steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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119話 我が家へ......

 ナツメッグ邸のエントランスを潜ると、そこにはナツメッグ博士の他にバニラとコニーの姿があった。

 俺がリビングに足を踏み入れると、三人は一斉にこちらに顔を向けた。

「あ!」

「グレイ!」

「ふむ、帰って来たか」

 バニラとコニーはしきりに俺の身を案じる声を掛けてきた。

 フクロウヶ森からの撤退時に俺が殿を務めたこともあるだろうが、こんな状況で不安が募っていることもあるだろう。

 俺が二人をどうにか宥め終わると、ナツメッグ博士はこちらに向き直った。

「話は聞いておる。あの中にマーシュが居るらしいな。ハッピーガーランドを空から攻撃するとは……何と恐ろしい機械じゃ……」

 しみじみと呟いた直後、博士は俺とバニラのじっくりと見まわして疑問を投げかけた。

「フェンネルから来た伝書鳩にも書いてあったが……お前さんら、あれに乗り込むつもりとな」

「そうですね。まあ、他の方法が無いわけじゃないですけど……。補給のために着陸した瞬間を狙うとか、山間部で待ち伏せをして長射程の火砲で狙うという手もあります。しかし、あの兵器の稼働時間や殲滅力の詳細がわからない以上、下手に手を拱いていると他の街がいくつも潰されかねません。早期決着を狙った方がいいでしょう」

「あれを野放しにするわけにはいかないし、マーシュを助けないと……」

 バニラは俺に追従するように頷いたが、しばらくすると自らの発言に戸惑いを覚えたようにフリーズした。

 もちろん、今になって怖気づいたわけではないだろうが、バニラはしきりにコニーを気にしながら謝罪の言葉を口にし始める。

「ごめん、コニー……。勝手に決めて……」

「ううん……それが君の決めたことなら、私は応援するから」

 まあ、コニーにしてみればマーシュのためにバニラが命を張るのは嫌だろう。

 少なくとも、彼女がされた仕打ちを鑑みれば、仮にマーシュを見殺しにすることを選択しても責められない。

 とはいえ、そういう思考自体がコニーにとっては自己嫌悪に陥る要因なのだろうが……まあ、そこら辺のケアは俺の役目じゃないかな。

「それで、博士。あの飛行兵器への対処ですが……」

「うむ、こちらでも準備は進めておる。今、バニラのビークルと……」

 俺は強引に話を切り替えるようにして博士に水を向けた。

 しかし、博士が口を開いた次の瞬間、工房の扉が勢いよく開き俺の言葉は突然の闖入者によって中断された。

「博士ぇ! テストは……飛行テストはまだですかっ!?」

「僕らはいつでも行けますよ」

「くぅぅ! ついに……ついに俺たちの【フラップフライヤー】がっ!!」

「ああ、兄さん! とうとう……僕たちの夢が完成する!」

 ドタバタと騒ぎながらやって来たのは、飛行兄弟ことオットー&ウィリーだ。

 相変わらず喧しい連中だ。

「うるさいよ! ポンコツ兄弟! ただ飛べばいいってもんじゃないんだ。こっちの準備が終わるまで、おとなしく待ちな!!」

「ひぇ! す、すんません! 姐さん……」

「すみませんでした……」

 彼らはしばらく俺の姿も目に入らないかのように騒いでいたが、後ろの工房の方から轟いた鋭い声に一喝されると、一瞬で黙り込んだ。

 もちろん、誰の声かは予想がつくので、俺は苦笑いしながら声の主が現れるのを待つ。

 しばらくすると、工房の奥からレンチを持ったマルガリータが出てきた。

 眉間に皺を寄せて悪態をついているにもかかわらず、彼女の美貌が崩れることは無い。

 これでまたベッドの上では可愛いのだから、そのギャップが何とも……。

 彼女の姿を見た途端、俺は体中の血が浄化されていくような何とも言えぬ安心感を覚えた。

 そして、リビングに入ってきたマルガリータはやがて俺の存在に気付いた。

「ぁ……」

「ただいま。今回も無事に帰って来たよ」

 俺の顔を見たマルガリータは、みるみる頬を紅潮させた。

 照れて直視できないほど俺の顔がイケメン……というわけではなく、単にガサツで荒々しい姿を見られたことが恥ずかしいのだろう。

 そんなことは今更な話なので、俺はマルガリータをそっと抱き寄せた。

「っ! ちょっと……」

「今日は……本当に散々だったんだ。あと少しだけ、このままでいさせてくれ」

 マルガリータは最初こそ俺を突き離そうとしてきたが、彼女の耳元でそう告げると、やがて抵抗は収まった。

 普段なら、一言目はツンツンの罵声や怒声を飛ばしてくるものだが、今日は黙って俺の抱擁を受け入れてくれる。

 剰え、マルガリータは俺の背中に腕を回すと、彼女の方から俺をしっかりと抱き締めた

「……しょうがないねぇ。まったく、世話の焼ける男だよ……」

 相変わらず毒は吐いてくるが、背中に回された彼女の腕からは包み込むような優しさと温かさが伝わってきた。

 擦り付けるようにして俺の胸に顔を埋めるマルガリータがとても愛しい。

 後ろでポンコツ兄弟が「あんな凶暴な女性を……」だの「さすがはグレイの旦那」だの言っているが気にしない。

 バニラは気恥ずかしそうに眼を逸らし、コニーは顔を手で覆いつつも指の間からしっかりこちらを見ているが気にしない。

 俺はそのまましばらくマルガリータの髪を撫で続けた。

 

 

「……さて、グレイも戻って来たことじゃ。改めて説明しよう」

 俺たちがリビングの思い思いの場所に腰掛けると、ナツメッグ博士は俺たち話し始めた。

「敵の飛行機械は、今日の午後からずっと湖の上の空を漂っておる。グレイが言うには、彼奴らの稼働時間と残っている爆弾の量がわからない以上、ここで二の足を踏んでいる間に他の街を攻撃されたら敵わんとのことじゃが……わしも、その意見には賛成じゃ。捕らわれているマーシュのこともあるのでな。早めに攻め入るに越したことはない」

 俺たちは博士の言葉に頷いた。

「だが、敵の機械は空を飛んでいる。あれを倒すには、どうにかしてこちらも向こうに攻撃を届かせる必要がある。否、マーシュを救出するには、あの飛行物体の内部に飛び込まなくてはならん。そこで……これじゃ」

 ナツメッグ博士の促しで、マルガリータは作業台から持ってきた一枚の設計図をテーブルに広げた。

 図面には、トロットビークルと複葉機を組み合わせたような画が描かれている。

 間違いない。

 原作で見た通りの、ビークル用の飛行装備だ。

「空を飛ぶのに必要なのは、パワーでも羽ばたくスピードでもない。大事なのは、翼の形だったのじゃ。空を飛ぶ用のパーツは三つある。ブレストパーツには『プロペラブレスト』、空中で前に進むためのパーツじゃ。バックパーツに『尾翼』、ビークルを空中で操縦するのに必要じゃ。そして、アームパーツに『ウイングアーム』じゃ。これでビークルが空を飛ぶ」

 原作通りの展開だ。

 トロットビークルのパーツの規格だと、プロペラ機の部品はこの三つに分かれることになり、どれか一つでも欠けると空は飛べない。

「わしには……トロットビークルが空を飛ぶなど、どう考えても無謀としか思えんかった。グレイが作った『カミヒコーキ』やら、お前さんたちの弟の『紙トンビ』やらだけではピンとこない部分も多かったのじゃが……いざあの飛行物体を見てみると、実感が湧くものじゃな」

 なるほど、やはり視覚情報ってのは重要なんだな。

 飛行ビークルのパーツに関しては、俺も若干先取りして開発を進められないかと思っていたが、どうにも進捗は芳しくなかったのだ。

 俺は現代の飛行機に関する知識を持っているが、航空工学の専門家というわけでもなかったので、結局は前倒しでの完成を断念することとなった。

 だが、さすがはナツメッグ博士。

 ここにきて、答えに辿り着いてくれた。

 そして……。

「飛行ビークルに関しては、以前グレイからも色々と設計の提案が上がっておったからの。【フラップフライヤー】の設計の改良案を軸に、以前から少しずつ開発には着手しておった。幸い、資材の方もグレイが拾ってきたものが潤沢にある」

「では、組み立ての方も……」

「うむ、完成したぞ」

 マジか!

 先ほど、飛行兄弟がテスト云々と言っていたが、本当に完成したんだな。

 原作の一晩で飛行パーツを完成させたシーンでは「そんなバカな」と思ったが……さすがはスチームパンク。

 現実のナツメッグ博士はゲーム以上のチートかもしれない。

 そして、俺たちはナツメッグ博士の促しで工房の方へ向かった。

「見よ」

「おお! これは……」

 俺が整備場に足を踏み入れると、そこにはパーツを飛行装備に換装された二台のビークルが鎮座していた。

ウィリーとオットーの【フラップフライヤー】にバニラの【カモミール・タイプⅡ】は、どちらも完璧に噛み合ったプロペラと尾翼とウイングアームがフルセットで装備されている。

 二台とも既に飛行仕様になっているようだ。

 原作では、【フラップフライヤー】を素材にしてバニラ用の飛行装備1セットを作るというカツカツの資源状態だったが、今回は2セット生産できたのか。

 備えあれば憂いなし……色々と資材を集めておいてよかった。

「パーツの組み立てから換装まで……マルガリータが居てくれて助かったわい」

 そうか……。

 マルガリータも手伝ってくれたうえで、この進捗というわけか。

 彼女には世話になりっぱなしだな。

 

 

「では……早速【ジャガーノート】にも同じパーツを……」

「いや、それは無理じゃ」

 俺は若干前のめりになりながらナツメッグ博士に声を掛けたが、返ってきた答えは予想外のものだった。

 資材が底を尽いたのかと思ったが、どうやら違うようだ。

「【ジャガーノート】は汎用型の原型をとどめないレベルのカスタムビークルだからの。もちろん、通常の規格化したパーツを装備するのは問題ないが……飛行装備となると話は別じゃ」

「あ……」

 そうか……。

 確かに、俺の【ジャガーノート】はミスリル装甲の耐久力の割に軽いボディを持ち機動力も高いビークルだが、どちらかといえば重装備の部類に入る。

 小型とはいえ高出力の補助エンジンと増設燃料タンクに追加装甲を搭載しているおり、あくまでも馬力と出力によって加速力を保ちエンジン効率を改善することによって低燃費を実現しているのだ。

 小型の飛行機もどきにするには少々重量オーバーだろう。

 しかも、弾薬ボックスなども大容量で配置箇所をカスタムしているため、特殊な装備を装着するには規格にも若干の修正を要する可能性がある。

 ましてや、僅かな調整の差が悲劇を生みかねない飛行装備に適応させるとなれば……。

 さすがのナツメッグ博士とマルガリータでも、そこまでの調整を一日二日ではできないか。

 【ジャガーノート】は空を飛べない。

 ということは……俺は空中戦には何も手出しできず、オットーとバニラに全て任せることになるわけか?

 一応、【フラップフライヤー】の分のパーツも完成させたことで、原作のようにバニラ一人で『グランドフィナーレ』に挑むことにはならずに済んだが……。

 しかし、そんな俺の様子を見たナツメッグ博士は、僅かに笑みを浮かべながら口を開いた。

「安心せい。お前さんの方もきちんと考えておる」

「と、言いますと?」

 俺の疑問に答えるように、博士は工房の作業台の方を向いた。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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