steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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遅くなりましたが、投降を再開いたします。
このままエンディングまで......行けるといいなぁw


121話 大空へ

 

 翌日、俺が自室のベッドで目を覚ますと、目の前にマルガリータの顔があった。

 完全にマウントを取られた体勢に、俺は少しビビったが……やがて、彼女の手が俺の腹部の負傷箇所を探っているのに気付いた。

「あ、起きた?」

「ああ。おはよう、マルガリータ。……何してるんだ?」

「怪我の具合、どうかと思ってさ。どこか、おかしなとこは無い?」

 俺はマルガリータの指示通り、体をゆっくりと動かして体調に異変が無いか確かめた。

 消毒薬や軟膏を塗ってガーゼを当てた擦り傷からは既に痛みが消え、首回りの腫れや内出血も治りかけている。

 四肢の動きは正常で、上体を起こしてみても眩暈や不快感は無い。

 マルガリータの応急処置とたっぷり睡眠を取ったことで、俺のHPはほぼ完全に回復しているようだ。

「そっか……」

 ほっと息を吐いたマルガリータは、そのまま俺の胸に顔を埋める。

 しばらくすると、俺に体を預けたマルガリータは目を瞑って脱力した。

 俺が回復して安心したこともあるだろうが……今日はいつにも増しておねむのようだ。

 まあ、マルガリータも昨晩まで大忙しだったらしいからな。

 このタイミングで二台の飛行ビークルを仕上げられたのは、彼女の功績によるところが大きい。

 急ピッチの開発作業に、二台分のパーツ換装に整備に……おまけに、今朝は俺の体調を心配して、普段より大分早く目が覚めてしまったのだろう。

 彼女も相当消耗していたはずだ。

 因みに……昨晩はマルガリータと例の所謂チョメチョメは致していない。

 いつも通り同じベッドで寝ることは寝たが、それ以上の何かが無かったことは、しっかりとシャツを着込んだマルガリータの服装が如実に物語っている。

 マルガリータ曰く、彼女も疲れており俺も怪我人だからとの建前だったが……夜中、隣でモゾモゾと動く気配と荒い息遣いが聞こえたことは、心の内に仕舞っておこう。

「さて……」

「ねぇ、グレイ」

「ん?」

 俺がマルガリータをベッドに寝かせて起き出そうとすると、彼女は拒否するとばかりに俺の首に腕を回し、体を密着させた。

「もうちょっと、このまま……」

「…………」

「あんたも……疲れてるでしょ?」

「……ああ」

 今日は、これから『グランドフィナーレ』との決戦だ。

 早めに飛行ビークルを整備して、早朝に奇襲を仕掛けたい。

 だが、普段の強気な様子とは打って変わって、切なげに体を寄せてくるマルガリータと触れ合っていると……世界の命運だの何だの、もうどうでもよくなってくる。

 この誘惑を断ち切れる奴は男じゃない。

 あと数分だけ……自分にそんな言い訳をしつつ、俺はマルガリータを抱き締め返した。

 しかし……。

「(よし。行くぞ、弟よ! 俺たちの大空へ!!)」

「(ああ、マルガリータさんはまだ来てないけど……換装は終わってるし、別にいいでしょ。すぐに準備するよ)」

 

 

 窓の外に耳を傾けると、工房の方からガタゴトと物音が響き、聞き覚えのある声が伝わってきた。

 朝っぱらから何をやっているのかと思えば、待ちきれずに勝手に【フラップフライヤー】を動かし始めているようだ。

 飛行兄弟の声はマルガリータも耳にしたようで、彼女の表情はみるみる険しくなっていく。

「まったく、あの馬鹿兄弟は……」

「ははっ……」

 俺から体を離したマルガリータは、床に放っていた前掛けやツールベルトを拾うと、レンチを持って立ち上がった。

 不機嫌なマルガリータの恐ろしさは身を以って知っているので、俺は乾いた笑い声しか出ない。

 若干、飛行兄弟を不憫に思いつつ、俺もざっと身支度をして準備を整えた。

 S&W M10に六発の38口径弾を込め、ショルダーホルスターにぶち込んでシャツの上に装備する。

 革製ホルスターは水濡れで若干型崩れしているが、まだ使えないほどじゃない。

 予備のズボンとベストをクローゼットから出して着替えると、ベストのポケットには予備弾を六発ずつまとめたスピードローダーとバラの拳銃弾をありったけ仕舞った。

 そして最後に、マルガリータが新しく作ってくれたルイス軽機関銃と弾倉(パンマガジン)を持って、俺の準備は完了だ。

「…………」

「ん? ……ああ」

 ふと横を見ると、マルガリータが俺のすぐ傍までやって来て、こちらを上目遣いに見つめている。

 この状況で意図を汲めないほど、彼女との関係は浅くない。

 俺たちは、どちらからともなく顔を近づけ、唇を合わせた。

 軽く啄むようなキスを交わし、そして体を離す。

 昨晩は行為に及んでいなかったこともあり、お互い情欲の火が燻っているようにも思えるが……ここで踏み込んだら歯止めが利かなくなってしまう。

 お楽しみは、しばらくお預けだ。

「行こうか。俺たちが必要だ」

「……そうだね」

 照れ臭そうに髪をかき上げるマルガリータにほっこりしつつ、俺は自室のドアノブに手を掛ける。

 そして、俺たちは寝室を後にして、ダイニングで他の面子と合流した。

 

 

 俺がキッチンで簡単な朝食を用意していると、ナツメッグ博士とバニラとコニーが続けざまにダイニングへやって来た。

 玄関先からマルガリータに怒鳴られて、オットーとウィリーも縮こまりながらナツメッグ邸に入ってくる。

 俺はとりあえず全員に紅茶を配り、ハード系のパンを切って、レバーパテやチーズにドライフルーツをテーブルに出した。

 手抜きも手抜きだが、今は一刻も早く出撃の準備に取り掛かることが重要なので、とにかくエネルギーを補給して腹をある程度塞げばよい。

 今回ばかりは、ナツメッグ博士も文句は言わない。

 そして、しばらくするとメリー乳業はじめピジョン牧場の面々がナツメッグ邸にやって来た。

 どうやら、オットーとウィリーに話を聞いて『グランドフィナーレ』撃退のために手を貸してくれるらしい。

「オットー、ウィリー、我々にも何か手伝えることはないかい?」

「あんなのがいつまでも湖に居たんじゃ、こっちも商売あがったりだよ」

「僕たちもできる限りのことをします。兄さんたちだけに全てを押し付けるわけにはいきません」

 さらに、ミームー村からもマッカートニー夫人と数人が応援に駆けつけてくれた。

 聞けば、昨日のうちにマルガリータが伝書鳩を飛ばしてくれたそうだ。

「悪いね、皆。こんな危険なことに巻き込んじゃって……」

「何言ってるんだい。あの巨大な鳥みたいな機械は、うちらミームー村の住民にとっても脅威だよ。前の巨大魚のとき以上にね。それに……」

「?」

 首をかしげるマルガリータにマッカートニー夫人はニヤリと笑って言葉を続けた。

「旦那のために何かしてやりたいって気持ちはよくわかるさ。家族を守るために戦うことを決めた男ってのは……危なっかしくも素敵に見えるものだからね」

「べ、別にあたしは……!」

「うちの亭主だって、巨大魚のときは思わず惚れ直しちゃう威勢の良さだったからねぇ。本人だって怖かったろうに「デカい魚ごときで飯の食い上げになってたまるか!」なんて言って……」

 勝手に納得するマッカートニー夫人にマルガリータは慌てて抗議をするが、一度話し出したおばさんはそうそう止まらない。

 さらに、マルガリータが発しようとした声は、続けて口を開いたミームー村の面々に掻き消された。

「そうそう! 外に嫁いだからって、俺たちとの縁が切れたわけじゃないんだ」

「マインツの言う通りだぜ。それに、お前さんの旦那には、村ぐるみで前から世話になってるんだ。オレらにできることなら何でも言ってくれ」

「あたしらも手を貸すよ。まあ、できることと言ったら、湖に落ちたときに備えて船を出すくらいだけどね……」

 どうやらミームー村では、マルガリータは公然と俺の嫁扱いのようだな。

 だが、男女の関係にまつわる話において、マルガリータは未だに素直じゃない。

 あまり突くとツンツンモードに移行してしまうぞ……。

 しかし、最後にはマルガリータも若干俯きながら小さく礼を言った。

「その……皆、ありがとうね……」

「おう! 気にすんな」

「あの空飛ぶデカブツをぶっちめてやろうじゃない」

 

 

 そうして、ピジョン牧場とミームー村から応援にやって来た面子を加えた俺たちは、早速ナツメッグ邸の工房から【フラップフライヤー】と【カモミール・タイプⅡ】を搬出し、オットーとウィリーのガレージまで移動した。

 見慣れない飛行用パーツを装備した二台のビークルに皆が注目するなか、ナツメッグ博士の指示のもとマルガリータとウィリーの二人は淡々と準備を進めていく。

 ウィリーがウィングアームの開閉メカニズムを確かめ、マルガリータは露出しているボルトの一本一本にレンチを当てて締まり具合やら何やらを確認している。

 そして、エンジンや駆動部などのチェックが終わると、ピジョン牧場やミームー村の連中に手伝ってもらいながら足場を組み、ビークルを飛行兄弟のガレージの屋根に上げた。

 ここから俺たちは飛び立ち、ブラッディマンティスの飛行船『グランドフィナーレ』に空から奇襲をかける。

 湖側に向かってせり出した屋根は滑走路というには短すぎるが……そこはスチームパンクな異世界。

 ナツメッグ博士とマルガリータ曰く、ビークルの加速力と推進力を使って飛び出せば、滑空するのに十分な設備らしい。

 意外にも飛行兄弟がいい仕事をしているな。

 今までの鳥型【フラップフライヤー】の設計思想だと、丘での飛行テストをクリアしない限り湖上には出られないので、ガレージの屋根の滑走路はずっと使われてこなかったようだが……飛行ビークルが完成したことで、ようやく日の目を見ることとなったわけだ。

「ふむ、向かい風はなく、風速も穏やか。離陸直後に煽られる可能性は低い。この様子なら、すぐにでも飛ばせそうじゃな」

 俺も軽機関銃と予備のマガジンを持って屋根に上がると、ナツメッグ博士は風向きやら何やらを熱心に調べていた。

 ……いよいよ出撃か。

 ゲームではぶっつけ本番の離陸だったが……俺はふと気になり、横のマルガリータに声を掛けた。

「テスト飛行はどうするんだ?」

「そんな暇あると思うかい? 予備の機体も無いのに」

「おいおい……」

 事もなげに言い放つマルガリータだったが、その内容はあまりにもファンキーなものだった。

 彼女とナツメッグ博士が丹精込めて整備した飛行ビークルとはいえ……今更だが、乗りたくなくなってきたな。

 若干、胃に痛みを覚える俺を尻目に、マルガリータは顔を顰めて飛行兄弟の方を示した。

「まあ、図らずも、飛行装備の稼働には問題ないことがわかったよ。こいつらが勝手をしてくれたおかげでね」

 そういえば、この二人は早朝から【フラップフライヤー】を持ち出して何やらガチャガチャやっていたな。

 聞けば、いつもの丘で【フラップフライヤー】の飛行テストを行おうとしたらしい。

 急勾配の下り坂を飛び降りるとは……複葉機の飛ばし方としては明らかに間違っているな。

 もちろん、マルガリータからすぐに停められたそうだが……いつもの墜落時の悲鳴が聞こえなかったあたり、一瞬で空中分解する可能性は排除されたわけか。

 それでも心配は心配だが……。

「あはは……」

「で、でも、姐さん。パイロットとしては、少しでも早く操作の感覚を掴んだ方がいいわけでして……いざ本番で墜落しても困るかと……」

 笑って誤魔化すウィリーに対して、たどたどしくも言い訳をカマすオットー。

 予想通りの反応に俺は思わず苦笑いを漏らすが……二人の言葉を聞いたマルガリータは目を剥いて怒鳴った。

「当たり前だよ! グレイを乗せて事故ったら、ただじゃおかないよ!」

「は、はいぃぃぃ!」

「肝に銘じます! 姐御!!」

 飛行兄弟は背筋を伸ばして敬礼でもしそうな雰囲気だが、俺からすればただただ感涙である。

 そんな想いで整備してくれていたなんて……ビークルのパーツごとにマルガリータの愛を感じる。

 ボルトの一本に至るまで彼女のデレが詰まっているのだ。

 だが、次の瞬間、マルガリータは「ハッ」として俺の方へ視線を向けると顔をみるみる紅潮させた。

 今更ながら、自分が口走った言葉を認識して恥ずかしくなっているようだ。

 照れなくてもいいのに……。

 

 

 バニラとオットーがそれぞれの愛機のコクピットから飛行装備をエンジン系統に同期させると、二台の飛行ビークルはエンジンから低い唸り声をあげ始めた。

 レッグパーツによる駆動以上の出力を送り込まれたプロペラが回転し、スラスター系から熱い排気ガスが吐き出される。

 徐々に回転速度が上がるプロペラと、展開されたウィングアームのしっかりとした剛性は、ギミックを多用したメカニズムとは思えない逞しさだ。

 今回、俺はビークルを操縦せず射手としての役割に徹するわけだが、やはりマルガリータが整備してくれたという事実があるだけで安心感がある。

 そして、俺が【フラップフライヤー】の助手席から乗り出してルイス軽機関銃を構え、プロペラや主翼に弾が当たらない角度を確かめていると……バニラは【カモミール・タイプⅡ】のコクピットからコニーと深刻に話し合っていた。

 相変わらず周りが目に入っていないようだが、どうにも茶化す雰囲気ではない。

「コニー、マーシュのことは……」

「うん、大丈夫……」

 遠慮がちに声を掛けるバニラに対し、コニーは僅かに顔を逸らした。

 お互いに歯切れが悪いようだが、コニーはポツポツと語り出した。

「私、目を背けたかった。時間が過ぎれば、どうにかなるものだと思ってた。でも……」

 哀しみの表情を湛えたコニーは、一拍おいてから言葉を続ける。

「マーシュの姿を見たら……私もこのままじゃいけないんだな、って……」

「コニー……」

 バニラもある程度は事情を知っているだけに掛ける言葉に迷っている様子だ。

 しかし、俯きがちだったコニーは、やがて真っ直ぐにバニラを見据え、そして僅かに微笑んだ。

「だから……お願いします。マーシュを、助けてあげて」

「……わかった」

 コニー自身、まだ心の整理などついていないだろう。

 彼女がマーシュと再会したのはつい昨日のことで、まともに言葉を交わす暇もなく、そこから怒涛の展開で今に至る。

 おまけに、このシチュエーションにおいてコニー自身に何かができるというわけでもなく……。

 そんな、彼女はただバニラを信じて待つことしかできない状況で、これだけ前向きになれるとは……強い娘だ。本当に。

「バニラ、気を付けてね」

「ああ。行ってくるよ、コニー」

 バニラはビークルのコクピットから力強くコニーに頷き、コニーもバニラに応えて穏やかな笑みを浮かべた。

 相変わらず、お熱いことで……。

「グレイの旦那! 用意はいいかい?」

「おう!!」

 そうこうしているうちに、出撃準備は完全に整ったようだ。

 高まったプロペラ音の中で運転席から問いかけてくるオットーに、俺も騒音に負けないよう声を張って応える。

 運転席のオットーがゴクリと唾を呑んでハンドルを握り直し、俺もルイス軽機関銃を抱えたままシートの端をしっかり掴んで体を固定した。

 不意に、こちらを見つめるマルガリータと目が合う。

「……行ってきな」

「ああ」

 素っ気ないマルガリータの一言に俺が答えると、彼女はさっさとガレージの屋根を降りて行ってしまった。

 エリッヒや牧場の連中は微妙な表情でこちらを見ているが問題ない。

 彼女の心意気は俺自身が一番よく知っている。

 そしてついに、ナツメッグ博士からもゴーサインが出た。

「よし、今じゃ!」

 ナツメッグ博士の合図で、バニラとオットーは続けざまにビークルを発進させた。

 バニラの【カモミール・タイプⅡ】が簡易滑走路から飛び出すのに次いで、俺とオットーの乗る【フラップフライヤー】も一気に空中に躍り出る。

 スラスターの加速で地面から【フラップフライヤー】のレッグパーツが離れた次の瞬間、一瞬だけビークルのボディに受ける衝撃で俺は腹の底に響くような揺れを感じたが、オットーがハンドルを切って尾翼を調整すると、すぐに機体は姿勢を安定させ真っ直ぐな進路を取り始めた。

 飛行ビークルの実験は成功だ。

「やったぁ! 飛んだぁ!」

「おおぉ! 凄ぇ!!」

「行けぇ!!」

 後ろのガレージの方からウィリーたちの歓声が聞こえてくる。

 この日、世界で初めてトロットビークルが空を飛んだ。

 

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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