steam and gunpowder smoke chronicles   作:張り子のキメラ

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122話 空中決戦! グランドフィナーレ1

 

 編隊を組んだ【フラップフライヤー】と【カモミール・タイプⅡ】は、そのまま速度を上げて湖の上空に見えるグランドフィナーレへと進路を取った。

 全速力での走行時を超える強い風が、コクピットと俺の座る助手席にも勢いよく吹きつける。

 こういう時にオープンシートは不便だ。

 普段、俺は視界の確保と何より着け心地の問題でゴーグルをあまり使わないが、今は贅沢を言っていられる状況ではない。

 俺は念のため用意していたゴーグルを目に装着し、砂漠で砂嵐を防ぐのに使っていたスカーフを覆面のように巻いて口元も防御した。

「ひゃっほー! 凄ぇぜ! 本当に飛んでやがる! 最高だぁ!!」

「…………」

 若干顔の蒼い俺を尻目に、オットーはハンドルを握ったまま大いにはしゃいでいる。

 飛行モードが地上を走るより危険なのは間違いないので、もう少し操縦に集中してもらいたい気もするが……まあ、彼のパイロット適正が高いことは認めざるを得ない。

 離陸直後は風に煽られ不安定な振動があったが、今の【フラップフライヤー】は完全に風に乗っており、ほとんど揺れを感じない。

 もし【ジャガーノート】を飛行仕様にしたとしても、俺ではこう上手くいかないだろう。

 飛行訓練は別で必要になるはずだ。

「グレイの旦那、このまま突っ込むのか?」

「……ああ」

 一頻り騒いでから俺に疑問を投げかけるオットーに応えていると、バニラは【カモミール・タイプⅡ】のコクピットから若干の不安が混じった目を向けてきた。

 俺はバニラに一つ頷いてから説明した。

「奇襲ができるのなら、それに越したことはない。だが、見ての通り上空に障害物は無く、おまけにこの時間帯だ。気付かれずに接近するのはまず無理だろう」

「確かにな」

 オットーはコクピット前方に視点を固定したまま頷き、俺はさらに言葉を続ける。

「敵に見つからずに飛行船内部へ突入するのは無理でも……飛行ビークルは向こうにとっても計算外のはずだ。なら、一気に接近して決着をつけた方がいい。俺とオットーは敵の砲台や銃座の攻撃を引き付ける。その間に、バニラはゴンドラに強行着陸してマーシュを助け出すんだ」

「おう! 操縦は任せてくれ!」

「わかった!」

 俺の立案した作戦とも呼べない策に二人は同意し、俺たちは最高速で風を切って進んでいく。

 しかし……そんな具合に都合よく、手筈通りの展開になるわけがない。

 俺たちが『グランドフィナーレ』に搭乗するブラッディマンティス構成員の姿を肉眼で見れる距離まで近づくと、敵の飛行船では怒号が飛び交い既にブラッディマンティスの連中が動き始めていた。

「っ! 敵襲、敵襲!!」

「何だ、あれは!?」

「向こうも飛んでる……ビークルだぞ!」

「構わん! 撃ち落とせ!!」

 『グランドフィナーレ』に装備された砲台や銃座がこちらの方を向いた。

 どうやら、簡単には接近させてくれないらしい。

 原作では、コニーが隙を見て檻から逃げ助けを求めてきたが、けが人のマーシュではそれも難しいだろう。

 俺は【フラップフライヤー】の助手席でルイス軽機関銃を構えると、バニラとオットーの二人に聞こえるよう鋭く叫んだ。

「バニラ、散開だ! 無理はするなよ!! オットー、手筈通りやれ!」

「了解!」

「おう!」

 

 

 『グランドフィナーレ』の砲塔と銃座から敵の攻撃が降り注ぐなか、オットーは巧みにハンドルを操り旋回した。

 急激に進路を変え風の上を跳ねるような不規則な挙動を取った【フラップフライヤー】に、敵はまともに狙いを付けられなかったようで近くにはほとんど砲弾が飛んでこない。

 俺はオットーの操縦にリズムを合わせるようにして【フラップフライヤー】の助手席からルイス式軽機関銃を突き出すと、比較的大きな窓のついた砲塔の奥に向け引き金を絞った。

 ただでさえ高速で飛行しており激しく振動している座席からの射撃だけあってほとんどの弾は銃眼を外れたが、こちらも環境や姿勢を見越して若干長めにトリガーを引き点射している。

 フルオートで放たれた303ブリティッシュ弾の数発は、『グランドフィナーレ』内部に飛び込み乗組員に命中した。

「がっ!」

「くそっ! あいつ、小銃で撃ってくるぞ!」

 バニラの【カモミール・タイプⅡ】と【フラップフライヤー】のそれぞれを狙っていた敵は、徐々にこちらへ攻撃を集中させてくる。

 向こうも遠距離からの直接的な攻撃手段を持つ【フラップフライヤー】を脅威と認識したようだ。

 徐々に激しさを増す敵の砲火に、俺は最低限の反撃だけしてルイス軽機関銃を引っ込め、オットーも操縦席で姿勢を低くした。

 この状況では撃ち返しても当たりそうにないし、制圧射撃ができるほどの弾数も無いので、無駄弾は使いたくない。

「おっと……旦那、一旦退くぜ!」

「ああ!」

 俺がシートの端を掴んで踏ん張ると、オットーは素早くハンドルを切った。

 ガクンと急降下した【フラップフライヤー】は重力を利用するように加速し、そのまま機首を上げて翼を風に乗せる。

 弾幕の薄いエリアを縫うようにして敵の射線から脱出し、そのまま飛行船の下を潜り抜けるように飛び、スラスターの噴射で一気に加速して距離を取った。

「ひゅー! スリリングだぜぇ!」

 砲弾の炸裂と『グランドフィナーレ』の巨大な質量によって生み出される風圧で【フラップフライヤー】の座席からは結構な振動を感じたが、どうやらノーダメージで敵の砲火の射程内から離脱したようだ。

 こちらを狙う砲弾のほとんどが手前で湖に落下している。

 オットーの操縦技術はさすがの一言だ。

 飛行ビークルの操作系統――特にスロットル調節系など――は、そのほとんどが泥縄式にコクピットへリンクさせた急ごしらえだが、オットーはその機能を十全に使いこなしているようだ。

 やはり彼のパイロット適正には目を見張るものがあるな。

 そして、当然バニラも俺たちの離脱に合わせて『グランドフィナーレ』と距離を取っていた。

 さすがに今の攻防だけでは、そのまま内部へ突入するのは無理だろう。

 

 

「グレイ! オットー! 大丈夫かい!?」

 完全に『グランドフィナーレ』の射程外まで離脱したところで、バニラは【カモミール・タイプⅡ】をこちらに寄せてきて【フラップフライヤー】と機体を並べた。

 幸い、【フラップフライヤー】に被弾した形跡はなく、俺もオットーも無傷だ。

「ああ、何とか無事のようだ。そっちは?」

「こっちも大丈夫だよ」

 バニラの機体にも砲弾を受けた形跡はない。

 お互いにノーダメージのようで何よりだ。

 しかし……。

「どうだ? 近づけそうか?」

「難しいな……敵の数は多いし、攻撃も激しい。一筋縄ではいかないよ」

 俺の軽機関銃では『グランドフィナーレ』にまともなダメージを与えられない以上、最終的には【フラップフライヤー】か【カモミール・タイプⅡ】で飛行船内部か本体を叩かなければならない。

 現時点で突入が難しいようならば、一旦撤退して仕切り直すのも手だ。

 ゲームならHPがゼロになっても最後にセーブした地点から再開できるが、現実ではそうもいかない。

 だが、バニラは顔を上げると、力強い目でこちらを見据えた。

「強行着陸できそうな場所に目星はついている。あともう少しで、行けると思う」

 冷静に状況を考慮しつつも、バニラの目に迷いはない。

 そうと決まれば、やるしかないな。

 俺の目配せを受けたオットーも力強く頷いた。

 

 

「グレイの旦那! もう一度行くぜ!」

「おう!」

 再び散開した俺たちは、縦横無尽に飛行して敵のエイムから逃れつつ、捻じ込むように飛行船本体へ接近した。

 バニラは逆サイドの銃火を攪乱しつつ、突入のタイミングを計る。

 俺とオットーは変わらず敵の武装の制圧だ。

 砲火を掻い潜り、砲塔や銃座に接近したタイミングで、俺はルイス軽機関銃を発砲し銃眼へ弾を撃ち込んでいく。

 火力が圧倒的に足りないので砲塔や銃座そのものを破壊することは叶わず、中の乗組員もそうそう簡単には倒せないが……それでも徐々に敵の数は減らしており負傷者を出すことで士気も下げている。

「よしっ! いい位置だ」

「おう! 次、行くぞっ!」

 俺もだんだんと飛行ビークルの上からの射撃の感覚を掴み、オットーもこちらの射撃の精度と距離の感覚を何となく理解し始めている。

 それに、先ほどの接敵で敵の銃座や砲塔などの位置は大体把握できていることも大きい。

 俺たち【フラップフライヤー】のコンビは、オットーの巧みな操縦で弾幕を掻い潜って接近し、俺の的確な点射で敵の銃座の内部に損害を与え続けた。

「あっちだ! あの二人乗っている方を落とせ!」

「くそぉ!」

 そして、しばらく銃座への攻撃を繰り返していると、ついに敵の弾幕防御にも綻びが生じ始める。

 数か所の武装が機能を停止するなか、残りの機銃や砲塔が【フラップフライヤー】を集中して狙い始めたのだ。

 当然ながら、この状況で一方へ集中砲火をカマせば、もう一方への対処が疎かになる。

 もちろん、その隙を逃すバニラではない。

 【フラップフライヤー】が敵の攻撃を引き付けながら曲芸飛行しているのを尻目に、バニラの【カモミール・タイプⅡ】は真っ直ぐにゴンドラの方へと突っ込んでいく。

「オットー、もっと高度を上げろ! 残りの銃座を狙うぞ!」

「わかってらぁ!」

 ルイス軽機関銃のパンマガジンを替えてリロードしつつ、俺はオットーに指示を出した。

 尾翼に数発の弾丸を受けつつも敵の攻撃を逃れた【フラップフライヤー】をオットーはさらに加速させ、下からほぼ垂直に『グランドフィナーレ』上部の砲塔へ急接近した。

 目立つ挙動に敵の攻撃が集中するなか、俺はすれ違いざまに一番近い砲塔の窓に銃弾を撃ち込み、飛行船内部の人間や操作系統にダメージを与えていく。

 命中の確認はできないが、着弾した直後に砲塔の狙いが滅茶苦茶な方向へ向いたことから察するに、射手を負傷させることに成功したようだ。

 そのまま機体を翻した【フラップフライヤー】は急降下して他の砲塔の攻撃から逃れた。

「さて、バニラの方は……ん?」

 そんなとき、俺は『グランドフィナーレ』のゴンドラの方から聞き覚えのある声を響いた。

「お前たち!! 一体、何事だ……ぬぉぉおおぉぉぉぉぉ!?」

 

 

 今更ながら『グランドフィナーレ』のゴンドラから出てきたのは、ブラッディマンティスの総帥ベルガモットだった。

 派手なスーツにカイゼル髭を蓄えて大男はいかにも悪の組織のボスといった出で立ちだが、【カモミール・タイプⅡ】と【フラップフライヤー】を見てただただ慌てふためく姿は、とても頼りになる指揮官には見えない。

「ト、トロットビークルが……トロットビークルが空を飛んでいる!?」

 縦横無尽に『グランドフィナーレ』の周囲を飛び回る俺たちのビークルを見て、ベルガモットは口を半開きにして唖然としている。

 あの無防備な様子なら簡単に制圧できそうだが、残念ながら今の【フラップフライヤー】の位置からだと軽機関銃の射程外だ。

「ひぃ!」

 そんなことを考えていると、ベルガモットの立つゴンドラの平坦なエリアに向け、バニラは翼を傾けビークルを寄せた。

 どうやら、あの踊り場に強行着陸して中に突入するつもりのようだ。

 急速で接近する鉄の塊に、ベルガモットは腰を抜かして悲鳴を上げた。

 しかし……。

「総帥!」

「奴を近づけるな!」

「くっ……」

 さすがにバニラを脅威と認識したブラッディマンティス構成員は必死に迎撃を始め、【カモミール・タイプⅡ】のボディに無数の弾丸を浴びせる。

 激しい掃射を受けたバニラは一旦撤退を余儀なくされた。

「総帥! ここに居ては危険です!」

「ぬぅぅっ……猪口才な! ……いいだろう。かかってこい! 私が相手をしてやるぞ! 司令室、上げぇーい!」

 そして、バニラが離脱したことで威勢を取り戻したベルガモットは鋭く命令を飛ばし、転がるようにゴンドラの内部へと駆け込んだ。

 しばらくすると、『グランドフィナーレ』全体に油圧系の稼働音が響き、大型のレールシステムが作動を始める。

 次の瞬間、飛行船のゴンドラは気嚢部分をグルリと半周するように動き、飛行船の上部へと回った。

「おいおい……あの機能、本当にあるのかよ」

 現実味の薄いビックリドッキリメカな挙動に、俺は思わずつぶやいた。

 

第二章『ポンコツ浪漫大活劇バンピートロット2』の二次創作について。

  • 是非、読みたい! 早く晒せ!
  • 要らねぇわ、ボケ。シャシャんな!
  • そんなことよりお腹が減ったよ。
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