

 彼も戦争で人死にを見ているし、故意ではないにしても盗賊と戦って相手が死んだ経験くらいはあるだろう。

 だがまあ、見ていて気分のいいものではないだろうな。

「(進むぞ)」

「(……ああ)」

 俺がそう宣言して『グランドフィナーレ』の扉を開けると、バニラも気を取り直して俺に続いた。

 

 

 飛行船内部に辿り着いた俺たちが最初に目にしたのは、ビークル並の大きさを持つ巨大な爆弾だった。

 見るからに漫画チックな丸い爆弾で、これ見よがしにTNTと書いているあたりも原作通りだ。

 しかし……その数は結構多い。

 ハッピーガーランドが爆撃されないように、今から全て無効化するってのは……まあ、無理だな。

「(グレイ、こっちに梯子が)」

「(ああ、わかった。俺が先行する)」

 そして、飛行船のゴンドラ部分の二階へ上がると、俺たちは目的の場所に到達した。

 曲がり角には金属製の檻が設置されており、その中にはコニーが閉じ込められているのが見える。

 あとは見張りを静かに排除してコニーとマーシュを助け出せばミッション完了だ。

 しかし……。

「っ! コニー!」

「っ……」

 俺の後ろからついて来たバニラは、思わずといった様子で小さく声を上げた。

 そのまま脇目も振らずコニーの檻の方へと駆け出す。

 俺は慌てて止めようとしたが、それは叶わなかった。

 そして、次の瞬間……。

「おい、そこのお前!」

「ぁぐっ」

 横の通路から突如出てきたブラッディマンティスの兵士はバニラの前に立ちはだかると、そのまま彼に掴みかかった。

 胸倉を掴まれた小柄なバニラは、いとも簡単に壁に押し付けられ拘束されてしまう。

「いつの間に紛れ込んだんだ? 怪しいや……ぃっ!」

 しかし、ブラッディマンティス男の言葉は最後まで紡がれることは無かった。

 足音を響かせて駆け込んだバニラの方に注視していたためか、見張りの男の意識は完全にバニラへ向けられていたようだ。

 俺という大柄な闖入者が居るにもかかわらず、彼はこちらに気付くタイミングが遅れた。

 俺の存在を察知した男は僅かに顔を横に向けたが、その時には既に俺はシースナイフを抜き、男に飛び掛かるようにして右手を突き出していた。

「が、はっ! ……ぎざ…………っ……」

 野生動物の骨をも断ち切る高品質な鋼の刃は、男の首を易々と貫き、頸動脈を切断して頸椎を傷つけた。

 徐々に男の呂律が怪しくなり、バニラを掴んだ手からも力が抜けてきたが、俺はさらに確実を期すため続けざまに攻撃を繰り出す。

 男の胸倉を掴んでバニラから引き剥がし、ナイフを引き抜きつつ男を自分の正面まで引き摺ると、俺はさらにバツ印を描くようにナイフを左右に振るった。

 アーマーも何も装備していない軍服の男は、胸部と腹部を深く切り裂かれて血を吹き出した。

「かひゅ……」

 止めとばかりに相手の喉をナイフで薙ぐと、見張りの男は声帯から不気味な空気音を発しながら横に倒れた。

 可哀想だが、下手に生かしておいて隙を突かれたり、応援でも呼ばれたりした日には笑えないからな。

「けほっ……グレイ、助かったよ」

「気にすんな」

 俺が見張りの男の死亡を確認していると、バニラは喉を押さえて軽く咳き込みながら俺に礼を言った。

 よくよく考えれば、この見張りの男は原作で『グランドフィナーレ』に潜入したバニラを発見し拘束したのと同じ人物だろう。

 俺が介入しなければ、バニラはここでこいつに捕まる運命だったわけだ。

 危なかったな……。

 因みに、始末した見張りの兵士は、コルト・ディテクティブスペシャルに似た形状のスナブノーズの38口径リボルバーを持っていた。

 俺の拳銃と同じ弾薬を使用する銃だが、銃身長が短いタイプだな。

 死人には用の無い物なので、貰っておこう。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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