steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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118話 襲撃の後

 

 俺がハッピーガーランドに到着する頃には、既に『グランドフィナーレ』は街の上空から飛び去った後だった。

 空にはあの巨大な飛行兵器の姿は影も形も無い。

 微かに聞こえる怒号から、辛うじて街が混乱状態にあることがわかるだけだ。

 俺が城壁の出入り口を潜ると、慌ただしく街中を行き来するビークルの集団が目に入る。

 所々でビークルや車が立ち往生し、建造物の一部が崩れて破片が道路に散乱している場所もあるが……思ったほど被害はひどくなかった。

 原作では、爆撃を受けた直後のハッピーガーランドは、黒煙と煤に覆われて昼とは思えない様相を呈していたものだが……空は普通に晴れており、見た限り街の治安はそこまで悪化していないようだ。

 もちろん、警察ビークルは依然として警戒態勢で街を巡回しており、所々で土埃が充満し黒煙が上がっているが、既に土木用ビークルを中心にがれきの撤去や救助活動が進められている。

 以前、キラーエレファント団に襲撃されたネフロよりも損害は軽微に思えるな。

 そんなことを考えていると、駅前方面から一台のビークルがやってきた。

「グレイ、戻ってたのか」

「ああ、今帰ってきたところだ」

 現れたのはフェンネルだ。

 彼には『グランドフィナーレ』から投下される爆弾の撃墜という危険な役割を押し付けてしまったが、幸い【ブルー・サンダー】のボディに目立った傷は無い。

 フェンネル自身も五体満足だ。

「街の損害は軽いようだな」

「ああ、どうにかな。最初に集中砲火を食らった駅前広場は、少しぶっ壊されちまったが……爆弾は粗方撃ち落とした。駅や路線は無事だ。工場近くの燃料倉庫への攻撃も防いだぜ。……本当に、お前の言った通りだったな。空から爆弾を投げ落としてくるなんてよ……」

「そうか……フェンネルが居てくれて助かったよ」

「……おう」

 フェンネルはネガティブなことをあまり言わないが、嘘を付いたり話を誇張したりするタイプでもない。

 この様子なら、死人も少なく主要施設への被害も少なく済んだことだろう。

 フェンネルはしっかりとハッピーガーランドを守ってくれた。

 ……今回の件、俺一人では片付けられなかった。

 俺一人で何人分もの仕事をこなした自信はあるが、それでもブラッディマンティスの全ての動きを一人で封じることは不可能だった。

 バニラが居なかったら、コニーを助け出すことは叶わなかったかもしれない。

 『グランドフィナーレ』脱出後に追手に対処する必要があった以上、フェンネルが居なかったら街への爆撃も防げなかった。

 今回は本当に周りの人間に助けられたな。

 ジンジャーの言った通り、やはり一人の人間に過ぎない俺が全てを背負い込むことなど不可能だ。

「今、ガーランド闘技場のバトラーや街のビークル乗りが総出でけが人を救助してる。街の治安が落ち着いたら、順次警察ビークルも救助活動に回すそうだ」

「そうか……」

「コニーとバニラの奴はお前の言った通りピジョン牧場へ向かったぞ。博士には俺からも伝書鳩を飛ばしておいた」

 至れり尽くせりだな。

 さすがはフェンネル。

 不器用で愚直なように見えて、面倒見がよく気の利くナイスガイだ。

 そんなフェンネルは、一拍おいてから言葉を続けた。

「お前、これからどうするんだ? あのデカブツはイワツバメの滝方面へ飛んで行っちまったが……あいつをどうにかしないことには、この先どうしようもないんだろう?」

 フェンネルの言う通り、空中の『グランドフィナーレ』に対処しない限り進展は無い。

 俺は空に向き直り口を開いた。

「ナツメッグ博士のところへ行く。準備が出来次第、奴らの飛行船に乗り込む予定だ。マーシュのこともあるし、あれを放置したらマズいからな」

「そうか……」

 もちろん、飛行船も永遠に飛んでいられるわけではないので、いずれ『グランドフィナーレ』は補給などのために地上に降りてくることになるだろう。

 その隙をついてビークル部隊で奇襲を仕掛け撃破するという手もある。

 ぶっちゃけ、空中戦という未知の戦場に飛び込むよりその方が安全だ。

 しかし、このスチームパンクな世界、あの『グランドフィナーレ』が戦略兵器としてどれだけぶっ飛んだイカれ性能を持っているかわからない。

 こちらが手を拱いている間にネフロやスームを火の海にされたら、それこそ目も当てられない。

 だから、俺も腹は括っている。

 原作通り、ピジョン牧場で飛行ビークルを完成させ、奴らとの最終決戦に臨む構えだ。

「フェンネルはどうする? 一旦、こっちに来るか?」

「いや、この街では結構な数の知り合いが大変な目に遭っているからな。足取りの掴めねぇ奴も居るから、今はここを離れられねぇ。ベンジャミンとフランクリンも倒壊した建物に巻き込まれた奴らの救助に当たってる。俺もあいつらを手伝うつもりだ」

「そうか」

 無理にフェンネルを引っ張っていく意味は無いので、俺は普通に頷いた。

 ここからフェンネルとは別行動だ。

「お前もピジョン牧場に戻る前にロブスター亭に顔を見せて行けよ」

「ああ、そうするよ」

 確かに、楽団メンバーや知り合いのことも心配だ。

 あちこち回っているほどの時間は無いが、ロブスター亭なら荷物を回収がてら寄ってもいいだろう。

 俺はフェンネルの提案を受け入れて、ハッピーガーランドの東地区の商店街に進路を取った。

 

 

 フェンネルと別れてしばらくビークルを進めると、見慣れたロブスター亭の建物と看板が目に入った。

 定宿の建物が無事だったことに安堵しつつ扉を潜ると、カウンターに居る店主のダスティンとバーテンのクリスがこちらを向いた。

「おお! グレイ! 無事だったのか」

「ああ、よかった。フェンネルから無事だとは聞いていたけど……トロット楽団の皆も心配していたよ」

 二人は一瞬だけ驚愕の表情を浮かべたが、すぐに満面の笑みで無事な再会を喜んだ。

「どうも、心配をおかけしまして……この店も無事のようですね?」

「ああ。幸い、この辺りはブラッディマンティスの空飛ぶ巨大ビークルにほとんど攻撃されなかったんだ。駅前の方に比べれば、商店街は大分マシさ」

「盗賊団が空から爆弾を落としてくるなんて、一時はどうなることかと思ったけどね……」

 先ほどもビークルで移動しながら見たが、商店街の被害は軽微だ。

 道路には破片が飛んできたのか、車道にいくつか瓦礫が転がっていたが、建物の破損はほとんど見受けられない。

 フェンネルからも少し聞いたが、『グランドフィナーレ』は駅前を一直線に爆撃しに来たのか……。

 恐らく、ダンディリオンのトラウマの場所を……まあ、そんなことは今考えても仕方ないか。

 しばらくすると、ロブスター亭の二階から降りてくる二人の足音が聞こえてきた。

 些か慌て気味に階段から姿を現した二人は、エントランスの俺を見て驚愕に目を見開く。

「っ! ああ! グレイ!」

「よかった、無事だったんだね!」

 降りてきたのは、バジルとマジョラムだ。

 無傷な二人の姿にもう一つ安堵した俺は、ゆっくりと頷きながら声を掛けた。

「ああ、見ての通り五体満足だ。二人とも、ケガは無いようだな」

「うん、僕は大丈夫。実家の店の方も無事だったよ」

「そ、そんなことより……大変だよ!! グレイ!!」

 相変わらず落ち着きのないバジルは、素っ頓狂な声を上げながら捲し立てた。

「セイボリーが居ないんだ!」

 俺は一瞬答えに窮した。

 彼女の場所は明らかだ。

 今、上空の『グランドフィナーレ』でブラッディマンティスの指揮を執っている。

「確かに、連絡がつかないのは心配だね。でも、フェンネルも知り合いを当たってくれているし……」

「そうだな。彼女も駅前で救助や運搬を手伝っているかもしれないし、この混乱下ではすぐに接触できないこともあるだろう」

 当然、セイボリーの正体のことを口に出すわけにはいかないので、俺はマジョラムに話を合わせてその場を凌いだ。

 そして、俺はしばしの逡巡の後に、二人に向き直って口を開いた。

「とりあえず、あの飛行物体をどうにかしないことには始まらない。次にどこの街が襲われるかわからないし、ハッピーガーランドに戻ってくるかもしれないからな。連中が次の襲撃に移る前に叩く必要がある」

 俺が説明すると、二人は若干の間の後、深く頷いた。

「俺はナツメッグ博士と対策を練るために、一度ピジョン牧場へ戻る。二人も一段落したらうちに来てくれ」

「ああ、わかったよ」

「僕はもう少しセイボリーを探してから行くよ」

 そして、ロブスター亭の自室から最低限の荷物を回収した俺は、そのまま【ジャガーノート】で駅まで移動し、運行を始めた下り線の汽車に乗り込んだ。

 そして、コンパートメントの椅子に体を沈めた俺は、カバンは一応持ち込んでいたものの、着替える気力すら無くしてそのまま眠りに落ちた。

 

 

 

 

 ピジョン牧場へ汽車が到着する頃には、既に日が傾いていた。

 窓の外に響く汽笛の音で目を覚ました俺は、狭いコンパートメントで若干の窮屈さを感じながら伸びをする。

「っくぅ……!」

 結構、寝たな。

 まだ体に怠さが残っているが、先ほどまでよりは大分マシになった。

「さて……」

 荷物を持ってコンパートメントを出た俺は、ビークルを載せた貨物車両に向かい、【ジャガーノート】を下ろして駅を出た。

 牧草地帯に出た俺はぐるっと辺りを見回してみたが、ピジョン牧場に異変は無くいつもと変わらない長閑な様相だ。

 一部の景色を除いては……。

「…………」

 スキトール湖の向こうの上空には、巨大な質量と存在感を持つ飛行船がゆったりと浮遊している。

 原作通り、ハッピーガーランドを爆撃した後の『グランドフィナーレ』は湖の上空で待機しているようだ。

 ゲームでは、いくら寄り道をしようが飛行船はスキトール湖上空から動かないが、現実は違う。

 無駄に時間が過ぎれば、『グランドフィナーレ』はこの場所から移動し、次なる標的の街に攻撃を仕掛けるだろう。

 こちらが攻撃を仕掛けるなら、奴らがピジョン牧場付近に居る今がチャンスだ。

「……首洗って待っとけよ」

 俺は空に浮かぶ強大な敵に一つ吐き捨てると、丘を登ってナツメッグ邸にビークルを向けた。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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