steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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117話 迫りくる脅威

 

「ダッドリー、後ろだ!」

「くっ……わかってらぁ!」

 正面から迫りくる『ナイトメア』と取っ組み合いをしていたダッドリーは、俺の警告に悪態を付きながら火炎放射アームを振り回した。

 圧縮空気と共に吐き出された燃料にイグニッションで引火させ炎をばら撒けば、さすがの数に勝る敵も押し通ることはできない。

 ブラッディマンティスのビークル部隊は一瞬ダッドリーの制圧射撃に怯んだ。

 その隙を逃す手は無い。

 俺は素早くチェーンガンの狙いを付けるとトリガーを引いた。

「そこだ!」

 【ジャガーノート】のチェーンガンから放たれた弾丸はダッドリーの【レッドタランチュラ】のボディを掠め、『デリンジャー』の弾薬ボックスに着弾した。

 当然、炸薬を撃ち抜かれた弾薬は暴発し、同じ弾倉内の弾薬を誘爆させる。

 隊列のど真ん中で爆発が起こったことで、ブラッディマンティスのビークル部隊は一気に勢いを削がれ始めた。

「オラオラァ!」

 優勢な展開に勢いづいたダッドリーはさらに前に出て火炎放射器を乱射した。

 被害は周囲の草木に引火したものの方が多そうだが……腐ってもダッドリーはビークルバトルトーナメントに声が掛かるほどのビークル乗りだ。

 『デリンジャー』の砲弾や『ナイトメア』のアックスが掠っても怯まず、強引に押し通るように敵ビークルを撃破していった。

「あと少し……もうひと踏ん張りだ」

「けっ、しゃらくせぇ!」

 火炎放射をばら撒きながら左の砲弾アームを乱射したダッドリーは、さらに近くの『デリンジャー』にダッシュアタックを仕掛けると、そのまま近接武装を持たない敵の射撃用ビークルをアームで掴んで投げ飛ばした。

 火炎放射アームと砲弾アームという遠距離用の武装にもかかわらず敵に肉迫していく戦法はどうかと思うが……それでもダッドリーの勢いとタフな戦いぶりに、ブラッディマンティスは徐々に押されていく。

 さらに、俺はダッドリーの後ろからチェーンガンで的確な射撃を見舞いつつ、孤立した敵ビークルは確実に強化ブレードで切り裂いて葬ってゆく。

 一度こちらに戦局が傾けば、あとは完全なワンサイドゲームだ。

 敵も巡回に出ていたと思わしき連中が戻ってきたが、数台のビークルが増援に加わったところでたかが知れている。

 そして、朝日が山間をしっかりと照らし始めた頃、俺とダッドリー以外に動く者は存在しなかった。

 

 

「ダッドリー、生きてるか?」

「……当たり前ぇだ」

 傷だらけの【レッドタランチュラ】に声をかけると、不機嫌そうな声が返答した。

 どうやら、ダッドリーは無事らしい。

 ビークルはボロボロでダッドリー自身は疲労のピークに達しているようだが、あんな敵に囲まれた状況で大した怪我が無いなら儲けものだろう。

 俺も……幸い、ビークルに深刻な損傷はなく、コクピットの俺自身も五体満足だ。

 だが、疲れた。

 連続でひどい戦いだった。

 正直なところ、今の戦闘もグダグダだった。

 相棒に背中を預けて戦うなんて綺麗なものじゃない。

 ダッドリーはヒートアップして勝手に突っ走るわ、無駄に火炎放射を撃ちまくって敵に決定打を与えられないわ……。

 もちろん、一人だけで戦うよりはヘイトが分散されるため有利に立ち回れたが、それでも ガラガラ砂漠決戦で共闘したサフランやシュナイダーと比べると、ダッドリーとのタッグは酷い有様だった。

 連携ができていなければ、二人の殲滅力が都合よく何倍にも増幅される状況などあり得ない。

 まあ、そんな状況にもかかわらずこうして敵を殲滅して生き延びることができた以上、結果オーライと言えなくもないか……。

 しかし……しんどかったな。

 そんなことを考えていると、ダッドリーはコクピット内部を乱暴に蹴り飛ばして悪態をつき始めた。

「くそぉ! 今日は散々だぜ。クソうぜぇ連中に囲まれるわ、ビークルはボコボコになるわ、お前ぇらはしくじるわ……って、おい!!」

 ダッドリーは何かを思い出したように勢いよく俺に振り向いた。

「お前、お宝はどうしたんだよ!?」

 ……そういえば、『グランドフィナーレ』に潜入する目的はブラッディマンティスの財宝を分捕るという建前だったな。

 ダッドリーのことだから、このまま普通に忘れると思っていたが……そう都合よく事は運ばないか……。

 しばしの逡巡の後、俺はベストのポケットを探った。

 見張りの兵士から奪った飛び出しナイフを探し当てると、それを【レッドタランチュラ】のコクピットに放り投げる。

「やるよ。お前さんの総取りでいい」

「あ? 何だこれ?」

 キャッチしたナイフを弄びつつ、ダッドリーは訝し気に疑問を投げかけてきた。

 若干の皮肉っぽさを込めて、俺は堂々と言い放つ。

「唯一の戦利品だ。他の見張りから奪った拳銃は捨てちまった」

「……ふざけやがって」

 ダッドリーは唾を吐きながら飛び出しナイフをコクピットのシートに叩きつけた。

 【レッドタランチュラ】の助手席で跳ねる飛び出しナイフを尻目に、ダッドリーの表情が徐々に怒りに覆われてゆく。

 しかし……意外にも、ダッドリーはどのままムスッとした表情で黙り込んだ。

 もっと嫌味や罵声が飛んでくると思っていただけに些か拍子抜けだ。

 まあ、彼もボロボロの状態で喚く元気はないのかもしれない。

 

 

「おう、グレイ。待てや」

 俺がビークルのハンドルを握り直し【ジャガーノート】を反転させると、ダッドリーが後ろから声をかけてきた。

 若干の面倒臭さを感じつつも、呼び止められた俺はゆっくりと振り向く。

「てめぇとの決着はまだ付いてねぇ」

「…………」

「忘れんなよ。てめぇをぶっ倒すのは、このオレ様だぜ」

 ダッドリーは損傷した【レッドタランチュラ】のコクピットでふんぞり返り、高々と宣言してきた。

 ……いつから、俺はこいつの終生のライバルになったのやら。

 知り合って一年も経ってないってのによ……。

 俺は黙って踵を返しビークルを進めた。

「おい……」

「知るかよ。今は血生臭い話なんざ考えたくもねぇ」

 デザートホーネット団に仕掛けられたゲリラ戦に、ノーラとの肉弾戦に、コンフリーの奇襲に、『グランドフィナーレ』格納庫での白兵戦に、ダメ押しの残党の掃討に……。

 続けざまの死闘で、さすがの俺も限界が近い。

 今は一刻も早く、この血と漏れ出した燃料に塗れた一帯を抜け出したい。

「……まあ、来年のトーナメントはお前の挑戦を待っているさ、多分」

 ダッドリーはまだ何か言うことがある様子だったが、俺は構わず【ジャガーノート】を渓流地帯に進めた。

 ブラッディマンティスのビークルの残骸のあるエリアを抜けると、ホトトギスの森へと至る鉄橋が見えてくる。

 そろそろ疲労がピークに達しているが、俺は体に鞭打ってハッピーガーランドへ進路を取った。

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃。

 突如、空から接近してきた巨大な飛行物体に、ハッピーガーランドの街はパニックに陥っていた。

 通りではビークルや車がクラッシュする事故が頻発し、普段は優雅に街を闊歩する市民も今は浮足立って建物内に逃げ込んだり空を見上げて騒いだりしている。

 そんな喧騒の中、ファーガスンやバニラと別れガーランド闘技場で弾薬の補給を終えたフェンネルは、整備もそこそこに【ブルー・サンダー】を駆って街中へ飛び出した。

 ガーランド闘技場の顔見知りの選手たちは何事かと驚愕するが、それに構っている余裕はない。

 ベンジャミンやフランクリンと言った知り合いもステーションホテルから飛び出してきたが、鋭く屋内に非難するように告げると、フェンネルはビークルを加速させながら北の空を見上げる。

「っ……もう、あんなところまで来てやがる……」

 街の北側の上空には、見紛うことなき『グランドフィナーレ』のシルエットがはっきりと浮かんでいる。

 圧倒的な質量を持ち空を飛ぶ怪物級の存在に、フェンネルは思わずと言った様子で罵声を漏らした。

「くそっ! 爆弾を落とすって……一体どこに……?」

 交通量が激減した駅前の路上にビークルを進めながら、フェンネルは苛立たし気に辺りを見回した。

 既にファーガスンの指示で迅速に展開を始めた警察ビークルが、街の各所で巡回と住民の避難誘導を始めている。

 しかし、各所で起こる混乱とガーランド警察に配備されたビークル部隊の頭数を鑑みるに、フェンネルを手伝う余裕が無いことも明らかだ。

 もちろん、ファーガスンの指示を受けた警官たちは、巨大な飛行物体が爆弾を投下してくる可能性が高いことを聞いている。

 だが、混乱下にある町で秩序の回復と住民の安全確保に手を割いている現状では、概要を聞いていたところでハッピーガーランドが直面している危機について正確に認識することすら難しい。

 当然、フェンネルが爆撃への対応を手伝えと言ったところで無理というものだ。

「ちっ……俺がやるしかないか」

 グレイは自分に爆弾を撃ち落とす役目を任せた。

 自分はハッピーガーランドの命運を託されたも同然。

 しばし逡巡しつつも、そう胸に刻み込んだフェンネルは、強く【ブルー・サンダー】のハンドルを握りなおすと、駅前広場の辺りからさらにビークルを進めた。

 そして、駅前と商店街を繋ぐ橋の上に到達したところで、フェンネルは徐にビークルを停止させる。

 この位置は現在の『グランドフィナーレ』の進路の真下であり、川沿いから飛行船の姿をはっきりと視認できるポジションだ。

 ハッピーガーランドのちょうど中心であり、敵が街のどの方面を攻撃しようと、ここからならば素早く対処に向かえる。

 現状における最善策としてこの場所で待ち構えることを選んだフェンネルは、ゆっくりと【ブルー・サンダー】の右アームを上げた。

「来やがれ……」

 もちろん、この距離ではお互いの攻撃は届かないが、強敵と対峙する緊張感はひしひしとフェンネルの全身に伝わってくる。

 長距離キャノンの砲身を上空に向けて構えたフェンネルは、静かに闘志を漲らせて、敵の一挙一動に注目するように神経を研ぎ澄ます。

 そして、『グランドフィナーレ』から巨大な爆弾が駅前広場に向かって投下された瞬間、フェンネルは狙いを修正した長距離キャノンアームのトリガーを引いた。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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