steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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2018/11/11 誤字修正しました。


12話 穏やかな日常3

 ナツメッグ博士の助手になってから半年ほどが経った。

 今日も間借りしている博士の家の一室で目を覚ます。

 普段の俺の仕事場は当然ながらナツメッグ博士の工房なので、こうして博士の家の空き部屋の一つに家具と私物を持ち込んで俺の私室としているのだ。

 俺が来てから、博士の家の家事は料理から掃除まで俺がやっているので、今の部屋の生活で不便は無い。

 通勤時間がゼロだからな。

 しかし、最近ではぼちぼちこの部屋を片付けて、引っ越しの準備を進めている。

 何故かと言えば、俺は近いうちに隣の家に移るからだ。

 隣と言っても、この家とはドア一つで行き来できる、二世帯住宅のような場所になる。

 当然、設計者はナツメッグ博士である。

 暇潰しにと言って、彼は俺の家も空き時間で設計してくれたのだ。

 今はまだ土台しか出来上がっていないが、俺の家の建設は着々と進んでいる。

 家の増設が終わったら、俺はそちらに住むことになるわけだ。

 ここまで世話を焼いてくれるとは、博士には本当に頭が上がらない。

 そんなわけで、最近の俺は部屋の私物を整理して、すぐに部屋を移れるよう準備している。

 まあ、荷物はそれほど多くは無いけどな。

 恐らく、破門でもされない限り、博士の家の家事はこれから先も俺がやるだろうし、助手である以上は作業場も一緒だ。

 俺の家にも新たにキッチンや工房を付ける予定は無い。

 新居に持って行くのは、着替えとネフロで買ったベッド、それに机に設置した銃弾のローディングキットくらいだろう。

 机の上には追加で作製したリボルバーの弾とライフル弾が散乱しているので、これはいつか片付けないとな。

 

 

「ふぁ~」

 ベッドから上体を起こし、まずは洗面所で顔を洗う。

 ピジョン牧場に上下水道が通っているのもナツメッグ博士によるものだ。

 クローゼットを開けていつもの機能重視のスーツもどきに着替える。

 普段は作業やビークルの操縦の邪魔になるのでネクタイはせず、まだ残暑が厳しいのでジャケットは着ていない。

 護身用のリボルバーをぶち込んだショルダーホルスターを装備した上にベストを着る。

 ベストのポケットに自作したスピードローダーに詰めた予備の弾丸6発とナイフを入れて身支度は完了だ。

 キッチンへ向かい、エプロンを着けたら朝飯の支度を始める。

 これも助手である俺の役目だ。

 俺のモットーは栄養バランスがよく、飽きさせないメニュー。

 かつてのナツメッグ博士の食卓のような乾きものばかりの献立など以ての外だ。

 今日の朝のメインは、前に俺が森で仕留めた猪のベーコンにしよう。

 ブロックごと保存しているので、贅沢に厚切りだ。

 焜炉の火にフライパンを掛け、ベーコンをこんがりと色が付くまで焼く。

 薄いベーコンならパリパリになるまで焼くところだが、こいつは周りに焦げ目が付き中に熱が通ったところで火から下ろした。

 同時にメリー乳業からいただいたチーズを炙って溶かしておき、これは切った全粒粉のパンに乗せる。

 泡立ったチーズがパンの上に広がり、僅かに皿に零れ落ちた。

 この光景だけで食欲が刺激される。

 玉ねぎと人参のサラダにオレンジを添えて、紅茶を入れれば完成だ。

「おはようさん」

「おはようございます」

 博士が起きてきたので、テーブルに朝食を運び、男二人の飾らない食事の時間だ。

 

 

 この半年で、俺はナツメッグ博士からトロットビークルの整備と操縦の手ほどきを受け、実戦経験もそれなりに積んだ。

 相変わらず、東の森には盗賊団が蔓延っており、戦いの相手には事欠かない。

 とはいえ、この世界に来て最初に潰した盗賊団のように、根こそぎ壊滅できるパターンは稀だ。

 基本的には、街道から逸れた場所を探し回って、こちらが包囲されるような不利な状況を避けつつ、根気よく潰していくしかない。

 その過程で、俺は東の山の中に遺跡のダンジョンを発見した。

 ゲームで入れるダンジョンは、入る度に地形が違うのに中に居る敵は盗賊ビークルという、魔法の概念があるのか無いのかよくわからない仕様だったが、現実でも同様だったのにはびっくりだ。

 ゲームでは行けないエリアなので、当然ながらこのダンジョンの予備知識は無い。

 君子危うきに近寄らず。

 はたまた虎穴に入らずんば虎児を得ず。

 悩む俺だったが、そこで協力してくれたのがネフロ警察署の面々だ。

 俺が警察署に報告に行くと、ダンジョンの偵察や周辺の警備に、警察ビークルを投入してくれたのである。

 ピジョン牧場の東は国の中心部へ至る道である。

 ナツメッグ博士の弟子であり、街道の厄介な盗賊団の討伐に大きく貢献している俺は、ついに警察が一声で支援してくれるまでの人物になったのだ。

 ……実際は、国に報告しなければならないから、調査の人員を送っているだけですけどね。

 それでも現場の警官は概ね俺に好意的だ。

 中には腐敗した奴も一定数居るであろうが、少なくとも腕の立つビークル乗りでナツメッグ博士の後ろ盾がある俺の不利益になるようなことを表だってするような奴らじゃない。

 盗賊ビークルの殲滅は手伝ってくれるし、警察のビークル隊から貰った情報にも今のところ悪意を感じるようなものは無い。

 おかげで、俺は他のビークル乗りが集結する前にダンジョンから大量の戦利品を手に入れられた。

 しかし……。

「ほう、グレイ。いいものを手に入れたの。ミスリルに黒鉄にオリハルコンか」

 どれもド〇クエやネット小説ではおなじみの伝説の金属だが、まさかバンピートロットの世界に存在するとは思わなかった。

 ゲームではそんなアイテム無かったぞ。

 いや、ビークルバトルトーナメントの総合チャンピオンのエルダーが装備する近距離武器のアームパーツであるエクスカリバーアームは、謎の超合金で作られているとか何とか言っていたな。

 あれも、こういった魔法金属的な物質が原料なのかな。

「グレイ、この金属はどれもビークルの強化に使えるのじゃ。それに、ミスリルを使った合金は装甲としても優秀じゃが、導電性にも優れていて精密機器にも必要不可欠での。これはもっとたくさん欲しいものじゃが……」

 博士のパシリで、俺はしばらくの間ダンジョンで働き詰めだった。

 おかげで今の内の工房には魔法金属が大家族の冷蔵庫のように詰め込まれている。

 おかげで盗賊ビークルの残骸など価値の低い物は、工房の外に放り出されて野晒しだ。

「博士、魔法金属って……」

「ふむ、古代文明の遺産か、はたまたお前さんのように別世界から紛れ込んだか。いずれは科学で解き明かされるやもしれんが、とりあえずは使い方次第で有用な物資になる。今のところそれ以上でもそれ以下でもない」

「はぁ、そういうもんっすか」

 

 

 俺のビークルの説明をしよう。

 かつては盗賊団の整備場から奪った、何の変哲もないソードアームと砲弾アームを装備した汎用ビークルだったが、今やそんなありきたりなビークルの姿は見る影もない。

 何せ、俺には百年後の知識があり、世界中のビークルパーツの知識とチート級の生産能力を持つナツメッグ博士が同居しているのだ。

 さらに、損傷の少ないビークル九台と整備場から根こそぎ奪った資材があり、ダンジョン探索や盗賊討伐に行けばビークルパーツや金属資源は増える一方だ。

 潤沢な資源に任せて色々と強化した結果、俺のビークルは機動性や燃費などのエンジン系、装甲などの耐久系、さらには武装に関しても大幅な進化を遂げた。

 まずはエンジン系統だが、これにはダンジョンで採掘したミスリルを使って、電気モーターとガソリンエンジンの小型ハイブリッド低燃費エンジンを搭載している。

 俺はハイブリッド車の説明を軽く紙に――ブレーキ時など無駄なエネルギーを電力に変換し、高出力が必要なときにガソリン系も稼働することくらい――書いた程度だが、ナツメッグ博士は従来のビークルとは比べ物にならない性能のものを開発してしまった。

 もちろん、これにもある程度まとまった量のミスリルが必要なので量産は難しい。

 この特製のエンジンが、ミスリル装甲をコーティングした耐水ボディL――Hほど的が大きくなく、Mと形状は似ているが積載量で遥かに勝り装甲も厚い――などという原作ブレイカーな性能のボディパーツに収まっているのだ。

 装甲を張った増設燃料タンクに、補助エンジンも小型化したのでバックパーツにはみ出すことなくボディに収まった。

 ボディには傾斜装甲を採用しており――爆発反応装甲は、安全性と敵の攻撃が火砲に限らないことを考慮して不採用――生半可な攻撃では傷もつかない。

 ブレストパーツも整備箱を収納した装甲ブレストだ。

 風防パーツもコクピットの防御を重視した形状になっている。

 ゲームではイベントをこなさないと手に入れられない、積載量とダッシュ強化による機動力を兼ね備えたレッグパーツ、人脚ノーマルM強化型も博士の協力で製作できた。

 これだけでも最終兵器レベルの性能だ。

 

 

 肝心の武装だが、右には近接武器で左には射撃武器のスタイルは変わらず、しかしどちらもありきたりなパーツだったソードアームと砲弾アームに比べると大幅に強化された。

 右手に装備するのは強化ブレードアーム。

 ゲームに登場するブレードアームは他の打撃武器と同じモーションでありながら動きが素早く攻撃力も高い優秀なアームパーツで、俺はゲーム中盤で手に入れてから最後まで愛用していた。

 単純に攻撃力がブレードアームより高い近接武器ならアックスアームがあり、エンディング後にはエクスカリバーアームが手に入る。

 ブレードアームと同じ時期に入手できるトライデントアームは、火力で言えばブレードアームと同じ程度で、敵の動きを止める連続攻撃が放てる刺突武器だ。

 しかし、エクスカリバーは一撃が重い代わりに動きが遅く、トライデントもモーションの問題でこちらの足も止まってしまう――ジャンプを活用すれば移動しながらの攻撃も一応放てるが――のでタイマンには強いが一対多には不向きだ。

 操作に慣れたプレイヤーなら、間違いなく他の近接アームと同じモーションで動きの速いブレードアームを好むはずだ。

 現実でも、俺は近接武器にソードアームを使っていたので、やはり慣れたモーションで使いやすいブレードアームを選んだ。

 これの作成にも博士は協力してくれたわけだが、どうやら俺がダンジョンから持ってきた黒鉄とオリハルコンを使って、従来のブレードアームより耐久力と切れ味を数段上げてあるそうだ。

 このダヴィンチもどきは刀鍛冶までできるのか……。

 しかし、これだけの性能のブレードなら、一撃の威力においても最早エクスカリバーアームに引けを取らないのではないか?

 ナツメッグ博士曰くエクスカリバーアームにもオリハルコンが使われている可能性があるとのことで、やはり切れ味においてはほとんど変わらないらしい。

 因みに、エクスカリバーアームはビークルバトルトーナメントのチャンピオンであるエルダーの武装で、情報などほとんど出回っていないはずだが、ビークルパーツに関してはナツメッグ博士にはお見通しのようだ。

 何せ、博士は古今東西あらゆるパーツに精通しているからな。

 

 

 左の射撃武器はゲームには無かった新しいアームだ。

 最強の射撃系アームであるガトリングアームを改良したチェーンガンアームだ。

 チェーンガンを開発するには、博士の説得に少々苦労したな。

 原作の最強の射撃武器は、スペックで言えばフェンネルのビークルのトレードマークでエルダーも装備している長距離キャノンアームだ。

 百年前の時代設定なのに何故かミサイルを撃てる謎武器なのだが、どうやらこの世界では『魔銀』とかいうミスリルのなり損ないだかミスリルの加工の際に大量に出る副産物を使って、ビークルのエンジンの熱を追尾するシステムを組み込んでいるらしい。

 確かに、長距離キャノンアームは一撃の威力が高く一対一のビークルバトルでも強力な武器となるだろう。

 しかし、プレイヤーにとっての最強の射撃武器は長距離キャノンアームではない。

 何故かと言えば、装弾数が十発と全射撃武器の中で一番少ないのだ。

 一対一のビークルバトルではよくても、フィールドやダンジョンでは心許ないだろう。

 一方のガトリングアームは長距離キャノンアームよりも弾速が速い強力な銃弾を連射できるうえに、装弾数も五十発――射撃動作の一回で六発放つので、厳密には三百発――と全武器中で最多だ。

 ビークルバトルにおいても最強クラスの敵に普通に通用するうえに、フィールドやダンジョンにおいても火力と長時間戦闘に対応できる装弾数を併せ持つ最強の武器なわけだ。

 ガトリング系の武器は砂漠の盗賊デザートホーネット団の武器で、頭領のノーラのビークルもガトリングアームを装備している。

 主人公は彼女のイベントをこなすことでガトリングアームを貰える。

 俺はこのガトリング系のアームがどうしても欲しかった。

 盗賊の討伐やダンジョンなど、持久戦や集団戦に対応するためには、やはり掃討用の射撃武器が欲しい。

 最悪、デザートホーネット団のビークルを闇討ちでもして鹵獲してこようと思ったが、ここもさすがのナツメッグ博士、既にガトリングの知識はあったので助かった。

 俺は多銃身ではなく単銃身にすることで軽量化を図り、チェーンガンのシステムでガトリングに引けを取らない発射速度を持ち、クロームモリブデン鋼とミスリルで銃身を作ることで過熱を抑制する機構をナツメッグに提案した。

 完全に効率よく人を殺すための武器だ。

 博士も少々躊躇していたが、俺が罪の無い人間からの略奪や快楽殺人に手を染めないことを何度も確認し、ようやく開発に着手してくれた。

 地球でチェーンガンといえば攻撃ヘリのアパッチに搭載されているM230が有名だが、ビークルに搭載するものはもっと小型になる。

 結果、完成したのがガトリングアームと同じ弾薬を使用し、発射速度も引けを取らない、チェーンガンアームだ。

 ガトリングアームより単純な構造で軽量化されているので、弾薬ボックスのスペースが広くとれるため、装弾数もほぼ倍になっている。

「まったく……臆面もなくわしに大量破壊のための兵器を作れなどと、よく言えたもんじゃ。そんな弟子はお前さんで最後にしたいものじゃ」

「いいじゃないですか。その武器のおかげで盗賊討伐ができて牧場周辺も安全になったし、ダンジョンの探索が捗って鉱物もこんなに手に入ったんですから」

「ふん、その分わしをビークルの修理で扱き使ったではないか。とんとんじゃ」

 そりゃ、仕方ないですぜ。

 これだけ汎用型と差があるビークルになると、俺が完全に理解して修理することは不可能だ。

 最近になって、ようやく最低限のエンジン系統とチェーンガンの射撃システムの修理を覚えたのだ。

 まあ、いつでもナツメッグ博士に整備してもらえるとも限らないので、大破するような目に遭わないことを祈ろう。

 




パーツ

耐水ボディL(増設燃料タンク、補助エンジン内臓)
人脚ノーマルM強化型
強化ブレードアーム
チェーンガンアーム
装甲ブレスト
キャリアーW
プロテクター風防


五か月ほどすっ飛ばしましたが、ようやくグレイのビークルがチート装備になりました。

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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